11/01/27 19:35:16
TPPや、企業の農業への新規参入の話の中でよく出てくるのが「日本の農業はもっと
強くなれる」というものだ。土地をまとめて規模拡大し、効率的な経営をすれば強く
なれる、と。日経などの新聞ではこれまで何度もこうしたことを書いてきているので
それが真実だと思わされている人もこの国では多いだろう。けれども、そんなことを
本気で信じている農家はほとんどいない。
もしそれが可能なことだったら、農業がこんなにもゆっくりと着実に凋落していく
過程で、誰かがそれを実現しているはずである。
■「大規模効率化」の夢はいい加減に捨てた方がいい
土地をまとめるということが難しいのは、現状の農業者にとっても非常に難しい
問題だ。細かく区切られてしまった日本の農地は、いろんな思惑でバラバラのままだ。
純粋に農業を続けたい農家もいれば、よく批判されているように、いずれ道路拡張
などで転用・転売できる日のことを夢見てとりあえず所有し続けている農家など、
いろんな人によって区切られている。そうした所有の問題があることは事実。
しかし、それが農業の大規模化の阻害要因であるならば、まず既存の農業者に限定
して、土地を流動化する施策をすればいい。彼らはこれまでプロフェッショナルの
技術を持って営農してきているのだから。どこの馬の骨ともわからない他産業の
素人軍団に貴重な農地を与える必要がどこにあるんだろうか? 「農地の流動化」と
「新規参入の促進」を無条件に結びつける人たちの言葉には、ここにひとつの論理的
飛躍がある。
ちなみにいま、すでに一部では農地は大きく流動化している。茨城県稲敷市のとある
米どころの集落には米農家が100軒以上あるが、そのうち実際に農機を動かして農業
をしているのは何戸だかご存じだろうか?
答えは、たったの2軒の農家、である。じゃあその2軒は若い生産者がいるのかと
いえば、どちらも50代後半。数千万円の農機を購入して、中国人研修生の力を
借りてやっとこさ50ha以上の広大な面積をてがける。とはいっても一枚一枚は
小さな田んぼで集約されていないので効率は悪い。日本の国土は起伏に富んだ地形が
多いので、平らにならすことなど不可能なのだ。
「大規模集約化すれば強くなれる」 と言うのは簡単だが、これはあくまで「すれば」
の仮定であって、現状ではほぼ無理。だって隣の田んぼとの高低差を、ブルドーザー
やユンボを入れて平らにするだけで数百万。本当に「大規模」といえる規模といえば
一枚の圃場が5ha以上となるだろうが、高低差のある圃場をつなげて平らにすれば
数千万以上になるかもしれない。すでに採算のとれない米や、10kg箱ひとつ2000円
程度の単価にしかならない野菜を何年作り続ければその初期コストをペイできると
考えているのだろうか?
そういうことだ。
■所得保障制度はパンドラの箱だ
さて、実は昨年から農家に対する戸別所得保障制度というのが動き始めている。
昨年度は「モデル事業」、そして今年度は本格実施の初年度となる。
戸別所得保障というのを簡単に説明すると「農産物の販売価格が標準を下回っている
場合に、その差額を補填する制度」である。(※続く)
◎やまけんの出張食い倒れ日記
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