10/11/18 13:47:13
三十分後、シャアとシン、そしてレイはその地点に向けて出発した。
マルマラ海南方を海沿いに飛んで行く中、シンは目下の海を見下ろして、
太陽の光が反射してきらめく海の美しさに、一瞬見とれていた。
自分が今、MSに乗っていると言う事実すら忘れさせる、雄大な自然の美。
「綺麗だよな……」
「ああ……」
やがて、旧世紀の面影を残す市街の上空を越え、ゆっくりと山岳地帯へ入っていく。
うっそうと茂る森と、彼方此方に見える岩肌は、人の存在を感じさせない不気味さを放っていた。
「見えたぞ」
シャアが眼前の施設を見て後ろの二人に、ザクのマニピュレータで降下する事をサインで伝え、
施設にほど近い森の中に機体を下ろしていく。
攻撃される気配すらなかった。むしろ……
「隊長……」
「何だ、シン」
「俺……ここ、入っちゃ行けない気がします」
「私も……そう思います」
シンとレイの背中を、何者かが引きずりもどすような悪寒が走り抜けた。
ここに入っては行けない。元に戻れなくなる。
そう感じさせるほどの『死』の匂いが、施設全体に漂っている。
それは、シャアとて勘づいていた。しかし、この研究施設から感じるものに、彼には心当たりがあった。
(……このザラザラとした感覚は強化人間のものか)
「だがこの施設の安全性を確かめねば、後顧の憂いになることもあり得る」
シャアはそう言って、アサルトライフルを小脇に抱えて、正面ゲートの脇に回り込む。
この中に感じる強化人間の感覚は、シャア自身気持ち悪さを感じたが、
それだけに、中は是非とも確認しておかねばならないとも思った。
シンとレイも、悪寒を抑えながら彼に追従する。
正面ゲートは、シャッターが閉じられた痕跡があり、破壊しようと試みた後があった。
「内部からだと?」
不思議だ。こういう施設なら、普通外部からの攻撃で突破されたりするのだが、
この痕跡は内部からつけられたものだ。
シンが反対側に廻り、ゲートの中に石を投げ込んでみた。
カッカッ…と、アスファルトの上を跳ねていき、金属製の箱に当たって大きな音がしたが、何の反応もない。
その段階になって、三人は施設の中に足を踏み入れた。
奥に見える、居並ぶ白い建造物を囲むように、訓練場と思しき広場があった。
「……これでは研究施設と言うより軍事施設だな」
レイがそう漏らす。シャアは正解だと言いたかったが、我慢した。
白い建造物や訓練場は、廃棄されたにしては妙に小綺麗だった。
あまり時間が経っていないのか、それとも……
ずっと使われていなかったのではなく、使われなくなったのがつい最近だっただけか?
白い建物の中で最も大きな施設へ、三人は近づいていく。
施設内部に繋がる階段を、ゆっくりと下りて、
下へ向かうたびに『プレッシャー』が大きくなっていく気がした。
「ハァ…ハァ…」
シン、そしてレイは、どんどん息苦しくなっていくのを実感していた。
ここには何かがいる。そして、其奴は自分たちを見つめていて、押しつぶそうとしている。
そう感じていた。