10/11/01 01:56:11 C4cee32HO
間が空いたなあ……
呪いの本
高一の冬頃の事だったと思う。
その日A宅に行くと、家の主はソファに体を横たえて本を読んでいた。
俺は人並み程度には本を読むが、Aは時折昔の作家の全集を開くくらいだ。何の本を読んでいるのか気になりタイトルを尋ねると、
「呪いの本」
なんて答えが返ってきた。
「読んだら死ぬってか?」
好奇心と呆れ混じりに聞くと、Aはニヤニヤと笑いながらこちらに顔を向ける。相変わらずどこに焦点を置いているか分からない目。
「死にはしない。けど、お前が読んだら寿命縮むんじゃない?」
そう言ってぱたりと本を閉じる。見ればその本は装丁こそ立派であるもののさして厚くもなく、表題すらも書かれていない。
Aがああ言った以上、もとよりまともな本では無いのだが、それがますます怪しくなってきた。
「読むか?」
とん、と軽い音を立て、俺の前、テーブルの上に本が置かれる。
「寿命削れってか?」
とは言ってみたものの、興味はあるし特段長生きしたい訳でもない。俺は本を手に取って意識を集中する。
……何も感じない。何のイメージも得られない。俺は拍子抜けしてAを見たが、彼女はニヤニヤと笑ったまま言葉を続けた。
「ああ。寿命削れるね。読めば。読む事が出来ればね」
俺には読めないと? 安い挑発だ。相変わらず何が言いたいのか分からないし。
そう思って、結局俺は本を開いた。