10/10/20 10:06:11 3KeHDINk0
「よぉ。」
十数年ぶりに会った友人は、すっかりくたびれていたが、昔と変わらないどこかやんちゃな様子で挨拶した。
しわだらけのロングコートに片手を突っ込み、ボサボサの髪をさらに苛めるように頭を掻いている。
目の下にはクマが出来ていた。
私は簡単な挨拶を返し、テーブルを挟んだ向かいの席を勧めた。
266:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:09:46 3KeHDINk0
駅前の平日の喫茶店には、打ち合わせに来ている会社員や、ノートパソコンをいじくる学生がそこかしこに見える。
その中で学生にはとても見えず、またスーツも着ていない私たち2人は少し異質なものに端からは見えただろう。
私の心に妙な不安がよぎった。
「うーさみさみ。もうすっかり冬だな。」
「ああ。これでますます帰りにタクシー代がかさむ。」
267:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:17:54 3KeHDINk0
疲れた笑いを浮かべながら友人は座る。
それから彼はメニューも見ずにカプチーノを頼んだ。
「今は何を?」
私が訊くと、友人は首をふる。
268:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:19:56 3KeHDINk0
「普通に会社員やってたけど、昨日辞めたよ。ありゃあ駄目だ。」
「何かあったのか?」
「全然家に帰れないんだ。」
ノルマが厳しいのだろうか。
そんなことを思いながら残り少ないコーヒーをすする。
269:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:22:48 3KeHDINk0
彼と最後に会ったの小学校の頃だったか。
当時はかなり仲が良かったはずだが、それから多くの出来事を経験する内に、それらの記憶は押し潰されて、断片的な思い出しか残っていなかった。
だがこうして向き合ってみると、たしかにこの男と過ごした記憶がこの体に染み付いているのが、実感として感じられる。
しばらくの間私たちは、それらの思い出について、また、他の友人の消息について語り合った。
語り合いながら、お互いにタイミングをはかっていた。
270:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:33:53 3KeHDINk0
「それで―」
私はハッとした。
いつの間にかカップは空になっている。
友人がいぶかしがる風に私の顔を見た。
「おい、大丈夫か?」
「ああすまない。少し疲れているのかな。」
271:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:36:58 3KeHDINk0
「で、話聞いてたか?」
「いや……すまん。何の話だったっけ。」
眉間を押さえる私に対して、友人は呆れたようにため息をついた。
「だから、小学校の時よく読んだ怪談だよ。」
「怪談……?」
「ほら、“私、メリーさん。今あなたの後ろに居るの”ってやつ。」
「ああ。あったな、そんなの。」
懐かしい怪談だ。
272:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 10:39:22 3KeHDINk0
何かの本で見つけて、よく彼が私の後ろで彼女の真似をしてふざけたっけ。
「話は覚えてるか?」
「大体はな。」
「よし、じゃあコレだ。」
273:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 12:08:24 3KeHDINk0
そう言って友人はポケットから携帯電話を取り出し、私に寄越した。電源は入っていない。
意図がわからないので友人に問うと、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら「電源入れてみな。」と言った。
不審に思いながらも私はその携帯電話を開き、電源ボタンに親指を伸ばす。
てっきり金を貸してくれとでも言うのかと思っていたのに。
電源が入る。
274:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 12:10:56 3KeHDINk0
途端に、けたたましい着信音が店内に鳴り響いた。
他の客が不快そうな眼差しを向けてくる。
私は驚き、思わず通話ボタンを押してしまった。
友人に電話を返そうとするが、彼はどこか悪意のこもった笑顔を浮かべたまま、私にそのまま電話に出るよう促す。
その彼の態度を恐ろしく感じた私は唾を飲み込み、恐る恐る電話を耳にやる。
275:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 12:23:23 3KeHDINk0
震える声で言った。
「も、もしもし……?」
「……私……」
スピーカーからは、妙にかすれた、少女のような声が聞こえてきた。
「あ、すいません、私は……」
「……メリーさん。」
「……は?」
276:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 13:12:55 3KeHDINk0
「私、メリーさん。今、あなたの家の前に居るの……」
「えっとあの、失礼ですが―」
ブツッ!!
電話は唐突に切れた。
277:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 13:21:40 3KeHDINk0
わけがわからないまま黒い画面を眺めていると、突然延びてきた友人の手に、携帯電話を奪われた。
「ああ、ありがとう。本当にありがとう。これでようやく家に帰れるよ。」
そそくさと携帯電話をしまい、席を立つ友人に私は説明を求める。
彼はテーブルのそばで伝票と自分の財布の中身を見比べながら言った。
「いやあさ、一週間前にメリーさんから電話がかかってきてさ。
278:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 13:49:51 3KeHDINk0
俺の家はマンションなんだけど、悪戯かと思って相手してたら、俺の住んでる下の階まで来ちまってさ。」
何の話かわからない。
「家の電話は線を抜いても鳴りっぱなしだし、会社に寝泊まりしてたんだけど、これじゃあ気が狂いそうだったからさ。
悪いけど頼んだわ。お礼にここはおごるよ。」
279:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 14:01:22 3KeHDINk0
「おい、なんだよコレは!」
彼は横目で私を見た。
「なあに、別の人間に電話に出てもらえばいいだけさ。
その内お前の携帯にも彼女から電話がくるはずだ。見覚えの無い番号には気をつけろよ。」
「だからこれは何なんだ!説明しろ!!」
「わからない奴だな。」
私たちは外へ出た。
280:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 14:38:58 3KeHDINk0
「……メリーさんだよ。小学生の時、俺たちが好きだった怪談……」
「あんなもの、ただのフィクションだ。」
「本当にそう思うのか?」
「当然だろ!」
「そうかい。」
その時、私の携帯電話が鳴った。
281:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 14:42:40 3KeHDINk0
戦慄した。
震える手で液晶表示を見る。
見覚えの無い番号だった。
友人は笑う。
282:自治スレでローカルルール他を議論中
10/10/20 16:23:29 QVvTVjgf0
並ぶ『あぼーん』が話と話のしおり的存在になってきてるよ