10/08/12 04:16:57 3DtMTMjJ0
後ろにいた弟が自転車を止めて半袖の腕を掻き始めた。振り返ればふも
との町では夜空のように、明かりが灯っていて、西から東に向かって長い闇
の帯のそばに、一際大きな明かりの塊りが見える。闇は川で塊りは駅だった。
「お前、蚊に食われたの? もしかしたらやばいんじゃね?」
僕がそう言うと弟は首を傾げたような気がした。でもよくわからない。山道は
街灯がなかったから。
「何がやばいの?」
弟は言った。
「だから、ゾンビになるんだよ」
弟の顔から血の気が引いたきがしたが僕は尚も続けた。
「血を吸うからウイルスがうつる。ウイルスがうつるとゾンビになる」
弟は僕の顔をじっと見ている。信じられない信じたくないという顔だ。たぶん。だ
って街灯がないから。都会とは違うから。ここには暗闇がある。
「嘘を言ってはいけないんだよ」
弟が真剣な口調で言った。
「だったら、それでいいよ」
僕は言った。