08/12/28 01:03:43 heCTYr110
「お待たせいたしました。
ハンバーグステーキセット、寒ブリの照り焼き定食です。
ミックスフライ定食のお客様はご飯をすぐにお持ちいたします」
店員が慣れた手付きでやよいと千早の前にお盆を置き、
真の前にはご飯が載っていないお盆を置く。
「うわぁ、凄く豪華です。こんな大きなハンバーグは初めてです」
「確かに大きいね。やよいの顔と同じ大きさかも」
「そうかもです。あ、でも、私の顔、こんなに小さかったかなぁ?」
「そこまでは小さくないけどね。さ、さめない内に食べよう。
ボクのご飯もすぐに来るだろうし」
「そうね。せっかくのご馳走も冷めたら、台無しだものね」
真の言葉に頷き、千早は割り箸を手に取り、他の二人と同じように手を合わせる。
「うっうー、とってもハンバーグ、美味しいです」
「そうね。この照り焼きもとても美味しいわ。
でも、奢ってもらってもよかったの? 私、自分の分は出すわよ」
「大丈夫だよ。実は臨時の収入があったから。
みんなで美味しい物を楽しく食べるのが一番有意義だと思ってさ」
真は嬉しそうに頷き、付け合わせのキャベツを口に運ぶ。
「ご飯、お待たせいたしました。特盛りです。足りなければ、倍量の特倍盛りをどうぞ」
「ありがとう。うん、この盛具合、いい感じだね」
店員から茶碗、いやご飯山盛りのラーメン丼を受け取り、真は頷く。
「真さん、それ、一人で食べるんですか!?」
「それ、二合以上はありそうよ」
「そうだけど? あ、二人ともご飯が足りなかったのかな。
初心者には特盛りはお勧めできないよ。まずはちょい盛から入門することをお勧めするよ」
真の言葉に二人は頭を振る。ご飯だけでも食べきれるか怪しい量だ。
「やよい、ハンバーグソースがご飯に滴っているよ」
「わざとで~す。こうするとご飯にたれの味が染み込んで美味しいんですよ。
我が家では煮物や炒め物もご飯の上に載せて食べてます」
「何でも丼にするんだね。それは美味しそうだ」
「真さんの考えているのとは少し違うかもです」
二人が話しているのを見ながら千早はふと箸を止める。
(いつの間にか誰かがいる食卓に慣れているわね、私)
事務所に入るまで人と一緒に食事をするのは中学の給食ぐらいだった。
高校に入り、弁当になってからは一人で食べていた。
それがプロデューサーと仕事の都合で一緒に食べるようになり、
同僚から食事に誘われるようになり、そして・・・・・・
(今ではプロデューサーのご飯を作るようになっている)
ソースの染み込んだご飯を口にもぐもぐと運ぶやよい。丼ご飯を豪快にかき込む真。
自分の作ったご飯を幸せそうに食べるプロデューサー。
そして、気付く。自分が彼らの食事を通して何を見ていたのか。
(そっか。あの子も美味しそうにご飯を食べていたわね)
小さな口で時間をかけて食べる子だった。自分もあの頃は食べるのは遅かった。
「千早さん、どうしたんですか!?」
「千早、ブリがあたった?」
「え、あ、な、なんでもないの」
千早は二人の声に我に返り、自分が涙を流していたことに気が付く。
「ちょっと付け合わせの白髪ネギが辛くて」
千早は涙を拭い、ご飯を口に運ぶ。
「やっぱり食事は誰かと食べた方が美味しいわね」
「はい、私も千早さんの言うとおりだと思います」
「そうだね。一人で食べるよりも大勢で食べる方が美味しいと思うよ」
二人の言葉に千早は頷き、微笑む。
真が千早は金穴でご飯を食べてなくて、目の前のご飯に感動して泣いたと誤解し、
千早に内緒で特盛ご飯を追加していたことを知るのはその五分後のことだった。
コンビニで洋食系の弁当にするか和食系の弁当にするか迷うのが最近のささやかな幸せ