06/03/31 03:05:39 hKy0tpWd
―最初に好きになったのは、声。
それから綺麗な指と、広い背中―。
きっかけは偶然だった。向こうからしてみればそれが仕事なんだろうけど。
仕事帰りの路上で、酔っ払いに絡まれていた私を助けてくれたのだ。
いつもなら妙が真空跳び膝蹴りで撃退してくれるところだがあいにく別れたばかりだった。
「大丈夫か?」
酔っ払いを追い払ったあと、腰を抜かしていた私に彼が声をかけてきた。
「え、はい・・・」
私は助けてくれたことの安心感からか、その声が何故か胸に染み込んでくるような気がした。
「立てるか?」
彼が手を差し伸べてくる。その指先は細く整ってて綺麗な爪をしていた。
詳しくは知らないけど剣の達人だろうに、女の私でさえ嫉妬するほど綺麗だった。
彼の手を握って立ち上がる。力強く握り返してくるその手はやっぱり剣客の手だった。
「あ、あの・・・」
「ん?」
彼が煙草に火を点ける。
「ありがとうございました」
「別に構わねーよ。仕事だからな」
煙を吐きつつ少しぶっきらぼうにそう言う。
私は暫く煙草を吸う彼に見とれていた。
無造作に切られた黒髪。鋭い眼光。何故か狼を連想させる。
「じゃあな。これからは気をつけるんだな」
煙草を捨てると、彼は背中を向けて歩き出した。
「あ、ちょっと・・・」
せめて名前だけでも聞こうと思い、彼の後ろ姿を見る。
その背中が思いのほか広くてときめいてしまった。
私はしばらくその背中に見とれて、気がつけば彼を見失っていた。