【俺の妹】伏見つかさエロパロ19【十三番目のねこシス】at EROPARO
【俺の妹】伏見つかさエロパロ19【十三番目のねこシス】 - 暇つぶし2ch1:名無しさん@ピンキー
11/05/30 17:07:05.82 E3HEWFNa
ここは伏見つかさ作品のエロパロスレです
次スレは>>980か480KBあたりで立ててください

◆まとめwiki
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◆前スレ
【俺の妹】伏見つかさエロパロ18【十三番目のねこシス】
スレリンク(eroparo板)

◆書き手さんへ
 ○陵辱・NTR・百合・BLなどの特殊嗜好モノや、
   オリキャラなどの万人受けしないモノは投下前に注意書きをお願いします
 ○書きながら投下はお控えください

◆その他
 ○書き手さんが投下し易い雰囲気づくりを
  ・SS投下宣言、直後は雑談をしばらく自重
  ・自分の嗜好に合わないSSなら黙ってスルーすること
 ○こういうSSが読んでみたい等のリクエストは節度を持って
 ○荒らし、煽りは勿論スルー
 ○sage進行です。メール欄に半角で sage と書いてください。ageた人を煽るのはやめましょう。
   大半のsageていないレスは荒らし目的の釣りか煽りです、慎重に見極めて反応しましょう。

2:名無しさん@ピンキー
11/05/30 17:19:25.14 5C+pS476
>>1

忍法帖リセットのせいで●持ちくらいしかスレ立てられないからなぁ

3:名無しさん@ピンキー
11/05/30 18:07:01.86 Q/W/LCwV
>>1
つかリセットされたの?
…ってましだあああww
作成します…だとww

4:名無しさん@ピンキー
11/05/30 20:54:36.26 4pybJYXv
てsてs

5:ADRY
11/05/30 20:55:04.31 zqokQQry
こんばんは。
前スレで予告した通りに、新しく投稿します!待っててくれた方々ありがとうございます!!

今回は前回の一つの~からのつながりなどはありません。完全別物です。
京介×あやせものです。登場キャラ少ないです。エロもないです…。

あと、非常に長くなったので、前後編に分けて投稿しようと思います。
ではでは

6:名無しさん@ピンキー
11/05/30 20:57:42.19 zqokQQry
一生の願いに、一生の幸せを

俺、高坂京介はいつになくソワソワしていた。

オサレ街にあまり縁のない俺が一人で渋谷なんかに来ていることで、落ち着かないのもあるのだが、それ以上の理由があるのだ。

携帯を開き、時刻とメールボックスに残っている、1通のメールを確認する。

「ここでいいんだよな…」

後ろにある建物―渋谷駅を見て、場所を確認する。間違いない。

まぁ、さっきから何度も確認しているんだが。


辺りをキョロキョロ見渡す。これも何度目かわからない。

「まだこねえか…」

それもそうだ。
約束の時間まで、まだ30分もある。

流石に早すぎたと思うと同時に、溜息をつく。これも何度目だ俺。

とにかく落ち着かない。なにかやっていないと、変なプレッシャーに押し潰されそうになるんだ。

「…ん?」

キョロキョロしていたら、こちらに近づいてくる一人に目が止まった。

黒髪ロング、そこそこの身長に細い身体、整った可愛い顔。
俺が見間違うわけがない。こいつは間違いなく…

「おはようございます、お兄さん」

俺の天使、新垣あやせだ。


「よ、よう、あやせ」

さっきから緊張しているのだが、本人を前にすると更に緊張してきた。

「もう来ていたんですね、待たせちゃいましたか?」
「いや、俺もさっき来たばっかりだよ」
まあ、嘘だが。
1時間前くらいからここにいたのだけど、そんなの苦でもなかった。

「そうですか、それならよかったです」
そう言って、微笑むあやせが見れたのだから。


7:名無しさん@ピンキー
11/05/30 20:58:58.32 zqokQQry
「ていうか、あやせも早かったな。約束の時間までまだ30分もあるぞ?」
「準備が終わって、時間になるまで待ってるつもりだったんですが、なんだかいてもたってもいられなくなって…。ちょっと早めに出てきちゃいました」
「はは、俺と同じだな」
「お兄さんもですか?」
「ああ。今日が楽しみ過ぎて全く落ち着かなかったぜ」
ちなみに、今も落ち着かない。
相変わらず、心臓はバクバクいってやがる。

「フフ…。それじゃあ、行きましょうお兄さん」

「あ、ああ。そうだな」
今日は目一杯楽しまないとな。

何せ、あやせとの初デートなんだから。







一週間前のことだ。

夜、受験生である俺は、その日の勉強のノルマを達成し、パソコンをいじっていた。
そうしていると突然、マウスの横に置いていた携帯が鳴りだしたので、手に取って画面を見た。

「…ゲッ」

画面は、新垣あやせからの着信を表していた。


新垣あやせは、俺の妹である高坂桐乃の親友で、中学3年生の少女だ。
容姿は端麗で、読者モデルをやっていることからも、その可愛さが窺えるだろう(事実、超可愛い)。
可愛い女の子の知り合いが多い俺だが(自慢じゃないぞ)、その中でもあやせは俺の好みドストライクなのだ。…見た目だけで言えば。

問題は中身である。
見た目通りの清純で、一つ一つの仕草が可愛い子、だと初めて会った時はそう思っていたのだが…

その実極度の潔癖症で思い込みが激しく、嘘が大っっっっ嫌いで(特に桐乃の様な親友に嘘をつかれるとヒステリックになる)、大切な存在のため(つか、桐乃限定と言っても過言じゃない)ならなんでもする(殺人も起こせるんじゃないかと思う)、かなり危ない女である。

それに過去、とあることによって、あやせは俺のことを『近親相姦上等変態鬼畜兄貴』と思い込んでおり、誰よりも警戒されているし、嫌われてしまっている。
それでも、桐乃のためにやむおえず俺に相談してきたり、協力を求めてきたりするようになり、少しずつその関係は修復しつつある…と思いたい。

まあ、最近は相談どころか呼び出されて説教という名の脅迫をされることが多くなっている。
そのため、この電話もそのテの話だろうと思い、出るのを少し躊躇してしまった。
しかし、出なかったら出なかったで後々が怖いため、嫌々ながら電話の通話ボタンを押して、耳に当てた。

「…もしもし」
『もしもし、新垣ですけど。今時間は大丈夫でしたか?』
「ふ…、愚問だな」
『はい?』
「俺にとっての最優先事項はあやせ関連全てなんだぜ?お前が俺を必要とするとき、俺は全てを投げ出す覚悟が出来ている!つまり、時間なんか気にすんな!」
『い、忙しいなら忙しいって言っていただいて構わないんですよ…?』
「いや、ぶっちゃけ暇なんだ」
『それなら最初からそう言って下さい!もう…』
「…むう」
おかしいなぁ、前やったエロゲでは同じ様なことを言われたヒロインの好感度、上がってたんだけどなぁ…。何故あやせの好感度は上がった気配がしないのだろう?まだまだ愛が足りないのか。


8:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:00:01.27 zqokQQry


…いや、ホントに嫌だったんだぜ?あやせから連絡が来るときは、ロクなことがないし。
でも、あやせの声を聞くと、そんなの全く気にならなくなるんだよ。むしろ、とても興ふゲフンンゲフン嬉しくなっちまうんだよ。なんでだろうな?
恐るべし、あやせパワー。
『お兄さん、来週の日曜日空いていますか?』
「だから言っているだろう?あやせのためならどんな用事があろうとも…」
『普通に答えて下さい』
「…空いてます」
相変わらず、俺の愛が伝わらない。
どうすればこの無限に広がるあやせへの愛を伝えることが出来るんだろうか?

『じゃあその日一日、私のお願いを聞いていただけませんか?』
「…今度はなんだ?また(あの糞ガキの)マネージャーすればいいのか?それともお前の家に(説教受けに)行けばいいのか?」
()の部分を口に出さない理由は察してくれ。
『いえ、その…』
「違うのか?なら、何だ?」
『え、えっとですね…』
「?」
あやせが言い淀むなんて、珍しいこともあるもんだ。いつもはもっとハキハキしてんのに。
よほど言いにくいことなのか、あやせはずっとモゴモゴしている。
「あやせ?俺に頼みたくないなら無理に頼んでくれなくても…」
『い、いえ!むしろお兄さんじゃないと駄目なんです!!駄目なんですけど…』
「…???」
なんだってんだ一体?
俺には、あやせが何を言おうとしているのか、全く見当がつかなかった。

そうやって頭の中が?マークで埋めつくされていっていくなか、意を決したあやせは、俺にこう告げた。

『わ…、私と一日付き合っていただけませんか!?』
「…へ?」

あやせから出た爆弾発言は、俺の頭の中に拡がっていた?マークを全て吹き飛ばした。

しかし、ここで喜ぶのは早計だ。あやせのことだから、安易な考えで答えを出してはいけない。
「付き合うって…何に?」
そう、問題はそこだ。あやせが何かを頼んでくる時は、簡単なことはまずありえない。
何かしらの意図がある…。期待しては駄目だ俺!
『えっと、その…』





『か、買い物に…付き合ってほしいんです』




――期待しては駄目だ!!

「…ああ、荷物持ちってことか。そんなに大きな買い物するのか?」
『そ、そうじゃなくて…』






9:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:01:03.20 zqokQQry
『ただ、お兄さんに来ていただければ、いいんです…』





…おい、これはもしかして――いや、もしかしなくても…

「あやせ、それはつまり…」



「…デートの誘い、って考えていいのか…?」

『で、デートって…そ、そそそんな…!』
あ、やっぱり思い過ごしだったみたいだ。そりゃそうか、あやせが俺をデートに誘うなんてありえないことだ。
期待した俺が馬鹿だったんだ…
ああ、部屋の中なのに雨が降ってやがる畜生…





『で…デートってことで、いいですよ…?』
「…へぇ?」

あやせサン、今なんつった?

「あ、あやせ?今なんと…」
『だから!デートと思っていただいて結構です!!それともなんですか!?私とデートするのは嫌なんですか!!?』
「いえ!むしろ光栄でございます!」
『じゃあ場所や時間はまたメールしますから!それではまた!』

ブツッという音の後にツーツー…と、電話が切れた音が右耳に響く。
ゆっくりと携帯を閉じた俺は、さっきのあやせの言葉を脳内エンドレスリピートしていた。
『――で…デートってことで、いいですよ…?』

『――だから!デートと思っていただいて結構です!!』


頬をつねる。

痛い。

「…夢じゃない」




「う、うぉ…」




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ガバッと、椅子から立ち上がる。
もう、テンションは限界突破している。


10:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:02:09.29 zqokQQry
「ヒャッハー!キタコレ!あやせルートついに解禁きたよコレ!!」
「つか俺いつフラグ立てたんだ!?全く覚えないけどもういいやそんなこと!!!」


「ヤッホォォォォォォォォォォォイ!!!!」

思わず両手で万歳をする。
嬉しさのあまり、涙が出てきた。

そうやって歓喜に浸っていると、ドンッと壁が叩かれた音がした。

「あんたマジうっさいんだけど!!人のゲームの邪魔しないでくんない!?」
そう壁越しに文句を言ってきた奴こそ、俺の妹の高坂桐乃だ。
見た目でいえばあやせ以上の可愛さがあり、あやせと一緒に読者モデルをしており、陸上部エースで成績優秀な優等生という、全く非がない人物…ってのが表の顔。
「あんたのせいで、るみちゃんの告白聞こえなかったじゃん!どーしてくれんの!?」
「知るか!バックログで聞きやがれ!!」

ちなみに桐乃の言う、るみちゃんとは、最近桐乃が買ったゲームのキャラクターの一人だ。
どんなゲームかって?
妹物の、エロゲーだ。

完璧だと思っていた桐乃に、妹物のエロゲーやメルルという魔法少女系の痛アニメをこよなく愛するキモオタという一面があったことを知ったのは、去年のことだ。
桐乃が落としたメルルのDVD(中身はエロゲーだったが)を俺が拾ってしまったことが、そもそもの始まりであり、それが俺の人生を変えるきっかけになったのは明白だろう。

桐乃に人生相談を持ちかけられるようになり、オタクの友達が出来、桐乃のオタク趣味を擁護するために親父と対決して殴られ、妹と妹の親友が桐乃のオタク趣味のせいで絶交し、その仲直りのために…俺が嫌われたりもした。
考えてみれば散々な目にあってる俺だが、かけがえのないものも増えた。

桐乃を大事にしてくれ、そして俺にとっても大事な親友達。
そこから生まれた、信頼や絆、思い出。
そして何より、それまで冷めきっていた妹との関係が少しずつ変わってきたことが、今までの俺の苦労を拭ってくれる。
まあ、おかげで俺も段々とオタク脳に浸食されていっているわけだが…。

後悔は…あるっちゃあるが、それでもこの道を選んだことを間違いだとは思わない。今ならハッキリそう言えるよ。

「ってかあんた、今あやせがどーのこーの言ってたけど、なんなの?」
「別に、なんでもねーよ」
桐乃の大好きな親友と、大嫌いな兄貴がデートと言ってしまったら…血を見ることになりそうなので、止めておく。
「…ならいいけど、あやせに手を出したら、アンタ殺すから」
…なっ、言った通りだろ?






その後、俺はデートの際の心構えという本を本屋で立ち読みしたり、桐乃から借りたラブタッチというゲームでデートの予行練習をしたりと、準備万端のつもりだったのだが…
いざ、あやせの前になると、全部抜けちまっている俺だった。

「そういや、今日は渋谷まで来て何処に行くんだ?」
「えーと、お洋服屋さんを何件か回って、行きつけのアクセサリーショップにも行って、あとは…適当にブラブラしましょう!」
「りょーかい」
あやせと一緒に歩けるのなら、どこにでも行くさ。



11:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:04:00.14 zqokQQry
「そういえばお兄さん、そういう服も持っていたんですね」
「え?…ああ、これか?」
自分の着ている服に目をやる。
「これ、前桐乃が買ってくれたやつなんだよ。あいつの見立てだから、こういう場所で着てもおかしくないかなと思ってな………って!」

ヤバい!この話は…!!
「…ああ、思い出しました。あの時、桐乃と『デート』に行った時に着ていた服だったんですね」
そう言って微笑むあやせの後ろには、ドス黒いオーラが漂っているように見えた。

そう、俺と桐乃はとある事情があって、デートをしたことがある。
腕組んで歩いたり、ハートのフレームでプリクラ撮ったりと、俺にとって究極の黒歴史となった日だった。
あやせがどうしてそれを知っているのかというと、桐乃とのデートの後日、あやせに呼び出されて、何故かあやせが持っていた俺と桐乃のプリクラについて問い詰められたからだ。
あの時は殺されるかと思ったね。いやマジで。

「…まあ、そのことはもういいです…かくの…すから」
「?すまんあやせ、最後の方聞き取れなかったんだが」

俯きボソボソ喋っているあやせの顔を覗き込んで話し掛けると、あやせは何故か顔を真っ赤にして、ズザーッ!と後ろに思いっきり下がった。

「か、顔を近づけすぎですお兄さん!」
「あ、ああ。わりぃ」

そうだった。あやせはいつも俺と少し距離を空けていたっけ。
変態と思っている俺に近づかれて、いい気はしないよなぁ…。

『――キモ…近づかないで下さい』

「うぐっ!」

突然フラッシュバックしてきた、最も思い出したくなかった台詞。
他でもない、目の前にいる少女に言われた台詞だ。

あぁ、俺ってばまだ気持ち悪がられてんのかなぁ…
浮かれていた気持ちが、急降下してきた。

「お、お兄さん!?大丈夫ですか!?」
胸を押さえて苦しんでいる(様に見える)俺に、あやせが近づいてきた。
「だ、大丈夫大丈夫。…ちょっと嫌なこと思い出しただけだから」
そう言って苦笑いをする俺。
一応、安心させるつもりで言ったのだが、あやせは不満げだった。
「…私といるのは、そんなに嫌ですか?」
「…え?」
「いつも用事を空けておくみたいなこと言ってましたけど…。お兄さんこそ、私に無理矢理付き合う必要はないんですよ?」
「あ、あやせ…」
「…そうですよね。いつもお兄さんに迷惑をかけて、困らせている私と一緒になんて、嫌に決まってますよね。…ごめんなさい、そんなお兄さんの気持ちも考えないで…」
「違うってあやせ!!」
ガシッとあやせの肩を掴む。
不安げな目でこちらを見るあやせの視線が、こちらに向いた。
「嫌なことを思い出したのは確かだけど、それはあやせが嫌だって言ってるんじゃねえよ!
俺がどれだけ今日を楽しみにしていたと思っていやがる!?電話があったその日から、ドキドキしっぱなしで不眠が続くほどだったんだぞ!?
それなのに、お前と一緒にいるのが嫌だァ?むしろ逆だ!!俺はお前と一緒にいれて、めちゃくちゃ嬉しいんだよ!!!」
「お、お兄さん…」


12:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:05:02.08 zqokQQry

――言ってやった。
ああ、言ってやったよ。
こいつは思い込んだら止まらないからな、これぐらい言ってやらないと駄目なんだよ。
まあこれで、俺の好感度ダウン確定だが。
…か、悲しくなんてないんだからね!

「ご、ごめんなさい、私…」
「いいんだって。わかってくれたならさ」
どうやら、説得は成功したようだ。思わずホッとしてしまう。

「そ、それよりもお兄さん…」
頬を赤らめてもじもじしているあやせ。
さては恥ずかしいのか?グフフ…。
好感度アップのチャンスだぜ!
「ん?なんだよあやせ」
優しく、好青年をイメージして語りかける。

「み、見られてますよ…」
「…へ?」

辺りを見渡す。
さっきまで普通に歩いていたのであろう、人という人が大勢、こちらを囲むようにして見ていた。
目を光らせている人達、ヒソヒソ話している人達、ヒューヒューと茶化してくる野次馬共エクストラエクストラ。
あやせが恥ずかしがっていた本当の理由を知るとともに、俺もめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。

「あやせ!走るぞ!」
「え?きゃあ!!」

あやせの手を掴んで包囲網を突破する。

「大切にしろよー!」
「リア充爆発しろー!」

様々な野次が聞こえたが、気にしている余裕は全くなかった。




「ハァ…ハァ…ハァ…」
「もう…。飛ばし…過ぎ…です…お兄…さん…」
「ハァー…すまん…」

さっきの場所から結構離れているこの場所まで止まることなく走って来たため、めちゃくちゃ息が上がっている俺達であった。

「あ、このお店…」
「ん…?あやせ…知ってんのか?」
「桐乃とよく来るアクセサリーショップですよ」
「…ああ、ここか」

無我夢中で走っていた俺達だったが、なんの因果かこの店に来てしまうとは…。
「このお店、値段はそんなにしないんですけど、良いアクセサリーが多いんですよ」
「知ってる。来たことあるし」
「え?お兄さん、このお店来たことがあったんですか?」
「ああ、去年のクリスマスイヴに、桐乃にここで1万のピアス買わされたんだよ」

桐乃やあやせからしてみれば、1万円のアクセサリーを買うことなんて普通のことなんだろうけど、バイトもせずに親からの小遣いで生活している俺にとっては、マジ痛い出費だったんだぜ?
しかもプレゼントした(させられた)相手が、実の妹だぞ?どんな罰ゲームだよって思ったね。


13:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:05:50.02 zqokQQry
「…ああ、あのハートのピアス、お兄さんがプレゼントした物だったんですね」
「え、知ってたのか?」
「はい。お気に入りみたいで、よく付けてますよ」
「そ、そうなのか?」
てっきり、使わずにしまってあると思ってたんだが…
思い返してみれば、桐乃がハート型のピアスを付けている時を、何度か見たことがあったな。
なんだかんだで、大切にしてくれてるわけだ。
思わず頬が緩む。

しかし、そんな俺を面白くなさそうに見ているあやせがいた。

「ど、どうしたあやせ?」
「…別に、なんでもありません」
どう見ても、なんでもないなんて顔じゃないけど。
どうにかしたいけど、原因がさっぱりわからないからどうしようもない。

だから、機嫌取りをすることにした。

「あやせ、お前にもなんかプレゼントしてやるよ」
「え?」
「桐乃も、俺も、あやせには世話になってるし、そのお礼をいつか返しかったしさ」
「そんな…別に私は」
「それにさ、せっかくの初デートなんだから、記念に何か贈ってやりてーんだよ」
「き…記念だなんてそんな…」
今日のあやせはよく顔を赤らめるな。今も赤くなっている。
「ほら、行こうぜあやせ」
「ちょ…お兄さん!」

遠慮しているあやせの手を取って、店の中に入る。

どさくさに紛れて、あやせの手を握ったが、ドキドキしすぎて鼻血が出そうになったため、店に入ってすぐ離してしまった。
なんてウブでチキン野郎なんだ俺は。



14:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:07:02.13 zqokQQry
***


「本当にそれでよかったのか?あやせ」
「もちろんです、ありがとうございます」
「気にすんなって」

――店に入って、欲しい物をあやせに決めさせようとしたのだけど、
『お兄さんからプレゼントしていただく物なら、お兄さんが選んで下さい』
と言って、あやせは俺に選ばせようとした。
もちろん、俺のセンスであやせに似合う物なんて選べねぇって断ったんだけど、頑としてあやせは俺に選んで欲しいって聞かなかった。
仕方なく、ないセンスをフルに稼動させ、必死であやせに似合うアクセサリーを選んだ。
それで選んだのが、あやせが手に持っている、質素な十字架に指輪が繋がったネックレスだ。

十字架と言ってすぐに思い付くのが、桐乃と俺の友達である五更瑠璃、通称黒猫(詳細は今回は省く)だけど、どちらかと言えばあいつはもう少しゴテゴテした十字架を付けるイメージがある(昔、そんな感じのロザリオを買ってやったことがある)。
また、ハートなんかは妹の桐乃が付けているイメージがあるが、清楚なイメージがあるあやせはもう少し抑えているような気がした。
そこで見つけたのが、この十字架のネックレスだ。
シンプルだけど、十字架に繋がった指輪が、質素過ぎないようにアクセントを付けている。
これならあやせのイメージを壊さないで、尚且つ今以上に可愛くなるんじゃないかと…いうのは買った後に考えた言い訳みたいなもんで、実際は俺の中であやせに一番しっくりきた物を選んだだけだ。

喜ばれるか、心配だったんだけど…

「…えへへ」

ネックレスを持ったまま、この調子だ。
びっくりするぐらい喜んでいる。
よほど気に入ったのか、それとも…

俺が買ったことで喜んでくれてるのか。
ありえないとわかっていながらも、そんな期待をしてしまう。

想いは一方通行でも、それを不幸だなんて思ったりはしないさ。
「大切にしますね、お兄さん」

そう言ってくれるだけで、俺は満足だから。



その後、昼飯を食べ、あやせの買い物に付き合ったり(もちろん、荷物は持ってあげたさ)、その辺をブラブラしたりしている内にタイムリミットとなり、俺とあやせの初デートは幕を降ろした。


15:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:07:49.35 zqokQQry

…いや、まだ終わってなかったな。

今、俺はあやせを家に送っているところだ。

「――ありがとうな、あやせ」
そう俺が言うと、あやせは何のことかわからないと言いたそうな顔をしてこっちを見た。

「今日お前が誘ってくれたおかげで、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごせたからさ」
「そんな…、私だって楽しかったですから、お互い様ですよ」
「ははは、そう言ってくれるとありがたい」
独りよがりの満足じゃなかったと、安心できるからさ。

「それに、プレゼントまでいただいちゃいましたし…、むしろこちらが感謝しきれない気持ちでいっぱいですよ」
いつの間にか付けていたペンダントを触りながら、あやせは微笑んだ。


「…そういえばさ、あやせ」
「はい?」

そろそろあやせの家に着くというところで俺は、今日この日を迎えるまでずっと持っていた疑問を、ぶつけることにした。

「なんで…俺を誘ってくれたんだ?」

今日一日、あやせと一緒にいて、別に桐乃と二人でもよかったのでは…と思えたのだ。
買い物の量が多かったかといえばそうでもないし、俺がいないと行けない場所があったかといえばそうでもない。
普通に、桐乃達と来ても変わらない、むしろ桐乃達と来ていたほうが、もっと楽しかったのではないのかと思ったのだ。
それに、

「お前は、俺が嫌いだったよな…?」

…それなのに、なんで俺を誘ったのか。なんで俺だったのか、わからなかった。

「…お兄さんは、私とじゃなくて、桐乃とデートしたかったですか?」
「は?なんで兄妹でまたデートなんてしなきゃならん?」
何故そこで桐乃が出て来る?話が逸れてんぞ。

「…あれ?お兄さんは桐乃のことを愛しているんじゃなかったんですか?」
「え?…っあ!!!」

しまった…!!
あやせの中ではそういう設定だったんだ…!!!

油断してつい本音が出ちまった!

「そ…そりゃ、そうなんだけど…」
――ヤバい、うまい言い訳が思いつかない…!!

そうやって言い訳を探している俺に、あやせは優しく言ってくれた。
「いいんですお兄さん。私、わかっていましたから」
「…へ?」
「お兄さんが桐乃の事を愛しているっていうのは…嘘だっていうこと」


今あやせは何と言った?


16:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:08:39.17 zqokQQry


――わかっていた?

俺が、嘘をついていたことを?

…駄目だ!

あの嘘は、真実にしないと…!!

「ち、違うぞあやせ!嘘なんかじゃ…」
「もういいんですお兄さん。私、もう大丈夫ですから」

そう言って微笑むあやせは、もう何もかもわかっているのだろう。
俺は、誤魔化すことをやめた。

「…いつから、気づいていたんだ?」
「あの時…公園で桐乃と仲直りして、家に帰り着いた時には気づいていました」
「それって…」
「私、ショックだったんです。お兄さんからあんなことを言われた時…」
あんなこと、恐らくは俺が大声で『妹が大好きだ』と宣言したことだろう。
…ナニヤッテンダカ俺。

「優しいと思っていたお兄さんからあんなことを言われた時、私とても怒ったんですよ?裏切られた気がして、信じられなくて、…悲しくて」

「…でも、初めてお会いした時のことを思い出したんです。自分を犠牲にして、桐乃から届いた荷物を取り上げたのを…あれ、ソッチの物だったんですよね?」
ソッチとは、桐乃がずっと隠していたオタク趣味のことを言っているのだろう。
大当たりなのだが驚きのあまり喋れず、答えられなかった。

あやせはその俺の驚きをイエスと受け取ったらしく、話を続けた。
「その事を思い出したら、わかったんです。あの時、お兄さんがあんな事を言ったのは、桐乃のためだったんだって。桐乃を、守るためだったんだって…」

黙ってあやせの言葉を聞く。
もう、反論する気もなかった。

「でも、それをわかってても、私はお兄さんの嘘にすがりつかないと、桐乃の趣味を見過ごせなくて…あんなメールしか送れなかったんです」

『―大ウソ吐きのお兄さんへ。』から始まるメール。
あのメールは、そういうことだったのか。
メールに感じていた違和感に、やっと答えが出た気がした。

「自分を騙して…お兄さんを憎むことで、無理矢理自分の中で納得させていたんです。…お兄さんに、ずっと甘えていたんです」
「あやせ…」
「本当に、ごめんなさい…!ずっと、酷いことをしてたのに、謝れなくて…」
深々と頭を下げるあやせ。

「き、気にするなってあやせ!俺も怒られて当たり前のようなことしてたし…」
「そうですよ!私が謝れなかったのは、お兄さんのせいでもあるんですから!」
「…へ?」
ビシッと俺に指を指すあやせ。

あれ?フォローしたつもりなのに、俺なんか怒られてる?

「私に会うたび会うたびに、セクハラ行為をしてきて…本当はやっぱり変態お兄さんじゃないのかと何度も疑っていたんですよ!?」
「すみませんでした!!!」


17:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:09:25.53 zqokQQry

なんてこった!
更にあやせを悩ましてたんじゃねぇか俺!!

「でも、今日一緒にいて、確信したんです」
「…何を?」
「お兄さんはセクハラしてくる変態さんです」
「ぐおぉぉぉぉぉぉ…」
やめて!俺のライフはマイナス越えてるよ!

「でも、優しくて、頼もしくて」

「…素敵な、人です」

「あ、やせ…?」

そう言った、あやせの表情は…

とても綺麗で、優しい笑顔だった。

思わず、見とれてしまう。

「お兄さん?」
「…あ、いや!なんでもないぞ!?」
「?変なお兄さん」

ふふっと微笑むあやせにつられて、俺も頬が緩む。

ああ…。やっとあやせと仲直りが出来たんだ。
とても、いやめちゃくちゃ、嬉しかった。

「でも、いいのか?」
「何がですか?」
「桐乃の趣味のこと、認められないんじゃないのか?」

俺の嘘にすがりついていたのは、桐乃の趣味を認められなかったからに他ない。
今、俺の嘘をカミングアウトしたということは…

あやせの中で、ある程度の決着が着いたということなのだろうか。

「はい、もういいんです」
あやせは、とても清々しい笑顔で、そう言った。

「桐乃の趣味については…まだ、ちょっと受け入れきれていない部分がありますが…。それがあるからといって私達が喧嘩したりする理由なんてないんだって、今なら思えるんです」

「…そっか」

あの頃から比べると考えられないぐらい、あやせは柔軟になっていた。
あやせも、成長してんだな。
兄でもないのに嬉しく思えた。



18:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:10:12.27 zqokQQry
「…お兄さん」
「ん、どうした?」
「着いちゃいました」
「へ?…ああ」

いつの間にか、あやせの家の前に着いていた。
一日中ずっと一緒にいたのに、あやせと別れるのが名残惜しくなる。

「今日は本当にありがとうございました、お兄さん」
「こちらこそ、ありがとうな。あやせ」
本当に、楽しかったぜ。

誤解も解けて、今日一日であやせにグッと近づけた気がする。
変態というレッテルは今だ健在だが…こればかりは自業自得なので、仕様がない。

これからは、もう少し気兼ねなく会うことが出来るかな?

――焦る必要はないか。
時間はいくらでもあるんだ。

でも、セクハラは自重しよう。必要最小限に。
心の中で、自分に言い聞かせておいた。


後ろに向いたあやせは、玄関口の戸を開ける。
あやせの背中が少しずつ遠くなっていく。
少し進んだところで、ピタッと止まったあやせは、こちらを再び向いた。

「――さようなら、お兄さん」


そう微笑んで告げたあやせが、

『――…あね…にき…』

「…え?」

一瞬、誰かと重なった気がした。

「あ、あやせ!」

玄関口に侵入した俺は、あやせに駆け寄る。

このまま、別れてはいけない気がして。

このまま別れたら、取り返しのつかないことになりそうな気がして。


「あやせ!また…!!?」

俺が告げようとした言葉は、途中『何か』に遮られた。





19:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:10:59.36 zqokQQry
「…ん、んん!?」

頭の中が、グチャグチャになる。


今、目の前にあるのは間違いなくあやせの可愛い顔。

そして、俺の口を塞いでいるのは…



間違いなく、あやせの唇だった。




どれくらいの間だったか、長かったような、短かったような、あやせはゆっくりと離れていった。


「あ、あやせ…」

あやせは、今だに混乱している俺に、微笑みかけた。
「お休みなさい、お兄さん」

「…お休み…なさい」

あやせはもう立ち止まることなく、玄関のドアを開け、中に入っていった。


あやせが家に入ったのを確認して、俺も帰路に立つ。
帰り道、心中穏やかでなかったことは、言うまでもないだろう。

――もう、大変だったんだぜホント。
フラフラと危なっかしくなりながらも、何とか家に帰り着いたんだけど、その後も飯が喉を通らなかったし、勉強も頭に入らなかったし、寝つけなくて次の日麻奈美から心配されるし、桐乃からなんか蹴られるし。
どんだけ別のことを考えようとしても、零距離のあやせの顔を思い出してしまい、結局元通りになってしまう。
まあそれも4日ぐらい経てば落ち着いてきて、思い出したら恥ずかしいぐらいになったんだけど。

ただ、この後、こうやってずっと浮足立っていたことを、俺は後悔することになるなんて、思ってもいなかった。



20:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:13:04.03 zqokQQry
***

それは、あやせとのデートから1週間が経とうとしていた、ある日のことだった。

学校から帰ってきた俺は、することもなくまたパソコンをいじっていた。

ちらっと、パソコンの横に置いた携帯を見る。


――あれから、あやせからの連絡はない。
少し寂しい気がするし、まあ当然といえば当然のような気がした。

だって俺も連絡しようとしても、出来なかったし。

話したいことは山ほどある。
あの時のことも、…ちゃんと確認したいし。
でも、なんか怖かった。

あれは冗談でしたとか言われたらどうしようとか、ヘタレな想いが勝ってしまい、今だに一歩踏み出すことが出来ていない。

もちろん、すぐに会いたい。
会って、あやせの気持ちを…俺の気持ちを、確かめたい。

そうは思っているんだが…。


携帯を手に取り、開く。
アドレス帳の中の新垣あやせの欄を開き、通話ボタンに親指を当てる。

ここまでいっても、親指に一向に力が篭らない。

「…くそっ」
どうしようもないチキンな自分自身に、悪態をつく。

アドレス帳を閉じて立ち上がり、携帯をポケットに突っ込んで、階下のトイレに行くことにした。




ガチャ

トイレに行く途中で、ちょうど玄関のドアが開いた。
おふくろはリビングにいるので、恐らくこの時間に帰ってくるのは、桐乃だろう。

昔の俺なら、速効でトイレに逃げていただろうが、今では桐乃が家に入ってくるまで待っている俺だ。
「おかえり」ぐらいは言ってやろうと思ってな。

大嫌いなはずなんだけどね。
おかしな奴だ。




21:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:13:35.02 zqokQQry


「…ん?」

家に入って来た桐乃は、俯いてその表情が伺えなかった。

だけど、様子がおかしいのぐらいは、俺でもわかる。
「…ただいま」
桐乃は俺を一瞥し、ボソッと呟いてそのまま階段をあがっていく。

「桐乃!」
俺が声をかけると、ピタッと止まり、こちらを向かずに「…何」と掠れた声で言った。
「…何があった?」

前置きも煩わしく思い、率直に聞く。

「――別に」
それだけを言った桐乃は、上にあがっていった。

「…ケッ」
答える気はねえかよ。

ああそうかい。
少しでも心配した俺が馬鹿だったぜ。

――後で、無理矢理にでも聞き出してやらあ。


その後、飯の時も様子がおかしかった桐乃だったが、おふくろや親父に聞かれても「なんでもない」の一点縛りだった。

風呂から上がり、いざ桐乃の部屋に突入しようと覚悟を決めた時…

コンコンと、俺の部屋のドアがノックされた。
開けようとドアに近づいたが、その前に開けられた。
ノックの意味あんまねーしな。



ドアを開けたのは、桐乃だった。

「…どうした?」
「話があるの。私の部屋に来て」

それだけ言って、ドアは閉められた。
相変わらず、俺に選択肢はないのな…。
でも、ちょうどよかった。
無理矢理突入して、(自分の)血を見ることにならずに済みそうだからな。




22:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:14:23.75 zqokQQry
桐乃の部屋に入ると、相変わらず俯いて、突っ立っている桐乃がいた。

「…んで、どうしたんだよ?」
「………」
桐乃に話を促す。が、一向に口を開けない。
どうやらよっぽどのことがあったらしい。
ここで桐乃を急かすことも出来たが…、あえて桐乃が喋り始めるのを待つことにした。

「……」
「………」
「…………」
「……………」
「……………」

――キリがない。
無言大会を開いてても、何も解決しねーだろ俺。

仕方ないから俺から話を聞こうとしたら、やっと桐乃が口を開いた。

「…話ってのはさ」
「ん?」
「…あやせのことなんだけど」
「あ、あやせのことぉ!?」
「…なんであんたがキョドってんの?」
「え?…あ、いや別に深いワケはないですハイ」

あやせのことと聞いて、前のデートのことがバレたのかと思ったが、桐乃の反応を見ると、どうやら違うみたいだ。

「んで…あやせがどうしたんだ?」
「………」
「…桐乃?」

桐乃は肩を震わせ、拳を握っている。
少しだけ、桐乃に近づく。どうしてやればいいかわからないが。

「あやせが、さ…」
桐乃は、震えた声で話を続けた。
俺は黙って話を聞くことにする。

というより、喋れなかった。
こんなに、悔しそうに、苦しそうにしている桐乃を見るのは久しぶりで、俺も困惑していた。
出来ることといえば、唾を飲んで、どんなことを言われても、覚悟しておくことしかなかった。

「海外に…行くって…」






「…は?」


23:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:14:56.57 zqokQQry



なんだって?

あやせが?


どこに、行くって…?

「あやせが…!海外に行くって言ったの!!」
怒鳴る桐乃に、俺はどんな顔をしているのだろう。
きっと、説明出来もしない顔だと思う。

今の俺には、どんな表情をすればいいのかわからないから。

「あやせが海外に行くって…どういうことだよ?旅行に行くって話じゃねえの?」
んなわけない。
わかってても、そう願わずにはいられない。

「んなわけないじゃん!海外に移住するって言ってんの!!」
目を潤ませながら、桐乃は叫ぶ。

つかちょっと待て。今、とんでもない事を言ってなかったか。
「移住…?留学じゃねえのか?」

桐乃は頭を横に振り、「違う」と言った。

「あんた、美咲さん覚えてる?」
「美咲…?」
「私があんたに彼氏役になってもらった時に、会った女の人」
「…お前を、ヨーロッパに連れて行こうとした人か?」
「そう、その人」

美咲さん、確か本名は美咲。
桐乃を専属モデルにスカウトしていた、どっかの大手会社の社長だった気がする。なにせ、一度しか会ってないから、あんまり覚えてないんだよ。

美咲さんは、桐乃をひどく気に入っているようで、前に桐乃を本社があるヨーロッパに連れていこうとした。
それを阻止するために――詳細は省くが、俺が桐乃の彼氏を演じてデートまでするはめになったのだが…。
久しぶりに聞いた名前に、嫌な予感がする。

「その美咲さんに誘われて、海外に行くことにしたって…」
「あやせが…?」

そんなワケがない。
そんなことがあるワケがないんだ。

ガッと桐乃の両肩を掴む。
桐乃は、それに抵抗しようとしなかった。


24:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:15:48.69 zqokQQry

「お前と離れたくないからって、あやせはお前の海外行きを阻止しようとしていたんだぜ?それなのになんであやせが行くって話になんだよ!?」

そう、桐乃が海外に行くことを阻止しようとしたのは俺だけじゃない。
同じ事務所に所属しているあやせも、内部でいろいろ働きかけていたのだ。

桐乃と離れたくない一心で。

そんなあやせが桐乃と離れてしまうような誘いを受けた…?

離れたくないって言ってたのに、なんでお前が離れて行こうとしてんだよあやせ…!!

桐乃を問い詰めたって、仕方がないのはわかってるけど、こうしないとどうにかなりそうだった。
だけど、桐乃から告げられたのは、意外な答えだった。

「――私のせい」
「え?」
「私のせいなの…!私が、ずっと海外に行くのは嫌だって言ってきたから…!!」
「お、おい!どういうことなんだよ!?」

「あの後―あんたに協力してもらった後、…美咲さん諦めてくれなかったの」
俯いたまま、桐乃は説明を続ける。

「何度も何度も海外へ行かないかって話をされて、その度に断っていたんだけど…、段々と断りづらくなってきて、それをあやせに相談したの」

そこまで言って、桐乃は一呼吸おく。肩はまだ掴んだままだ。

「そしたらちょっと後に、あやせが『もう大丈夫だから』って言ってきたの。その時は、何にも気にならなかったんだけど…」

「それから日に日にあやせの様子がおかしくなって…、どうしたのって聞いても『なんでもないよ』ってしか言わなかったの」

「なんでもないってあやせは言ってたけど、絶対におかしかったの…!だから、今日あやせを問い詰めたら…」
「海外に行くって…、言われたのか?」

桐乃は、小さく頷いた。

「あたし…信じられなくて、なんでって問いただしたの…!そしたら『私も誘われて、やってみようと思った』って…!」

「――そんな」

そんな、

そんなの、

「ウソに決まってるじゃん…!」
俺が言う前に、桐乃が否定した。

「あたしが留学から帰ってきた時に、泣いて嬉しがってくれたあやせが、今度は自分から離れて行くことを進んで選ぶわけないじゃん!」

同感だった。
もう桐乃と離れ離れになりたくないと、俺はあやせの口から聞いているのだ。
なのに、全く逆のことをしている。

考えられる理由は、一つだけだった。



25:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:18:00.12 zqokQQry
「あやせは…」



「お前の代わりに…、海外に行くことにしたのか?」

フッと、肩を持つ力が抜ける。
桐乃はそのまま、ペタッと床に座り込んだ。

「…わかんない。そう聞いても『違う』しか言わなかったから」

力無く、桐乃は言う。

「…でも」

桐乃の肩が震え出す。
ギリリと、歯を噛み締める音が響き渡る。

「どう考えても、そうとしか思えないじゃん!!」

こちらを向いて叫ぶ桐乃の目からは、大粒の涙が絶え間無く零れていた。

「あたしが!あたしがずっと行きたくないって言ってきたから!それをあやせに相談したから!そのせいであやせが…あやせが…!!」
それ以上、桐乃は喋ることが出来なかった。
嗚咽が勝り、もう声が声になっていない。

止めたかっただろう。行くなと言いたかっただろう。
でも、言えるわけがない。
他でもない、自分の為にしようとしてくれてることだったから。

ボロボロになって、鼻を啜って、ヒックヒック言ってる中で、これだけはちゃんと聞こえた。

「お願…い…、助…けて…よぉ…」

俺はしゃがみ込み、桐乃の頭を俺の胸の辺りに抱き寄せる。
いつ頃振りだろう?すっげー昔に、こんな事があった気がする。気のせいかも知れないけど。

「桐乃、俺に任せろ」

俺は誓いを立てる。
桐乃にじゃない。

「俺が、絶対になんとかしてやる」

俺は、俺に対して誓いを立てた。



Prior chapter Fin.

26:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:21:09.13 zqokQQry
とりあえず、前編はここまでです。長い文スミマセン。

後編もちゃんと完成していますので、明日にでも投稿しようと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
では、また明日に/

27:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:24:10.25 7pHyIWOW
乙です!
キスのところでウヒョオオオって叫んだw
そしてドン底にたたき落とされた

後編待ってるよ!

28:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:49:20.97 5/X/Fx3l
乙うううう
続編楽しみだぁぁぁぁぁぁ

29: 忍法帖【Lv=3,xxxP】
11/05/30 21:50:32.72 E3HEWFNa
途中でいやな予感がしたと思ったら案の定w
後編待ってます。

30:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:55:49.80 hUEcg+Zp
は、早く続きをー

31:名無しさん@ピンキー
11/05/30 21:58:18.06 BXsqszmv
続きがすごく気になる
後編に期待します!

32:名無しさん@ピンキー
11/05/30 22:22:12.89 pq/y+olr
念のためパンツを履いていて助かったぜ・・・・
危うく撒き散らすところだったわ

つまり乙ってことです
明日も期待しています

33:名無しさん@ピンキー
11/05/30 23:24:10.56 xack73gF
面白かった。後編も楽しみに待ってます。何ヵ所か表現が気になったところがありました。非がない人物→非の打ち所がない人物。特にこれなんかは意味が全然違ってきちゃいます。

34:名無しさん@ピンキー
11/05/30 23:36:05.32 zqokQQry
>>33
ギャー!!やっちまってました!!

できればまとめwikiに載せていただけるは、修正してもらえるとありがたいです…。

あともう一つ修正部分が…

>>23の 美咲さん、確か本名は美咲。→美咲さん、確か本名は藤真美咲。

ほんとスミマセン…
後編ももう少し見直してみます…

35:名無しさん@ピンキー
11/05/30 23:42:07.23 HM2QNklw
あやせなら力押しだろ

36:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:03:29.51 vxMEAN4J
ちょw
車に轢かれたけど無傷だった俺が続編を書いている間に
とんでも無い良作臭の作品が投下されてたw

かなり戦意喪失してますが、とりあえず投下を。
リセットされててびびったわw

今回で最終章!もしかしたらオマケをつけるかもしれません。では、

37:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:06:17.48 vxMEAN4J
「加奈子、明日公園に来てくれ」

俺がそう加奈子に話したのは昨日の夜。

先日加奈子が帰った後、俺が出した答え。
それを実現するためだ。

こんな俺でも結構悩んだんだぜ?

俺を取り巻く皆を、幸せにすることは出来ないのか。
二兎追うものは一兎も得ずとはよく言ったもので。
やはり、必然的に幸せの裏には不幸せが生まれてしまうんだろうか・・・。

そう悩んで、出した答え。
それを今から、伝えにいくんだ。

・・・。

なんか、超緊張してきた。


****************

現在俺は、公園にいる。
いつかあやせと奮闘したあの公園だ。

待ち合わせ時間より大分早く来ちまったけど・・・
加奈子のやつ、また遅刻したりしねーだろうな。

・・・さて、待っている時間はどうしようか。
暇だから俺の生い立ちを・・・え?いらない?
じゃあ俺が悩んだことを少し聞いていただこうか。

みんな、こんな経験はないだろうか?

気になる娘が近くに何人もいてしまう状況。
もしこの中の誰かが自分のことを好きになってくれ、告白されたとして
他の気になる娘と付き合える可能性を捨ててしまいそうだから付き合えない。
でも告白してくれたことも付き合いたくてうわああああああああああああああああああああああ!

ってこと。
俺が置かれている状況が、好きを幸せに置き換えたそれだ。
俺は加奈子が好きだ。強いて言えば黒猫も、あやせも。そして・・・桐乃も。

38:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:08:44.20 vxMEAN4J
この全員を幸せにしてやりたい。
でも誰かの幸せを優先すると誰かが不幸せになる。
全員の幸せを取ることは・・・そんな欲張り、恐らく出来ないだろう。

それでも俺は・・・って!加奈子来た!

俺の視線の先には、公園の入り口を通過した制服姿の加奈子がいた。
アイツも何分鋭いヤツだ。これから起こることを大体理解しているだろう。
少し俯いて、ゆっくりと俺に近づいてくる。

「お、おう。今日はどうしたの?」
「いや・・・。ちょっと、伝えたいことがあってな。」

そこで加奈子の身体がピクッと動いて、すぐ止まる。

「でも、今から言うことはお前が喜ぶ話じゃないかもしれない。それでもいいか?」
「え?」

加奈子が素っ頓狂な声を上げる。そりゃそうだよな。
告白されると思ったら、楽しくない話をする宣言をされるなんて。

「うん・・・。いいよ。」

でも、それを受け止めてくれる。コイツはそういうやつなんだ。

・・・さて

黒猫に捧げると決めたはずの、初めての告白。
昨日黒猫に電話で「他の人に告白をあげてもいいか」という話をしたところ
「・・・勝手になさい。私があなたの行動を制限する権利は無いわ。」
とのことだった。黒猫の悲しみを押し込んだ声は、本当に聞いていて辛かったが。

「加奈子。」
「っひゃ!はい!」

「俺たちさ、最初は妹繋がり、仕事繋がりの仲でしかなかったよな。
 お前が家に来たときも、きっと交わることなんてないんだと思ってた。
 そしたら急にお前からメール来てさ・・・。ビックリしたよ。」

「か、加奈子だって結構勇気振り絞って送ったんだからな!」

「へへ、そーかい。でもそのメールのおかげで俺たちの距離を縮められた。
 本当に感謝してる。あの時メール送ってくれて、ありがとうな。」

「別に・・・。加奈子がやりたくてやっただけだし。」


39:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:23:23.13 vxMEAN4J
「それでも、だ。あのメールが無かったらきっとこんな気持ちも芽生えなかった。
 電話も出来なかった。二人で出かけたりも出来なかった。
 そんな俺の人生に楽しい事を足してくれたのは、加奈子だからな。」

「・・・うん。」

「今まで知ろうとしなかったことを知って、理解して。
 いつ頃ぐらいからか忘れちまったけど・・・。」


「俺は、加奈子のことが好きだ。」

ああ、言ってしまった。
いま俺は、多くの可能性を切り捨てた。
その分、新しい可能性を信じて。

「京介。」

「ど、どうした?」

「ありがとう。こんな加奈子のこと好きになってくれて。
 どんなワガママも受け止めて、理解してくれて。
 ・・・本当にありがとう。加奈子も京介のこと、好きだよ。」

そして返事が返ってくる。
こういう返事が返ってくると分かっていたにせよ、ものすごい安著感。
でも、これから俺はこの加奈子にとって辛いことを言わなければいけない。
それを加奈子が受け止めてくれるか・・・。

「そうか、じゃあ晴れて両想いだな。」

ちょっと冗談っぽく空気を和ませて、本題に入る。

「でも、加奈子。俺は今まだ前と付き合うことは出来ないんだ。」

「・・・。」

沈黙が痛い。
でもこれは、伝えておきたいから。

「お前にも前話したよな。桐乃や、瑠璃のこと。
 俺がお前と今付き合ったら、アイツらは傷ついちまう。」

「・・・。」

「いつかアイツらが強くなって、全てを受け入れられるようになるまで、
 俺が不幸になるって決めたんだ。」
「でもそれは、お前まで巻き込んじまう。
 そんなわがままな俺でも、お前は好きでいてくれるか?」

これが、俺の出した答えだ。
欲しいものがいくつもあるなら、欲張っちまえばいい。
自分を不幸にしてでも、幸せになってほしい人がいるから。
もしこれを加奈子が受け止めてくれないのなら、俺は加奈子を諦めるしかない。
それは、先日から決めていたことだ。



40:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:26:53.76 vxMEAN4J
強いて言えば、不幸になるのは俺だけでもいいんだ。
俺より良い男なんていくらでもいるだろうから
加奈子達には他の幸せを見つけてもらえればいい。

もっとも、それを選ぶのは加奈子なんだけどな。
加奈子はどんな答えを出すんだろうか。いまだに沈黙が続いている。
何分続いているかは分からない。
一秒かも知れないし、十分以上かもしれない。
そんな沈黙を蹴散らすように、加奈子がゆっくりと口を開いた。

「・・・ホンット、お人良しなんだから。」
「しょうがねーだろ。こういう性格なんだよ。」

「でも、加奈子が好きになったのはそんなお人好しな京介だから。
 いつまでだって待ってやんよ。」

「そもそも付き合うのと他人はノーボーダーだから!
 お互いが好きでいられるなら、それでいいじゃんヨ!」

強がりかと思えば、どうやらコイツこれを本心で言ってるらしい。
なんだか・・・、俺って思ったより愛されてんの?

「本当に、いいのか?」
「男と加奈子に二言はないの!」
「うわわッ!」

話の流れを無視し、加奈子は急に俺の胸に飛び込んできた。
これってもう、付き合ってるのと変わんないんじゃね?
そんな疑問は、君達の澄んだ心の中にしまっておいてください。
加奈子は俺に抱きついた状態のままで、こんな話を始めた。

「こんなことになってるのも、全部加奈子のメールのおかげだぜ?もうちょと感謝したらどうヨ?」
「そういえば、お前なんであの時メールしてきたんだ?」

41:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:28:56.06 vxMEAN4J
「加奈子はさ、メールする前から気になってたの。京介のこと。」

衝撃の事実。
加奈子の中にいる俺は、最初から桐乃の兄貴っていう立場じゃあなかったみたいだ。

「いつからだったかな。多分、2回目にマネージャーやってくれたぐらいだったはず。」

「加奈子、人を好きになったことってあんまなくって。
 マネージャーやってる京介と喋ってるときに気付いたんだ。
 『ああ、これが人を好きになるってことか』って。」

ブリジットにナンパの方法しか教えなかったのはこのせいか。

「でも、オメー急にいなくなっちゃうからさ。
 そりゃもう必死に探したんだよ?そしたら、桐乃の彼氏に会って・・・。
 そこから最初のメールにつながるってコト。」

「そっか、なんか悪いな。急にいなくなっちまって。」
「ホント、もっと反省しろよな。」

あんな告白の後だというのに、こんなに冗談を交し合える。
これってなんでだろう?性格が合ってんのかな?

「つーか、さっき京介ばっかり喋ってアタシの気持ちがあんまり言えなかったんだけど。
 初めての告白のイメージが丸つぶれだよー!」

「そこでも怒られんの!? いいじゃねえか、今からでも言っちまえよ。」

「え!? いや、それは恥ずかしいって言うか・・・」
「俺だって恥ずかしかったよ。ホレ、言ってみ。」

「うぅ・・・。京介のバカ。」
「バカで結構!さあ、どうぞ。」

「わかった、言えば良いんでしょ?!」
「・・・。いざとなればなんて言って良いかわかんネーな。」

「散々じらしてそれかよ!」

「でも、加奈子が京介を好きなのは嘘じゃないから。
 いつまで待たされても、ずっと待ってるから!はい、お終い!」

そういって照れ隠しかそっぽを向いてしまう。
なんだか今はこういう仕草がいつにも増して愛しい。




42:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:45:27.58 vxMEAN4J
「で・・・。いつまで待てばいいの?」

ッ!油断したらキラーパスが飛んできやがる!


「いつまでって・・・。瑠璃達が好きな人が出来たりして、
 俺が加奈子と付き合うのを受け入れられるようになるまで?」

「そっか。じゃあいつまで経っても無理かもしんないな。
 オメーみたいなお人好し、忘れようと思っても忘れられネーだろ。」

あら、恥ずかしいこといってくださるのね。

「別に、忘れられなくても受け入れられるようになる日が来るだろ。」
「そうだといいけど・・・。」

そう思うと、付き合うまでかなり時間が掛かってしまいそうだな。
ただでさえ好きな気持ちを伝えるのに時間が掛かった俺たちのことだ。
きっとこれから何をするにも、俺たちは多くの時間を費やしてしまうだろう。

たとえばキスだったり、エッチなことだったり。

「京介、変なこと考えてる?」
「別に。」



43:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:47:32.87 vxMEAN4J
桐乃達が全てを受け入れられるようになったら・・・また、ここで告白しよう。
それまでどれくらいの時間が掛かるかは分からない。

メールから始まって、驚くぐらい無垢で純粋な愛情をゆっくりと育て上げてきた俺達だ。
きっとどんな時間の流れにも、耐えられるはずだから。
それが5年後であろうが、10年後であろうが。
それまでずっと、加奈子を離さずに手を握っていてやろう。
加奈子から離すことはあっても、俺からは絶対に離さないでいよう。

いまは、加奈子に対して純粋にそう思える。

これからどんなスローペースで俺達の恋がすすんでいくんだろうか。
そんなことは誰にも分かりやしないだろうけどさ。

「京介」

どうした?

「これからもずっと・・・一緒にいような。」

あたりまえだろ?






優しい風が、俺達を撫でる。
またここで、こうやって風に撫でられることがあるなら。

そのときはきっと、繋がっていよう。



お し ま い



44:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:54:52.04 vxMEAN4J
おしまい!
なんか最後の方、雑になって短くなった気が・・・。

最初にも言ったけど、もしかしたらオマケの未来編を書くかも!
俺妹PSPを買っていない俺が、ほんのちょっとの情報をもとに
特典小説に似せて書いてみようと思ったりもする!たぶん蛇足。

45: 忍法帖【Lv=4,xxxP】
11/05/31 00:54:59.26 NBZyWTL9
うぉ、加奈子もきたー。
モデル組はかわいくていいな。

46:『純情スローペース』 ◆N1DYQE3WUpBt
11/05/31 00:57:39.50 vxMEAN4J
やべ、いいわすれてた。
一応今回は告白編ってことで

読んで下さった方、本当にありがとうございました!

47:名無しさん@ピンキー
11/05/31 01:16:34.72 KNEaIIH4
よし、寝る前にいいかなかなを見れた!!
GJ!

48:名無しさん@ピンキー
11/05/31 01:18:37.11 ZlRgjfA6
加奈子最高でした!
続編期待!!

49:名無しさん@ピンキー
11/05/31 01:27:59.76 /mKisExP

加奈子最高

50:名無しさん@ピンキー
11/05/31 02:02:27.46 r24z6DEV
後日譚にも期待してるぜ!

51:名無しさん@ピンキー
11/05/31 08:21:07.32 p/KlZKv+
かなかなかわいいよう

52: 忍法帖【Lv=2,xxxP】
11/05/31 09:13:33.71 sNBOyIBd
乙! 加奈子かわいいよ加奈子

53:名無しさん@ピンキー
11/05/31 12:41:42.65 zR5Ve8vN
中高生ぐらいの子どもが海外に行くチャンスがあれば、背中を押してあげるのが普通だと思うけどね。


54:名無しさん@ピンキー
11/05/31 13:58:19.66 bVDoixoz
なんだその普通はどこから来たのか知りたい

55:名無しさん@ピンキー
11/05/31 16:03:45.26 2wIQXX2L
「普通」は人それぞれ

56:名無しさん@ピンキー
11/05/31 16:53:42.83 zR5Ve8vN
>>54
俺、俺の同学年の連中、先輩たちが、海外の高校、大学に特待生で行くのでそれが『普通』だと思っていた。
お前んところはちがうのか?

もっとも、理由はわからんが、親の許可が降りずに行かせてもらえない奴が時折いたけどね。


57:名無しさん@ピンキー
11/05/31 16:57:53.60 AECohgmE
息子なら行かせるけど、娘なら嫁と離婚しても行かせない

58:名無しさん@ピンキー
11/05/31 17:09:22.39 E++a48Tq
>>53
お前がそう思うならそうなんだろう、お前ん中ではな。

59:名無しさん@ピンキー
11/05/31 17:10:10.07 Z/2HEf87
>>56
価値観なんて人それぞれ。絶対なんて無いんだから

60:名無しさん@ピンキー
11/05/31 17:37:02.61 /zcMNnv8
完全にスレチなので他行ってください

61:ADRY
11/05/31 19:23:13.62 ZlRgjfA6
こんばんは。
予告通り、今から 一生の願いに、一生の幸せを の後編を投稿します。

最新の8巻や、俺妹Pの中から頂いたところが多々出ます。
後編も、京介×あやせです(当たり前か)。
登場人物は、少し増えます。みんな大好きナイスイケメンとか。

ではでは

62:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:24:17.22 ZlRgjfA6
次の日、俺は秋葉原に来ていた。
遊びに来たワケじゃないぞ。ちゃんと対策を練るために、ある奴と待ち合わせしてるんだよ。
なんで秋葉かって?
…そいつが指定してきたんだよ。

正直、秋葉は何度も来ているから別の場所にして欲しいと頼んだんだけど、そいつは秋葉以外、何度も行ってるから嫌だって拒否しやがった。
まあ今回は俺がお願いする立場だから、出来るだけそいつの要望に応えるのが筋ってもんだろうし、今回は文句を言わない。

携帯を開く。約束の時間は過ぎている。

「何やってんだ、あいつ…」
イライラしてくる。
これがあやせなら全然苦じゃないんだけど。
如何せん、俺自信あまり気に入ってねぇ奴だからイライラが倍増する。

「きょうすけくーん!」
と、突然デカイ声で誰かの名前だろうものを呼ぶ声が聞こえる。
きょうすけという名前に身に覚えがないわけじゃないが、ありふれた名前だから他人ってこともある。ここは聞かなかったことにしてさっさとここから離れよう。

「どこに行くの!?高坂京介くーーーん!!!」
「フルネームで呼ぶんじゃねえ!!!」
なに公衆の面前で人の名前を大声出して公表してくれてんのこいつ!?

「あ、聞こえたんだね!よかった!!」
「何が『よかった!!』だこのドアホ!」
駆け寄ってくるそいつの頭を、おもいっきり叩いておいた。
「あ痛ァ!」

涙を浮かべながら頭をさする姿を見たら、さっきまでのイライラも大分すっきりした。

「んで、何遅刻してんだお前?」
「イテテテ…、ちょっと仕事の方が長引いちゃって…」
「それならそうと連絡しろよ」
「そんなに遅れそうじゃなかったからいいかなと思って…」
「――ハァ…」

こいつと会うのは3回目だが、相変わらず変な奴である。

「それはそうと、久しぶりだね京介くん」
「出来れば二度とお前には会いたくなかったけどな」
「酷いなぁ…ホントに」
そう言って顔をしかめるこの美形野郎は、御鏡光輝。
俺と同い年なのに、プロのデザイナー兼モデルという美少年。
いちいちわざとらしく見せるキザっぽい仕種も格好よく思えるほど、その容姿は完成している。

初めてあった時はなかなかいい奴だと思ったんだけど、後のあることによって、俺のコイツへの好感度はマイナスを下回っている。
そのため、こいつは俺にとってあまり会いたくない奴の一人なのだが…。

「会いたくないって言っているわりには、今日誘ってくれたよね」
「うっせ。理由がちゃんとあんだよ」
「うん、まあ、わかってた」
「わかってただァ?」
「友達だからね」
キザっぽく言うが、それが嫌味を感じさせない。コイツのスキルだ。
まあ俺はコイツが何を喋ろうとムカつくのだが。


63:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:24:54.79 ZlRgjfA6

「俺はお前を友達と認めない。つか拒否する」
「酷い!」
「いいから行くぞ!」
御鏡を置いて、歩き出す。

「あっ!ちょっと待って!」
「早くしろ!」
「そうじゃなくて!」
「…なんだよ?」
こっちは早く話を始めたいってのに。

「秋葉原、紹介してくれないかな?」
「…は?」
何言ってんのコイツ。

「僕、秋葉原には全然来たことがなくて…」
「…」
ああ、忘れてた。
こいつ、桐乃と同じ隠れキモオタだったんだ。
しかも属性が桐乃寄りの。
まあオタクで秋葉に来たことがないってなると、秋葉を回ってみたくもなるわな。

でも、出来れば早く話を始めたいんだが…。
つか、コイツの為に秋葉原を紹介してやる義理もねえし。

「…俺も詳しいワケじゃねぇけど、よく行くコースで良いなら教えてやるけど」
「全然!それで全然いいから!」
「たく…、さっさと行くぞ」
「うん!」
まあ、今日は俺の頼みを聞いて貰うつもりだし。
その対価に、こいつの頼みを聞いてやるか。

――それ以上の、理由はねえぞ。



「いやぁ、楽しい場所だね!秋葉原って!」
「…そうかい」

ある程度秋葉を回って、俺達は某ファーストフード店で話をしていた(メイドカフェはさっき行った)。
まあ、御鏡のオタ話を流し流し聞いているようなもんなんだけど。

「それで、京介くん」
「ん、なんだよ?」
「僕に用事って?」

このタイミングでそれを聞くかよ…。
話に脈絡もなかっただろうが。

――まあ、いっか。
いつ話をしようか考えていたとこだし、こいつが振ってきてくれたのは、正直ありがたかった。

「話ってのはな…」


俺は事の始まりを御鏡に話した。


64:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:25:38.40 ZlRgjfA6





とりあえず、あやせのことを一通り話し終えたのだが、御鏡は

「ああ、そのことか」
と、意外な反応を返した。

「知ってたのか?」
「うん、その子と一緒に僕もヨーロッパに行く予定だし」
「ん、どういうことだオラ?」
「た、ただあやせちゃんと美咲さんが一緒に行くのに合わせて、ついでに僕も連れていかれるってだけだよ?な、なんでそんなに睨むの…?」
なんだ、そういうことか。
付き添いとか言ったら危うくピーするところだったぜ。
つか、こいつ今あやせちゃん呼びやがったか?馴れ馴れしくして、どういう関係だ?
…まあいい、今はそんなことを問い詰めるよりも大事な話があるし。
だけど、後日覚悟しとけよ?御鏡。

「な、なんか君に背中を見せるのが怖くなってきたんだけど…」
「安心しろ、気のせいじゃねえよ」
「全然安心出来ないよ!?」
「もうそんなことどうでもいいからよ、話を続けるぞ」
「僕の命がかかっているんですけど!?」
御鏡の叫びは無視して、話を続ける。

「それで、お前に協力してほしいんだよ」
「何に?」
「あやせの海外行きを阻止するのを」
「…本気で言ってる?」
「冗談言ってるように見えるか?」
「見えない」
「そういうワケだ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだよ?」
「今回の話は桐乃さんの時とは違うんだよ!?桐乃さんと違って、あやせちゃんはそのことを承諾してるんだから…!!」
「承諾つっても無理矢理だろ?あやせが嫌だって言えばいいだけならなんとかなる」
「そんな簡単に言うけど、あやせちゃんは多分、一度決めたことは梃でも動かない子だよ?」
「知ってる。そういうところは桐乃に似てんだよな」
「それに、それを阻止するっていうのはあやせちゃんの気持ちを踏みにじることになるんだよ?他人の京介くんにそんな資格があるの!?」

――あー、メンドくさい奴だなホント。

「…あのなぁ、んーなのはどうでもいいんだよ」
「めちゃくちゃだよ!?言ってること!」
「めちゃくちゃなのは承知の上だ!」
ダンッとテーブルを叩いて立ち上がる。

「納得いかねえんだよ!よりにもよって、なんであやせが連れて行かれなきゃなんねえ!?なんであやせは行くなんて言っちまいやがった!?
桐乃のためだァ?あいつはホントにそう思ったのかよ!?

…だとしたら言ってやんなきゃいけねえ!聞いてやんなきゃなんねえ!!止めてやんなきゃなんねえ!!!あいつに本当の気持ちを…言わせなきゃなんねえんだよ…!!」


65:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:26:36.92 ZlRgjfA6

俺は床に座り、手を付ける。
属にいう土下座だ。

「桐乃が泣いてたんだよ…。助けてって、俺にすがりつくしかないぐらい、苦しんでんだよ…!俺だって苦しいし悲しい!

…でも、桐乃の為にも、自分の為にも、あやせの為にも…!立ち止まって考えてる暇なんてねえんだよ!もう思い付く全てにすがって頼むしか出来ねぇんだ…!!」
俺だって、桐乃と同じだ。
一人じゃ何にもできないから、誰かに頼るしかできない。
頭を下げても、恥を忍んでも、俺にはこうするしかできねえんだ。

「――頼む御鏡!お前の力、貸してくれ…!!」
「きょ、京介くん…」

土下座しながら、俺はあの時のあやせを思い出していた。

『――さようなら、お兄さん』
そう言って微笑んでいたあやせを。

その時フラッシュバックしてきた光景は、桐乃だったんだ。

『――じゃあね、兄貴』
そう言って、アメリカに留学していった桐乃となんら変わらない。

あの時は、もうどうすることも出来なかったけど、今回はまだ時間があるんだ。

何もしないで後悔するよりは、全力を尽くしたほうがいいに決まっている。


「――キミのことを、僕は少し勘違いしていたのかもしれないね」
御鏡が、ゆっくり口を開いた。
「桐乃さんの為に身体を張っている姿を見て、僕は京介くんのことを『理想の兄貴』みたいに思っていたんだ」
「んなわけねーだろ」
キッパリと否定する。

「桐乃の時も、今回のこともなんだかんだ言っても結局自分のためだ。桐乃の為でも、あやせの為でもねぇ」
「うん、わかってる。京介くんは僕が思ってた以上に自分勝手で、わがままで…いい加減だ」
…わかってるけどさぁ。
改めて言われるとなんか傷つくな…。

「でも、そんな京介くんだから、守れるのかもしれないね」
なんか勝手に納得されてるけど、俺にはよくわからなかった。

「わかったよ。そこまでさせてノーとも言いづらいし。――僕個人としても、京介くんに協力したくなった」
「本当か御鏡!?」
「うん。だけど、話をする場を設けるぐらいしか、僕には出来ないと思うよ?それでもいいかな?」
「十分だ!話は俺がつける!!」
「うん、僕もその方がいいと思うよ」
「本当にすまねえ御鏡!」
もう一度、俺は頭を下げた。

「――まぁ、それはいいんだけど…」
「ん?どうした?」

「いい加減、立たない?目立ってるよ?」



その後、再びこの店に来たとき、俺が『土下座男』として語り継がれていることを知るのだが、それはまた別の話である。


66:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:27:20.27 ZlRgjfA6


――そうして後日、

俺は緊張していた。
原因は、俺がいる場所だ。

株式会社エターナルブルー日本本社。

ヨーロッパに本社がある、高級化粧品メーカーの日本本社だ。
化粧品メーカーではあるのだが、化粧品だけに留まらず、別ブランドでアクセサリー等も扱っている世界でも有名な会社…らしい。
なにせ、それを思い出したのはつい最近で、曖昧な入れ知恵のため、俺はよく分かってないんだよ。

なぜそんな場違いなところに来ているかというと、御鏡の指定した場所がよりにもよってここだった。
実は、御鏡は、エターナルブルーの別ブランドを任されているアクセサリーデザイナーという一面も持っている。
御鏡に相談したのも、その一面があってのことだ。最も美咲さんに近い存在だからな(ちなみに美咲さんが社長をやっているのが、このエターナルブルーだ)。
だから、話す場所なんかも御鏡に頼んだら、まさかの会社内だ。
受付の人とか、すれ違いざまに見てくる人とかの視線が痛い痛い。

「早くこいよ、御鏡ィ…」
「もう、来てるよ?」
「は?」

声がしたほうを見ると、すぐ近くに御鏡がいた。
「お前…いたなら声かけろよ」
「いやぁ、慣れない場所で落ち着かない様子の京介くんを見てたら、なんか面白くて」

とりあえず一発叩いとく。
「イッタい!!」

「バカ言ってねえで早く行くぞ。準備終わったんだろ?」
「うん。今、二人で話をしてるよ」
「うっし!んじゃ、案内よろしく」
「社内も案内しようか?」
「いいよ、二度と来ねえだろうし」
「わからないよ、将来ここで働いているかもしれないし」
「ないない。いいからさっさと案内しやがれ」
「はーい」

御鏡に付いて、俺も歩き出す。
なんかさっきよりジロジロ見られている気がするが、気にしないようにする。

つか、広いなぁオイ。
流石世界で名を上げている会社だ。設備もパネェ。
何もかもが俺にとっては、目新し過ぎて、ついキョロキョロしてしまう。

「ここだよ、京介くん」
「へ?」
気づいたら、扉の前にいた。
いつの間に着いたんだよ。

目の前の扉を、じっと見る。
他と比べると、結構小さな扉だった。
「大きな会議室は少人数には無用だろうと思ってね。個人面接なんかで使う会議室にしたんだけど、よかったかな?」
「全然オーケーだ。むしろナイスだ、御鏡」
話しやすい環境にしてくれたことに感謝するぜ、御鏡。



67:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:28:02.59 ZlRgjfA6

――ここに、美咲さんとあやせがいる。
ドクン、ドクン、と心臓が高鳴ってきた。
ここに入ると、逃げることは出来ない。それに、失敗も許されない。
最初で最後のチャンスと思わなければいけない。
「京介くん。前に言った通り、美咲さんとあやせちゃんには、今日君が来ることを知らせていない。それに、二人と僕達以外にこの部屋には誰も入らない。完全に、美咲さんとあやせちゃんだけと話をする場所になっている。――心の準備は、いい?」

深く息を吸って、吐く。
ここまで来たら、後はなるようになれ、だ。

「オーケー、行こうぜ」

それを聞いた御鏡は軽く微笑み、扉を開いて中に入って行く。
それに、俺も付いて行った。


中は、少し小さなテーブルに、椅子が前後2つずつ置かれた若干狭い会議室になっていた。
すでに対面で座っている二人が、こちらに目をやる。
俺を見るなり訝しげな目を向ける美咲さんと、ありえない物を見たように驚いている、あやせ。

やっと、顔が見れた。
思わず顔が緩む。

「…御鏡くん、どういうこと?」
鋭く、突き刺さるような声で、御鏡に問う美咲さん。
「いやぁ、どうしても話がしたいって言って、聞かなかったので…」
しかし、そんな刺のある言葉も気にした様子もなく、御鏡は軽く言う。

と、そこで美咲さんの視線がこちらに向けられる。
「あなた…、桐乃ちゃんの彼氏、だったわよね」
「覚えていてくれたんですね」
じゃあ、話は早い。
「んじゃ、桐乃の彼氏ってのは、嘘だったってことも、知ってますよね?改めて、高坂京介。高坂桐乃の兄です」

「…それで、桐乃ちゃんのお兄さんが、今更何の用かしら?桐乃ちゃんのことはもう諦めたから、あなたに話すことはないわよ?」
「いやぁ、それが俺にはあるんすよ」
「あら、何かしら?」
あやせが座っている横に移動し、本題を切り出す。

「あやせの海外行き、なかったことにしてください」
「…なにを」
「ちょ、ちょっとお兄さんなにを言って…!」
あやせの言葉を遮り、話を続ける。

「海外に行くのは、もう少し先ですよね?だから、今のうちにキャンセルしてほしいんです」
「無理よ。もうこれは決定したこと。私にとっては最優先事項なの」
「そりゃ奇遇だ。俺の最優先事項は、あやせの海外行きをやめさせることだからな」
「…あなた、あやせちゃんの何?」
「知り合いです」
「そう、友達でもなく?」
「ええ。ただの知り合いです」
「なら、あなたにあやせちゃんが自分で決めたことを止める権利なんてないんじゃないかしら?親友の桐乃ちゃんならまだしも…、家族でもなんでもない、ちょっと知っている程度のあなたに」
「普通ならそうでしょうよ。俺もそんなこと、重々承知の上です。――だけど、止めなきゃならない理由があるから、俺はここに来たんです」
「理由?それはあやせちゃんの将来を奪うことになっても、止めなきゃならないような理由なのかしら?」
「当たり前です」
キッパリと、言ってやる。



68:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:28:38.92 ZlRgjfA6
「なら、聞かせてくれない?その理由とやらを」
「桐乃に頼まれたからです」
「…は?」
美咲さんは、『何言ってんだコイツ』みたいな目で俺を見ている。
「あなたは、何?妹にお願いされた。…それだけの理由で、止めに来たと言うの?」
「ええ、そうですよ?」
そう、言ってんじゃん。
「あいつ、落ち込んでたんですよ。あやせが海外に行くって知って。そんで泣きながら俺に頼んできたんです。――これで止めてやんなきゃ、俺がやるせなくなっちまう。だから、止めにきたんです」
そう、桐乃やあやせの為じゃなく、俺自身の為に。
「それに、どんな条件を出したのか知りませんけど、あやせは桐乃の親友なんです。あいつの為にも、こいつの為にも、二人を離すわけにはいかないんです。だから、取り消して下さい」
「…あなた、言ってることが無茶苦茶よ?」
まあ、そうだろうな。
桐乃と俺の為に海外行きを取り消せなんて、自分勝手にも程がある。
だとしても、
「俺には、それ以上の理由はないんですよ。―つか、他のどんな理由もいらないんです。俺は、この理由一つで、あんたを納得させるつもりですから」
「………」


――実は、秋葉での御鏡と俺の話には続きがある。

話をする場所、日程などはその時は決まらなかったのだが、ある程度の対策を練ることはしていた。

「京介くんも一度話してわかったと思うけど、美咲さんはとても手強いよ」
「ああ。それはよくわかる」
心を見透かしているようなあの目を、今も覚えている。

「だから、まず正論で討論したら勝ち目はない。だけど、京介くんならなんとかなるかもしれない」
「具体的にはどうすればいいんだ?」
「何もしなくていい。いいや、何もしちゃダメなんだ」
「はぁ?」
負け試合してこいって言ってんのかコイツは?

「あ、いや勝てないって言っているんじゃないんだ」
と、俺の心を見透かしたように言う。
「んじゃ、どういうことだよ?」
「京介くんは、理屈なんて通じない。どんなに正論を並べたって、自分勝手な意見で、頑として譲らない。――そして、最終的に、無理矢理相手に言い負かされたような錯覚に陥らせる」
「…酷い奴だなオイ」
「そうだね」

自分自身に向けた皮肉に、御鏡はフォローもしようとしない。なんか腹立つな。

「だから、京介くんはそのままで戦うのがベストだ。何も考えずに、素直にぶつかっていったほうがいい。そうすれば、多分勝てる」
「結構な自信だなオイ」
お前のことじゃねーのに。

「うん。僕自身が京介くんに負けたからね。大丈夫だよ」
「…そうかい」
いつ、俺がお前を負かした?覚えがないんだが…

「物忘れが早すぎるよ、京介くん」
何故か、御鏡はクスクスと笑っていた。
わけがわからん奴だ。







69:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:30:04.60 ZlRgjfA6
――と、そのアドバイスのおかげ…ってわけでもないが(今までこの話を忘れていたからな)、順調な滑り出しのようだ。早速、美咲さんが言葉に詰まっている。



だけど…、本当の戦いは、ここからだ。
美咲さんを負かしても、コイツが断らないと、意味がない。
ただ、コイツは非常に頑固で、一度決めたことは譲らない、桐乃に似た性格をしているため、一番厄介なのだ。

「さっきから黙って聞いていたら、勝手なことばかり…!」
そう言って、隣で勢いよく立ち上がった…

新垣あやせが、最も厄介だった。







「――少ししか話したことがないから、なんとも言えないんだけど…。あやせちゃんを言い負かすのは、正直最も難易度が高いことだと思うよ」
あの時、御鏡はそう言っていた。
「奇遇だな。俺もそう思う」
俺もそれには大いに同意だった。

「だから、あやせちゃんには本当の意味で、本音をぶつけないといけないと思う。嘘八百を並べたって、あやせちゃんには通用しない」
「だろうな」
あの時俺が付いた嘘も、嘘だったってバレてたらしいし。

「でも、恐らく彼女が一番の嘘つきだろうね」
「ん?俺のあやせを馬鹿にしたか今?」
殴るぞキサマ。
「そうじゃないよ、彼女は思い込みが強いだろうから、自分の本音じゃない嘘の自分を、自分だと信じ込んでいると思う」

――こいつ、あやせとは少ししか会ったことがないんだよな?なんでそこまでわかんだ?
御鏡は、あまり敵に回さないほうがいいタイプのようだ。
あの時御鏡に喧嘩売った俺、よくやったよホント。

「だからあやせちゃんに勝つためには、あやせちゃんの本音を引き出すしか方法はないだろうね。そして、それが出来るのは…」
「俺だけってか?」
「御名答。だから頑張ってね」
「簡単に言いやがって…」

あやせに刺されたりでもしら、お前を呪うからな御鏡。







70:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:30:46.84 ZlRgjfA6
――そして、ついにその時が来た。

「さっきから聞いていれば、お兄さん自分勝手な意見ばかりじゃないですか!私の意見も聞かないで、勝手に話を進めないで下さい!!」

俺に向かって、怒鳴るあやせ。
ぶっちゃけ迫力あって怖いんだけど、こんなんで負けてはあまりにも惨めなので、負けじとあやせの方に身体を向ける。

あやせの目を見る。目を離すこともなくこちらを睨んでくるあやせは、やっぱり怖い。

「んじゃあやせ、お前に聞くけどさ」
「な、なんですか…?」
「お前は、桐乃と離れるのは嫌じゃないのか?」
「…そんなの」

あやせは拳を握り締め、何かに耐えるように顔をしかめた。
「嫌に…決まっているじゃないですか…!」

そうだな、お前は俺に言ったよな。

離れたくないって。

桐乃と離れ離れになるのは、絶対イヤだって。

「だったら、なんであいつと離れる選択をしちまうんだよ?おかしいじゃねえか」

「それは…」
あやせの言葉が詰まる。

「お前は桐乃のためと思ってるのかもしんねーけど、それで桐乃を悲しませてたら元も子もねえだろうが?」

「そう…かもしれませんけど」
「そうかもしれない、じゃなくて、そうだろうが!桐乃の為を想うなら、桐乃の傍にいてやってくれよ!あいつには、お前が必要なんだよ!!」

「…桐乃桐乃って、さっきからそればっかり…!」

あやせの目が更にきつくなった。
ヤバい、マジ怖い。
こんなあやせ、初めて見た。

「桐乃なら大丈夫です!…桐乃にはソッチの友達がいるんでしょう!?それに、加奈子だっています!!」
ちなみにソッチというのは、桐乃のオタク趣味のことだ。何度も言うが。

「私の代わりなんて…いくらでもいるじゃないですか!!」

「お前…!!!」

あやせの口から、一番聞きたくなかった言葉。
誰よりも桐乃の親友であるかとを誇りとしていたあやせから、『自分の代わりはいくらでもいる』なんて言葉を、聞きたくはなかった。

「あやせ、それ本気で言ってんのか!?」
こちらも、更にあやせに詰め寄る。

「お前と桐乃が喧嘩した時、桐乃言ったよな!?『アンタと同じぐらいエロゲーが好き』だって!!」
…あれは今思い出しても、何言ってんだって思うトンデモ発言だった。
桐乃は、あやせかエロゲーかという選択に、どちらかという選択をせずに、どちらもという選択をしたのだ。

やると決めたこと全てに全力を注ぐ、桐乃らしい選択だった。
「あいつは、諦めなかったんだ!お前も、エロゲーも、自分の大好きなもの全部!!…それなのに、お前は簡単に諦めちまうのかよ!?」


71:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:31:18.79 ZlRgjfA6

「――大好きな桐乃を、そう簡単に諦めんのかよ!!?」
もう、誰の声も耳に入らない。
唯一俺に聞こえるのは、目の前のあやせの声だけだ。

「だったら尚更行かせるわけには行かねえ!力づくでもお前を止める!!んな馬鹿なことを言ってるお前を、俺はそのまま見捨てるなんて出来ねえ!!」

その時、

パンッいう乾いた音と、俺の右頬に衝撃が、同時に響いた。

あやせが、平手打ちをかましてきやがったのだ。

「いっ…てぇ…!」
「お兄さんに…お兄さんに何がわかるんですか!?」
右頬を押さえながらあやせの方に向き直ると、
「あ…やせ…?」
ボロボロと涙をこぼすあやせが、そこにいた。

「私は、ずっと桐乃の為に…桐乃を守る為に、全力を尽くしてきました!桐乃の親友でありたいから…!!桐乃の傍にいたいから!!!」

ぐしゃぐしゃの顔になりながらも、あやせは怒鳴り続けた。

「でも!全部自己満足だったんです!!桐乃を守っていたのも、桐乃の傍にいたのも…、全部、全部お兄さんだったんです!!!」
「…!!!」
「悔しかった…!私が何年もかけて築いてきたものを、お兄さんはたった数ヶ月で超えてきた!!
桐乃の為に私が出来なかったことを、お兄さんはいとも簡単に成し遂げた!!
――だから、悔しかった!羨ましかった…!お兄さんという存在が、憎くて憎くて仕方がなかった!!」

初めて聞いた、あやせの本音。
異常なぐらい桐乃の為を思ってくれて、桐乃の心配をずっとしてくれていた、少女の嫉妬。
俺は、そこまで憎まれていたのだと、今初めて実感した。
平気なのかって?

ショックに決まってんだろうが!!!!
やべえ、本音が聞けたけど泣きそう。俺負けそう。

「…でも、それ以上に」

と、あやせの話は終わってなかったようだ。

「お兄さんという存在が…、私にとっても、必要になってたんです」

「…え?」

俺が、なんだって?

「私が桐乃の誕生日プレゼントを考えるのを手伝って貰った時、本当は会うのも嫌でした。
――でも、桐乃の一番欲しい物を知っているのはお兄さんしかいないと思ったから、お兄さんにお願いしたんです。
そんな私に…あんな酷いことをした私に、お兄さんは嫌とも言わずに、協力してくれましたよね?私、わからなかったんです。なんであそこまで協力してくれたのか」

あの時、俺は桐乃が欲しいであろうプレゼントに、メルルのコスプレ大会の優勝商品であるメルルの限定フィギュアを提案した。
そんで、メルルにめっちゃくちゃ似ている生意気中学生の来栖加奈子のマネージャーになってやったんだったっけ。

「その後も、私の個人的なお願いなんかも聞いてくれて…。私は、本当にお兄さんっていう人がわからなかったんです」

「――だけど、そんなお兄さんに惹かれていっている私がいて…、憎くて仕方がないお兄さんのことを考えちゃう私がいて…!」
「あやせ…?」


72:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:31:41.75 ZlRgjfA6

おいおい、これって…

「そうして、私気づいたんです…。お兄さんは、桐乃だけじゃない、皆に優しいんだって。助けを求める全てに、手を伸ばしてくれる人なんだって」

言いすぎかもしれませんが、とあやせは付け加えた。
「それに気づいた時、もっとお兄さんに惹かれいく私がいたんです。――必要もなく、手を伸ばして欲しいと思う私がいたんです」

そうなのか?
いつも会うたび会うたび、嫌そうな目をされてた気がしてたんだけどな。

「でも、一番お兄さんを必要としているのは、桐乃なんです…!私は、お兄さんを求めちゃダメなんです!お兄さんは、桐乃の傍にいてあげなきゃダメなんです!!
――そう思っているのに、私はお兄さんを求めたくなっていくんです。…お兄さんが、必要になっていったんです」

あまりにも唐突過ぎる衝撃的告白に、言葉が出なかった。

「だから、いい機会だと思ったんです。この話を貰った時。桐乃の為にも…、私の為にも」

…おい。もしかして、それは

「――お前が海外に行くのを決めたのって、桐乃の為であり、…俺のせいだったのか?」

あやせは、イエスともノーとも言わず、沈黙している。
だけど、この状況でこの沈黙は、ある意味答えのようなものだ。

「そっか…」
何となく、そんなことを呟いていた。

御鏡に目をやる。
微笑んで、こちらを見ていやがった。何がおかしいってんだコイツ。

『――あやせちゃんには、本当の意味で、本音をぶつけないといけないと思う』

リフレインしてくる言葉。
ああ、わかってるよ。


「…あやせ」

あやせの肩を掴む。
桐乃と同じぐらい、小さい肩だ。

こんなに小さいのに、誰かの為なんて、いっちょ前に考えてたのかよ。
お前も、桐乃と同じぐらい馬鹿な奴だな、あやせ。

最初から、俺に話してくれてたら、よかったのによ。

「あやせ、行くな。ここにいろ」
肩を掴んだまま、言う。

「無理ですよ。またお兄さんを求めたくなってしまいます」
「求めればいいじゃねえか。迷う必要も、悩む必要もねえ。いつでも俺はお前の為に傍にいてやる」
「…わかっています、お兄さんがそう言ってくれることは。―それが、苦しいんです!私には、お兄さんに優しくしてもらう資格なんてないのに…!」
「資格ってなんだよ?そんなもん、存在しねえよ。俺がいいって言ってんだから」
「その言葉に甘えたら、私が桐乃を裏切ってしまうかもしれない!それも、怖いんです!」
「大丈夫だ。それで喧嘩しても、俺がなんとかしてやる」
「…でも!私はお兄さんの妹でもない!赤の他人なんです!そんな私が」
「こっちを見ろあやせ!」
ビクッとしたあやせは、下を向いていた顔を、ゆっくり上げた。
その目をじっと見る。

73:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:32:17.14 ZlRgjfA6

もう逃げない。
もう逃がさない。

「俺は桐乃が大嫌いだ。我が儘で、理不尽で、俺なんかと違って良く出来た妹が大嫌いなんだ!」

「…でもな、そんな大嫌いな妹を、必要としている俺がいる」
「お、お兄さん…?」
「わかってるぜ?おかしなこと言ってることぐらいはさ。――でも俺は妹が、桐乃が傍にいてくれないとダメなんだよ。あいつはもう、俺から切り離せないところにいるんだ。
…でもな、あやせ」
改めて、自分の心に確認する。

大丈夫だ。
俺の気持ちは、嘘じゃない。

「桐乃だけじゃ、だめなんだ。――桐乃と同じぐらい、俺はお前のことを必要としているんだ…!!」
誰も、代わりなんて務まらない。
俺は、新垣あやせが必要なんだ。

「お前がどこかに行くなんて、考えたくねえ…!!認めたくもねえ!!」

あやせの肩を掴む手が、段々と震えてきた。

「俺は、お前が必要なんだよあやせ!!どこにも行ってほしくない!――お前も、俺の傍にいてほしいんだよ!桐乃の為じゃなく、お前の為でもなく、俺の為に!!」

これが、俺の本音。

貪欲な、俺の望み。

自分勝手な、俺の我が儘だ。

「これが俺の気持ちだ、あやせ。これ以上、俺が言えることはない。これ以上お前を止められない。だから、これが最後だあやせ。――お前は、どうしたい?」

ここまで言うと、あやせは、心ここにあらずみたいな顔をしていた。

「あやせ…!」
あやせの肩を少し揺らそうとした。が、その寸前にあやせの肩が震え出した。
「わ、私…。私は…」

ポロポロと言葉を紡ぎ始めたあやせを、俺は黙って見る。

「私は…、桐乃と…」

止まっていた涙が、再びこぼれだした。

「桐乃と――お兄さんと…、一緒に、いたいです…」
「…あやせ」

あやせの頭を胸の辺りに寄せ、手を背中と頭の上に置いてやる。

そうしてやると、抑えていたものが爆発したのか、泣き声は更に大きくなった。

「ごめん…なさい!私…、私…!」
「いいって、あやせ」

俺は、あやせの頭を撫でる。


74:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:32:56.56 ZlRgjfA6

「言ってくれてありがとうな?すげー嬉しかった。


――だから、今は泣いていいから」
「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

あやせが泣き止んで落ち着くまで、俺はあやせの頭を撫で続けた。


今まで我慢していたのだろう、桐乃の為に。自分の為に。
その枷が外れた今、あやせを止めるのは酷ってもんだ。

今は、感情のままに泣かせてやっておこう。






――そうして、数十分後

俺、御鏡、あやせはエターナルブルーの外に出ていた。

「―美咲さんは、あやせさんを諦めるとのことです」
御鏡から最初に言われたのは、今回の結果だった。
いろいろあったけど、これは成功したと言っていいだろう。
しかし…
「意外と簡単に諦めんのな。桐乃にはあんなにしつこかったのに」
「いやぁ、実は美咲さんはあまりあやせちゃんに執着してなかったんだ」
「はぁ?」
「あくまでも、美咲さんにとってあやせちゃんは桐乃ちゃんの代わりだった…そういうことだよ」

あやせちゃんには失礼だと思うけどね、と付け加える御鏡。
あやせも重々承知の上だったのだろう、気にした様子はなかった。

「でも、元々条件の一つだった『桐乃さんを海外に誘わない』、は無くなっちゃったことになる。つまり、また桐乃さんは海外に誘われることになるよ?」
「そんなの、何度でも諦めて貰うさ」

そう言うと、御鏡はクスッと笑い、「そう言うと思った」と見透かしたように言った。

「…そろそろ、来るかな?」
「ん?なんか呼んだのか?」
「うん。今回の、関係者の一人をね」
「関係者?…って、お前まさか!!」


「――あやせ!!」


聞き覚えのある声がこだまする。

声がした先にいたのは、


我が家の自慢の妹様、高坂桐乃だ。

「桐乃…」
あやせが、ボソッと親友の名前を呼ぶ。
ヅカヅカと歩いて来た桐乃は俺達に目もくれず、あやせの前に立ち止まった。

75:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:33:35.38 ZlRgjfA6

そして、何も言わずに―

パァンッ!

あやせに、平手打ちをかました。

「こんの…バカ!」
そう、怒鳴って。

「き、桐乃…!」
「アンタは黙ってて」
「はい!でしゃばってすみませんでした!!」
ギロッと睨まれると、なんか逆らえなくなる俺。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだ。

「桐乃…」
頬を抑えるあやせに、桐乃は言った。
「バカ!バカバカバカ!あんたわかってる?あやせが海外に行くって言われてどんな気持ちだったか!どんなに辛かったか!!自分勝手に話を進めて!
私のため?何様!?確かに相談したのはあたしだけど、そこまでして欲しいなんて言ってないっつーの!!」
「お、おい桐乃!」
流石に言い過ぎだろう。
間違っていたとはいえ、あやせはお前の為にしたんだから。

桐乃を制止しようとした俺を、御鏡が肩を掴んで止めた。
「な、なんだよこんな時に」
「あの二人は大丈夫ですよ」

ほら、と御鏡が目をやった先を見る。
再び、あやせと桐乃に目を向ける。

「桐乃…」
言葉を紡ごうとしたあやせを、桐乃は遮った。
ガバッと、あやせに抱き着いて。

「き、桐乃…?」
困惑しているあやせに、桐乃は言った。

「あやせが…いなくなったら、あたしどうしたらいいの…?
いつも支えてくれたあやせがいなくなるなんて、あたし嫌だよ…?

あやせは一人だけなんだから――だから、もうどこにも行こうとしないでよぉ…」
そう言った、桐乃の声でわかる。

桐乃は、泣いていた。

前見た時はあやせが泣いていたけど、今回は逆だった。

状況も、なにもかも逆だった。

ただ一つ違うのは、あやせはどこにも行かないってことだ。


「桐乃…」
あやせも、桐乃の肩に手を回した。

「ごめんね…ごめんね、桐乃…!」

そう言ったあやせも、また泣き出してしまった。


76:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:34:02.20 ZlRgjfA6
暗くなったとは言え、人通りが多い街中で、泣きながら抱き合う少女二人は、なんか変な絵だった。

だからといって、それをどうこうしようとするような空気が読めない俺ではない。

このあと、俺達は再び数十分待たされることになったのだが…

待つ時間が苦、なんてことは、塵ほどにも思わなかったね。





「――あ~…、久しぶりに泣きまくったら喉乾いた!」
「久しぶりって、前も泣いてただろうが」
「うっさい黙れ!」
「うぼぉ!」
コイツ、ボディーブローかましてきやがった…!

「女性に涙をカミングアウトするのは、失礼なことだよ?京介くん」
相変わらずの微笑面で、そう言ってきた御鏡を睨む。
だけど、御鏡はそれに怯むことなくニコニコしていやがる。
慣れてきやがったな、コイツ…。

「ってわけで、今からファミレスでも行かない!?もちろんあんたの奢りで」
「ふざけんな!!俺よりも金持っているであろう御鏡に奢って貰いやがれ!!」
「…あんた、こういう時に『任せとけ!』ぐらい言えないの?だから甲斐性ないのよアンタ」
「ぐうぅぅ…!」
好き放題言いやがってこのアマァ!

「つか、ファミレスに行くのは賛成なんだけどよ…。そろそろ帰らねえと親父達に怒られるぞ?」
「…あ、もうこんな時間なんだ…残念」

俺も、少し残念だった。
こんなメンツで集まることなんて、二度とないだろうしな。

「まあ、また改めて遊びに行こうぜ、な?」
「うん、賛成」
「てめぇは誘わねえぞ」
「ここまで来て仲間外れかい!?京介くん!!」
「お前を仲間だとは認めない」
「酷い!」


とまぁ、今日はみんな帰ることになり、この奇妙な集まりはお開きとなった。
帰り用に御鏡が、自社の車を2台呼んでくれたのにはビビったね。

車には最初、俺と桐乃、御鏡とあやせで分かれて乗ろうと言っていたのだが、俺があやせの親に説明するためと無理矢理理由を付けて、俺とあやせ、桐乃と御鏡で分かれることにした。
桐乃は、納得いかないって顔をしていたけどな。

それに、御鏡はウチの親も知ってるから(親父は嫌ってるけど)、多分コイツが送っても問題ないだろう。

「私がいないからって、あやせになんかしたら、殺すから」
「しねえよ。とっとと乗りやがれ」
シッシッと手を払う仕種をする。
相変わらず不機嫌そうな桐乃は、やっと車に乗り込んだ。

「それじゃ、僕も」
「今日はありがとうな、御鏡。本当に、助かった」
コイツがいなかったら、何も出来ずに終わっていただろうと考えると、本当に感謝してもしたりなかった。


77:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:34:40.38 ZlRgjfA6


「――御鏡!」
「…ん?どうしたの?」
「あ、まあ、その…」

車に乗ろうとしていた御鏡に、俺は声をかけた。

「…今度ウチに遊びに来い。もう少し詳しく秋葉を紹介してやるよ」

そう言った俺を、御鏡は不思議そうな目で見ていた。

「…なんだよ?」
「あ、いや、その…」

「…いいの?」

その時、俺は何を思ったのか、とんでもないことを言ってしまった。

「友達、だからな」

「…ふふふ。うん、必ずお邪魔するよ」

それじゃ、と言った御鏡を乗せた車は、すぐに見えなくなった。

「んじゃ、俺達も行くか」

「…はい」

御鏡達を見送った後、俺とあやせも、車に乗り込んだ。




俺達を乗せた車は、途中まであやせの家を目指していたのだが…
「ここで停めてください」
と言ったあやせによって、途中下車することになってしまった。


送ってくれた車を見送って、俺はあやせに聞いた。

「なんで、途中で降りたんだ?あやせ」
「お兄さんとお話をしようと思いまして。――お兄さんも、私と一緒に来てくれたのは、同じ理由なんじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけど…。でも、別にあやせの家の前で話してもよかったんだぞ?」
「嫌です。家の前で大声だして親に見られたらどうするんですか?」
大声出す気はねえけどな。
まぁ、もう降りてしまった後だし、同じことか。

俺は、先を歩くあやせについて行った。







78:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:35:05.88 ZlRgjfA6
「ここって…」
「はい、お兄さんと私の思い出の場所です」

俺の家の近くにある、児童公園。
あやせの言う通り、考えたらいろいろあった場所なんだよな。

ここで、桐乃とあやせは仲直りした。
ここで、俺はあやせに犯罪者予備軍認定された。
ここで、俺はあやせに人生相談を受けた。
ここで、俺はあやせにハイキックをかまされた。
ここで、俺はあやせに防犯ブザーを鳴らされた。

…ろくな思い出ねえなオイ。

「お兄さん、どうしたんです?苦虫を噛み潰したような顔をしてますよ?」
「…なんでもない」
「そうですか?ならいいんですけど…」

そうして、俺はあやせが話し始めるのを待っていたのだが…

…桐乃といい、あやせといい、話があるって言った奴は、なんで話し出すまでに時間がかかるのかね?

それからしばらくして、やっと喋ったあやせは、こんなことを言ってきた。

「――お兄さん。私、待っているんですよ?」

「な、何を?」
「お兄さんの気持ちを、私に言ってくれることです」
「気持ち…?」
「はい。―私は、こういうのは、先に男の人に言って欲しいんです」
「…スマン、さっぱりわからん」
「もう…私はちゃんと行動で示したんですよ?だから、お兄さんも逃げないでちゃんと言ってください」
「行動って…あっ」

その時、この前のあやせとのデートで、あやせが俺にした口づけを思い出した。
行動っていうのが、このことだとしたら…

不意にあやせに目をやると、スカートを掴んでいるあやせの手が、少し震えているのがわかった。

――この娘は、平然を装って、精一杯の勇気を振り絞って、俺の答えを待っているのか。

ここで答えないなんてことをしたら、マジで嫌われてしまうかもしれないし、ちゃんと答えないとな。

…まあ、答えなんて最初から決まっているんだけど。

「あやせ」

あやせは、ビクッと全身を強張らせる。

「俺、お前のことが大好きなんだ。だから…」




「俺と、結婚してくれませんか?」


79:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:35:28.32 ZlRgjfA6

「嫌です」
「え?」
あれ?今、俺フラれた?

「あ、あやせ?どうして…?」
「なんでいきなり結婚なんですか!?順序飛ばしすぎです!!」
「ゆ、ゆくゆくはそうなるんだから、同じことだろ!?」
「全然違います!結婚する時は、改めてプロポーズするのが普通です!」
「そ…そうなの?」
「そうなんです!――ああもう!!お兄さんのせいで全部台なしじゃないですかぁ!!」
「お、俺のせいかよ!?」
「当たり前です!!もう…、今度はちゃんと言ってくださいね!?」
そう言って膨れる、あやせ(←可愛い)。

「えっと…、また言わないといけないの?」
「当たり前です!!」
「改めてってなると、なんか恥ずかしいんですけど」
「自業自得です!!私だって、聞くのは恥ずかしいんですから、おあいこですよ!?」
「そ、そうなの?」
「そうなんです!!」

――と、言うわけで、俺はもう一度あやせに告り直さないといけないという、羞恥プレイをする羽目になった。


「あやせ」
「…はい」
「俺、あやせのことが大好きなんだ。だから…」


「――俺と、付き合ってくれませんか?」


「――はい…!」

こうして、


俺とあやせは、晴れて恋人同士となった。


80:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:36:36.36 ZlRgjfA6


「…ふふ」

「…へへ」

不思議なもんだ。
あのあやせと、こうして恋人同士になるなんて、想像もしてなかったしな。

改めて、あやせを見る。
俺の彼女であり、最愛の人。
この娘が、俺がずっと一緒にいると、誓った娘なんだ。

間違いない。
俺は他の誰でもない、あやせを選んだんだ。

「…ん?」

あやせを見ていると、ある物が目に入った。

「あやせ、そのペンダントって…」
「これですか?――あの時、お兄さんから貰った物ですよ」
「ああ、やっぱり。使ってくれてんだ」
「もちろんです。お兄さんが始めてくれたプレゼントですから」
嬉しいことを言ってくれるものだ。

と、そこで俺はついでに、あやせに聞いておきたかったことを聞くことにした。

「…なあ、あやせ」
「なんですか?」
「あの時のデートって、結局なんだったんだ?」
前にも聞いたことなのだが、あの時は話題をすり替えられて、聞けなかったんだよな。

「あれは…、あの時の私にとっての、最後の我が儘のつもりだったんです」
「我が儘?」
「海外に行く前に、お兄さんの誤解を解いておきたかった…。それに、最後くらい、楽しい思い出を作っておきたかった。――だからあれは、お兄さんとの最初で最後のデートをしようと思った、私の我が儘だったんです。」
なるほど。
だから、あの時のあやせは、違和感を感じるほど素直だったのか…。

「あと、あやせ…」
一番聞いておきたいけど、一番聞きにくい質問をすることにした。

「あの時の…、キ、キスは?」
そう聞いたとたん、あやせの顔が真っ赤になった。
「あ、ああれはその…!―衝動に任せてしまったんです」
「衝動?」
「お兄さんが私に駆け寄って来てくれて、とても嬉しかったんです。――だけど、同じくらい、悲しくもなったんです。
だから――あのキスは、ありがとうって気持ちと、さようならって気持ちが入り混じったものだったんだと、…今は思います」

「そう、だったのか…」

あの時、もう少しちゃんとあのキスの意味を考えていれば、もう少し早く動けたかもしれないと思うと、あの時浮かれまくっていた俺を、殴りたくなった。

「…でも、それを含めた全てのおかげで、今こうしていられるのかもな」
「?何か言いましたか?」
「なんにもない」




81:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:37:11.41 ZlRgjfA6
――そう。

ここまで来るのに、いろんなことがあったけど、その全てがあったから、俺はこうしてあやせと繋がったんだと思う。
そう考えると、今まで起きた全てのことが、よかったって思えるんだよ。


「さて、名残惜しいけど、そろそろ帰ろうぜ。あやせ」
「はい…そうですね」
「そんな落ち込むなって。また会えるだろ?」
「…はい」
「それじゃあ、行こうぜ。送っていくからさ」
俺は公園の出口に向かって歩き出した。

「あ、ちょっといいですか?お兄さん」

「ん、なんだ?まだ何か」
喋りながらあやせの方を振り向くと、また言葉を遮られた。

今度はキスされたわけじゃないぞ?

抱き着かれたんだよ。
そりゃあもう、ドスン!ギュッて感じで。

「あやせ…?」


「…お兄さん」
「ん?なんだ?」
「…夢じゃありませんよね?――お兄さんは、傍にいてくれてますよね?」
――ああ、可愛いなぁもう!

あやせを、ギュッと抱きしめる。
「夢じゃないぜ。俺はここにいる

たとえ、見えない場所にいても、俺はお前の傍にいるから」

「…だから、お前も俺の傍にいてくれ、あやせ」
「はい…!」


――もしまた、あやせが苦しい思いをしていたら、

悲しい思いをしていたら、

何度でも言ってやろう。

「お前の傍に、いつもいる」と。


「お前を、いつでも助けてやる」と。

夢で終わらせねえよ。

俺は確かに、ここにいるんだから。


82:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:37:56.95 ZlRgjfA6


一生かけて、叶えてやるさ。

『桐乃と、お兄さんと、一緒にいたい』

そう望んだ、あやせの、願いを。









その後、あやせとの交際を知った桐乃と、黒猫を巻き込んだ一問着が起きるのだが、それはまた別の話。


***


――数ヶ月後、

俺は渋谷駅で電車を降りて、全力疾走していた。

改札を抜け、待ち合わせの場所に急ぐ。

「うおぉぉぉぉ!」

待ち合わせ場所が見えてきた。

そこにいる、一人の少女がこちらに気づいたのか、軽く手を振ってくれている。

近づいていくにつれ、段々とハッキリしていく、そのシルエットは…

間違いなく、俺の愛しの彼女―新垣あやせだ。

「すまん…ちょっと遅れた…」
呼吸を整えながら、あやせに話かける。

そんな俺に、
「許しません」
と、あやせは笑顔で死刑宣告をした。

「ど…どうすればいいでしょうか?」

「うーん、そうですね…」
少し考えている仕種をして、あやせはすぐに、思いついたように言った。

「お兄さん、少し目を閉じてくれますか?」
「え…?」
辺りをキョロキョロ見渡して、あやせに確認する。
「…ここで?」
「はい」
ニッコリと笑っているあやせは本気だ。

「―わかった…」


83:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:38:14.81 ZlRgjfA6
覚悟を決めて、目をつむる。
なんでもこいやオラ!



「…お兄さん」

「ん?――んん…!?」

あやせの優しい声がして、頬に手を当てられた。そして…




「っへ、いはひいはひあやへいはひ!」



頬を、つねってきた。


パッと離してくれたが、まだズキズキとしている。

「な、なにすんだあやせ!!」
すっげー痛かったぞこんにゃろう!!

「ははは、あははははは…!」

「あ、あやせ…?」

見たこともない、あやせの大笑いに、驚いてしまう。

「ははは…―お兄さん」
「な…なんだ?」
「私、今とっても幸せです」

そう言って、ニッコリと笑ったあやせは、今まで見てきたどんな笑顔も霞むぐらい、可愛かった。

「これからもずっと、――いえ、一生、幸せでいさせてくれますか?」

そう聞いてきたあやせに、ごく当たり前のように俺は答えた。
「もちろんだ」

この時、俺は思ったね。


俺は、最高に幸せだってな。






Fin.



84:ADRY
11/05/31 19:41:42.17 ZlRgjfA6
以上です。

最後は何度も迷走して、4,5回書き直しました。

この終わり方が、納得のいくものとは言えませんが、
よかったと思っていただけたら幸いです。

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

85:名無しさん@ピンキー
11/05/31 19:57:49.05 AECohgmE
京介が京介らしくて、すげー良かった
御鏡との絡みが読んでて楽しかった
オチは無難だけど、もっとはっちゃけた終わり方が見たかった

86:名無しさん@ピンキー
11/05/31 20:05:08.18 46fLCyVn
すごく自然に読めた
京介のらしさも、あやせの思いもしっかり伝わってよかった
8巻から思ってたことではあるけど御鏡と京介の絡みは面白いなw
GJでした

87:名無しさん@ピンキー
11/05/31 20:59:51.91 vxMEAN4J
乙!

最近は長編が増えるねえ

88:名無しさん@ピンキー
11/05/31 21:02:57.63 ZsYQ0Lv+
乙です!
あやせも桐乃も御鏡も可愛いなw
BLは好きじゃないが野郎同士の会話も良かったです
次も楽しみにしてます

89:名無しさん@ピンキー
11/05/31 22:05:28.33 GhWCcKne
乙です
9巻に載る事になっていると言われればそのまま信じてしまいそうなクオリティでした。

誤字なんですが、ペンダントのとこで
「初めて」が「始めて」になってました

90:名無しさん@ピンキー
11/06/01 01:53:14.72 8D2rEGFD
>>84
GJ!
読後の満足感がすごいよ


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