ファルコムでエロ小説PartⅦat EROPARO
ファルコムでエロ小説PartⅦ - 暇つぶし2ch100:名無しさん@ピンキー
11/05/09 23:51:53.82 1V21ERzO
ご無沙汰しています。
ずいぶんと長く間を空けてしまい申し訳ありません。
またよろしくしてあげてください。

101:名無しさん@ピンキー
11/05/09 23:59:44.20 NzGu257X
待ってて良かった……GJ!
支援課メンツがギスギスしてきているのは
睡眠不足だけじゃなさそう……と思うのは気のせいか?

続き、楽しみにしてますー!

102:名無しさん@ピンキー
11/05/10 01:50:49.65 ePt39lXk
やべーおもしれー
ロイドが夜中にいなくなる理由なんて一つしかねーじゃんw

103:名無しさん@ピンキー
11/05/10 02:27:13.96 eDzFQBtA
ハァハァ…早く続きを!

104:名無しさん@ピンキー
11/05/10 07:51:04.48 w31HzJuw
全裸で待った甲斐があったぜヤッホゥ!

105:名無しさん@ピンキー
11/05/10 09:37:29.52 tE9FmrsS
>>108
ご無事で何よりです。
続きを楽しみにしています。

追い込まれるエリィさんとその反動で幸せなエリィさんに期待

106:名無しさん@ピンキー
11/05/10 11:53:49.95 W/3Ftve7
仲良し特務支援課がギスギスしてるのは見ててつらいのう
でもロイドさんなら素敵なカタルシスを見せてくれるってあたい信じてる!

107:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:22:21.47 DrQ5Hyhe
***

クロスベル警察の会議室には、冷めたコーヒーが二つ並び、椅子に座ったままのけぞるドノバンと、机につっぷしたままいびきを立てるその部下レイモンドが、つかのまの休息をとっていた。

「ったく、こういう肝心なときに一課の連中ときたら、そろいもそろって共和国の観光とはいい気なもんだぜ。」

ドノバンがぼやきながら身体を起こし、たばこをくわえる。

「ん。ん。ん!クソッたれ、安物はすぐこうだ。おい、レイモンド。起きろ。休憩時間終わるぞ。」
「ううーん、あと五分…。」

彼はレイモンドの肩をゆすりながら、鳴った携帯通信機を取り出し応じた。

「はいよ、こちら二課のドノバン…なんだお前か。どうした。ああ。おう。
最近その噂しか聞かねえからな…何?本気かおい、ちょっとまて!くそ、切りやがった。」
「おおお、ゆれる、世界がゆれる…」
「いつまで寝ぼけてんだ、さっさと起きろ!」

椅子を蹴り飛ばされ、レイモンドが跳ね起きる。
しぼんだ目をこすり、だらしなく口を開ける彼に呆れながら、再びドノバンがたばこをくわえた。

「なんか、誰かと話してましたか。ドノバンさん。」
「ああ、セルゲイとな。話すだけ話してさっさと切りやがった。」

ドノバンが何度もライターを鳴らす。空の女神が彫ってあるそれは、血管が硬く浮き出た拳の中、火花だけをむなしく散らした。

「セルゲイさんかー。そういえば言ってましたね。ライターが言うこと聞かない時は、オイル切れ疑う前に、自分の頭冷やせって。」
「ああ?俺が焦れてるってのかよ…。今回の事件といい、あの野郎どういうつもりなんだ。」

とうとう火をあきらめ、ドノバンがたたばこを噛み締め、席を立った。

「いくぞレイモンド。逮捕令状の申請せにゃならん。」
「犯人見つかったんですか?」
「頭にくるぜ、噂に食いつくだけなら、なんのための警察なんだよ。」
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!」

二人が上着を手に取り、部屋を出て行く。
廊下を足早にあるくドノバンに、レイモンドは様々に問いかけるが、彼は黙ったままエレベーターの前まで足を運び、止まった。
扉を開けると、レイモンドに向き直る。

「お前は先に出て車を用意しとけ。すぐに出れるようにな。」
「解かりました。あ、でも俺の車今フロントこすられて不細工になってるから、ドノバンさんの車借りたいなあなんてって、ドノバンさん?」

エレベーターの扉が閉まる音とともに、既にドノバンの姿は無い。

「はあ…修理さっさと出しておくんだったなあ。」

受付のレベッカに投げキッスをするも無視され、しかしそれも気にする風もなく肩をすくめると、彼は駐車場へと足を運んだ。
自分の車の正面に立ち、腕を組んで眺める。

「女の子の知り合いに見られなきゃいいんだけどね。」

ほどなく、本署からドノバンが令状を手に出て来ると、正面に止まっていた車のライトが点滅した。
乱暴にドアを開け、身体を放り込むように彼が乗り込むと、車が大きく傾ぐ。

「ドノバンさんもうちょっと優しく乗ってあげてくださいよ。ただでさえ『彼女』、不機嫌なんですから。」
「悪いが俺は上に乗せるほうが好きでな。東通りに行け。」
「はいよ。」

108:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:23:01.72 DrQ5Hyhe
ぬける通り全てに、警官がたむろしており、こちらの姿をみると敬礼を送ってきた。
ハンドルを操作しながら、ドノバンの広げる令状を、レイモンドが細かく横目を送る。
大きく綴られた名前が目についた。

「へ?ロイド・バニングス?」
「馬鹿野郎、前みて運転しろ。ほれ、そこにつけろ、降りるぞ。」

車を降り、旧市街に向かうドノバンを追う途中も、レイモンドは信じられないといった表情で何度も額に手をあてていた。
鉄橋を渡り、広場を抜けると、ナインヴァリの前にセルゲイが立っている。

「おう、来たか。」
「ああ。やっこさんは?」

顎で示され、店内に入る。
小さな窓から差す光に塵がきらめき、うなる換気扇の影がはためいた。寿命の近い電灯のせいで薄暗い室内に、淀んだ空気が蔓延している。
そんな中、特務支援課のメンバーは向く方向も様々にたむろしていた。

「お役目ご苦労様です。」
「ロイド…。」

不安そうなエリィの視線を浴びながら、椅子に力なく座っていたロイドが、表から入ってきたドノバン達を見て立ち上がり、敬礼する。
奥で壁と対面していたランディが、砂を噛んだような横顔を見せた。

「敬礼してくる相手に仕事するってのも変な気分だな。」
「…。」
「罪状は窃盗、器物破損、傷害…およびテロ未遂、か。話じゃ爆弾を盗んだらしいな。」
「爆弾!?」

レイモンドが素っ頓狂な声を上げる。
びくりと、エリィに背中を支えられたアロネが肩をすくめた。うつむいた顔はすっかり青ざめている。

「な、なんだってそんなものを?いや、まだキミだって決まったわけじゃ無いけど。」
「なあロイド、本当にお前なのか?俺はどうも腑に…。」
「さっさと連れて行け。」

ドアの脇に背を預けたセルゲイが促した。

「いつからうちの署は現地取調べの形式になったんだ。仕事は素早く、だろう。」
「ああ。そうだな。」

すでにドノバンは逮捕状を受け取る際、副所長から詳細は聞かされていた。その際、キツネの機嫌が良かったのも気のせいではなかっただろう。
彼は大きく肩で息をつき、ロイドの肩を叩くと、レイモンドがおそるおそる出した手錠を、目で制した。

「こいつにはそんなもん要らんだろう。車に乗せろ。」

ロイドが出口をくぐる。一瞥もくれずに、セルゲイはたばこを咥えた。
ドノバンは深く息を吐くと、頭を掻いた。

「冷淡なもんだな。それも班長としての心得の一つってわけか。」
「何がだ。」
「部下パクって何がだは無いだろう。」
「フ…別れを惜しむ女のようにむせび泣いたほうが良かったか?」

109:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:23:28.46 DrQ5Hyhe
アロネが面をあげ、きっとセルゲイを睨む。

「あんまりではありませんこと?」
「ん?」
「わたくしあなたの事を誤解していました。素っ気無いそぶりの中に、部下思いの一面を垣間見たのは、幻覚だったようですわね!皆様もよ。仲間なのではなくて?」

彼女はランディ、ティオに視線を移した。

「俺もあいつがガキを殴るとは思えねえが…何か隠してるのは確かだ。信用はできねえ。」
「私情は挟めません。」
「そんな…。」

奥から咳払いが聞こえる。暗がりに灯る赤い点を中心に、顔の輪郭が浮かび上がった。店主のアシュリーだ。

「アタシとしても腑に落ちないね。」
「アシュリーさん…。」
「あの坊やが本気でこんなことするとでも思ってるのかい?モノも出てない、裏も取れてない。ずいぶんと手際が良すぎるじゃないか。」
「変わりもんだな。娘を殴った相手の肩を持つのか?」
「この商売はね、剣で肉を切られたときの痛みも、銃で撃たれる熱さもしっとかないとダメなんだよ。
あの子にとっては良い勉強になったろうよ。」

白黒きっちりつけな。彼女の瞳が語っていた。セルゲイは片方の口角を吊り上げ、低く笑う。

「血は争えんな。逮捕されて尚、ここまで女に心配されれば、あいつも本望だろう。火あるか?」

セルゲイが内ポケットをまさぐりながらたずねる。
ドノバンは自分のガスライターを差し出したが、納得の行かない表情もそのままに吐き出す。

「安モンだ。付きが悪い。」

その言葉が終わらないうちに、セルゲイの手の中で一度だけ鳴り、ライターは火を噴いた。
タバコに移し、彼は深く煙を吸い込む。

「仲が悪いようだな。安モンなら貰っても構わんだろう。」

そういい残し、店を後にする。外で様子を覗いていたレイモンドが飛びのいて道をあけると、表に出たドノバンもその後姿を見送った。

「さすがに動揺を隠すのが上手いっすねー。まったく落ち着いてるように見えますよ。」
「いや…。冷静すぎる。」
「へ?」

ドノバンは早々に車に乗り込む。
頭に疑問符を浮かべながら、レイモンドは何度もセルゲイに向き直りながら、後に続いた。

「出せ。」

何か言おうとした彼を制するように、ドノバンは告げた。
エンジンが鳴り、景色が動き出す。ロイドは後部座席の左側に体を預け、窓の外を見ていた。
バックミラーの向こう、ナインヴァリの外に、アロネとエリィの姿を捉える。

沈黙が時間を泥に浸し、車は本部へと向かっていく。
静かに冷たい風が吹く、旧市街を残して。

110:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:24:01.36 DrQ5Hyhe
***

「ロイド・バニングス逮捕。」

号外は風に乗り、噂は、動揺、悲嘆、裏切りへの罵倒、あるいは犯人の擁護へと姿を変え街を伝播する。
英雄の住処は、家宅捜索の現場へと姿を変え、多くの捜査官がたむろしていた。

「支援課のメンバーも薄情なもんだな。こんなときに犬の散歩とは。」
「女性二人はどうした?」
「ああ。三階の部屋にいる。」

捜査官同士の会話は、どこか緊張感が欠いている。
クロスベルの警察は、人員不足、そして立て続けの窃盗事件の捜査により、重いスケジュールをこなしてきていた。
それは彼らの、捜査のプロフェッショナルとして、最も重要なものにダメージを与えている。
セルゲイも例外ではない。そのはずだった。

「キーア。」

キーアはソファーに小さく足をたたみ腰掛けていた。セルゲイの声に顔をあげる。

「かちょー、ロイドは?」
「本部に“務めてる”さ。妙な形だが、ヤツの願いは叶ったな。」
「…。」
「フフ、お前もたいしたもんだな。落ち着いている。」
「だって。」

キーアは丸い瞳をぱちりと瞬かせ、セルゲイを見つめる。

「かちょー、いつもどおりだもん。」

「ほんと。まるで何事も無い日常のような振る舞い。信じられませんわ!」

アロネがつぶやく。エリィは手にした銃を丁寧に磨いている。
セルゲイとキーアのやりとりの少し前の事、彼女達は様々な思惑の行きかう街、そしてお互いの懐疑の念から逃れるようにして、エリィの部屋に待機していた。

「ほんとにもう。エリィさん、何とかなりませんの?」
「大丈夫よ、アロネさん。」

手入れを済ませ、エリィは銃を収めた。

「彼なら大丈夫。ロイドなら。」
「…そうね。そうですわ。」

エリィとアロネは、互いの感情を代行し、昇華していた。エリィの慰めはアロネの言葉でもあり、アロネの憤慨はエリィの動揺でもあった。
何がそこまでの同調をもたらしたのかは、語るまでも無い。

「エリィさんは、いつからロイド様の事を?」

エリィの隣に腰掛け、アロネは問いかける。

「その前に、アロネさん。貴女は自分の言葉に責任をもつべきだわ。」
「わたくしの言葉?」
「呼び方、よ。私も貴女の事、気さくに呼びたい。」

あ、と言葉には出さず、アロネは小さく笑うと、言葉を改めた。

「聞かせて、エリィ。」

エリィは微笑み、答えた。

111:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:24:30.59 DrQ5Hyhe
「解からないの。」
「え?」
「不思議だけど、私自身、その瞬間も、変化の過程も、これといって無いのよ。自覚したのはつい最近なのかもしれないけど。
知り合ってから、まだそんなに経ってないのに、そのずっと前から、彼のことが好きだった錯角に陥るの。」

恋に恋をする人間は、遥か遠くを見つめるという。恋人の向こうにいる、華々しい世界にいる自分を見るのだ。
しかしエリィの焦点は、机の上におかれたイヤリングに、しっかりと合っていた。
彼女はその一つを手にとり、慈しむ。

「もしかしたら、貴女の真っ直ぐな気持ちを見たから、純粋な気持ちを取り出せたのかもしれない。」
「私の、気持ち?」
「変な話だけど、ちょっぴり感動しちゃった。貴女みたいな素敵な人に、ロイドが好かれているって事に。」

窓から差す夕日が、エリィの背中を照らした。アロネはその眩しさに目を細める
胸を貫く感情は不安からくるものではなく、むしろすがすがしいものだった。

「私も…。」
「ん?」
「いいえ、ありがとうですわ。話してくれて。」

一年前の青年は、アロネにとってまさに英雄だった。その回想が走馬灯のようによぎる。
彼女を現実に戻したのは、乾いたノックの音だった。

「はーい。どなた?」
「郵便です。エリィさんに直接お渡しするようにと。」
「こんなときに、誰からかしら。」

彼女が扉をあけると、配達員が帽子のつばに手をかけ、お辞儀をする。
手には、首からかけられたサポーターに支えられた箱を抱えていた。

「ハンコをお願いできますか?」
「えっと、差出人は誰かしら?」
「ロイド・バニングス様です。」

アロネが思わず顔を上げる。エリィが一瞬気を取られた瞬間、彼女は腕を背中に廻され、その首に果物ナイフを突き当てられていた。

「すいませんね。うら若き乙女の談笑をお邪魔しまして。」
「エリィ!」
「暴れ、騒ぎ立てれば…解かりますね?」

ナイフがきらめく。アロネはすくむ足で立つのがやっとだった。

「な、何者なの…。どうやってここ…まで。」
「お洒落をしてきたんです。その手にかけた銃でどうするというんです?妙な真似をしないほうがいいですよ。
私のもってきた荷物に引火でもしたら、この建物が花火にはや代わりです。」

銃を握るエリィの手が止まる。

「私が何者なのかは、式場で発表しましょう。差出人が来てからね。それまでに準備をしないといけません。
そこのお嬢さん、いえ、アロネお嬢様。エリィさんをガムテープで縛ってください。」
「やっぱり…やっぱり貴方は。」

配達員の顔が、帽子の下から現れる。歯を見せ笑う彼は、部屋を見渡した。
右側面を見るときだけ、同位置の眼球の動きがほんの一瞬遅れる。

「お二人は大事な来賓です。傷つけはしませんよ。全てはあの男次第です。これは式の、お祝いの品として頂きましょう。」

男はエリィの腰の銃に手をかけた。
彼女はとっさに背の部分を掴み抵抗したが、首の締め付けを強められ、奪取されてしまう。

112:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:24:58.88 DrQ5Hyhe
「うぅ…。」
「さあ、急いでくださいアロネお嬢様。」
「エリィ…。」
「アロ…ネ…言うとおりに…して…」
「で、でも…」

ナイフが傾き、肉を撫でた。アロネは唇を噛み、ガムテープを手に取る。

(私に出来るのはここまで…ロイド、信じてるから。)

エリィの瞳の一等星は、輝きを失っていなかった。

そしてその輝きは、ソファからセルゲイを見つめるキーアの瞳にもあった。

「信じているのか。」
「うん。」

小さく、幼い彼女の、強い決心だった。セルゲイはキーアの頭を撫で、部屋を見渡す。
その時、彼の捜査官としての勘が、不自然な点を鮮明に掴んでいた。

「おい、お前。その制服は備品だな。」
「ええ。良く分かりましたね。」
「綺麗すぎる。丁寧にアイロンかける几帳面さは俺達には無いからな。」
「先日まではあったんですが、今朝の召集のとき無くなってたんですよ。おおかた誰かが間違えて持ってったと思ってたんですが。」

セルゲイは拳銃に手をかけ、階段を勢い良く駆け上がっていった。途中すれ違う捜査官を押しのけ、三階に登りきると、男は居た。

「どうも。郵便物を届けにあがったもので…」
「そいつらを放せ。逃げ場はないぞ。」

男はテープで縛り上げたエリィを前に立たせ、その背中に銃口を突きつけていた。
そしてアロネを抱え、やはりその首にナイフを突きつけている。
セルゲイが引き金に指をかけた。
彼の大声を聞きつけ、捜査官が三階へ登ってくる。

「貴方達が探しているものは、これですか?」

男は首からさげた箱に手をあてる。セルゲイは銃を構えたまま歯軋りした。

「ロイド・バニングスを呼んで来れ。早いほうが良い。あとの人間は全てこの建物を出払ってもらおう。私は式場で待っているよ。」

男は屋上へと進んでいく。
銃口を向けたまま、セルゲイは無線を手に取った。

***

ロイドは手の中の、警察バッジの深い傷を見つめた。

―チェック。俺の勝ちだな。

チェスの勝負は何度やっても勝てなかった。ある日その理由を問う。

―お前は攻めと守りのバランスが良い。速攻も得意だ。でも局面において相手の状況を見ていない。勝ちたければ俺を理解しろ。

キングを手の中で転がし、「彼」は続けた。

―どんな時でもそうだ。相手を理解しろ。想像じゃない。相手に関する情報全てから、理解し、予測して動け。そのために相手と立場を同じくするのもいい。

「これはちょっと洒落にならないかな、兄貴?」

113:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:25:22.75 DrQ5Hyhe
留置所にけたたましい足音が響く。ロイドが顔をあげると、フランが息を切らせていた。

「ろ、ロイドさん!」

悲鳴に似た声に、彼はバッジをポケットに納める。
特務支援課周辺は厳重体制が敷かれ、導力車がひしめき、何人もの警察が配備されていた。
さらに動力車が追加され、助手席から飛び出した青年は、彼らの間を縫うように駆けた。

「課長!」
「ロイド、屋上だ!」

お互いを見つけるや否や、二人は叫んだ。
セルゲイがトンファーを放り投げる。ロイドはそれを両手で受け、ビルへ突入した。

「狙撃手、どうだ。…そうか。引き続き待機しろ。」
「ど、どうですか?」
「だめだ。人質の影に隠れていて狙えんそうだ。犯人はこの周辺の地形を調べ尽くしている。」

ドノバンが無線をしまい、舌打ちをした。

「ロイド…。」

しがみつくキーアを、セルゲイがもう一度撫でる。
龍のように階段を登り、屋上に飛び出したとき、ロイドを迎えたのは遮りのない星空だった。
そして手すりの側に、三人の姿はあった。

「よーうこそ晴れの式場へ!歓迎するよ、君ももちろん祝福してくれるよねぇ!」

ロイドは瞬時に構え、状況を把握した。
アロネを正面に構え、手にはナイフ。そして足元には口も塞がれたエリィが横たえられ、その頭に向けて彼女の銃が照準を合わせられている。

「どうだった、牢獄の生活は!会話の相手は狂人か、亡霊しか居ない。そうだろう。僕は友と引き裂かれ、孤独だったよ。得たものは屈辱だけだ!」
「やはり連続の窃盗の犯人は、あんただったんだな。」
「そうだ。とても楽だったよ。君の姿になれば、誰もが僕を信用した。雰囲気さえ似せればろくに顔も見られなかったよ。そしてそれは同時に、僕の怒りを増幅させた。」
「これは、復讐なのか。俺に対する。」
「そうだ。全ては、復讐だ!何もかもそっくりそのまま返す!君に殺された親友の為にね!」

男は、すでに演技も変装も引き剥がし、その本質を剥き出しにしていた。

「殺した?何の事だ。あんたの親友なんか知らないぞ。」
「しらばっくれるなぁ!君の手で獄中におちた私を、彼は身を挺して助けてくれたんだぞ。その命と引き換えに、愛する彼女を…マニーニを残して!」
「身を挺して?」

ロイドはアロネの話を思い出す。あの時、彼は確かに失っていたものがひとつだけあった。

「まさか…。」
「僕は誓った。必ずや復讐を遂げると。そしてその瞬間、僕は彼女と一つとなり、生涯守り抜くのだよ!」

男は、鼻腔から激しく息を吐き出しながら、荒波だつ呼吸を整えた。

「僕はね、僕は今まで人を殺したことなんて一度もないんだよ。ロイド。わかるかい?高尚なんだよ。それを君は踏みにじった。」
「爆弾を作る身にありながら、そんなことを良く言えるな。」
「しかし事実だよ。僕は組み立てただけだ。スイッチを押したのはどれも僕じゃない。だから、今回も僕の仕業じゃない。君だ。君が招いた状況なんだよ?」

114:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:25:52.18 DrQ5Hyhe
おもむろに彼は、首からさげていた箱をつかみ、投げ捨てた。アロネが目を硬く閉じる。
箱は軽い音を立て、転がり、蓋と分かれた。

「クフ、クフフ、クフゥーン。自分の才能が怖いよ。空箱すらも爆弾にしてしまう。」

男はぎょろりと右目を剥いた。

「あの爆弾はある場所に設置してある。僕に何かあれば、即座に爆発する仕掛けだ。上司にも伝えた方が良いんじゃないか!」
「く…。二人を放せ。お前の狙いは俺だろう!」
「条件は一つだ。君の、死!飛び降りろロイド。そこからビルの下にむかってだ!」
「そんな!正気じゃ…ありませんわ、逆恨みではありませんの!」
「クフフフゥ!お嬢様はロイド様を愛しているのでしたな。そしてこの女も。良い、良い良い良い!尚良い!」

ロイドはゆっくりと構えを解いた。

「約束するんだ。俺が落ちたら、二人を解放すると。」
「クフフ、僕には高尚な理念がある。約束するよ。」

エリィは身をよじり、必死に首を振った。

「だめ、だめですわロイド様!こんな男の言い成りになっては!」
「わめくな!さあ、落ちろ!」

ロイドがゆっくりと後ずさる。男の笑い声は最高潮を迎えた。

「そうだ、失え。全てを失え。友を、名誉を。そして命をぉ!」

「誰が、何を失ったって?」

星空に声がこだまする。ロイドは足を止めた。
男が地上に目をやると、赤毛の男が手すりに腰掛けている。

「お前のシナリオじゃ、俺が爆発する役ってトコだな。ま、ゴメンだがよ。」
「ランディさん…!」
「ああー、そうか。君も私達を祝福しにきてくれたんだね。」
「おう。お祝いの品も持参したぜ?」

ランディが足元の包みを広げた。

「じゃーん。これなーんだ。」
「な…!」

それはバラバラにされた発火装置と、ナインヴァリから盗み出された爆薬だった。

「馬鹿な。僕以外、カバーすら外せないはずだ!」
「わるいねー。俺のガキの頃の玩具、積み木のかわりにずっとコレだったもんで。つい。」
「く、ど、どうやって。この広範囲を、この短時間で…。」
「ウチの課は、優秀な耳と鼻もそろってるんだな、これが。」
「部位で紹介しないで下さい。」

ティオとツァイトが、ランディの傍らに姿を現す。

「さすがにこの街全域は無理だったろうけども、どうやらお前の復讐相手はぜーんぶお見通しだったみたいだぜ。」
「何ぃ?!」

目を見開き、男はロイドを睨んだ。

115:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:42:14.24 DrQ5Hyhe
「不審火の処理が終わって、警備が手薄になっていた。事件の起きたところに、再び何かあるとは思わないからな。
それにあんたはパスキューブ家に対するそれのように、貴族や議員といった身分に対しコンプレックスと恨みがある。
隣に共和国議員の邸宅があるのも合わせて、他に候補が思い当たらなかったんだ。」
「ぐ、ぐぐう…。嘘だ、君たちは、確かにバラバラに…。」
「バラバラだろうとぐにゃぐにゃだろうとなんでもなるぜ。リーダーの命令ならよ。」
「チームワークが売りですので…。」

男の歯が軋む。

「言っただろう、全部お見通しだってな。盗聴してたことも、覗き見してたことも、マッチでキャンプファイヤーしたのも、配達員に化けてちょくちょく来ては、様子見にきてたのもな。
だから一芝居うったのさ。」
「それを手帳越しにお願いされるとは思いませんでしたけどね。」
「くそっ、あの時の、あの時のか…!」

男の腕の中、アロネが微笑み、ため息をもらした。

「ああ、あああく、くふ、クフフ…。」
「もう逃げ道はないぞ。人質を解放しろ!」
「フフ…ああ、ウフフ…マニーニ、ごめんよ。僕は高尚な、ヒトではいられないよ。」

不気味に男が笑う。ロイドはトンファーをゆっくりと構えた。

「狙撃班!なんとかポイントは定まらないのか!クソッ!」
「ティオすけ、ここからあの二人に絶対障壁、届くか?」
「ダメです。攻撃魔法も、詠唱が終わる前に感づかれます。」
「ちっ、隙を窺うしかねえな。」

男がゆっくりと、ナイフをアロネの首に押し付ける。彼女の緩んだ表情が、再び恐怖に染まった。

「もう、もう僕は獣になるしかない。君の恋人のために。」

男は銃を握り、引き金に指をかけた。エリィがその顔を睨む。

「クフフ、君も素晴らしい女性だ。マニーニには劣るけれども、恋人想いだ。解かってるよ。さっき銃を取るとき、こっそり安全装置をセットしていたね?」

エリィが顔を背ける。装置を外し、男の口がにやりと歪んだ。

「やめろ、銃をおろせ!」
「ロイドォ、最近の新聞を読んだよ!君は稲妻の様に素早く動けるそうじゃないか。でもね、二人だ。
同時に二人守ることは無理だろう!さあ選べ!君の手で救う側、そして殺す側を選べ!」

狂気を孕んだ雄たけびがあがる。ロイドは、エリィを見た。
ウィンクが返ってくる。
ロイドはトンファーを回転させた。

「マニーニの為にいいいい!」

ナイフが高々と振りかぶられる。アロネが目を硬く瞑った。
ごうと風を切り、トンファーが飛翔した。ナイフが宙に舞う。

「クフゥーンヤハハハハハハハ!僕が!君の『初めて』の相手だァ!」

引き金が強く引かれた。

「ブチ込んであげるよォォォ!」

強く、強く引き金は引かれた。しかし銃は沈黙している。

116:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:43:09.61 DrQ5Hyhe
「オォォ…あ、あれ?」
「はああ!」

咆哮と共にロイドの全身を巡る血が泡立ち、その体は瞬きの間に男に肉薄する。
同時にエリィが縛られたままでねじり立ち、半身を回転させた。

「マニッ…!」

ロイドのエルボーと、エリィのハイキック。みぞおちと後頭部に流れ星の衝突を受け、鈍い音を立てる。

「…ィ…ニ…!」

ぐらりと崩れ落ち、男はその場に倒れる。
ランディがビルの扉を開き、飛び込む。ティオ、ツァイトも続いた。

「確保だ!」

ドノバンの号令とともに、一斉にビルに捜査官が突入した。
尻餅をついたエリィの拘束を、ロイドが手早く解く。

「ありがとうロイド。前はロープで、今回はテープ。次は鎖かしら?」

ロイドは苦笑し、アロネの側に駆け寄った。エリィは立ち上がり、男の側に落ちていた銃を拾う。

(私の銃の安全装置は、二つあるの。ごめんなさいね。)

撃鉄に挟まったイヤリングが、鈍く星空を映す。

(それに私の初めては、全部…。)

「ロイド様!」

アロネが悲鳴をあげる。エリィもその側に駆け寄り、しゃがみこんだ。顔色が悪く、脂汗を大量にかいている。
例の反動が現れていた。

「ロイド!」
「アロ…ネ…アロネは…?怪我は…?」
「大丈夫です。かすり傷一つありませんわ!」
「そう…か。よかっ…。」

ロイドは深く頭を垂れた。くずれかけるロイドの身体を、エリィがしっかり抱きとめる。

「ロ、ロイド様!?」
「大丈夫、脈もあるし、呼吸もしっかりしてるわ。気絶しただけよ。」
「良かった、無事ですのね…。」

アロネは目じりの涙を拭った。エリィも安堵し、向かい合わせるように抱きしめたその背をさすった。

117:共に歩みぬく意志
11/05/11 00:43:41.79 DrQ5Hyhe
「お嬢!」

屋上に到着するなり、ランディが叫んだ。後ろだ!の声は彼女には聞こえなかった。
振り向くと、浮いたナイフが徐々に大きく膨れ上がっている。
研ぎ澄まされた刃が横に白の線を引き、それがこちらに飛んでくるのだと理解する前に、目の前を影が横切る。

肉を貫くがした。

「お嬢ーー!」

アロネが悲鳴をあげる。鮮血が地面に飛び散った。
エリィの鼻先にナイフの先端がピタリととまり、その刃を伝うのは、貫かれたロイドの掌からあふれ出たものだった。
紅に染まり、彼の腕が落ちる。

「マ…ニー…。」

その向こう側で、渾身の力を出し切った男が、倒れ伏す。

「ロイド!」
「ロイド様!」

ランディが、捜査官達が、男の所へ走っていく。
幾人もの足音の中、ロイドはエリィ、アロネの呼び掛けに、覗き込んだティオとキーアに、静かな寝息で返事をしていた。

118:名無しさん@ピンキー
11/05/11 00:44:31.62 DrQ5Hyhe
以上です。

これまでの作品、Kメンテさんだけではなく、複数の方のものだったのですね。
数多くの方が零の文を書いてくださってとっても俺得です。
どの方のも、新作期待しています。

119:名無しさん@ピンキー
11/05/11 08:57:57.27 B2ZPwNvS
バラバラも一芝居だったとは…
演技してる時絶対腹の中で笑ってたろ。

そしてロイドが心配

120:名無しさん@ピンキー
11/05/11 09:34:30.71 wfNO8K3g
俺は逆に「これ絶対演技だろ」って思ってた。手帳で指示してたのには気がつかなかったけど。


そしてまさかのイヤリングの伏線、お見事GJ。続きも楽しみにしてますー。

121:名無しさん@ピンキー
11/05/26 03:07:08.83 YUQn7BB5


122:名無しさん@ピンキー
11/06/02 00:43:23.13 ZBFW7IM8
>>126の続きを全力で楽しみにしつつ
ランティオSS投下ー。

123:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・1】
11/06/02 00:44:24.86 ZBFW7IM8


 魔都と呼ばれるクロスベルにも眠る時間はやってくる。
 夜も深まり、窓の外で街路灯が明滅する様子はまるで人々の寝息のよう。
(……もう少ししたら、月明かりも肴に出来そうだな)
 鼠色のパジャマに身を包み、自室のベッドで片膝たてて座って酒を飲んでいたランディは、月光が
窓の上部を染め始めたのを見た後、壁を越えた向こう側にあるロイドの部屋へ意識を向けた。
 普通にしていれば静寂。だけど、猟兵として鍛えてきた感覚を研ぎ澄ませば、ロイドとエリィが愛
し合っている声と気配が微かに聞こえてきた。
「……」
 唇を微かに綻ばせると、ランディはグラスを傾ける。
 盗み聞きなど良い趣味ではないと解っているし、壁一枚隔てた向こうで恋人が愛し合っているのを
聞きながら一人で酒を飲む状況ってどうよ? と自分に突っ込みたくなるが、それでも、ロイドとエ
リィが愛し合う気配を聞きながら酒を傾けるこの時間がランディは妙に好きだった。
(ま、無いものねだりなんだろーなぁ)
 誰かに望まれた訳でもなく、ましてや殺し合いに嫌気がさした訳でもないのに、あの場所から逃げ
出してきた自分には、今ロイドの部屋で起きている事など……誰かを強く愛して愛される事など、決
して得られない。こうして壁の向こう側からこっそり盗み聞きする位しか近づけない。
「……」
 喉の奥が急に辛くなって、ランディが表情を少し歪める。が、諦めた風に笑ってため息つくと、再
びグラスの酒をあおった。
 やがて、グラスの酒が無くなった頃。波が引いていくように、壁を隔てた向こうの気配が―愛し
合う声と物音が収まっていく。
「おー、今日も元気にヤったな、せいしょーねんっ」
 ランディが陽気な声を出して笑うと、壁の向こうへ向かって空のグラスを軽く揺らす。酒も氷も無
くなったグラスに部屋の明かりが入って、砂粒のような煌めきを散らした。
(……さて、今の内に下から氷とツマミを持ってくるか)
 ランディはベッドから降り、グラスをテーブルに置くと、部屋を出た。
 ひんやりした夜の空気が、酒で火照っていた身体を冷やす。
 さっさと戻ってこようとランディが少し大きめに足を踏み出した途端、階段前のスペースにパジャ
マ姿のティオがみっしぃのぬいぐるみを抱えて座り込んでいるのを見つけた。
「―!?」
 酔いが吹っ飛ぶ程驚くランディに、静かに、と、ティオが唇に人差し指をあてて制してくる。
(いや、ちょ、ティオすけ、何でここに!?)
(……別に。いたいだけですよ)
 忍び足で駆け寄って小声で騒ぐランディに、ティオは少し唇を尖らせる。
(それよりランディさん。そんなに浮き足だっていたら、お二人に気付かれてしまいます)
 ロイドの部屋の扉へ視線を向けて責めるティオに、ランディは思わず誰のせいだと怒鳴りたくなる。
が、何とか激情を押さえ込むと、ティオの首根っこを引っ掴んでそのまま自室に飛び込んだ。


124:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・2】
11/06/02 00:45:18.36 ZBFW7IM8
 マグカップに牛乳とカルヴァトス少量を入れて混ぜ合わせ。それらを威力最弱のファイヤボルトで
暖め、即席のホットミルクにする。
「……で。おにーさんに話してくれる気にはなったかな?」
 ランディはエニグマを仕舞うと、みっしぃのぬいぐるみと並んでベッドに腰掛けているティオの前
へホットミルクの入ったマグカップを差し出した。
 出来たてのホットミルクから立ち上る甘い香りをまとった湯気が、ティオを包み込むように揺らい
で広がっていく。
「……先程答えた通りです」
 マグカップを両手で受け取りながら、ティオは淡々と答えた。
「いや、だから、何でそうしてたんだよ?」
「ロイドさんとエリィさんが愛し合っている声と音を聞きたかったからです」
 ティオは表情を全く変えずに言い放つと、貰ったホットミルクを飲み始める。
(……埒があかねぇなぁ……)
 ランディが困惑しきりの表情で髪の毛を掻いていたら、ティオがマグコップから口を離した。
「恋人達が愛し合う声と音は、世界で一番優しい音楽だ。……あるミュージシャンの言葉です」
 空になったマグカップの中へ吹きかけるように息をつくと、ティオはランディを見上げる。
「いいですよね。世界で一番優しい音楽」
 ティオが笑う、諦観の暗闇に塗り潰された目で嗤う。
「わたしには、人が奏でているのを横でこっそり聞く事でしか縁のないものです……」
 みっしぃのぬいぐるみがこてんと倒れ、隣にいるティオへ寄りかかってきた。
 沈黙が部屋の中に充満し、痺れるような緊張感が肌を刺してくる。
「……おいおい、今からそんな諦めをしてどーすんだよ」
 重くなる雰囲気を、ランディはなんとか軽い調子で笑い飛ばす。
「ティオすけはまだ14だろ? これからいい女になって、俺みたいないい男を手に入れるのが、正
しい順番ってもんだ」
 茶化すように言って、ふざけた感じの表情つくってウインクをする。
「諦めるのは、俺みたいに年くってからにしろ、な?」
 だけど内心は、『人が奏でているのを横でこっそり聞く事でしか縁のない』の言葉に、ついさっき
までの自分を見透かされたような気がして、鼓動は荒れに荒れていた。
「……昔、わたしが教団から試作段階のグノーシスを投与された事は覚えてます?」
 ティオが、ランディの方をしばし見つめた後に問うてくる。
「ん? まぁな」
「完成したグノーシスは経口投与の薬でした。ガルシアさんは注射で強制的に投与されましたが」
 ランディが動揺を少し残したまま頷き返すと、ティオが変わらぬ調子で続けてくる。
「確かに太陽の砦で戦った時にオッサンそう言っていたが……」
 唐突に話題がとんで訝るランディに、ティオは突き放したような声色で告げた。
「わたしも、昔、通常の経口投与との違いを計る実験の為に、注射で強制的に投与されました」
「……」
 ティオの言葉にランディの心がざわめく。嫌な予感を頭をもたげ、服の下に隠れている皮膚が鳥肌
をたてる。
 その変化を感じ取ってか、ティオが少し寂しげに笑って、続けた。
「他にも色んな形で投与されました。……下品な言い方ですが、わたし達女性には、もう一つの口が
ありますから」


125:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・3】
11/06/02 00:47:00.02 ZBFW7IM8

※※※

『やだ、たすけて! いうこときくから、おろして!!』
 心のどこかでは無駄だと解っていつつも、口から出る悲鳴は止められない。
 ベッドの上で両足を不自然なまでに開かされた上に、両脇にあるあぶみに足を無理矢理乗せられ、
革紐で固定されていく。
 ふくらはぎと太股には革紐の縁に沿って青痣と擦過痕が走り、自由を奪われた今も新しい傷を作っ
ていく。
『おねがい。おうちにかえしてってワガママいわないから、だから……!』
 震え泣きながら請うても、大人達から返ってくるのは冷たくて空っぽな眼差し。
 やがて、青い液体の入ったパックと、ガチョウの口みたいな形をした金属のハサミを載せたワゴン
が目の前に運ばれ、何度か聞いた番号―それがここでの自分を指す名前だった―が読み上げられ
る。
『これよりグノーシスの経膣投与実験を開始する』
 傍にいた大人の一人が、ワゴンからガチョウの口みたいな金属のハサミ―後年調べたら、クスコ
という器具だった―を取り上げると、こちらに迫ってくる。
『ゃ……』
 薄っぺらいワンピースの裾をめくられ、パンツを履いてない股へクスコがあてがわれる。
 震えが止まらない身体へ、ガチョウの口みたいな部位がずぶっと突きたち、その痛みと金属の冷た
さに悲鳴が出る。
『ゃぁああっ! いたぃいたいっ!! はなしてぇ!!』
 ベッドそのものを動かす程に身体を揺すり、抵抗しても、革紐で抑えられた箇所に擦り傷と痣が増
えていくだけ。
 こちらの気持ちとは無関係に、お腹の中につきたったクスコはマイペースに根元まで入ると、ぐっ、
と左右に開いた。
『ひっ……!!』
 足の付け根から裂かれるような痛みは、悲鳴あげる気持ちすら奪う。
 その間に、青い液体の入ったパックから伸びたチューブが、開いたクスコの合間からするする入っ
ていって、やがて、先端がお腹の中にぶつかってきた。
『やっ……!!』
 もっといたいのがくる。
 頭の中が更に冷たくなる。
『いやぁ、いやぁああぁぁっ!』
 涙と涎で顔をベトベトにしながら再び泣き叫ぶ中、お腹にぶつかってきたチューブの先端がぐぐぐ
ぐっ……と、前へ進み、恐れていた激痛が下半身を電流のように駈け巡る。
『被検体の子宮内へのチューブ装着を完了。これより二時間かけてグノーシス液の投与を行う』
 誰かの淡々とした声の後、青い液体の入ったパックが頭上に掲げられる。
 パックからチューブへ青い液体が流れ始める。少し遅れて、お腹の奥へ突っ込まれたチューブの先
端から冷たい水の感触が広がってきた。
 お腹の中の激痛に奇妙なくすぐったさが混じり、頭の中が大混乱を起こす。
『あぁぁあ! やだぁ、たすけて、たすけてぇえ!!』
 自分は今ちゃんと声を出しているのか、泣いているのか。その前に意識がちゃんとあるのか。
 何もかもが解らなくなってくる中、お腹の中に水が流れ込んでくる感覚と、身体の芯から凍り付い
ていくような寒さが、強く印象に残っていた。

126:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・4】
11/06/02 00:47:53.76 ZBFW7IM8

※※※

「……あの当時は、注射みたいに痛い投与だとしか思っていませんでした」
 空のマグカップをベッドの上に置くと、ティオは自分の臍の下に右手をあてる。
「ただ、初めてあの投与をされた際……両足を開かされた体勢で身体を固定された時に、妙な不安を
感じた事は覚えています」
 今にして思えば、きっと本能的なものだったんでしょう。
 突き放した物言いで告げたティオの顔は、感情がごっそり抜け落ちていた。
 部屋の中が静まり、凍りつく。
 二人の息遣いすらも消えた静寂の中、部屋の窓から見える夜空の中に月が入り込んできた。
 ベッドの上に腰掛けているティオの方へ月光が差し込む。
「……もう諦めるしかないんです、わたしは……」
 どこまでも青白く、まるで悲鳴をあげているかのような月の色が、ティオの姿を照らし出す。
「いくら望んでも、あの音楽を奏でられるだけの資格を、わたしはもう持っていない。女性としての
身体は、とうの昔に汚れてしまったから……」
 臍の下にあてていた右手をぎゅっと握って呟くと、ティオはベッドから降りた。
 残されたみっしぃのぬいぐるみが支えを失い、ベッドの上に引っ繰り返る。
「ホットミルク、ご馳走様でした」
 重く抑揚のない声でティオが述べて、立ち竦むランディの傍を通り抜けようとした時。
「……馬鹿野郎」
の小さな声と共に、ランディの左手が、ティオの身体に回ってきた。


127:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・5】
11/06/02 00:49:18.41 ZBFW7IM8
 ランディの身体に、ティオが無理矢理寄せられる。彼の肋骨と脇腹の合間あたりに横顔がくっつき、
彼の鼓動がティオの耳を直に揺らしてくる。
「そんな事言うなら、俺だって、ここに居る資格はねぇぞ? 何せ、生まれた時から戦場と人殺しを
日常にしてたんだからな……」
 驚くティオに構わず、ランディは、彼女を抱えた左手に力を込めて告げた。
「でもそれは、わたしのとは違います……!」
「いーや、違わない。違ってなんかいない」
 部屋の壁を見据えたままランディは言い切る。
「拭えない汚点が過去にあるから現在も未来も汚れたまま変えられないってんなら、俺もお前も同じ
だ」
「―!」
 ランディの叱るような物言いに、ティオが顔をしかめて全身を震わせた。
「……キー坊を連れてミシュラムを脱出した時、お前らから怒られて引き止められたの……正直嬉し
かった」
 血と死の匂いにどっぷり浸かった自分の過去に怯えるどころか、躊躇わずに手を伸ばしてきた。伸
ばして、ここにいてくれと言ってくれた。
「なのにティオすけ、俺を引き止めた一人であるお前が、何で過去のせいで望むモンを諦める? 人
を叱っておいて、何でお前は過去に捕まったままなんだ」
 ランディが壁からティオの方へ顔を向けると、それから逃げるようにティオがランディの身体に顔
を埋めてきた。
「……ランディさん、卑怯です……」
 ティオが、震える手でランディのパジャマを掴む。
「そんな事言われたら、わたしの、諦めるという結論が成り立ちません……グノーシスの投与実験で
汚れた身体で、普通に愛を望んでしまいます……!」
 ランディの身体にティオの目元がくっついている箇所が、じわっと暖かくなって、濡れてくる。
「やっと別の希望を持てたのに……ロイドさんとエリィさんが愛し合っている様子を傍で聞くだけで
も充分だって納得できていたのに……!」
 そう責める声が熱湯に放り込まれた氷のように震えてひび割れたかと思うと、嗚咽に変わった。
「……そうだな、俺は卑怯者だ」
 しがみついたまま泣き震えるティオの頭を、ランディはそっと撫でて言う。
「自分は人が奏でてるのを聞いているしか縁がないと諦めているくせに、ティオすけにはそうするな
と叱ってるんだからな」
「!? それは、もっと卑怯です……!」
 涙で濡れた顔を持ち上げて睨んでくるティオに、そうだな、と、ランディは素直に頷く。
「でもそれで、ティオすけが諦めないってんなら、俺は喜んで卑怯者になるぜ」
 惑いなく言い切って笑うランディに、ティオの表情が大きく揺らいだ。
 両目から一気に溢れ出てきた涙を拭うように、ティオがランディの身体へ再び顔を埋めると、さら
に強くしがみついてきた。
 部屋の中に、ティオが静かにしゃくりあげる声が響きだす。
 どこか遠慮がちに涙する彼女を、ランディは窓の外の月から隠すように両手で抱き締めた。


128:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・6】
11/06/02 00:50:14.68 ZBFW7IM8

※※※

 どんなものにも終わりは来る。
「……すいません、ランディさん……」
 しゃくりあげる声が止まって少しして、ティオがランディの身体から顔を離した。
 それを合図に、ランディも、彼女を抱き締めていた両手をほどいて解放する。今まで顔がくっつい
ていた箇所のパジャマはじっとり濡れて、布地に新しい濃淡を作っていた。
「気にすんなよ、ティオすけ。俺は卑怯者なんだから」
「……それもそうですね」
 ランディの言葉に、ティオも、目元はもとより頬の方まで涙で少し赤く荒れた顔で微笑む。それか
ら、顎を少し持ち上げて、唇を小さく開いた。
 夜空を流れる雲が月を飲み込み、部屋の中が少しだけ暗くなる。
 涙とは違う艶を瞳に浮かべてキスをせがんでくるティオの姿に、ランディが目を丸くし息を呑む。
が、ふっと優しく微笑むと、前へ踏み出した。
 二人の影が一つに重なり、すぐにスルっと二つに戻る。
 え!? と、驚いて振り返るティオを余所に、ランディはベッドに転がっていたマグカップとみっ
しぃのぬいぐるみを回収した。
「ほい、おやすみ」
 朗らかな声で、ランディが、みっしぃのぬいぐるみをティオに渡す。
 次の瞬間、ティオが眦を吊り上げ、渾身の蹴りをランディの向こう脛に叩き込んだ。
「ランディさん、たまに空気読めなさすぎです」
 その場で屈んで悶絶するランディに、ティオがジト目で言い放つ。
「こういう時は黙ってキスして一気に雪崩れ込むのがお約束です。『世界で一番優しい音楽、教えて
やるぜ』とかのクサイ決め台詞もおまけにつけて」
「あのなぁティオすけ……」
 ですよねーと、みっしぃのぬいぐるみへ同意を求めるティオに、ランディは蹴られた向こう脛をさ
すりながら言い返した。
「お前の欲しい音楽は恋人同士が奏でるもんだろ? ここで最後まで雪崩れ込んだら、世界で一番優
しい音楽どころか、『傷心のやけっぱちに一発ヤりました』以外の何モンでもねぇぞ」
「……だめですか?」
「当たり前だ」
 しばしの間を置いて問うたティオに、ランディは声を強めて言い捨てると、立ち上がる。
「第一、アイツらだって一朝一夕で今の関係になった訳じゃねぇよな? ちゃんと順番を経て恋人同
士になってから、俺らの羨む世界で一番優しい音楽を奏でてるだろ?」
 そう言ってロイドの部屋がある方の壁を指さすと、ティオが項垂れるように首を落とした。
(……ちぃと言い過ぎたか……)
 ついさっきまで泣いていた彼女の俯き姿に、ランディの胸が罪悪感でチクリと痛む。そこへ、
「……なら……」
 掠れた声と共に、ティオが顔を持ち上げ尋ねてきた。
「順番を経て、なら、いいのでしょうか……?」


129:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・7】
11/06/02 00:51:04.89 ZBFW7IM8
 雲の中から月が出る。窓ガラス越しからティオの姿を照らしだす。
 さっきと同じ、どこまでも青白い月の色。なのに放つ雰囲気は真逆で―子守歌のようにどこまで
も優しくて柔らかい。
 その姿は、どんな闇や光よりも澄み切ったティオの瞳は、ランディの心臓をぎゅっと掴んできた。
「……それは……俺と恋人同士になりたいという事か?」
「……駄目ですか?」
 今までと違う、余裕の色が消えた声で問うランディに、ティオが顔を微かに揺らして聞き返す。ラ
イトブルーの髪の毛がさらりと零れ、砂粒のような煌めきを室内に撒き散らす。
 ランディの心臓が、再びぎゅっと掴まれる。
「……」
 綻ばした唇から微かに息を零して笑うと、ランディは持っていたマグカップをベッドへ放り捨てた。
 ぼふっ。と、マグカップが布団に潜り込む。
 ランディはティオの前へ片膝をつき、視線の高さを同じにする。それからティオの右手をとり、指
と指を絡ませるように握ると、指先でティオの右指の股を優しくさすりだした。
 右指の股を通して、ティオの身体の奥がくすぐったくなる。
「ぁ……」
 ティオが思わず目を細めて声を漏らす中、ランディの顔が、唇が、近づいてきた。
 二人の影が重なり、唇が重なる。
 お酒の匂いのする暖かい吐息にティオが軽い目眩を覚える中、唇の隙間から彼の舌が割り込み、歯
の裏や歯茎を舐めてきた。
「んっ……」
 ざらざらした舌の感触は、ティオの身体に震えを起こす。膝が少し曲がり、左手で抱えたみっしぃ
のぬいぐるみがずり下がる。
 その間も、ランディは、指の腹でティオの右手の甲を撫でて這わせ揉みつつ、咀嚼するように唇と
舌を動かす。口の中で縮こまっているティオの舌を自分の舌で掬い上げて、ねっとり絡みつく。
「っ……!」
 ティオの舌から背中にくすぐったい痺れが駆け下りたかと思うと、お腹の中がふわりと浮き上がる。
足の力が勝手に抜けて崩れ落ちそうになったを何とか堪えた所へ、彼の左手が、耳を優しく撫でて揉
んできた。
「んっ……!!」
 ティオのお腹の中に生まれた軽さがさらに強まり、足から立っている感覚が奪われる。
 がくがく揺れる膝と膝がくっつき、左手に持ったみっしぃのぬいぐるみが更に一段ずり下がった。
「っ……」
 ティオはぎゅっと目をつぶると、縮こまっていた舌を思い切って突き出す。彼の舌に自分から触れ
てちょっかいかける。
 ざらざらした舌の表面と暖かな弾力を感じた途端、ティオの首骨にくすぐったい震えが駆け下り、
身体の中から何かが零れ落ちた。


130:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・8】
11/06/02 00:52:57.65 ZBFW7IM8
 月光が差し込む部屋の中、ぺちゃり、くちゃりと唾の絡む音が響いていく。
 ランディとティオが、お互いに唇で突いて圧して挟んで啄み、たまに歯で下唇を甘噛みして刺激を
与えながらのキスを続けていく。
 赤茶色とライトブルーの髪の毛が、社交ダンスのように揺れて触れて軽く絡んで、それからするっ
と滑って離れて、また近づく。
 深く絡み合った右手の指は、まるでピアノを奏でるかのように、相手の手の甲の上で弾んで震え、
そして縋るように握り合う。
「んっ……ふ、ぅ……んっ……ぅ……」
 ティオの顔がほんのりと赤く染まり、口端から唾が垂れて頬に銀の線をひく。
 両足は今にも崩れ落ちそうな程に揺れ動き、左手に抱えたみっしぃのぬいぐるみは尻尾が床箒と化
している。
「ふっ、ふぅ、んっ……」
 彼の与えてくれる何もかもが優しくて暖かくて、自分の身体が内側から溶けていく。背骨がぞくぞ
く震えて、下腹部と股の所で奇妙な蠢きが回り続けている。
 今まで感じた事のない感覚、経験。
 理解が追いつかなくて、少しだけ、怖い。
 でも―すごく暖かくて……。
(もっと……欲しい、です……)
 強く深く塞がれた口の中でそっと願うと、ティオは舌先で彼の前歯を舐め上げる。お酒の匂いが鼻
腔の奥へ直に飛び込み、その刺激にティオの頭の中がクラッとなる。
 そこへ、ランディの左手が、ティオの耳の輪郭にそって動き、耳穴を指先で軽く掻いてきた。
「―!」
 目の奥でフラッシュがたかれたかと思うと、一際大きな震えがティオの中を駆け抜ける。
 下腹部と股の中に居座っていた蠢きが一気に外へ噴き出すような感覚の後に、身体を支えている両
足の存在が認知できなくなる。
「あぁっ……!」
 唇を離し、切なげな声を漏らしながらその場に崩れ落ちたティオを、ランディがすんでの所で抱き
支えた。
「そんじゃ今日はここまで、っと」
 ランディが軽い調子で告げると、真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返すティオの頭を優しく撫でる。
「俺と恋人同士になりたきゃ、もっと先にいけるよう頑張れよ、ティオすけ♪」
「そうですね……」
 惚けきった瞳と涎で煌めく口元を綻ばせて頷くと、ティオはそのままランディの胸の中に顔を預け
た。
「次、は、もっと……」
 ホットミルクのカルヴァトスと彼の吐息に混じっていたお酒が、今になってティオの意識を眠りの
中へ引きずり込んでいく。
「恋人、っぽく、なり、た……ぃ……」
 最後に残っている記憶は、この宣言がちゃんと声に出せただろうか……という疑問だった。


131:聞かせて、世界で一番優しい音楽【前編・9】
11/06/02 00:53:53.30 ZBFW7IM8

※※※

 嗅ぎ慣れぬ香水と酒の匂いがティオの意識を呼び覚ます。
 瞼を開くと、みっしぃのぬいぐると一緒に彼のベッドに寝かされていた。
 みっしぃのぬいぐるみの向こう側には、ベッドの縁に寄りかかる格好でランディが船を漕いでいる。
「……」
 ランディの後ろ姿を見つめながら、ティオは、自分の唇を指先でそっとなぞる。身体の奥で、ぽっ
と火が灯るような暖かな感触が沸き上がってきた。
(まだ……諦めなくてもいい、という事でしょうか……)
 グノーシス投与の実験などで何度も凍り付いた身体の奥が、キスで暖かくなれたなら。
(世界で一番優しい音楽……まだ、わたしにも奏でられる可能性は残っていると思っていいのでしょ
うか……)
 自分の胸の上に両手を重ね、ティオは嬉しそうに息をつく。その吐息を受けて、みっしぃのぬいぐ
るみも微かに頷いた気がした。
「ん? もう起きたのか?」
 ティオがなるべく音をたてないよう体を起こした途端、ランディが顔を持ち上げ振り向いてくる。
「すいません、起こしてしまったようで……」
「いーっていーって。寝てるとこを叩き起こされるのには慣れてっから」
 ぺこりと頭を下げるティオに、ランディは手をぱたぱた振って笑うと、彼女がベッドから降りても
いいように身を引いた。
(……引き止めないんですね……)
 まだ、恋人になる程の順番は経てないから。
「……」
 ティオは、ちょっと寂しげに唇を綻ばすと、みっしぃのぬいぐるみを持ってベッドから降りる。そ
うして部屋のドアへ足を向けた後、ランディの方へ振り向いた。
「ランディさん……約束して貰えますか?」
 西へだいぶ傾いて窓枠から出かかっている月が、ティオの姿をぼんやり照らす。
「ちゃんと順番を経たその時は……わたしに世界で一番優しい音楽を聞かせてくれると」
「そりゃ勿論。俺も聞いてみたいしな」
 少しだけ怯えの混ざった確認に対する返答は、いつものノリでの笑顔と言葉。
 つられてティオも微笑むと、ランディが、唇をちょんと乗っけるような軽いキスをしてくれた。




132:保管庫”管理”人様へ、6-404で保管お願いします
11/06/02 00:54:47.23 ZBFW7IM8
とりあえず今日はここまで。
中編はまた後日にでも。


>>126
待ってましたー!
描写の緻密さ巧みさとか伏線の鮮やかさとか、色々勉強させて貰ってます。
続き、全力で楽しみに待っています。



133:名無しさん@ピンキー
11/06/02 13:08:32.64 Xd0e6MAY
ランティオktkr。続き楽しみにしています

134:名無しさん@ピンキー
11/06/02 20:05:05.74 XtVJmJUb
ラブラブねっとりディープキス描写が嬉しいですね
ラニキにはティオすけの性感開発にじっくり時間をかけて欲しいです
ティオすけが幸せをたっぷり感じられますように

135:名無しさん@ピンキー
11/06/03 07:05:09.74 YJM/t8Fh
なんというランティオ…素晴らしい。
やはり事に及ぶ時は重厚なテキストが必要なのだと実感します。
参考にさせていただきます。


136:名無しさん@ピンキー
11/06/03 16:16:42.02 bNCZLh1K
性的な知識が皆無な純白エリィの尻穴と尿道口を舌のみで愛して快楽と羞恥を与えたい

137:名無しさん@ピンキー
11/06/03 19:49:03.58 wJFsIp+R
ロイドさんが天然でそう言う行動をしそう

138:名無しさん@ピンキー
11/06/03 20:47:09.37 E8glJTmT
GJ

139:名無しさん@ピンキー
11/06/08 11:08:25.18 JcJzH+Os
ケビンの前でリースがntrれる奴さっさと書けよ低脳屑ども

140:名無しさん@ピンキー
11/06/08 11:24:31.45 JcJzH+Os
アガッさんとヨっきゅんの両腕脚きりおとして達磨になってる目の前で
ティータちゃんとエステルちゃんをボコボコにしながら犯しまくりたい^^
死なない程度にボコりつつ妊娠するまでひたすらやりまくって
赤ちゃん産まれるまで全員虫の息で生存させといて、
やがて出産になったら産まれた赤ちゃん踏み潰してアガッさんとヨっきゅんに美味しく味あわせたい


141:名無しさん@ピンキー
11/06/08 16:05:19.01 JcJzH+Os
零終了後のレンの前でエステルを犯したら面白そうな反応してくれそうww

142:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:36:54.79 GLr7oSXO
***

クロスベル警察の会議室には、冷めたコーヒーが二つ並び、椅子に座ったままのけぞるドノバンと、机につっぷしたままいびきを立てるその部下レイモンドが、つかのまの休息をとっていた。

「ったく、こういう肝心なときに一課の連中ときたら、そろいもそろって共和国の観光とはいい気なもんだぜ。」

ドノバンがぼやきながら身体を起こし、たばこをくわえる。

「ん。ん。ん!クソッたれ、安物はすぐこうだ。おい、レイモンド。起きろ。休憩時間終わるぞ。」
「ううーん、あと五分…。」

彼はレイモンドの肩をゆすりながら、鳴った携帯通信機を取り出し応じた。

「はいよ、こちら二課のドノバン…なんだお前か。どうした。ああ。おう。
最近その噂しか聞かねえからな…何?本気かおい、ちょっとまて!くそ、切りやがった。」
「おおお、ゆれる、世界がゆれる…」
「いつまで寝ぼけてんだ、さっさと起きろ!」

椅子を蹴り飛ばされ、レイモンドが跳ね起きる。
しぼんだ目をこすり、だらしなく口を開ける彼に呆れながら、再びドノバンがたばこをくわえた。

「なんか、誰かと話してましたか。ドノバンさん。」
「ああ、セルゲイとな。話すだけ話してさっさと切りやがった。」

ドノバンが何度もライターを鳴らす。空の女神が彫ってあるそれは、血管が硬く浮き出た拳の中、火花だけをむなしく散らした。

「セルゲイさんかー。そういえば言ってましたね。ライターが言うこと聞かない時は、オイル切れ疑う前に、自分の頭冷やせって。」
「ああ?俺が焦れてるってのかよ…。今回の事件といい、あの野郎どういうつもりなんだ。」

とうとう火をあきらめ、ドノバンがたたばこを噛み締め、席を立った。

「いくぞレイモンド。逮捕令状の申請せにゃならん。」
「犯人見つかったんですか?」
「頭にくるぜ、噂に食いつくだけなら、なんのための警察なんだよ。」
「あ、ちょっと、待ってくださいよ!」

二人が上着を手に取り、部屋を出て行く。
廊下を足早にあるくドノバンに、レイモンドは様々に問いかけるが、彼は黙ったままエレベーターの前まで足を運び、止まった。
扉を開けると、レイモンドに向き直る。

「お前は先に出て車を用意しとけ。すぐに出れるようにな。」
「解かりました。あ、でも俺の車今フロントこすられて不細工になってるから、ドノバンさんの車借りたいなあなんてって、ドノバンさん?」

エレベーターの扉が閉まる音とともに、既にドノバンの姿は無い。

「はあ…修理さっさと出しておくんだったなあ。」

受付のレベッカに投げキッスをするも無視され、しかしそれも気にする風もなく肩をすくめると、彼は駐車場へと足を運んだ。
自分の車の正面に立ち、腕を組んで眺める。

「女の子の知り合いに見られなきゃいいんだけどね。」

ほどなく、本署からドノバンが令状を手に出て来ると、正面に止まっていた車のライトが点滅した。
乱暴にドアを開け、身体を放り込むように彼が乗り込むと、車が大きく傾ぐ。

「ドノバンさんもうちょっと優しく乗ってあげてくださいよ。ただでさえ『彼女』、不機嫌なんですから。」
「悪いが俺は上に乗せるほうが好きでな。東通りに行け。」
「はいよ。」

143:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:38:03.09 GLr7oSXO
ぬける通り全てに、警官がたむろしており、こちらの姿をみると敬礼を送ってきた。
ハンドルを操作しながら、ドノバンの広げる令状を、レイモンドが細かく横目を送る。
大きく綴られた名前が目についた。

「へ?ロイド・バニングス?」
「馬鹿野郎、前みて運転しろ。ほれ、そこにつけろ、降りるぞ。」

車を降り、旧市街に向かうドノバンを追う途中も、レイモンドは信じられないといった表情で何度も額に手をあてていた。
鉄橋を渡り、広場を抜けると、ナインヴァリの前にセルゲイが立っている。

「おう、来たか。」
「ああ。やっこさんは?」

顎で示され、店内に入る。
小さな窓から差す光に塵がきらめき、うなる換気扇の影がはためいた。寿命の近い電灯のせいで薄暗い室内に、淀んだ空気が蔓延している。
そんな中、特務支援課のメンバーは向く方向も様々にたむろしていた。

「お役目ご苦労様です。」
「ロイド…。」

不安そうなエリィの視線を浴びながら、椅子に力なく座っていたロイドが、表から入ってきたドノバン達を見て立ち上がり、敬礼する。
奥で壁と対面していたランディが、砂を噛んだような横顔を見せた。

「敬礼してくる相手に仕事するってのも変な気分だな。」
「…。」
「罪状は窃盗、器物破損、傷害…およびテロ未遂、か。話じゃ爆弾を盗んだらしいな。」
「爆弾!?」

レイモンドが素っ頓狂な声を上げる。
びくりと、エリィに背中を支えられたアロネが肩をすくめた。うつむいた顔はすっかり青ざめている。

「な、なんだってそんなものを?いや、まだキミだって決まったわけじゃ無いけど。」
「なあロイド、本当にお前なのか?俺はどうも腑に…。」
「さっさと連れて行け。」

ドアの脇に背を預けたセルゲイが促した。

「いつからうちの署は現地取調べの形式になったんだ。仕事は素早く、だろう。」
「ああ。そうだな。」

すでにドノバンは逮捕状を受け取る際、副所長から詳細は聞かされていた。その際、キツネの機嫌が良かったのも気のせいではなかっただろう。
彼は大きく肩で息をつき、ロイドの肩を叩くと、レイモンドがおそるおそる出した手錠を、目で制した。

「こいつにはそんなもん要らんだろう。車に乗せろ。」

ロイドが出口をくぐる。一瞥もくれずに、セルゲイはたばこを咥えた。
ドノバンは深く息を吐くと、頭を掻いた。

「冷淡なもんだな。それも班長としての心得の一つってわけか。」
「何がだ。」
「部下パクって何がだは無いだろう。」
「フ…別れを惜しむ女のようにむせび泣いたほうが良かったか?」

144:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:39:13.27 GLr7oSXO
アロネが面をあげ、きっとセルゲイを睨む。

「あんまりではありませんこと?」
「ん?」
「わたくしあなたの事を誤解していました。素っ気無いそぶりの中に、部下思いの一面を垣間見たのは、幻覚だったようですわね!皆様もよ。仲間なのではなくて?」

彼女はランディ、ティオに視線を移した。

「俺もあいつがガキを殴るとは思えねえが…何か隠してるのは確かだ。信用はできねえ。」
「私情は挟めません。」
「そんな…。」

奥から咳払いが聞こえる。暗がりに灯る赤い点を中心に、顔の輪郭が浮かび上がった。店主のアシュリーだ。

「アタシとしても腑に落ちないね。」
「アシュリーさん…。」
「あの坊やが本気でこんなことするとでも思ってるのかい?モノも出てない、裏も取れてない。ずいぶんと手際が良すぎるじゃないか。」
「変わりもんだな。娘を殴った相手の肩を持つのか?」
「この商売はね、剣で肉を切られたときの痛みも、銃で撃たれる熱さもしっとかないとダメなんだよ。
あの子にとっては良い勉強になったろうよ。」

白黒きっちりつけな。彼女の瞳が語っていた。セルゲイは片方の口角を吊り上げ、低く笑う。

「血は争えんな。逮捕されて尚、ここまで女に心配されれば、あいつも本望だろう。火あるか?」

セルゲイが内ポケットをまさぐりながらたずねる。
ドノバンは自分のガスライターを差し出したが、納得の行かない表情もそのままに吐き出す。

「安モンだ。付きが悪い。」

その言葉が終わらないうちに、セルゲイの手の中で一度だけ鳴り、ライターは火を噴いた。
タバコに移し、彼は深く煙を吸い込む。

「仲が悪いようだな。安モンなら貰っても構わんだろう。」

そういい残し、店を後にする。外で様子を覗いていたレイモンドが飛びのいて道をあけると、表に出たドノバンもその後姿を見送った。

「さすがに動揺を隠すのが上手いっすねー。まったく落ち着いてるように見えますよ。」
「いや…。冷静すぎる。」
「へ?」

ドノバンは早々に車に乗り込む。
頭に疑問符を浮かべながら、レイモンドは何度もセルゲイに向き直りながら、後に続いた。

「出せ。」

何か言おうとした彼を制するように、ドノバンは告げた。
エンジンが鳴り、景色が動き出す。ロイドは後部座席の左側に体を預け、窓の外を見ていた。
バックミラーの向こう、ナインヴァリの外に、アロネとエリィの姿を捉える。

沈黙が時間を泥に浸し、車は本部へと向かっていく。
静かに冷たい風が吹く、旧市街を残して。

145:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:40:38.42 GLr7oSXO
***

「ロイド・バニングス逮捕。」

号外は風に乗り、噂は、動揺、悲嘆、裏切りへの罵倒、あるいは犯人の擁護へと姿を変え街を伝播する。
英雄の住処は、家宅捜索の現場へと姿を変え、多くの捜査官がたむろしていた。

「支援課のメンバーも薄情なもんだな。こんなときに犬の散歩とは。」
「女性二人はどうした?」
「ああ。三階の部屋にいる。」

捜査官同士の会話は、どこか緊張感が欠いている。
クロスベルの警察は、人員不足、そして立て続けの窃盗事件の捜査により、重いスケジュールをこなしてきていた。
それは彼らの、捜査のプロフェッショナルとして、最も重要なものにダメージを与えている。
セルゲイも例外ではない。そのはずだった。

「キーア。」

キーアはソファーに小さく足をたたみ腰掛けていた。セルゲイの声に顔をあげる。

「かちょー、ロイドは?」
「本部に“務めてる”さ。妙な形だが、ヤツの願いは叶ったな。」
「…。」
「フフ、お前もたいしたもんだな。落ち着いている。」
「だって。」

キーアは丸い瞳をぱちりと瞬かせ、セルゲイを見つめる。

「かちょー、いつもどおりだもん。」

「ほんと。まるで何事も無い日常のような振る舞い。信じられませんわ!」

アロネがつぶやく。エリィは手にした銃を丁寧に磨いている。
セルゲイとキーアのやりとりの少し前の事、彼女達は様々な思惑の行きかう街、そしてお互いの懐疑の念から逃れるようにして、エリィの部屋に待機していた。

「ほんとにもう。エリィさん、何とかなりませんの?」
「大丈夫よ、アロネさん。」

手入れを済ませ、エリィは銃を収めた。

「彼なら大丈夫。ロイドなら。」
「…そうね。そうですわ。」

エリィとアロネは、互いの感情を代行し、昇華していた。エリィの慰めはアロネの言葉でもあり、アロネの憤慨はエリィの動揺でもあった。
何がそこまでの同調をもたらしたのかは、語るまでも無い。

「エリィさんは、いつからロイド様の事を?」

エリィの隣に腰掛け、アロネは問いかける。

「その前に、アロネさん。貴女は自分の言葉に責任をもつべきだわ。」
「わたくしの言葉?」
「呼び方、よ。私も貴女の事、気さくに呼びたい。」

あ、と言葉には出さず、アロネは小さく笑うと、言葉を改めた。

「聞かせて、エリィ。」

エリィは微笑み、答えた。

146:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:42:44.77 GLr7oSXO
「解からないの。」
「え?」
「不思議だけど、私自身、その瞬間も、変化の過程も、これといって無いのよ。自覚したのはつい最近なのかもしれないけど。
知り合ってから、まだそんなに経ってないのに、そのずっと前から、彼のことが好きだった錯角に陥るの。」

恋に恋をする人間は、遥か遠くを見つめるという。恋人の向こうにいる、華々しい世界にいる自分を見るのだ。
しかしエリィの焦点は、机の上におかれたイヤリングに、しっかりと合っていた。
彼女はその一つを手にとり、慈しむ。

「もしかしたら、貴女の真っ直ぐな気持ちを見たから、純粋な気持ちを取り出せたのかもしれない。」
「私の、気持ち?」
「変な話だけど、ちょっぴり感動しちゃった。貴女みたいな素敵な人に、ロイドが好かれているって事に。」

窓から差す夕日が、エリィの背中を照らした。アロネはその眩しさに目を細める
胸を貫く感情は不安からくるものではなく、むしろすがすがしいものだった。

「私も…。」
「ん?」
「いいえ、ありがとうですわ。話してくれて。」

一年前の青年は、アロネにとってまさに英雄だった。その回想が走馬灯のようによぎる。
彼女を現実に戻したのは、乾いたノックの音だった。

「はーい。どなた?」
「郵便です。エリィさんに直接お渡しするようにと。」
「こんなときに、誰からかしら。」

彼女が扉をあけると、配達員が帽子のつばに手をかけ、お辞儀をする。
手には、首からかけられたサポーターに支えられた箱を抱えていた。

「ハンコをお願いできますか?」
「えっと、差出人は誰かしら?」
「ロイド・バニングス様です。」

アロネが思わず顔を上げる。エリィが一瞬気を取られた瞬間、彼女は腕を背中に廻され、その首に果物ナイフを突き当てられていた。

「すいませんね。うら若き乙女の談笑をお邪魔しまして。」
「エリィ!」
「暴れ、騒ぎ立てれば…解かりますね?」

ナイフがきらめく。アロネはすくむ足で立つのがやっとだった。

「な、何者なの…。どうやってここ…まで。」
「お洒落をしてきたんです。その手にかけた銃でどうするというんです?妙な真似をしないほうがいいですよ。
私のもってきた荷物に引火でもしたら、この建物が花火にはや代わりです。」

銃を握るエリィの手が止まる。

「私が何者なのかは、式場で発表しましょう。差出人が来てからね。それまでに準備をしないといけません。
そこのお嬢さん、いえ、アロネお嬢様。エリィさんをガムテープで縛ってください。」
「やっぱり…やっぱり貴方は。」

配達員の顔が、帽子の下から現れる。歯を見せ笑う彼は、部屋を見渡した。
右側面を見るときだけ、同位置の眼球の動きがほんの一瞬遅れる。

「お二人は大事な来賓です。傷つけはしませんよ。全てはあの男次第です。これは式の、お祝いの品として頂きましょう。」

男はエリィの腰の銃に手をかけた。
彼女はとっさに背の部分を掴み抵抗したが、首の締め付けを強められ、奪取されてしまう。

147:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:44:44.33 GLr7oSXO
「うぅ…。」
「さあ、急いでくださいアロネお嬢様。」
「エリィ…。」
「アロ…ネ…言うとおりに…して…」
「で、でも…」

ナイフが傾き、肉を撫でた。アロネは唇を噛み、ガムテープを手に取る。

(私に出来るのはここまで…ロイド、信じてるから。)

エリィの瞳の一等星は、輝きを失っていなかった。

そしてその輝きは、ソファからセルゲイを見つめるキーアの瞳にもあった。

「信じているのか。」
「うん。」

小さく、幼い彼女の、強い決心だった。セルゲイはキーアの頭を撫で、部屋を見渡す。
その時、彼の捜査官としての勘が、不自然な点を鮮明に掴んでいた。

「おい、お前。その制服は備品だな。」
「ええ。良く分かりましたね。」
「綺麗すぎる。丁寧にアイロンかける几帳面さは俺達には無いからな。」
「先日まではあったんですが、今朝の召集のとき無くなってたんですよ。おおかた誰かが間違えて持ってったと思ってたんですが。」

セルゲイは拳銃に手をかけ、階段を勢い良く駆け上がっていった。途中すれ違う捜査官を押しのけ、三階に登りきると、男は居た。

「どうも。郵便物を届けにあがったもので…」
「そいつらを放せ。逃げ場はないぞ。」

男はテープで縛り上げたエリィを前に立たせ、その背中に銃口を突きつけていた。
そしてアロネを抱え、やはりその首にナイフを突きつけている。
セルゲイが引き金に指をかけた。
彼の大声を聞きつけ、捜査官が三階へ登ってくる。

「貴方達が探しているものは、これですか?」

男は首からさげた箱に手をあてる。セルゲイは銃を構えたまま歯軋りした。

「ロイド・バニングスを呼んで来れ。早いほうが良い。あとの人間は全てこの建物を出払ってもらおう。私は式場で待っているよ。」

男は屋上へと進んでいく。
銃口を向けたまま、セルゲイは無線を手に取った。

***

ロイドは手の中の、警察バッジの深い傷を見つめた。

―チェック。俺の勝ちだな。

チェスの勝負は何度やっても勝てなかった。ある日その理由を問う。

―お前は攻めと守りのバランスが良い。速攻も得意だ。でも局面において相手の状況を見ていない。勝ちたければ俺を理解しろ。

キングを手の中で転がし、「彼」は続けた。

―どんな時でもそうだ。相手を理解しろ。想像じゃない。相手に関する情報全てから、理解し、予測して動け。そのために相手と立場を同じくするのもいい。

「これはちょっと洒落にならないかな、兄貴?」

148:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:47:03.96 GLr7oSXO
留置所にけたたましい足音が響く。ロイドが顔をあげると、フランが息を切らせていた。

「ろ、ロイドさん!」

悲鳴に似た声に、彼はバッジをポケットに納める。
特務支援課周辺は厳重体制が敷かれ、導力車がひしめき、何人もの警察が配備されていた。
さらに動力車が追加され、助手席から飛び出した青年は、彼らの間を縫うように駆けた。

「課長!」
「ロイド、屋上だ!」

お互いを見つけるや否や、二人は叫んだ。
セルゲイがトンファーを放り投げる。ロイドはそれを両手で受け、ビルへ突入した。

「狙撃手、どうだ。…そうか。引き続き待機しろ。」
「ど、どうですか?」
「だめだ。人質の影に隠れていて狙えんそうだ。犯人はこの周辺の地形を調べ尽くしている。」

ドノバンが無線をしまい、舌打ちをした。

「ロイド…。」

しがみつくキーアを、セルゲイがもう一度撫でる。
龍のように階段を登り、屋上に飛び出したとき、ロイドを迎えたのは遮りのない星空だった。
そして手すりの側に、三人の姿はあった。

「よーうこそ晴れの式場へ!歓迎するよ、君ももちろん祝福してくれるよねぇ!」

ロイドは瞬時に構え、状況を把握した。
アロネを正面に構え、手にはナイフ。そして足元には口も塞がれたエリィが横たえられ、その頭に向けて彼女の銃が照準を合わせられている。

「どうだった、牢獄の生活は!会話の相手は狂人か、亡霊しか居ない。そうだろう。僕は友と引き裂かれ、孤独だったよ。得たものは屈辱だけだ!」
「やはり連続の窃盗の犯人は、あんただったんだな。」
「そうだ。とても楽だったよ。君の姿になれば、誰もが僕を信用した。雰囲気さえ似せればろくに顔も見られなかったよ。そしてそれは同時に、僕の怒りを増幅させた。」
「これは、復讐なのか。俺に対する。」
「そうだ。全ては、復讐だ!何もかもそっくりそのまま返す!君に殺された親友の為にね!」

男は、すでに演技も変装も引き剥がし、その本質を剥き出しにしていた。

「殺した?何の事だ。あんたの親友なんか知らないぞ。」
「しらばっくれるなぁ!君の手で獄中におちた私を、彼は身を挺して助けてくれたんだぞ。その命と引き換えに、愛する彼女を…マニーニを残して!」
「身を挺して?」

ロイドはアロネの話を思い出す。あの時、彼は確かに失っていたものがひとつだけあった。

「まさか…。」
「僕は誓った。必ずや復讐を遂げると。そしてその瞬間、僕は彼女と一つとなり、生涯守り抜くのだよ!」

男は、鼻腔から激しく息を吐き出しながら、荒波だつ呼吸を整えた。

「僕はね、僕は今まで人を殺したことなんて一度もないんだよ。ロイド。わかるかい?高尚なんだよ。それを君は踏みにじった。」
「爆弾を作る身にありながら、そんなことを良く言えるな。」
「しかし事実だよ。僕は組み立てただけだ。スイッチを押したのはどれも僕じゃない。だから、今回も僕の仕業じゃない。君だ。君が招いた状況なんだよ?」

149:名無しさん@ピンキー
11/06/08 23:53:07.71 GLr7oSXO
失礼。
>>115-121の内容を間違えて書き込んでしまいました。
まことに申し訳ありませんでした。
では>>125の続きを書き込ませていただきます。
ちなみに私は代行でやっております。

150:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:55:37.79 GLr7oSXO
***

不幸中の幸いと言うべきか、鋭く研がれた小さなナイフは、ロイドの手の甲から入り、骨を綺麗に避けて刺さっていた。
簡単な治療を支援課のビルで受けるだけに留まったのは、気絶のその理由も、寝不足からくるものと判断された為だ。

「目が覚めたら栄養のあるものをしっかり摂っていただければ、全快は直ぐですよ。」
「ありがとうございます、リットン先生。」
「いやー、皆さんに先生って呼ばれると照れますね。じゃ、私はこれで。」

お辞儀をし、緊急で駆けつけた医師は、部屋を出た。安眠の妨げにならぬよう、関係者一同もその後に続く。
アロネの部屋のベッドに寝かされたロイドの寝息が、時計の秒針と静かなアンサンブルを奏でていた。その掌には包帯が巻かれている。

「それにしても俺達の役者っぷりも捨てたモンじゃないな。」

一階のリビングに降りたところで、ランディが愉快そうに言う。
今回の犯人を騙す形での捜査には、感づかれることが最も恐ろしいリスクだったが、彼らは見事それを乗り切った。

「これまでも色々似たようなことしてましたから、慣れてしまったのかもしれませんね。」
「ああ。それにしてもロイド、いつのまにキーアにまで仕込んでたんだかな。子供は正直者だからよ。やっこさんもそれで信じたんじゃあねえのか?」
「え、なあにランディ?」
「ほら、ロイドが夜な夜などこか行ってたってやつよ。迫真の演技だったぜ。」
「えんぎ…?でも、ロイドほんとうにどこかいってたよ?」
「おいおい。もう良いんだよキーア。全部終わったんだ。」

本当なのに、と顔を膨らませるキーアの頭を、ランディがかき混ぜながら笑う。

「それで、課長はいつロイドさんから説明を受けていたんですか。」
「ん?なんの話も聞いてねえよ。」
「え?」
「お前らが妙な遊びをしてたからそれに付き合ってやっただけだ。」
「本当に、それだけですか?」
「クク、俺をカヤの外に追い出してくれるとはやってくれるぜ。おかげで逮捕するときは遠慮なくいけたがな。」

そうして、彼はビルを後にし、捜査官の波に消えていった。

「部下が部下なら、上司も上司だな。」
「ドノバンさん…。」
「やっほー。ティオちゃん。」
「ロイドのやつはセルゲイをあえてハブることでリスクを背負ったんだろうよ。何かあれば警察全体の責任に発展しかねないからな。」
「そのわりに妙に落ち着いてましたよねえ。これも捜査官の勘のなせる業ってやつでしょうか。」
「フン。どうだろうな。」

レイモンドが首を傾げながら、突き進んでいくドノバンの後についていった。
ティオは後で腰掛けるツァイトの頭を撫でながら、小さなため息をつく。
このあと受ける煩雑な質問攻めを思い、その返答をあれこれとシミュレーションしていた。
その思考を遮るように、何度もロイドの掌の傷が思い浮かぶ。

(完全に、気を失っていたはず。)

彼女もランディと共に、即座に彼の元に駆けつけていた。
背を向けていたとはいえ、彼女の鋭敏な五感は、彼に意識が無かったことを告げている。

151:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:57:31.82 GLr7oSXO
(それなのに…。)

エリィに届かなかったナイフ。
疑問を浮かべ、推理をすすめ、しかし彼女はその行き着く場所に足を踏み入れるのを拒否した。

(今更ですね。)

そしてその度に、嘲笑が漏れた。

「あ、皆様。ここにいらっしゃったのね。」

やがて二階でカウンセリングを受けていたアロネとエリィが降りてくる。
彼女達はメンバーを見つけると、その輪に加わった。

「おーう。その様子を見るにたいして必要じゃなかったんじゃないか。」
「ふふ、こう見えてもそれなりの厄介ごとには直面してきましたもの。」

そうして微笑むアロネだが、やはりその顔には陰りが見えた。

「皆様には、謝らないといけませんわ。あのお店で言ったことを…。」
「ああ、いいのいいの。気にしてねえよ。」
「当然の反応です。」
「そうですけども、わたくしの気が済みませんわ。本当に、ごめんなさい。」

アロネは顔をあげ、ひそめた眉もそのままに告げる。

「それで、皆様にお願いがありますの。」

振り返るアロネと、エリィの目が合った。

再び街に風が吹く。
わずか一日をして、噂の的に突きつけられた矛先は一部を除いて賞賛の声と変わり、連続窃盗犯、放火犯の完全な沈黙は、人々に安息を与えた。
一部を除いて、というのは、過程において生じた問題に対する批判であり、その責任を問うまでは発展しなかったものの、セルゲイは代表として叱責を受けることになる。
もっとも、彼の監督不行き届きは今に始まったわけでも無く、狐は苦々しげに髭を撫でるのだった。

爆弾騒ぎは朝日に溶けて消え、それが幻だったと錯覚させるほどに、クロスベルは日常へと戻っていった。

「え、じゃあ俺は丸一日寝ていたのか!?」
「そういうこふぉいなるな。」

お見舞いとして届いたリンゴをほおばりながら、ランディが言う。
彼らは皆ロイドが目を覚ましそうというキーアの嬉々とした叫び声に、アロエの部屋に集合していた。

「良かった、本当に良かったですわ。」
「あ、アロネ…エリィ。怪我は無いのか。」
「ええ。おかげさまで。」
「そうか。っつ…これは無事じゃ済まなかったのは、俺のほうだったみたいだな。」

ロイドが右手の包帯を見て苦笑する。
その仕草は、周囲に様々な表情の変化を与えた。
無論彼はそれに気付かない。抱きついてくるキーアを優しく左の腕で抱きかかえ、鼻先をこすりつけてくる無邪気な愛撫に身を任せていた。

「まあ安心しな。全部終わったよ。俺としては楽しかったぜ。またロイド作詞の一幕するときは遠慮なく言ってくれ。」
「…ランディさんの演技にはなにやら日ごろの鬱積が篭っていたように見えましたけど。」
「はーっはっは!さーてお兄さんがうまーい飯つくってやるよ!」

152:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:59:07.56 GLr7oSXO
ランディがリンゴの芯をしゃぶりながら一階へ降りていく。

「今回は名目もあるのですから、今のうちに休んでおくと良いかと。それも、リーダーの仕事です。」
「あ、ああ。ありがとうティオ。」

彼女も部屋を後にした。

「その、二人とも…。」
「良いのです。ロイド様がご無事なら、それで。」
「そうよ。心配したんだから。」

眉間にしわをたくわえるロイドを慰め、二人は立ち上がる。

「私も、お茶をいれてくるわね。」
「わたくしも。ロイド様、どうか養生なさってください。」
「ああ。そうさせてもらうよ。」
「おやすみなさい、ロイド!」

残りの一同も部屋を去る。

「まいったな…ある程度自己管理はしていたつもりなんだけど。一日ごっそり寝て過ごすなんて。」

ふとベッドの下を見ると、ツァイトがうずくまって寝ていた。

「はは、一応守ってくれてる、のかな。」

返事は無く、その尾が左右に二度、振られただけだった。

***

―明日になれば貴方は、発ってしまう。

「ん…。」

―どうして?わたくしの事が…お嫌い?

「む…む。」

―お願い!どうかわたくしを…

「…んんんっ!?」
「ロイドさま。」

ロイドが目を開けると、眼前にアロネの姿がぼんやりと浮かんでいた。
ぼんやりとは一瞬の事で、直ぐにその鮮明な全様が飛び込んでくる。そのほとんどを濡れた磁気のように艶を帯びた肌の色が占めていた。

「アロネ?こ、これは一体…。」
「やはり、まだ充分の休息ではないのですね。わたくしがこうしてお待ちして、一時間目覚めないのですもの。」

ロイドを四肢で跨ぎ、はだけた前を隠そうともせず、アロネは彼を真っ直ぐに見つめていた。
状況の整理が出来ないままうろたえる様に、くすりと微笑む。

「変わってませんのね。思い出しますわ…。一年前もこうして貴方にお情けをと。」
「ああ…いや、それはともかく一時間も?いそいで服を。」
「ロイドさま、お願い。」

153:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:00:39.92 GLr7oSXO
焦るように、アロネはロイドに抱きついた。
柔らかな重みが胸にかかり、ロイドの腕を止める。それは抱きつくというよりは、しがみつくといったほうが正しかった。

「どうか、わたくしを…抱いてくださいませ。」

この時、支援課のビルを、三階を中心に異様な緊張感が支配していた。
二階の部屋には、ランディがくつろぎ、一階ではツァイトがキーアの遊び相手をしていた。
セルゲイが居ないのはいつもの事だが、この雰囲気の異常さは、一階玄関から入っても感じ取ることが可能であろう。

事件を終え、アロネはお願いがあることを告げ、こう続けた。

「わたくしとロイド様に、二人でお話する時間を下さいまし。」

ランディ、キーア、そしてセルゲイからすれば、何故改めて今頃とも思えるものだったが、女性陣は流石にその意味を汲み取れないほど鈍感ではない。
エリィはもとより話しをつけてあったのだろうか。穏やかではないにしても承諾していた。
しかしあと一人の表情は、瞬間明らかに不満を浮かべたことは、誰にも悟られていない。

「アロネ…。」
「一年前のあの日からずっと、この気持ちに変わりはありません。愛しています、ロイドさま。」

見つめあう二人の影が、ベッドランプのほのかな灯りにより、しかし鮮明に壁に映し出される。
その距離は徐々に縮んでいった。
そのアロネの部屋の壁一つとなり、即ちティオの部屋に、愛を育もうとしている二人の部屋側に、ぴったりと背中をつけて座る来客が居た。

「…お疲れなら横になったらどうですか。エリィさん。」

顔を横に逸らし、耳を立てようとしていたエリィが、ハッと向き直る。

「い、いいえ、いいの。これでも十分楽だから。ごめんなさいね急に。なんだか話し相手が居ないと落ち着かなくて…。」
「…別に構いませんけど、お話をしていても落ち着かないみたいですね。」

エリィは先ほどから髪をなぶり足を摺り寄せ、それはまるで雨に踊る百合の花のようだった。
その姿に、ティオは確かな不快感を覚えていた。
彼女はロイドの掌の傷の意味を理解していないのではないか、だからこんな彼女らしからぬ行為に出ているのではないか。
いつしか疑惑は嫉妬を混じえ、怒りへと代わる。
深淵に渦をまきはじめたその怒りは、顔を出すのを待ち構えながら水面を揺らす。

「そんなに気になりますか。お隣さんが。」
「そういうわけではないけど…。」
「ご安心ください。ロイドさんはにぶちんもびっくりの、超一級のにぶにぶですから。それに二人の会話は聞き取れますから大事に至れば把握できます。
前の事件が解決したときの夜だって…」
「えっ…?」

ティオはしまったと口を塞ぐ。いつの間にか渦は表に至り、言葉として出ていた。
それが衝動的な感情であれば、ティオにはありえない失態だった。エリィのほうを見るのがためらわれ、彼女は顔を伏せ、続ける。

「…ですから、気にしなくても大丈夫です。盗み聞きが得意なのは、私一人で十分です。」

吐き捨てるように言い切る。
耳を塞ぎたくなるように頭が鳴り痛んだ。浮かぶのは、居場所が消えるであろう事に対する後悔、そして純粋な恐怖だった。
伏せた顔から、光の感触が消える。彼女は体をこわばらせ、歯を噛み締めた。

「……?」

頬に飛んでくるであろう衝撃は、まったく違う感触として彼女に届く。

154:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:02:07.21 GLr7oSXO
「エリィ…さん?」
「ごめんね、ティオちゃん…ごめんなさい…。」

エリィが謝っている。それが何故なのかティオには理解できなかった。
おいたをしたのは自分であり、それは情事の盗聴という、世間ではおよそ許されないことであり、それを暴露した自分に待っている結果は、痛みのみのはずだった。

「どうして、謝るのですか?理解できません。」
「アロネが言ってたの。ティオちゃんが、ロイドの事を好きだって…。」

ティオの顔がみるみる朱に染まる。

「ち、違います。そんなこと、真に受けないで下さいっ。」
「私だって、根拠もなくこんなこと言わないわ。意識して気づかなっただけで、思い当たるフシは沢山あるもの。
だから今解かったの。ティオちゃんの気持ち。」
「なんでそう言い切れるんですか…。」

エリィは腕の中で、小さな体が震えるのを感じ取りながらも、続ける。

「ティオちゃんは、出会ったときからすごく可愛くて、素敵だったわ。でも、最近はその比じゃないもの。」
「…。」
「嬉しかったり、怒ったりしたときも、顔に良く出るようになったわ。さっきみたいに。
それが誰のせいなのか…考えないようにしてきたけど。」

自分の心のうちを見透かされることほど、気分の悪い事はない。
ティオは渦に飲まれたままの自分を意識しながらも、抑えられずには居なかった。

「それと、謝ることと何か関係があるんですか?。」
「私がティオちゃんだったら、耐えられない。ティオちゃんだって、あの日のロイドが普通じゃなかったことは、気づいていたでしょう?
私は舞い上がってしまっていたの。あなたの気持ちも考えないで…。」
「…そうだとしても、どうして…」

ティオがエリィの腕を押し戻し、真正面から見つめる。

「どうして、ロイドさんの事を信じてあげられないんですか?あの人は…あの人は本当にエリィさんの事が好きなんです!」
「ティオちゃん…。」
「そうじゃなければ…あのナイフだって…。」

エリィはまだこの週の疲れが抜け切っていない表情で、それでも精一杯に微笑む。

「解かってるの…ロイドが、守ってくれたことの意味。信じていない訳では、けっしてないけど、万が一ロイドがアロネさんと、その、そういう事になっても、止めるつもりはないわ。」

え、とティオが声にもならぬまま驚きの表情を浮かべる。

「だって、私にとってもそうなように、彼女にとって、大事な存在なんですもの。一年越しの想いを邪魔をする権利は、今の私には無いわ。」
「…。」
「でも、現実を受け入れるために、直接自分の耳で確かめたかったの。ただ、それだけ…。だからこんなこと…。
笑っちゃうくらいに、独りよがりだけど。」
「…エリィさん。」

155:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:03:50.51 GLr7oSXO
その時ティオの耳に届いたのは、エリィの告白だけではなかった。

「…エリィさんなら…きっと、大丈夫です。」


「…どうしても、抱いていただけないのね。」
「ごめん。アロネ。君が嫌いなわけじゃないんだ。」

ロイドはアロネを抱きしめたまま、天井を見つめていた。

「昔言っていた、想い人が、見つかったからですの?」
「想い人…そんなことも言ったっけか。」
「ええ、おっしゃいましたわ。顔もわからない、声も思い出せない、と。」

ロイドは苦笑した。アロネを抱きしめたまま上体を起こし、彼女の肩を掴む。

「そうだな、見つかったのかもしれない。いや、見つかったんだな。」
「エリィさん…なのですわね。」

ロイドは頷くかわりに、僅かに視線を傾けた。

「わたくしは…貴方の心に彼女がいることも、勝ち目が無いことも存じてますわ。」
「…。」
「でも、二番目以降でも良いの。事故と想っていただいても構いませんわ。一度だけ、どうかわたくしに、貴方への想いを…。」
「尚更、出来ないよ。」

ロイドはアロネの髪をそっと撫でる。

「君みたいに綺麗な人を、事故扱いで抱くなんて。それに…エリィは、俺にとっての、一番じゃないんだ。唯一人、なんだ。」
「…」
「この先、もし俺が好きになる人が出来るとしたら、それはエリィの別の一面に対してだろうし、浮気するとしても、雰囲気が違う、髪型の違う、エリィが良いんだ。」

そこまで言いながら、ロイドはかすかに照れたように頬をかいた。
アロネはしばらく悲しそうな瞳を彼にむけていたが、やがて笑みに代わり、自らの腕を抱きすくめる。

「ふふふ、やっぱり、あなた様は、わたくしの真の理想のお方ですわ。」

(本当の意味で…だからこそ、届かない…。)

「でも、君は俺の大事な親友だ。そうだろう?」
「え?きゃっ…。」
「だからこうして、一緒に寝そべって、昔のことを話すのなら、誰にも咎められないはずだ。」

ロイドは自分の毛布をアロネにかけると、背に手をまわし、自分の隣に横たわらせる。

156:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:05:20.30 GLr7oSXO
「これくらいしか、俺には思いつかないけど、だめかな?」

アロネは少女のように笑い、すこし目尻を拭き、彼の肩に頭を寄せた。


「…だから、ずっとロイドさんの傍にいてあげてください。」
「…。」
「私が好きなロイドさんは、きっと、『エリィさんの事を好きでいる』ロイドさんなんです。」
「ティオちゃん…。」
「支援課の皆も、ランディさんも、ツァイトも、キーアも、セルゲイさんも…皆好きです。
エリィさんのことも…大好きですから。」

エリィは泣き出しそうな顔で、たっぷりの羽毛を持つ親鳥のように、ティオを包み込む。
その腕の中、くすぐったそうに眉をひそめ、しかしその体のふるえはすでに止まり、ティオは、心地よい温もりに身を任せていた。

そして、いつかのウルスラでの出来事を思い出していた。
あの時、心の暗闇に灯った、近く、大きく広がる、血の巡る月の光。
そのパールグレイは、月の表面ではなく、エリィより美しく流れる、髪の輝きだった。

157:名無しさん@ピンキー
11/06/09 00:11:18.06 IEpw5f9z
以上です。
失敗してしまって本人にもこのスレ見てくれてる人たちにも迷惑かけてしまい、大変申し訳ございませんでした。
これからは同じ失敗のないように精進していくので、今回はどうかお許しくださいm(_ _)m

158:名無しさん@ピンキー
11/06/09 07:58:33.23 Zx4AS6nM
続きキター! GJ!
浮気も、雰囲気と髪型の違うエリィが良いなんてカッコ良すぎるぞ攻略王!

>>165
どんまい。気にするなー。


159:名無しさん@ピンキー
11/06/09 10:33:55.63 r9riyVEi
なんだよ陵辱物じゃねーのかよ死ねよ糞カスww

160:名無しさん@ピンキー
11/06/09 11:14:08.59 IWyVZQFj
純愛ラブラブちゅっちゅが好きな俺は
凌辱はちょっと・・・

161:名無しさん@ピンキー
11/06/09 11:53:43.77 BxDFaxuj
エリィかわいいマジかわいい

162:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/09 19:20:07.13 hyfYkAu/
某所でエリィ陵辱絵見たけどやっぱり純愛の方が良いな。
と言うか調教とかマジ無理

163:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 12:35:19.31 uMJWF2M2
最近は寝取られとかデブとか人気あるみたいだけど
そっち方面ならok?

164:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 13:10:20.89 rjLAZQgp
御免なさい無理です

165:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 13:14:45.92 LNk8Scer
寝取られ大好き
でも書く時は注意書きをしないと駄目だろうね

166:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 14:32:40.05 rjLAZQgp
寝取られよりやっぱり純愛の方が好きだな

167:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 16:34:46.51 McWoY8wt
>>174
同意。

168:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 16:40:09.49 rjLAZQgp
でもワジノエは何故か調教一歩手前な妄想しか出来ない。

169:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 19:57:52.89 737UV3TA
分け身リーシャを次々攻略するロイドで誰かお願いしまつ

170:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 04:11:45.41 CcMwzJny
>>174
自分も同意。

171:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 08:53:04.19 jDMpU2Fu
んだんだ

172:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 11:03:59.17 e4+XQsbh
グルーダをアドルに寝取られたエルディールが、当て付けにドギと…
みたいな地獄の様な設定でどなたかお願いします

173:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/12 14:05:46.09 dHePh5cO
アガッさんとヨっきゅんの両腕脚きりおとして達磨になってる目の前で
ティータちゃんとエステルちゃんをボコボコにしながら犯しまくりたい^^
死なない程度にボコりつつ妊娠するまでひたすらやりまくって
赤ちゃん産まれるまで全員虫の息で生存させといて、
やがて出産になったら産まれた赤ちゃん踏み潰してアガッさんとヨっきゅんに美味しく味あわせたい

174:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/13 12:07:15.27 ug+TgUKg
ヨシュアやアガットが知らないところで犯されるティータやエステルが見たい。
そしてそのことがばれた時の反応が楽しみ

175:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 00:34:16.49 iUQbUXOK
シャーリィはこのスレでネタにされそうな気がする
あの世界であんなに露出が多い格好だからなぁ

176:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 02:31:44.57 XicsqzaE
くそっ!ロイドとエリィのイチャラブとか淫乱痴女なエリィさんとかばっかり浮かびやがる!


177:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 09:40:12.60 NVCUvmic
後者はロイドを襲うのか。
ランディの入れ知恵でドSを演じるエリィとか面白そう

178:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 20:03:17.62 PUZqQDEs
そして途中でスイッチが入っちゃって股間がバーニングハートなロイドさんと立場反転しちゃうんですね

179:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 20:15:11.08 NVCUvmic
ありえそうですね。
後ワジノエは途中でワジにおねだりするノエルさんとか

180:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 16:56:04.48 CFfgRXGh
特務支援課解散から再結集まで間が空いてたら、エリィさん悶々とした日々送ってそうとか
考えてしまう。手紙すら送ってこないロイドさんを思ってオナヌー三昧とか

181:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 18:17:10.33 w3yz9BAM
ロイドさんをネタにオナヌーは零2章以降ずっとやってそう

182:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 19:08:09.31 QvGRZN2h
ノエルさんはオナヌーせずに訓練で発散とか。
そしてワジに色々されると

183:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:48:09.99 usJ1J9jV
零って百合もいけるよね。エリィ×ティオとかセシル×エリィとか。

184:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:57:24.81 CFfgRXGh
マリアベル様がみてる


185:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:05:20.17 wmZT5RNk
ワジの詐術に引っ掛かって手の平で転がされるノエルが容易に想像できる

186:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:05:51.77 usJ1J9jV
お姉ちゃん感じているの?とかが容易に想像できる

187:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 12:36:55.35 gsB+qO0W
ビッチなエリィさんも見たい

188:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 02:16:02.38 Q6oryLa6
支援課解散の夜に、ロイドを誘い出して続きの確認をするエリィをみたい

189:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 09:11:09.60 M3Kehb0B
お風呂でロイドにご奉仕するエリィさんとか

190:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 22:54:51.73 YR9Hm8uI
色々想いが爆発しちゃってロイドを押し倒すエリィが見たい


191:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 12:17:40.88 82Vr6YZL
セシルとイリアに翻弄されるロイドも良いと思うんだ

192:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 01:21:11.10 JFVK/E/I
マクダエル議長に曾孫の顔を見せるために頑張るロイドさんがみたい

193:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 11:35:56.81 +aO9e9J2
ロイドもそろそろエリィをオカズにしたりしそう

194:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 17:46:15.20 dakf63e2
セシルさんに似てるモデルが出てるグラビア雑誌を愛用してそう。
それをエリィが見付けて…

195:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 23:48:55.35 OZKEfZlO
エリィさんがロイドの部屋を漁ってオカズゲットしてたりしそう

196:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 01:04:13.13 B80HPgnG
エリィさんはロイドの下着の匂いかいでそう

197:Kメンテ
11/06/30 02:00:12.41 vwIHmbyD
どうしてそうも変態と化すw

198:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 06:34:53.12 KUg+hUPX
いけないと思いつつしちゃうとかあると思います。ロイドの名前いいながら、燃えてしまったり。
で、ロイドさんにみつかると。

199:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 10:39:23.74 Qp/Zslpx
ニヤニヤ

200:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 11:50:28.19 jL311HkX
そしてシャツに下着姿で自慰していた光景が焼きついて眠れないロイドの為に、
勝手に色んなもの使ったお詫びとして生のおかずになる展開まで追加

201:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 14:04:21.12 Qp/Zslpx
裸エプロンやお風呂に入ってる時にご奉仕とかも良いよね

202:名無しさん@ピンキー
11/07/01 16:22:28.77 1HtqziEy
触手に襲われそうなノエルさんに危機一髪でかけつけてくるワジとか

203:名無しさん@ピンキー
11/07/01 22:04:35.51 RKJqmDis
むしろほんとに危機一髪になるまで
「ほらほらおねーさん、助けてー! って言ってごらんよ」とか言って
のんびり観察しているような気がするw>ワジ

204:名無しさん@ピンキー
11/07/02 10:34:41.33 LpJzDxjg
ありえそうで困る。
それで強がるノエルさんとか

205:名無しさん@ピンキー
11/07/03 10:10:24.07 v1p/TsPj
触手に捕まって、ノエルの太ももをそれが這い、乳房をしめあげられて、胸の頂を細い触手がはじいているのに、ワジさんなら興味深げに「今のお姉さん、色っぽいよ」とかいいかねない。

206:名無しさん@ピンキー
11/07/03 10:58:32.52 e3zHdc9J
ワジなら余裕でやりそうで困るw


ランティオSS中編投下ー。
前編は>>131-139

207:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・1】
11/07/03 11:01:34.10 e3zHdc9J


 やっと見つけた、暖かい灯り。
 今度は眺めるだけにしない。
 絶対に、手に入れる……。


※※※

 静寂というのは、近くに人がいるかいないかで随分変わってくるものですと、最近は特に思う。
(キーアはツァイトと一緒に部屋で寝てて……エリィさんは今夜もロイドさんの部屋へ行ったようで
すね)
 仕事も夕食も入浴も終えた夜遅く、ティオは自室にて聴覚をフル解放し、支援課ビル三階フロアの
様子を一気に確認すると、ふぅっと息をつく。
(……エリィさんとロイドさんは、今夜も奏でているのでしょうか……)
 恋人達の愛し合う声と音―世界で一番優しい音楽を。
(わたしは、まだ奏でる事も聞く事も出来ない音楽……)
 そう考えた途端に、ティオの胸の中へ氷の塊にも似た絶望感がストンと落ちてくる。が、首を軽く
数度振って、気持ちを奮い立たせる。
(ランディさんは、順番を経て恋人同士になったら聞かせてくれると約束してくれました)
 ならば今は。
「……わたしに出来る事を始めましょう」
 誰ともなく口ずさむと、ティオは部屋の明かりを消した。
 暗闇の帳が部屋の中へ落ちてきた数秒後、窓の外から差し込む街明かりが室内の様子をぼんやりと
浮かび上がらせる。
 ティオは棚に飾ってあるみっしぃのぬいぐるみを持ち上げると、後ろに隠してあった香水の瓶と一
緒にベッドに持ち込んだ。
 ごつごつ角張ってて少し無骨な印象を与えるデザインの香水瓶。蓋を開けると、中に詰まっていた
香りがふわりと浮き上がってくる。
 ティオは少しの間目を閉じ、香水の―ランディが愛用している香水の匂いを堪能すると、抱えた
みっしぃのぬいぐるみに香水を数滴垂らした。
 瓶の蓋を閉めてサイドテーブルに置くと、みっしぃのぬいぐるみを両手で抱き締め、背中からベッ
ドへ飛び込む。
 スプリングが揺れて背中を震わせる中、ティオはパジャマの上着のボタンを外した。
 控えめな丘陵を描く自身の胸元へみっしぃのぬいぐるみを乗せ、左手で押しつけるように抱える。
それから、右手をそっと下へ滑らすと、履いてるパジャマのズボンとパンツを下げた。
 雪のような白い肌と、その中に埋没しそうな程ささやかな茂みを生やした下腹部が露わになる。
(大丈夫だ、問題ない。練習なのですから)
 未だキス止まりで先に進まない状況を打破し、世界で一番優しい音楽を奏でる為の練習なのですか
ら。
(……とは思っても恥ずかしいものです……)
 ティオは聴覚をもう一度フル解放して誰かが来る様子が無いのを確認すると、右手を下腹部の下へ
滑り込ませた。
 茂みを乗り越え、股の中へ右手の指先が潜っていく。
「んっ……」
 外から一番離れた場所に咲く小さな花弁へ中指が触れた途端、ティオの口が自然と声を零した。
 みっしぃのぬいぐるみを強く抱き締め、垂らした香水の匂いを目一杯吸い込むと、ティオは指を曲
げる。
 花弁が開き、蜜壷へ繋がるクレバスへ中指の先が潜り込む。ぬるっとした弾力が指先と股にきて、
頭の奥に針で刺されるような刺激となる。
「ん……んんっ……!」
 ティオが思わず目をつぶって身体を固くする。光を遮断した意識へ、肺と鼻腔に吸い込んでいた香
水の匂いが流れ込み、彼の姿を記憶の中から引き出してくる。
 そのイメージを胸に抱えているみっしぃのぬいぐるみへ転化させると、ティオは右手を動かし始め
た。

208:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・2】
11/07/03 11:06:40.35 e3zHdc9J
 中指に続いて人差し指と薬指が、クレバスから蜜壷へ潜り込む。
 閉じていたお腹が内側からぐっと押し開かれる感触と共に、指先が熱くなって濡れてきた。
「ふっ……くっ……はぅっ……」
 外へ響かぬよう声を抑えて喘ぐティオの下腹部から、くちゅ、くちゅ、ちゅっ……と、少し遠慮が
ちな水音が響き始める。
 目を閉じたまま身体を揺するティオに合わせ、みっしぃのぬいぐるみも胸元で小刻みに動く。香水
の匂いをまとったぬいぐるみの毛がティオの胸や乳首をこちょこちょくすぐり、その刺激にティオが
思わず目端を歪ませ切なげな声を漏らす。
「はっ……は、ぁ……っつ……!」
 部屋の外に漏れ出ないよう抑えていた声が、徐々に大きくなっていく。
 第二関節の途中で侵入を止めていた指がどんどん深く潜り込み、蜜壷の中を単純に擦るだけだった
動きに関節をグネグネ曲げる変化が加わる。
 指先で開けた花弁のクレバスから出る愛液も量を増し、シーツの上へポタポタッ……と、雨粒のよ
うに落ちて染みを作っていく。
 乳首も自然と尖り、そこをみっしぃのぬいぐるみが愛撫するように擦っていく。そのくすぐったさ
に唇が勝手に緩んで声を漏らした。
「はぅんっ……!」
 耳へ流れ込んできた自分の声の気恥ずかしさに、ティオが思わず手を止め顔を熱くする。もし今目
の前に鏡があったら、一体どんな格好が映るのか―考えただけで頭の中が恥ずかしさに煮え立つ。
 お腹の方でも蕩けるような感触が走ったかと思うと、ぐじゅっ……と、右手の指の付け根が熱く濡
れた。
(え……?)
 右手を止めているのに股から零れてきた愛液にティオが驚き、目を開く。
(……これが、気持ち良いという感覚……?)
 古ぼけて塗装が少し剥げかけた天井を見つめたまま、誰に問う事もなく思うティオに、みっしぃの
ぬいぐるみへ垂らした香水の―彼の香水の匂いが鼻先を掠めていく。
 それで途中だった事を思い出し、ティオは再び瞼を閉じた。
 蜜壷へ差し込まれた右手を再び動かし、くちゅ、ぐちぅ、と粘りけのある水音を奏でていく。
「ふっ……んっ……」
 弾力のある蜜壷の肉壁を指先で圧して凹ませ抉る度に、綿でそっと撫でられるようなくすぐったさ
が神経を痺れさす。
 足や腰がもがいてベッドを弾ませ、反動で、ぬいぐるみを抱えていた左手が横にずれた。
 ぴんと尖った乳首へ指先が触れるや、胸の中でくすぐったい気持ちが弾けて全身に駈け巡る。
「あぁんっ!」
 ベッドの上でティオの身体が魚のように飛び跳ね、スプリングが音をたてて軋む。
 蜜壷に差し込んだままの右手の中へ、とろっ……と、熱い愛液が垂れ落ち、掌から零れてシーツに
染みをつくった。
(これ、は……)
 予想以上の気持ちよさと自分の反応に、ティオが目を開いて驚く。
(もしかしたら、今日こそ、いけますか……)
 そう思った途端に胸が高鳴り、左手が勝手に乳首を摘んでいた。


209:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・3】
11/07/03 11:09:41.42 e3zHdc9J
「あぅっ……!」
 ティオが身動ぐ下で、彼女の右手が蜜壷の中で勝手に蠢く。もっと大胆に肉壁へ触れてしごいて押
し広げていく。花弁から愛液を吐き出させ、ぐちゃねちゅといやらしい水音を奏でさせる。
 先に動いた左手も負けじと、摘んでいた乳首を揉みほぐして引っ張ってギュっと押し潰して、胸か
ら全身へ快楽の電流を走らせる。
「あ、っは、ふぅっ、んぁっ、あぁっ!」
 恥ずかしいという感情は全身を巡る気持ち良さに押し流され、小さな唇から漏れ出る声が艶と音量
を増し、花弁から響く水音と一緒に部屋の中で響きだす。
 ベッドの上に横たえた身体がもがくように弾み、うっすら汗をかいて赤らんだ顔の周囲でライトブ
ルーの髪が乱れ舞う。
 薄く開いた瞳は、花弁から出る愛液の量が増えるにつれて焦点を失い、ティオの脳へ届く映像のイ
メージがぼんやりしてくる。
 胸に抱えたみっしぃのぬいぐるみが、摘まれてない方の乳首をわさわさ擦りつつ、香水の匂いを周
囲に撒き散らす。視界が曖昧になってきたティオへ香水の匂いを―彼の匂いを、強く強く押しつけ
てくる。
 その匂いが―匂いから湧き出た彼の姿のイメージが、最後の一押しになった。
「っ―!!」
 快楽が刃となってティオの意思や思考をぶった切る。全身を心臓に変えて脈動させる。
「ふぁああぁ……っ!」
 口が大きく開いて声をあげ、両足がぴぃぃん……とまっすぐ伸びて小刻みに痙攣する。
 右手を咥え込んだ蜜壷と花弁も大きく揺らぎ、大量の愛液を勢いよく吐き出す。
 やがて、花弁から迸る愛液の勢いが止まった頃、硬直していたティオの身体がぐにゃりと解けた。
「はぁっ……はぁっ、はぁっ……」
 荒い息をつきながら、ティオがベッドへ身を沈めていく。差し込んでいた右手をそっと外して顔の
前までもってくると、掌や手首はもとより、前腕の中程にまで愛液の飛沫がとんでいた。
(これ、が……イくという感覚……)
 前腕についた飛沫を見て物思いにふけっていたティオは、ふと思い当たって視線を下へ向ける。と、
太股の膝に近い辺りや、みっしぃのぬいぐるみの尻尾まで愛液の飛沫で濡れていた。
「……想像以上、です……」
 でも、これで。
「やっと、ランディさんと、キスから先に進めます……」
 世界で一番優しい音楽ヲ奏デル事ガ出来マス。
 安堵するように口ずさみながら、ティオは窓の方へ顔を向ける。
 夢見るような輝きを瞳を浮かべた彼女の顔が窓ガラスに映り込み、夜闇に沈んだクロスベルの町並
みと混ざり合った。


210:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・4】
11/07/03 11:13:27.00 e3zHdc9J

※※※

 甘い匂いのないお菓子屋さん。それが、百貨店≪タイムズ≫にある女性下着の専門店へティオが抱
いた第一印象だった。
 所狭しと陳列された様々な色やデザインの下着類。それらを照らす無数のスポットライト。
(これだけ色鮮やかなのに匂いは違うと、かえって妙な感覚があります……)
 色彩の洪水に少し気圧されつつも、ティオはカゴを取って店内へ入った。
(ランディさんへのアピール用の下着……どんなのが良いのでしょうか……)
 黒や真っ赤などの原色を多用した、大人っぽくて派手目なのか。
 それとも、白とかピンクにフリルやレースが山とついた可愛らしさを全面に押し出したモノか。
 いやいや、ここは自分らしく、みっしぃがあしらわれた奴とかどうだろう。丁度そこにコーナーが
あ……。
「る……!?」
 店内を回っていたティオの足が、みっしぃ関連のコーナーの前で止まる。
 みっしぃのイラストが布地にプリントされたモノ。ブラのカップがみっしぃの手になっているモノ。
中には、みっしぃの尻尾が生えているパンツまである。
「何ですか、このけしからんみっしぃ達は……!」
 ティオの手が、目に付くみっしぃの下着を片っ端から放り込んでいく。みっしぃがプリントされた
奴は何着か愛用しているが、ここで売られているモノは、布地の質や縫い目の丁寧さが明らかに違う。
「これはこれで良い買い物が出来ました……」
 ほぅ、と満足げに息をついた後、ティオはカゴに入れたモノの値札を確認する。……下着の質の良
さの分、値段も今まで買ってきたのとは段違いだった。
「あら、ティオちゃん?」
 手の中のカゴを見下ろしたままティオが固まっていると、後ろから聞き慣れたエリィの声がかかる。
「こんな所で会うなんて、奇遇ね」
 ティオが少し驚きながら振り返ると、エリィも少し驚いた風に目を丸くして寄ってきた。
「……このコーナー、ティオちゃんが見たら絶対夢中になると思ったわ」
 みっしぃの下着類が並ぶ棚へ視線を飛ばすと、エリィが瞳を綻ばす。
「もし良かったら、一つプレゼントで買ってあげよっか?」
「えっ……良いんですか?」
「ええ。だってティオちゃんにはいつもお世話になっているし」
 意外な申し出に思わず顔を明るくするティオに、エリィが微笑んで頷いてきた。
「すいません、助かります……」
 ティオはぺこりと頭を下げると、カゴの中に入れていた奴の中でも一番安いの―それでもそれな
りの金額だったが―をエリィに差し出す。
 エリィは迷わず受け取ると、自分のカゴへ入れた。
 桜色の布地にクリーム色の飾り紐が縫いつけられた下着や、ミント色の総レース布地をベースにし
た上に肩紐やカップをピンクのチュールレースやら小さなリボンやらで飾り立てた下着、紺色の布地
に同色のレースで構成されたシンプルな下着などの上に、ティオのみっしぃ下着が乗っかる。
「あ、やっぱりエリィさんもロイドさん用のを買いに来てたんですね」
 エリィのカゴの中身を見てティオが何気なく言った途端、ぼんっ! と、火が音を立てて膨らむか
のようにエリィの顔が茹で上がった。
「いえあのその仕事の時に着けようかなーって思っているのもあるから!」
(エリィさん……言い訳どころか思いきり肯定しています)
 顔を真っ赤にして騒ぐエリィに、ティオは唇を結んで突っ込みたい気持ちを抑えた。
「すいません、エプスタインジョークです」
 代わりに、いつもの淡々とした口調でティオが返すと、エリィがやっと落ち着く。
「もうティオちゃんってば……!」
 ぷくー、と頬を膨らませて軽く怒ってくるものの、赤みの残滓がついた顔はとても幸せそうだった。
(あぁ、やはり世界で一番優しい音楽を奏でている人は違いますね……)
 どれだけロイドさんと慈しみ合って、愛し合っているのでしょうか。
 エリィを見上げるティオの心が、羨望と嫉妬で少しだけ尖る。
(わたしも、早くそうなりたい……)
 早ク、世界で一番優しい音楽ヲ奏デテ、コノ胸ノ奥ニ温モリヲ灯シタイ。
 期待と決意を込めてティオがエリィに笑いかけていたら、棚の向こう側に黄金の髪と鳩羽色の髪が
見えた。



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