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粉乳にも死の灰
荒垣秀雄
朝日新聞 天声人語 昭和32年10月16日
赤ちゃんの飲む粉乳にまでセシウム137が入っているという。
それがすぐ乳幼児に危険だというほどでもないらしいが、なんにでも放射能汚染物質が忍び込んでいるのには驚かざるを得ない。
これはみな米英ソ三国の核兵器実験の影響にほかならぬ。
群馬大学の山形登助教授の化学分析によると、四大メーカーの粉乳にはいずれも一ポンド入り一缶についてセシウム137が180から420マイクロ・マイクロ・キュリー検出されたという。
昨年の夏、京大で粉乳を調べた時よりも四、五倍から十倍余りに増えている。
度重なる核爆発実験で、日本に降る死の灰がますます蓄積されていることを示すものだ。
日本人は米食民族だから、まず米を調べたところがストロンチウム９０が多く含まれていることが分かった。
次に人工栄養児の主食たる粉乳を調べたら、セシウム137が出てきたというわけだ、これでは親も子もなし崩しに冒されてゆく。
英国でも牛乳の放射性物質騒ぎがあった。コールダホール原発そばのウィンズケール原子力工場でのウラン過熱事故から、付近の農場でしぼっている牛乳の中に国際的許容水準の6倍の放射性ヨードが含まれていることが分かりミルクの搬出を禁止されている。
さきごろアメリカで起こった日本製オモチャの有毒騒ぎは、米国業者の悪宣伝と分かって無害と決まったが、セシウム入り粉乳のほうがもっと深刻な恐ろしさである。しかもその灰は空から無関税で入ってる。
アメリカやソ連の粉乳にはそんなものは入っていないのであろうか。
そういう科学分析はしていないのであろうか。
日本には、学者の分析に誤りの無い限り、米から粉乳にいたるまで、ほとんどあらゆるものに放射性物質が潜りこんで、日本人の骨や血液や遺伝子を汚染しつつある。
米英ソの母親たちがそれぞれの自国政府を動かして、一日も早く核実験をやめさせてもらいたい。