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5年前の日中摩擦は?説得力もたない日豪EPA反対
グローバル投資のポイント 第35回-村田雅志
日本政府は、12月5日の関係閣僚会議で、オーストラリアとの経済連携協定
(EPA)の交渉を進めることを正式に決定しました。フィリピンで予定されている
12日の日豪首脳会談で合意した上で、年明けから交渉が開始される見込みです。
経済連携協定(EPA)とは、ヒト・モノ・カネの経済取引の障害となる壁を相互に
撤廃する協定のことです。協定が結ばれると、協定国の間の関税や非関税障壁が
取り除かれますので、貿易が活性化するほか、国内の産業構造の変革を通じて
競争力が向上するなど、幅広い経済効果が期待される、といわれています。
しかし、日本政府がオーストラリアと経済連携協定の交渉を開始させることに対し、
農業団体、農林水産省、自民党の農水族議員などは、強い反発を示しています。
なぜなら、今回の交渉では、米、小麦、乳製品、砂糖など、日本が高い関税を
かけることで保護している品目(いわゆる重要品目)を関税撤廃の対象から除外せず、
全品目を関税撤廃の協議対象としているからです。
農林水産省は、農産物の輸入にかかる関税を撤廃すれば、牛肉で2500億円、
小麦で1200億円など、およそ8000億円の国内農業生産が減少し、国内の農家に
打撃を与えるという試算を示し、重要品目の関税撤廃議論を暗に批判しています。
また自民党の農水族議員は、オーストラリアとの交渉では、重要品目を関税撤廃の
対象から除外し、再協議の対象とするよう努力することを政府に求める決議を採択しました。
そして日本政府の一員である松岡利勝・農林水産大臣は「重要品目は全部守り抜く
決意で交渉に臨む」と述べ、国内への影響が大きい農産物を関税撤廃の対象から
除外するよう求めるとともに、交渉が難航すれば、いったん中断する可能性も
あるという考えを示しています。
オーストラリアは農業大国として有名であり、農産物の価格競争力は世界的にみて
高いといわれています。このため、仮に日本の関税が撤廃されれば、オーストラリアから
輸入される農産物は、国産品に比べ安くなり、日本の農業生産が縮小する可能性が高まります。
特に、これまで高い関税で保護されてきた米などの重要品目は、今まで輸入品との
価格競争に巻き込まれていなかっただけに、関税が撤廃されれば、輸入品にシェアを
大きく取られる場合もあるでしょう。つまり、農林水産省、自民党の農水族議員などが
指摘する内容は、単なる脅しではなく、ある程度、真実味のあるものと思われます。
海外から安い農産物が輸入され、結果として日本の農業生産が減少する可能性が高まる、
という議論を目にすると、ねぎ等3品目を日本に大量に輸出していた中国を事実上の
対象国として、日本政府がセーフガードを発動したことを思い出します。あれは今から
5年前の2001年です。
当時、日本では、中国からの輸入農作物が安い理由として、人民元を人為的に
安くしていることが指摘されました。特に、輸入農作物と人民元レートの操作を
結びつける方々は、中国の輸出政策がアンフェア(不適切)であるとし、
中国は為替レートを変動制にするなど「自由経済のルール」に従った経済運営をすべきと
中国を非難していました。
繰り返しになりますが、今回、日本政府がオーストラリアと交渉するのは、EPAの締結、
つまり、「自由経済のルール」に近づくようなルールを二国間で策定するためです。
私にとって不思議なのは、2001年当時、「自由経済のルール」に従った経済運営をすべきだ、
と中国を非難していた方々が、今回「自由経済のルール」に近づけるような交渉に
強く反発していることです。安い輸入農作物の流入を阻止するために、自らのロジックを
都合よく変えるような方々は、「自由経済のルール」を根拠に中国を非難する資格はなく、
日本の消費者から支持を得られることも難しいでしょう。
(執筆者:村田雅志 株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト)
ソース:中国情報局
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