性別変化(TS)作品発表スレat MITEMITE
性別変化(TS)作品発表スレ - 暇つぶし2ch182: ◆KazZxBP5Rc
08/12/17 02:28:57 HCvFFJ1t
つづく
全8話を予定しています

もうちょっと早く書き上げていればよかった…

183:創る名無しに見る名無し
08/12/17 02:36:57 g24a7Ttm
お姉ちゃんが怪しいな!


184:創る名無しに見る名無し
08/12/17 19:55:46 y2AQ0p6x
ここって二次創作もあり?
衛宮志保とかキョン子とか

185:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:00:51 eb+xEO56
ありあり

186:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:05:06 HCvFFJ1t
>>184
>>1,>>37-39

187:創る名無しに見る名無し
08/12/17 20:07:35 y2AQ0p6x
ごめん
テンプレすらしっかり読んでなかったとか恥ずかしすぎて埋まりたい気分だ

188:創る名無しに見る名無し
08/12/17 21:05:00 hK4X06so
>>182
魔法少女ものだ!
続きにwktkしてます

189:創る名無しに見る名無し
08/12/17 23:13:40 Vrqv+e8y
男の娘魔法少女とはわかってるじゃないか!

190: ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:20:11 nVe+Biu6
続き投下します

191:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:20:57 nVe+Biu6

第2話『謎の仮面男の巻』


―椎名唯人です。俺は今、走っています。

話は前日、唯人が初めてユイに変身した時にさかのぼる。
すんでのところで想い人の雅を助けた唯人は、そのまま一直線に家まで駆け込んだ。
「姉ちゃん! これどうやったら治るんだ!?」
探してみると、姉のつかさは自分の部屋のベッドの上で寝転んで漫画を読んでいた。
「あら、かわいくなっちゃって。」
「そんなことどうでもいいから戻り方を教えてくれ!」
つかさは漫画を横に置くと、起き上がって真面目な顔でこう続けた。
「ごめんね、唯人。いいお嫁さんになれるように、私もできるだけサポートするけど……。」
「……うそだろ。」
血の気がすっと引いていく。そんな。まだ何の覚悟もできてないぞ。
目が合うと、つかさの顔が申し訳なさそうに少しうつむく。
そしてつかさは言った。
「うん、うそ。」
つかさは小さく笑っているが唯人にとっては笑い事じゃない。
一度も返済されたことのない仕返しの残高がひとつ増えた。
しかしそれと同時に胸に安堵が広がったのも事実。
「あ、でも男とキスすると二度と戻れないらしいよ。」
「しねえよ。それより早くやり方を!」
「変身したときと同じようにすれば解けるんだって。」
聞き終わるより早く唯人はステッキに祈り始めた。
また時間の止まるような感覚が襲ってきて、制服姿の椎名唯人が現れた。
「ところで唯人、カバンどうしたの?」
「あ。」
そういえば道に置きっぱなしだ。取りに戻ろうと部屋を出るとき、つかさにもう一声掛けられた。
「明日から五時起きね。特訓するから。」

192:魔法少女? ユイ 2/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:21:52 nVe+Biu6
そんなわけで唯人は今、走っている。
「はぁ、はぁ……、ちょっと、待って。」
「まだ五キロだぞ、だらしない。」
「そんなこと、言ったって、女の体で、これは……。」
「しょうがないじゃない。戦うときはその姿なんだぞ。」
唯人はとうとう道端に座り込んでしまった。
「そもそも、なんで女になるんだよ。」
「女のほうが魔法の伝導率がいいのよ。」
自転車の上のつかさはこともなげに言った。
「じゃあ、生まれながらの女にやらせればいいじゃないか。」
それだけの説明でこう思うのは当然だ。だがつかさはさらに付け加える。
「確かに伝導率は女のほうが上なんだけどね、元から持ってる魔力自体は男女に関わらず個人個人で差があって……。」
「俺には人一倍強い魔力があるけど、そのままだと通りにくいから女にしたってこと?」
「そういうこと。」
ああ、そう。理由は分かったが納得はいかない。
「じゃあ私はこのまま出勤するから、がんばって帰ってね。」
ステッキは家に置かされている。ここまでほぼ直線で走ってきた。つまり男に戻ったり近道したりすることはできない。
これまでの距離をもう一回、か。唯人は溜息をひとつついて元来た道を走り出した。

193:魔法少女? ユイ 3/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:22:22 nVe+Biu6
一時間目は爆睡だった。起床時刻と疲労を考えるとしょうがない。
休み時間に入って誰かにノートを見せてもらおうと思ったところで……。
「きゃあああああ!」
「うわぁああああ!」
悲鳴。上からだ。男女合わせて五、六人といったところか。
教室を出ると見知った顔が一人階段を駆け下りてくる。隣のクラスの神野。
神野は唯人たちのいる階まで降りてきて叫んだ。
「化け物だ! 屋上に化け物がいる!」
神野の周りには既に人だかりができているが、唯人はそれを無視して屋上に向かった。
ちくしょう、こんなに早く来るとは。敵は待ってはくれないか。

194:魔法少女? ユイ 4/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:22:56 nVe+Biu6
みんな逃げ切れたのか、幸いなことに屋上には既に生徒はいなかった。
念のため入り口から死角となるところで変身。
「よし、時間無いからさっさと片付けるか!」
今回の敵はゴーレム。岩の化け物だ。
「ええっと、姉ちゃんの話によると……。」
ボタンの色の赤は炎、青は水、緑は風、黄色は地の属性をそれぞれ表している。
昨日の影の魔物は影だけに強力な光を嫌うのだろう。だから強力な光を発する炎で倒せた。
こいつは何が効くのか。
まずどう見ても炎はダメだ。効く気がしない。
「わっ、と!」
ゴーレムがやたら長い腕を振り降ろしてきた。慌てて飛びのく。
ふとひらめいた。ウォーターカッターというものをどこかで聞いたことがある。それは水を細く噴射し、その圧力で物体を切断したりできる。
「よーし……。」
青のボタンを押した。ステッキの先に水が溜まって浮いている。不思議な感覚だ。
意識をステッキの先に集中すると、勢いよく水が噴出した。試し射ちだったのであらぬ方向に飛んでいったが、これならいける。
腰に左手を当ててゴーレムに右手のステッキを向ける。
「おしおきの時間よ! なんてな。」
後悔は時間差で襲ってきた。何をやってるんだ、こんなの見られたらお嫁に……じゃなかった、お婿に行けない。
恥ずかしさを頭の外に押しやって、ステッキに意識をこめる。
「あれ?」
水は確かにゴーレムに向かってまっしぐらに飛んでいった。しかしゴーレムはそれを大ジャンプでかわした。
「ちょっ、こういう奴って普通重いから動きが鈍いはずだろ!」
文句を言っても仕方がない。唯人はゴーレムに水弾を発射し続けた。だが避ける避ける。ゴーレムは跳ねたり転がったり、的確に水弾をかわし続けた。
それだけでなく、合間合間を狙って向こうからも積極的に攻撃を仕掛けてくる。
「大きいくせにちょこまか……と……え?」
気付いたときには、唯人の体は屋上の外側の宙を舞っていた。

195:魔法少女? ユイ 5/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:23:37 nVe+Biu6
届かないと思いつつも伸ばした腕に、上から抑えられるような力がかかった。
びっくりして見上げると、仮面を被った男が目に映った。
呆然としている間に体は元の屋上へと戻っていく。
「大丈夫?」
何と返せばいいのか。唯人が迷っていると男はさらに言葉を重ねる。
「地学の勉強。」
「へ?」
こんなときに何を言っているんだ。目の前のゴーレムが見えないわけではないだろうに。
「岩石が年月を経ることによって削れることを何と言うか。」
本当に問題を出しやがった。この人は何なんだろう。まさか教師じゃないだろうな。
「君が考えている間に、あの剣を取りに行く。」
「あの剣って……ゴーレムがじゃれてるあれ?」
「そうだ。」
「危ないよ。それに剣なんかで倒せないでしょ。」
じゃないと自分が魔法少女になる必要なんてこれっぽっちも無いんだからな。
「たしかに倒せはしないが……見てのとおり、あの剣には魔物を引き寄せる性質がある。」
男が魔物を引き寄せてる間に考えろ、ということか。
「じゃあ、頼んだよ。」
そう言って男はゴーレムの方に向かって突進した。
こうなると時間が無い。なあに、答えは四択なんだ。
「岩を削る……地震か?」
地のボタンを押しそうになったが、思いとどまった。
「そういえばここは屋上だから、地のパワーを使おうとすると地面との間にある校舎にも影響が出るんじゃ……。」
そうなると今まで頭に浮かばかった風か? 恐る恐る緑のボタンを押す。
風の流れが変わった。それを合図に男は剣を鞘に収め唯人の方に寄ってきた。
「そう、答えは『風化』だ。何千、何万年と風に晒されてきた岩石は朽ちて砂となる。」
「何千年って……。」
「それだけの風を君は起こせる。」
そんなわけ……と反論したかったが飲み込んだ。信じるしかないようだ。唯人はステッキに両手を添えて精神を統一した。
異様な光景だった。ステッキを境にゴーレムの方向にだけ嵐のごとく風が吹いている。唯人の側はいつもどおりの空気の流れだ。
この高さから落ちたらその岩の体が砕かれるのが分かっているのだろう。ゴーレムは落ちまいとこの風に向かってくる。しかしそれが相対的にゴーレムに対する風速をさらに強めることとなる。
ゴーレムの表皮が剥がれ落ちるにつれて、こちらに向かってくる力も失っているようだ。
唯人が最後の力を振り絞ると、ゴーレムは塵となって消えていった。
そして、精神力を使い果たした唯人はその場に座り込んでしまった。
「これが……俺の、力?」
ハッと辺りを見回す。うっかり「俺」と言ってしまったのに気付いて慌てて取り繕おうとしたが、その相手は既にいなかった。
「なんだったんだ、あいつ。」
風のように現れて、風の話をして、風のように去っていって。その間唯人はあっけに取られているだけだった。
何者か心当たりは無いか、と自問したちょうどそのときにチャイムの音が耳に響いた。
「やべっ! 遅刻だ!」
変身を解いて授業に向かう唯人は、もう男のこととは別のことを思っていた。二時間目も、爆睡だな。

196: ◆KazZxBP5Rc
08/12/20 21:24:50 nVe+Biu6
つづく

197:創る名無しに見る名無し
08/12/20 21:32:56 eEfVh910
これは期待
野暮な推測は身を滅ぼす気がするからやめておく

198:創る名無しに見る名無し
08/12/21 21:57:46 BIjHmQQK
新キャラだー。
続きにwktk!

199: ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:05:55 c6CVtlw2
URLリンク(www6.uploader.jp)
あっちに投下する勇気は無いの

第3話いっくよー

200:魔法少女? ユイ 1/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:07:09 c6CVtlw2

第3話『仮面男は敵? 味方?』


例の男についてつかさが何か知っているのではないかという唯人のあては外れた。まあこの姉はすっとぼけるのが得意だから隠している可能性も否めないが。
結局何も知ることはできず、翌日もまた、朝の筋トレとランニングによって一日が始まるのであった。
「はあ……魔法少女ってもっとこう、なんて言うか、可憐な感じなんじゃないの?」
それを言うならそもそも男が魔法少女になっていること自体間違っているのだが、どちらにしろ元から望んでなったわけではないので唯人を責めることはできない。
学校ではいつまた魔物が襲ってくるか気が抜けなかったが、その日は何事も無く授業を終え家路に着くことができた。
つかさは今日は遅くなると言っていた。けれど、もうひとりの家族が尻尾を振って迎えてくれた。
「あんっ、あんっ!」
「よしジュニア、散歩行くか。」
唯人は冷蔵庫を開けジュースを一杯飲み干すと、自分の部屋に入り私服に着替える。そしてリードを手にまた玄関まで戻ってきた。
「さあ出発だ。」

ジュニアは緑の多いところが好きである。彼のお気に入りの散歩コースは山道だ。
椎名家からなら一番近い山まででも歩くと小一時間かかる。そのため連れて行くほう―主に唯人だが―は帰ってくる頃にはいつもへとへとだ。
山までは住宅街を通って最後に商店街を抜ける。その商店街に入る頃、ジュニアが突然騒ぎ出した。
「くーっ!」
「お、おい! どうしたんだ!」
散歩の途中で突然暴れるような犬ではない。何かあったのだろう。
「待てって!」
ついに走り出した。押さえられないほどではないが強い力で引っ張ってくる。唯人もあきらめて少し駆け足で進み始めた。

途中、商店街の中で見知った顔に声を掛けられた。
「よう。」
「おお、順平。」
「昨日からお疲れのようだったから聞けなかったけど、どうだった?」
順平はなにやらにやにやと笑いをこらえているようである。
「何が?」
「決まってるだろ、雅のことだよ! うまくいったのか?」
「ああ……それどころじゃなかった。」
「ん? 何があったんだ?」
魔物が襲ってきて魔法少女になりました、なんてさすがに言えない。
「ふー、ふーっ!」
「ごめん、こいつが急ぎたいみたいだからまた今度な!」
両手をあわせてごめんのポーズをとりながらも、内心ではうまぐしのげたとジュニアに感謝して、唯人は商店街を後にした。

201:魔法少女? ユイ 2/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:07:51 c6CVtlw2
アーケードを抜けると山は目の前だ。そこまで来てようやく唯人は異変に気付いた。
「煙?」
商店街のこちら側ではあまり人が通らないため誰も気付いていないようだ。
なおもジュニアに誘われるままに山に入っていく。
「あんっ!」
「これは……!」
中腹あたりでジュニアが一声上げた。火の手が上がっているのが見える。山火事だ。
「これに気付いてたのか。よくやったぞジュニア。」
ご褒美のなでなで。あらためて犬の嗅覚の凄さを実感する。
「さて、消防署に連絡……はできないみたいだな。」
よく見ると炎は不思議な動きをしている。まるで生きているかのような……いや、実際生きている。あれは魔物だ。
「ずっと持っとけとは言われたけど、できるだけ使いたくなかったのに……。」
近くに人がいないことを確認。ポケットから手のひらサイズのステッキを取り出し祈ると、先ほどまでそこにいた少年は消え、代わりに少女が現れた。
「さて、手っ取り早く雨でも降らせますか。」
青いボタンを押して水のパワーを溜める。そしてステッキを天に向かって掲げた。
ステッキの先から雲が造られ山の斜面の上に広がっていく。雲は次第に大きくなり雨を降らす。
火は見る見るうちに消えていくのだが、二箇所だけ大きな塊となって消えない部分がある。
「あれが本体だな。ジュニア、ちょっとここで待ってろよ。」
愛犬はその場に腰を下ろして意思を見せた。
それを見て安心し、唯人は魔物の目の前に飛び出していく。
「こいつら、かなりのろいぞ。」
この魔物達は唯人にも気付いておらず、徘徊しているだけのようだ。
これなら昨日は失敗したあの手が使える。唯人は二匹の魔物に向けて水弾を正確に打ち込んだ。
「今回はあっけなかったかな。」
変身を解こうとしたその時、物陰から動くものが見えた。

202:魔法少女? ユイ 3/3 ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:08:42 c6CVtlw2
「こんにちは、椎名唯人君。」
「なっ……!」
現れたのは昨日の仮面の男であった。なぜ本名を知っているのか、唯人が尋ねる前に男は再び口を開く。
「昨日は悪いと思いながら観察させてもらった。」
「観察? どういうことだ?」
しかし唯人の問いには答えず、男はなにやら赤い液体の入ったビンを取り出して魔物の亡骸に中身を半分ずつかけた。
「また会おう。」
それだけ言い残して男は去って行った。
「待て!」
さっぱり訳の分からない唯人は、追いかけようとしたところを巨大な物体に阻まれた。
それは先ほどの炎の魔物が二匹合体したものであった。
唯人は当然水弾を浴びせる。しかし今度はまったくダメージがない。
「どうすれば……きゃっ!」
自分で降らせた雨のせいで地面がぬかるんで滑ってしまった。
それ自体は大したことではないのだが、女の子みたいな声を出してしまった。愛犬と目が合った。穴があったら入りたい。
「ん、ちょっと待てよ? 穴……そうだ!」
ステッキを地面に付ける。まずは水だ。水を魔物の足元に集める。
魔物は再び山に火をつけ始めた。しかし焦ってはいけない。この作戦はひたすら待つことしかできないのだから。
魔物がぐちゃぐちゃになった地面を踏みしめた。もう片方の足を上げた瞬間、スリップし、その巨体が宙に浮いた。
「今だっ! 地!」
ボンっと大きな音がして地面に大穴が開いた。穴の分の土はどこへ行ったかというと、その場に巻き上げられて、その瞬間を外から見ると筒状に土がそびえ立っているように見える。
魔物は吸い込まれるように穴に落ち、その上から大量の土でふたをされた。

残りの火を消すと唯人は変身を解いてジュニアの側へ戻った。
「それにしても……。」
仮面の男は明らかに魔物を復活させて自分を襲わせた。この先直接戦うことになるのだろうか。魔物だけではなく人間と戦う。そのことに不安を覚える唯人であった。

203: ◆KazZxBP5Rc
08/12/23 20:09:37 c6CVtlw2
つづけ

次はある意味クライマックスw

204:創る名無しに見る名無し
08/12/23 20:40:31 Qq8ffTDg
わあ、気になるところで終わってる
続き楽しみにしてます

205:創る名無しに見る名無し
08/12/23 23:32:38 c6CVtlw2
いつもありがとう

ユイでクリスマスネタ書こうとしようとしたけどなかなか難しいな
別の話にするか

206: ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:54:51 xE30cMHH
ラジオ聞きながら投下

207:あわてんぼうのサンタクロース 1/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:55:34 xE30cMHH
いつものように会社から帰り、疲れきった体をベッドに沈めた。
そのまま寝てしまいたいのは山々だが、資料に目を通さなくてはいけない。
「もうすぐクリスマス、か。」
壁掛けのカレンダーを眺めて溜息をつく。
携帯電話を取り出し、淡い期待を胸に数人しかいない女友達にクリスマスの予定を聞くメールを送った。

玄関のチャイムが鳴ったのはその直後のことだ。
扉を開けるとそこには真っ赤な衣装の初老の男が立っていた。
「こんばんは。わたくし、世界サンタクロース協会所属の『あわてんぼうのサンタクロース』と申します。」
「はあ……。」
自分であわてんぼうとか言うか? いや、それ以外にもツッコミ所は多々あるが。
「あなたは『サンタクロースに願い事を何でもひとつ叶えてもらえる権利』に当選しました。」
詐欺なんだろうか、こんな詐欺は聞いたことないが。どうせなら叶えられるわけもない本音を晒してみようか。
「じゃあ恋人がほしい。」
「かしこまりました。」
サンタはどこかに電話を掛け始めた。美人局というやつか? だがそれなら普通最初から女を遣すよな。
「……はい……はいはい、了解いたしました。」
そして俺のほうに向き直って、
「手配は完了しました。」
と告げた。

208:あわてんぼうのサンタクロース 2/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:56:15 xE30cMHH
奇妙な来客のせいでさらに疲れた。
シャワーでも浴びようとバスルームに向かう。
服を脱ごうとして途中に何かつっかえたことに気付いた。
胸?
わずかながら胸にふくらみがある。どこかで刺されでもしたのだろうか。
などと笑っていられたのもそこまでで、下半身の衣服も脱ぎ終わったときには声も出せなかった。
無い。
思考停止。なんとかして体を流してバスタオルを巻いたことだけは覚えている。
上がり際に鏡をのぞいてみた。顔はほとんど変わっていないが、乗っけているものが違うだけでずいぶんと雰囲気が違って見えた。

体のことは置いておいて、メールの返信を確かめる。
まあ予想通りの結果だ。彼氏とデート、彼氏とデート、バイト、合コン、彼氏とデート。
「あれ?」
それ以外にもう一件着信があった。高校大学時代の男友達だ。久しぶりだな、元気でやっているんだろうか。
内容は今から飲みに行かないか、というものだった。今から? またずいぶん唐突だ。
俺はバスタオルを巻いている体を見た。まあ、厚着すればバレないかな。

209:あわてんぼうのサンタクロース 3/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:56:58 xE30cMHH
「急で悪かったな。ええっと、どれくらいぶりだっけ。」
「先輩の結婚式以来だから、半年だな。」
「そうか。全然変わってないな。」
「どうだろうな。」
「え?」
「なあ、もし俺が実は女だったって言ったらどうする?」
「何馬鹿なこと言ってるんだよ。そりゃあよく女っぽいって言われたり女装させられてたけどさ。修学旅行で一緒に風呂入ったじゃねえか。」
「まあな。」
「ま、お前が本当に女だったら良かったかもな。」
「……なあ、どうせ二十四日も暇だろ。」
「うるせえ、お前もだろ。」
「また、飲まないか。今度は駅まで迎えに行くから。」
「? ああ、いいぞ。」

210:あわてんぼうのサンタクロース 4/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:57:30 xE30cMHH
何を考えているんだろう俺は。ただの冗談に決まっている。あいつは俺が本当に女になったなんて思ってないはずだ。
それでも俺は……。
クリスマス前最後の休みの日。俺は偶然にでもあいつに見つからないように慎重に路線を選び、ある街に向かった。
まず店をはしごして女の服装をしている自分を思い浮かべる。
十何件か回ったところで見つけたセーターが俺の目を引いた。
今度はそれに合うように残りのパーツを選んでいく。
「次は……やっぱり入らないといけないか。」
店の前で散々うろうろして覚悟を決めた。
ランジェリーショップ。それはなんだか立ち入ってはならない領域のように思えて、中にいる間、まともに顔を上げられなかった。
その後、化粧品のことはよく分からないので、真っ赤な口紅を一本だけ購入。
最後に美容院に入って「できるだけ女らしく」と注文した。

211:あわてんぼうのサンタクロース 5/5 ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:58:06 xE30cMHH
ロングスカートが風にたなびく。ストッキングのおかげで意外と寒さは少ないが、やはりどうも脚の感覚が頼りない。
約束の時間五分前に待ち人は現れた。
「よ、よお。」
自分に話しかけたのが女だったこと、それがついこの前に会った俺だったことに愕然としているようだった。
「サンタクロースに、女にされちゃった。」
本当のことだが、言っている俺の耳にも間抜けにしか聞こえない。
「なんなら体確かめてみるか?」
何も言ってくれないので焦って変なことを口走ってしまった。訂正しようとしたとき、ようやく口を開いてくれた。
「いや、いい。お前が冗談でそんなこと言う奴じゃないって分かってる。それに、女装のときとは全然……。」
それって……。自分の心臓の音があいつにも聞こえているんじゃないだろうかというくらい響く。
沈黙が降りて何時間くらい経ったんだろう、と感じたが実際は約束の時間にたどり着いただけだった。
俺はようやく決心してその言葉をつむぎ出した。
「いきなりなんだけど、俺、お前の言葉にときめいたりしちゃって、その……好き、です。」
全部伝えたいのに、全然言葉が思いつかない。こんなので伝わるとは思えないけど、恥ずかしすぎて目もあわせられなくなってしまった。
どうやっていいかわからずもじもじしていると、思わぬ答えが返ってきた。
「ひゃっ!」
彼は俺の背中に腕を回して抱き寄せてきたのだ。
「あ、ごめん……。」
「いや、びっくりしただけだから。」
自分の胸が彼の胸に押しつぶされている感覚で、改めて女になったんだと実感させられる。男の体ってこんなに大きかったんだ。
私も彼の体に腕を回して体を預けた。

彼の肩越しに流れ星がひとつ見えた。

212: ◆KazZxBP5Rc
08/12/24 21:59:12 xE30cMHH
終わりー

213:創る名無しに見る名無し
08/12/24 22:11:42 SjvYXqKZ
乙乙乙乙乙乙乙乙乙♪

214:創る名無しに見る名無し
08/12/24 22:28:58 OgLvI6IT
メリークリスマス!!
彼女じゃなくて彼氏ができちゃったなw

215:創る名無しに見る名無し
08/12/28 23:43:27 5Q8UqvIC
初詣先でデートですか? と四日ぶりにレス

216:創る名無しに見る名無し
08/12/29 23:18:59 mbQaChUQ
>>215
書けってことですか、わかりません><
今年中は俺は多分無理だな

217: 【大吉】
09/01/01 00:58:50 PzpI83bL
姉「あけましておめでと~!」
女弟「おめでとう…」
姉「どうした、元気が無いぞ妹よ」
女弟「この格好、恥ずかしいよ…」
姉「ホルスタインの着ぐるみ?」
女弟「特にこのお乳のところが…」
姉「せっかくおっぱいができたんだから活用しないと」
女弟「関係ないでしょ…」
姉「隠しお題だしね」
女弟「何の話?」

みたいな妄想

218:創る名無しに見る名無し
09/01/02 08:16:04 8iJ+n1Wi
GJ!

219: ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:07:04 Hr0c9/nx
リコかわいいよリコ

さて、年越してようやく再開

220:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:08:15 Hr0c9/nx

第4話『お姉様とお買い物』


ある休日の朝、唯人は全身の違和感で目を覚ました。
まず気付いたのは頭の痛みである。自分の体が大きくゆっくりと回転しているかのような錯覚を受ける。
それに衣服の感覚がおかしい。ビシッと締め付けられるような服は寝るときに着るようなものではない。
このとき、昨日寝る前に何をしていたのかさっぱり思い出せないということに唯人は気付いた。大方疲れて着替えもせずに寝てしまったのだろう。
とりあえず布団から出ようと体を起こしてみると、胸に妙な重みを感じる。そういうことか……。
唯人はユイに変身していた。
しかし何時からだ? もしかしたら魔物との戦いで負傷してその時の記憶が飛んでいるのだろうか。そうだとしたら、そんな強力な魔物を野放しにはできない。
唯人は勢いよく部屋から飛び出そうとした。だが、頭がフラフラしてうまく歩けない。

「おはよー!」
唯人が結局ベッドに腰掛けたままでいると、大きな姿見を持って姉のつかさが部屋に入ってきた。
「姉ちゃん、これどういうこと?」
「あー、あんた覚えてないんだ。無理もないかもね……。」
「なんだよ。何か知ってるんだったら、もったいぶってないで早く言って。」
「いやあ、唯人って飲ませたらすっごく素直ないい子になるみたいね。」
「……。」
「昨日の晩にお酒買ってきてふたりで飲んだのよ。でね、ノッてきたところでちょっと変身してみてって頼んだの。」
「……。」
それにしても気持ちのいい朝だ。外ではすずめがさえずっている。
「未成年になんてことするんだーっ!」
「一緒に買い物行ってくれたらステッキ返してあげる。」
この女は聞く耳を持たないようだ。自分の用件だけ伝えてくる。
「ちょっと待て、買い物ってもしかしてこのまま?」
「まさか。そんな、いかにも『魔法少女です』って格好で出るわけないでしょ。すぐ着替え持ってくるから、それ脱いでおいてね。」
そう言うとつかさはとっとと出ていってしまった。唯人が聞きたかったのは「女のままで?」という意味だったのだが、話の流れからするとやはりそういうことなのだろう。

221:魔法少女? ユイ 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:08:49 Hr0c9/nx
しばしためらったが、好奇心も手伝ってコスチュームを脱ぐ決断は割と早かった。
肩にかかっている布をはずすと、解放されたふたつのかたまりがぷるんと波打って新鮮な感覚を与えてくれる。
そこでもう一度、この先の領域に踏み込んでいいものかと悩む。
だがやはり唯人は男の子だった。
自分自身だということを棚にあげれば、同じ年頃の女の子の裸が見れるめったに無いチャンスだ。
唯人は覚悟を決めると両脇に宙ぶらりんになっている布地を持つと一気に下へ引っ張った。
脱いでみて分かったのだが、このコスチュームはワンピースの水着のようなつくりで、スカートもそこに縫い付けられている装飾のひとつであった。
そしてこのコスチュームは肌に直に触れるようになっていて、これだけ脱ぐともう魔法少女は全裸となってしまう。
唯人は姉が担いできた姿見を覗き込んだ。滑らかな肌をあらわにして少し恥ずかしそうにこちらを見つめる少女。それが自分だと理解してはいるが信じられない。
しばらくぼーっと眺めていると、視界の端からもう一人の女性がやってきて、持ってきたものを少女の胸にあてがった。
「ほら、手上げて。」
いつものような憎まれ口を叩かず、ただ淡々とブラジャーを着せようとするつかさに戸惑いを感じながらも、言われたとおりに万歳のポーズをとる。
「着け心地はどう?」
「……なんでこんなにぴったりなんだよ。姉ちゃんのじゃないだろ?」
「目測よ。この日のために準備しておいたの。」
嬉しそうに語るつかさに、唯人は軽い恐怖を覚えた。
「じゃあ後は自分でできるよね。服は私のから適当に選んでおいたから。」
つかさはまた部屋を出ていった。残されたのは、あえて女らしいものを選んだとしか思えないブラウスやスカートたちであった。

222:魔法少女? ユイ 3/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:09:33 Hr0c9/nx
唯人たちの家から郊外のショッピングモールまでは自動車で三十分ほどである。
こういった施設では専門店の八割で婦人服を売っているというのだから、女性たちは日が暮れるまでコーディネートにいそしむことができる。
ここに着いてから唯人はつかさの着せ替え人形に徹した。ステッキという質を取られているからしょうがなく、らしい。
最初のうちは普通の女物であった。このときは唯人もまだ余裕で、試着室の鏡に向かってポーズを取ってみたりもした。
だが、徐々に露出の多い服が増えてきて、早く終わってくれないかと思うようになる。
「これ、下着姿の方がまだマシなんじゃ……。」
「ユイー、ちゃんと着れた?」
「わわわわわのぞいちゃダメっ!」
最終的につかさはコスプレ専門店に目をつけた。メイド服やチャイナ服に袖を通す頃にはすっかり無我の境地を切り拓いていた唯人であった。

「じゃあ私は一旦荷物置きに車に戻るから、その辺でブラブラしててね。」
一旦、か。それにしてもあれだけ買ったけどいったい誰が着るのだろう。今度こそ騙されて変身することのないようにしないと。
決意を新たにした後、唯人はせっかくだから男の姿では入りにくい店を物色しようと思った。なんだかんだで割とこの状況を楽しんでいるように見える。
しばらくして、唯人は雅のことを思い出していた。何かプレゼントを贈ろう。そう考えてアクセサリー店に入り、散々悩んでブレスレットを購入した。
「お、いたいた。」
つかさと合流したのはそれからすぐだった。荷物を置きに行ったはずなのに、手には紙袋をひとつ提げている。
疑問に思ったのも束の間、人波の中に怪しい影がうごめいた。

223:魔法少女? ユイ 4/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:10:02 Hr0c9/nx
「ユイ!」
追おうとした唯人を呼び止めて、つかさは紙袋の中からステッキを取り出し投げ渡した。
換わりに先ほどのブレスレットが入った買い物袋を預けると、小さくうなずいて唯人は影を追った。
あれはかつて、唯人が初めて戦った影の魔物だ。あの時は火の魔法で倒したが、今この混雑で火をつけるわけにはいかない。
とにかく人の少ないところまで追い詰めようと考えたのだが、魔物は最悪の方向に向かっていた。
「キキキキキキ! ハイパーマンよ、我々の科学力に対抗できるのかな?」
「黙れ、ジャ・アークの怪人よ! 正義の心は必ずお前たちを打ち倒すのだ。さあ、良い子のみんな! 私に力を分けてくれ!」
子供たちの声援が吹き抜けの広場を埋め尽くす。本日この時間はヒーローショーの真っ最中であった。
唯人は三階からこの吹き抜けにたどり着いた。だが時既に遅し。魔物は壁を伝って一階へ降り、ヒーローショーの悪役に取り付いてしまった。
「くそ、あいつあんなことができたのか。」
ためらっている時間は無い。下手をすると子供が襲われる。それだけは避けなければいけない。
「飛び降りる!」
唯人はショーの舞台めがけて地のパワーを送った。そしてそのとおりの場所に平然と着地。実は最初に放ったのは着地の衝撃を吸収するための魔法だったのだ。
思わぬ登場をしたヒロインに子供たちは大歓声。
「あ、あの……ちょっと、君……。」
「これは遊びじゃないんだから離れてて!」
申し訳なさそうに話しかけるハイパーマンを一蹴。魔物とのにらみ合いに入った。
さて、どうすれば怪人役から魔物を引き離せるかだが、正直まったく思いつかない。おねーちゃんがんばってー! の声援が耳に痛い。
いろいろと考えているうちに、しびれを切らして魔物が飛び掛かってきた。
とっさに、操られている人体を傷つけないように風を使って受けた。その時、魔物の影が少しだけ浮き出たのを唯人は見逃さなかった。
物理的な風は魔物には効かず人の体だけを吹き飛ばす。それならば逆に影の方を吹き飛ばす「概念的な」風があれば……。そして、それは魔法で創れる。魔法は精神の力だから。
会場に爽やかな空気が流れた。
「あー! あれなんだ!」
「すっげー!」
子供たちは、ジャ・アークの怪人が倒れ、そこから世にも恐ろしい影の本体が姿を現すのを目撃した。
そしてその影は、突然現れた魔法少女の炎によっていとも簡単にかき消された。
「ありがとう。みんなの応援のおかげだよ! これからも困ったことがあったら、魔法少女ユイをよろしくね!」
ポーズもばっちり。こういうときはすぐに調子に乗る唯人だった。

224:魔法少女? ユイ 5/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:10:41 Hr0c9/nx
「おつかれさまー。カッコ良かったよ。」
からかうように笑う姉を無視して唯人は適当な店の試着室に入った。
しばらくしてそこから腕から先だけが出てきて手招き。
つかさが駆け寄って中を覗くとそこには女装した男の姿の唯人がいた。
「服が戻らないんだけど……。」
「当たり前じゃない。今頃家に置いてあるコスチュームが昨日着てた服に戻ってるはずよ。」
「じゃあもう一回変身したら?」
「その服がコスチュームになるに決まってるじゃん。」
「……どうすれば?」
「一回全部脱いで変身して着替えなおしなさい。」
「はあ……。」
「あ、やっぱ可愛い服買ってきてあげるからそこで待ってなさい。」
「な……!」
さっき無視した仕返しなんだろうか。よく考えれば男物を買ってくれればいいだけじゃないか。まあ、それを言ったところでそうしてくれる確率は限りなくゼロだが。
日没の頃、駐車場に白いワンピースの少女と年の離れた姉が仲良く口ゲンカしながら出てくるのが見えた。

225: ◆KazZxBP5Rc
09/01/07 19:13:00 Hr0c9/nx
予定通り前半戦終了


なんかよく分からないけど唯人がルパンスレでトーナメント出るみたいです
こっちもよろしく
スレリンク(mitemite板)

226:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:13:37 Qj3cHdMV
オチに笑ったw
コスチューム無限増殖とかも可能なのね

227:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:20:28 Hr0c9/nx
裸で変身したら解除後裸に戻るだけだから無限増殖は無理なんだぜ

228:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:24:13 Qj3cHdMV
ん?タオルでもなんでもイイから新しい服を身に着けていたら…と思ったけど
変身といた時点で古いほうが戻るから無理なのか

229:創る名無しに見る名無し
09/01/07 19:28:22 Hr0c9/nx
そういうことだぜ

230: ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:21:26 W8Dke6Lk
前回ブーツのことすっかり忘れてたぜ

                        ヽ○ノ   「まあいいか!」
                         /
                        ノ)

投下します

231:魔法少女? ユイ 第5話 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:22:16 W8Dke6Lk

第5話『俺ってガチホモ!?』


「はぁ……。」
学校からの帰り道、唯人は大きな溜息をひとつ吐き出した。
「今日もダメだったか。」
思いつきで買ってはみたものの、よく考えると、何でもないのにいきなりプレゼントを渡してくる男なんてどうなんだろう。
唯人は例のブレスレットを雅に渡すきっかけが掴めずにいた。
とぼとぼと歩いていつの間にか家の前。ドアを開けるといつものようにジュニアが尻尾を振って出迎えてくれた。
「ただいま、ジュニア。」
「わんっ!」
続いて、これもいつものことだが、ジュニアの様子に気付いてつかさも玄関に出てくる。
「おかえり。」
「姉ちゃんただいま。」
「ちょっと買い物行って欲しいんだけど、大丈夫? ユイちゃん。」
「……うん。」
ショッピングモールのハイパーマンショーに突如現れた魔法少女は、一躍地域の有名人となっていった。
そこで、何を思ったかつかさは唯人にある脅しをかけてきたのだ。
それはお願いを聞かないと唯人が例の魔法少女であるということをバラすというもの。
人のいないところで変身しろと言ったのはつかさ自身なんだから、そこだけ考えれば本当にバラすとは思えない。
しかし人にバレてはいけない理由があるのかどうかも分からないし、なにより、この姉の性格をよく知る唯人には彼女ならやりかねないと思えてしまう。
そういうわけでつかさは好きなときに弟を女にする権利を得た。

232:魔法少女? ユイ 第5話 2/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:22:49 W8Dke6Lk
悲しいかなすっかり慣れた手つきで着替えを済ませ、財布を預かって再び家を出た。
ちなみにステッキはいつも持っていろと言われているので大きな買い物バッグの中にある。
夕日を背景に自転車を飛ばす唯人。
運転中、いろいろと考えをめぐらせるのが癖だ。
「そういえばあいつは一体なんだったんだろう。」
仮面の男のことである。山で会って以来一度も姿を見たことがない。
結局敵だったのだろうか。だとしたらなぜあれから積極的に襲ってこないのか。
商店街まであと少しというところで足と思考が止まった。
空を見ると大きな紫の雲のようでいてもうちょっと透き通った何かが浮遊している。魔物だ。
別に何を襲うわけでもなさそうなので放っておいてもいいのかもしれないが、気になるので追いかけることにした。

233:魔法少女? ユイ 第5話 3/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:23:49 W8Dke6Lk
立ちはだかったのは険しい崖。
実はこの山は商店街をはさんでまったく表情が変わる。
向こう側はいつかジュニアに導かれて行ったなだらかな遊歩道だが、こちら側はこのように人はまず立ち入ることができない。
この上に先ほどの魔物は姿を消した。
普通の人間ならここであきらめるのだが、そこは魔法少女、ステッキを取り出すと地のパワーを自分に一振り。
「よっ……ほっ……はっ……。」
超人的な跳躍で崖をぴょんぴょんと上がっていく。地のパワーは力の象徴、肉体を強化することにも使えるのだ。
高さとしてはかなり登ったと思えるところで、踊り場のようになっているところを発見した。
一際強く岩肌を蹴って、空中でくるっと前回り。見事にやわらかい地面に着地した。
「ん? やわらかい?」
そこは魔物の巣窟だった。まさに四面楚歌。いや、唯人が着地のときに踏みつけた魔物が一匹、さらに飛んでいるのもいるので六面かもしれない。
「や、ちょっと待て、ここは穏便に……な?」
などと弁明しても通じるはずもなく、魔物達は一斉に襲い掛かってきた。
唯人もそれに応じて慌てて魔力を解放。すさまじい爆発が起きる。
畳み掛けるようにあらゆる能力をむやみやたらに放つ唯人。その度に弱点を突かれた魔物が消滅していく。
「はぁ……はぁ……。」
さすがに無駄撃ちしすぎたのか肩で息をするようになってきたが、残る魔物もわずかとなってきた。
「よし!」
火の力を逆に利用し、熱を奪ってスライム状の魔物を凍りつかせる。
あと一匹。機械仕掛けの魔物だけが残った。しかしこれがかなり頑丈で何をしてもびくともしない。
「ひょっとして電気でも流すのか? でもやり方が……。」
考えている間にも襲ってくる。避けようと思ったところで膝をついてしまった。
まさかこんなに消耗していたとは。逃げられない。強烈な一撃がやってくる!
その時、唯人の背後、崖の上の方から人影が降りてきた。
それから先は一瞬の出来事。まず唯人のいる地面がぐらつき始めた。かと思うと影にぐいっと引き寄せられ、岩場ごと魔物が落ちていく。
影は仮面の男だった。大剣を抜いている。信じられないことだが、これで崖の先端を切り落としたのだ。
「君には生きていてもらわないといけない。」
だが男の言葉は唯人の耳には入らなかった。顔が近い。それに、力が入らないので唯人は男に寄りかかる格好になってしまっている。
心臓の鼓動が、聞こえているんじゃないかと心配になるくらいの大音量に思える。早く離れてくれないものか。
しばらくして、男は一言だけ告げた。
「もうすぐだ。」
「え?」
それっきり、男はまた行ってしまった。

234:魔法少女? ユイ 第5話 4/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:24:26 W8Dke6Lk
「もうすぐだ。」
「え?」
順平の言葉にさほど考えもせず聞き返す唯人。
「もうすぐ雅の誕生日だって言ってるんだよ。」
「ああ、ごめん。」
「本当お前ここ何日かぼーっとしてるよな。」
「うん、ごめん。」
唯人の一番の関心は、もはや仮面の男に移ってしまった。
何者なのか。あの剣にはどんな力が秘められているのか。どういうつもりで自分に接してきたのか。
このごろ唯人は一人の時に意味もなく変身してみることが多くなっていた。
こんな調子なので、つかさもつい気になってしょうがない。
「最近どうしたの?」
「別になんともないよ。」
これだけはバレたくないので隠す。ところがさすがは姉。
「あの人のことが気になって夜も眠れない、とか?」
「なっ!」
別につかさは具体的に知っているわけではない。だが「あの人」などと言われると、心当たりがあればつい反応してしまうのが人間。
「やっぱり恋の悩みなのね。で、どんな子?」
男だとは思われていないようだが、ショックを受けたのは「恋」という単語が出てきたことだった。
まさか……俺が男に恋している? つかさの言葉で唯人は余計に眠れぬ日々を過ごすこととなった。

235:魔法少女? ユイ 第5話 5/5 ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:26:00 W8Dke6Lk
人気のない公園に制服の男女が入ってくるのが見える。
雅を呼び出したとき、唯人は一旦は決心を固めていた。
「海瀬……。」
でも、こんな中途半端な気持ちで想いを告げることなんてできるのだろうか。
「誕生日おめでとう。」
結局唯人は逃げを打ってプレゼントを渡すだけに留まった。
「ありがとう。……わあ、かわいい!」
ほんのり赤く染まった笑顔に胸を打たれる。
やっぱり、雅のことも好きだ。
だからこそ自分が、自分と雅を裏切ることが許せない。
「じゃあ、また。」
男の涙なんて見せるものじゃない。
公園を出るとき、唯人は一度も振り返らなかった。
今まで生きてきた中で一番重い荷物が唯人の心にのしかかっていた。

236: ◆KazZxBP5Rc
09/01/17 18:27:37 W8Dke6Lk
つづく

雑談したら盛り上がるかもって言われたんだけどどうだろう

237:創る名無しに見る名無し
09/01/17 18:34:25 rV8+vAN4
さて、色々と展開の気になるところだな
男の正体はアレなんじゃないかと思っていたりする

238: ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:25:04 Cv9WgENf
先週の土曜日には投下してるはずだったのに…

いっきまーす

239:魔法少女? ユイ 第6話 1/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:25:54 Cv9WgENf

第6話『仮面男の正体!?』


唯人は闇の中にいた。
右も左も、何も見えない完全な闇。
やがて遠くから足音が聞こえてきた。
音が近づくにつれて徐々にその音の主の姿が晴れてくる。
「お前は……一体何なんだ。」
唯人は彼―仮面の男に問いかけた。
もちろん期待した答えが返ってくるとは思えなかった。だが、男が口にしたのはそれ以上に唯人の想像を超えた一言。
「愛してる。」
何を言っているんだ。自分は男で……雅のこともあるし……。
しかし訳の分からない感情が沸き起こってくるのを唯人は抑えることができない。
「心配しなくていい。君はすぐに完全な女の子になれる。」
「なっ……!?」
思わず漏れた自分の声は女のものだった。そんな、いつの間に変身してたんだ?
男の顔が近づいてくる。唯人は金縛りにあったように動けない。
ついに男の左手が唯人の肩に触れる。そして男は仮面に右手を掛け―そこで唯人は目を覚ました。

240:魔法少女? ユイ 第6話 2/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:26:20 Cv9WgENf
「椎名君、大丈夫?」
「うん……。」
ある日の放課後。このごろ雅ともよく話すようになってきたというのに、唯人の心は沈んでいく一方だ。
これ以下は無いだろうと思っていても、次から次へと憂鬱の原因が増えていく。例えば今朝の夢のように。
「今日一緒に帰らない?」
そんな気分ではないのだが、雅の心配そうな顔を見ると断るに断れなかった。

早足で歩く唯人。ついていくのがやっとな雅に気付かないふりをする。
「……ねえ。」
「ん?」
「……ううん、なんでもない。」
なんとか唯人に話しかけようとする雅だが、雰囲気に負けてしまう。
そんなことが何度かあって、そのうち二人は人通りの無い小道へ差し掛かった。
その中ごろで、ついに二人の足が止まった。
「痛っ。」
「えっ、何?」
唯人は道の途中の何も無いところで何かにぶつかったのだ。
壁のパントマイム。反対側から見るとそう見えただろう。しかし本当に目に見えない壁がそこにあることが手探りで分かった。
「こっちはダメだ。」
「え?」
急いで引き返そうとするが遅かった。唯人の顔はまたもや見えない壁に叩きつけられた。
「閉じ込められた!」
いつの間にか壁は左右にも存在していた。手を上に伸ばすとそこにもまた同じ感触。
どうしたものかと考えていると、上空から白いUFOのような生き物が現れた。
敵の魔物に違いない。しかし今変身するのは……いや、そうも言ってられないか。
「海瀬、俺がいいって言うまで目つぶっててくれないか。」
「え……う、うん。」
雅が手で顔を覆ったのを確認すると、唯人はステッキを取り出し祈りをささげた。
変身後、いろいろ試してみたが、どうやらこの壁は魔法も通さないようだ。
それでは逆に向こうも攻撃できないのではと思ったのだがどうやらそうではないらしい。
魔物はビームを撃ってきた。それは壁を貫通して唯人たちのいる空間に入ってくる。
慌てて避けるとビームは壁を反射して路面を焦がした。要するに入ることはできても出ることはできないようだ。
だがそれと同時に唯人には突破口が見えた。
下だ。地面にはバリアが張られていない。
地面にパワーをこめると壁の向こうのアスファルトが噴火して魔物を襲った。
バリアが消えたのを感じる。しかしまだだ。止めを刺しに魔物の元へ駆け寄る。
きっと弱点はビームを出すときに現れる核だ。
唯人が構えを取る。すると魔物は……消えた。
後ろを振り返ると、今にも雅が襲われようとしているところだった。魔物は瞬間移動の能力も持っていたようだ。
「海瀬っ!」
思わず叫んでダッシュ。すんでのところで雅を抱きかかえビームを避けた。
「大丈夫か?」
雅は口を開こうか止めようか迷っているようだった。
とりあえず今は魔物のことだ。魔物はビームを出す体勢に入っている。
唯人は狙いをつけて水弾を核に撃ち込んだ。もう慣れたものだ。予想通り魔物は弱点を突かれて消滅した。
「終わったよ。」
雅はまだ不審がっているようだったが、すぐに不安げに声を出した。
「ユイ……さん?」
その言葉を聞いて初めて唯人は雅が何を考えているのかに気付いた。
バレたかもしれない。そう思うと一気に恐怖が襲ってきた。
「ごめん!」
唯人はただそこから逃げ出すことしかできなかった。

241:魔法少女? ユイ 第6話 3/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:26:56 Cv9WgENf
それから数日。
「唯人、今日も学校行かないつもり?」
「ん……。」
唯人は逃げ続けていた。このままじゃいけないとは思っていても、ちゃんと向き合うことができない。
やる気の無いベッドの上の唯人に、つかさは服を投げつけた。
「外に出て、気分転換でもしなさい。」
「でも……。」
「提案じゃなくて、命令よ。」
唯人は返事もせず、溜息を吐いて着替えを始めた。

久しぶりの朝日がまぶしい。唯人は当ても無く歩き始めた。
「しかしこんな朝っぱらから追い出されても行く所無いよなぁ。」
「あぅーん。」
「ああ、そういやお前がいるからどっちみち建物は入れないか。」
「はふはふ。」
尻尾を振って存在を主張する同行者。唯人は続ける。
「姉ちゃん昼に帰ってくるって言ってたけど、それまで鍵無いから帰れないしな。」
そこで初めてジュニアのほうを向いて問いかける。
「なあ、お前どこに行きたい?」
「わんっ!」

242:魔法少女? ユイ 第6話 4/4 ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:27:32 Cv9WgENf
なるべく学校とは逆方向を目指していたら、川原に辿り着いた。
はしゃぐジュニア。川岸に寄り添って水を飲み始めた。
しばらくその様子を見ていた唯人だが、川の中に不思議な光を目撃する。
そして直後、そこから唯人めがけて水が飛んできたのだ。
新手の魔物だろうか。唯人は変身を済ませると、ジュニアを置いて光を追って上流に走り出した。

どれだけ上ってきたのか。だが光は一向に本性を現さない。
もうちょっと、と思っていると光はふっと消えてしまった。唯人の勘違いだったのだろうか。
その時、後ろから声がした。
「我々の仲間にならないか。」
もはや見慣れた仮面姿がそこにあった。
「……お前の目的はなんなんだ?」
「ボスは、この辺り一帯を魔物に明け渡せば、不老不死の魔族となれる契約を交わした。」
どうやら男には上司がいたらしい。
だが唯人はそれよりも、そんなことに加担している男を許せない。あれだけ唯人を悩ませていた情は、きれいさっぱり吹き飛んだ。
「君が仲間になってくれればもう怖いものは無い。さあ、どうだ。」
「断るに、決まってんだろうがっ!」
唯人が叫んだ瞬間、男の後ろから植物のつるが飛んできて男を叩き付け、男から何かを弾き飛ばした。
「くっ、卑怯な!」
「悪者相手に手を選んでやる必要なんて無いね。」
唯人は男に近づいてさらに攻撃を重ねようとして……手を止めた。
「お前は……!」
先ほど男から弾き飛んだのは仮面であった。唯人はその中身を見てしまったのだ。
隣のクラスの神野。それが奴の正体だった。
唯人が呆然としているうちに神野は仮面を拾い、逃げてしまった。
彼は優等生で通っている。その彼がなぜ? 唯人はしばらくその場で立ち尽くしていた。

午後になって、唯人の元に訪問者があった。
つかさに連れられて部屋まで来たその訪問者は、唯人を見るなり掴みかかってきた。
「おい、お前雅に何したんだよ!」
何も言わない唯人に訪問者、順平の怒りは膨れ上がっているようだ。それを見てすかさずつかさが順平をなだめる。
「……雅から伝言だ。自分は何も気にしてないから学校来い、ってさ。」
唯人はやっぱり何も言わずに、しかししっかりと首を縦に振った。

243: ◆KazZxBP5Rc
09/01/30 01:29:10 Cv9WgENf
つづく

244:創る名無しに見る名無し
09/01/30 01:35:49 xZJ/1oaB
GJ!!
仮面の正体も判ってこれから急展開ですかね

245:創る名無しに見る名無し
09/01/30 01:38:34 k9DBr0zj
鬱展開を見ると「あぁ最終回が近いんだな」って感じするわw
もうすぐ、あと二話で終わっちゃうんだな…

246: ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:19:47 BnslQHmp
ダレモイナイ トウカスルナライマノウチ

247:魔法少女? ユイ 第7話 1/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:20:32 BnslQHmp

第7話『対面』


どんなに嫌がっても明日は必ずやって来る。それならば同じその日をどのように迎えるのか。
唯人は「その日」を、やる気に満ち溢れた心で迎えた。
「椎名君!」
教室に入ると真っ先に雅が駆け寄ってきた。
「おはよう。心配かけてごめん。」
まだ不安げな表情を浮かべている雅に、そう笑って返す唯人。
遅れて順平も唯人の近くへ歩いてくる。
言葉は交わさなかったがハンドシグナルで大丈夫だと伝えた。
ちょうどその時、真後ろの扉が開いた。
振り返ると、立っていたのは神野。
唯人は眉を寄せた。彼は隣のクラスのはずだ。となれば自分に用があるとしか思えない。なにしろ昨日の今日だから。
果たしてそれは正解だった。
「今夜九時、商店街裏の山。」
たったそれだけをつぶやくように告げて、神野は自分の教室に戻っていった。

授業が始まると、唯人はここ数日の遅れを取り戻すかのように熱心に聞き入った。
それは周りから見ると恐ろしさを感じるほどのものだったという。
チャイムが鳴ってからも、分からない部分を真っ先に聞きに行き、教師によって感心されたり不審がられたりだった。
「どうしたんだお前、熱でもあるのか?」
いつもなら噛み付く言葉にも、爽やかに白い歯を見せて返す。
「自分のやるべきことが分かっただけだよ。」

248:魔法少女? ユイ 第7話 2/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:21:06 BnslQHmp
充実した時間はあっという間に過ぎてゆく。
学校が終わって家路につくと、唯人はいつもと違い真っ先に宿題に取り組んだ。
それが済むと今度はしばらくサボっていた家の掃除を始めた。掃除機を掛け雑巾を掛け、徐々に綺麗になっていく家の中が気持ちいい。
ちょうど帰ってきたつかさの夕飯作りを手伝い、食べ終わる頃には出発にぴったりの時間になっていた。
玄関でジュニアを抱きかかえるつかさは、最後に唯人に念を押した。
「本当に行くの? 罠かもしれないよ?」
「大丈夫。それにどうせいつかは戦わなきゃならないんだ。」
そして唯人は、ポケットからステッキを取り出し祈りをささげた。
身体中の触覚が失せ、重力さえも感じなくなる不思議な感覚。徐々に感覚が戻ってくると唯人はピンクの衣装に身を包んだ少女となっていた。
「じゃあ、行ってくる。」

249:魔法少女? ユイ 第7話 3/3 ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:21:36 BnslQHmp
どこも閉店していて切れかけの街灯だけが点いている商店街。
その不気味さを振り切るように唯人はアーケードの中を疾走してゆく。
最後の看板をくぐるとそこは闇の世界。一歩一歩踏みしめるにつれて、唯人の姿が闇に溶けてゆく。
足元に注意しながら山を上り、広い平地になっているところに、仮面の男はいた。
いたのだが、どちらが神野なのか分からない。というのも、その場所で二人の仮面の男が戦っていたのだ。
二人は全く唯人に気付いていない。二本の剣が時々月の光を反射して輝きながら激しい金属音を立てる。
唯人は今ようやく分かった。自分を助けてくれた男は神野とは別人だったのだ。
しかし一体どちらを応援していいのか分からない。
唯人が戸惑っているうち、その時はやってきた。
片方の男の剣が緩んだ。その隙を狙って攻勢に転じようとした男は、逆に足を払われて体勢を崩した。
その顔を鋭く剣が襲う。仮面が宙を舞った。月が映し出した神野の顔。
次の瞬間、神野でないほうの男が神野の耳の辺りを正確に突いた。そして、神野は倒れた。

神野を倒した男は自ら仮面を脱いだ。現れた顔は知らないはずなのに、どこかで見たことがあるような気がする。
「彼は操られていただけだ。」
顔をぼーっと眺めていた唯人は、その声にビクッとする。男は神野の耳から取り出した宝石を見せた。
それから、こう続けた。
「私の祖先は昔魔族からこの剣を奪い、代々守り続けてきた。
 この剣には魔物を惹きつける力があると言っただろう。どうやら使い方によっては魔物を操ることもできるらしい。
 彼が持っている剣はレプリカで完全な力が出せなかったんだ。」
「それで取り戻しに来たって訳か。」
神野のほうを見やる唯人。倒れているその姿に近づこうとした瞬間のことだった。
「危ない!」
声が聞こえたのとまばゆいばかりの光球を感じたのはほぼ同時。
直後、男の肩が唯人を弾き飛ばした。
唯人は男に光球が直撃するのを、ただ見ていることしかできなかった。
そのまま弾き飛ばされる男。
彼が倒れたとき、破れた袖から見えたのは、あの日唯人が雅に渡したブレスレットだった。

250: ◆KazZxBP5Rc
09/02/05 14:23:52 BnslQHmp
;゚д゚)<次回最終回らしいよ

                    Σ(゚Д゚;エーッ!!

251: ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:50:21 nalqDV3o
べっ、別にレスが無くたって寂しくなんてないんだからっ!

あっ、そうそう、そんなことより最終話、いくわよ!

252:魔法少女? ユイ 最終話 1/5 ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:51:06 nalqDV3o

第8話『今、全てに決着を』


「海……瀬……?」
唯人がつぶやくと、男は倒れたままむりやり笑顔を作ってみせた。
まだ頭の整理ができていない。ふらふらと男の側に歩いていく。
気付いてみるとあの目は確かに雅の目だ。
唯人は雅の隣にしゃがみこんだ。
「どうして……?」
「力が、欲しかったの。私には、魔力は無いから。」
そんなことが聞きたいんじゃない。だけど目の奥が熱くなって、言葉が声にならない。
とうとう目から涙があふれ始めた。
泣きじゃくる唯人にそれでもなお優しく微笑みかける雅。こんなの、逆じゃないか。
唯人の涙が治まるのを待ち、雅は少し顔をそらし気味にして言った。
「私ね、椎名君のこと……、」
その時、二人を光が包んだ。
唯人はとっさにステッキを使ってガードを取った。
しかし強大な力には耐え切れず、ステッキは折れてしまっている。
いや、ステッキのことなどどうでもいい。
吹き飛ばされた唯人は、慌てて再び雅の元へ駆け寄る。
手首を握ってみる。脈は感じられない。
雅の顔に耳を近づけてみるが、呼吸の音も聞こえない。
「そんな……。」
そして唯人は、無意識のうちに自分の唇と雅の唇を重ね合わせていた。

強い力が自分の内側から沸き起こってくるのを感じる。その力を唇から唇へ受け渡すイメージを強く思い描く。
宇宙に二人しかいない。そんな、魔法少女の変身のときのような、しかし全く違うような感覚を受けながら……。

253:魔法少女? ユイ 最終話 2/5 ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:51:43 nalqDV3o
立ち上がった唯は、家を出る前に着ていた男物の服装になっていた。
男とキスをすると男に戻ることはできない。その掟は、本来女である雅との間でも変わることはなかった。
もう二度と変身することもない。
雅と神野を草陰まで運ぶと、唯は闇の中をにらみつけた。
「まったく、親子ともども役立たずめ!」
現れたのは小柄な老人だった。
だからといって唯にためらいの気持ちは全く無い。
唯は試しに指の先から炎を出してみせた。いける。
今まで、ステッキが無いと魔法を使えないと思っていた。
だが考えてみれば魔力の源は自分なのだ。
ステッキは確かに魔力を外に伝導しやすくしてくれたかもしれない。
でも、イメージさえしっかりとつかめれば、ステッキに頼らなくても魔力を行使できる。
それが先ほどの体験で理解できたことであった。

254:創る名無しに見る名無し
09/02/08 21:52:01 aLeTlUxX
  


255:魔法少女? ユイ 最終話 3/5 ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:52:07 nalqDV3o
「ふん!」
老人は掌から光球を作り出し、投げつけてきた。
しかしそれは唯に直撃する直前で虹色のバリアに跳ね返された。
もはや四元素に縛られる必要も無い。イメージの続く限り新たな魔法を作ることができる。
ひとつでは無駄と見たのか、老人は光球を自分の周りにいくつも生み出し飛ばしてきた。
唯は焦った。これでは近づけない。流石にバリアを張りながら動けるほどの集中力は無い。
バリアのために当たりはしないが、老人の攻撃は無尽蔵だった。魔族の力の一端を与えられているのだろう。
これではいずれ唯のほうの体力が尽きて負けてしまう。
唯がこの事態をどう打破しようか考えていたとき、倒れていた神野の口が動いた。
「じい……さん……。」
それは、うわ言だったはずなのに不思議に心強く闇に響き、唯の耳にも届いた。
唯はこの戦いの結末を全く考えていなかった。
あの老人を倒したとして、それで諦めるのだろうか。老いた身にとって若さと永遠の命がどれほどの魅力か、唯に量るすべも無い。
だからといって二度と立ち上がれないほど痛めつけたり、殺したり、同じ人間にそんなことができるほど唯は図太くない。
説得? そんなことができるほどならこんなことにはなっていないはずだ。
「でも……。」
でも、唯にはひとつだけ不確かながら希望があった。
言葉で伝わる情報には限界がある。だから人は誤解したり疑ったりする。
一方、魔法とは気持ちの力だ。気持ちに直接気持ちをぶつける。そうすれば分かってくれるかもしれない。
危険な賭けだ。でもこれ以外に全員を救える道は無い。

かなりの時間が経った。
だが無駄に時間を過ごしていたのではない。人がものを適当に並べるとき、そこに必ず癖が出る。唯は光球のパターンを見ていた。
魔力も限界に近い。唯はバリアを外すと、自分に向かってくる光球に手を突き出した。
集中。掌すれすれのところで唯は光球を自分のものにした。
それを別の光球に投げつける。互いに触れ合って爆発する光球。その間を唯は潜り抜け、老人の懐にもぐりこんだ。
「これが……俺の気持ちだ!」
全部の魔力を出し切った唯は、その場に倒れこんで……。

256: [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し
09/02/08 21:52:33 AF7fV2Ia
  

257:魔法少女? ユイ 最終話 4/5 ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:52:39 nalqDV3o
唯が目を覚ますと、そこは自分の部屋のベッドだった。
昨日のことがまるで全部夢だったかのように感じられる。
「あ、起きたんだ。」
タイミングよくつかさが部屋に入ってきた。
「うん……。」
当たり前なのだが自分の声がやっぱり高い声だったのに少しショックを受ける。
もう一時的なものじゃないんだ、早く慣れなくちゃ。
「神野のジジイは改心したってさ。」
なんとなく返事する気になれない。それを聞いてほっとしたことは事実ではあるのだが。
「それにしても、やっぱり血は争えない……か。」
「何のことだよ。」
「……私もね、昔魔法少女やってたんだ。」
やけに詳しいとは思っていたので、特に驚くことも無い。
「元男でね。」
「は?」
それは寝耳に水だった。
「その時も神野は親子で向かってきてね、息子さえ倒せば止まると思ってたんだけど、ジジイのほうが問題だったとはね。」
淡々と話すつかさ。大事な部分をスルーされている気がする。
「それより姉ちゃん、男とキスって……?」
「ああ、あの子の父親いたでしょ。」
「わんっ!」
「ジャッキーがどうしたって?」
ジュニアの父親ジャッキーは、椎名家の実家で飼われていた犬だ。
「うっかり変身解くの忘れてジャッキーと遊んでたんだよね。」
呆れて声も出ない。
どうやら男というのは人間でなくても良いらしい。
「それじゃそろそろ邪魔者は退散しますか。」
「え?」
「彼が家まで運んできてくれたのよ。」

258:魔法少女? ユイ 最終話 5/5 ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:53:16 nalqDV3o
つかさと入れ違いに現れたのは、男の姿の雅だった。
唯は慌ててベッドから立ち上がる。
「海瀬……。」
「みや……ううん、マサって呼んで。」
「雅?」
「私も、元に戻れなくなっちゃって。」
女から男に変身するときも、同じような条件があるようだ。
「ごめん……。」
「気にしないで。」
いたずらそうに微笑むと、雅は唯を抱き寄せた。
唯の肩がビクッと跳ね上がる。
でも、不思議と悪い気はしない。相手が雅だからなのか、それとももう既に女としての感覚が身に付きはじめているのか。
そんなことを考えているうちに、男としてはやわらかそうな雅の唇が近づいてきて……。
唇が離れたとき、唯は「もっと」と言いそうになったが、さすがに恥ずかしすぎてやめた。
「気絶してたから覚えてないんだよね。だから、仕返し。」
楽しそうに話すこの雅の笑顔を、いつまでも守りたい。
唯はそう心に深く誓い、雅に笑い返した。

259: ◆KazZxBP5Rc
09/02/08 21:54:36 nalqDV3o
おしまい。ありがとうございました

これからどうするかは未定

260:創る名無しに見る名無し
09/02/08 21:56:04 ADRzi404
投下乙。性転換モノ連載おつかれさまです。
こういう積極的に作品を書いてくれる人、好きです

261:創る名無しに見る名無し
09/02/08 22:01:00 aLeTlUxX
お疲れ様でした
GJです

262:創る名無しに見る名無し
09/02/08 23:18:15 45WEgH6Q
お疲れさまでしたぜー

263: ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:29:59 Phn/A7z5
ユイ番外編投下するよー

264:創る名無しに見る名無し
09/02/13 23:30:31 EGm1vsE1
こいー

265:魔法少女? ユイ 番外編 1/4 ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:30:41 Phn/A7z5
それは2月に入ってまもなくのこと。
椎名姉妹は夕食を食べ終わってコタツでテレビを見ていた。
「そういえばさ、あんたバレンタインどうするの?」
姉のつかさが尋ねる。
「ん、姉ちゃん今年は何かくれるの?」
みかんを片手に妹の唯が答えた。
「あのねえ……。バレンタインよバレンタイン。何の日だか知ってる?」
「女の子が好きな男にチョコあげる日。」
正しくは「今の日本では」が付く。
「そうそう。で、あんたはどっち?」
「どっちって……あ―っ!」
まだ女の子としての自覚が足りない唯だった。

「という訳で朋、手伝って。」
女になってからの唯は一気に女友達が増えた。その中でも特に仲良くなったのが朋である。
「いいねえ、ラブラブで。」
「かっ、からかうなよ!」
顔を真っ赤にして反応する唯。それがイタズラ心をくすぐるのだということを本人は知らない。
「じゃあ、十三日に私ん家ね。」
「さんきゅ。」

266:魔法少女? ユイ 番外編 1/4 ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:31:35 Phn/A7z5
お菓子作り当日。買い物を終えた二人は朋の家に向かった。
「ただいま。」
「おじゃましまーす。」
朋に続いて唯も玄関に入ってゆく。
スカートなので足を後ろに跳ね上げて靴を脱ぐ。つかさに教わったやり方だ。
中に上がると朋の母親が出迎えてくれた。
「あら、お友達? いらっしゃい。」
「お母さん、キッチン使っていい?」
「ああ、そうね。……どうせ買い物してくるんだったら頼めばよかったわ。」
「今から行くの?」
「そうよ。すみませんね、バタバタして。」
最後の一言を唯に向けて放ち、朋の母親は出て行ってしまった。
「さてと、じゃあやろっか、愛しの雅ちゃんのために。」
不意打ちに雅の名前が出たのが気恥ずかしくて、つい朋をにらんでしまう唯。
朋はそんな初々しい唯を眺めるのが大好きなのだ。だからしょっちゅうからかってしまう。

267:魔法少女? ユイ 番外編 3/4 ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:32:53 Phn/A7z5
その後、二人はキッチンに入って準備を始めた。
「料理はよくやるの?」
「うん、姉ちゃんと二人だから。でもお菓子は作ったことないな。」
「大丈夫、混ぜながら順番に入れてくだけだから。」
話している間にも準備は整った。今回二人が作ることにしたのはクッキーだ。
唯は最初のバターをボウルに入れる。
ヘラを取り出そうとした朋を唯は制止した。よく見るとバターは勝手にやわらかくなっていっている。
「魔法?」
「ボウルの中の空気を回しているんだよ。」
「……いつもこんなことやってるの?」
「だって体動かすより楽だもん。」
「……太るよ。」
「大丈夫だよ、毎朝トレーニングしてるから。」
呆れたり羨ましかったり、複雑な思いを抱く朋。
「よし、全部混ぜ終わった。」
「あとは小さくこねてオーブンで焼くだけだよ。」
「魔法で焼いちゃダメ?」
「うちを火事にする気か!」

クッキーを焼いている間、二人はジュースを飲みながら話していた。
「で、雅ちゃんとはどこまでいったの?」
危うく噴き出すところだった。
「どどどどどどどどどこまでってキスだけだよ!」
「えー、つまんない。」
「つまんないってなあ……俺、男だったんだぞ?」
「知ってるよ。」
「だから、その、まだ……。」
恥じらう唯が可愛すぎて、朋は笑ってしまった。
「ま、あんたたちなら大丈夫でしょ。ゆっくり大人の階段上っていきなさい。」
そう言って唯の肩を叩く朋。
なんだかんだ言って良い友達だな、と唯は思った。

268:魔法少女? ユイ 番外編 4/4 ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:33:51 Phn/A7z5
翌日、教室ではさまざまな思惑が渦巻いていた。
一触即発、そんな空気をよそに、登校してきたばかりの唯は雅に話しかけた。
「雅、これ……。」
「え? あ、ありがとう。」
なんだか様子がおかしい雅。
「実はね、くれるとは思ってなかったから、こっちでも用意してたの。」
換わりに赤い紙で包装された箱を受け取る。
なんだ、そういうことだったのか。唯は自然とにやける。それにつられて雅にも笑顔が浮かぶ。誰にも入れない二人の世界がつくられていた。

少し遅れて、順平が教室に入ってきた。順平と雅の席は前後同士で、唯は今度は席についた順平に話しかけた。
「よう、お前にもいろいろ世話になったから、これ。」
「なんだ?」
「バレンタインの。」
「お前なあ……彼氏の目の前で他の男に渡すなよ。」
わざと強調された「彼氏」の言葉に唯が真っ赤になるのは言うまでもなかった。

269: ◆KazZxBP5Rc
09/02/13 23:35:11 Phn/A7z5
おわり
番号間違えてごめんなしあ><

270:創る名無しに見る名無し
09/02/13 23:36:42 Phn/A7z5
>>264
てか早ええw

271:創る名無しに見る名無し
09/02/15 18:52:54 12VSvmRb
またしばらく単発ネタでがんばろう
1レス投下

272:アイス ◆KazZxBP5Rc
09/02/15 18:53:59 12VSvmRb
「真冬にわざわざコタツでアイスなんて、どうかしてるよ」

「そうか? うまいぞ」

「……まあ、どうかしてるのは分かってたけどね
 男だったボクをわざわざ女にして彼女にするくらいだから」

「嫌なのか?」

「……ズルいよ、好きになっちゃってからそんなこと聞いてくるなんて」

「まあ、なんだ、お前もアイス食えよ」

「寒くなるよ」

「寒くなったら暖めあえばいいんだよ」

「バ、バカ! 何言って……
 ……モナカ、あったかな…………」

273:創る名無しに見る名無し
09/02/15 18:56:01 16eNSr1c
真冬のアイスは至高
だがその発想はなかったwww

274:創る名無しに見る名無し
09/02/26 22:00:25 Zt+cJSmW
中身は男の子同士なのにとか考えちゃう俺はTSに向いてないんだろうな

275:創る名無しに見る名無し
09/02/27 00:34:31 p7+femeR
少しずつ中身が女の子に染まっていくのがいいんじゃないか
中身男のままで百合も素敵だけどね!

276:創る名無しに見る名無し
09/02/27 00:39:56 z5qcJAzN
TSモノの醍醐味はギャップなのだよ
可憐な女の子の中身が実はざっくばらんな男みたいなのを想像すると
もうそれだけで体全身が濡れる

277:創る名無しに見る名無し
09/02/27 16:24:40 RYTCnKdA
その情熱を創作に注ごうぜ

278:創る名無しに見る名無し
09/03/01 06:51:57 V377Verj
うむむ、TSというジャンルを誤解していたかもしれん
誰もが何かしら持ってる変身願望を満たすようなもんだと思ってたよ
すぐには無理だけど、いつか何か書いてみるよ

279:創る名無しに見る名無し
09/03/01 20:19:33 +bdR4oFh
それもある
それもあるけどもっと深かったのだよ

280:創る名無しに見る名無し
09/03/01 20:35:40 +bdR4oFh
肝心なこと言い忘れたw
wktk

281: ◆KazZxBP5Rc
09/03/02 23:22:34 CQwEPP47
単発ネタでがんばるとキッパリ言ったばっかりなのに……
スマンありゃウソだった

282:中二ファンタジーっぽいの(仮) 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/02 23:23:30 CQwEPP47
俺の名はアルナ。幼なじみの魔法使い・ネミとともに気ままに旅を続けている。
差し当たっての目的は、旅の中で立ち寄った町で頼まれた、モニュモニュの丘にある木の実を採りに行くことだ。

「ずいぶん歩いたな。」
「あそこの小川の側で休憩しよっか。」
太陽は南中。見渡す限りの草原。爽やかな風。
こう気持ちが良いと昼寝でもしたくなる。
しかし丘まではまる二日。惰眠を貪っている訳にはいかないのだ。

俺達はちょうど小川の近くに立っていた木に寄り掛かり、昼飯の仕度を始めた。
と、その時。木の上からモンスターが落ちてきた。
不思議なモンスターだ。体はゲル状の物質で構成されているようだか、形状は獣のかたちを保っている。
とにかく、飯の邪魔。こういうのはさっさと片付けるに限る。

剣を抜いてモンスターに襲い掛かる。こいつ、意外と斬れにくい。
「どんな能力持ってるか分からないから、距離を置いて戦いなさいよ!」
ネミの声が耳に届くが、あいつは分かっていない。
攻撃は最大の防御だ。相手に攻撃させる隙を与えないのが最も効率的な戦い方なんだ。
素早く、強い力で攻撃を叩き込むほど相手は怯む。
そのために俺は日々トレーニングを欠かさない。

283:中二ファンタジーっぽいの(仮) 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/02 23:24:41 CQwEPP47
なかなかしぶとい奴だ。
俺は戦いに夢中で周りの異常な事態に気付いていなかった。
ふと目を上げると俺の周囲は赤い霧で覆われている。
驚いているうちにモンスターは逃げ出してしまった。
追おうとしたが、体が動かない。
「しまった! しびれ……」
俺の意識はそこで途切れた。

目を開けて最初に思ったことは「まだ太陽は高いな」ということだった。
「ネミ……?」
自分の口から漏れる声がいやに高い。喉をやられたかな。
「体、よく見てみなよ。」
そう答える彼女の声は震えていた。

仰向けの体勢から顔を上げるとまず目に飛び込んできたのは大きな膨らみだった。
そしてそれはどうやら俺の胸に付いているらしい。
薄い装備越しに触ってみるとそれが実感できる。
もしかして下も……と思い中を覗き込むと、果たしてそこには平地が広がっていた。
顔でも洗おう。異常な事態に巻き込まれると、人は現実逃避に突然こういうなんでもないことを思いつく。
小川の水に手を伸ばそうとした時、見知らぬ女のはかなげな姿が水面に映っていた。
ネミもなかなかの容姿だが、この女は今まで見たこともないような絶世の美女だ。
「これが……俺?」

284: ◆KazZxBP5Rc
09/03/02 23:25:38 CQwEPP47
つづく

職人さん絶賛募集中です

285:創る名無しに見る名無し
09/03/02 23:26:05 k4w17wzr
GJだ

286:創る名無しに見る名無し
09/03/03 03:40:57 ZHdTHhDN
これはよい中二
続きはマダー?

287:創る名無しに見る名無し
09/03/03 04:06:15 w9vLjSMb
少しずつ毎日投下するほうがいいと知ったので

288:創る名無しに見る名無し
09/03/03 17:21:30 g+9F+Xib
いいなあ。期待期待

289: ◆KazZxBP5Rc
09/03/03 22:56:33 w9vLjSMb
ネタが少ないので1週間ちょっとで終わる…かも
今日の分投下ー

290:中二ファンタジーっぽいの(仮)2 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/03 22:58:10 w9vLjSMb
チキンにかぶりついているうちに落ち着いてきた。
「じゃあ行くか!」
「え?」
おいおい、そんなピジョンホークが豆鉄砲食らったような顔するなよ。
「どうせくだらねえ呪いだろ? 後で解呪すればいいって。」
「でも……」
「それに、この辺りには大したモンスターはいねえよ。」
「うん……」
なんか調子が狂うな。いつもはすぐ突っかかってくるのに。
俺達は荷物をまとめてまた歩き出した。
体のバランスが変わって動きにくいが一時間もすれば慣れるだろう。

「ちょっと待って。休憩。」
「また? もう三回目だよ。」
そんなこと言われても、体が追いついていかない。足が棒のようだ。
太陽はもう傾き始めている。そんなことは分かっているけど。
「十分だけ、な。」
「もう……」

腰を下ろしてしばらくすると、近くの草むらが揺れだした。
まずい、ここまで引き寄せるまで気付かなかったとは。
こんなに近いと戦闘は避けられそうにもない。
飛び出したのはラージウルフだ。
なんだ、デカいだけで弱っちいヤツじゃないか。
俺は剣を取り、反対側を見張っていたネミに戦闘の開始を告げた。

291:中二ファンタジーっぽいの(仮)2 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/03 22:59:15 w9vLjSMb
まずは挨拶にと一太刀。だったつもりが、かすり傷を負わせただけ。
ウルフは全く意に介さず突進してくる。
くそ、剣が重い。いつもの俺なら三撃以内で仕留められる敵なのに。
片手剣を両手に持って振るう。
「ガウゥゥゥゥゥ!!」
よしっ、効いた! と思ったのも束の間、ウルフは逆上してさらに攻撃の手を強めてきた。
防戦一方の俺。ちっ、ネミはまだ詠唱中か?
つば競り合いの末、とうとう剣が弾き飛ばされた。
「アルナっ!」
逃げろ。脳がそう命令してるのに体がすくんで動けない。
なんでこんなヤツに俺は恐怖を感じているんだ。
心なしか勝ち誇ったような顔のウルフ。その大きな口が俺の頭を……。

「キャ――ッ!」
「ファイリア!」
きつく閉じた目をゆっくり開けると、ウルフは炎に焼かれてその場に倒れていた。
「あ……」
「ほら、しゃんとしなさい!」
「あ、ああ。」
ネミに腕を引っ張ってもらい立ち上がるが、思わず彼女に寄りかかってしまう。
そこで初めて、腰が抜けているのだということに気付かされた。
「どうする? 町に戻る?」
その言葉に俺はうなずかざるを得なかった。

292: ◆KazZxBP5Rc
09/03/03 23:00:03 w9vLjSMb
つづく

293:創る名無しに見る名無し
09/03/04 00:33:19 ozvO18gA
つづいた

294: ◆KazZxBP5Rc
09/03/05 01:13:31 hQaE7q1y
まだ4日の25時だよねっ

…投下します

295:中二以下略(仮)その3 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/05 01:14:25 hQaE7q1y
医者は俺の体に手をかざした。
やがて、手を下ろした医者は、俺に向かって告げた。
「気の流れを読みましたが正常です。完全に健康な女性の体です。」
「なんだって?」
「ですから、これは呪いの類ではないということです。物理的に体を造り変えてるとしか思えません。」
後ろからネミが口を挟む。
「元に……戻れないのですか?」
「長い間この仕事をやっていますが、こんな現象は聞いたこともありません。おそらく難しいでしょう。」

町に戻った俺達はその足でまず医者に向かった。
それがさっきのことだ。
「これから、どうする?」
ネミが恐る恐る聞いてくる。
傷つけないようにか、それとも俺が怒っていると思っているのか。
「とりあえず、今日のところはもう遅いし、宿を取ろう。」
俺はなるべく笑顔を作って返した。

296:中二以下略(仮)その3 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/05 01:15:26 hQaE7q1y
宿屋の個室でなんとなく眠れずに暇をもてあましていると、ネミが俺の部屋に入ってきた。
「アルナ、一緒に寝てもいいかな。」
「なっ……」
返事も待たずにネミはベッドに座る俺の隣に腰掛けた。
「明日は装備買い替えに行きましょ。」
「ああ、そうだな。」
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「私ね……」
ネミの真剣な横顔を間近で見つめる。
女になって目線が同じ高さになったから、頬と頬が触れそうなぐらいだ。
「ごめん、やっぱなんでもない。」
おいおい、気になるじゃんか。
「さあさあ寝よ寝よっ!」
不意を突かれて、俺はベッドの上に引っ張り倒された。

もうすぐ満月か。
窓から漏れる月の光は俺達を照らしていた。
ネミは俺の腕に絡み付いて、すやすや眠っている。
そのせいもあってか、俺は未だ全く寝付けない。
何せ彼女の胸の感触が直に伝わってきている。
今では―本人の前では言えないが―俺の方が大きいとはいえ、このやわらかさの前では自制心を保つのが大変だ。
もっとも、俺が寝付けない一番の理由はそれではない。
これからのこと。
あるのかどうかも分からない、男に戻る方法を探すのか。
それとも諦めてこのまま一生を女として過ごすのか。
「アオ――ン!」
犬の遠吠えが響いた。
まあ、時間はたっぷりある。これからじっくり考えていけばいいか。
そう結論付けて、俺は目を閉じた。

297: ◆KazZxBP5Rc
09/03/05 01:16:20 hQaE7q1y
つづけ

298:創る名無しに見る名無し
09/03/05 01:19:04 qC5gnN3g
医者は気でみるのか
ファンタジーっぽいなー

299:創る名無しに見る名無し
09/03/05 01:26:31 axU8AQrd
久しくこのスレは見て無かったが、>>295を読んで、
1から読んでみる気になった。なんだろう、この湧き上がる気持ちは

300:創る名無しに見る名無し
09/03/05 01:30:56 hQaE7q1y
昔は医術はオカルトだったらしい

>>299
さあその湧き上がる気持ちを表現するんだ

301:創る名無しに見る名無し
09/03/05 02:00:59 axU8AQrd
男から女になったってことは、精神面では公然と(?)百合ができて
百合百合していいてっことなんだな。素晴らしいぜ、性別変化!
いや、その百合の背徳感が素晴らしいってことも確かに分かるが、
男が女になっちゃったその戸惑い、何より男の夢、みたいなもんは素晴らしいな
うん、素晴らしい

これでいいんですね><

302:創る名無しに見る名無し
09/03/05 02:13:47 hQaE7q1y
それでヒロインの方が意外と男らしくて
元男である自分のアイデンティティに悩むとかいうパターンも萌える

いいんですけど作品で表現してくれるともっと嬉しいな><

303:創る名無しに見る名無し
09/03/05 02:59:24 axU8AQrd
>>302
な、なるほど。奥が深いぜTS道。確かにそれもたまらん物があるな
作品とか勘弁してくだしあ><

304:創る名無しに見る名無し
09/03/05 11:27:08 +Hp2gUY/
これか!このもやもや感が俺の書いたアレには足りなかったのか!orz

305:創る名無しに見る名無し
09/03/05 14:34:07 hQaE7q1y
生きろ、そして続きを!

最近俺以外の投下がないので
なりふりかまわず噛み付いてるけどごめんね

306:創る名無しに見る名無し
09/03/05 17:28:01 +Hp2gUY/
続きは書く!たぶん!
他所でやってる某アレやら某コレやらの後になるけど、ここ流れの遅いスレだからきっとだいじょぶ!orz

307:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:28:09 Ct9sYPdT
>>306
気長に待ってるぜ

308: ◆KazZxBP5Rc
09/03/08 03:28:58 Ct9sYPdT
三日坊主とか最低ですね!
投下します!

309:中二以下略(仮)その4 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/08 03:29:42 Ct9sYPdT
「こ、こんなの着るのか……」
俺は町の防具屋の中で立ち尽くしていた。
誰だってそう思うだろ。防具のくせになんでこんなに露出が高いんだ。
「女性の方は体力が劣るので、なるべく軽くなるように仕立てられています。」
店員によると、そういうことらしい。
しかしこれで身を守れるものか? 確かに胴は鉄板で覆われているから大丈夫そうだが。
「動きを制限される方が命に関わりますからねえ。」
なるほど、一理ある。

試着室に入ると女の店員が待ち受けていた。
「ではサイズをお測り致しますので服をお脱ぎください。」
「へ?」
そりゃそうだ。サイズが分からなくては防具は買えない。そんな当たり前のことを今さら思い出した。
店員は部屋の隅ですました顔で待っている。
きっと向こうは仕事だから何とも思わないんだろう。
……って、なんで俺は上半身裸になるくらいでこんなに恥ずかしがってるんだ。
思い直した俺は皮のシャツを思いっきりカゴに投げた。

「んっ……」
胸に当たるメジャーと店員の手の感触がくすぐったい。
このままだと変な気を起こしてしまいそうだ。
そう思った途端だった。
「終わりましたよ。」
助かったような、残念なような。

310:中二以下略(仮)その5 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/08 03:30:28 Ct9sYPdT
やっぱり騙されたんじゃないだろうか。
肩も太ももも丸出しで恥ずかしいったらない。
「カッコイイよ、アルナ。」
隣を歩くネミが笑って言う。
「からかうなよ。」
「あー、ひどい! 本気だよ。」
頬を膨らますネミ。こいつを見ていると不思議とどうでもよくなってくる。
「あとは剣だね。」
「ああ。」

夕刻、俺は新品の細身剣を持って再びラージウルフと対峙していた。
「昨日のようにはいかないぜ!」
剣を一振り、二振り。なるほど、これは今の俺には扱いやすい。
「くっ……」
なかなか致命傷を与えられず肉迫するが昨日ほどの必死さは無い。
ウルフとの距離が離れた。剣を持ち直す。
「うぉぉぉぉぉ!」
突進してくるウルフの口の中に剣を突き刺した。
そして呼吸を止めたウルフはその場に崩れ落ちた。
「よしっ。」
「やったね!」
これからの旅、何とかなりそうだ。

311:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:30:59 45a5jtrw

珍道中どうなる事やら

312: ◆KazZxBP5Rc
09/03/08 03:32:20 Ct9sYPdT
つづく

違う数字まで増やしてたw
そろそろ正式タイトル考えないと

313:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:44:17 JsIRTmbx
だよな、ファンタジー系の女戦士の防具って絶対おかしいよな

314:創る名無しに見る名無し
09/03/08 03:47:49 Ct9sYPdT
実は某ゲーム雑誌の受け売りな話題だったりw

315:創る名無しに見る名無し
09/03/08 14:21:10 SUfCPMI4
ここで空気を読まずに要望
もっと色々着せ替えさせようぜw

316:創る名無しに見る名無し
09/03/08 15:58:23 Ct9sYPdT
残念ながら現実でもファンタジーでもファッションには詳しくないので
着せ替えさせる能力がないのです

317:創る名無しに見る名無し
09/03/11 22:18:04 CMjahYxS
なんだかTSの魅力が分かってきたきがするよ!
続き投下期待

318: ◆KazZxBP5Rc
09/03/17 00:20:17 XYz3vmzG
なんだかんだで1週間引っ張っちゃったよ
投下します

319:中二以下略(仮)その5 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/17 00:22:02 XYz3vmzG
俺達は再びモニュモニュの実を採りに行くことにした。
今度は見知らぬモンスターに遭遇することもなく順調に丘までたどり着いた。
結局俺をこんな風にした張本人も見つからなかったわけだが。
モニュモニュの実は玉虫色をしていて異様な雰囲気を漂わせている。
これをすりつぶすことである種の解毒剤になるらしい。
俺達は袋いっぱいに実をつめて丘を後にした。

町へと戻る道の最初の夜。テントの外で俺は見張りをしていた。
「今夜は満月か。」
頭上には満点の星空が広がっている。
その中に輝くひときわ大きな真円の光の玉。
俺はそれにひたすら魅せられていた。

「アルナ、交代。」
ネミの声にはっと我に返った。
「おう。」
なんだか頭がぼーっとする。
ここはネミに任せて早く寝よう。

320:中二以下略(仮)その5 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/03/17 00:22:58 XYz3vmzG
…………

「ん……」
「あ、気付いた? 朝だよ。」
「ああ……」
夜中にもう一度見張りを交代しようと思っていたのに、寝過ごしてしまったらしい。
昨日は寝つきが良すぎた。
でもその割にはまだダルさが取れていない。
「どうかしたの?」
寝転んだままの俺にネミが不思議そうに話しかける。
「なんか腹の下辺りが重くってさ。」
「それって……」
「ん?」
「あのね。」
ネミの表情が真剣なものに変わる。
それを見て思わず俺は体を起こした。

その後、一時間にも及ぶ女の子授業の開講となった。
「はぁ、俺これからやっていけるんだろうか。」
「大丈夫大丈夫、私がついてるから。」
俺の頭をそっとなでるネミ。
この時の彼女はやけに頼もしく思えた。

321: ◆KazZxBP5Rc
09/03/17 00:23:51 XYz3vmzG
つづく
投下終わり

322:創る名無しに見る名無し
09/03/18 17:44:41 VwsI/nWT
ぼ、ぼくわかんないよう

323:創る名無しに見る名無し
09/03/30 04:57:37 OegPj4QC
わーい女の子になった夢見たよー
中学の体育の時間だった
お尻重かったw

324:創る名無しに見る名無し
09/04/01 03:08:06 NMLpDISF
今週のワンピースが大変なことになってた


325:創る名無しに見る名無し
09/04/02 18:43:28 nSUaoI7W
>>324
母二人娘一人のくだりに少しばかり感動してしまった

326: ◆KazZxBP5Rc
09/04/05 00:18:27 9r0e8J4r
ここまで投下止めるとは思ってなかった…
つづきいきます

327:全略その6-1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/04/05 00:19:20 9r0e8J4r
俺達は木の実を届け、町へしばらく滞在した後、次の町を目指すことにした。
出発の日、朝早くから多くの町人が見送りに集まった。
「では、お気をつけて。」
「力になれなくてすまなかったな。」
「機会がありましたらまた来てください。」
俺達はお礼を済ませると、果てしなく広がる草原へと足を踏み出した。

「この森を抜けたらすぐ次の町のようだな。」
「なんだか薄気味悪くない?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。」
柄にもなく怖がるネミを適当にあしらう。
大体この辺りの魔物ならまだまだ余裕で倒せるだろ。

日が落ち始めて薄暗い森の中を歩いてゆく。
「きゃっ!」
「チュチュッ。」
「ほら、ネズミだろ。」
「う、うん……」
なんだか調子が狂うな。

328:全略その6-2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/04/05 00:20:06 9r0e8J4r
さらに歩いたところでネミがまた話しかけてきた。
「ねえ、やっぱりさっきから何かいない?」
「森なんだし動物や魔物くらいいるだろ。」
「そう……よね……」
近くの草むらがざわざわと揺れている。
「それか風で草が揺れてるだけじゃ……」
くそ、油断してた。草の中から山賊らしき男共が顔を現した。
三十人は下らないな。既に俺達は取り囲まれていたようだ。

「へっへっへ、お嬢ちゃんたちよ、そんなに急いでどこへ行くんだ。」
鞘に手をかけて奴らをにらみつける。
「そんな怖い顔しなさんな、綺麗な顔が台無しだぜ。」
あいにく男に綺麗と言われて喜ぶような趣味はないんでな。
「おとなしく捕まってくれそうにゃあないな……野郎共! かかれ!」

ちっ、この人数を相手にするにはネミの魔法が必要だな。
でも詠唱の間どうやって彼女を守るか。
「へへ、覚悟っ!」
あー、もうとにかくがむしゃらにやるしかないか。
とその時、ネミに三人がかりで飛びつこうとしている奴らが目に入った。
「てめえら!」
「アルナ!」
ネミが叫んだのとほぼ同時に、後頭部に強い衝撃を感じた。
そして、俺の意識はそこで途切れた。

329: ◆KazZxBP5Rc
09/04/05 00:21:48 9r0e8J4r
まだつづく

330:創る名無しに見る名無し
09/04/06 15:52:28 DOQOa7FZ
うあああああああ
これはPINK板への誘導を用意した方がいいかもわからんね

331:創る名無しに見る名無し
09/04/09 00:30:24 w9j3nD35
あらゆる意味で完全にピンチな件

332: ◆KazZxBP5Rc
09/04/12 21:57:03 9+VlwhNk
投下しまーす

333:その7 - 1/2 ◆KazZxBP5Rc
09/04/12 21:58:31 9+VlwhNk
目を覚ましたとき、俺は手足を壁につながれていた。
「よう、おはようさん。」
下衆な声が牢内に響く。
「そんなににらみなさんな。まだ何もしてねえよ。ボスに会わせるまではな。」
ちくしょう、こんな鎖さえ外れればあんな奴……。
「そうだ、賢いことを思いついたぞ。お前が『何も覚えてなければ』ボスにはバレない。」
「俺は……男だ……」
「そんな体して何言ってんだか。」
やめろ、近づくな。
「すぐに女に生まれて良かったって思えるようにしてやるよ。」
女に生まれてねえから。
くそ、その手を近づけるんじゃねえ。
自分の頬をつたうものを感じた。
こんな野郎が怖くて涙を流してるなんて、情けなくて、悔しい。

しずくが地面に落ちた。と同時に、
「サンデリア!」
野郎は強烈な電撃を浴びて崩れ落ちた。

334:その7 - 2/2 ◆KazZxBP5Rc
09/04/12 21:59:17 9+VlwhNk
「アルナっ! 大丈夫?」
「ネミ……どうして……」
言いながら、自分が泣いてるのを思い出して彼女から目をそらした。
「奴らったら、お金が無いのか頭が無いのか、魔封具付けてなかったから楽勝だったよ。」
みるみるうちに俺の手足にはまっていた枷が外されていく。
「さ、行こ。」
彼女の手には、取り返したのであろう俺の剣が握られていた。

アジトの廊下を走る俺たち。
「なあ、こんな堂々と逃げて大丈夫なのか?」
「通路が狭いからさっきみたいなことにはならないでしょ。」
それはそうかもしれない。
「ねえ、アルナ今回ちょっと弱気じゃない?」
「そ、そんなことねえよ!」

結局戦闘にはならずに済んだ。奴ら、大した連絡網だ。
外に出るとアジトは山の中腹にあったことが判明した。
町の明かりが見えている。俺達は急いで町まで逃げ込んだ。
ここまで来たら奴らもうかつに手は出せないだろう。
バーに入って一息ついたところで、決心したことをネミに話し始めた。
「俺、村に帰ろうと思う。」

335: ◆KazZxBP5Rc
09/04/12 22:00:15 9+VlwhNk
つづく

336:創る名無しに見る名無し
09/04/14 01:43:00 U0PEW2Bv
( ゚Д゚)……

( ゚Д゚)PINKに誘導しようと思ったのに……

( ゚Д゚)……

( ゚Д゚ )

337:創る名無しに見る名無し
09/04/14 09:54:49 P5pxwo7F
これでアウトとか厳しすぎです><

338:創る名無しに見る名無し
09/04/20 19:12:07 iABWM07I
これくらいおっけーさー

339:創る名無しに見る名無し
09/05/01 03:20:33 i1wqVYtn

「ハリー・ポッター」もので、二次創作です。
スネイプ教授が、原作と違い、100%先天性の女性です。

○ 設定捏造。元々は同じ世界だったが、スネ母妊娠の時点で、分離したパラレル
ワールド設定。女スネイプは、母の妹似設定。
○ 元のネタは、原作5巻の“Snape’s Worst Memory”。一種のオマージュ物。
○ 原作7巻まで、全部ネタバレあり。ネタバレが嫌な方は、読まないで下さい。
○ スネイプ教授は、原作の男設定以外、絶対受け付けない~という方は、是非スルー
推奨お願いいたします。
○ “簒奪者”(マローダー。ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・
ルーピン、ピーター・ペティグリュー)Loveなファンの方は、読まないで下さい。気分
が害される可能性大です。
○ 色物でも断然OKという、心の広い方歓迎。

女版教授は、「十二国記シリーズ」(小野不由美)の中嶋陽子が黒髪になって、髪を
下ろしているイメージで。
 NGワードは【スネイプ最悪の記憶】で、お願いします。


340:スネイプ最悪の記憶1/9
09/05/01 03:22:47 i1wqVYtn


スコットランド。ホグワーツ魔術魔法学校 -------1976年、春。

「試験終了!」
普通の成人男性の半分の背しか無い、フリットウィック教授が、試験の終了を高らかに
宣言する。
15、16歳の若き魔法使いたちや魔女たちの将来を決める、大事な試験であるOWLの
最終日。この年は、DADA(対闇の魔術防衛学=Defence Against the Dark Arts)の
筆記試験が、たまたま最後だった。
「解答用紙は、そのままにして、各自退出するように」
老教授の指示に、生徒達は一斉に羽根ペンを置き、ようやく苦行の2週間が無事に終了
した事に、とりあえず安堵する。
この試験の結果を元に、それぞれの担当教科の教授達の判断基準によって、
次の6・7年次のNEWTクラスに進級できるかどうかが決定され、それによって
生徒達の将来の進める進路も決定するのだ。
しかし、大半の生徒達は、試験の結果の事は、とりあえず結果が届いてから改めて
考える事にして、やっと地獄の2週間が終わった事に、一斉にほっとする。


私も、問題用紙をバックに入れると、それぞれバックを持って大広間を出て行く同級生
たちと一緒に出る。そして、いつものように、出口の扉の所に、バックを持って
寄りかかっている、赤毛の親友に、気軽に声をかける。
「リリー。結果どうだった?」
「うーん。まあまあじゃない。それよりも、セブの方はどうなのよ?」
「まあ。私もまあまあかな?」


彼女、リリー・エバンズは、彼女と私が住んでいるところがたまたま近所という事も
あり、お互いに8歳の頃からずっと仲良くしている、私の大事な親友だ。
一年の始めからずっと、週の半分は、リリーと二人きりで“必要の部屋”に入り浸り、
お互いに得意科目を教えあったり、宿題をこなしたりして、実に楽しく過ごしていた。
私は、変化学の方がお世辞にも余り得意では無くて、リリーは得意。彼女は、反対に
余りポーションが得意ではなくて、私は大得意だったのだ。
で、試験の時は、リリーと二人で、仲良く試験の答えあわせをするのが、いつの間
に習慣になっていた。
「あっ。いけない。私、寮に忘れ物しちゃった。セブ、先に行っていてくれない?」
「うん。いつものところだね。じゃ、先に行っているよ」
「すぐに行くから、待っていてね」
軽く私に手を振ると、リリーは、グリフィンドール寮のある、城の上部に向かう階段を
上がっていく。
彼女がいるグリフィンドール寮と、私がいるスリザリン寮は、何故か昔からライバル
関係にある寮同士であり、生徒同士のいざこざは日常茶飯事で、絶えることは無かった。
しかし、私達は、お互いの所属する寮がライバル同士という悪条件にも拘らず、ずっと
親友の間柄だ。


341:スネイプ最悪の記憶2/9
09/05/01 03:25:43 i1wqVYtn
今日は、5年生が受けるOWLだけでなくて、7年生が受けるNEWTの最終日という
事もあり、いつもの静かな筈の湖の湖畔は、開放感に溢れる生徒達で、賑わっていた。
(うわあ。今日は“必要な部屋”の方が、良かったみたいだな。ま、リリーが来たら、
そちらに行けばいいか……)
いつもの定位置である、湖畔の大きな木の下の木陰に座る。そして、先ほど格闘
したばかりのDADAの問題用紙をバックから取り出し、忘れない内に、答えた回答を
思い出し、羽根ペンで書いていく。
問3の問題の所を書いている途中で、突然私の視界が上下逆さになっていた。
(えっ? 何? 何だ、これ? 何で、私は、いきなり空中に上下逆さまになって
いるの?)
事態を把握しようと必死の私に、声をかける者が居た。
「よお。スネイプ。君も僕達の要求どおりに、さっさとエバンズと別れてくれれば、
こんな事にはならなかったんだよ」
(この声は……アイツか!……ゲッ。最悪だ)
あのダサ眼鏡が、ニコニコ笑いながら、物陰からあのいつもの面々と一緒に現れた。



342:スネイプ最悪の記憶3/9
09/05/01 03:31:49 i1wqVYtn
“歩く悪夢”と、私とリリーが密かにあだ名をつけて、嫌っているのが、自称
“簒奪者”(Marauder)達だ。
グリフィンドール寮の同学年で、ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、
リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリューの4人組ギャング達で、教授陣の前
では、完璧に猫被って“ちょっとやんちゃな、悪戯好きな元気な男子たち”を、
無邪気に演じていた。
一転して、教師がいない場だと、同学年か下の学年の、自分達より力が弱そうな男子
を捕まえては、良く苛めている最低の輩だ。スリザリンの男子学生とハッフルパフの
男子学生数人が、彼らの被害者になっていた。
アイツらの苛め方は、それは陰湿かつ巧妙なもので、1対1じゃなくて、必ず4対1
なのだ。正々堂々と紳士らしく一対一で相手と対峙するのではなく、必ず苛める対象が
一人でいるところを襲うのだ。つまり、自分達がどうみても、圧倒的に優位に立って
居る状態でのみ、手出しをする卑怯な奴らなのだ。


奴らのお陰で、楽しい筈の学生生活が“生き地獄”と化したであろう、苛められた
男子生徒が本当に可哀想で、私は、匿名で、マクゴナガル教授とかスラッグホーン
教授やスプラウト教授には、何度か手紙は出したけど、何も改善されなかった。
リーダー格のジェームズ・ポッターは、とにかく傲慢で自信過剰な男で、自分の寮の
クィディッチチームのチェーサーとかで、活躍しているから、私達女は全員自分に
ひれ伏して跪くと思っているらしくて、トンでもなく嫌な男だった。
あの10人並の容姿の傲慢な男のどこがよいのか、同性として良く分からないが、
グリフィンドールの女子生徒達がメインでキャーキャー騒いでいて、聞くところに
よるとアイツのファンクラブもあるという話だ。


3年の途中までは、彼らの所業は、所詮“対岸の火事”であり、リリーと二人きりで
楽しく過ごしていたのだが、突然ポッターと、そのとても不愉快な仲間達が、
ことごとく私達の前に現れて、私達の仲の邪魔をしだしたのだ。
どうやら、キャーキャーと騒ぐ他のグリフィンドール生の女子生徒の中で、一切アイツ
らにヘイコラしないリリーが、かえってあいつらの目には、新鮮に映ってしまった
らしい。ジェームズ・ポッターが、リリーにしきりにアタックを掛けてくるように
なって、心底ウンザリしたリリーが、私に愚痴をこぼすようになった。
仲良くホグズミード村の訪問をしている最中にも、何かと邪魔しかけてきたので、
私達は、他の店をさっさと回ると、男性客一切入店お断りの“マダム・エメラルダの
ティー・パーティ”という、女性専用の喫茶店でのんびりと過ごすようになった。
そうして、リリーが一切相手にしないと分かると、今度はなんと私に矛先を変えて
くるようになった。リリーととても親しい私が離れれば、リリーと仲良くなるチャンス
発生と、脳天気に考えたらしい。
事ある毎に、私の方に嫌がらせをしてくるようになり、勿論、その度にリリーには相談
し、二人して上級のクラスのDADAの本を読んだりして、自分達の身は自分達で守れる
ように、ふたりで自主的にDADAの実践練習を始めたのだ。
あいつらの相手をすると、あいつらの馬鹿が移りそうで、私は、ずっとひたすら無視
していたのだが……。




343:スネイプ最悪の記憶4/9
09/05/01 03:33:52 i1wqVYtn
空中に浮かんでいた私は、ひたすらスカートが落ちようとするのを、両手で必死に
押さえていた。
(そ、そうだ。取りあえず、杖を取らないと……)
私は、パニックになりながらも、アクシオを唱える。
途端に、ブラックの奴が「エクスペリアームズ」を唱え、私の杖を取ってしまった。
「おっと。これで、反撃は一切出来ないだろう」
私の杖を握ったブラックが、ニヤニヤして笑っていた。
「……で、もう一回言わせてもらうよ。スネイプ。君がエバンズと仲良くしているせいで、
全然エバンズが僕の方を見てくれないんだよ。
ねぇ、エバンズと別れてくれない?もし、よかったらその分に見合った“金”も、
あげてもいいんだよ。何しろ、僕の家はお金持ちだし、両親は僕に大甘だから、
いくらでも理由なんて都合つくし……」
(……この甘やかされた、クソボンボン!)
「……だれが、お前の言うとおりになるものか……」
私は、キッとポッターを睨みつける。
「……そんな強がりを言っていられるのも、今のうちだけどねぇ。スネイプ」
ダサメガネは、私を見て、ニタニタとした下卑た笑いを浮かべる。
「……じゃ、こうはどう? 君がエバンズと別れなければ、今、君のパンティ
取っちゃうよ。……いいのかな? 結婚前の可愛い女の子が、みんなの前で、
アソコを晒しちゃうなんて、お嫁にいけなくなっちゃうよねぇ……」
(……このカス!クズ男!……こいつらの一体どこが、“勇気の寮の寮生”なんだ?)
「誰か助け……」
 私は、心の中で悪態をつきながら、余りの事態に助けを呼ぼうと、大声で叫びかける。
いち早く気がついたブラックが、私の喉に消音魔法を施し、私は完全に無防備の状態に
置かれてしまった。
「パッドフット。サンキュ」
「たいした事ねぇよ。このくらい。プロングス」
ダサ眼鏡とブラックが、ニヤニヤと笑いながら、最早完全に“凶暴な狼の群れの中に
投げ込まれた、一匹の哀れな子羊”状態の私のほうを見る。


344:スネイプ最悪の記憶5/9
09/05/01 03:35:31 i1wqVYtn
「……ねぇ。もう一回聞くよ。スネイプ。エバンズと別れてくれることにOKなら、
そのまま頭を前後に振ってくれ。そうすれば、直ぐに開放してあげるから……」
「……ねえ。ジェームズ。あのさ……このまま、エバンズの件が片付いたら、あっさり
とスネイプを開放しちゃうの……?」
それまで、リーダー格二人の傍で、私とのやり取りを黙ってみていた“腰巾着”が、
会話に突然割り込んで来た。
「……もちろん、そのつもりだよ。ピーター」
「ええっ?!勿体無いよ。これだけ綺麗な顔しているんだし。 ……折角だから、
楽しまない?……」
(ゲッ!言うに事欠いて、なんてこと言うんだ。この馬鹿男!)
「…! ……そうだな……。今までエバンズの事しか考えていなかったから、
気がつかなかったけど、この女も確かに上玉だったな。……胸も結構あるから、
身体の方も楽しめそうだしな……」
そういうと、ダサメガネは好色な眼で、私の全身を眺めた。


「で、誰が、一番初めにする?」
「俺は、昨日女とヤッたばかりだから、後でもいいぞ。プロングス」
「じゃ、ねぇねぇ。僕に最初は、駄目~?」
「駄目だよ。ウォームテール。お前はね、俺達の最後だよ」
「ええっ~~!」
「……だったら、僕が最初でいい?」
その後、奴らは“誰が、一番初めにヤルか?”と、三人でひそひそと談義を始めた。
(冗談じゃない! 何で、いまだ男とファーストキスすらしていない私が、よりによって、
あいつらが初めての男達になるなんて……。いつの日か、本当にこころの底から好きに
なった男性と、思っていたのに。…もう、嫌だ……。いっその事、あいつらに汚される
前に、このまま綺麗な身体のままで死んでしまいたいよ)
私は、私の最初の相手が、あんな奴らかと思うと、ひたすらおぞましくてただ泣く事
しか出来なかった。
「……じゃ、僕がやはり最初だね。次は、パッドフット。次はウォームテールだね」
私にとっては、なんともおぞましい相談が終わると、意気揚々と私に近づくダサ眼鏡。
(何で、私が……あんな奴らに汚されなければいけないんだ? 嫌だ。
……本当に最悪だよ)


345:スネイプ最悪の記憶6/9
09/05/01 03:38:02 i1wqVYtn

「……誰が、最初だって……?」

「……そりゃ、勿論僕………って、エバンズ?」
よく知っている親友の声が聞こえた次の瞬間、私は空中から地上に戻され、芝生の上にへたりと座っていた。ずっと頭を下にしていたせいか、軽い眩暈がした。
私の目の前には、杖を構えたままで、心配そうに私を見下ろすリリーがいた。
彼女は、私の喉の消音魔法を解除し、私の荷物を呼び寄せると、そのまま冷たい怒り
に満ちた目で、ポッター達を睨みつける。
「リリー……」
(リリー。ああ、良かった。私助かったんだ。……ううっ。有難う、リリー。この恩は
一生忘れないよ)
私は、感極まって泣きながら、感謝の篭った目で、“救いの女神”と化した大の親友
を見上げる。
「………エバンズ。お前、いつから居たんだよ」
ブラックが、少し狼狽しながら、リリーに問う。
「“君がエバンズと別れなければ、今、君のパ……”の辺りから……よ。ブラック」
その途端、メガネは、たちまち顔が真っ青になる。
「……よくも、私の大事な親友を、此処まで酷い目に合わせてくれたわねぇ?このお礼
は、あとでキッチリさせて貰うわよ。……このクズ男ども!………セブ。大丈夫
だった?……立てる?」
まだショックで泣きじゃくっていたが、黙ったまま頷く私にハンカチを差し出すと、
手を握り、座り込んだままの私を起こす。
そして、リリーは、私の手を握ったまま、ホグワーツ城に向かってさっさと歩き出した。
ジェームズ・ポッターは、単独で、私達の後を必死で追いかける。
「……待ってくれ!……エバンズ。 ……アレは、単なる“冗談”だったのさ。
……なっ、そうだろう?スネイプ」
「……」
(あれのどこが、“冗談”だ。リリーが現れなかったら、100%確実に、私を集団レイプ
していたくせに!)
私は、泣きながらも、ありったけの憎悪の篭った目で、この期に及んでも言い訳をして
どうにか誤魔化そうとする、ダサメガネを睨む。
「……へえぇぇぇ~~。セブのショックの状態からみると、到底そうは思えないけどねぇ。
……下手な嘘つくの、もういい加減にして。……アンタの顔を見ていると、ホント吐き気
がするのよねぇ……」
リリーがいかにも馬鹿にしたように、きっぱりと断言する。
「……そ、そんな。……ねぇ、だって、君が僕と付き合ってくれないから、どうしても
仕方なく……」
なおも言い訳タラタラのポッターの態度に、これまで2年半の間、ずっと我慢して
いたリリーの中で、とうとう怒りの臨界点に達したらしい。
彼女は、鬼のような冷たい表情で、くるりと振り返ると、ダサ眼鏡に向かって、
辺り一面に聞こえるような、大声で叫んだ。

「誰がアンタみたいな、所詮集団苛めだけがお得意の、ウルトラお馬鹿と付き合うか!
地球上で、もしアンタしか男がいなくなったとしても、まだセブルスとレズった方が
千倍マシよ。もう二度と私達に関わるな。バーカ!」


346:スネイプ最悪の記憶7/9
09/05/01 03:39:49 i1wqVYtn

ミネルバ・マクゴナガル教授のオフィス------同日の夜。

「……貴方方は、どうして此処へ呼ばれたか、分かっていますか?」
このホグワーツ魔術魔法学校の副校長&グリフィンドール寮の寮監である、ミネルバ・
マクゴナガル教授が、自分のオフィスの椅子に座り、冷ややかなキツイ目で、
机を挟んで立つ四人の男子生徒に詰問した。
「俺達は、何も、特に呼ばれるような事はしていません」
白々しく嘘を言うシリウス・ブラックの態度に、寮監は、ますます冷ややかに、自分の
チャージである生徒達を見据える。
「……貴方がたは、アレだけの事をしでかしておきながら、いまだに反省のかけらもない
のですね。つくづく呆れました。……貴方がたが、今日湖の畔で、ミス・スネイプに
対してしでかした事は、泣きじゃくる彼女を連れてやって来た、ミス・エバンズから
全部聞きましたよ。
それから、今に至るまでの2年半もの間、貴方がたが行った、二人に対する執拗な
“ストーカー行為”についてもね。……本当に、貴方方は、一体何を考えているのですか?」
「あっ。アレは、ほんのジョークですよ。それに、“ストーカー”なんて、大げさな……。
マクゴナガル教授。それはですね、単にスネイプが、過剰に反応しているだけですよ。
……ホントに、あの女は大げさなんだから」
「そうです。あの女は、元から俺達のことを嫌っていたし、俺達を陥れようとして……」
マクゴナガルは、慌てて都合のいい言い訳を言い始める、二人の男子生徒を冷たい瞳で
見つめる。
「……お黙りなさい!ミスター・ポッターに、ミスター・ブラック。……貴方がたには、
本当に失望しました。貴方がたのような、破廉恥な生徒が、ウチの寮生であることは、
ウチの寮の恥です。
貴方がたの、今日の恥知らずな下劣な行動に対して、それぞれ60点ずつ減点します。
合計240点の減点ですね。それに、四人とも、卒業するその日まで続くディテンションを
受けて貰います」
「60点も!そんな!」
「教授。少なくともリーマスは、全く関与していないから、彼から引く必要はないのでは?」
「彼の場合は、監督生でありながら、貴方がたを一切止めもしなかった行為に対して、
ですよ。……そうですね。ミスター・ルーピンは、これまで見てきましたが、とても
監督生としての職務を果たしているとは、到底思えません。ですから、ミスター・
ルーピンの監督生職は、本日もって解任します」
リーマス・ルーピンは、途端に真っ青になる。


347:スネイプ最悪の記憶8/9
09/05/01 03:41:55 i1wqVYtn
「ええっ!そんな。あんまりですよ。リーマスが可哀想過ぎます」
「そうです。そこまでする必要はないかと……」
「……貴方がたに、公衆の面前で逆さ釣りにされ、下着をみんなに見られて、挙句の
果てに、貴方がたに危うく輪姦されそうになった、ミス・スネイプの方が、遥かに
気の毒で可哀想でしょうが! 監督生として、当然そこまで行く前の段階で、静止すべき
でしょう? ミスター・ルーピン。……私の言っていることは、間違っていますか?」
正論そのもののマクゴナガルの言葉に、黙ったまま、うなだれるルーピン。
「ミスター・ルーピンに変わって、ランディ・スタンを監督生にします。彼は、貴方がた
を罰するのに、何の義理も制約もありませんから、キチンとその職務を存分に果たして
くれる事でしょう。
……そして、ミスター・ポッター。貴方が、この件の首謀者のようですから、貴方には、
卒業するまで、一切のクィディッチ試合に参加する事を禁止します」
「ええっ!そんな。僕が居ないと、グリフィンドールは勝てませんよ。 ……そんな事を
して、本当にいいのですか? マクゴナガル教授」
ジェームズ・ポッターは、反感の篭った挑戦的な目で、自分の寮監を見る。
「なら、チームメイトに、その禁止になった“理由”を説明するといいですね。
そうすれば、貴方がしでかした事の重大性が、身にしみて、よく分かるでしょうし。
これだけは言っておきますよ。もし、またミス・スネイプに一回でも手を出すような事
があったら、私の副校長である権限&寮監としての権限をフルに遣って、校長が
どんなに反対しようが、貴方方全員を即刻退学にしますよ」
「ええっ!そんな横暴な……」
「俺達は、そこまで悪くはないですよ。俺達が、あれだけ警告したのに、俺達のいう事
を一切聞かずに、相変わらずエバンズと仲良くしている、スネイプが悪いんだ。……全て
は、あのスリザリン女のせいだ」
「……ミス・スネイプが、誰と友達になろうが、全て彼女の自由意志でしょう。貴方
がたには、彼女の行動を、あれこれ言う権利も資格も、全く無い筈ですが。
……どうやら、世の中の全ては、貴方がたを中心にして、動いていると思い込んでいる
ようですね。
ここまで、貴方がたが、傲慢で愚かだとは気がつきませんでした。……このまま帰しても、
貴方方は、未だに性懲りも無く、今後も執拗に、ミス・エバンズやミス・スネイプに、
纏わり着く事は明らかですね。
……あなた方全員に、今後一切、リリー・エバンズ並びにセブルス・スネイプの、
20メートル以内には近づかない事を、“Oathの誓い”で、誓って貰います」



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