09/01/25 17:08:12 vchaUfPX0
養老孟司の大脳博物館 051 「スッキリ」させたい気分の危うさ
人間とは、うしろめたく生きる動物である。
私なぞは今年で72歳。相当うしろめたい人生を送ってきた。
それくらいのほうが大きくずっこけることもないというものだ。
ところが昨今、なんでも「スッキリ」させたい風潮が蔓延しているように思えてならない。
ちょうど１年ほど前、日本中で大騒ぎになったのが中国製「毒入りギョーザ」だ。
北京五輪を控え、アンチ中国製品の大合唱で撤去、回収が相次いだ。
日本国内からメイド・イン・チャイナが一掃されて「スッキリ」したかもしれないが、
日本で売れなくなった中国製の冷凍ギョーザははたしてどこに向かったのか。
騒動後、ラオスへ虫捕りに出かけたら、日本語で「冷凍ギョーザ」と書かれたものが
お店で堂々と売られていた。
日本向けに作ったものを日本人が買わないからといって、中国人が破棄するわけがない。
どこかの国に日本向けの中国製品が出回っているというイマジネーションが、
日本人の頭にはほとんど働かないらしい。
「安全・安心」を旗印に掲げた日本人が中国製品を国内から追放したことは
正しかったのだろうか。
結局、日本人が「スッキリ」したおかげで、よそさまに迷惑をかけた可能性が大いにある。
そのことにうしろめたさを感じた日本人が、何人いただろうか。
繰り返すが、多少のうしろめたさを抱えてこそ、大人というものであろう。
－「AERA」 '09.1.19号 P.13