08/05/23 15:27:16
この間、「鏡子の家」を読了し、いまは「宴のあと」を読んでいる。三島の凄いところは、
作品の要請によって文体の質を自在に変幻させ、不自然なことなく適応させるところにある。
作品の要請とは主に場所や内容のことであるが、三島の凄いところのもう一点は、常に「今」
を描いているという点だ。作品の場所や内容が変幻するのに対し、常に時間軸は「今」を問題としている。
つまり三島が物を書くということは、現在の自分を更新する為の作業であるという訳である。
書くことによって三島は、いや、平岡は、自分自身を再構築させていった。「仮面の告白」というデビュー作の私小説で、
いきなりそれまでの人生、すなわち平岡公威としての人生のヴェールを暴きだしたわけだが、
これは今後彼が「三島由紀夫」という作家としての人生を書くことにより再構築させながら送るということの意志表示である。
三島由紀夫は徹底して書く人であった。書かずには生きていれない人であった。書くことで呼吸が出来る人であった。
三島がただ自分が生きる為に書いてきた文章は、いまに生きる我々の前に、昭和そのものの文化遺産として暗く輝き残されている。
三島にとっての「今」は、すなわち昭和であり、それは同時に我々にとって、最も身近な今に繋がる過去なのである。
愛を込めて KF