14/01/18 14:51:09.74
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第一部
>>1の過去スレをごらん下さい
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第一回■
昭和61年1月1日。朝6時であった。
幼稚園児として最後の元日を迎えた瑠利子は、
降り積った雪を踏みしめながら、旧五重塔跡に建てられた
ひとつの小さな墓へ向かっていた。
20分ほども歩いただろうか。
火事で重傷を負った瑠利子には辛い道であった。
しかし瑠利子はどうしても行きたかったのである。
あの夜、身を挺して瑠利子を守り、犠牲になった少年の霊を
自らの手で慰めたかったのであった。
あの夜。炎の中で瑠利子を抱きかかえた少年は
決死の脱出を試みた。しかし、それはついに果たせなかった。
彼は辛うじて瑠利子を炎の外へ投げ捨てたものの、
自らは逃げ出すことが出来なかったのであった。
焼け跡から一人の少年の遺体が見つかった。
佐川五太郎は10歳という短い生涯を終えたのであった。
(第二回に続く)
3:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 14:51:46.72
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第二回■
瑠利子は五太郎の墓前に立った。
彼女は何を語ればいいのかわからなかった。
しばらく黙って立ち尽くしていた瑠利子は
五太郎が好んで飲んでいたコーラを墓にかけてあげた。
五太郎は喜んでいるように思えた。
自分は彼の命を引き換えに生きているのである。
だからこれからは世のため人のためになるように生きよう、
瑠利子は心の中でそう繰り返し思いながら手を合わせた。
あの大火災の中で生き残ったのは五太郎が
命を顧みずに火中に飛び込んだおかげである。
しかし、それだけではなかった。
やはり瑠利子が生きているということは
運命であると言わざるを得なかった。
彼女自身、そのことを痛感していた。
だから、これから社会正義の実現のために力強く生きよう、
瑠利子はそのように五太郎の前で誓った。
何時の間にかまた雪が舞い落ちてきた。
瑠利子はじっと大空を見上げた。
灰色の雲の向こうで五太郎が微笑んでいるような気がした。
(第三回に続く)
4:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 14:52:24.32
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第三回■
昭和61年3月。瑠利子は幼稚園の卒園式を迎えた。
この幼稚園に来るのもこれが最後か…
瑠利子は建物を見上げながらそう思ったが、
センチメンタルな気持ちは微塵もなかった。
彼女の胸の中には未来への希望しかなかった。
着席した一同の前で園長先生の挨拶が始まった。
しかし瑠利子は退屈そうな顔で右から左に聞き流していた。
こんなつまらないセレモニーに出席する時間があるなら
音楽の研究に没頭したかったのである。
瑠利子の頭の中ではベートーベンの第五交響曲「運命」の
第一楽章が鳴り響いていた。「運命」の荘厳なる旋律に比べれば
園長の話など雑音でしかなかった。
やがて卒園式は終わった。
泣きじゃくる園児たちを冷ややかに見つめたのち、
幼稚園を後にした。
(第四回に続く)
5:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 14:52:54.87
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第四回■
小学生になった瑠利子にとって、授業はつまらないものであった。
瑠利子は既に小学6年生程度の学力を身につけていた。
そんな彼女にとって小学1年生の授業などくだらなかった。
しかし、少なくても表面上は誠実に授業に取り組んでいた。
つまらなさを表情に出したりしたら担任の教師や同級生に対して
申し訳ないと思ったからであった。瑠利子はいつも他者に対して
配慮を忘れない少女なのであった。
帰宅するとすぐに親に報告した。
「学校どうだった? 楽しかったかい?」
「つまんなかったよ。だって全部知ってることばっかりなんだもん。
でも大丈夫だよ、みんなを馬鹿にしたりしなかったから」
「そうかい、瑠利子は本当に優しい子だねえ」
瑠利子の立派な姿を見て母は思わず目頭が熱くなるのであった。
「お母さん、これからまた音楽の研究をするね」
「瑠利子、少しは遊んだらどうだい、そんなに勉強ばっかりしていると
疲れるでしょう。たまには友達と遊んでリラックスしなさい」
「だってお母さん、みんなレベルが低すぎてつまんないんだもん、
それよりマーラーの五番を研究したいし」
瑠利子は爽やかな笑顔でそういうと部屋へ入っていった。
その後姿はまさに天才そのものであった。
(第五回に続く)
6:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 15:27:15.96
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第五回■
瑠利子は机に向き合うと教科書を取り出した。
明日の授業のために予習のつもりであったが、
余りにも簡単すぎて教科書を読むのが苦痛であった。
書いてあることは全部知り尽くしていることばかりだった。
瑠利子は教科書をランドセルに戻すと、
引き出しから楽譜を取り出してみた。マーラーの五番であった。
第一楽章から少しずつ目を通してみた。
瑠利子の頭の中では音楽が鳴り響いていた。
気がつくと母が隣に立っていた。
「あのね、今お友達がお見えになっているのよ」
「友達?」
「うん…勉強を教えて欲しいんだって」
瑠利子が一瞬躊躇った。
この楽しいひと時を同級生たちに邪魔をされたくなかった。
しかし、瑠利子はすぐにいつもの爽やかな笑顔になった。
「そうだね、みんなかわいそうだから教えてあげるよ」
母は頷くと友達を迎えに玄関に戻っていった。
なんて優しい娘なんだろう…母は心の中で繰り返しそう思った。
(第六回に続く)
7:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 15:28:16.12
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第六回■
玄関では薄汚い格好をした子供たちが5人立っていた。
母は心の底ではこの子らを中に入れたくなかった。
部屋の中が汚れるだけでなく、空気も汚くなるような気がした。
しかし、瑠利子は母にみんなを中へ入れるよう頼んだ。母は頷いた。
30畳のリビングに足を踏み入れた子供たちは
そこに広がる豪華な装飾にびっくりして走り回った。
母は慌てた。何百万円もする花瓶が倒れたら大変だと思った。
瑠利子はそんな母の心中を察していった。
「お母さん、もしなにかあったら瑠利子のお小遣い削っていいよ
だからお願い、友達を大目に見てあげて」
母は感動した。瑠利子の友達を思う真心と優しさに心が熱くなる思いであった。
子供たちは瑠利子に宿題を教えてもらった。
瑠利子は一人一人の立場に立って親切に指導した。
その姿は小学一年生ながら指導者の貫禄が漲っていた。
母は手作りのパンケーキを子供たちに振舞ってあげた。
子供たちは飢えた野良犬のように貪っていた。
「この子達は満足に食事も摂っていないのかしら…」
母は心の中で子供たちの境遇を思うと悲しい気持ちで一杯になった。
(第七回に続く)
8:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/18 15:29:00.30
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第七回■
友達が帰った後、母親と瑠利子は後片付けに追われた。
高級絨毯に落ちたクリームやソースを落とすのは大変な作業であった。
絨毯の上にゴザかブルーシートでも敷けばよかったと母は悔やんだ。
この高級絨毯は数年前に父がエジプトで購入してきたものであった。
日本ではなかなか入手することが難しいものなのである。
母はため息をつきながら瑠利子に言った。
「もうああいう子は連れて来ない方がいいわね、
悪いけどあの子達は瑠利子の足手まといになるだけでしょう」
瑠利子はしばらくうつむいたまま黙っていたが、やがて母に言った。
「お母さん、みんなを責めないで、お願い。みんなは決して悪くないの。
ただ、お父さんとお母さんに甘やかされて育ったからしつけが出来てないだけ。
根はとってもいい子達だから許してあげて。これから私も注意するから」
母は黙って頷いた。母は瑠利子の真心の美しさに感動していた。
そして思った。こんなに優しい瑠利子なのに、友達はなんで
どいつもこいつもろくでなしばっかりなのであろうか、と。
一刻も早く瑠利子を正しい環境、正しい人たちの中に置かないと
やがてとんでもないことになるであろうと思わざるを得なかった。
母は瑠利子の肩に手を置いたまま思案し続けていた。
(第八回に続く)
9:近藤文夫 17歳 高校生 ◆uCHm35BMC.Gp
14/01/20 21:38:00.59
>>1
乙です!
10:大谷源八 28歳 資産家(資産100億) ◆mhreidhp1TwF
14/01/20 21:43:01.27
>>1
スレ立て乙です
11:幾樹嘉子 32歳 主婦 ◆5FjXIZ2uyj7k
14/01/20 23:52:46.81
>>1
スレ立て乙です
いつも感動的な伝記ありがとうございます
12:北島久美 47歳 良識派事務局 ◆F9XR6Nl8xO0U
14/01/21 00:22:47.09
>>1
乙です
13:木田彰浩 55歳 建設現場作業員 ◆rSNIX6Yqt8t2
14/01/21 01:34:53.19
>>8
東さんの心の美しさ優しさに感動しました…
14:桑沢義道 39歳 芸能プロダクション専務 ◆ZdsdyYosqnt/
14/01/22 21:02:06.76
俺も同感だ
高城先生の伝記は読む人の心を揺さぶる
15:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/24 21:09:44.63
みなさまどうもありがとうございます
これからも事実を書き続けますのでどうぞよろしくお願い致します
16:高城涼子 34歳 著述家 ◆3hoyN3.pmOxR
14/01/24 21:20:18.26
>>8の続き
【音楽家東瑠利子、華麗なる愛】第二部 ■第八回■
一学期の終業式を終えた瑠利子は一人で教室に戻った。
机の傍に立つと何気なく教科書をぺらぺらとめくった。
瑠利子は始業式を迎えてからほとんど教科書を開いたことがなかった。
なぜならそこに書いてあることは全て理解し尽くしていたからであった。
なんでこんな簡単なことを今さら学ばなければならないのだろうか。
瑠利子はそう思うと、日々の授業がなおさら馬鹿らしく思えてならなかった。
そこへ同級生の男の子がやってきた。
彼は瑠利子のすぐ傍に立つといいにくそうにこう言った。
「瑠利子ちゃん、実は僕、君のことが好きだったんだよ」
男の子は勇気を振り絞ると瑠利子に告白した。
瑠利子は彼の眼を見つめていたが、やがてふと視線をそらすと、
「悪いけど今の私は恋愛に興味がないの。ごめんね」
瑠利子は静かに教室を後にした。
一人残された男の子はその場で泣き崩れていた。
瑠利子の頭の中は音楽のことで一杯であった。
ベートーヴェンやブルックナー、マーラーのことに夢中であった。
もちろんあの男の子に悪いことをしたという気持ちはあった。
絶望して悪いことをしなければいいがと思いもした。
しかし、そうなったらそうなったでどうにでもなるさと思うと、
自然に頭の中から男の子のことは消えていった。
<第九回に続く>
17:菊池久信 34歳 大手商社勤務 ◆ItgfC/ZALO0g
14/01/24 21:27:48.74
>>16
伝記ありがとうございます
聖女東氏のクールな生き様に感銘を受けました…
18:飯岡知美 28歳 信金勤務 ◆DL6JGYezkg
14/01/24 21:37:46.75
感動しました…
19:大平理沙 13歳 中学生 ◆Q94rCwz5q7g4
14/01/24 22:01:54.32
>>16
東さんの音楽への情熱が伝わってきました…
20:小平夏未 17歳 高校生 ◆oakK.5MHggsz
14/01/26 15:18:22.22
>>16
伝記ありがとうございます…
21:幾樹嘉子 32歳 主婦 ◆5FjXIZ2uyj7k
14/01/28 01:23:13.98
>>16
伝記の更新乙です
22:名無しちゃん…電波届いた?
14/01/29 01:23:16.42
スーパースターの東さんの半生は輝いているよ
他の追随を許さぬ圧倒的生き様だ
23:名無しちゃん…電波届いた?
14/02/06 01:24:22.26
>>16
ほんとにむかつくガキだな
24:名無しちゃん…電波届いた?
14/02/06 15:27:57.96
>なんでこんな簡単なことを今さら学ばなければならないのだろうか。
ちゃんと学ばないから今のような有様になったんだろうが
25:名無しちゃん…電波届いた?
14/02/06 16:40:07.88
いや、小1の1学期にやる授業なんて年長さんならクリアしてる内容だし…。。
26:石沢権太 21歳 大学生 ◆pHw4ZkX3jNCz
14/02/07 17:44:31.89
東先生は今も十二分に立派だよ
毎日慈善活動で世界を奔走されている
あんないい人はどこにもいない
日本の宝といっていい存在であって
この点については全く議論の余地がないといえる
27:名無しちゃん…電波届いた?
14/02/07 18:27:18.59
うん…
28:名無しちゃん…電波届いた?
14/02/08 00:46:13.62
きすくのままはりょうしきは~♪