08/07/29 23:50:27 IKASq8xk
リリス、ニア 以上2名予約します。
301:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 11:23:46 hB+20lsg
きたー期待
302: ◆7KR.e180t.
08/07/30 12:00:56 d+csdyCU
短いですが孤立されないうちに動かそうと思い、仮投下しました。
これでいいようなら若干加筆した後に投下したいと思います。
同時にキルア、シャナ、弥彦を予約します。
303:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 13:57:01 /pW346Sv
>>300
期待。
>>302
特に問題は見当たらなかった。そのまま投下でいいと思う。
304: ◆7KR.e180t.
08/07/30 17:25:59 d+csdyCU
この話は破棄します。
予約も取り消します。すみませんでした
305:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 20:30:37 erN9ISrf
>>295
投下乙
蟲毒と同じ原理で魂を昇華させるという試みは結構成功してる気がするな
ロワ内で成長したロリショタの多いこと多いこと(そりゃもう色々な方向に)
>>300も期待
306:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 15:24:42 qGFd4eI1
>>300
期待
>>304
破棄乙。
つまらない話を連発されるよりよっぽどまし。
307: ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:13:02 +jskVHoU
予約分、投下します。
308:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:14:59 +jskVHoU
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してる。
だから。
来て見て触って、キスして抱いて。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じさせて。
おねがい。
あたしを、見て。あたしを、求めて―!
◆ ◆ ◆
満身創痍のリリスが「グリーンだったモノ」を抱えB.A.B.E.L.本部に戻ってきた後、無駄としか言いようのない十数分もの時間を浪費しつつもすっかり事の顛末を聞きだした私は、答えました。
「事情は分かりました。
いろいろ言いたいことはありますが、グリーンの遺体を持ってきたのは正解です」
話を聞く限りでは、グリーンの指示にリリスが素直に従っていれば回避できた可能性のあるトラブルでした。あるいは、リリスがもう少し強ければ相手を圧倒してもう少しマシな結果になっていたはずでした。
まさにこのような時のために2人を組ませたのですが……本当に、使えない。
リリスもかなりの負傷をしているようですし、その戦闘力すら想定よりも下だった、ということでしょうか。だとすれば由々しきことです。
しかしグリーンが殺されリリスが帰ってくるような展開自体は、十分に想定の範囲内。
こうなるかもしれないことも覚悟の上で、彼らを送り出したのです。
決して良い結果とも望ましい結果とも言えないが、しかし絶望するような状況でもない。それが私の判断でした。
混乱し要領を得ない様子のリリスから、それでも必要なことを聞き出した私は改めてグリーンを観察します。
既に死んだグリーン。胸に大穴を開け大動脈から心臓から肺から取り返しのつかない傷を負った遺体。
逆に言えば、それ以外はほとんど無傷なままの遺体。
もはや手当ても間に合わぬ姿です。いまさら彼の遺体に向けて恨み言を言ったところで、何の益にもなりません。また、そんな無駄なことに時間を費やすつもりもありません。
ともあれ、こうして「帰ってきてくれた」以上、やるべきことはもう1つしかないでしょう。
私はこれ以上時間を無駄にすることなく、命じました。
「リリス。グリーンの遺体から、首輪を取って下さい。
彼の首を斬っても捻じ切っても構いません。ですが、首輪そのものには傷をつけないように」
そう。初期の想定以上に無能ではありましたが、グリーンは最後の最後に、私の期待した「最低限の仕事」は果たしてくれたのです。
つまり―実物の「首輪」の確保。「首輪」がついた死体の確保。
既にグリーンの持っていたハリボテの首輪を調べ解体しある程度の情報は確保していましたが、それでも実物が有ると無いとでは大違い。
リリスがこうしてグリーンの遺体を持ち帰ってくれたのは、本当に僥倖でした。おそらくそこまでの理解あっての行動ではなかったでしょうから。
あとは首を斬り落とすだけ……ま、この手の「力仕事」は、リリスの仕事でしょう。せめてこの程度のことには役立って貰わなくては。
309:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:16:05 +jskVHoU
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してた。
だから。
来て見て触って、キスして抱いた。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、身体全体で感じ取った。
今思い返せば、あの頃は……幸せ、だったのかな。
でも。
もう。
恋の魔法は既に解け。
貴方の命は既にない。
貴方はもう、ただの生首。
あたしが斬り落とした、物言わぬ生首。
そっと抱き上げてみたけれど、もう感じることができなくて。
貴方の息遣いが、貴方の体温が。貴方の命が、感じられない。
おねがい。
もう一度、あたしを見て。
もう一度、貴方の声を聞かせて。
もう好きでもないし、もう愛してもいないと思っていたけれど。
もう好かれてないし、もう愛されてもいないと思っていたけれど。
それでも。
それでも、もう一度だけ、貴方と触れ合いたい―!
◆ ◆ ◆
310:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:17:54 +jskVHoU
建物を探索し施設内のコンピューターを掌握し、私が理解した限りでは、このB.A.B.E.L.というのは超能力を研究する日本で最大最高の公的組織、ということでした。
超能力。普段であれば一笑に付すような冗談でしかない単語です。
ですが私は既に「普段の常識」を捨ててこの場に臨んでいます。メタちゃんのような非・常識的存在や、リリスのような異能の持ち主と遭遇しています。だから、超能力の存在も頭から否定するようなものではありませんでした。
むしろ、この建物の研究設備、そしてそこに残されていた研究資料は、私のような者には理解しやすい性質のもの。現代科学の「さらに先」。冗談のような超心理学―。
それでも、科学は科学。医学・心理学・物理学・生化学など、私の知る現代科学の延長線上に存在する、理詰めで分析可能なモノでした。
もちろんいかに私といえども、この短時間でその原理をきっちり押さえて把握して、超能力の全貌を理解することは不可能です。
資料の量は膨大で、その主要な部分に目を通すだけでも相当な手間でしょう。十分な時間さえあれば、きっと何の問題もなく私の手中に納まっていたのでしょうけれども。
ただそれでも、表層をなぞるだけなら。
現代科学の延長にある、各種の解析機器を理解し、動かすだけなら。
私にとってはさほどの時間も要しない、実に簡単なことでした。
陣取っていたモニターの部屋を出て、予め目星をつけておいたいくつかの部屋を回り、検査用の機器を動かし。万事順調、何事も問題なしです。
ついでに医療関係の設備の近くにいることも利用して、リリスの傷にも簡単な応急手当を。
最初は彼女に命じて勝手に手当てをしておくように、と言ったのですが、結局私も手伝わざるを得ませんでした。全く手間のかかることです。
「……ねえ、ニア」
「何ですかリリス」
そうして未知の機材を前に解析作業を進める私に、リリスが唐突に声をかけてきました。
2人には、誰かと遭遇した際のトラブル回避のため、迂闊に私の名前は口にしないよう命じておいたのですが……まあ今更それはいいでしょう。
この大事なときに声をかけるのです、無意味な話ではないはずです。例えばそう、先の報告で何か言い忘れたことがあったのなら、早めに言っておいて欲しい。
そう思い振り返りもせず作業の手も止めずに彼女の言葉を待ったのですが。
「お願いが、あるの……。私のこと……抱いて、くれる?」
「嫌です」
即答。
全く何を考えているのでしょう。
グリーンを失いつまり判断力持つ別働隊指揮官を失い、今手元にいるのはリリスだけ。戦闘力だけはあるものの、独自の任務を与えるには不安過ぎる彼女だけ。
この状況下では、リリスに出来ることは大してありません……そう、有事に備えての私の護衛。及び、いざ私自身が移動する必要が出来た時の、足代わり。
言ってみれば、ちょっとした武装ヘリコプターのような存在ですね。今の彼女に期待できるのは、せいぜいがその程度。
ですから、今は私の邪魔をしないよう、そして勝手に歩き回らないよう命じて、放っておいたのですが……。
グリーンからの首輪確保の後、素直に静かにしてるかと思ったら、コレですか。全く本当に、使えない。
311:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:19:56 +jskVHoU
「じゃあ……キスだけでもいいから」
「嫌です」
「……なんで? グリーンは、してくれたよ?」
「私はグリーンではありませんから」
なるほど2人はそこまで深い関係を持っていたわけですか。しかし今となってはどうでもいいことです。
リリスに端的な答えを返しながらも、私の解析作業は止まりません。この程度の並行作業は私にとっては何の造作もないことです……が、鬱陶しいことには変わりない。
「じゃあ……何かニアの役に立てたら、ご褒美にキスしてくれる?」
「嫌です。大体、今は貴方に何か仕事をして欲しいとは思っていません。むしろ下手に動かれると迷惑です。
私の役に立ちたいというのなら、黙ってそこで待機していて下さい」
「……何で? 何でそんなにイヤなの? 男の子って、『そういうの』好きなんじゃないの?
ひょっとしてニアは、おっぱい大きくないとダメ? だったら私、大きくするよ?
どうせこの身体、ホンモノじゃないもの。きっと頑張れば、色々変えられると思う。
それとももしかして、男のひとしかダメなヒト? だったら私も、頑張って男の子に……」
「そういう意味じゃありません」
せっかく首輪から精神感応の反応がキャッチできて面白いことになってきてるのに、勝手に巨乳マニアやホモセクシャルにされてはかないません。この調子では、散々変態の疑いをかけられた上に、最後には性的不能者扱いされかねない。
ここははっきり言い切っておかないといけませんかね。
全く、小人と女子供は御しがたいものです。
「はっきり言いましょう。私は、あなたが嫌いです。少なくとも、好きにはなれません」
「…………」
「それでも『貴方が私のことを好きだと言うから』近くにいることを許しているのです。
私のために働くことを、許しているのです。
あまり調子に乗らないで下さい。
それとも……私の嫌がることを、無理やりに実行してしまいますか? それが貴方の望みですか?」
「…………」
私の問い掛けに、リリスは沈黙します。それはそうでしょう。
今の彼女は『魔女の媚薬』によって私に惚れている状態です。そして普通の恋愛と違い、6時間経過するまではその偽りの恋が醒めることはないという。この状況を、徹底利用しない手はありません。
彼女は決して、私を裏切ることはない。
彼女は決して、私から逃れることはできない。
強いて言えばさっきのような世迷い事を言い出すのが難点なのでしょうが、まあ、逆に言えば彼女が私にかける迷惑は精々がこの程度。仕方のないコストとして受け入れるしかないのかもしれませんね。
ああ、それよりも今は解析です。
首輪の中からの精神感応……これはつまり首輪の中の空洞に超能力を使用できる「生き物」がいると推測され……非常識極まりないですが何らかの超能力なり超技術なりを使えばおそらくは……
とりあえずは超能力者の身体検査に使われていたらしい近未来的な医療機器を応用して解析を……。
312:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:21:14 +jskVHoU
◇ ◇ ◇
好きなヒトなんていなかった。愛するヒトなんていなかった。
あたしが知っていたのは、無限にも等しい空虚な時間。
「自分自身」からも切り離された絶望、指輪の中に封じられた孤独。
ジェダ様にかりそめの身体を貰っても、真の肉体を持たぬ欠落は埋め切れなくて。
その空虚を埋めたくて、じっとしていられなくて、サキュバスの本能に任せて好きに動きまわった。
欲望のままに、「遊び」を求めたの。
遊んでる時だけは―笑っている間だけは、少しだけ欠落と空虚と虚無を忘れることが出来たから。
好き好き大好き。愛してる。……今思えば、きっとそう誰かに囁きたくて。
でも、その「誰か」が、どうしても見つからなくて。
ネギ君は、情熱的なキスを返してくれた。でも、約束を守らず、勝手にどこかで死んじゃった。
コナン君は、楽しい遊びを提案してくれた。でもやっぱり約束を守らず、勝手にどこかで死んじゃった。
ニケは、楽しく遊びに付き合ってくれた。でも、最後は結局「どっかいけ!」と私を追い払った。
エヴァは、つまらなかった。散々遊びを嫌がって邪魔して、おまけに呼んでもないのにまた邪魔しに来た。
ディなんとか……って子は、やっぱりつまらなかった。ニケと一緒に、邪魔するだけだった。
グリーンと一緒にいた子は、これもつまらなかった。鬼ごっこでも、ちょっと遠くに逃げすぎ。
そして、グリーンは……。
グリーンだけが、応えてくれた。リリスを見てくれた。
来て見て触って、抱いてキスしてくれた。
グリーンの息遣いを、グリーンの体温を。グリーンの命を、感じることができた。
たとえ最初は裏があっても、グリーンは、グリーンだけは、応えてくれた。
だから、言ったの。
抱き合いながら心から素直に、あたしは言ったの。
好き好き大好き、愛してる、って―。
313:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:25:58 +jskVHoU
◆ ◆ ◆
首輪の大体の構造はB.A.B.E.L.本部の医療機器を用いてすぐに判明しました。
解析作業を進めながら、ジェダたちの内情やQ-Beeと呼ばれていた少女について、背後に控えるリリスへ2、3の質問。十分な回答ではなかったものの推理を裏付けるには役立つ情報を獲得。そこからさらに踏み込んだ考察。可能性を絞り込み、さらに解析。
必要なだけのデータを収集し終え、私はリリスを従え元のモニターの部屋に戻ります。
建物のどこに移動しても最低限の周辺監視は可能なようにしていましたが、やはり、腰を据えて考えるのならばあの場が最適。生データの収集さえ終えてしまえば、コンピューター上の画像処理などはどこででも出来ます。
ならばこの「城」の中核、最も守りと監視が鋭い部屋が最適。そう考えての帰還です。
戸が開くと鼻を突くのは濃密な血の臭い。放置されたままだった首のないグリーンの遺体―そういえばこの遺体もちゃんと「処分」して掃除せねばなりませんね、後でリリスに命じておきましょう―をまたいで部屋の中央、私の定位置と定めた椅子の上へ。
既に転送しておいたデータをさっそく表示、分析を始めます。
「ねえ……」
「…………」
必要なだけの情報を獲得し、必要なだけの材料が手元に揃い、一気に思考が疾走します。
医療機器でデータを取りコンピューター上で3D画像化した透視像を元に構造を把握。容易にその機能が把握できるいくつかのシステムと、全く機能の把握できないブラックボックス―正確には、ブラックボックスの中央に陣取る小さな人影。
他の部分の機能……正確に言えば、他の部分に備えられた機能の「欠如」からその人影の担当する仕事を推測。つまりCPU兼盗聴器兼監視カメラ兼GPS兼通信機兼自爆装置……
まあ、こういう書き方をするよりももっとシンプルに「見張り番が1人1人の首輪に入っている」と言った方がいいでしょうか。それが首輪の機能のほとんどを支配している……。
リリスからの情報から合わせて考えるに、中に入っているのはQ-Beeの部下であり眷属であるP-Bee。その身体を小さくする技術(?)は理解すら出来ない恐るべきものですが、しかしどうやらそれも「借り物」の技術だと見ました。
首輪自体に使われているモノから推察するに、ジェダ自身の持つ技術力・ジェダが自在に使いこなせる技術はそう大したことはないでしょう。
魔法なりなんなりには注意が必要ですが、十分に、つけいる隙はある。
「ちょっと、ニア……」
「…………」
私は分析と考察を進めながら、同時にコンピューター内の文書作成ソフトを起動させ、これまでの考察を簡潔にメモしていきました。
首輪の構造、特にP-Beeが担っている仕事の内容を推察するに、現時点ではこの首輪を外すにはいくつか要素が足りない。それこそ魔法使いなり超能力者なりの協力が必要不可欠。
とことん使えないリリスにはどうやらその手の器用な真似は出来ないようですし、ならばいずれ新たな部下を得た時のために、今のうちに説明のための準備―簡潔にして要点を押さえた考察メモを作っておくことには意味があるでしょう。
盗聴を考慮すれば口頭で説明するわけにはいかず、その場の筆談で書き上げるにも時間がかかる。ゆえに時間的余裕のある今のうちに、メモという形で予め要点を押さえたものを作っておくのです。これさえ見せれば全ての条件がクリアされるように。
ああもちろん、首輪に開いた監視窓からの覗き見を防ぐために、既に私やリリスの首輪は簡単に上から覆って中から見えないようにしています。リリスから聞いたP-Beeの知性レベルではあまり複雑なことは分からないと思われますが、ま、念のための用心として。
314:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:27:24 +jskVHoU
「ねえ、ニアってば」
「…………」
メモを書き進めます。書きながら並行して頭脳はフル回転を続けます。
首輪の構造。その機能。P-Beeというパーツの存在。必要となってくる人材。リリスから聞き出したジェダの部下の規模(というより、部下の欠落)。そこから導き出されるジェダ攻略の道筋。考えられるアプローチ。まだ未解決の問題の数々。
例えばグリーン程度の頭の持ち主であればすぐにこれまでの私の考察と手持ち情報が理解できるような、そんなレベルのメモです。相手にメロほどの、あるいは夜神月ほどの頭があればもっと省略しもっと簡潔に出来るのですが、そこは仕方がない。
私が今欲っしているのは智者ではなく超能力などの異能の持ち主。しかし特殊技能の持ち主である彼らに飛びぬけた知性が要求できない以上、こちらが彼らに合わせるしかない。
「……ニア!」
「……五月蝿いですよリリス。邪魔しないようにと言ったはずですが。
ああそうです、ヒマを持て余しているのなら、そこのグリーンの死体の片付けと血の海の掃除を」
静かにしていろ、と言ったはずなのですけどね。まあ彼女の貧弱な自制心ではこの辺が限界ですか。
メモの作成が一段落したところで私は当面の作業を打ち切り、いい加減リリスにも何か仕事を与えてやろうかと思いつつ振り返って―
どすっ。
「かっ……はっ……?」
「リリスはね……ニアのことが好きなの。
好きで好きで大好きで、本当に、愛してたんだよ?」
そこにあったのは、何故か過去形で愛を語るリリスの姿。
情欲と哀しみを湛えた瞳で、泣き笑いのような儚い表情を浮かべた、リリスの姿。
場違いにも私らしくもなく、美しいと思ってしまった、そんな彼女の身体から伸びた翼は―
いつの間にか鋭い刃と化して、私の腹部を貫いていました。
……え? 何故、です……?
315:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:28:33 +jskVHoU
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してる。
だから。
来て見て触って、キスして抱いて、欲しかった。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じたかった。
でも。
お願いしても、届かない。
貴方はあたしを、振り向かない。
どうしても欲しくて、どうしても手に入れたくて、でも永遠に手に入らないと分かってしまって―
あたしは、我慢、できなくなってしまった。
触れて貰えないから、私から手を伸ばした。
貫いて貰えないから、私が貫いた。
感じるよ。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じるよ。
貴方を刺した翼の先から、しっかりと、感じるよ。
あたしが刺した側なのに、胸が張り裂けそうに痛い。呼吸が、苦しい。
本当に、取り返しのつかないことをしてしまった。あまりに甘美な絶望に、頭が痺れる。
ああでも、溢れて零れる、貴方の血、貴方の命。
キラキラ光って、とっても綺麗で―
―ようやく、あなたを感じることができた。
316:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:29:56 G2Sf2ZbW
317:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:30:11 +jskVHoU
◆ ◆ ◆
リリスが私に牙を剥く―その最悪の事態を全く想定していなかったわけではありませんでした。
明らかに普通の人間とは異なる身体を持つリリス。『魔女の媚薬』が本来の規定通りの効力を発揮せず、予定よりも早い時間で効果が解けてしまう可能性も、頭の片隅にはありました。
その時のためにいつでも『眠り火』を取り出せるようにしておき、また『眠り火』が使えずともスプリンクラー等の設備を利用した撹乱の準備も行い、万が一の時の逃走ルートや隔壁閉鎖のチェックも万全だったはずでした。
ただ、私の計算違いは……『魔女の媚薬』の効果が切れてもいないのに、リリスが私を攻撃したこと。
考察に夢中になっていたのは確かですが、視界の片隅でリリスの様子は観察しその変化に注意はしていたのです。だから断言できる。まだ『魔女の媚薬』は、効いている。
醒めることなき偽りの恋に支配されているというのに―彼女は、私を、刺した―何故?!
血を吐き、床に崩れ落ちながら、私はリリスを見上げます。
まだ、ここで意識を手放すわけにはいきません。
私にはまだ成すべきことが残っているのですから。
「来て、見て、触って……キスして、抱いて欲しかった。
ニアの息遣いを、ニアの体温を。ニアの命を、感じたかった」
「ぐっ……うっ……。り……リリス……。
ま、まだ遅くはありません。私を、医務室に……早く……」
「でもね」
傷は決して浅くはありませんが、まだこのB.A.B.E.L.の技術力をもって治療すれば助かる可能性はある。
そう訴える私に、それでもリリスは聞く耳を持ちませんでした。
思わず見蕩れてしまうような哀しい笑顔のまま、彼女は小さく呟きます。
「ニアは、どうやってもあたしを振り向いてくれないから。
だったら、永遠に、あたしのものにするの。
この、『作られた気持ち』が醒めちゃう前に」
「!!」
「よく覚えてないけど……
『ニアが好き』っていうリリスのこの『気持ち』、グリーンが使ったのと同じ、あの『お薬』のせいなんだよね?
ぜんぶ、一緒だもの。胸のドキドキも、頭がクラクラするのも、欲しくて欲しくて堪らなくなる気分も」
318:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:30:15 aCg32XSW
319:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:33:11 aCg32XSW
320:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:34:19 aCg32XSW
321:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:35:46 aCg32XSW
322:好き好き大好き愛してる。(続き) ◇sUD0pkyYlo(代行)
08/07/31 22:45:26 2oogYdKK
……!
リリスに、『魔女の媚薬』を使われていた、という自覚が、あった?!
以前にグリーンが使ったらしいことは分かっていましたが、『その時と同じ』というだけで……!?
失策です。『魔女の媚薬』を飲ませる瞬間のことこそ、『眠り火』の暗示で『忘れろ』と命じはしましたが……こんな形でその存在に気付いてしまうとは。
考えてみればリリスは自らの『種族』について『サキュバス』と名乗っていました。
その時には適当に聞き流してしまいましたが、仮にそれが伝承通りの存在であるのならばそれこそ魅了と誘惑のエキスパートのはず。どうやら彼女は経験こそ浅いようですが……魅了・誘惑という一点においては、その種族的本能を発揮し真相を看破してもおかしくはない!
……しかし、それでも解せません。
その恋が偽りだと知ったなら、普通は感情を否定する形に向かうはず。それが自然な心理なのに……!
「でもね、ニセモノでも良かったの。
リリスがこんな気持ちになったのは、初めてだったから。
とっても、嬉しかったから」
「…………!?」
「この気持ち、教えてくれたのはグリーンだった。グリーンは、自分からキスをしてくれたんだ。
そのことは、グリーンへの『気持ち』が……『お薬』が切れちゃっても、忘れない。
だけど、ニアは……ニアは、キスもしてくれなかったから」
全く理屈の通ってないリリスの妄言。筋道も時系列もムチャクチャです。
けれども……私は、理解しました。いいえ、「理解できない」ということを理解してしまいました。
私には、彼女の『気持ち』とやらが、全く理解できません。
きっと、どれだけの言葉を重ねて愛を語られようと、私には納得できない種類のモノなのでしょう。
彼女が普通の人間心理から掛け離れた存在なのか、私が鈍感に過ぎるのか。あるいはその双方なのか。
口の中に血の味が広がります。きっともう私は助からない。
キラやジェダとの知恵比べに破れて命を落とすならともかく、こんなところで、こんなことでつまづくとは……無念でなりません。
「痛い思いさせてごめんね。すぐに、ラクにしてあげる。
ニアのこと、大好きだから。リリスだけのものに、したいから」
一方的に勝手なことを言い放つと、リリスは刃と化したままの翼を振り上げ、動けぬ私を見下ろして。
私の首を、すっぱりと斬り落としました。
不思議と痛みは感じませんでした。
かつてギロチンで首を落とされそれでも意識が数秒続くことの証明のためにまばたきを続けた男がいたと聞きますが、しかしそれを思い出すのが精一杯で転がる私の頭は急速にその意識を闇に絡め取られ闇の奥底へと引きずりこまれ??
323:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:46:25 aCg32XSW
324:好き好き大好き愛してる。(続き) ◇sUD0pkyYlo(代行)
08/07/31 22:47:15 2oogYdKK
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してた。
胸に抱いた生首に そっと囁きかけてみても、そこにはもう感じられない。
貴方の息遣いも、貴方の体温も。貴方の命も、感じられない。
グリーンも。ニアも。
2人とも、本当に好きだった。
グリーンは、あたしに応えてくれた。ニアは、あたしに応えてくれなかった。
きっと、ただそれだけの違い。
それだけの違いで、あとはあたしが心のままに振舞って??こんなことに、なっちゃった。
哀しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうで……でも、他にどうしたらいいか分からなくて。
でもね。好きだったヒトの首を斬りおとす。好きなヒトの首を斬りおとす……。
「そんなやり方」を教えてくれたのは、ニア、貴方なんだよ?
首を傾げて問うてみたけど、もちろん答えは返ってこない。
あたしは、あたしが愛した2人の死体を前に、呆然と、これからのことを考える。
ニアは、あたしのことが嫌いだ、って言っていた。
じゃあ??グリーンは、「素のグリーン」は、どうだったんだろう。
きっとグリーンは、あたしの……サキュバスの体液で、普通じゃなくなってたんだと思う。
その影響が消えるのとほぼ同時に、今度はニアが使ったあの『お薬』。きっとグリーンも使われてた。
だからあたしは、「ほんとうのグリーン」をほとんど知らない。
「ほんとうのグリーン」だったのは、最初のちょっとだけ。
ちょっと遊び半分に戦っただけ。ちょっと適当にからかってみただけ。
それも、あの時はグリーンは他の人たちを守ろうと動いていた。あたしだけを見ていたわけじゃなかった。
だから……分からない。
こんなあたしに、「ほんとうのグリーン」がどう声をかけてくれるのか、見当もつかない。
325:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:47:44 aCg32XSW
326:好き好き大好き愛してる。(続き) ◇sUD0pkyYlo(代行)
08/07/31 22:48:11 2oogYdKK
声が聞きたい。そう思った。
もう一度だけ、グリーンの声が聞きたい。
たとえそれで、「嫌い」ってはっきり言われても構わない。
むしろそう言って貰えたら、やっとスッキリできる。
むしろそう言って貰えたら、きっとあたしは、ようやくにしてあの「失恋」を受け止められる。
ともかく、もう一度。今度は、サキュバスの体液や媚薬や惚れ薬で「酔っ払って」いないグリーンと。
会って、話がしたい。そう思った。
そのためには??あたしはゆっくりと立ち上がる。
グリーンの魂は、ジェダ様が用意した「神体」の中だ。ジェダ様がその気にならないと、そこから解放されない。
逆に言えば。
ジェダ様がその気になれば、いつでも話くらいなら出来るってことでもある。
ジェダ様さえその気にすれば、簡単にあたしの望みが、叶う。そのためにも。
「……優勝、かな……」
あのままジェダ様の下で働いてれば、仕事のお駄賃代わりにお願いできたのかもしれないけれど……。
今のあたしは、他の参加者のみんなと一緒。
ジェダ様にお願いするには、もう、優勝してそのご褒美を頼みにするしかない。
ここから先は??「遊び」は抜き。しばらくは、我慢しなきゃ。
エヴァにメチャクチャにやられちゃったように、あたしは決して、強くない。
だから、真面目に、真剣に、必死に、頑張ろう。
もしもグリーンだったらどういう指示を出すか、私なりに考えて、私が自分で動いて戦うんだ。
身体で覚えた新しいコンボ、敵に使われた戦術、不意打ちに騙し討ち、必要ならば撤退も。
あたしにはもう、「遊んで」いる余裕は、ない。
だから、必要だったら、ぜんぶやる。
327:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:48:24 +jskVHoU
328:好き好き大好き愛してる。(続き) ◇sUD0pkyYlo(代行)
08/07/31 22:49:10 2oogYdKK
◇ ◇ ◇
……目の前には、あたしが愛した2人の屍。
申し訳ないけれど、ここから先は「遊ぶ」余裕はない。だから、使えそうな荷物は貰っていくことにした。
地図。名簿。コンパスや時計などの、支給品一式。一応、あんまりおいしくなさそうなご飯と水も。
『眠り火』とかいう、煙幕が8つ。使い道は……ちょっとよく考えよう。
『メタちゃん』って名前の、ぷにぷにと形を変えるモンスター。この子にはボールの中に戻ってもらった。
なんだかよく分からない、たぶんグリーンやニアを「好き」になった『お薬』のビン。
ぜんぶ黒いランドセルに詰めなおして、背中に背負った。
最初にジェダ様からランドセルを貰った時と同じ、新しい始まり??でも今度は「遊び」じゃないから。
ここから先は、生まれてはじめての、「本気」だから。
そのままその部屋を出て行こうとして、あたしはふと、視界の隅にキラリと光るモノに気付いた。
首輪。
あたしが翼でニアの首を斬りおとして、その弾みで外れて転がっていった首輪。
ふと思いついて拾い上げて、血を拭き取って綺麗にして、腕輪のように腕に嵌めてみる。
うん。オシャレだね。そして、とっても綺麗。
もう片方の腕にも、ニアが分析してたグリーンの首輪を嵌めてみる。
これはそう、言ってみれば……グリーンとニアの、生きた証。
優勝を目指す心が揺らがないよう、あたしを支える誓いの腕輪(リング)。
「じゃ……いってくるね。きっとまた、すぐに会えるから」
小さく別れを告げて、あたしは部屋の外に出る。
そのまま屋上に出て、翼を広げる。
頭上を見上げれば、そこには大きなお月様。
あたしはようやく、「ほんとうの戦い」を始めるために??
「あたしのバトルロワイヤル」を始めるために、月光差す夜空に飛び上がった。
329:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:49:10 aCg32XSW
330:好き好き大好き愛してる。(続き) ◇sUD0pkyYlo(代行)
08/07/31 22:50:05 2oogYdKK
【A-7/南部の研究所(B.A.B.E.L本部)屋上/1日目/真夜中】
【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
疲労(大)。微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、
[思考]:ここからが……あたしの、本気だよ
第一行動方針:とりあえずB.A.B.E.L.本部を離れる。(その後は戦闘? それとも一時休息?)
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
【ニア@DETH NOTE 死亡】
[備考]
ニアとグリーンの遺体が、B.A.B.E.L.の中心であるモニターの部屋に並んで寝かされています。
どちらも首を斬りおとされ、胸や腹部に傷を追っています。首輪は残されていません。
同じ部屋の起動しっぱなしの端末の中には、ニアの『考察メモ』が残されています。
『考察メモ』には首輪の解析結果、ニアによる考察、リリスからの情報などが簡潔に纏められています。
具体的な詳しい解析は後続の書き手にお任せします。
ニアが持っていた『はりぼて首輪』は、解析の過程で分解され、原型を留めず消滅しています。
331:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:50:40 aCg32XSW
332: ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:51:16 +jskVHoU
……さるさん規制解けたかな?
支援および転載、改めて感謝です。
以上で、投下完了です。
というわけで、ニア死亡、リリスが再マーダー化です。
今後のリリスの行動(すぐに戦うのか、休息を選ぶのか)は後続にお任せします。
333:好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
08/07/31 22:52:54 +jskVHoU
っと、さっそく一行差し替え。
最後のニアの死亡表記を以下のように。
【ニア@DEATH NOTE 死亡】
何故Aが落ちたんだろう……我ながら謎です。
334:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 23:06:40 62nPYPyh
投下GJ!や……ヤンデレー!
なんという鬱だ……鬱過ぎる……素晴らしいぜ……!
しかし新居を手に入れてすぐ死ぬとは。まだ餅も投げていないってのに……。
リリスの本気も期待。だが、なんだか可哀想だ……。
凄く複雑な気分にさせてくれる展開だ、GJ!
335:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 23:42:26 Er921NPn
投下乙です
まさかのリリスヤンデレ化
再び本格的にマーダーとして動きだしたリリスに期待
そしてニア死亡…
まあこれは自業自得だな
メロがどういう反応をするか楽しみだ
336:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 23:50:57 aCg32XSW
投下乙です
ヤンデレヤンデレ。このあっさり感も女の子っぽくていいなあ
心の鈍さには定評のあるニアはまあ、仕方ないというか
これからのマーダーとしての活躍に期待
337:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 00:37:17 VInJ+asi
ニア、死んじまったかぁ、これは優勝ルートしかないか
そしてジョーカーのリリスがヤンデレとして復活か。さらに手ごわくなりそうだなあ
338:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 00:54:34 gGryv1Ui
投下乙!
ニアーーー!
結局最後の最後まで引き篭もりな上に
人の心を無視した挙句のこの末路・・・自業自得すぎる、が・・・なんとまあ。
あと代理投下の人の―が??に見えるんだが。
339:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 01:25:28 KFUVPG+z
投下乙!
ニアーーー!
あまりにも自業自得過ぎて可愛そうとか全く思わなかったんだぜ!
340: ◆sUD0pkyYlo
08/08/01 08:09:27 Dn+VCO94
>>338
文字化けなのか、転載の際に 「―」が「??」になっているようですね。
機種などの問題もあるので、仕方ないかと。
wiki収録時には、転載分はテスト投下スレにあるのを使った方がいいでしょう。
341:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 12:43:40 +Wu5GU/C
投下GJ。ニアにはそのうち天誅が下ると思ってたw
機械的かつ合理的な思考は好きだったけどね。
度々挿入されてたリリスの心情も臨場感があってよかった。
342:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 20:04:02 Bm6wGneE
投下乙です。
リリス切ないなあ……確かにグリーンのことはリリスにとっては初恋になるのか。
これはどう考えてもニアが悪い。
343:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 21:24:23 faP8RwSo
リリスがどんどんええキャラになっていくぜー!
ワイミーズハウスは女の子の扱い方も教えておくべきでした
344:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 02:24:41 vONV7ZF6
てかニアがあんな死に方をした以上、パタリロを含む知性派キャラ全員に即死の可能性が・・・
相対的にスケベ大明神の地位が上がったな
345:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 03:39:41 1Ys+w7KD
うーん。ちょっとニアの行動がこういう結果にするため作った感じがありすぎると思う
原作でも無感情な面はあっても、「鈍感」ではなかったと思うんだが
リドナーがメロと接触することも気付いていたようだし
346:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 03:53:28 SD4oENuZ
流石にヤンデレの可能性まで予測しろってのは無茶だと思うがw
347:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 08:04:56 2NKSi4x5
グリーンが死んで精神的にまいってるのは分かってただろうし、ちょっとくらい気遣いがあってもよかったかもね
まあ、「薬の効果を過信してた+ジェダの部下なんで無意識に冷たくしてた+殺し合いの場で若干思考が鈍ってた」ってことで
348:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 08:43:38 EsdngQDP
鈍感ではなくとも、それでどうなるかを予測するのはニアには無理だと思うけどなーw
349:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 10:45:56 Wp1sM9L9
ニアはリリスに向かって「残念でした」とか言いそうなキャラだろw
ニアに恋する女の子の相手は無理なのがよく表れてた話だと思うよ
350:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 11:46:28 LQV4OQMY
ジェダの部下っていうファクターだけで、
仲間とか精神ケアとかっていう単語が落ちても仕方ないと思う。
しかもニアだし。これがメロならまだ分からないとこだが。
351: ◆CFbj666Xrw
08/08/04 03:39:51 ZQBBUAjm
シャナ、キルア、弥彦、リリスを予約します。
352:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 05:10:22 /dYSsFgb
期待
353:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 13:28:29 ZEI+VnhL
お、リリスがもう動くのか。早いw
期待してます。
354:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 14:07:08 NkekhiwP
比婆理
DQNな上最強最強言われてるがちっとも最強じゃない。お前綱より弱いだろ
あと、厨の痛さが異常
どうやったらあれが美形でモテモテのツンデレキャラになるんだ
こいつってブサイクだわ、誰からも相手にされてないわ、デレなんてどこにもないわ…厨が思ってるのとまったく逆のキャラじゃないか
しかも華奢って。メインキャラの中でかなり重いほうなんですが
最近迷惑にも再登場したがさらにブサイクになっててワロタ
そのまま顔面崩壊して腐ごとフェードアウトしろ
語句の父親
最低すぎる
語句母が大好きなだけにマジでこいつ許せん
今後どうせあれは父親のせいじゃなかったんです。父親は語句母のことも語句のこともずっと大切に思っていたんです的な描写が出て語句と和解して終わるんだろうが、どういういきさつでああなったんであろうと結局原因はお前だろ
っていうか別にお前が認知しなくても語句母に語句押し付けていっさいの縁を切ればよかったのに
まあそれはそれで最低男だが、語句母にしていればお前なんかいなくても息子と一緒にいられるならそれで幸せだろうし
355:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:17:54 61bHjYVV
>>284-293のSSをwikiに収録しようと思ったんだけど、キャラ別追跡表ってどうしたらいいかな
投下順にするか時系列順にするか
356:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:24:27 afLmILHI
時系列順収録はアリサの真夜中を取って真夜中収録でいいんだろうけど、
追跡表は……やっぱり投下順じゃないかな。
前の話が前提となってる話だし、先にすると後の話をネタバレしてしまう。
357:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 19:29:39 61bHjYVV
じゃあそうしとくよ
ありがとう
358:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 22:59:02 W1BKQxy8
7KR.e180t氏の作品がwikiに乗ってないようなんだが、あれって破棄になったのか?
359:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:07:51 kiLjfYQG
本人からの破棄宣言があった。wiki更新した人乙。
360:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:08:33 61bHjYVV
>>304で破棄宣言してたから
唐突だし理由も分からないけど、本人が言ってることだし収録しなかった
361:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:12:14 W1BKQxy8
いや、そっちじゃなくて>>262のほう。
>>304のは>>302のことだと思うんだが。
362:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:26:18 61bHjYVV
>>304の破棄宣言って>>262のことじゃなかったの?
じゃあ>>302の仮投下って何のこと?
テスト投下スレには何もないみたいだけど
363:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:35:10 W1BKQxy8
避難所に間違えて書き込まれてる奴だと思うよ。
書き込まれた時間的に。
364:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:43:06 430hf72l
いや、もうね、察しろと言いたい。
365:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/05 23:52:50 W1BKQxy8
なかったことにしたいということか…
366:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 00:56:18 BbHkg7zA
すいません、勘違いしてたみたいです
>>262-276のSSをwikiに収録しておきました
367:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 20:31:21 lL+rJtmv
>>364
気持ちは言葉に変換しなければ相手には伝わらないんだぜ!
368:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/06 23:03:50 QRu34ueT
>>367
じゃあつたえるね!
あたいってばさいきょーね!
369:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/07 20:09:32 cczrPQzB
>>368
暑いから俺の部屋にパーフェクトフリーズよろしく
370: ◆CFbj666Xrw
08/08/07 23:43:36 HgmTZZjm
予約の延長を申請します。
今夜中に投下できなかった場合、投下は日曜になりそうです。
371:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/08 05:01:48 fYYmyTFO
がんばってください
372:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/08 20:42:31 5nAZ+jGj
砂かけって一見ひどい事だけど、自ら悪者になるってのはかなりのファン思いかもしれんよ。
確かにきちんと平和的にジャンル撤退するのはカドが立ちにくいけどさ、
作家そのものでなく、その作家のそのジャンルの本が大好きだった人にとっては
名残惜しいばかりで、好きな作家さんの選んだ道だから止めることもできなくて
かといって移籍先のジャンルを恨んでも仕方のない話で、生殺しもいいとこなんだよ。
一応移籍ジャンルも最初はついてって見るけど、大概は興味ないからついてけなくなるし。
そんなら「あんな奴の本二度と読みたくない!」と思えるような別れ方の方が
よほど未練を断ち切りやすいというか。
373:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/09 12:02:55 p+S7+37W
みなみけウィッチーズ
URLリンク(www.nicovideo.jp)
374: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:31:19 OtA1E1mV
もう少ししたら投下を初めます。40分辺りからで。
あと、申し訳有りませんがキルアと弥彦部分の予約を撤回しようと思います。
影響を与えると思い予約したのですが、出さない方がリレーしやすいと判断しました。
ただし出さないにしてもある程度は動きを縛ってしまいますので、
投下後にその旨を追記します。
375:新たな武器 ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:45:36 OtA1E1mV
ちと遅れた。投下を開始します。
376:新たな武器と共に(1/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:46:45 OtA1E1mV
「行くよ、アラストール」
『どちらにだ?』
しばらく考え込んでいたシャナの唐突な言葉に、コキュートスから疑問が返る。
シャナは答えた。
「あと一周だけ街を回ってリリスを捜す。それで収穫が無かったら北東の街に向う。
自動人形達は朝まで北東の街に居るみたいだし、まだ余裕はあるはず」
『……そうか。往こう』
自動人形を壊す、しろがねの使命。
シャナが新たに負ったという使命にアラストールは困惑を覚えていたが、
同時に彼女が已然フレイムヘイズで在り続けている事を再確認する。
リリスに執着を見せるのはそういう事なのだから。
―そしてシャナは市街地を捜索し、彼女を見つけた。
* * *
それはリリスがバベルの本部から飛び立ったすぐ後のことだ。
「遂に見つけた」
リリスはその声を聞いてハッと体を強張らせた。
周囲を見回すと満月の方角に何かが飛んでいる。
「リリス!!」
炎の翼を生やした少女が上空からリリスの眼前へと飛来した。
紅い炎のような輝きと共に、白銀の髪を夜空へとたなびかせて。
炎色の銀髪が夜闇を祓っていた。
「あなたは誰? どうしてあたしを捜していたの?」
リリスの問いを受けて彼女は傲然と名乗りを上げる。
「私は“天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ、“炎髪灼眼の討ち手”にして“しろがね”たる者、シャナ!」
シャナはリリスへと刀を向けて、言った。
「おまえにはジェダのこと、色々と話してもらうから」
ああ、そうかと思う。
リリスは彼女の事を何も知らないが、その言葉で概ねを理解した。
「あなたもジェダ様を倒そうとしているのね」
「そうよ。……『あなたも』?」
『シャナ、奴の腕を見ろ』
アラストールの言葉にシャナはリリスの腕へと視線を向けて、腕を飾る二つのリングを目にした。
グリーンとニアの、首輪だ。
「そうか、それが競争とやらで集めた首輪なのね。
おまえが遊びとジェダへの忠誠から奪った命の証」
「競争? 違うよ。これはそんなのじゃない。これは遊びなんかじゃない」
リリスはシャナ達の早とちりを訂正する。
二つの首輪を胸に抱きしめて、ひんやりとした金属の冷たさを心に刻む。
リリスにはどうしてか、グリーンの首輪が温かく感じられた。
「これはあたしの誓いだもの。あの人にもう一度会う為の、誓い」
「誓い? ……何を誓ったというの」
「だから、あの人にもう一度だけ会う事をだよ」
その姿があまりに真摯で無垢だったから、シャナは奇妙な戸惑いを感じた。
リリスの情報は最初の会場で見たものと人づてで聞いた事だけだ。
その本性や実力を隠している可能性だって十分に考えていた。
だけど、違う。何かが噛合わない。
遊びに耽る無邪気な邪悪さも、無知ゆえの純粋さも感じられない。
目の前のリリスは事前に予想していた様とあまりにも食い違う。
「おまえは、誰?」
「あたしは、リリスだよ」
シャナの戸惑いに対して、リリスは晴れやかな答えを返した。
「あの人って、誰?」
「…………グリーン」
シャナの問い掛けに対して、リリスはそっと愛しげに言葉を紡いだ。
377:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:47:27 zl4bUSe7
378:新たな武器と共に(2/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:48:27 OtA1E1mV
そして宣言した。
「あたしはもう一度あの人に会う。あの人の魂と言葉を交わす。
この気持ちに決着をつけるために。だから」
リリスの視線がシャナを射抜く。シャナは戦いを感じて身構える。
自然、両者が加速した。
「邪魔はさせない!」
リリスの翼とシャナの刀が交わった。
「……もしも、おまえがその気持ちを貫くなら」
ぎりぎり二つの刃が噛み合っている。
刃のように変じたリリスの翼とシャナの持つ楼観剣が鍔迫り合いを繰り広げている。
目と鼻の先に居るリリスに対して、シャナは告げる。
「もしもおまえがその想いを貫くなら、私はおまえを尊敬する」
シャナはリリスが抱いている感情を知っているから。
その感情がどれほど鮮烈で抑えきれない、どうしようもないものであるかを知っているから。
それに全てを捧げる存在がどれほど気高くなれるかも。
「でも、おまえは私の敵よ」
しかしその感情は時に全ての行動理念を破壊しうる。
シャナがこの島でその感情に振り回されて居ないのは、想いの行く先が不在だからだ。
想いの向う先である坂井悠二という少年がこの島に居たら、
もしかするとジェダを倒す使命に奔走するのではなく、彼が心配で走り回っていたかもしれない。
それどころか想いの暴走は時に罪無き者達や、同じ想いをしている者までも踏み躙る。
その感情はフレイムヘイズ達の中から最大規模の敵を生み出した事すら有るのだ。
だからシャナの共感はここまでの話だ。
シャナは目の前のリリスに対する好悪の感情を押し込めて、闘志を全身に充填していく。
リリスは目の前のシャナに問うた。
「あなたもこの気持ちのことを知っているの?」
「知っている。だけど」
シャナは応えた。
「今は関係無い!」
想いが触れ合ったのはただ一瞬。
シャナの放った爆炎が二人を別ち、遮る爆炎を吹き散らした紅の炎弾は緑の魔弾を相殺した。
しかし晴れた視界にリリスの姿は映らない。
シャナは神経を研ぎ澄ませる。……リリスが放つ“殺し”の気配を感じ取った。
「下!?」
「シャイニングブレイド!」
戦場は空。だからもちろん前後左右、上下、1080度の攻撃角度が存在する!
上空を照らし出す月明かりの中、リリスはシャナの作る月影から襲い掛かった。
対するシャナは迎撃の刃を振り下ろす。
翼が変じた鋭利な刃がシャナを切り裂くと同時、躊躇無きシャナの刃がリリスを切り返した。
シャナの胸部から、リリスの額からそれぞれの血が噴出する。
「いったあい! 別に嫌いじゃない、けど!?」
「はあっ」
リリスの傷は浅手だ。だが深手を受けた筈のシャナが掛け声と共に反撃に転じた。
一切の遅滞無く鋭い太刀筋が乱舞する。薙ぎ払い逆袈裟切り上げ唐竹に刺突。
『待て、無理をするな!』
アラストールの制止を無視してシャナの猛攻がリリスを襲う。
リリスは斬撃を躱し、受け流し、牽制するも、ガードの上から強烈な打撃を叩き込まれる。
眼下に広がるビルの屋上へと叩きつけられ、床面に無数のひび割れを走った。
それでもリリスは負傷に耐えて立ち上がる。
遅れてゆっくりと、シャナが舞い降りてきた。
諸に斬撃を受けた上、その状態で無理矢理な猛攻に出たのだ、傷は致命的なまでに広がって……。
「傷が浅い……?」
リリスは息を呑む。シャナへの斬撃は殆ど直撃したはずだった。
にも関わらずその傷は思いの他に浅く、それどころか出血さえ既に止まっていた。
379:新たな武器と共に(3/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:49:09 OtA1E1mV
「大丈夫、無理なんてしてない。今の私ならこの位、無理の内に入らない」
元よりフレイムヘイズとして肉体能力に特化していたシャナの肉体は、
しろがねの強靭な生命力を掛け合わされ更に強固な存在へと転じていた。
身体能力は跳ね上がり、特に肉体の再生力たるや鉄壁と評しても過言ではない。
「おまえの攻撃は鋭いけど、今の私なら耐え切れない程じゃない。次で決める」
シャナは楼観剣をリリスに突きつけてそう宣言した。
リリスは大急ぎで『考え』始めた。どうすれば良い?
グリーンとニアはもう居ない。でも……二人ならどう考える?
(ニアなら……そう、まずは見て聞いて、よく考えて、自分で動かずに命令する。
命令する相手は居ないけど、見て聞いて考えることはあたしだって出来る)
リリスは先ほどの切り合いを思い返す。
自分にとってシャナは、どのくらい厄介な奴だろう?
(肉体能力で全体的に負けてるし、武器の使い方もあいつの方がずっと上。立ち回りも。
それでも多分、ここまでなら勝ち目は有る気がする。あの刀と手足と炎だけなら、多分)
リリスは感覚的な分析しか出来なかったが、間違ってはいない。
シャナの戦い方はリリスから見れば人間的なのだ。
単に『飛んだり、格闘戦に混ぜられない程度に炎を使えるだけ』で。
自らの体を変形させ予想だにしない攻撃部位を作り出す事も、
無数の刃を作り出し槍衾で貫く事も出来ない。
怪物的な変幻自在の戦闘スタイルを会得していない。
炎弾による遠距離戦闘と刀による近接戦闘も両対応出来るだけで融合していない。
例えばリリスが低速の魔力弾を盾に突進したり、魔力弾に相手が対処した隙を狙う様な一人連携は出来ない。
剣による戦闘技術やあらゆる戦闘経験においてシャナはリリスを圧倒していたが、
その戦闘スタイル自体は極めてシンプルで、リリスはそこに勝機を見出していた。
(でも、攻撃を当てても押し切ってくるんじゃ勝てない!
グリーンが居たなら、きっとこいつに勝つ方法も思いついて教えてくれる。
今はあたしがそれを考えなきゃいけないんだ。
どうすればいいの? どの技をどう使えばいいの?
攻撃の隙を突かれたらやられる。それじゃ隙を作らなければいいの? それとも……)
シャナが屋上の床を蹴った。
「ソウルフラッシュ !」
迎撃に放たれたのは魔力弾だ。ただし低出力のそれは速度も遅い。
リリスは自ら放った魔弾に続いて疾走した。
「こんなもの!」
シャナは羽織っていた黒いマントのような物を振るった。
これはフレイムヘイズの側の力、夜笠。この程度の攻撃なら十分に防げるものだ。
だが一瞬だけ生まれたその隙を狙い、リリスは攻撃を仕掛けていた。
(チャンスは一度だけ)
一気に押し切れなければシャナは身体能力、戦闘技術両方に秀でた自分の間合いで反撃するだろう。
その実力差はリリスと比べてもまだ大きい。
だからリリスは切り札を抜いた。
「いけぇ!」
リリスがそう叫んだ瞬間、シャナは背後に気配が生まれたのを感じた。
その正体は、もう一人のリリス。
マインドレスドールで生まれた鏡写しの分身(ミラードール)が本体と共にシャナを挟撃する。
隙を突かれない為の選択肢は二つ。一つは何時攻撃されても切り返せるだけの余裕を常に持つこと。
もう一つは、相手に攻撃させる暇も与えず一気に叩きのめすこと!
如何にダメージを無視して反撃しようとしても二人がかりで叩きのめされては身動きすらままならない。
たとえ身体能力と単純戦闘技術において若干劣る相手であっても前後からの挟撃では防げない。
本体と分身がシャナへと辿り着き勝利するまでの残り数瞬で。
シャナは突如、背中のランドセルに両腕を突きこみ、中からなにかを抜き出した。
(糸……?)
抜き出された両腕の指には指輪が填まり、指輪からは糸がランドセルの中へと伸びている。
糸が張り詰めた。
それと共にシャナが咆えた。
「あるるかん!」
380:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:49:23 zl4bUSe7
381:新たな武器と共に(4/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:50:06 OtA1E1mV
次の瞬間シャナに襲い掛かるリリス本体の攻撃はシャナ自身の刀が食い止めて。
同じ瞬間シャナに襲い掛かるリリス分身の攻撃はランドセルから現れた奇怪な腕が食い止めていた。
「なに、それ……?」
分身の攻撃を食い止めたのは、人形の腕に握られた人形の腕だった。
ずるりと、まるで生きているかのようにランドセルから這い出してくる。
2m以上有ろうかという巨大な人の形だった。
その左腕は無く、一本だけの右腕はまた別の人形の腕が握られている。
その各部から伸びる糸がシャナの指に填まる輪へと繋がっていた。
絡繰り人形。
「しろがねの武器、懸糸傀儡(マリオネット)あるるかん」
―シャナは街を一周だけして、それから北東の街に向うと宣言した。
しかし実のところ、シャナが街を回ってから優に二時間以上が経過している。
リリスを見つける前からシャナは予定をずらしていたのだ。
この懸糸傀儡、あるるかんを見つけたから。
懸糸傀儡はしろがねの使う強力な武器である。
だがその操作は複雑さを極めており、普通なら手にとってすぐ使いこなす事など出来はしない。
例え極端に飲み込みが早くとも、戦闘に使えるほど熟達するには凄まじい修練が必要となるのだ。
本来なら、しろがねの受け継ぐ技術を持ってしても。
生命の水を飲みしろがねと化した者は幾つか特徴的な変異を起こす。
一つは肉体の変異。
髪と瞳が銀色に染まり、五年に一歳しか年を刻まなくなり、身体能力は五倍近くまで増強される。
特に再生力の上昇は顕著で、体液を流しつくすまで戦い続けられるだろう。
元より肉体特化型フレイムヘイズであったシャナはその乗算により身体能力を跳ね上げていた。
もう一つは、知識と意思の継承。
しろがねを生み出す生命の水は、その内に白銀と呼ばれたある錬金術師が溶けている。
その水を飲んだものは錬金術師白銀の知識と意思を受け継ぐのだ。
知識。即ち、懸糸傀儡を操る技もその中には含まれている。
先述の通り、本来ならそれでも実戦で使いこなすには修練が必要となるのだ。
戦いの素人から一端のしろがねになるまでには。
だがシャナは違う。一般人が戦士になるまでの共通項を全て無視できる。
しかもこのあるるかんは懸糸傀儡の中で最も古い素体とも言うべき物だった。
白銀の死後に作られた懸糸傀儡は基本操作こそ共通しているが、多種多様な追加が為されている。
このあるるかんを使いこなすにはその追加部分の習得すら不要なのだ。
白銀の中に有る知識だけでその全てが満たされている。
必要なのは『使い方を知っている、いつもは使わない武器を体に馴染ませる』時間だけでいい。
その為に費やされた時間が二時間余り。
補助武器には十分すぎる習得期間だった。
リリスは一瞬だけ考える。まだ、行ける。
あの巨大な人形はシャナが動かしている操り人形らしい。
それなら視界は無い。背後から向う分身の攻撃には対処出来ない。
リリスは牽制の攻撃をしながら、シャナの背後から分身を突撃させた。
そう、シャナに背後の分身は見えていない。
音と、殺しの気配。それで大雑把な間合いが判るだけだ。
正確な狙いをつける事は出来ないし、リリスに攻撃されながらではこまめな操作も出来はしない。
「戦いのアート」
だからシャナはスイッチを入れた。
リリス本体と接触する直前にある複雑な操作を済ませ、リリス本体に集中した。
その背後であるるかんが動き出す。胴体部から歯車が露出する。
「コラン!!」
轟と嵐が吹いた。
シャナがリリスの斬撃を受け止めたその背後で、上半身を高速回転させたあるるかんが
その旋回半径内に在ったリリスの分身を薙ぎ払い消滅させていた。
382:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:50:14 zl4bUSe7
383:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:50:46 zl4bUSe7
384:新たな武器と共に(5/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:51:02 OtA1E1mV
リリスは吹き飛ばされていた。
シャナの斬撃を受け止め、それに逆らわず吹き飛ばされて距離をとったのだ。
そのままビルの端、戦場の外へ向って疾走する。
「逃げる気!?」
シャナは即座に対応した。片手で必殺技を終えたあるるかんをひっ掴み、投擲したのだ。
更にそれがリリスへと飛んでいく最中でコントロールを回復。
続けて自分も追撃に疾走する。
高速で迫るあるるかんと自分自身の時間差攻撃だ。
ビルの端でリリスはあるるかんに追いつかれ、一瞬その姿が隠れて。
次の瞬間、上空へと飛翔するリリスの姿が有った。
リリスは『考え』る。
(正面からの格闘戦じゃ勝てない! でもあたしの攻撃は格闘戦しか無いんだ。
それで勝つには、後はもう……!)
シャナは気づいた。
上空に戦場を移されれば、あるるかんを連れて追撃するのは困難だ。
体積や質量を無視する奇妙なランドセルに下半身を突っ込めば出来なくは無いが、
それでも空中の機動力は大幅に低下してしまう。
どちらにしても空中戦ではあるるかんの優位が消えうせるのだ。
このままでは容易く逃げられてしまう。
「させない」
だからシャナは指輪を外し、切り札を抜いた。
フレイムヘイズとは元来復讐者である。
紅世の従を倒す使命に邁進するよう、紅世の王達は紅世の従に大切な者を奪われた者達を選び、
契約し、フレイムヘイズとしての力と使命を与えるのだ。
復讐者である事にはもう一つ重大な意味がある。
フレイムヘイズが“存在の力”を使いこなすには、彼ら自身にも燃え上がるような感情が必要なのだ。
復讐心。憎悪。憤怒。ありとあらゆる怒りの激情。
それらの感情で自らを燃やす時、存在の力は炎と化してフレイムヘイズの力に変わる。
シャナは最初、そういった激情を持たなかった。
アラストールは憎しみといった感情的な理由に振り回される人間ではなく、
決然とした使命感で行動する人間を契約者として求め、シャナをそう育て上げたからだ。
それは決して間違った選択では無かっただろう。
だがその代償に、シャナはフレイムヘイズでありながら殆ど炎を操れず、何年も肉体のみで戦っていた。
シャナが炎を本格的に操り始めたのは、初恋をしてからだ。
坂井悠二という少年に恋をしてその感情と向き合う中で、恋が彼女の心に火を点けた。
恋により燃え上がった心が引き金となって、シャナの炎を操る力は強大に育って行ったのだ。
しかしこの島には、坂井悠二が居ない。
それ故にシャナは彼の安否を心配する必要も無く、目の前の使命の事だけを考えていられた。
それは良い。だがその安定は、気づかない内に彼女の力までも削ぎ落としていた。
しろがねとなるまでは。
しろがねは元来復讐者である。
しろがねは自動人形のばらまくゾナハ病に身体を冒された者達がなる。
病の末の死か、それとも自動人形を撲滅するために朽ち果てるまで戦い続けるか。
戦いの生を選んだ時、しろがねが生まれる。
自動人形たちに怒りを燃やし、それらを一体たりとも残すまいと使命に駆られるしろがね達が。
だがその怒りはしろがねとなった者達がその前から持っていた感情ではないのだ。
自動人形により住んでいた村の者達を虐殺され、娘を失い、自身も病に冒され、
死ぬ事さえ出来ない生き地獄を何年も味わった最古参のしろがねですら、こう語る。
しろがねとなった時に入り込んできた憎しみは、己が憎しみよりもなお壮絶なものだったと。
しろがねとなった者は、知識と意思を継承する。
しろがねを生み出す生命の水は、その内に白銀と呼ばれたある錬金術師が溶けている。
385:新たな武器と共に(6/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:51:33 OtA1E1mV
その水を飲んだものは錬金術師白銀の知識とその意思を受け継ぐのだ。
意思。即ち自動人形に対する深く重い、重油のように蟠る憎悪。
―怒りとして燃え上がるもの。
この島で自動人形たるトリエラの存在を認識した時から、シャナは新たな激情を手に入れた。
連綿と継承されしろがね達を縛り続ける、自動人形への強烈な憎悪を。
しろがねは元来復讐者である。
フレイムヘイズは元来復讐者である。
故に。
シャナの手の中に生まれた業火は爆発的な勢いで膨れ上がり、リリスが居た空の一帯を呑み込んだ!
悲鳴さえ上がらなかった。
そこには何も残ってはいなかった。
その遥か先で、雨細工のように捻じ曲がった鉄柱がその破壊力を克明に物語っていた。
ただそれだけが全ての焼き払われた光景。
シャナの胸元でコキュートスが明滅し、僅かに戸惑った声を伝える。
『……ジェダの事を訊くのではなかったのか?』
シャナは毅然とした声で答えた。
「逃がすよりはマシだから」
その灼銀の瞳には一片の迷いも無い。
万が一にも倒しそこねていないかしきりに空を見上げていた。
………………。
ぴしり。
386:新たな武器と共に(7/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:52:25 OtA1E1mV
『いかん避けろ!』
「え!?」
振り返ったシャナの眼に映ったのは『亀裂が走り脆くなっていた屋上の床を突き破り、
分身を囮にしたリリス本体が、自らの目の前まで迫って片翼を伸ばしてくる』その光景だった。
片翼が腕に変わりシャナの胴を鷲掴みにする。
もう片翼が変形して弓へと変りシャナの体が番えられる。
(しまった、逃れ―)
「バイバイ!」
ミスティックアロー。
敵自体を弓矢の矢とする奇想天外な投げ技で、リリスはシャナを撃ち放った。
体制を整えることも出来ず射飛ばされ、巨大な鉄柱に叩きつけられる。
「くそ、こんな程度で!」
受けたダメージはそう大したものではない。
シャナはその巨大な赤い鉄柱に手を突いて姿勢を正し、焦らずリリスの追撃に備えて……。
『警告する。その場所は禁止エリア内だ。三十秒以内に退出したまえ』
首輪からジェダの声が再生された。
シャナは息を呑み、その言葉を理解すると共に焦燥が頭を埋め尽くした。
* * *
「すぐ爆発するんじゃないの!?」
一方のリリスも焦りを感じていた。
シャナを叩き込んだのは巨大なタワーが聳えるB-7エリア。
十九時を境に禁止エリア指定された場所だ。
禁止エリアに叩き込めばすぐに爆発すると思っていたのに当てが外れた。
シャナを仕留める為にはあと三十秒近くの間、シャナを禁止エリアに閉じ込め続けなければならない。
『26、25、24……』
ジェダのカウントが再生され始める。
短い決戦が幕を開けた。
シャナは即座に鉄柱を蹴り禁止エリアの外へ直進する。即ちリリスへ向って一直線に。
「ソウルフラッシュ !」
放たれた低速の魔力弾をシャナは軽く一刀両断にした。その速度に遅れは見られない。
(わかってる、これを一発だけ撃ってもダメ! でも、これなら!)
「ソウルフラッシュ !」
「そう何度も!?」
距離が迫ったシャナに対し、今度は出力を上げて撃ち放つ。
緑色の蝙蝠型魔力弾はこれまでと違い高速で炸裂した。
シャナは吹き飛ばされる。その首輪からカウントが響く。
『21、20、19……』
すぐに反転して再び加速した。
対するリリスは全身の魔力を励起すると、青い燐光と共に再び射撃する。
「ソウルフラッシュ!」
何故か低速で放たれたそれを訝しんだシャナは夜傘で防ぐ。三倍の衝撃が弾けた。
一見同じように見えて通常時より強大な魔力を注ぎ込んでいたのだ。
「くっ、この……なっ!?」
それでも直撃せず防いだため遅滞は一瞬だ。
改めて加速しようとしたシャナの目の前に、リリスが居た。
(なんで!? こんな近くじゃこいつも禁止エリア内に入って……!)
その理由はすぐに判った。
『18、17……』
『―は禁止エリア内だ。三十秒以内に退出したまえ』
二つの警告が重なった。
387:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:53:12 zl4bUSe7
388:新たな武器と共に(8/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 00:53:15 OtA1E1mV
シャナとリリスには十秒以上の時間差が存在する。
つまりリリスはシャナが爆発してから外に出ても十分に間に合うのだ。
リリスが手を広げる。その全身の衣服が、解けた。
スプレンダーラブ。
解けた衣服は無数の蝙蝠と化してシャナに殺到した。
「この、燃えろぉっ!!」
シャナはそれを炎による爆風で薙ぎ払う。
蝙蝠は吹き散らされ、リリスへと帰り衣服に戻る。
『いかん、力を使いすぎるな!』
『15、14、13……』
だが当然その分だけ、炎の翼へ回す力が僅かに低下してしまう。
シャナは慌てて炎の翼へ力を注ぎ、強烈な推力を得て加速した。
あろう事かリリスへの警戒を怠って。
致命的な隙だった。リリスがその隙を逃す筈は無い。
「落ちちゃえ!」
「しまった!?」
リリスの翼が腕に変じて、逃げるシャナの足を掴み取った。
そのまま急降下し地上へと叩きつける。タワー下の舗装された地面が砕け散る。
それでも二人は動いていた。
『12、11、10……』
「ぐ、放せ! この!」
「ぜったいに逃がさない!」
リリスはシャナに抱きついて動きを封じていた。
シャナは死に物狂いでそれを振り払おうとする。
この間合いでは刀など使えない。拳を叩きつけ、腕を掴み引き剥がす。
単純な怪力で強引に振り払おうとするシャナを、リリスは翼まで腕に変えて四つの腕で押さえ込む。
いつの間にかその腕は八つに増えていた。
最初の戦闘やビルの屋上から隠れる時にも使ったマインドレスドールを使い、
分身を作り出してリリス二人がかりで押さえ込んでいたのだ。
こうなれば戦況は一進一退。
『9、8、7、6……』
即ちタイムリミットが刻々と落ちて来る!
「このお……!!」
シャナは二人のリリスに纏わり付かれたまま強引に進み始めた。
足で地面を蹴り、手で出っ張りを掴み、炎の翼による推力で強引に押し進む。
『5、4……』
それでも禁止エリアの切れ目には届かない。
『3……』
「こんな……」
『2……』
「ところで……」
『1……』
「―――!!」
爆音が全ての声を掻き消した。
* * *
389:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:55:29 zl4bUSe7
390:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 00:56:53 zl4bUSe7
391:新たな武器と共に(代理)
08/08/10 00:59:45 zl4bUSe7
リリスは町外れのホテルで一息を吐き、体を休めていた。
そのところどころには軽い火傷が増えていたけれど、それほど大きな傷は受けていない。
少し休めばまた動けるだろう。
「つかれた。あそこまで強い子がいるなんて思わなかった」
リリスはぐったりとなりながらも、拾ってきたランドセルの中身を確認する。
シャナが持っていたランドセルだ。
中からはポロライドカメラ風の大仰なカメラが一つ転げ出てきた。
何故か服のデザイン画が付いていて、よくよく探すと説明書もランドセルの底に引っかかっていた。
(着せ替えカメラ? 服を着せ替えられるの?
あたしはそんなの必要無いから、誰かに対して……グリーンならどう使っただろう)
使う為には『充電』が必要らしいので、付属のコードを付けてコンセントに差した。
人間社会の事は詳しくないが、見よう見まねでどうにかなった。
「だけどこれ、なんに使えばいいのかな」
一見するとあまり使える支給品には思えないが、グリーンなら上手く活用しただろう。
どんなところに着眼するか、どんな使い方を考えるかを想像してみる。
「あ、そっか。どう使うにしても相手の元々着ていた服は無くなっちゃうんだ。
不思議な力の有る服を着てる相手に使うとか……
そうだ、動きを阻害する手錠とか描いて置けば着けられるのかな?」
リリスは考える。
これまで殆ど知らなかった考えるという行為に没頭する。
(そうだ、まだあたしは考えが足りなかったんだ。
例えば支給品を使えば良かった。使い方は気をつけないといけないけど、眠り火を使うとか。
あたしの技だけでも呪いのダンスを強要するグルーミー・パペットショーならもっと足止めできてたんだ)
リリスは考える。
これまで手にした事の無かった新たな武器を使いこなす為に。
(あたしはグリーンやニアみたいに頭が良くない。だから考えて、もっと考えなきゃいけない。
次こそは勝つために)
リリスは敗北を糧にして考える。
それは紛れも無く最強の武器だった。
「そうすればきっと、どんな奴が相手でも負けないから」
―リリスは“知恵”という新たな武器を使いこなしつつあった。
* * *
392:新たな武器と共に(9/10) ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:00:19 OtA1E1mV
リリスは町外れのホテルで一息を吐き、体を休めていた。
そのところどころには軽い火傷が増えていたけれど、それほど大きな傷は受けていない。
少し休めばまた動けるだろう。
「つかれた。あそこまで強い子がいるなんて思わなかった」
リリスはぐったりとなりながらも、拾ってきたランドセルの中身を確認する。
シャナが持っていたランドセルだ。
中からはポロライドカメラ風の大仰なカメラが一つ転げ出てきた。
何故か服のデザイン画が付いていて、よくよく探すと説明書もランドセルの底に引っかかっていた。
(着せ替えカメラ? 服を着せ替えられるの?
あたしはそんなの必要無いから、誰かに対して……グリーンならどう使っただろう)
使う為には『充電』が必要らしいので、付属のコードを付けてコンセントに差した。
人間社会の事は詳しくないが、見よう見まねでどうにかなった。
「だけどこれ、なんに使えばいいのかな」
一見するとあまり使える支給品には思えないが、グリーンなら上手く活用しただろう。
どんなところに着眼するか、どんな使い方を考えるかを想像してみる。
「あ、そっか。どう使うにしても相手の元々着ていた服は無くなっちゃうんだ。
不思議な力の有る服を着てる相手に使うとか……
そうだ、動きを阻害する手錠とか描いて置けば着けられるのかな?」
リリスは考える。
これまで殆ど知らなかった考えるという行為に没頭する。
(そうだ、まだあたしは考えが足りなかったんだ。
例えば支給品を使えば良かった。使い方は気をつけないといけないけど、眠り火を使うとか。
あたしの技だけでも呪いのダンスを強要するグルーミー・パペットショーならもっと足止めできてたんだ)
リリスは考える。
これまで手にした事の無かった新たな武器を使いこなす為に。
(あたしはグリーンやニアみたいに頭が良くない。だから考えて、もっと考えなきゃいけない。
次こそは勝つために)
リリスは敗北を糧にして考える。
それは紛れも無く最強の武器だった。
「そうすればきっと、どんな奴が相手でも負けないから」
―リリスは“知恵”という武器を使いこなしつつあった。
* * *
393:新たな武器と共に(代理)
08/08/10 01:01:15 zl4bUSe7
『3……』
「こんな……」
『2……』
「ところで……」
『1……』
首輪のカウントが0を刻む一瞬前。
シャナは炎の翼を消した。
肉体強化に注いでいた存在の力も防御に回し、夜傘で身を包んだ。
「死んでたまるか!!」
そして残る全てを、至近距離で炸裂させた。零距離で巨大な爆発を起こしたのだ。
爆風で禁止エリアから脱出する為に。
それは当然ながら極めて危険な賭けだった。
移動用に洗練された炎の翼は、存在の力が概念として燃焼して見えるだけで実際の熱を持たない。
そのためシャナを高速で飛行させる程の推力を与えながらシャナの身を焼く事が無いのだ。
だがその瞬間にシャナが放ったのは純粋な爆発だった。
最大威力では鉄骨すら飴の様に捻じ曲げた莫大な熱量を零距離で爆発させたのだ。
いくらフレイムヘイズ兼しろがねのシャナでも、あまりに危険な賭けだと言えた。
その力は激烈であり、タワーの柱の一本が破壊された程の壮絶な破壊を撒き散らしたのだ。
だがシャナは、生き残った。
「流石に……効いた……」
夜傘と存在の力による防御は零距離爆発の殺傷力を大幅に軽減してくれた。
しかし吹き飛ばされるのが目的である以上、衝撃自体は受け止めなければならない。
それでも禁止エリアから脱出出来たのは幸運だったが、残念ながら幸運は敵にも降っていた。
リリスの方は爆発の間にシャナを挟んでいた為、大したダメージを受けなかったのだ。
それでもリリスがトドメを刺しに来たら返り討ちにしてやろうと狙っていたのだが、
生憎それも見通されたらしく、リリスはシャナを放置して飛んでいってしまった。
そしてシャナにはリリスを追撃するほどの余裕は残っていなかった。
『無理をするな。あの状況から命と武器が残ったのなら運が良い』
「判ってる。今は……戦うべきじゃない」
あるるかんは禁止エリアへ叩き込まれる前に離していたし、刀も何とか回収できた。
そしてフレイムヘイズでありしろがねでもあるシャナは強力な再生力を発揮していた。
流石に全快までは時間を要するだろうが、動きながらでも治っていく勢いだ。
それでも今は相当な重傷に違いない。
北東の市街地を目指すにしても、戦いを前提とするならばしばらくの休息が必須と言えた。
シャナは自らのふがいなさに歯噛みする。
―リリスの捜索及び捕縛は、ここに至って遂に諦めていた。
394:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:02:05 zl4bUSe7
395:状態表 ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:02:49 OtA1E1mV
【B-8/市街地/1日目/真夜中】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、消耗(中)、全身に相当なダメージ(再生中)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:少し休んで、それから……
第一行動方針:休憩後、北東の市街地に向かい居るはずの自動人形(トリエラ・リルル)を破壊する
第二行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、及びロボットのリルルを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
神社を拠点にする計画も知っています。
弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)
【C-6/ラブホテル/1日目/真夜中】
【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
疲労(大)。全身に軽度の火傷。額に浅い切り傷。背中に打撲。
微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。『考え』る事に目覚めた。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
小狼のランドセル(基本支給品一式) 、きせかえカメラ@ドラえもん
[思考]:あたしが、考えるんだ。
第一行動方針:少し休憩
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
きせかえカメラ@ドラえもんは充電中です。
※:B-7のタワーの脚が一柱完全に破壊されました。
更にリリスのダミーに放った必殺の業火も直撃し、鉄柱がかなり破壊されています。
現時点で即座に倒壊する様子は有りません。
・私信。
すみません、避難所で代理投下を頼む前に駄目元で投下してみたらさるさん規制が解けていました。
どういう基準なのでしょう、一体。
396:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:03:14 zl4bUSe7
397: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:08:05 OtA1E1mV
ともあれこれで投下終了です。
お騒がせすみませんでしたが代理投下の人ありがとうございます。
ちなみに与える影響は次の通りです。
・街中でド派手な戦いをしました。市街地に(キルアか弥彦が)居たらまず気づく事でしょう。
ただし時刻は真夜中、前の話から二時間以上後となります。
・シャナが洞窟前に居たのは24時より2時間以上前。
よって前の話は夜中の終わり頃ではなく、夜中の中~前半。
ここら辺を気にしてキルアと弥彦も予約していたのですが、
どうも不要な内容になってしまったので、その分の予約は撤回します。
支援の方々もありがとうございました。
398:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:22:29 QzO9i14x
投下乙!
リリスとシャナの大バトル、両者の+α要素でどちらかが負けるかハラハラドキドキしました
ひとまず痛み分けの結果に終わってよかった
399:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:33:04 ew7QMh1C
投下乙です!
やばい、シャナが死ぬかと思って凄いドキドキしたw
知恵を絞ったリリスがここまで強いとは・・・。
GJでした。
400:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:33:20 yNBEourX
投下乙です。
知恵を身につけたリリス、しろがねの力をフル活用のシャナ。
どちらも恐ろしい存在となたものだ……GJです。
401:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:34:07 cxIp4ZXs
投下GJ! リリスKOEEEEEE!
グリーンやニアとの出会いがここで活きるとは……!
最後までハラハラさせやがって、GJだこのやろう!
402: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 01:34:14 OtA1E1mV
すみません、修正事項です。
シャナの装備に『あるるかん@からくりサーカス』を追記します。
403:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 01:34:59 zl4bUSe7
投下GJ。両者の恋愛観の対比がいいなあ。
迫力ある空中戦も良かった。あるるかんの再登場は予想外だったw
リンク、エヴァときて今度はしろがねか。扱い難しいのに使えるキャラにちゃんと渡り続けるとは。
しかしリリスの成長ぶりはやばい。グリーンいなくてもここまで作戦練れるなんて……。
禁止エリア初めて活かそうとするのがリリスだったってのも驚き。
タイムリミットまでの泥臭いせめぎあいもwktkしながら読んでました。
誤字の指摘を。夜傘→夜笠、紅世の従→紅世の徒
404: ◆CFbj666Xrw
08/08/10 16:03:25 r5yLOvdW
感想たくさんありがとうございます。
今回初めから終わりまで思う存分バトルというバトルのための話でしたが、
割と好評で嬉しい限りです。
>>403
ああっ、用語の字間違えてましたか。
wiki掲載時に直しておきます。指摘ありがとうございます。
405:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 18:21:25 JUqE7iUs
それにしてもロリショタだらけの会場にラブホを設置するあたり
さすがジェダ様は変態という名の紳士w
406:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 21:28:13 b3vsAB1N
そろそろ放送いけるかな?
407:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/10 21:39:45 zl4bUSe7
ヴィクトリア、イエロー、ひまわり
キルア、弥彦
時間夜中で描写があったほうがいいかもしれないのはこの二組だろうか。
408: ◆sUD0pkyYlo
08/08/11 00:30:34 Tpc3QKNz
では、 キルア、弥彦 以上2名予約します。
409:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/11 03:34:51 NKr7F6b9
期待
410:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/11 22:43:00 gvOjZY0f
期待
ショタだけってなんだか新鮮だなw
411:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 03:07:27 nKYIUOJ3
転載&期待
945 名前: ◆iCxYxhra9U[sage] 投稿日:2008/08/12(火) 03:03:31 ID:3VUByKUo0
アク禁なのでこちらで。
パタリロ、エヴァ、インデックス、リンク、なのは、アリサの
六名を予約します。
412:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 10:06:44 jDGR7Er/
豪華だな
413:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 15:58:27 I+y6mINd
なのはさんにエヴァにパタリロ…
大波乱の予感だ
414:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 16:42:16 xmgSizPl
パタリロが終わった様な気がしてならない…生きろパタリロー!w
415:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:25:13 Qstyl/LD
火種多過ぎて拭いたw
416:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:31:48 QpH66CBw
>>414
殿下の生存力はある意味チートなのでむしろその他のキャラのほうが・・・
417:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 18:50:33 5BnLBaN5
どうしてだろう?
マーダーはいないハズなのに……
全員が対主催のハズなのに……
何故か穏便に済む気がカケラもしないw
418:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 19:05:46 T7yyVZmo
いや、消火できるかはさておきすぐに爆発するとも限らない。
もしかするととりあえずは擦れ違いで収まる可能性だってあるw
マイナス×マイナスでプラスに転じる希望だって……一片くらいは?
419:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 20:35:59 7Is5qVkk
マイナス同士はかければプラスになるが足すとマイナスのままなんだぜ
420:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 21:58:33 egS6mjBf
>全員が対主催のハズなのに……
・ ・ ・ ! ? マ ジ で !?
…本当だ、一応皆ジェダを倒す事を考えてるw
でもパタリロ、エヴァ、なのはの三人が出会ったら確実に嵐が吹き荒れそう。
>>416
殿下は残りの全員から攻撃されかねないからなw
421:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/12 22:28:28 COmiFazr
久々のなのはさんが怖すぎる
超マーダーキラーに進化したなのはさんだからな
422: ◆sUD0pkyYlo
08/08/13 01:48:54 VNQHWSe4
すいません、予約してる2名ですが、
期限である明日の深夜までに書きあがる自信がもてないので、予約の延長をお願いします。
どうも、妙な苦戦の仕方をしてまして……。うーん。
423:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/13 09:27:09 jw/gu/kz
保守代わりにプチなのを。
主人公は全国でもトップクラスの陸上選手だったが、足を壊してしまい走れなくなった高校生。
特待生待遇で入った学校を逃げるように転校し、療養も兼ねて引っ越したのは田舎の寂れた高校だった。
そこで彼は「陸上部を作ろう」と書かれたビラを生徒に渡している少女と出会う。
主人公の存在を知っていた少女は主人公を勧誘しようとするが、主人公は少女の熱意を鬱陶しく思い、拒絶する。
だがそれでも少女はしつこく彼を陸上の世界に戻そうと誘い、彼にまとわりつく。
彼はついに少女の熱意に負け、「マネージャーとして」入部。部を設立すべく生徒の勧誘を手伝うようになる。
始めはかったるく思っていたが、次第に彼の中で陸上への思いが再燃。リハビリを兼ね、こっそりと練習を始めた。
一方部員はまったく集まらず、学校側は予算不足を理由に同好会としての活動すら認めようとしない。
そこで少女がある提案をする。
「100m走で去年の全国記録を破れれば部として認めて欲しい。0.1秒でも遅ければこの件は諦める」と。
どうせ破れるわけがないと思った学校側はこの案を承諾。そしてついに部の存続を賭けた100m走の日がやってきた。
少女は自分の力を出し切り、100mを駆け抜ける…しかしそのタイムは僅かに届かなかった。
地面に突っ伏し、泣き出す少女。そんな彼女に主人公が話しかけた。「…陸上部員はもう一人いるだろ?」
去年の全国記録は全盛期の自分が出したタイム。それを更新することは難しい。無理をすれば再起不能になるかもしれない。
だが今の主人公に迷いはなかった。スタートラインに立ち、スタートの合図を待つ。
そして…。
非公式ではあるものの、タイムは更新された。
そしてこの日、田舎町の小さな高校に二人だけの陸上部が生まれた。
…これなんてロケットの夏?
424:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/14 04:34:39 PuVVODgH
【エセ右翼の目的は、右翼は痛い団体だと日本人に思わせ、まともな愛国心ある人を貶める事です】
・右翼団体「松魂塾」(豊島区) - 極東会(構成員1500人)
松魂塾最高顧問:松山眞一こと曹圭化(在日)
・右翼団体「祖国防衛隊」(大阪) - 七代目酒梅組(構成員160人)
七代目酒梅組組長:金山耕三郎こと金在鶴(在日)
六代目酒梅組組長:大山光次こと辛景烈(在日)
・右翼団体「松葉会」(台東区) - 松葉会(構成員1400人)
松葉会六代目会長:牧野国泰こと李春星(在日)
・右翼団体「日本皇民党」(高松) - 山口組宅見組系
日本皇民党行動隊長:高島匡こと高鐘守(在日)
・右翼団体「日本憲政党」(世田谷区) - 中野会弘田組
日本憲政党党首:呉良鎮(在日)
日本憲政党最高顧問:金敏昭(在日)
金俊昭の実兄:金銀植(在日)
・右翼団体「双愛会」(千葉)- 双愛会(構成員320人)
双愛会会長:高村明こと申明雨(在日)
・右翼団体「三愛同志会」(下関) - 六代目合田一家
五代目合田一家総長:山中大康こと李大康(在日)
・右翼団体「東洋青年同盟」(下関) - 四代目小桜組系
四代目小桜組組長:末広誠こと金教換(在日)
・右翼団体「日本人連盟」(会津若松)
四代目会津小鉄会長:高山登久太郎こと姜外秀(在日)
・右翼団体「アジア建国党」
アジア建国党最高顧問、金相洙(在日)
・右翼団体「亜細亜民族同盟」
三代目山口組柳川組、柳川次郎こと梁元錫(在日)
【興味がある方は、「右翼の正体」でググって下さい。さっきアドレスが打ち込めたんですが、
さっそく規制かけられた様でアドレス入力出来ません。】
425:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/14 10:12:45 etn52dId
転載
946 名前: ◆iCxYxhra9U 投稿日: 2008/08/14(木) 00:21:21 ID:qft6MqVU0
相変わらずアク禁なのでこちらで。
今日中には書き終わらない見込み。予約の延長をお願いします。
なんか、どんどん長くなってく……
426: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 16:13:17 NXBXpcLB
延長していた予約分ですが、推敲の上今夜投下するつもりです。
夜の8時頃を予定しています。お時間のある方、支援をお願いします。
427:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 16:54:28 E9cRwljC
今夜用事ある俺涙目。支援できないけどがんばれー
428: ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:00:19 NXBXpcLB
では、投下開始します
429:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:01:12 NXBXpcLB
満月が、街外れの平原に立てられた2つの墓を煌々と照らしていた。
片方は巨大な鉄の板。片方は墓標もない質素な盛り土。
2つの死を悼む2つの記念碑を前に、それぞれを作った少年たちの姿があった。
「俺は行くけど、お前は?」
「俺は―」
キルアの問い掛けに、明神弥彦は少しの間逡巡する。
ある意味、彼らしくもなく―思い悩む。
犯人を追う。
いましがた弥彦が墓を作った、名も知らない少年を殺した、その犯人。それを追う。キルアはそう言っていた。
その目標は明確で、とりあえず進む方向も分かっている。
対する弥彦は、懸念事項は多いものの、どこから手をつけていいのか分からない状態。
行方の分からない千秋も、本名も顔も分からぬ『バンコラン』も、生死さえも怪しいニアも、全て手掛かりなし。
だからキルアの「お前は?」という短い問いかけは、言外に「お前も一緒に来るか?」という意味だろう。
彼とはこの場で少し話しただけの関係でしかないが、それでもお互いの性格はかなり理解できた。
弥彦の見たところ、少し口は悪いが悪人ではない。
真っ当に知り合いの死を嘆くことが出来、真っ当に知り合いの死に怒ることのできる人物だ。
そしてまた、彼は頭がいい。カンがいい。
先程のシャナも交えての情報交換の場では、少ない説明でこちらの意を的確に汲み取ってくれた。
きっと弥彦の性格も、弥彦がキルアを理解している程度には、理解してくれている。
彼が真っ直ぐな性格であることも、一箇所にじっとしていられない性分であることも、分かってくれている。
分かっているからこそ、「一緒に来ないか」と、誘ってくれている。
そこまで分かっていて……理屈ではなく、直感的にそこまで解しておいて、しかし、弥彦は迷う。
いや、そこまで解しているからこそ。
簡単に同意を返すより先に、確認しておかねばならないことがあった。
「俺は―いや、俺がどうするかより先に、聞いておきたいことがある」
「ん?」
「キルア、お前……その『犯人』を見つけて追いついた後、どうすんだ?」
問い掛けた弥彦のその手の平に、思わず汗が滲む。
そうであって欲しくない。けれども、予想がついてしまう答え。弥彦の受け入れることの出来ぬ答え。
果たしてキルアは、弥彦の予想通り。
何の気負いも力みもなく、さらりとその答えを口にした。
「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」
430:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:02:54 W6GSfBKr
支援
431:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:03:05 NXBXpcLB
※ ※ ※
キルア=ゾルディックは、元・殺し屋である。
世界最高レベルの暗殺者一家に生まれ、一族内でも抜きん出た資質を認められ、闇のエリート教育を受け。
家業を嫌って家を飛び出し、紆余曲折の末にハンターとなった今も、それらの過去は彼の中に生きている。
念能力を身につけ、オーラを電気に換える技を習得した後も、彼の強みはその殺し屋の技。
だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
大した理由もないのに殺しを躊躇ってしまった、その部分。
今思い返せば、キルアが「のび太」を生かしておく必要などなかったのだ。
できればニアの話の裏を取りたい、と欲張ってしまったが、あの時の優先事項はあくまで首輪の確保。
だから……速攻で殺していれば良かったのだ。
最初から殺す気で挑んでいれば、下手なプライドを気にすることもなかった。隠蔽工作など考えなかった。
太一を長時間放置したりしなかった。太一を騙して殺そうとした奴を、きっと返り討ちにすることもできた。
実際「最初から殺す気」で対峙した銀髪の殺人狂少女は、あっさり心臓を抜き取れたのだ。
「どうするって……そりゃ、殺すに決まってるだろ」
自らの言葉で、キルアは自分のやるべきことを改めて認識する。
犯人を追う。そして、見つけたら殺す。物事はやっぱりシンプルがいい。
そりゃあ犯人かどうかを判断するためにも、多少は言葉を交わすことになるのだろうが……
そうと分かりさえすれば、即殺す。疑わしいくらいで殺してもいいかもしれない。間違いを怖れてはいられない。
とりあえずは、さっきトンネルの中で死んでいた少年を殺した奴。そいつを探して殺す。
そいつだけじゃない。
殺し合いに乗ってる者。殺し合いに乗ろうとしている者。出会って気付けば、全部殺す。
そうやって殺して殺して殺していけば、きっと太一とゴンの仇とも遭遇できる。2人の仇も討てる。
誰が仇だったかなんて、殺した後に確認すればいい―3人殺しの、ご褒美の権利で。
いや、太一の方は犯人が持ち去ったゴーグルで確認できたのだっけ。
ともかく……殺していけばいい。
2人の仇を取ったあとどうするかなんて、その時になってから考えればいい。
この島から、優勝なんて狙う馬鹿野郎が全部いなくなってから考えればいい。
キルアの口元が、楽しげに吊りあがる。酷薄さも孕んだ、危険な笑みを形作る。
どこか楽しげに、どこかからかうように言葉を紡ぐ。なぜなら。
「で、それをわざわざ聞いて、明神弥彦はどうすんだ?」
「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ」
なぜなら―
弥彦がキルアの返答を予測できたように、キルアも、なんとなく弥彦の答えが分かっていたのだから。
432:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:07 ADk0aTmm
支援
433:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:03:45 ADk0aTmm
434:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:04:04 NXBXpcLB
※ ※ ※
明神弥彦は、未熟な身ながら神谷活心流の剣士である。
神谷活心流が目指すのは、人を殺さずして人を活かす、活人剣。
そして背に負うた刀は、かつての人斬り抜刀斎が不殺(ころさず)の信念を誓った逆刃刀・真打。
明神弥彦は、その双方を自らの目標とし、生きる道としたのだ。
だから……彼が後悔するとしたら、ただ一点。
手の届かない者を助けようとして突っ走り、手の届く位置にいたはずの者を守れなかったこと。
目に映る者全てを守りたいと思っても、弥彦はまだまだ未熟な身だ。
けっきょく、カツオも、太一も、ニアも、守ることが出来なかった。
出会っていたのに……守れたかもしれないのに、届く距離にいたかもしれないのに、守れなかった。
もう、あんな思いは嫌だ。あんな思いを誰かにさせるのも嫌だ。
だからせめて、手の届くところにいる者だけでも。
手の届くところにいる者が、間違った道に進もうとしているのなら。
「なら……俺は、お前を止めなきゃならねぇ。
事情も聞かずに殺すつもりの奴を、そのまま行かせるわけにはいかない」
「おいおい。オレが殺すって言ってるのは、殺人犯だけだぜ?」
「それでもだ。もう、人が殺すのも殺されるのも、御免なんだ。
どんな奴だろうと俺は、この手が届く限り、誰1人たりとて死なせねぇ!」
気に入らない奴・悪い奴は見殺しにしていいのなら、ニアの破滅に心を痛めたりはしない。
きっと、ニアに反発しニアの下から離れ、ニアを破滅させることもなかっただろう。
敵や悪党であっても出来るだけ殺さずに済ませたいと願うのが、明神弥彦という少年なのだ。
弥彦は背に負うた刀をすらりと抜く。
あいにくと今の彼の体躯では、腰に常時差しておくには長すぎる。重すぎる。そ
大人が野太刀を背負うように、いつも竹刀を背負っていたように、肩口から突き出した逆刃刀の柄。
掴んで、抜いて、構える。
その切っ先は自らの正中線上、中段の高さ。教科書にそのまま載せられるような、綺麗な正眼の構え。
「あ? なんだその剣。峰と刃が逆じゃねーか。そんなモンでオレを止めるって?」
「逆刃刀・真打(さかばとう・しんうち)。不殺(ころさず)を誓った、最強のサムライの『魂』だ」
「へェ……。面白ェ。『不殺』と来たか」
キルアの顔が、歪に歪む。笑みと呼ぶにはあまりに攻撃的過ぎる表情。
互いの信念を論じ合っても、言葉だけでは誰も止まらない。
キルアは進もうとするだろう。弥彦は追いすがり立ち塞がろうとするだろう。
そして、いずれ衝突する。
殺し合いに乗っている「敵」と対峙した時か、その「敵」を倒した後かは分からぬが―いずれ、衝突する。
ならば、どちらにとっても、決着は早い方がいい。
弥彦は刀を両手で構え、キルアはだらりと両手を下げた自然体で。
町の外れ、満月の下、2つの墓の前。
じり、と2人は間合いを詰めた。
435:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:04:57 +Mv/7HTg
436:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:07 W6GSfBKr
支援
437:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:05:11 ADk0aTmm
シエーン
438:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:05:36 NXBXpcLB
※ ※ ※
(―力量は、そうだな。大雑把に言ってズシと同じくらい、ってとこか)
相手の構えからその力量を推し量ったキルアは、油断なく観察しつつも考える。
才能はある。鍛錬も積んでいる。経験も年齢の割には相当なもののようだし、普通に言って相当に強いはず。
ただしそれも、キルアほどではない。
キルアほどの天性の才はないし、キルアほどの訓練は受けていないし、キルアほどの場数は踏んでいない。
自惚れではなく冷静な判断として、そう見切る。
キルアはポケットに入れていた『コンチュー丹』の容器を一旦手に取り、しかし考え直してまた戻す。
こいつは、今は必要ない。
キルアの性格上出来るだけ慎重を期したいところだが、貴重な消耗品を使ってやる程の相手とも思えない。
素の実力でも、油断や事故が無ければ負ける気はしない―だがしかし、その上でキルアは少し迷う。
弥彦には恨みもない。弥彦は殺し合いにも乗っていない。
弥彦には、殺しておくほどの価値すら見出せないのだ。
ただ、大事な所で邪魔されたくないから早めに対処しておこう、という程度の相手だ。
適当に彼我の実力差を思い知らせてやれば諦めるかな、などと考えた所で、ふと思いつく。
(そうだな……いい機会だし、いろいろ試させてもらおうか)
※ ※ ※
(逆刃刀が、やけに重いぜ……。あんまり、時間かけるわけにはいかねェな)
明神弥彦は、手の内の得物の重さに、内心舌を打つ。
不殺の信念を背負わされているから―だけではない。それもあるが、もっと物理的な意味だ。
元々、それが普通の日本刀であっても、今の弥彦の身体には大きすぎ重過ぎる。
銀髪の大槍使いを前に、桜観剣そのものでなくその鞘を武器としたのも、1つにはそれが理由だ。
普段弥彦が振り回している得物は、木刀よりもさらに軽い竹刀でしかないのだ。
さらには、弥彦は今日一日で随分と走り回っている。
千秋と「バンコラン」を探し午後一杯走り回り、日没後にタワーまで駆け戻り、そのまま非常階段を登り切り。
さらには粗末なものとはいえ、人間1人が納まるほどの穴を掘り、墓を作って―
既に、相当に疲労しているのだ。
食事も休憩もロクに取っていない。年齢の割には体力がある方だが、それでも限界が近い。
刀の重さも考えに入れると、長期戦は自分に不利。弥彦はそう判断する。
『神谷活心流』はどちらかといえば守りに重点を置く流派だが、この際仕方ない。先手必勝で行くしかない。
(悪いけど早めに叩きのめして、そのやばい考えを捨ててもら―ッ!?)
439:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:06:31 ADk0aTmm
440:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:13 1gc7/tcB
441:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:07:22 W6GSfBKr
支援
442:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:07:53 NXBXpcLB
自然体のまま、しかし打ち込む隙の見えないキルア。
それでもこちらから攻め込み状況を崩そうと、弥彦は踵を浮かして―驚愕した。
弥彦の呼吸を読んでいたのか、まさにその瞬間に静かに歩き出したキルア。
その姿が、増えたのだ。
鏡写しのようにそっくりの無数の『キルア』が音も無く出現し、弥彦を取り囲む。彼の周囲を歩き出す。
「な―!?」
「―『肢曲(しきょく)』、って言うんだけどな。その様子だと、『コレ』はちゃんと効いてるか」
早いのか遅いのかさえもよく分からぬ速度で周囲を回りながら、無数のキルア「達」が一斉にニヤリと笑う。
弥彦は瞬時に理解する……これは、あくまで「錯覚」だ。
実際にキルアの数が増えているわけではない。緩急のついた独特の歩方で、残像が残って見えているだけ。
四乃森蒼紫の『流水の動き』と同系統の、『技術』であり『体術』なのだ。
ならば。
「なら……キルアは『1人』だっ!」
幻惑して隙を突こうとしているのを承知の上で、弥彦は雄叫びと共に『キルア』のうちの『1人』に斬りつける。
たまたま『本物』に当たればよし、外れても『本物』のキルアが襲ってくるはずだから、そこを返り討ちにする。
かなり不利で危険な賭けだが、しかし他に策が思いつかない。長々と悩んでいる時間さえ惜しいのだ。
果たして逆刃刀は予想通りに空を切り、同時に弥彦の背後で『誰か』が跳躍する気配がする。
(上から?! って高っ! 剣心並みの跳躍じゃねーか!)
咄嗟に振り返って、また驚愕。
キルアの身体は、ちょっとした家なら飛び越えられるくらいの高さにあったのだ。なんという脚力か。
だがそこは、飛天御剣流の戦いを間近で見続けた弥彦だ。瞬時に気を取り直す。
頭上を取られたのは確かに痛いが、こっちにだって迎撃用の技くらいある!
逆刃刀を構えなおした弥彦は、そして。
「撃ち落してやるっ。龍翔閃・抵(りょうしょうせんもど)―!?」
「ほとんど『練(れん)』はなし、だと、どうかな……『鳴神(ナルカミ)』」
空中のキルアの手元が小さく光ったかと思った次の瞬間。
小規模な落雷が、弥彦の身体を貫いた。
目も眩む閃光。過去に味わったことのない衝撃。形容の言葉も見つからない体の痺れ。
明治初頭の日本に生を送る弥彦には、「感電」という単語すらも咄嗟に思い浮かばない。
ただ、逆刃刀から伝わってきた正体不明の感覚に、ただ混乱する。
妖術か魔法としか思えぬその技に、とにかく混乱する。
膝を着きそうになるのを必死に堪え、ガクガクと震える脚で必死耐える弥彦。
その視界の片隅に、キルアがストンと着地する姿が映る。
(……やばっ! このままじゃ……やられるっ! 動け、俺の身体っ……!)
「ふ~ん、この程度のオーラ量で『発(はつ)』すると、こんなもん、っと……。
じゃあ今度は―『拳』に『60』、『身体』に『40』。これだと、どうなるかな」
443:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:12 ADk0aTmm
444:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:08:17 svSQgIlc
445:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:04 ADk0aTmm
446:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:09:23 q8pNJctX
447:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:09:50 NXBXpcLB
キルアが何やら意味不明なことを呟いているが、弥彦には詳しく考える余裕がない。
痺れの残る弥彦に無造作に近づいてきて、これまた無造作に殴る。避けようとするが、間に合わない。
まるで手甲でもしているかの如き硬い拳が、弥彦の鳩尾に突き刺さる。
(な、なんだこの硬さッ! 暗器を持ってる……ってわけでもねぇのか!?)
込み上げてきた酸っぱいものを吐きながら、それでも弥彦は「あえて殴り飛ばされる」。
瞬時の判断で、逆らわずに吹っ飛ぶことでその身に受ける衝撃を最小限に留める。
そういえば飯も喰ってない。胃液と唾液が混じっただけの苦い吐瀉物の味に、弥彦は顔を顰める。
それでも血の味が混じってないということは、内臓へのダメージは大したことではないということだ。
もっと酷い暴行を受けたことだってあるのだ。この程度なら、まだまだやれる!
むしろ間合いが開いた今が好機と、反撃に移ろうとして―
ぴたり。
いつの間にか爆発的に距離を詰めてきたキルアの手の平が、弥彦の胸に当てられていた。
ぞくり、と背筋が凍る。
そのあまりに素早い突進速度に、ではない。先ほどの情報交換の時に聞いた話が、ふと思い出されたのだ。
確かキルアは、銀髪の大槍使いの少女の、心臓を……!
「―なっ」
「『雷掌(イズツシ)』―」
心臓を抜かれる、と思った次の瞬間、しかし弥彦の身体を襲ったのは先ほどの落雷の時と同様の衝撃。
今度は放電ではなく通電―スタンガンの如きもう1つの電撃技、『雷掌(イズツシ)』だ。
やられた当人には理屈も原理も分からない。
ただ、弥彦にも分かったことが2つある。
キルアはその超人的な体捌きに加えて、『雷』を自在に操れる神秘の力を持っている。
そして、それらの力を持っていながら。
「っと、なるほどね。この程度の力なら、このくらい、と。
じゃあ次は―『拳』に『70』。続いて、『足』に『65』、だとどうかな」
電撃に痺れた身体に、さらに鉄塊を叩き付けるかのような拳撃と蹴撃を浴びながら、弥彦は確信する。
キルアは……こいつは、「実験」している!
弥彦と戦いながら、手加減しながら、自分の能力を、その威力を、ひとつひとつ確かめている!
弥彦を相手にしながら……全力を、出していない! 全力を出す価値すら、認めていない!
(ちく、しょうっ……!
何が10歳としては「日本で」一番強いかもしれない、だ。やっぱりそんなの大した意味ねぇじゃねぇか!)
キルアとは何歳も離れていないようにしか見えないのに、この有様だ。
どう見ても日本人には見えぬキルアを前に、弥彦は己の無力さを呪う。
殴られ、蹴られ、反撃は悉く宙を切り、合間合間に電撃を受け、痺れて焼かれ。
手も足も出ない一方的な状況の中、弥彦は怒りと悔しさに涙を滲ませた。
448:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:01 nq6/8vp5
449:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/15 20:10:37 ADk0aTmm
450:殺意×不殺×轟く雷光 ◆sUD0pkyYlo
08/08/15 20:11:08 NXBXpcLB
※ ※ ※
(うん、大体分かってきたな……)
弥彦を一方的になぶるように痛めつけながら、キルアは1人自信を深める。
そう……弥彦の読みは、正しい。
キルアがやっていたのは、「実験」であり「テスト」である。
自らに課せられた「念能力」への「制限」。その程度を測るための「実験」だ。
電撃を放つ前に溜めるオーラの量。それによる稲光の強さに、実際に人に当てた時の反応。
念の基本技術である「流(りゅう)」による、拳や足の強化……それも、様々に度合いを変えて。
念ではないが、「肢曲」のような暗殺者の体術も。
実力差があるとはいえ、実戦の中で試し、用い、具合を確認したのだ。
元々キルアは、精密なオーラの操作を得意としている。
1%の狂いもなくオーラを身体の各所に振り分ける「流」の正確さは、師の1人であるビスケも認めるところだ。
自らの能力を正確に把握し、理解し、使いきる。それがキルアの真骨頂。
だがしかし、だからこそ、だったのかもしれない。
彼は、このジェダによる殺し合いの場で……致命的なミスを犯した。
手加減の度合いを、間違えた。殺す気のない相手を、殺してしまった。
理由は、「制限」。
それは、この島に来て始めて本格的に使った念能力。実験も試し撃ちもない、ぶつけ本番の一撃。
そのせいか、自らの身に課せられた枷の重さを多めに見積もってしまい、強すぎる雷を撃ってしまったのだ。
己のプライドに賭けて、二度とあんなミスは犯さない。
そのために必要なのは、正確で精密な自らの能力の再認識。
「制限」でどの程度能力が落ちることになるのかを、自らの身で把握しなおすのだ。
どうせ弥彦を叩きのめさねばならぬのなら、これは一石二鳥。実戦の中でしか掴めないことも多いのだ。
そんなわけで、手加減しながらも正確さを志し、戦いを続けてきたキルアだったが。
色々と試したお陰で、ほぼそちらの目的は達したと言っていい。
「制限」によってどの程度の目減りが見込まれ、どの程度の威力低下があるのか、ほぼ完璧に把握した。
もうこれで「のび太」の時のようなミスはしないだろう―だが、計算違いは、別の部分にあったわけで。
「それにしても……タフな奴だな。おい、いい加減辛いだろ?
そのまま寝とけよ。邪魔さえされなきゃ、オレはそれでいいんだからさ」
「まだ……まだぁっ……!」
キルアの計算違い―それは、殴れど蹴れど倒れない弥彦の存在だった。
確かに急所は打っていない。内臓も潰していないし骨も砕いていない。顎や頭も打っていない。
体中に青痣と、掠り傷と、電撃による火傷が刻まれていたが、いずれも致命傷には程遠い。
どれもただ、「痛い」だけだ。
出来ればサンドバック役として長く立っていて欲しかったから、あえて決着を引き伸ばしていたのだが―
いい加減、うんざりしてきていた。
この辺で気絶でもしてくれれば、ちょうど都合がいいのだが。
「だってお前、勝ち目ねーじゃん。
そっちの刀、全然オレの身体に当たってねーし。何回か惜しい時もあったけどさ。
どうせ無理だから、さっさと諦めなって」
「神谷活心流は、活人剣……。活人剣を振るう奴には、どんな負けも許されねぇんだよっ……!」
いい加減苛立ちすら感じ始めたキルアの前で、そして弥彦は、言葉とは裏腹に、おもむろに刀を納めてみせた。