05/11/09 01:06:28 c/5QTKx2
やっぱ晒す
『彼女はなぜ飛んだのか』
夕日に染まる、薄暗い高層ビルの、廃墟。
打ちっぱなしで放置された、そのコンクリートの部屋に、埃が舞う。
灰色の中に灰色が舞い、窓から見える夕日のオレンジだけが、奇麗だった。
その中で、オレンジだけを背にし…彼女は立っている。
「あ~あ、見つかっちゃった」
子供の遊び。隠れたが、鬼に見つかってしまった。そんな『遊び』の気軽さで、彼女はいう。
洋服は汚れ、髪には埃がついていたが、彼女はとても楽しそうだった。
「君には、見つかりたくなかったんだけど―」
そう言って誤魔化し笑いを浮かべ、頭をかく。
そんなところがいかにも彼女らしくて、俺は胸が痛くなった。
彼女に向かって、俺は踏み出す。自然につめたつもりだったが―彼女は大きく後ずさってしまった。
理由は、簡単に想像がついた。
「私には近づかないで。ほら、私ってデリケートだからさ。……抱きしめられたりしたら、気が変わっちゃうかもしれないもの」
口の端を吊り上げ、自嘲的に笑う。俺を見つめるその瞳は、とても穏やかだ。だから、どうしてなんて言葉は出ない。
暫くの無言。―彼女の髪と、俺の服だけが、風にざわめく。