09/07/15 13:37:41
某弁護士が「プレジデント」2009年8月3日号30頁において,以下のような記述をしている。
「司法修習の教官の間で話題となっている〔司法修習生の〕「質の低下」にまつわるエピソードがある。」
「自動車の借り主を持ち主と信じてその自動車を買い受けても,自動車の所有権は買い手に移る。これを動産の「即時取得」という。」
「一方,不動産である土地に関しては,買い受けただけでは不十分。先に別の者に登記をされてしまえば原則として所有権を主張できない。これは法学部の学生なら誰でも知っているイロハのイ。」
「それなのにロースクール組の修習生に「不動産も即時取得できる」と堂々と主張する者がいて,開いた口が塞がらなかったそうだ。」
ちょっと待て!!
内田貴「民法Ⅰ[第4版]総則・物権総論」470頁には「登録された…自動車については〔即時取得の〕適用がない。したがって,未登録ないし登録抹消後の自動車には即時取得が成立する(最判昭和45年12月4日民集24-13-1987)。」との記述がある。
某弁護士は未登録ないし登録抹消後の自動車を前提とした記述をしたのか。
いや違うだろう。そのようなことが前提になっているとは文面からは読み取れない。
文面上は,通常の登録自動車を前提に話を進めているように読むのが素直だ。
また「一方」以下の不動産の話だが,これは二重譲渡の話をしているのか。なぜ突然不動産の二重譲渡の話が出てくるのだろうか。
仮に前文の動産の即時取得とパラレルに話を進めるならば「持ち主と信じて不動産を買い受けても,不動産の所有権は移らない。」と書くべきだろう。
さらに,司法研修所における起案において「不動産の即時取得」を書いたのは,ロースクール出身,新司法試験合格の修習生ではなく,旧司法試験合格者である。58期あたりだったはず。これは間違いない。
結局,某弁護士は,プレジデントおいて,自分の民法の知識不足と,調査能力不足を,露呈させている。
実務にどっぷり浸かり六法の基礎知識が抜け落ち,また十分な調査をせず新司法試験合格者=無能という偏見を持った,
驕りある現役弁護士の「質の低下」を嘆いてしまう。