シンジとアスカの同棲生活at EVA
シンジとアスカの同棲生活 - 暇つぶし2ch300:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/14 19:16:05
300ならシンジがアスカを突き放す

301: ◆8CG3/fgH3E
08/01/15 00:46:58

     4


僕の家から上りでふたつ目の駅から降り、暫く歩くと中ぐらいの公園がある。市営の児童公園だ。
園内には十人以上の子供達と各々の母親がいて、子供達は各々に砂遊びをしたり遊具で遊んだりしていた。
チラリと腕時計を見る。僕の腕に填っているのは安っぽいプラスチック製の時計だ。買い換えようとは思っているが、機会が中々無く、買うことが出来ないでいる。時計は二時を示していた。
周りを見回すが、目的の人物は見えない。まだ来てはいないようだった。
僕はいくつか置かれたベンチに座ってその人物を待つことにした。僕は待つのが得意なのだ。

三時頃になって、ようやく待ち人が姿を現した。公園の、僕が入ってきた方とは反対の出入口から、綾波レイは手を振りながら駆けてきた。彼女は青いスカートに白いブラウスを着ていた。そして薄く化粧までしていた。
「待った?」と息も切らせずに綾波が言った。僕は軽く首を振る。
「待ってないよ。今来たところ。」
あっそう、と綾波は素っ気無く言い、公園を出た。僕もそれに従う。
綾波と僕は暫く無言で歩いたが、綾波は世話しなく町中にある店のウィンドウを覗きながら歩いていた。



302: ◆8CG3/fgH3E
08/01/15 00:52:14

「アスカの調子はどうなの?」
自販機で飲み物を買うとようやく綾波が口を開いた。
僕が珈琲を買い、綾波がコーラを買っていた。
「……まぁまぁかな?」と僕は少し考えてから言った。
缶のプルトップを上げて、もう一度良く考える。
「いや、よく解んないな……。」
言い直して珈琲を口に含む。
「よく解んないってどう言う事よ。」
綾波が怪訝そうにした。
「うん、お医者様は『問題ない』って言ったけど、どうなんだろう……。」
安心するようにとも言われたが、頭の中は不安で一杯だった。
「敏感なんだ、とにかく。」と僕は言葉を探しながら言った。
「怯えるって事?」と綾波が僕の探していた言葉を的確に言ってくれる。
「うん……そうだね、そういう事、かな……?」
「そして、貴方には心を許している……?」と訊くように綾波が言った。
頬が熱くなり、頭に血が上る。恥ずかしかった。




303: ◆8CG3/fgH3E
08/01/15 01:00:21

「で、一人にして大丈夫なの?」
「うん、今は症状も安定してきてるし、朝昼晩と薬を飲めば他人だって平気なんだ。それにネルフの人にも見てもらってるから一日くらい家を空けても大丈夫なんだ。」
アスカを診てくれているのは医療部の人と知り合いのマヤさんだ。
「そう、良かったわね。」と言いながら綾波は微笑んだ。
「あ、良いものがあるんだ。」
綾波がセカンドバッグから財布を取り出し、中から切符のような紙切れを二枚出した。各々はカラフルな紙面に大きな数字が印刷されて、裏には説明書きがあった。
「居酒屋のクーポン権なの、もし良ければちょっと飲まない?」
僕はその提案について少し考えた。アスカの事を考えて、僕を決心させてくれた綾波の恩を考えた。
「悪いけど、アスカの所に帰らないと……。」
一刻も早くアスカの顔を見たかったのだ。
残念そうに綾波は溜め息を吐いた。
「せっかく勝負下着着けてきたのに……。」



304: ◆8CG3/fgH3E
08/01/15 01:10:44
これにて終わりですが、この最終章は蛇足的なものなんで……。
まあ俺は、途中までどんなにイタモノでも最後にLASになればなんでもおk! という輩なんでエンドは突き放しナシにしました。
それにココに投下するようなモンではなかったですね。次回はきっと甘いのを……。
以後、イタモノには気を付けます。


305:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:13:42
いや、イタモノだからダメってレベルに達してなかったんだけど
レス見てそれも理解できないとかw

306:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:14:00
乙でした

307:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:15:43
>>256でした

308:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:29:28
書かなくて良いよ

309:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:44:13
君が書くと活性化より荒れるだけだから、来なくて良い

310:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:44:38
過疎スレによくもまあ集まったもんだ

311:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 01:45:21
他スレでも紹介されてたしな

スイーツ(笑)

312:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:19:50
私はそんなに嫌いではなかったし、そこそこ面白く読めたよ。
なにはともあれ、お疲れ様でした。m(_ _)m


313:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:20:11
良かったと思う俺は少数派か?

314:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:21:42
女は喜ぶかもね、こーいうの

315:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:22:57 /CI86R29
テラスイーツ(笑)

316:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:26:00
>>314
不満があれば何も言わずにガンガン他の男とヤりまくって遊んでも、
君を理解しない僕が悪かったんだ~とかいって反省して何でも許してくれる(むしろ謝罪してくる)男の話だからなw
女視点では楽で都合いいなんてもんじゃない

317:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:29:12
でもまあこのアスカには天罰下ってるからな

318:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:31:16
下ってんの?

319:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:34:43
>>318
暴力受けた…みたいな描写あったし、精神的にヤられてたみたいだし

320:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:35:34
こういう場合の天罰ってのは、普通にシンジに見捨てられる事だろうな

321:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 02:45:26
まぁ、LASスレで見捨てるENDは書けんだろw
そんなことしたら甘LAS厨にフルボッコされる

しかし最近LASスレの風当たりが強いな
なんかアンチが増量するような出来事でもあったんだろうか

一応いっておくが>>301は1レススレの荒らしじゃないからな

322:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 05:03:12
新劇のせいか変な人がきてる

323:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 05:15:05
どれを言ってるのか分からん

324:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 06:03:54
ここはLASじゃないだろ
同棲してるASの話し

325:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 07:18:45
>>324
LASやん

326:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 10:53:11
よくここまで人が増えた物だ
よくやった作者

327:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 14:02:45
>326
てことは1レススレのあれとかも、人を増やしたからお前さん的には「よくやった」なのか

328:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 16:18:54
>>327
今は荒れてないぞ1レススレ。

329:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 16:43:57
>>304
死ねよ。

330:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 16:51:25
>>328
だからなんだよw

331:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:07:17
>>330
は?

332:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:26:07
作者頑張れよ。めげずにな

333:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:26:43
頑張らなくていいよ。もう死ね

334:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:32:33
死ね

335:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:49:02
フォローしてるヤツもよく分からんこと言っとるな

336:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 17:52:12
スイーツ(笑)

337:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 18:00:12
スイーツすぎワロタ。
突き飛ばせカス

338:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 18:15:59
このアスカは生まれた子供に「りあむ」とか名付けそうだ

339:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 18:20:25
こんな糞ムカつくLASFFを読んだのは久しぶり

340:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 18:23:32
このアスカは死ね。今すぐ死ね。

341:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 19:15:32
>>338
押尾wwww

342:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 19:57:25
自演くさい

343:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 20:27:52
いいから死ね

344:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 22:22:16
>>304
>>321
イタモノであり、最終的にLASだとしても、過程や心情がこうも馬鹿げた内容である必然性は無いな

345:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 22:36:30
>>328
だからなんだよw

346:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/15 23:15:14
>>304
なにはともあれ乙かれ

今回はスレに合わなかったり色々と問題があったようなので、
次回作が出来上がったら、是非↓のスレで投下してください

スレリンク(eva板)l50

347:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 01:47:11
今だけ盛り上がってもどうせこのスレはまた過疎る。

批評はもういいからLASを頼む

348:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 01:50:13
まだ誰もまともに批評はしてないけどなw

349:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 17:10:14
上のSS自体まともじゃないんだからまともな批判なんてできないよ

350:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 21:31:20
>>349ジャンルが違うだけだろう。
お前感想言ってみ。

351:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 21:32:30
スイーツ(笑)

352:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 21:44:14
ジャンルのせいにしだしたw

353:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 22:13:36
おいおい。情けねー荒らしだな。荒野に変えんじゃなかったのか?w

354:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/16 23:19:12
すごい良かったと思うからこのエディタをおぬぬめしておく

URLリンク(yuukiremix.s33.xrea.com)

355:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/17 06:17:30
感想つか、最低系FFを皮肉った遊びを思い出した
最低系スパシンのお約束を箇条書きにしてまとめたものを、
次々とぶち込んでFFを作るっていう遊び
どこで見たんだっけな?

これまで各スレで語られてきた、いわゆる理不尽LASとか残念なイタモノLASのお約束を箇条書きにして、
その要素を詰め込んだだけのFFを作ったら、ちょうどこのFFが出来上がる

そんな感じ

356:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/17 08:12:21
スパシンvsU-1

357:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/17 16:30:00
ジョークかってくらいにテンプレ通りだったなw
>>256そのまんまで、それ以外の要素が一切無いってどんだけー

358:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/17 18:49:48
え?上のSSはジョークだろ?

359:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/23 18:46:59
死ぬのは嫌…捨てられるのも嫌…でもアンタが他人のモンになるのが一番嫌っ!

僕の心も身体も他の人に反応しないんだ。だから僕を見てよ。僕の全てをあげるから君の全てを頂戴?

わかったわ
ありがとう

「じゃあこの最後の唐揚げいただきます」
「マテ」

保守

360:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/23 19:40:40
キモイ

361:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/23 20:34:08
アンチがゆったり楽しく住み着くスレになりました

362:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/01/25 04:57:50
>>361
◆8CG3/fgH3Eがいなけりゃ、全て丸く収まる

363:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/05 11:20:34
>>359
バロス

364:Mischievous Valentine ◆Yqu9Ucevto
08/02/14 03:07:33
規則正しい音。
時計。
鼓動。
まどろむ意識の中で子守唄の様に。
甘く、深く、アタシのナカに染み込んで。
けれど、そんな時間はけして長くはなくて。
必ず終わりは来る。

目覚ましのアラーム音。
窓のカーテンの隙間からは光が差し込んで、一日の始まりを告げる。
もう少し、もう少し。
起きなければいけないけれど、このままで居たい。
布団の中から手を伸ばし、アラームを止めて時間を確認する。
午前6時、いつもの時間。
普段ならそろそろ起きなければ、学校に遅刻してしまう。
シャワーを浴びなければもう少し寝ていても間に合うのだけれど。

「……このまま登校するのは、やっぱ拙いわよね」

昨夜の情事の名残を纏わせたままでいるのは、教育上的には非常に宜しくない。
ある程度は拭っていても、勘の良い人間なら直ぐに気付く筈だから。
でも今日は、今日だけは、気付かれてもいいと思える。

「決めた、今日はシャワー抜き」

365:Mischievous Valentine ◆Yqu9Ucevto
08/02/14 03:08:16
幸い、シンジはまだアラームに気付いていない。
朝日が昇るにつれて、ベッドの上を柔らかい光が包む。

「ふふっ……何時の間にこんなになっちゃったのかしら?」

光に透ける産毛の中に、薄らと疎らに髭が生えているのが見える。
地道な訓練の成果で、少しは筋肉も付いてきたのが見ているだけで解る。
着痩せしている所為で女みたいに細いから、見た目からではそうは見えないけれど。
服を着たままでは解らない部分にも、しっかりとした筋肉が付いてきた事を知っているのはアタシだけ。
尤も、過去の戦闘で付いた傷痕を知る事が出来るのも、アタシだけの特権ね。

初めて会った時はアタシの方が高かった身長。
サードインパクトを経て二人だけで過ごした頃は、同じ位か微妙にアタシが低い位。
それが今では完全にアタシより高くなってしまっている。

「アンタもどんどん男っぽくなっているのよね……ま、その分アタシも女っぽくなってはいるけどさ」

アタシの身長は結局、あの後からは余り伸びなかったけれど、その分胸や腰周りのボリュームは増したと自負出来る。
肥り過ぎではない程度の凹凸があるのは確か。
その証拠に下着のサイズも服のサイズも変わったもの。
成長し、男女の差がはっきりとしていく。
それは多分喜ばしい事なのだけれど、でもその分、煩わしい事も増えるという事。
今日という日に関してはアタシにとっては特に、だ。
だって、今日は―――。
2月14日、Valentine Dayだもの。

366:Mischievous Valentine ◆Yqu9Ucevto
08/02/14 03:08:54
「さぁてと、目覚まし止めたし二度寝二度寝……」

土足のままで靴の履き替えが要らない高校なのは助かるわ。
靴箱があったら、その中に入っているのは確実だもの。
お陰でアタシ宛のラブレターの数も、中学の頃と比べれば段違いに減った。
基本教科以外は単位選択制の授業なのもアタシには有利。
毎日教室移動ばかりで、自分の席に座るのはHRの時だけ。
そして、アタシもシンジも同じ教科を選択している。
運の良い事に今日の午前は選択授業ばかり。
だから授業が始まっている間に教室に入れば、渡そうにも渡せない。
授業が終わった所で、職員室に呼び出されるのは確実だろうし。
今日に狙いを付けて早めに登校している人には悪いけれど、たとえ義理でも嫌なのよ。
後は休み時間もずっとくっ付いていれば完璧よね?
本命の人だって、アタシが一緒に居ればそうそう簡単には渡せない筈だもの。
シンジが断る手間だって省けるわ。

「ぁ……これを忘れちゃダメだったわね………ん、OK♪」

首筋の目立つ部分にはっきりとしたキスマークを付ける。
一緒に遅刻しただけでなく、キスマークを付けたままなら、どれだけ鈍感な人でもアタシ達の関係がどういう物か解る筈。
これ以上確実な物は無いという保険を掛け、アタシは両手足をシンジという抱き枕に絡ませて、再び眠りに付いた。

もしシンジが寝坊に気付いた時、急いで支度すれば遅刻ギリギリの時間だったらどうするかって?
アタシ達は昨夜ベッドに入った時のままの姿……なら、話は簡単じゃないの。
方法は一つだけだと思うけれど?

―――『確実に遅刻する事』をすれば良いだけの事よ。

367: ◆Yqu9Ucevto
08/02/14 03:13:06
即席バレンタインネタで保守。
「ビニール傘」は暫しお待ちを。

368:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/14 08:56:43
GJおつ

369:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/14 09:05:08
迎え火来てたよ迎え火

370:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/19 11:23:25
迎え火オッテュ

371:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/02/25 22:42:14
toukamathi

372:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/04 08:43:39
マッチ

373:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/03/17 02:43:53
ほす

374:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/02 14:50:57
保守

375:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/12 00:29:39
神田川的なLASが読みたい


376:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/12 06:40:14
アスカ「ド イ ツ の 塩!」


377:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/14 03:29:46
>>376
ちょっと笑ってしまったw

378:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/15 23:56:25
『最後に会ってから大して経っていないのに、こんなにも会いたいと思うのはホームシックなのかな?
既に頭の中は夏季休暇の事で一杯になってるし。
折角二人で決めた事なのに、心の何処かではもう帰りたいと思ってるんだ』



アタシの手元に届いたそんな一文で始まる手紙の消印は、エイプリルフールだった。



高校を卒業してアタシは第二東大の大学院に進学。
それと同時にネルフ松代支部の配属となった。
シンジは留学。
留学と言っても大学はついでに近くて、本命は職人修行みたいな物。
そして幸か不幸か、アタシ達が目指す未来はそれ程離れてはいない。

379:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/15 23:58:39
第三の再開発が進みサードインパクトの爪痕が薄れるに連れ、アタシ達の心に残っていた傷も癒される筈だった。
けれども物事は簡単には行かなくて。

表向きは平穏な高校生活。
それなりに楽しめたのは確か。
中学からの付き合いになるヒカリ、鈴原、相田以外にも友人と呼べる人が出来た。

アタシの外見から来るトラブルも多少はあったけれど、それはそれで何時かは良い思い出になると思う。
ホームステイではなく実質的な同棲という事がバレた時は大変だったけど、別にアタシ達が隠していた訳じゃない。
一応保護者は隣に住んでいたし、学校にも許可は貰っていたし、親しい人には周知の事。
結論として、やっかむ人は何処にでも居るという事だ。

多少のごたつきはともかく、傷が癒える速さに比例してお互いへの気持ちを育めた時間なのは確か。
本来なら使徒との戦いが終わった時点で、帰還命令により治療はドイツで行われていたとしてもおかしくない。
当時、朧気に心が通い始めたシンジと離れたくないと日本に残った、アタシの我侭を許してくれた両親には感謝している。

380:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/15 23:59:17
しかし、だ。
互いの気持ちが通じ合うに連れて、戦いが遺した爪痕の大きさが改めてアタシ達の上に圧し掛かった。
時計の針は戻せない。
どう引っ繰り返しても、アタシ達二人の出発点は普通ではないと思う。
勿論その事に関しては、後悔はしていないし、この先どんな事があってもする事は無いだろう。
それでもやはり、当時の環境が赦さなかった事とは言え、普通の恋に憬れる部分がアタシの中にあるのは否めない。

年相応の恋愛模様を目にする度に、年齢とは釣り合わない歪みから抜け出せない事に、アタシは次第に苛立ちを覚えた。
それはアタシだけでなく、シンジにしても同じ事で。
そう、単純に羨ましかった。
アタシ達二人には何もかもが眩し過ぎたから。

一つ間違えれば戦いの終盤の時の様に、再び精神が砕けてしまっていてもおかしくなかったと思う。
そうならなかったのは恐らく、医療部を中心とした長期的な治療と、当時を知る周囲の人の理解があったからだろう。
だからこそ、今のアタシ達がある。
それを忘れてはいけない。
その為に、アタシ達は自分自身とお互いへの想いを見つめ直す事にしたのだから。

381:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/15 23:59:48
「……わざわざマメな奴ね」

幾つになっても不器用な男。
会えなくても連絡を取る手段は幾らでもあるのに。
メールでも、電話でも良い。
消印の日付など気にもしていなかったんだろう。

「うーん……考えていてもキリが無いか」

暦一つに何かしらと極端に一喜一憂し続け、結果的には綱渡りの様な脆さを抱えてしまったアタシ。
多分それは、幼少の頃からひたすら訓練に明け暮れていた為の弊害。
欧米のそれと日本では慣習が全く違うという事もあったけれど、それだけでは片付けられない事。
来日する迄は誕生日一つにしても祝い事としてではなく、単に年齢を確認するだけの日という認識しかなかった。

アタシとは逆に、シンジは暦に左右される事は殆ど無く。
孤独だった思われる幼少時代が影響していたのは間違いない筈だ。
単純に鈍い訳ではなく、無意識に無関心を装う事で他人の輪の中に入らない様にしていた風に見えた。

その反動は大きかった。
TVや新聞、雑誌に左右される周囲の様子についていけない事も幾度かあった。
勿論、その中には恋人達恒例のイベントに纏わる事も。
アタシはしなくていい心配をする事で、必要以上に気疲れする羽目に。
シンジはシンジで自らの意図と外れた所で他人の輪の中に入っていた事で、混乱したり戸惑う事も。
良くも悪くもアタシ達の精神は、自分達が思っている以上に実年齢よりも幼かった。

そしてそれはアタシ達にとって、少々荒療治なれども良い方向に向かう転機となった。
けれども周囲から見れば、何の楽しみがあるんだろうと言わしめる結果となったのも事実。
喧嘩した訳ではない。
ただ何故かと問われれば、周囲の雰囲気に呑み込まれそうになる事に疲れた、としか言い様が無い。

アタシ達は、季節毎の催事という催事を日常から、意識的に切り捨てた。

382:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/16 00:01:18
高校の卒業式ですら、卒業証書を貰ってしまえば学校に用は無いとばかりに、クラスメートや担任と歓談する事も無く帰宅。
尤も、その経緯を知る一部の人からは、後日集まって食事でもしないかとメールがあった。
それに対してはアタシ達を気遣っての事だと解ったので、とても有難かった。
けれど、クラスで行われた打ち上げと称された卒業式後の謝恩会には出席しなかった。
幹事への連絡は、体調不良で欠席する事をシンジから伝えて貰った。

付き合いが悪いと言われようが、そんな表面上の部分だけの付き合いを、長々と続ける気にはなれなかったからだ。
取り繕わないまま自分以外の他人と向き合える迄は、余裕も時間もまだ足りない。
今のままの自分では身近な友人相手ですら無理かも知れないという意識は、アタシ達の間では暗黙の了解と化していた。

その日からは、ただぼんやりとした時間を過ごした気がする。
お互いの進路は早くから既に決まっていた為、年明けから準備していた所為もあってか急ぐ準備も無い。
漠然と、この部屋で一緒に過ごす時間は残り少ないという事が頭の中にあった。
大学を卒業して、再びアタシ達の進む道が重なった時。
その時ならきっと、また一緒に同じ部屋で時を過ごす事が出来るだろうとも思っていた。

383:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/16 00:02:12
このまま一緒に居るだけでは、アタシ達はヒトとして、何処かしら異質な物を抱えてしまう。
お互いに固執するだけに終わってしまい、どちらかが精神のバランスを僅かに崩しただけで何もかも壊れる。
それも、あっけなく。
5年前の二の舞になるだけだ。
そんな事が常に頭の中の片隅にある事を意識せざるを得なかったからか、部屋を出る日が近づくに連れて口数も減った。

アタシ達の様子は周囲から見れば、余りにもあっさりし過ぎていたのだろう。
ヒカリ達やリツコはともかくとして、司令まで激務の合間を縫って様子を伺いに来たのには正直驚いた。
シンジの事を親として気にかけているという事は、それだけでも充分過ぎる程感じられた。
目には見えないけれど、周囲の人達との確かな絆がアタシ達には存在している。
その事に改めて気付かされた。
けれど前に進む為には、それを振り切るかの様にしてでも、総ての出発点であるこの場所から一度離れなければ。

二人分の荷物の梱包と引越し先への配送手配も終わり、いよいよシンジが日本を発つという前日。
その日は一日中部屋に閉じこもったまま、アタシが来日してからの5年間の出来事を飽きる事無く話し続けていた。
そして、僅かな手荷物程度しか残っていない伽藍とした部屋を前に、明日からは一人だという事を嫌な程確認する。
二人で泣いた。

その為なのかは判らないけれど、第3を離れる時のアタシ達は、何処か他人事の様に淡々としていた。

384:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/16 00:03:54
『そういえば僕が日本を離れた時ってホワイトデーよりも前だったんだね。
カレンダーで日付を確認したら、まだこっちに来て3週間も経ってないのに気付いたよ。
そしたら高校の間は、誕生日以外は結局何もした事なかったのを思い出したんだ。だからこれはそのお詫び。
アスカの好みに合うかどうか判らないけど、気に入って貰えると嬉しいかな。
一通りの手続き済ませて落ち着いたら、また連絡するよ』



「だからって、普通こんな物送ってくるかしら?」

手続きが面倒なのは解る。
ネルフの特権を使えば大丈夫だとは思うけれど、ただのラブレターもどきの郵便物を届ける為に使う訳にもいかない。

「突拍子も無い物を送ってくるっていうのは、らしいと言えばらしいけどさ」

一緒に同封されていたカードの内容を確かめる。
確かに、何かとトラブルが起きそうなモノだ。

「これはもしかして……そういう事? だとしたら、シンジの癖にいい根性してるわね」

ちょっと待て、そういう事だとすると―消印も計算してた訳?!
瞬間、ニヤニヤしながら封筒をポストに投函しているシンジの姿が思い浮かぶ。
うん、これは不器用を通り越してムカついてくる。
得意とは言えないけど、それなりにアタシだって出来るのよ?!
一緒に住んでたんだから、一応一通りはこなせる事は知ってる癖にッ!

385:Little Sweet Lie ◆Yqu9Ucevto
08/04/16 00:04:42
「えっと用意する物は……これ、日本で手に入るの? 面倒なモノ送ってくるんじゃないわよ、全くもうっ!」

急いで端末を立ち上げ、カードの内容を一つ一つ検索してみる。
…………あった。
専門店にいけば取り扱いはしてるっぽい。
問題は、個人で買える店かどうかって事だ。

「明日店に電話してみて、大丈夫そうなら買いに行くか。 …………シンジ、次に会った時には覚悟する事ねッ!」



カードに書かれていた物は多少の代用品が必要だったとは言え、一通り揃える事は出来た。
そして時間が空けばひたすらその内容を作る練習をし続けた結果、誰に出しても好評と言える腕前になった。
――が、アタシの体重が2kg増えてしまい、増加分を元に戻すのに苦労する日々が続いたのは全くの余談である。

386:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/16 00:11:35
リアルタイムGJ
続くのかな?

387: ◆Yqu9Ucevto
08/04/16 00:18:49
激しく亀の如く遅れていますがホワイトデー&エイプリルフールネタで保守。

シンジ、底意地悪し(・∀・)ニヤニヤ

シンジ、アスカにホワイトデーのプレゼントとして留学先からレシピを送る

アスカ、これが食べたいから作って欲しいと勘違い

シンジの意図、作れると前提した手紙自体が嘘(=アスカは作れないが真実)なので消印は4/1

アスカ、それに気付き意地になって作れる様になるが、結果は体重が増えて('A`)

というオチですた

388:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/16 00:24:25
なるほどw
乙ですた

389:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/16 10:25:10
お待ちしていた甲斐がありましたわ!
GJ!

390:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/16 18:03:29
◆Yqu9Ucevto氏乙!

迎え火の方もマターリ待ってるよ(・∀・)ノシ


391:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/21 02:32:21
待ち

392:ビニールのない傘 ◆Yqu9Ucevto
08/04/27 06:34:20
今にして思えば迂闊だった。
一言で言ってしまえば、それに尽きる。
「……赤木博士? 大丈夫ですか?」
「………大丈夫です、そのまま続けて下さい」
「主治医としての立場から敢えて申し上げただけ、と御理解下さい」
「アレが起きてしまったから終わり、として進める訳にいかないという事ですか」
「私も一応計画に携わっていましたから、お二人の立場も解らない訳ではありません。だけど、子供達には関係ないでしょう?
 アレの以前と今では確かに状況も病状も変わっています。寧ろ、計画が病状の悪化を推し進めたといっていい筈です。
 本来ならば個々に対応すべきですし、この環境が悪化させると断言出来ます」
「それでも尚、この状況を維持すべきという事ですか?」
「ええ、その通りです。少なくとも、私とカウンセリング担当者の意見は一致しています。内科的にも神経科的にも、ね。
 脳神経外科はともかく、セカンドの以前の主治医の意見迄は判りませんが。ま、堅苦しい話はここ迄。この先は立場抜きね」
そう言って、私を指名し診察室へと呼び出した女医はカルテから目を外す。
彼女が口にした事は、私を責めている物ではない。
けれど、私達大人が行なった事を今一度見詰め直せ、とでも言いたいのだと思う。
確かにその通りだとは思うが、またそれだけでは片付けられないのも事実だ。
「わざわざ病状の説明だけで呼び出すと思う? 何年同じ計画に参加してると思ってるのさ。 もう7年だよ、7年!
 嫌味言いたくて呼ぶ程こっちも暇じゃないんだからね。一般外来の繁盛振り、見たと思うけど?」
「そうね。なら、単刀直入でお願いするわ」
「決着は付けてる訳? 本部詰めの古株の間じゃタブーだけど、この間の事は如何にもって感じが見え見えだったよ」
ああ、そっちの方。
確かにそう見えたかも知れない。
何しろあの人を無理矢理引っ張って来たような物だから、事情を知らない職員はさぞ驚いた事だろう。
「さあ? 付けたと言うか、付けていないと言うか……まだ話し合った訳じゃないわね。そんな時間無いもの」

393:ビニールのない傘 ◆Yqu9Ucevto
08/04/27 06:35:49
時間が無いのは事実だ。
現にあの人は睡眠時間を惜しむ様に、率先して現場の指揮と国連や政府との折衝に当たっている。
その姿はまるで自らを痛め付けるかの如く、形振り構わずに、形相は別人かと思える程の勢いだ。
食事も満足に摂っていないのか、日に日に疲労の色が顔色に表れている。
「なら、医療部の計画担当主任として要請する。二人の保護者及び親権者の招集を。首に縄付けてでもアンタが連れて来て」
「それ本気で言ってるの?!」
それはつまり、あの人をここ迄引っ張って来いという事だ。
そしてあの人だけでなく、アスカのドイツに居る両親も。
「冗談だとでも? MRI画像と脳神経外科から回ってきたカルテ、全く見なかったとは言わせないよ。
 第一今のあの親父の女房役、貴女でしょ。セカンドのあの状態をまた再現させたいなら話は別だけど?
 アレ、実質作戦部と技術部の所為じゃないのさ」
「耳が痛いわね……否定はしないわ。ううん、出来ないと言う方が正確ね」
「計画の遂行に気を取られていたのは解らないでもない。でもね、やっぱり医者は病気を治すのが仕事だと思うんだよ。
 幾ら仕事でも、人為的な病人を放置するなんて二度と御免だね。だからあの時指示に従った私も、アンタと同罪さ」
そう、人為的なのだ。
子供達をわざと追い込み、自我の崩壊迄追い詰めた。
シンクロ率が落ちたのなら、回復させる手立てを考えれば良かった。
補充出来るからとパイロットを使い捨て部品扱いすべきではなかった。
「そうね、あの子達を部品扱いしていたのは計画に携わった者全員だわ。私が特に気を配るべき立場だったのに」
「解っているなら話は早いね。一応これ、医療部で纏めた今後の指針。こっちが治療計画試案の関係各科医師別の奴。
 それとドイツから今のセカンドの親も含めた4人分のカルテ、取り寄せてくれない? 司令とE計画責任者命令って奴でさ」
「私を指名した本当の目的はそれ? 随分回りくどくなくて?」
手渡された書類に目を通した。
内科、神経科、神経内科に脳神経外科……パッと見だけでも主な検査を行なった4つの科から意見書が出ていた。
意見書の表紙を一つ一つ確認すると、他にも血液内科や外科の名前がある。
一見関係無さそうな放射線科からも意見書が出ている事が判った。

394:ビニールのない傘 ◆Yqu9Ucevto
08/04/27 06:37:29
「残念ながら発案は私じゃなくてウチの宿六。ああ、一番ペラい意見書は私からの分ね」
「………宿六って、貴女独身じゃない。職場結婚でもするの?」
「正確には違うよ、職員同士だけど。と言うよりは色々あって、籍だけ入れていたのを公表する気になっただけかな」
「初耳だわ……そっちの報告が本命なのね。相手は誰なの?」
「さあ、誰だろうね? でもこっちはその事とは関係無しに、アンタが試案的にはかなり重要だから指名したつもりだけど。
 どう? ウチがあの髭親父に噛ます博打に一口乗らない? 悪い話じゃないと思うよ、仕事抜きにしても」
彼女は射貫くように私を見つめながら、口元をニヤリと歪める。
蛇に睨まれた蛙の気持ちとはこういう事を言うのだろうか?
今、この手の中にある試案と、彼女の挑戦的な視線。
弱い立場の子供達にフラストレーションを叩き付けていただけの、人形以下の愚かな私に、今更何が出来る?
治療を行なわずに放置を命じたのはあの人だが、直接医療部へ、彼女へと半ば命令気味に通知したのはこの私だ。
伏せられた真実を知りながら、破滅へと追いやった者の一人として二人に許しを請い、罪を償えとでも言うのか?
出来る物なら既にやっている。
だが、何も思いつかない……あの人を病室に追い立てた事以外、子供達に対しては本当に何も出来ていない。
再び器を持ち現実に戻って来てから抱き続けている、説明出来ない程の後ろめたさから、私は彼女の視線から顔を背けた。
沈黙が室内を支配する。

395:ビニールのない傘 ◆Yqu9Ucevto
08/04/27 06:38:03
幾許かの時間が過ぎた後彼女は口を開き、別人かと思える哀願している様な声音を発した。
「別に罪を償えとか言いたい訳じゃない。アレが起きた以上補完計画は遂行済、E計画も遂行済の筈だろう?
 司令だって総指揮を執っていた以上は職務を果たしたと言える。だから今、身を削って公人として動いているんだろう?
 という事はアタシ達全員、職務を果たしたんじゃないのか? 勿論、職員全員が子供達を蔑ろにした立場なのは承知さ。
 でも計画の破棄ではない、『本当の後始末』はどうなる? それが、今居る医療部の全員で考えに考え抜いた結論だよ。
 責任者だったからって全部一人で背負い込まないで、もっと部下や同僚を頼ってくれないかな……。皆、同じ思いなんだ。
 一番辛い思いをした子供達を何とかしてやるんだって、そう思う覚悟、無駄にさせないでおくれよ……なあ、赤木」
視線が再び交差する。
「……それは、伏せられていた事実を知った上で言っているの?」
あの人の指揮で進められている補完計画とE計画の公表の為の全ての資料の洗い直し。
その内容はここ10日程の間で幹部だけでなく、現在時点で戻って来ている末端の研究員迄、概要が知らされている。
研究員以外の全ての職員に、その内容が浸透するのも時間の問題だろう。
「そうだよ。知らなかったとは言え職員全員、片棒を担いだ様な物だろう? 手前の穴位は手前で拭かせろって言いたいのさ」
彼女曰く、仕事抜きでも悪い話じゃないという腕の中の試案の軽さが逆に、心への圧迫感を増していく。
行き場の無い罪悪感を抱えるだけの私に、彼女は何をさせたいのだろう………解らない、判らない、ワカラナイ。

396: ◆Yqu9Ucevto
08/04/27 06:42:18
約5ヵ月半振り('A`)
今回はインターミッション。
裏、色々進行中って事で。

397:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 09:46:08
迎え火乙だよ迎え火

398:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 21:10:14
キタ━(゚∀゚)━
楽しみだよ~


399:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/27 22:58:13
相変わらず文章が上手いっすね

400:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/04/28 01:12:49
なんか来てたー!


401:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/05/03 20:42:46
待ち待ち

402:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/05/12 01:27:09


403:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/05/26 02:12:44
保守

404:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/03 23:43:54
保守

405:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:03:57
しとしとと降り続く雨、薄鈍色の曇り空。
失われた四季が戻りつつあるという事は、兎にも角にも鬱陶しい季節も戻ってくるという事で。
まぁ、単純な話。
さて時間が出来たとして、じっと部屋に篭るしかなくなってくる訳で。

「もうッ、どうしてこんなに降るのよぉッ!」

……梅雨なんて、大ッ嫌いッ!

「そんな事言ったって、仕方ないんじゃない? そういう季節なんだから」
「でも、つまんない。幾ら雨だって言っても、こう毎日続いたんじゃ滅入ってくるわよ」

そりゃ、アンタは良いわよね。
イロイロと時間潰しが出来るもの。
この間からずっとモバイル片手に辞書と睨めっこ。

「まぁ、洗濯物乾かないもんね……。確かに鬱陶しいな」

何処までも主夫根性が染み付いてるわね……。
そりゃ洗濯物が溜まるのは鬱陶しいでしょうよ。
でもね、家事を最近取り仕切ってるのはこのアタシ。

「アンタ、今家事やってない」
「……そうだっけ?」

406:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:05:23
「毎日バイトだか何だか知らないけど、泥だらけで帰ってきて……お陰で洗濯物の片付け追っ付かないじゃないのよ!」

生意気にも最近シンジの奴はバイトを始めたらしい。
尤も、らしいと付くだけあって、アタシもその詳細は全く知らない。
ただ毎日朝早く出掛けて、ちょっと遅い夕食位の時間に帰ってくる。
それは別に構わない。
うん、構わないんだけど。

「乾燥機があるでしょ?」
「それで追っつけば苦労しないわよ。全部が全部乾燥機の使える服じゃないのよ?」

一緒に居る時間が減ったのが、ちょっと淋しい。
同じ屋根の下に住んでるって事は、朝も昼も夜もずっと一緒って事だ。
勿論、学校も。
これは多分、ネルフの介入だと思うけど。

「え?! そんなに洗濯するのややこしい奴混ざってたっけ?」
「この雨で形状記憶のカッターシャツ、全部洗っちゃったのよ。それに、何でも乾燥機が使えると思ったら大間違いだわ」

一緒に居る時間が減った分、会話も少なくなる。

407:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:06:46
「タオルはともかく服は綿100%みたいな手触りでも、タグを見ると混合だったりする物もあるの。
 家庭の洗濯機で洗えても、乾燥機はダメな物だってあるのよ? アンタ、今迄どうやってたのよ」

それは仕方の無い事なのだけれど。
でも、アタシってばどうしても物足りなくて。

「うーん……下着とタオル類と服に分けて洗って、判んない奴はクリーニング?」
「他には?」
「えっと、それだけだよ」
「じゃあ、乾燥機は?」
「普通だけど?」
「……ねぇ、今迄何回乾燥機回してたの? ホントの事言いなさい」
「ぅ……3回? いや、4回かな? 僕の物は分ける様な物も無いし、分けるのはアスカの洗濯物だけ……」
「あああああ……アンタ、馬鹿ぁッ?! 乾燥機は絡みやすいタオルを量の多い時に別にするだけでいいのよ?!」

ついつい突っかかっちゃうんだなぁ、これが。

408:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:09:49
理由だって、解ってるつもり。
でもね、やっぱり物足りないし、一人の時間は淋しいし。
何より退屈。

「……ったく、何やってるんだろ」

予備役になってからネルフに篭る時間が減った分、学校に居る時間が増えた。
その分、やっぱり他人と接する事も増えた。
アタシ達は互いに互いへ依存する事で、何とか自我を保っていた部分がある。
それが少しずつ改善していく事は、アタシ達にとって喜ばしい事なんだと思う。

でも、それは一緒に過ごす事も、会話を交わす事も減っていくという事。
離れている時間が増えている分、自分一人だけの時間が増える。
けれど、他人との接点を増やしていくシンジを見ていると、自分の事を振り返る度に世界は孤独なのが解る。
だって接点を増やすという事は、生きる上で退屈しない様にするって事だもの。

モバイルの中の文字の羅列を睨んで、考え込んでいる後姿。
片手にした辞書のページを捲り、必死に何かを調べている横顔。
朝早く出掛け、夜は遅めに帰ってくる。
バックの中は泥だらけになったタオルや着替えのシャツ。
顔だって、時々鼻の頭に泥が付いている。

接点を増やし、他者と世界への興味と情熱を増やしていく、シンジのそんな姿を見ているだけのアタシ。

たまにはヒカリ達と学校帰りに寄り道したりするけれど、基本的には学校と部屋の往復だけ。
……放課後ネルフに出頭する事もあるけど、学業に支障が出る事も無ければ以前程頻繁ではない。
帰ってきたら洗濯物を取り込んでから、お風呂の用意や食事の支度を済ませる。
そうこうしている内にシンジも帰ってくる。
シンジが帰ってくる前に全部済ませた時は、取り寄せた論文や研究書に目を通す事もある。
けど、変化の少ない単調な時間を過ごす。

シンジとはまるで正反対ね、アタシ。

409:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:10:46
でも、ドイツに居た頃とは比べ物にならない位、ゆったりとした自分だけの時間の過ごし方だろう。
実際にやってみて気付いたけど、アタシはどうも家事が苦手だと思い込んでいただけみたい。
よく晴れた日の洗濯物を取り込んだ時、太陽の柔らかい香りに混じるシンジの匂い。
シンジが帰ってくる前に、味の感想を予想しながら食事を作る時間。
それを今、アタシは心地良いと感じている。

時間に追われ、結果だけを求められ、研究に己の全てを賭ける日々。
成功には賞賛を与えられる。
自分自身の能力を生かすという事では、悪くない生活だと思う。
以前のアタシなら、迷わずそんな生活を望んでいただろう。
確かに結果が出ない時は単調だけど、結果が出た時の刺激は堪らない。
一度味わってしまえば、二度三度と味わいたくなる。
でも、立ち止まった時。
今のアタシには、凄くつまらない事にも思えてくる。
だってアタシ自身を必要とされている訳じゃなくて、能力だけを必要とされている事もありうるもの。
それに研究に全てを賭けてしまうって事は、とても孤独な世界に閉じ篭っている様にも感じる。
そんな人生って随分と淋しいじゃない?

410:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:11:25
「ほら、ちょっとは休んだら? そんなに根を詰めちゃ疲れるわよ?」
「? あぁ、もうこんな時間なんだ。ありがと、アスカ」

随分と頭を使っていた様だから、紅茶と一緒にさっき作ったエネルギー補給の簡単なデザートも出してみる。

「ん……これ何処のお店?」
「何馬鹿な事言ってんのよ。アタシが作ったに決まってるじゃない」

条件反射かしらね?
間髪入れずに随分と失礼な事を言うシンジの額を小突く。

「……ッたいなぁ、もう。何するんだよ」
「アンタが失礼な事言うからよ。こんな天気に出掛けられる訳無いでしょ」
「あ、そっか。何処にも行けないって言ってたっけ」
「何処にも行けないんじゃ、部屋で出来る事するしかないじゃない」
「それもそうか」

こういう何気ない日常が、アタシ達には足りなかった物なんだろうと思う。
アタシには平坦で変化の少ない日々かも知れない。
大して刺激も無い。
でも心地良いのも確か。
それに甘えてずっと留まる訳にもいかない。
いずれはアタシも世界との接点を増やしていかなければ。
けれど今だけは、その心地良さに浸っていたい。

411:BORING TALK ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:12:10
日々の生活の中の些細な事でも、アタシには充分過ぎる程新鮮だったりする。
アタシはそういう事を見つけながら、退屈凌ぎに毎日を過ごしているのかも知れない。
だからアタシは時々、出来れば口を閉ざしてしまいたくなるのだ。
だって――。

「大体、この天気が全部悪いのよ! 洗濯物は乾かないし、出掛ける事も出来ないんだから!」
「何で? 乾燥機で乾かせばいい事じゃないの?」
「アンタの頭は鳥かぁーッ! 毎日泥だらけで帰って来る上に雨が続いて、片付けが追っ付かないって言ってるでしょ?!」
「痛ッ! また叩いた!」
「ボケた事ばかり言ってるからよ。一体どこまでボケたら気が済む訳?」

構って欲しくなって、ついつい口も手も出過ぎちゃう。

「酷いなぁ、そんなに馬鹿とかボケとか言うなよ」
「事実でしょ。……ったく、その上物忘れ迄酷いとはね? アンタ、何でアタシが出掛けたいか解ってる?」
「何? 暇だからじゃないの?」
「カレンダー見なさい」
「へ? 何か今日はあったっけ?」
「このお馬鹿ッ! 自分の誕生日迄忘れてどうすんのよ、バカシンジ!」
「ぁ……!」

この分じゃデートにかこつけて、ディナーに出掛けるなんて無理そうだ。
でも、こういう誕生日の過ごし方も悪くないよね?

412: ◆Yqu9Ucevto
08/06/06 08:17:26
シンジの誕生日の一コマ。
ボケボケなので自分の誕生日も忘れてる可能性があるような気が。
誕生日記念&季節絡み物で保守。

413:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/06 11:24:38
誕生日投下乙!!

414:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/06 14:18:01
GJです!
何気ない日常の中の風景のやり取りなのに
すごく癒されるのはこの二人だからなんでしょうね。
シンジもよい誕生日を迎えられて本当によかったです。

415:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/06 17:59:17
お馬鹿に萌えた

416:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/10 17:42:38
保守々々

417:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/19 16:12:25
保守

418:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/20 16:59:26
この二人
夫婦より同棲のほうがしっくりくるな

419:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/20 18:50:05
確かに

420:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/21 19:00:51
かぐや姫さんの「神田川」をイメージ元に、SS書いても問題なかろうか?


421:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/21 19:11:40
いいんでないの

422:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/26 14:48:47
アスカたん

423:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/26 14:59:58
アスカたん

424:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/26 23:09:24
あ?スカタン

425:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/06/26 23:41:04



     !  ?

426:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/04 09:16:57



     !  !

427:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/07/05 13:16:21
ミサト「で、どうして同棲生活使用なんて思ったの?」

シンジ「ええ、どうせ生活するならって思ってるうちに
どうせ生活どうせせいかつどーせーせいかつ、同棲生活ってことに・・
ははっ」

ミサト「・・・アスカ、考え直すなら今のうちよ・・・」

428:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/14 19:08:41
エヴァ板良スレ保守党

429:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/25 01:15:58
ほっしゅ~

430:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/29 23:42:35 XE2DNu2S
ま だ 飽 き な い の か こんな糞スレに

431:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/29 23:43:43
超過疎スレの保守age乙

432:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/08/30 09:01:40
俺はいつまでも待っているぞ

433:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/11 11:26:40
萌えるスレなのになぜかいいネタこないな

434: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:30:27

灰色

僕がアスカの髪をとかしてやると、彼女は気持よさそうに目元を細めた。
僕がいつも使うヘアブラシはリビングのチェストにしまわれている。
アスカはいつも僕に髪をとかすように促し、僕はそれに従ってゆっくりとヘアブラシを滑らせていく。
ヘアブラシの歯は、一本一本が滑らかにアスカの金の糸を一巾の絹のようにきめやかにしていく。
僕はその髪を、その五本の指で掻き分け、アスカの頭を撫でる。
アスカは肩に置いた僕の手に、自分の手を重ねる。
この世界は灰色だ。
僕も昔は夢を見ていた。暖かい家庭。優しい母親と、厳しいけれど暖かみの溢れた眼差しで僕を見てくれる父。しかし、それも最早手には入らない。
僕には遠くに行った夢だ。
誰かが、叶わない夢はないと言った。
そんなものは嘘に決まってるのにね、アスカ。


435: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:32:06

街外れのマンション。銀杏並木が並び、何台か車が通る。
今、この家には僕とアスカしかいない。
僕はアスカの髪をとかした後、ヘアブラシをテーブルに置き、彼女の左目に触れた。アスカはその手に自分の掌を重ねた。
「ありがと。」とアスカは言った。手が握られる。
最近アスカは僕に礼を言うようになったのだ。
例えば。僕が料理中に指を切ると、アスカはブツブツと言いながらその指を舐めてくれる。
髪を掻き上げながら指を舐めるアスカを見て、自分が彼女の髪をとかす様を思い出す。
僕は彼女の唇を奪う。彼女は抵抗などしない。十分に舌と舌を絡み合わせた後、僕の唇を噛む。
血の味が広がる。
もうアスカは血を流さない。



436: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:34:04

その日。僕がバイト先にいると、アスカから電話がかかってきた。
上司の鋭い眼差しを背後に感じながら、裏口で携帯を開いた。
「なんだよ、バイト中に電話掛けないでよ。前に言っただろ?」
アスカは黙っていた。僕は携帯のディスプレイを確かめる。
確かに自宅の番号だ。
もう一度携帯を耳につける。
「アスカ? アスカだろ?」
アスカは答えなかった。微かな息遣いが辛うじて聞こえる。
「何もないなら切るよ?」
アスカは答えなかった。
そして通話が切れた。

僕はバイト先を早引けした。アスカが気になったからだ。
僕が帰宅すると、太陽はその体の半分を地平線の下に隠していた。
マンションど銀杏並木の細長い影が、長く長く、アスファルトの舗装道路と、コンビニの屋根に落ちていた。
エレベーターで一気に三階まで上がる。
自宅の扉は開いていた。
玄関に上がると、アスカの靴があった。踵が二センチくらいある黄色いサンダルだ。


437: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:36:48

僕はその脱ぎ散らかっているサンダルを直した。
ダイニングに向かうと、赤い光が、廊下にまで差し込んでいた。
僕は扉をひらく。
ダイニングと廊下との境を越えると、アスカはリビングの窓から溢れる夕陽の中に体を置いていた。
彼女はテーブルに体を突っ伏し、小さな箱を握り締めていた。
「どうしたの?」
アスカは答えない。寝ているのかと思ったが、体を微かに震わせたのがわかった。
部屋の片隅に何かが落ちているのに気付く。微かな影。
僕はそれを手にとり、眺めた。
それは、妊娠検査薬だった。
僕はアスカを見た。
アスカは僅かに顔をあげ、腕の上から僕を見ていた。
「悪かったわね……。」
アスカの声は震えていた。僕はかぶりを振り、部屋を横切ってリビングに向かう。チェストの引き出しを開け、ヘアブラシを取り出す。
アスカの元に戻り、肩を抱いてしっかりと座らせてやる。
ゆっくりと髪を梳いた。


438: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:41:21

なだらかで優しい彼女の肩のラインにさらさらと、髪が一房、二房と流れる。
「おめでとう。」
夢は叶わない。と言ったね。でも、代わりにもっといい夢が与えられる事もあるんだよ。きっと。
「ありがとう。」
僕はアスカの頭を撫でた。
「あたしで、いいの?」
僕はアスカの、形の良い耳を撫でた。
「子どもなんか、あたし、愛せる自信ないわよ。」
「大丈夫だよ。」
僕は言った。
「産んで欲しい。」
僕はアスカの頬に触れ、左目を、慈しむように撫でた。アスカが手を重ねる。
アスカの頬と左目は、まるで朝露の浮かぶ若草のように、しっとりと柔らかに湿っていた。




439:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/11 23:42:10
リアルタイム乙

440: ◆8CG3/fgH3E
08/09/11 23:44:37
おひさしぶりですじゃ(´・ω・`)
懲りずに戻っただよ


441:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/11 23:50:03


442:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/12 01:31:11 TsYU0yeT
ss投稿は流れがぶったぎられるから止めろ。
つまんね

443:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/12 17:42:00
更新万歳
GJ

444:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/13 01:24:28
保守がてら投下。

初めて書いてみたから過度な期待は禁物でよろ。

445:444
08/09/13 01:25:43
「…逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!!」


目の前には産まれたままの姿のアスカが目を瞑って横たわっている。
体が小刻みに震えている、凄く緊張しているみたいだ。
僕が優しくリードしてあげなきゃ…


446:444
08/09/13 01:27:08
サードシンパクトから数年、街は徐々に復興の兆しを見せている。
補完計画によって失われた人々もほとんど帰ってきたみたいだ。
少なくとも僕の周りの人々はみんな帰ってきた。
ケンスケやトウジ、委員長やネルフの人達、そして綾波レイも…。

トウジとは参号機の一件以来初めて顔を合わせたけど、ネルフの
人達がウマく説明してくれてたみたいで気にしてないからお前も
気にするなって言ってくれた、ずっとわだかまりがあったから少
しだけ安心した。
(後から聞いた話だけど、アスカが必死になって説明したらしい。
「お前愛されてるな」ってトウジに茶化されたっけ)

綾波は、リツコさん曰く「ありえない奇跡」が起きたらしい。
どこをどう検査しても100%「人間」らしい。
リツコさんが「サードインパクト最大の奇跡だわ」なんて言って
たっけ。
もっとも、僕にはどう変わったかなんて分からないんだけど。
リツコさんが「レイが人間になったのなら、あの中の魂は一体誰
の魂なのかしら…」って言った時に父さんが小声で「間違いない、
ユイだ」って言ったのを僕は聞き逃さなかった。そして横でキッ
と父さんを睨んだリツコさんも。

447:444
08/09/13 01:29:05
それから程なくして、父さんとリツコさんは結婚した。
義理とはいえリツコさんがお母さんだなんていまだに実感が沸か
ないや。
でも、それ以上に驚いたことが1つ。
綾波が父さん夫婦の養子になった。
これはリツコさんが言い出したらしい。
リツコさんはなんだかんだ理由を言っていたけど、何かと母さん
を重ねてる綾波を養子にして一緒に住むことで不安を取り除こう
としてるのは奥手な僕でも分かった。
そんなわけで僕と綾波は兄妹になってしまった。
それを知った時のアスカの表情が今でも忘れられない。
キュッと唇を結んだあの嫉妬とも憎悪ともつかないあの表情を。

448:444
08/09/13 01:30:24
そんなこんなで、生活のほとんどがサートインパクト前に戻った
今の生活だけど、1つだけ戻ってないことがあって…
ミサトさんの意識だけがいまだに戻らない…。
担当医の人曰く「体はもうすっかり良くなってるんだけど、本人
が現実世界に帰ってきたくないように見える」って…。
ミサトさんは夢の中で加持さんと過ごしてるのかなって漠然と考
えてみた。
現実世界にはもう加持さんはいないから、だから帰ってきたくな
いのかな…。

だから僕達は今ミサトさんの部屋で実質同棲生活のような状態で。
同棲っていいうより同居なのかな。
僕達はいまだに手も握れない関係だから…。
お互い相手の気持ちに薄々感づいているけど、お互いそこには触
れない、みたいな。
触れると何かが壊れそうな気がして、目を背けてる。
本当は僕がいくべきなんだろうけど、やっぱり怖くて…。


449:444
08/09/13 01:31:56
僕達が高校に入学したその日、父さん家族が隣に越してきた。
リツコさんが「思春期の若い男女を、宿主のいない部屋に2人っ
きりになんてしておけないわ」って言ってたけど多分僕と父さん
を近づける口実だったんだろうな。
父さんは相変わらずぶっきらぼうだけど、少しずつ会話も増えて
きてる。
夕食はほとんど毎日5人で一緒に食べてるし、やっぱりリツコさ
んには感謝かな。
夕食を作るのがほとんど僕の役目ってことを除いては…。

綾波も少しずつだけど、表情が豊かになってきた。
実はリツコさんに「レイは確かに人間になったけど、喜怒哀楽の
感情がまだ追いついてないのよ。だからシンジ君よろしく頼むわ
ね。アスカに言っても嫉妬して協力してくれないだろうから。」
って言われて。
アスカの嫉妬の意味がよく分からなかったけど、隣に越してきて
から意識的に綾波と話すようにしてたせいでアスカに「そんなに
ファーストがいいならファーストと結婚すればぁ?」なんて嫌味
言われたっけ。あれが嫉妬だったのかな…。

450:444
08/09/13 01:35:19
そんな生活にも慣れたある日、(今日なんだけど)、授業中にリ
ツコさんから呼び出しがあって。
「3人とも大至急ネルフ本部に来てほしい」って。
まさか今更また使徒が?なんてありえないことを考えながら急い
でネルフ本部に着いたら今度はミサトさんの病室に急いでって言
われて。
ミサトさんの容態が急変したのかなって思って恐る恐る病室のド
アを開けたら…

「よう!」

そこには加持さんの姿が…。

そして加持さんに寄り添うように目を覚ましたミサトさんが…。

「おはよ、心配かけてゴメンね。」

451:444
08/09/13 01:36:43
加持さんがいて驚くやらミサトさんが目を覚ましてて感動するや
らでなにがなんだか分からなくなったけど、どうにか落ち着いて
話を聞いてみると、加持さんはさすがにスパイをやってただけあ
って銃で撃たれた時に急所を外して受けたらしい。
相手が念には念をの一撃を撃ってこなかったのはラッキーだった
って言ってた。
でも、さすがにその場から動けなくてもうこのまま死ぬんだろう
なって覚悟してたら補完計画が発動したみたい。
あの時力尽きてたら今の俺はないよって笑って言ってた。
意識を取り戻した後は父さんの密命を受けて海外を飛び回ってた
って。
それがネルフ復帰の条件だったみたい。
日本に帰ってきて急いでミサトさんの病室に来て「いつまで寝て
んだよ、早く起きろよ」って言ったら本当に起きたからビックリ
したよなんてちょっと照れくさそうに言ってた。
ミサトさんはミサトさんで、「夢の中で怒られたのよね、コイツ
に。『いい加減現実に戻れ』って。んで起きてみたらコイツがい
るわけじゃない、思わず『戻ってるわよ!』なんて言っちゃった
わ。第一声がそれだもんね、コイツったら目を丸くしてたわよ」
なんて笑ってた。しっかり加持さんに寄り添いながら。

僕はチラッとアスカのほうを見た。
アスカの加持さんに対する想いは知ってたから。
嬉しいような悲しいような、複雑な顔をしてた。
僕には悲しい顔に見えた…。

452:444
08/09/13 01:38:20
ミサトさんはまだ数日検査なんかで入院しなきゃいけないらしく
て、今日は俺が看てるからって加持さんに言われて僕達は帰宅し
た。
帰り道、綾波に「ちょっと気が早いけど3人でミサトさんのお祝
いしない?」って誘ったんだけど、気を利かせたのか「私はやる
ことがあるから」と言ってとっとと自分の部屋に帰ってしまった。
「じゃあ2人でお祝いしよっか」
そう言って僕らは近所のスーパーで買い物をして帰宅した。
「たまにはいいよね、おめでたい日なんだから」
なんて言ってお酒なんかも買って。

453:444
08/09/13 01:39:52
家に着いて2人で色々話しながら飲んだり食べたりしてたけど、
僕の目にはアスカの表情が晴れやかには見えなかった。
「加持さん…」
僕は無意識にそう呟いていた。
その言葉にアスカは気づいたのか「まさか加持さんまで戻ってく
るなんてねぇ、ホントびっくり。それにしてもミサトと加持さん
長年連れ添った夫婦みたいだったわね」と笑って言った。

「ア、アスカはさ、やっぱり加持さんが戻ってきて嬉しいよね。
あ、あのさ、今日のミサトさんと加持さん見て、その、嫉妬とか
しなかったのかな…?」

「そりゃ嫉妬するわよ、妬けるくらい愛に包まれてたもの、あの
2人」

「そ、そうだよね、アスカは加持さんのことずっと好きだったも
んね、嫉妬するよね…」

そう言うとアスカの表情はみるみる怒りの表情に変わっていった。

454:444
08/09/13 01:50:08
連投規制の為自分で携帯から支援w

455:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/13 01:51:43
あれ、支援しても投下できないや…´`

456:444
08/09/13 02:00:59
あんたバカァ?ここまで鈍い男だとは思わなかったわ!」
「いい?1度っきりしかいわないからよーっく聞きなさいよ?」
「加持さんに対する感情はただの憧れ!芸能人なんかを好きって
言うのと同じ。ワタシが好きなのはアンタ!バカシンジ!アンタ
だけよ!」

そう言うとアスカは照れくさくなったのかそっぽを向いてしまっ
た。

僕は突然のアスカの告白に動転しながらもあることに気づいた。
そうか、アスカが悲しそうにしてたんじゃなくて僕が悲しかった
んだ。だからアスカが悲しそうに見えたんだ。
僕は意を決して言った。

457:444
08/09/13 02:02:21
「ぼ、僕だって1度っきりしか言わないからね!僕はアスカが好
きだ!ずっとずっと好きだった!これからもずっと好きだ!」

「アンタ、1度っきりって3回も好きだって言ってるじゃない」

「あ、ごめん…」

「そんなことより、証拠はあるの?その、ずっと好きだって言う
証拠…」

「証拠って言われても…」

「キス、してよ…」

「アスカ…」

夕暮れに染まる窓からの光を浴びながら僕達は2度目のキスをし
た。それは前回を遥かに上回る、甘い甘いキスだった…。

「キス…だけで終わるの…?」

「…え?」

「アンタの証拠はキスだけなのって聞いてるの!もう!これ以上
女の子に言わせないでよバカシンジ!」

458:444
08/09/13 02:04:10
「…逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!!」

目の前には産まれたままの姿のアスカが目を瞑って横たわっている。
体が小刻みに震えている、凄く緊張しているみたいだ。
僕が優しくリードしてあげなきゃ…

僕にはこんな経験は初めてだ。でも、アスカもこれだけ震えてるっ
てことはきっと初めてなんだ。どうしたらいいのかわからないけど、
今の僕ができる最高の愛情をアスカにぶつけたい。アスカに僕の最
高の愛情を受け取って欲しい。

「…ねぇシンジ、その、しちゃう前に何か言うこと、ない?」

「…え?」

「もう、やっぱりバカシンジ。告白よ告白。アンタ好きだとは言っ
たけどだからどうしたいとは言ってないでしょ?ちゃんとはっきり
させて。ア、アタシは初めてなんだからね、こういうことするの。
だからちゃんとしてほしいの。アタシとどうしたいのか、これから
どうしたいのか。ねぇ、聞かせて?」

「ぼ、僕はアスカが好きだ。ずっと一緒にいたい。今はまだ学生だ
から結婚しようとは言えないけど、卒業して就職してアスカを養え
るようになったら結婚したい。だから、それまでずっと一緒にいて
欲しい…。」

「バカ…、飛躍しすぎ。どうして単純に付き合ってって言えないの
よバカシンジ…。でもね、ありがと。嬉しかったよ。ワタシも好き。
ずっと一緒にいようねシンジ…。」


こうして僕らは1つになった…。

459:444
08/09/13 02:06:22
数日後、ミサトさんが退院した。
アスカと2人で迎えに行ったら何故か加持さんとニヤニヤこっちを
見てる。

「アンタ達、ようやく一線を越えたのね。保護者としてはちょっち
複雑な気分だけど、まぁ、アンタ達お似合いよ」

「……え?」

『ぼ、僕はアスカが好きだ。ずっと一緒にいたい。今はまだ学生だ
から結婚しようとは言えないけど、卒業して就職してアスカを養え
るようになったら結婚したい。だから、それまでずっと一緒にいて
欲しい…。ププーッ』

「ちょっとアンタやめなさいよ茶化すの。シンジ君だって一生懸命
アスカに告白したんだから!」

「!!!!ちょ、ちょっと!なんでそれを知ってるんですか!!」

「あら、アンタ達知らなかったの?いくらアタシがオープンだから
って思春期の中学生の男女が一緒に住んでるんだから間違い起きな
いように監視しなきゃじゃない。2人とも両親のことまで知ってる
んだから。だからね。これ。盗聴器。間違い起きそうになったらす
ぐ止められるように前から仕掛けてたのよ。こないだ目を覚ました
日にたまたま聞いてみたら愛の告白タイムなんだもん、驚いたわよ


460:444
08/09/13 02:08:09
……!!! も、もしかして、その先も聞いてたんですか?」

アスカはもう顔を真っ赤にして俯いている。

「アタシだってそこまで野暮じゃないわよ。アスカがワタシも好き
なんて言ってそれからアフンアフン言い出したから慌てて切ったわ
よ」

「………、ちょ、ちょっと待って下さい、今、中学生って言いまし
たよね? い、いつからそれつけてたんですか…?」

「アスカがウチに来た日からよ。だからアスカが『キス、しよっか
?』って言ってキスしたのも知ってるわよ?」

アスカはもう完全に茹ダコみたいになってる。多分、僕も…。

「大丈夫よシンちゃん、シンちゃんが『アスカ~アスカ~』なんて
言いながらハァハァしてたことは内緒にしといてあげるから^^」


バッチーーーーーーン!!!!


夕暮れに染まる街並みに頬を叩く音がこだました…。


461:444
08/09/13 02:10:01
終了です。
初めて書いてみたんでgdgdでゴメンナサイ…

462:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/13 04:00:46

王道だな

463:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/13 04:04:42
>>◆8CG3/fgH3E氏
お前にもまともなSSかけたんだな
乙カレー
>>444
はじめてにしては中々よかったよ
文力は本を読むとか、実際SSや日記、雑記を書くことで養われると思うし
ネタ的にもよかった
乙でした


464:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/13 12:30:28
乙です

465:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/15 00:10:54
乙き見

466:�
08/09/15 01:42:36
>>440 >>444
各位乙です
イタモノじゃなくてよかったw

467:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/09/19 16:50:05
てすてす

468:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/10/03 17:19:23
投下あったのかよ全然気づかなかったちくしょー
あげてやる
乙今からみる

469:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/10/20 09:10:52 8U+XBZAg
うひょー

470:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/10/30 17:18:28
保守街

471:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/11/19 01:41:19
そう言えば、病んでる同棲生活等を書く場合もココなのか?

472:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/11/19 09:05:15
>>471
仮面夫婦スレの方がいいんでね?

473:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/12/02 05:01:00
捕手

474:名無しが氏んでも代わりはいるもの
08/12/20 10:58:49
捕手

475:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:11:15
『酒は飲んでも呑まれるな』とは、昔の人はよく言ったものだと思う。
昔、保護者をしていた人の事は反面教師だと密かに思っていたけど、まさか他にも身近に居たなんてね?

「うるひゃいな。とっとと次のボトル開けてよ」

硝子が割れそうな勢いでグラスをテーブルに叩き付け、カンと心地好い音を鳴らす。
グラスの中の氷は具合よく融け、カランと音を立ててその佇まいを崩した。

「……アンタ、飲み過ぎ。珍しく飲んでるのは別にいいけどさ、絡み酒ってのはあんまりじゃない?」

そりゃあ、シンジだって人付き合いが苦手な割にはそれなりの友達付き合いはある。
いつもアタシばかり構ってる訳にはいかない。
それでも、だ。
酔っ払って帰ってきて食事もソコソコに飲み倒すってのは、アタシの立場としてはどうにも頂けない。

「別に、いいじゃん……。僕だって飲みたい時もあるんだから」
「それは解るけど、程度物だって言ってるの」

一応、アタシ達は未成年。
日本の法律ではアルコールは二十歳になってからという事になっている。
馬鹿正直に遵守している高校生なんてそうそう居ないのはともかくとして、飲み過ぎというのはどうかと思う。
でも、まぁ……偶には羽目を外すのも良いか、な?

「ちょっと待ってて。それ迄次の奴はお預けね」

476:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:12:02
テーブルの上のご飯を手早く片付ける。
オードブルになりそうにない物はラップを掛けて冷蔵庫へ。
入れ替わりで摘むには丁度良さそうな物を冷蔵庫から取り出しながら、作れる物を思案してみた。

ツナの缶詰はマスタードとマヨネーズでディップに出来そうな感じ。
ソーセージはボイルして、適当に切ったチーズと一緒にサラダの残りのチシャの上に乗せて。
戸棚を覗いたら上手い具合にクラッカーがあった。
クラッカーだけでは物足りないかなと思いながら、オリーブオイルをフライパンに敷きIHのスイッチを押す。
明日の朝食にと買っておいたフランスパンも切ってしまおう。
買い置きのパスタを一掴みして半分に折り、熱したオリーブオイルで軽く炒めて塩を振る。
後は油を切って、適当な大きさのグラスに突っ込む。

―残り物や買い置きの物でも結構何とかなるものね。

最後に小さな取皿にヴァージンオイルを入れる。
只のオイルでも、意外とパンに合うのだ。
十分もしない内に一通りのオードブルの完成だ。

477:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:13:41
「はい、お待たせ♪」
「結構作ったんだね」
「お酒だけじゃ胃に良くないもの」

嘗ての保護者が無類の酒好きだった恩恵だろう。
それ程料理が得意とは言えなかったアタシでも、出来る様になればそれなりにお酒に合う物は作れる様になっていた。
とは言え、料理もお酒もメニューはアタシの好みのしか出さないけど。
ウィスキーはシンジがボトルを空にした所で打ち止め。
アタシはどちらかと言うとワインの方が好みだからだ。

「これ、栓開けて」
「ん。じゃあ、コルク抜き取ってよ」

食器棚からコルク抜きを取ってくるついでに、真新しいワイングラスを下ろす。

「はい。この間みたいに失敗しないでよね?」
「もうしないってば。コルク屑が混じった奴はもうこりごりだよ」

478:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:14:16
この間飲んだ時は栓を抜くのに失敗した。
どうにも上手く抜けなくて、栓をボトルの中に突っ込む羽目に。
お陰でグラスに注いだワインには、突っ込まれた時に崩れたコルクの破片が浮いていた状態。

「……っと、今度は上手く抜けたな」
「んじゃ、早く飲みましょ」

取り敢えず、グラスの半分位までワインを注ぐ。
が、注いだ所で気付いた。

「あ! 折角の白だからソーダ水取ってこなきゃ」
「一杯目はそのままでいいよ」
「そう? じゃあ、後で良いかなぁ」
「それより、日本酒は?」
「あ、残ってた分は料理に使っちゃったわ」

何か、所帯染みてるのは気の所為かしら?

479:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:14:59
「で、男ばっかりの新年会はどうだった?」
「いつも通りさ」
「バカ騒ぎ?」
「アスカに掛かっちゃ、男だけで集まったら全部バカ騒ぎになるんだね」
「でも、否定しないでしょ?」

ディップの皿に指突っ込んで味見をしてる……って事は誤魔化したい訳よね?

「ま、深くは追求しないであげるわ。で、何してたの?」
「ん、AVの鑑賞会」

小気味良くない音が部屋に響く。

「……ったぁ」
「あ、あ、あ、アンタ馬鹿ぁッ?! 冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょッ?!」

手近にあった新聞紙を丸めて、シンジの頭を叩いてしまった。

「ぃや、冗談じゃなくてさ」
「すると、何?! アンタ達マジでやったの、それ?!」
「……僕は見てないよ。台所に居たし」

シンジの顔はげんなりした表情だ
何か話が変ね?
あ、ワイン一気飲みしちゃった。

480:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:15:55
「台所って、アンタ何処に行ってたのよ?」
「店長ん家」
「店長って……例のバイトの取引先?」
「うん。で、僕は店長と一緒にケーキ作ってたんだ」

新年会に……ケーキ?
普通、ケーキって言ったら日本じゃクリスマスじゃ……?
やっぱり、変。
って言うか、今日は相田の伝手で鈴原と一緒に写真部の新年会にお邪魔するんじゃなかったかしら?
取り敢えずその辺は後で追求する事にした。
それより先に追求する事は他にもある。

「何でお正月にケーキなのよ。普通、日本は御節料理とやらじゃないの?」
「店長の奥さんが仕事明けでさ。お店探してる時に捕まっちゃって、家に連れていかれちゃったんだ。
 でもって甘党だからケーキ作れ、って帰ったその足で店長に」
「……で、手伝ってた訳?」
「うん」
「お人好し」
「ぅ……」
「ちょっ、ちょっとぉ! いきなり泣き始めるんじゃないわよぉッ?!」

うっわぁ……シンジって泣き上戸だったのねぇ……。
今度はさめざめと泣き始めちゃった。
それもテーブルの上に突っ伏して。

481:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:16:48
「店長の奥さんってさぁ……僕ら男より男前なんだよねぇ……」

男より男前……?
まさか顔……なんて言わないわよね……?
その辺が気になる。

「ん……でね、捕まった時に言われたのがさ、男ばっかり雁首揃えて何やってるんだーって……」
「へ、へぇ……そうなんだ……」

シンジが空になったグラスを突き出すので、アタシはまたグラスの半分位迄ワインを注ぐ。
あ、また一気飲み。
ペースが速いんじゃないの、ちょっと。

「活入れてやるーって出してきたのがさ……」
「あぁ……そういう事……。で、アンタはケーキ作る手伝いって事で逃げた、と」
「うん」
「で、鈴原と相田は?」
「んとね、僕とトウジは見逃してもらったんだ。出来上がったケーキ持って帰れだって」
「何でまた?」
「……彼女持ちだから。ほったらかしにしないでケーキでご機嫌取って来いって」
「相田と他の部員は?」
「多分まだ、ケーキ食べさせられながら捕まったままじゃないかな? 朝まで付き合えって言われてたし。
 それで仕方ないから、コンビニでお酒買って二人で公園で飲んでから帰ってきたんだ」

また……それは豪快な奥様だわ……。
って事は、持って帰ってきた包みの中はケーキって訳ね。
それにしても、相田と写真部員はご愁傷様って感じ。

「……今回は、褒めてあげるわ」

482:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:18:15
結局ボトルの八割方はシンジに飲まれちゃった。
オードブルは殆ど手付かず。
そんなにお酒に弱い方じゃなかったと思うんだけど、今日は早々に潰れちゃった感じ。
まぁ、女性にそんな事言われたら……アタシならショック受けるわねぇ。

「ほら、シンジ……寝るならちゃんとベッドに行ってよ……」
「ぅ……ん……」

返事はしてくれるのよ。
してくれるけど、中々動いてくれないのよね。
使徒戦の頃と違って、シンジの体は背が伸びて少し重くなった。
アタシも女としてなら力はあるんだろうけど、流石に軽々とシンジを運べる程の力は無い。
どうしようかと考えていた時、インターフォンのチャイムが鳴った。

「……はい?」

こんな時間に誰だろうと無視してしまおうかとも思ったが、そういう訳にもいかない。
出てみると、意外な人の声が聞こえてきた。

『シンジか?』

え?
まさか?!
アタシは慌ててドアを開けた。

「司令?! どうなさったんですか?」
「む……?! あぁ……アスカ君か。済まんが、シンジは留守かね?」
「えっと……今日は寝ちゃったんです」
「……そうか。では……出直すとしよう」

483:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:19:15
もう夜も更けて、結構な時間になっている。
こんな時間に幾ら隣とは言え、部屋を訪ねて来るのはおかしい。
そして、しきりに隣の部屋のドアを気にしている。

「待って下さい。どうかなさいました?」

アタシは何かあったのかもと、司令を引き留める事にした。

「いや……何、まだリツコが実家から帰っていない様なのでな」

リツコはあれでいて至極家庭的な面が多いとかで、毎日何時になっても司令の帰りを待っている。
夕食だって、毎日用意する。
となると……?

「もしかして……お夕飯の用意が?」
「ぅ……うむ、済まない」

ビンゴ。
残り物になっちゃうけれどアタシが作った物があるし、さっきのオードブルだって殆ど残ったままだ。

「もし……アタシの作った物で宜しければ、如何ですか?」

484:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 02:20:26
アタシは適温になったお湯と緑茶の茶葉を、少し大きめのガラス製のティーポットに入れた。
ふんわりと広がる茶葉がお湯の中で踊り、緑茶の鮮やかな緑が中で広がっていく様が好きなのだ。
紅茶の紅が広がる様も綺麗だけれど、緑茶の、それも玉露の緑はまた格別。
日本に来てからのアタシのお気に入りな事の一つだ。
食事の用意が出来る迄、まだ少し時間が掛かる。
それ迄はお茶でも飲んで貰おう。

「どうぞ。シンジが入れた物に比べれば、美味しくないかもしれませんが」
「気を遣わずとも構わんよ」
「申し訳ありません、変な事御願いしてしまって」

アタシの力じゃ無理だったので、司令をリビングの上座に案内した後、食事を用意する間にシンジをベッドに運んで貰った。

「テーブルの上散らかっちゃってて済みません。直ぐお出ししますから……どうなさいました?」

まだテーブルの上には、さっきのオードブルとグラスが残っている。
アタシは急いで片付けようと、皿とグラスをトレイに戻そうとした時。
その時目に入った司令の姿は、一組織の責任者という感じはしなかった。
シンジが空けたウィスキーグラスを手にして、殆ど溶けてしまった氷水をくゆらしながら、深い溜息を一つ。

「いや、皿はそのままでいい。それを頂こう」
「えっ? でも、これオードブルですよ?」
「充分だ」
「でも……いえ、それなら追加で何かお作りします」

空になっている皿だけアタシは片付けた。
が、司令はまだ空のウィスキーグラスを手にしていた。

「あの、新しいグラスお持ちしますけど……」
「酒は出して貰わずとも結構だ。ただ……時間が過ぎるのは早い、と思ってな」
「時間……ですか?」

485:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:15:01
時間、ねぇ?
学校に居る時なんかは、早く終わらないかなぁって思う位、ゆっくり時間が過ぎてる様な。
でも休みの日はあっという間に一日が過ぎた気がする……っていう感じの事を言ってるのかしら。
アタシは何故かその時、キッチンに戻らずに席に着いて、司令の話を聞いた方が良い気がした。

「うむ。時間が過ぎる……いや、子供の成長は早いと言った方が正しいかも知れん」
「成長ですか……」

アタシはトレイを絨毯の上に置き、下座に腰を下ろした。

「私の記憶の中では、シンジは幼かったからな。この町に呼び寄せた後でも、長い間、最後に別れた時の姿のままだった。
 それが、もう十七かと思うと……感慨深い物が無いとは言えん」
「そうなんですか……」
「オロオロしていたら、あっという間に成人式になりそうでな」
「成人って、日本では二十歳ですよね。まだ三年もありますよ?」
「この年になると、三年はあっという間に過ぎる」
「まだそんな事おっしゃるお年でもないじゃないですか」
「いや、そんな年だろう。今となっては私の年代など、次の世代への腰掛程度に過ぎんよ」

司令はそう話すと、ウィスキーグラスをテーブルに置き、もう一つ溜息を着く。
そして、少し冷めた湯飲を手にし、玉露を一口啜り上げた。

「入れなおします」

冷めてしまった物を勧めるのは、あまりいい気がしないものね。
アタシは席を立とうとしたら、やんわりと止められてしまった。

「そう気を遣う必要もないだろう。何れは義理の親子になるのだからな」
「……ぁ」

486:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:15:30
残念ながらアタシとシンジは、公には同棲中の恋人同士だと見られているが、少し事情が違う。

「それは……」
「何だ、違うのか?」
「……それは、まだ判らないと思います。医療部からの報告はご存知ですよね?」

アタシはともかくシンジからはまだ、正式なリアクションは無い。
だから今のアタシの立場は、限りなく恋人に近い同居人でしかない。

「無論だ。だが、あれは……シンジはどうやら私に似た部分が多い。もしかしたら、私よりも不器用かも知れん。
 口下手過ぎる部分も私から似たのかも知れん。物腰の柔らかさだけはユイから受け継いだ様だがな」
「そうなんですか?」
「シンジが君の傍に居る事を望んだ事は確かだ。引越しにしても、君と離れる事だけは嫌がった」

初耳だった。
アタシは単に、いきなり同居は難しいという事とリツコに気兼ねしているから、アタシとの同居を選んだのだと思っていた。
それが、不器用なシンジなりの司令とリツコへの気遣いだと。

「初めて聞きました。引越しに関してはアタシはお二人の事を思って、シンジなりに考えた事だと思っていましたから」
「君達は……お互いに話し合って、今ここに居るのではないのかね?」
「いいえ、アタシは違います。アタシはただ、待ってるだけなんです。シンジが答を出すのを。
 確かにシンジは不器用で、口下手ですけど……アタシの問にはきっと、答えてくれる筈ですから」
「……そうか」
「はい。お食事、用意しますね」
「頼む」

アタシはキッチンへ向かう為に席を立った。

487:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:16:03
何を作ろうかと冷蔵庫の中を見ながら考える。
少しボリュームのある物が良いと思うのだが、何が作れるだろう?
ドアポケットを見ると、卵が幾つか残ってた。
チルド室にはサラダの残りのハーブ……バジルだ。
オードブルにはクラッカーとパンがまだ残っている。
スパイスはいつも充分な量を切らさないようにしているから……。

―バジルソースが作れそうね。と、すると……うん、これで行こう。

アタシは戸棚からボールと電動泡立て器を取り出すと、卵を冷蔵庫から取り出し、室温に馴らす為に放置した。
その間にバジルの葉を取り出してから細かく刻み、バターとスパイスと一緒に炒める用意をしておく。
後は卵を割り、白身を泡立て、黄身と胡椒を混ぜてふんわりとフライパンで焼き上げるだけ。
焼き上がったらバジルを炒めてソースにし、焼き上げた物にたっぷりと掛ける。
オムレツのバジルソース掛けの出来上がり。
小さめの卵一個で作ったから、それ程胃に重い量でもないだろう。

「お待たせしました。お口に合うと嬉しいのですけれど……」
「旨そうな匂いをしているな。頂くとしよう」

司令がオムレツに箸を入れる。
多分半熟になっていると思う……けど、大丈夫かしら?
……あ、ちゃんと黄身がとろりとしてる。
良かった。
緊張して思わずトレイを抱き占めちゃった。

「……味も良いな」
「有難うございます」

司令が食べている間に、アタシはポットを手にもう一度キッチンに戻り、お湯を沸かし直してお茶を入れた。

488:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:16:44
「司令、さっきのお話ですが」
「うむ」
「確かにアタシ、シンジからはまだ何も言って貰ってません。でも今は、それでもいいと思ってます」
「何故かね?」
「前にもシンジに言ったんですけど、アタシは今こうしていてくれる事だけで充分だと思ってます。
 そりゃあ、きちんと言って貰えない事は哀しいです。将来、アタシの手を取ってくれる確証が無い訳ですから。
 でもアタシ達は出会った最初から、普通ではありませんでした。お互い憎みもしましたし、恐怖の余り殺そうとも思った事も。
 それでも、アタシはシンジが愛おしいと思いました。憎むほど気に掛けて居てくれたんですから。
 だから、今はシンジの答を待ちます。もしその結果、シンジがアタシの手を取ってくれたのなら、アタシは嬉しいです。
 手を取ってくれなかったとしても、シンジが幸せを掴めるのなら、アタシはそれでもいいと、今は思います。
 それ以上に、シンジはアタシに大事な事を気付かせてくれましたから、アタシは充分です」
「しかし……私は、君には済まない事ばかりしてきた気がする」

そんな事、ない。
だって、司令から召喚の命令が無ければ、アタシ達は出会う事など無かった。
アタシとシンジの人生が交わる事など無かった。
だから、アタシは胸を張って言えます。

「いいえ、アタシは感謝してます。命令が無ければ、アタシは日本でシンジと逢う事なんて無かったと思いますから。
 だから、アタシから言える言葉は『有難う』なんです。母の事は残念だったと思います。でも、職務だったんでしょう?
 アタシが恨み言言う方が、母に叱られてしまいます。母がエヴァに未来を託したのは事実ですから。
 それを否定する様な事なんて、言えません」
「そう……か」

489:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:17:18
それから後、会話は無かった。
出来なかった、と言う方が正しいと思う。
司令はとても忙しい方だし、いつも帰宅は深夜になる位と聞いている。
今日の様にアタシが司令とこんなに長い時間、話せる事の方が珍しい。
それに、さっき話した事以外の話題が見付からなかったのもある。

そうこうしている内に、司令が帰ると言い出した。
確かに、もう日付が変わっている。
隣の部屋なので見送るも何もないのだけれど、アタシは玄関迄見送る事にした。

「……旨かったよ。また機会があれば、頼みたい物だが」
「いつでもどうぞ。シンジが喜びます。シンジったら、まだ司令と顔を合わせるのが恥ずかしいだけなんですよ」
「そうか……それとだな、アスカ君。一応君はシンジの……私の息子のパートナーだ。
 出来ればその、司令というのは止めて貰えないかね」
「でもそれは……」
「一応、日本での保護責任者は私になっている事だしな」

えーっと……これって、もしかして……そういう事?
何か、顔が凄く熱い。
もしかしてアタシ、顔が真っ赤になってるんじゃないかしら?

「嫌なら別に司令のままでも構わんが…・・・」
「そんな、嫌とかじゃなくて……有難うございます。でも『お義父様』とお呼びするのは、シンジの答が出る迄取って置きます。
 取り敢えず今は、『おじ様』で。宜しいでしょうか?」
「構わん。では、な」
「お休みなさい、おじ様」

490:21TH CENTURY BLUES ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:17:52
夢みたいだった。
司令が、アタシを……。

―夢じゃ、ないわよ……ね?

アタシは、頬を抓ってみた。

「……ッたぁい」

痛みがある。
という事は、夢じゃない。

その後に皿を片付けているアタシの顔は、多分にやけていたと思う。
でもってそれは、暫くの間アタシの顔に居座り続けた。
だって、翌朝のそのそ起きて来たシンジがアタシを見て、こんな事言ったのよ?!
随分失礼よね、これって!

「……アスカ、何か変な物でも食べたの?」

シンジ……アンタ、お仕置決定。

当然、司令との事は当分内緒にしておく。

491: ◆Yqu9Ucevto
09/01/05 03:21:37
あけおめことよろおひさしでござい。
正月の一コマだったり。
取り敢えずアスカ、ゲンドウ公認って事でヨロ。
今年こそ本編共々何とかしたいでありまするので、見捨てないでつかーさい('A`)

492:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/05 15:47:16
Good job!

493:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/05 17:16:27
素晴らしい!

494:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/05 20:58:31
今年の初LASが良作でよかったよ

495:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/05 21:00:51
GJ

今年もいろんなもの楽しみに待ってます

496:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/07 18:43:32
遅ればせながら 
GJ!!

497:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/07 20:07:39
あいかわらずうまいなGJ

498:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/01/22 23:09:50 IEcjLpMK
凄くイイ!

499:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/02/05 23:57:25
マチ

500:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/02/06 00:07:24
職人降臨町

501:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:03:18
コイ ハ トテモ アマイ モノ
アマイ アマイ サトウガシ
オンナノコ ハ アマイモノ デ デキテイル


「だーかーらー! もう廃業したっつってんだろ。いい加減シツコイな、お前らも」
「そう言わずにさぁ、頼むよぉ!」

最近、休み時間になるとよく見る風景。
相田が何故か、他のクラスの生徒に追っかけられている。
今日は授業中迄追いかけられているみたい。
今は体育の授業中で隣のB組と合同授業だから、仕方ないと言えばそれ迄なんだけど。


「何なの、アレ? 珍しい事もあったものね」

アタシは横に座っていたカナとミハルに聞いてみた。

「あぁ、アスカは転校してきたから知らないんだっけ?」
「この時期はどうしても男女関係なく気になるからね」
「何が?」
「うーん、アスカと碇君には関係無い事よねぇ……」
「ついでに私達も関係ない」
「はぁ? 意味わかんないわよ?」

あっさりとカナとミハルに言い切られてしまう。
何が何だかサッパリ解らない。

「要するに、同じクラスだから必要無いのよ」

……更に解らなくなった。

502:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:04:42
「アスカの場合は聞かない方が良いと思うよ。腹立つだけだから」
「相田君の副業絡み、って言えば解る?」
「じゃあ聞かないでおくわ。でもアレって……」
「うん、已めちゃった。アタシ達もびっくりなんだけどねー」
「相田君ってカメラ命! って感じだったから、小学校からの付き合いの奴は驚いてたもんね」
「へぇ……アイツ、そんなに昔からやってたんだ」
「男子相手には小学校からみたいだけど、女子相手には中学から? ま、何処にでもミーハーな奴は居るって事よ」

シンジとぎこちない仲直りをして以来、相田は盗撮写真の販売を已めてしまった。
理由は知らない。
多分、シンジは知ってるんだろうと思うけど。

「で、それが何であの騒ぎに繋がる訳?」
「もう直ぐバレンタインが近いでしょ?」
「……バレンタインって?」

カトリックに関する行事だという事は、アタシでも知っている。
でもその日に行われる行事の内容迄は余り解らない。
ドイツに居た頃は、勉強しているか訓練しているか眠っているかのどれかだった。
周囲に優秀だと認めて貰いたくて必死だったから、カレンダーは日付位しか気にした事が無い。

503:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:05:21
「もしかして……アスカってば、知らないのぉ?」
「バレンタインって行事があるのは知ってるけど……詳しい中身迄は知らないわ」
「ドイツにはバレンタインって無かったとか?」
「そりゃああるけど、そういう行事って余り気にした事が無かったの」

二人とも目を丸くして顔を見合わせてる。
アタシ、何か変な事言ったのかしら?

「……案外、アスカってヌけてる?」
「この場合は損してる、じゃなぁい?」
「随分な言われ様ね?」
「だって、女の子のお祭りみたいな物じゃない! コレを知らないなんて損以外の何物でもないわよぉ?」
「言えてる。アスカ、知らないなんて勿体無いわよ!」

アタシ、随分色んな事知らないままだったんだな。
それが良くない事だったとは思わないけど、アタシには女の子として色々と欠けているんだろう。
カナの言う通り、損をしてる部分の方が多いような気がして、ショックだったのは事実だ。
でもそれよりも、兵士として育ったアタシが女の子と言えるのだろうかという、疑問の方が遥かに大きかった。

504:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:05:54
確かに今、アタシは恋をしているんだろうと思う。
断定ではなく暫定しか出来ないのは、アタシ自身の気持ちが整理出来ていないからだ。
単純に、好き嫌いだけなら理解出来る。
けれどアタシにはまだ、細かくその感情を判断する事が難しい。
シンジが一番大事だという事だけははっきりしている。
でも、使徒と戦っていた頃の加持さんへの気持ちとは違う気がする。
あの頃の気持ちは嘘じゃない……。
ただ、どう違うのか上手く説明出来ない。

「で、相談に来た訳?」
「うん……御免なさい、リツコだって忙しいのに」
「気にする事無いわ。でも、どうしたものかしら……」

コーヒーを一口啜ると、リツコは少し困った笑顔を浮かべた。

「いい、アスカ? 一つずつ確認していくわね」
「うん」
「今一番大事な人、これはシンジ君で間違いない?」
「そうね……やっぱりシンジが一番だと思う」

今のアタシの心の中で、一番大きな割合を占めているのは間違いない。
そりゃあ、他にも知っている男の人は居るけれど。
でも顔と名前を知っている程度としか言えなくて、いま一つピンと来ない。
一緒に暮らしていて身近な存在という事を抜きにしても、あの時に知った事はアタシにとって衝撃的な事ばかり。
アタシという存在の根本を揺るがした。
そういう事から考えれば、やっぱりシンジが一番だって言える。

505:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:06:32
「じゃあ、次ね。シンジ君と一緒に居る時と、加持君と一緒に居た時を思い出してみて」
「ん……シンジと加持さんね」
「一緒に居てドキドキしたかしら?」
「……うーん、多分。でも、シンジと一緒だと少し違うかも」

そう、確かにドキドキはするの。
でも加持さんと一緒に居た時のドキドキよりも、シンジと一緒に居る時のドキドキの方がちょっと苦しい。

「ちょっとだけだけど、苦しいの。何て言うか……ドキドキし過ぎて、時々泣きたくなる感じがする」

加持さんと一緒に居た時のドキドキは、今思えば嬉しくてドキドキしてた感じ。
だけどシンジと一緒の時は、嬉しいけど苦しい。
変よね、これって。
他には……そう、これを忘れてはいけない。

「後ね、加持さんには見ていて欲しいって感じがした。シンジは……見ていたいけど、苦しいの」
「でも、自分が女の子かどうかが解らないのね?」
「うん……今日もね、学校で話していて思ったの。アタシ、普通の女の子らしい事って本当に知らないんだなって。
 確かにアタシの染色体はXXで、生物学的にも遺伝子的にも女性の体だっていうのは解るのよ。
 でも、アタシは兵士としてずっと訓練を受けて来たから……いざ話を振られても、何も答えられない事も多くて……。
 それに、アタシ自身のシンジへの気持ちが、本当に恋なのか自信が無いわ」

アタシがそう言った時のリツコの顔は、少し悲しそうに見えた。

506:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:08:28
「貴女が精神的に年相応でない部分があるというのは、ドイツから着任した時から解っていた事なのだけど……。
 御免なさい、これは私達大人の責任ね」
「そんな事ないわよ。だって、エヴァはチルドレンしか乗れないんでしょ? アタシのママはコアの中だったんだし」
「でも、何も対策を行わなかったという責任はあるわ。気を配るべき立場だったのは確かなんだから」
「あの時は仕方なかったんだって、アタシもシンジも解ってるわ。だから気にしないで?」

だって、みんな何処かで少しずつ狂っていったのは確かなんだもの。
それでも職務は果たさなければならなかったし、あの状況で果たしたという事は凄い事なんだと思う。
アタシだって、よく生き残ったなって思う位、あの一年は凄まじい物だった。

「……有難う、アスカ」

それからアタシは、リツコからの質問に答えていった。
シンジと一緒じゃない時は不安かどうかとか、一緒に暮らしていてどう感じるかとかの日常の事を中心に。

「母さんの言っていた通りね。男と女はロジックじゃない」
「どういう事?」
「アスカ、貴女は間違いなく女の子よ。ただ、順番が少し違ったのね。だから余計に解らなくなってしまったの。
 普通なら恋をして、好きな男性と結ばれるのだけれど……貴女の場合は逆だった様だから……」
「でもアタシ、あの時は……」

あのホテルでの時は、まだアタシはシンジに対して良い印象は無かった筈。
むしろ、憎んでいたと言っていいと思う。
少しずつシンジに対しての気持ちが変わり始めたのは、保護される少し前からだもの。
何処で話が食い違って来てるのかしら?

「ドイツから取り寄せた物も含めて、心理テストを精査したのよ。膨大な量だったから少し時間が掛かってしまったけれどね。
 深層心理内では使徒戦の頃から、一番身近に感じている異性はシンジ君だったわ」

身近に……それは一緒に住んでいるなら当たり前の事だと思うけれど?
でも、リツコの言葉からだとどうやら違う様だった。


507:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:09:27
「確かに、異性という点では加持君も身近だったとは思うわ。でも……貴女の場合は父性に対する要素が欠けていた。
 どちらかと言えば、加持君の場合は父性の割合が大きかったと見ていいと思うの。MAGIも同じ回答を出したわ。
 それにね、第十五使徒との戦闘記録と照らし合わせれば、やっぱりシンジ君しか考えられない。
 ただ……自覚したのが遅かったという事が、今の貴女の迷いに繋がっているのだと思うの。」

第十五使徒……最低で最悪な記憶しかない。
一言で表せば、見たくもない幻覚を延々と見せ付けられた、と言えるかも知れない。
そう言われれば、シンジの姿を見た様な記憶が朧気に残っている。
じゃあ、あれって……。

「アタシ、自覚してなかっただけなの……? じゃあ、加持さんは……」
「小さな子供がよく言うでしょ? 『パパが一番大好きなの』って。あれとよく似た物じゃないかしら、初恋はパパだって奴よ」
「そうなんだ……」
「そういう精神的な部分の成長を、貴女は色々と飛び越えて迄訓練や勉学に打ち込んでいたのよね……」

そうなのだ。
アタシが一番気になるのはソコ。
アタシはチルドレンとして選ばれてからは、殆ど同年代の子供と接する事が無かった。
今は、友達も居る。
でも……転校して来てからの暫くの間は、正直どう接していいのか判らない事も多かった気がする。
必要以上に強気なのは、幼い頃から大人の中で過ごしたアタシなりの処世術みたいな物だ。
大学卒業という大きなカードがあったからこそ、許された部分もあったと思う。
そうでなければ只の生意気な小娘に過ぎない事も、今では解る。
だからこそ、アタシは必要な何かを置き忘れてきた気がしてならない。
家事だって下手だし、料理だって、裁縫だって、何一つ満足に出来ないと言っていい。
本当に、シンジへと向ける気持ちが恋と呼べるのか、アタシには自信が無い。

508:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:12:15
「でも、心配しないで。アスカ、何処から見ても貴女は女の子だわ」
「本当に……? アタシ、女の子に見える? 料理だって下手なのに……得意な事って、格闘技位しかないのに。
 全然可愛く無いわよ? 意地っ張りだし、乱暴だし……」
「そんな事ないわ。今は違うじゃないの。料理だって、シンジ君に習って少しずつ覚えているでしょう?」
「まだ簡単な物しか作れないわよ……」
「それでも、努力しているでしょう? 誰の為にしているのかしらね?」

瞬時に脳裏に浮かぶのは一人だけ。
アタシが料理を食べさせてあげたいと思う人。

「シンジ……」

クスクスとリツコが笑う。

「ほら、直ぐに名前が出るじゃない。それこそ貴女がシンジ君に恋している一番の証拠よ」
「あ……」

そっか。
そんな簡単な事で良いんだ。
アタシ、そんな事も解らなかったんだ。

509:愛らしく生きてゆくんです、絶対 ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:12:44
「貴女は誰から見ても恋する魅力的で可愛い女の子よ、アスカ。焦らなくていいの、少しずつ恋を楽しみなさい。
 それが、一番大事な事だから」
「ありがと……リツコ」

少しだけ、気持ちが楽になった。
アタシは、アタシのままで良いって言われた気がして。

リツコの言った通り、焦らず少しずつ、出来る事から始めてみよう
家事だって、料理だって、まだまだ下手だけど上手になりたい。
何時かはシンジに美味しいって言って貰いたいもの。


でも……一番の問題は棚上げされたままなのよね。
バレンタインが女の子のお祭りだなんて、日本って一体どういう国なのかしら?
これは聞いてみなくちゃダメだわ。

「ねぇ、バレンタインって何する日なの?」

510: ◆Yqu9Ucevto
09/02/14 05:20:52
ケンスケを追いかけてる人は写真の売上や買いに来た人で貰える数やライバルを調査したい人だったりー

チョコをあげる前段階の話ですが、一応アスカが目覚めたという事でw

511:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/02/16 00:35:07
GJです!
チョコ作りに奮闘するアスカが目に浮かぶ…

512:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/02/16 01:16:08
うお、投下あったの気づかなかった
当日に反応できずスマン

職人GJ!

513:Rain, rain, go away ◆Yqu9Ucevto
09/03/14 03:25:24
「相変わらずボケボケとしてるな」
「否定はしないよ」

薄暗い空を眺めながら、地面に腰を下ろし息を整える。
訓練の成果は多少なりともある様で、この町に来る前に比べたら整う迄の時間は短くなった気がする。

「何考えてるか判んない位ぼーっとしたまま走ってるのに、気付いたら追い抜かれてるし」
「それは気の所為じゃないかな? ペース配分が狂わなければ、誰だって走れるさ」

トラックを走る周回遅れの生徒を目で追った。
今にも雨が降りそうな天気の日に、グラウンドで長距離走だなんて少し無謀な教師だ。
湿気た空気と季節外れの生温い空気が気持ち悪い。
これ以上無い位テンションの低さで、無造作に傍らの地面の上に脱ぎ捨てられたジャージの上着の固まりを漁る。
自分の上着を見つけるよりも、隣に座るケンスケの分を見つける方が早かった。

見つけた上着を手渡しながら呟く。

「嫌になってくるけどね」


体育館の方からは女子の歓声が聞こえて来る。
あの様子だと多分、バレーボールかバスケットボール。
長距離走の選択は、男女一緒には体育館が少し狭いからなんだろう。
いいとばっちりと言えなくもない。

「そういやさぁ、今年は卒業式無いんだよな。でなきゃ準備で体育館だって使えない筈だし」

サードインパクトの影響で、特別措置として今年はもう一年同じ学年をする事になる。
僕らは二回中学三年をする、という事だ。
毎年のこの時期なら、高校受験直前で余裕が無い。
そう考えると今年は実に暢気だ。


514:Rain, rain, go away ◆Yqu9Ucevto
09/03/14 03:26:18
「まぁね。その代わり来年は大変じゃないかな。予想だと移住者は暫く増え続ける一方らしいから」

移住者が増えるという事は生徒も増える分、高校受験は狭き門になる。

「特別措置って、それを見越した救済じゃないかって思うよ」
「俺……受かる自信無いんだよなぁ……」
「一年余裕貰ったんだから、何とかなるさ。と言うか、何とかしないとダメなんだけどね」

自分に言い聞かせる様な物だ。
僕だって、そんなに成績には自信は無い。
二年の終わり頃からは授業は休みがちだったのもある。
正直、この町に来てからまともに授業を受けたと言えるのは、サードインパクト後からかも知れない。
多少は診察や検査で抜ける事はあっても、精々一日か半日程度だ。
使徒戦の頃の様に何日も連続でという様な事は無い。

「碇はまだ良いよ、俺とは頭の出来が違うからな」
「それこそ買い被りさ。別に頭の出来が良かった訳じゃない。昔はそれしかする事が無かっただけだよ」

この町に来る前。
あの頃は無気力で、趣味らしい趣味も無く、自堕落にもなれず、時間を消費する方法を知らなかっただけだ。
家事だって、先生に何も言われない様にと片付けていただけ。
その家事も済ませてしまえば、後に残るのは何もする事が無い。
かと言って、眠るにも早過ぎる時間を消費するのは苦痛だった。
先生に薦められたチェロだって惰性で続けただけだし、夜の練習は近所迷惑になる。
結局の所僕に出来たのは、つまらないその日の授業のノートや教科書を流し読みして、眠気をひたすら待つ事だけ。
勉強だの復習だの、大それた事をしていた訳じゃない。

「本当に出来が良い奴は、授業を受けるだけで理解出来る奴の事だと思うよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんさ」

515:Rain, rain, go away ◆Yqu9Ucevto
09/03/14 03:28:56
周回遅れの生徒の数が減っていく。
だがそれとは逆に、空の重さは増していく。
雨が降りそうな中、特に会話もせずぼんやりとした時間が過ぎていく。
僕とケンスケだけじゃなく、他の走り終えた奴の間にも会話は無かった。
トラックを走る生徒の足音だけが響く中、ケンスケが口を開いた。

「なぁ……最近何か考えてる事でもあるのか?」
「何が?」
「転校生が来てクラス中騒いでる間でも、我関せず、って顔してる。授業だって、割とボケっと窓の外見てるだろ?」

雲の色が灰色を濃くしていく。
僕の頭の中も、比例して灰色に染まる。

「そうかな?」

僕の返答を聞いたケンスケの溜息が殊更大きく耳に響く。

「惣流の奴がじーっと見てるの、気付いてねーな?」
「アスカが?」
「この間から色々突っ込まれてるんだぜ? 俺が何か吹き込んだのかってさ」
「何それ」
「俺が言うのも筋違いなんだろうけど、お前らちゃんと話してんの?」
「さぁね? アスカがしてないって言うなら、してないんじゃないかな?」

話をするって事自体、一体何だろうと思う事がある。
大体、今更何を話せとでも言うんだろうか。
今迄の事、今の事、これからの事。
確かに数え上げれば切りが無いだろう。

「お前、それ無責任」
「仕方ないだろ……何言えば良いのか判らないんだからさ」

516:Rain, rain, go away ◆Yqu9Ucevto
09/03/14 03:30:47
そう、判らない。
言葉に意味を持たせようとすると、声が出なくなる。
どう言っていいのか上手く言葉に出来ない事が苛立たしい。

「例えば? 何が言いたいのか判らないじゃあ、アイツだって納得しねーぞ?」

ケンスケが言う事も尤もだと思うけど、言葉にならないのはどうしようもない。

「ボキャブラリーが貧弱だってのは理由にならないよね?」
「多分、な」

元々そんなに喋る事に慣れている訳じゃない。
色々と頭の中で考えてはいても、口に出すのと出さないのとでは勝手が違う。

「頭の中で考えれば考える程、判らなくなってく訳じゃないんだ。たださ、このままで良いのかなって」
「このままって?」
「言葉が見付からないままで良いのかなって」

別に難しい事を考えている訳じゃないのに、口に出せないのがもどかしい。
悪循環だという事は解ってる。
気をとり直してみようとはするけれど、結局の所堂々巡りにしかならないのが僕のダメな所だ。

「……自分でも、馬鹿だなって思うよ。考える程の事じゃないんだって。でも、考えなきゃいけない気がするんだ」

胸に残る痛み。
血の臭い。
爆発音。
あの時の事を、繰り返し、繰り返し、頭の中で再生する。
やっぱりどうしようもなく弱いんだ。
再生されたイメージを、僕はまだ思い出に出来ないから。

「だから、僕はまだ何も言えないんだと思う」

517:Rain, rain, go away ◆Yqu9Ucevto
09/03/14 03:35:40
暫くの沈黙の後、頬に冷たい物が触れる。

「あーあ、授業終了迄持たなかったな」

ぽつぽつと大きな雨粒が落ちる。
地面に小さな穴が明いていくのが、チカチカと目に痛い。

「まぁ、何が悩みの元なのかは知らないけどさ……って、冷てぇ!」

ケンスケが先に立ち上がった。
他の生徒は雨粒に気付いたと同時に、半数近くが校舎に戻っている。
けど、僕は急いで戻る気にはなれなかった。
ヨロヨロと立ち上がる僕の背に声が投げられる。

「お前の場合は、惣流が心配する様な事をしないって事だけで良いんでねーの?」

それだけの事で?
何も言えない僕のままでも、いいって事?

「ほら、早く戻らねーとマジで風邪引いちまうぞ?」

ぼんやりと立ち尽くす僕に、再びケンスケから声が掛かる。

「ぁ……うん、判った。すぐ着替えないとダメだね、これじゃあ」


教室に向かいながら、上着を脱ぎ廊下で立ち止まる。
他のクラスは授業中で一層静けさが際立ち、小さな声でもよく響く。

「ま、悩んだ分だけ男はデカくなるって言うけど……そんな簡単にはいかねーよなぁ……」


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