07/12/06 01:12:54 zeto7K9z
無人の商店街を一人の少女が歩く。
スカリエッティの作り出した戦闘機人の開発ナンバー4、クアットロはご機嫌だった。
先ほどの放送によればまた一人、自分とドクターの敵である機動六課の人間が死んだのだ。
(うふふのふ~。全く、螺旋王には感謝したいものですわ。ドクターの敵を労せず片付けてくれるんですから)
偽善者ぶった連中のことだ。
螺旋王を逮捕しようと動き回っているのだろう。
そして勝手に殺し合いに巻き込まれ、次々に死んでいくに違いない。
その想像に、クアットロは思わず頬を緩ませた。
もちろん、彼女自身もその殺し合いに参加させられている。
だが、クアットロはいつだって他人を操る側だった。
無力な命を弄び、蹂躙し、もがく様を観察するのが彼女の定位置なのだ。
今回も他の参加者を操り、殺し合わせ、最後の一人になってみせる。
最初は少ししくじったが、何、肩の傷もあの男に埋め込んだDG細胞を使って治せば万事解決だ。
そんなことを考えながら、クアットロは重傷の男にDG細胞を埋め込んだ辺りにやってきた。
何やら遠くで火災が起きているようだったが、あからさまに危険そうな場所にわざわざ一人で出向く必要はない。
まずは苗の経過を見るつもりだったのだ。
だが、そこにいるはずの実験体は、どこに行ったのか、姿がなかった。
場所を間違えたかとも思ったが、残された血痕から見て、ここに間違いはない。
「あら、あらあら~? まさか、もう動けるようになったの?」
少々驚きながら周囲を探索していると、別の強い血の香りがクアットロの鼻をついた。
その臭いの元はどうやら一軒の店舗のようだった。
(これはもしや……)
クアットロはなるべく息を、足音を殺して店の中へと入っていく。
中に入って飛び込んできたのは予想通り血の赤。
辺り一面には赤黒く染まったタオルが散らばっていた。
予想とは違ったのは死体そのものの有無だ。
とはいえ、その残された血の跡からして、ここでおそらくは複数人が死亡したのは間違いない。
(殺害方法は近接武器による刺殺や斬殺……ってところでしょうか?)
弾痕や銃の薬莢などがなく、屋内であることから狙撃などによる銃殺も考えにくい。
特殊能力による殺害という線もあるが、辺りにそれらしき焦げ跡、破壊痕もない。
おそらくはここにあの男の身体を運び込んだ集団が仲間割れを起こしたか、侵入してきた第三者によって殺害されたのだろう。
いずれにせよ、争った形跡がほとんどないことから、不意をついての一瞬だったに違いない。
(一人で来たのは下策だったかもしれませんわね)
ゲームに乗った殺人者がこの辺りをうろついているとしたら、クアットロも危ない。
冷静に考えれば、早々にこの場を離れ、ヴァッシュの元に何食わぬ顔で戻るのが良策だろう。
だが、クアットロはどうしても気になることがあった。
(う~ん、それにしても……。なんで死体がないのかしら?)
あのDG細胞を植え付けた男もおそらくは死んだだろうが、その細胞の効果がいかほどであったか、確認したい。
それに、ここで死亡したであろう、他の参加者はどうなったのか?
さきほど、螺旋王は放送で言った。
命と引き換えに螺旋力に目覚めた者がいる、と。
ここで死亡した者がそうだとしたら?
螺旋力がいかなるエネルギーか、想像もつかないが、その死体には螺旋力の痕跡が残っているのではないか?
DG細胞と螺旋力、この二つの未知なる存在への好奇心がクアットロの冷静さと慎重さを削いだ。