06/07/11 23:51:05
いつも思うんだけど、あれって海じゃなくない?
245:角
06/07/11 23:51:09
#今日はこんくらいで。
#次の更新でやっとLRSになれそうな予感。
246:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:00:55
>>245
乙。
247:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:02:18
キモイってば、投下すんな!
248:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:02:26
>>244
どういう意味で?
「湖」って書き方のFFもあるね。
249:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:04:42
スレリンク(eva板)
250:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:07:04
>>247
一つのスレにここまで執着するとはな。
ガキはさっさと寝ろ。
251:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:08:41
>>245
乙。 LRSwktk
252:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:13:02
>>250
一つのスレに執着するな、さっさと寝ろ!
253:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:17:50
このスレ臭いヨー
254:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:19:46
みんなでこのスレに突撃しようぜ
スレリンク(eva板)
255:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:26:15
>>254
それが何の役に立つんだ?
256:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:26:54
λ
( ヽ
( )
(____)
/ \ λ
λ / / \ .\. ( ヽ ________
( ヽ | (゚) (゚) | .( ) /
( ) | )●( .| (____) < もぐレイ大好き
(____) \ ▽ ノ / つ \
ヽ__ \. \__∪ / ./ 丿  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
\  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄  ̄ ̄ ,/
λ  ̄| | ̄ ̄ λ
( ヽ . | | ( ヽ
( ) |⌒\| |/⌒| ( )
(____). | | | | | (____)
| \ ( ) / |
| |\___人____/| |
| | | |
257:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:27:59
VIPがなんちゃらっつうクソスレが立ってからアホが増えて困る
258:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:37:53
>>257
アホも減るだろ。どっかのスレで通報されてる馬鹿も出てたし。
259:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:42:15
>>258
どっかのスレの通報者の誰かさんGJ。
260:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:46:23
スレリンク(eva板)
スレリンク(eva板)
スレリンク(eva板)
スレリンク(eva板)
GJ
261:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:50:28
>>258
kwsk
262:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:52:17
スレリンク(eva板)
263:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 00:53:56
>>261
スレリンク(eva板)
このスレ見てこい
264:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:00:16
>>263
通報のつの字もないが?
265:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:06:04
間違えた
スレリンク(eva板)
こっち
266:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:07:25
____
/ \
/ _ノ ヽ、_ \
/ o゚((●)) ((●))゚o \ VIPではやりたくないんだお…
| (__人__) |
\ ` ⌒´ /
____
/ \
/ _ノ ヽ、_ \
/ o゚⌒ ⌒゚o \ もうVIPにはいられないんだお…
| (__人__) |
\ ` ⌒´ /
____
/⌒ ⌒\
/( ●) (●)\
/::::::⌒(__人__)⌒::::: \ だからエヴァ板でやるおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
| |r┬-| |
\ `ー'´ /
267:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:09:50
>>265
透明あぼんされててわからない
詳しく
268:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:13:34
よくわからんがこれも通報ってやつか?
URLリンク(c-au.2ch.net)
269:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 01:20:20
,.、‐'"´:/:::::ィ:::/ :/ ヽ `ヽ、:::::::::\
,、' 7゛:::::::l:::::/ ::/ / j |\ ` ヾ、::::::::::\
/::::::::: l ::イ l / / !| _ヽ、 i、 ヽ::\_::ヽ
/::::::::i: ', l | ;l /_,、‐'゛__,_ヽl \ ヽ::::::::::ヽ
i::::::::::::i, ノ、ヽヽ i ! |" ,'/◎/ ` ノ\ `:、ヽi:::、::::ヽ
/:::::/:: i、,| ヽ>、、 ! `  ̄`゛´ _,.;'ィ::::::;:〉、 i、 i::::ヽ::::l
/イ::/i:: l、i`r'゛__ '゛´/::/:/ ヽ!':, | ::::ヽ::l
゛ ! |l '; !'、/◎/< ‐ ,::゛ィ:::/ ゛ /! :::::`/
';!|!; '、`、 ̄ ̄ ` / ´ /::/ / / i .:::::::l
ヽ!`;、ー`=- \________/ /:/ ,.、''ッ‐',イ l ::::::/
li:::`ヾー \ / /‐'゛,、': '" / /ノ:::/:l/
|l:::::::、`:.、_ \/∪ / ィ´:::::/
'、;::i:: `i‐-ミ=‐ ∪ ∪ /:'゛ |!'!:/´
270:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/12 11:30:13
私を虐待して
スレリンク(eva板)
■警告ですよ■
このスレにはグロテスクな表現が含まれています。
このスレの書き込みはアナタの精神や身体に悪影響を及ぼし、
深刻な結果を招く危険があります。
忍耐のない方や嫌悪感を感じる方はお引取り願います。
sage進行でお願い!
271:角
06/07/13 16:21:04
test
272:角
06/07/13 16:25:18
>>243の続き
少年はもはや無言だったが足を止めようとはしない。
冷たい波が時折顔までかかる。
やるべき事もなく、たった独りで無意味に老いて死んでいかねばならぬ自分の運命。
これはその運命への反逆だ。
『やりたいことも無いので僕には生きていても意味が無い』
かつて「将来の夢」という作文を書かされたことがあった。そこに書いた一文。
あのころも自ら未来を切り開くことに消極的であった。
今考えてみると余りにも皮肉だったな。少年は微かに笑みを浮かべた。
顔が水面から殆どでなくなっても少年は前進をやめようとはしなかった。
もがきながら一歩一歩を踏みしめた。
そして空気をほとんど使い果たした時、
LCLの混じった冷たい海水を力いっぱい吸い込んだ。
無論、エントリープラグの中のように酸素で飽和してなどはいない。
高い塩分濃度の海水で肺が焼けているように感じる。
初めてEVAの中でLCLを肺に満たしたころを思い出しながら、
シンジは自分が死ぬのを待った。
#えらい荒れてるみたいなんでエヴァSSデータベースの投稿掲示板 に書き直したやつ投稿しときました。
#いよいよ綾波を登場させられそうです。うまく描けるかな?
273:角
06/07/13 16:26:30
第一に、「死に損なった」と感じた。
また意識を取り戻しているのがその確たる証拠だ。
呼吸をするのは苦しかったが確かに呼吸している。
僕は僕自身の不甲斐無さに強く落胆した。
涼しい風が浜辺を吹き抜けている。閉じた瞼を通して微かな光を感じる。もう明け方なのであろうか。
しかし瞼を開ける気にはならなかった。波の音だけが聞こえる。
気を失って再び砂浜に打ち上げられたに違いない。
ぼくの右手を何かが掴んでいる。
振りほどこうとしたとき、僕はこの感触におぼえがあることに気づいた。
僕は目をあけた。
「気がついたのね…。碇君。」
透き通った、紅い瞳が僕を見下ろしていた。
274:角
06/07/13 16:30:02
しばらくショックで何も考えられなかった。
最後に逢ったのはサードインパクトが発生した時以来だ。
赤い海の中で彼女に再び一人の人間して生きると約束した。その時以来。
彼女も赤い海から戻ってきたのだ。
「綾波…、生きてたんだ…。」
しゃがれた声で僕は呟いた。
「何故、死のうとしたの?」
突然の質問。
僕の手を握るその手に力が入る。
「た…たった独りで生きろなんてそんなの僕には無理だよ!
世界で僕ひとりなんだよ!
それになんのために生きるのかも分からなかったんだ!単に生きて、老いて、死んじゃうだけなのに!」
僕はこの世界へ来て二ヶ月近く、心の中に閉じ込めていた思いを一気に吐き出した。
僕自身にぶつけることしか出来なかった思い。
僕は無意識のうちに手を振り解き立ち上がっていた。
「碇君…。」
綾波が立ち上がって数歩僕に近づいた。
「近寄らないでよ!君は僕が…僕が二ヶ月も苦しんでるのを黙ってみてたんだ!
酷いよ!なんで、なんで今更現れるんだよ!」
僕は手を我を失って叫んだ。
275:角
06/07/13 16:32:55
強烈な平手打ちだった。
元々ふらふらだった僕は体を支えきれずに僕はそのまま砂浜に倒れこんだ。
「フィフスの思いさえあなたは理解してなかったのね。」
僕を見下ろしながら綾波は静かに言った。
そう、フィフス、渚カヲルは何かを求めていた。
そして得た、碇シンジという少年。
彼が任務を遂行する上で最大の障壁となることが予想された存在。
にもかかわらず。
「それくらい…分かってるよ…」」
「それなら葛城三佐やセカンドの思いは理解できたのかしら。
僕はどこまで彼らを理解できたろうか。
自らを責めることによって彼らのココロを理解することから逃げていた。
「何故あなたはまた現実から逃げようとするの?」
幾度も他人に救われたにもかかわらず、その恩を忘れて。
僕はもう現実から逃げない。あの言葉を忘れて。
結果生まれた逃避行動の一つが、自分の存在を消すということ。
結果として何も生まないことは分かっていたのに。
地面が揺らいでいるように感じる。
僕は砂浜に倒れたまま嗚咽した。
綾波はその様子をただみつめていた。
276:角
06/07/13 16:36:43
しばらくして、僕はやっと落ち着きを取り戻した
「綾波…ありがとう、助けてくれて…。なのにあんなこと言ってしまって…。
許してくれるワケ、無いよね。」
「私は許さないわ。あなたのこと。」
半ば予想してはいたが、その言葉は強烈だった。
僕は沈黙した。
そして数分の時が流れた。
「もう起きても大丈夫なの?」
「え…?」
「今日一日、寝ておきなさい。」
「あ…う、うん。」
綾波の毅然とした言葉に僕は反論できなかった。
そして、彼女はまだ僕を見捨ててはいない。
そのことがなにより嬉しかった。
でもこれだけは言っておかないと。
「綾波…、なんか着たほうが…いいよ?」
#ぐああー、綾波難すぎ
#絶対うまく描けてないよなぁ
277:角
06/07/13 16:38:23
>>276続き
「碇君、これ。」
綾波は僕をテントの中に寝かすと紅茶を差し入れてくれた。
ほろ苦くて、暖かかった。
暖かいものが食道を通じて胃に溜まってゆく感覚。
僕は心の底から綾波に感謝した。
278:角
06/07/13 16:40:06
その晩、テントの中で僕と綾波は二人仰向けになって床に就いた。
波が繰り返し打ち寄せる音だけが響く。
僕は思い切って聞いてみることにした。
「綾波は、どうやってこの世界に戻ってこれたの?」
「声が…聞こえたの。」
隣で寝ている綾波の体に微かな震えが走った。
「碇君の…碇君の悲鳴…」
僕は絶句した。
そして、綾波は突然僕にすがりつき、僕の胸に顔をうずめて泣き出した。
「私は…私は碇君だけは失いたくなかったの。
もうあなたの悲鳴は聞きたくなかったのよ!お願い…。」
綾波は本当に震えていた。
後にも先にも、綾波が取り乱すのを見たのは初めてだった。
「もう僕は死なない。死なないから…。
御免よ…綾波…」
僕には震える綾波を抱きしめることしかできなかった。
ひどい罪悪感を感じた。
#こんなので…いいの…かな…?
#ストック使い果たしたんでまた書きなおさな。アディオス!
279:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/13 16:55:55
>>278
乙。
1.
> 最後に逢ったのはサードインパクトが発生した時以来だ。
とか
> 僕は手を我を失って叫んだ。
とか。
こういうのが混ざってると気が散る。
2.
> #ぐああー、綾波難すぎ
> #絶対うまく描けてないよなぁ
……言い訳ミグルシス
君の描きたい綾波がどんな綾波だか、君以外の誰に分かるってんだ。
3.
ついに綾波キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
続きwktk
280:角
06/07/13 17:40:13
綾波に出会って二日後、ある程度体力の回復した僕はここを引き払おうと決心した。
もう食料も尽きてきたしいつまでも此処に留まっていても無意味だと感じたからだ。
それに、僕たちが住める場所をみつけなければ。
「それじゃあ、行こうか。」
生活用品を詰めた大きなザックを担ぎながら綾波に声をかけた。
「ええ。」
綾波は動き回り易い服装で小さなリュックサック。
最後に海水の溜まった巨大なクレーターを振り返った。
中心に浮かぶ巨大な顔は今日も焦点の合わさらない視線を天に向けていたが、
こころなしか大きさが小さくなったようだ。
綾波の顔をちらっと盗み見たがいつも通り感情は読み取れなかった。
いつも通りの綾波だ。
ただ、じっとクレーターの中心を凝視していた。
彼女が振り返った。
「行きましょう。碇君。」
オレンジ色の夕日の下、僕たちは海沿いに移動を開始した。
今度こそ、何かをみつけるために。
#>>279
#その通り、自信持って書いていきます。
#
#次の更新はちょい遅れるかも。
281:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/13 18:38:26
>>280
乙。
282:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/13 20:42:16
⊂二二( ^ω^)二二⊃ブーン
283:角
06/07/13 20:47:49
,.、‐'"´:/:::::ィ:::/ :/ ヽ `ヽ、:::::::::\
,、' 7゛:::::::l:::::/ ::/ / j |\ ` ヾ、::::::::::\
/::::::::: l ::イ l / / !| _ヽ、 i、 ヽ::\_::ヽ
/::::::::i: ', l | ;l /_,、‐'゛__,_ヽl \ ヽ::::::::::ヽ
i::::::::::::i, ノ、ヽヽ i ! |" ,'/◎/ ` ノ\ `:、ヽi:::、::::ヽ
/:::::/:: i、,| ヽ>、、 ! `  ̄`゛´ _,.;'ィ::::::;:〉、 i、 i::::ヽ::::l
/イ::/i:: l、i`r'゛__ '゛´/::/:/ ヽ!':, | ::::ヽ::l
゛ ! |l '; !'、/◎/< ‐ ,::゛ィ:::/ ゛ /! :::::`/ うひゃひゃひゃひゃここ気に入ったお!!!
';!|!; '、`、 ̄ ̄ ` / ´ /::/ / / i .:::::::l
/::::::::i: ', l | ;l /_,、‐'゛__,_ヽl \ ヽ::::::::::ヽ
i::::::::::::i, ノ、ヽヽ i ! |" ,'/◎/ ` ノ\ `:、ヽi:::、::::ヽ
/:::::/:: i、,| ヽ>、、 ! `  ̄`゛´ _,.;'ィ::::::;:〉、 i、 i::::ヽ::::l
284:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/13 22:33:15
>>280
おっつ
285:角
06/07/14 16:29:15
>>280書き直し
綾波に出会って二日後、ある程度体力の回復した僕はここを引き払おうと決心した。
もう食料も尽きてきたしいつまでも此処に留まっていても無意味だと感じたからだ。
それに、僕たちが住める場所をみつけなければ。
少なくともここから半径100kmの円内にそれは無いのだ。
綾波も承諾してくれた。
「それじゃあ、行こうか。」
生活用品を詰めた大きなザックを担ぎながら綾波に声をかけた。
以前の僕ならこんなもの背負っていたとしたら立っているだけで苦痛だったかもしれない。
知らず知らず力がついてきた証なのだろうな。
「ええ。」
綾波は男性用の半袖シャツに長ズボンで小さなリュックサック。
最後に海水の溜まった巨大なクレーターを振り返った。
中心に浮かぶ巨大な顔は今日も焦点の合わさらない視線を天に向けていたが、
こころなしか大きさが小さくなったようだ。
綾波の顔をちらっと盗み見たがいつも通り感情は読み取れなかった。
いつも通りの綾波だ。
ただ、じっとクレーターの中心を凝視していた。
突然彼女が振り返った。
「行きましょう。碇君。」
黄金色の空の下、僕たちは海沿いに移動を開始した。
今度こそ、何かをみつけられるような気がした。
286:角
06/07/14 16:31:51
私は暖かくて明るい世界を漂っていた。
無限の広がりをもった自我。
どこからが私でどこまでが私なのかが分からない。
…私は誰?
そんなことは今の私には無意味に感じられた。
私は悩みや悲しみ、苦しみにも抑制されずこの世界を漂い続けることができるのだ。
私が望むだけ。
そして、過去の辛い記憶、形容しがたい複雑な感情も形骸と化している。
残るのはそれが存在していた事実のみ。
魂の安息。まさにその言葉が相応しい。
突然、誰かの存在を認知した。
この世界が生まれて以来始めて出会った他人。
ちっぽけではあるがその存在は私の中で誇示されていた。
「邪魔しないでよ。」
だが純粋な興味に惹かれてもう少し対象物を感知しようとした瞬間、
私の中に絶叫と悲鳴が爆発した。
魂の安息は中断させられた。
287:角
06/07/14 16:36:09
単なる肉体的な痛みから来た悲鳴ではない。
生きていながらも生きる意味を見出せないことへの焦り。
「誰か」の「誰か」自身に対する怒り。
孤独が生んだ絶望。
それら全てが凝縮させられた悲鳴だ。
絶えて久しい感情を一気にぶつけられた私は混乱した。
そして、「誰か」は確実に息絶えようとしていた。
私には「誰か」が死ぬということがあまり好ましい事態であるとは考えられなかった。
…「誰か」が死ねば再び安息の時を享受できるわ。好きなだけ。
駄目だ。理由は分からないけどそれはまずい。
…それなら、彼を助けに行くのね。
勿論だ。
私は迷い無く答えた。
次の瞬間、私の意識がある一点に収縮されていくのを感じた。
ここからが私のカラダ。ここまでが私のカラダ。
私は赤い海の波打ち際に立っていた。
足元には「誰か」が血の気を失って倒れている。
「碇…君…?」
288:角
06/07/14 16:38:04
「碇君っ!」
私は目を覚ました。冷や汗で衣服が体に張り付いている。
慌てて彼の無事を確認した。
隣では彼が安らかな寝息を立てていた。
「夢…」
以前の私は決して悪夢など見なかった。
夢をみても決して何も感じなかった。
私は感情の振幅が激しくなってるのかしら。
亡くなった赤城博士はこのことを「感情の振幅」と言った。
いえ、理由は分かっている。
私が彼の悲鳴を聞いたあの瞬間、彼の心が私の中に流れ込んできたときのことを思い出した。
ドロっとして、胸を締め付けるような感情が渦巻いていた。
あれが、人のココロ。
あれが、彼のココロ。
まだ外は暗い。
彼を起こさないようにテントから這いだした。
289:角
06/07/14 16:39:57
東のほうが微かに明るくなっている。
今日の野営は山間の扇状地。
山地が盾になったためこの辺りだけは奇跡的に緑が残っている。物資も調達できた。
私は脱衣し、近くを流れる川に肩までつかって不快な汗を洗い流した。
冷たい清水が肢体をくすぐる。気持ちいい。
昂った神経が冷やされてゆく。
この川も上流に住宅地を擁する以上、かつては汚染の憂き目を見たに違いない。
だがヒトがこの世界から消え去ってまもなく三ヶ月、その水は信じられないほど澄んでいた。
ざばあっ…
レイは川の清水を両の手で掬い上げ、次第に明けゆく空に思い切り散らしてみた。
理由は特になかったが、飛び散り、広がり行く雫の一粒一粒がたまらなく美しく感じられた。
レイは自然と微笑んでいた。
#SSデータベースの投稿BBSに総集編放り込んどきました。
#やっと一区切りつきました。
#次の更新は月曜日になります。
290:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/14 16:42:23
>>289
乙。
291:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/14 18:11:43
>>289
乙
これ結構長くなるのかな?
292:角
06/07/14 18:19:52
はぁはぁはぁ…
うっ…ピュッ
「また綾波でヌいちゃった…」
#これで完結です、みなさまありがとうございました。
293:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/14 19:51:26
トリップつけないと騙りが出るな
294:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/14 20:53:18
>>293
本人乙
295:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/15 03:17:43
しょっぱなから
「 波 」
って言われちゃムリ。読むのムリ
296:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/15 10:17:25
>>295 w
297:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/17 08:24:48 KtjMvhMI
「碇君…起きて…」
「うぅ…」
既に日は高く昇っているのに彼は目を覚まそうとしなかった。
ゆり動かしても、小さく唸るだけ。
余程疲れていたのだろう。
思えばここ一週間ほど、歩きっぱなしだった。
歩いても歩いても瓦礫や土砂の影響で距離を稼げない毎日にも関わらず、
焦らずに常に私のことを気にかけてくれていた。
「急がなくてもいいよ。綾波のペース歩こう。」
その言葉が嬉しかった。
もう少し寝かしてあげよう。
とりあえず、彼が起きる前には朝食を作らなければ。
調達できた食料はほとんど缶詰やインスタント食に限る。
調味料もそれほど所持していない。
さらに、普段、食事はシンジの役割だった。
だが、少しでもシンジの負担を減らそうとしたかった。
#鳥つけました
#今日もよろ。
298:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/17 08:25:51 KtjMvhMI
調達できた食料はほとんど缶詰やインスタント食に限る。
調味料もそれほど所持していない。
さらに、普段、食事はシンジの役割だった。
だが、少しでもシンジの負担を減らそうとしたかった。
「チャーシューメン…」
真空パックされたチャーシューがセットされている高級インスタントラーメン。
チャーシュー抜きで二人前作ることにした。
「…何かないとお腹が減るわ。」
流石に食卓が寂しいことに気がついたのか、缶詰のシーフードを加えた。
熱湯に放り込んでから三分が経過した。
「これは…何…?味が無いわ…。」
セットには粉末のスープも追加されていた筈だが何処へいってしまったのやら。
困りきって食料を漁っているとザックの底にインスタントカレーが転がっているのに気づいた。
途端にレイの表情がぱっと明るくなった。
ミサトカレーの再来である。
299:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/17 08:26:39 KtjMvhMI
朝食が準備できたところでシンジが目を覚ました。
「ご、ごめん、寝過ごしちゃったみたいだ。」
「朝食、できてるわ。」
「えっ?」
明るい青空の下、平然とカレーのようなものを食べている少女の隣で悶えながら「それ」を胃に流しこんでいる少年の図。
かつて少女が独り暮らししていたころ、一体何を食べて生息していたのだろうか。
「あ、そ、その…ラーメンとカレーは…ちょっと。」
「どうかしたの?」
「た、確かに美味しいんだけど
う、うどんとかならもっと美味しいと思うよ。」
「うどんなら、もっと美味しくなる?」
「も、もちろん。」
食事の後、異常にどもりながらシンジがレイに一言忠告した。
だが根源的な意味での忠告はシンジには不可能であろう。
300:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/17 08:28:37 KtjMvhMI
「綾波、疲れてないんだったらそろそろ行こうか。」
テントを折りたたみながら碇君は私に呼びかけた。
「ええ。」
私はリュックサックを整理しながら返事をした。
この一週間、毎朝繰り返されていた旅立ち。
毎朝、巨大なザックを持ち上げることのできる碇君を私はじっとみつめていた。
重いはずなのに私の前では決して愚痴を言わなかった。
そう、彼は逞しくなった。精神的にも肉体的にも。
出会ったころ、まだ私の方が数センチ高かった身長も今では彼に追い抜かれてしまっていた。
彼に当時の弱弱しさは全くといっていいほどみうけられない。
その彼が自分で自分の命を絶とうとした。
私はその件に関しては絶対に彼を許そうとはしなかったしこれからも許すつもりはない。
だが彼の絶望とはどれ程のものだったのか。
一瞬の間、彼の意識の深淵を覗きみたとはいえ私には想像のつかないものだった。
私もいずれはあのような感情を持つようになるのかしら。
私は微かな畏れを感じた。
突然私は影におおわれて思考を中断された。
気がつくと碇君が目の前に立っていた。
「準備はできた?行こう。綾波。」
普段と変わらない優しい声で、彼は私に手を差し出した。
私は少し戸惑いながらその手を掴んで立ち上がった。
大きくて暖かい手だった。
301:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/17 08:32:33
ぐうっ、またsage忘れちゃった。
俺の馬鹿。
大体ストーリー自体の骨格は出来てきました。
もしかしたら後でもう一度更新します。
ストーリーが重くなりすぎるのも嫌だなぁ
ちょっと時間を下さい。
302:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 09:49:17
角は死ねよハゲ!
303:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 12:00:45
>>301
乙
でもカレーラーメン結構好きだぞおれ。カップヌードルでもカレー味あるし
304:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 17:11:56
た。た。た。た。た。た。た。た。
典型だな。
305:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 17:47:37
>>301
乙。
また人称がぶれてるよw
>>302
鳥つけられたからってw
どっちかって言うと藻前が死ぬことを望むよ。 bless you.
>>304
角 ◆uTN4HfUPlw について言ってるんなら、事実誤認だろうな。
306:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 18:07:46
自演乙
307:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 18:34:36
>>305
お前が死ねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
308:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:28:29
暗くしたくないな。まあしばらくお待ちを。
とりあえず一気に三章終わらせちゃうよ。
>>305
フォローありがとうございます。
人称のことなんですが、そもそも登場人物二人だけなので許してやって下さいw
309:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:29:45
久しぶりにドラム缶風呂を沸かすことにした。
僕は一ヶ月、綾波は一週間以上、風呂に入っていないのだ。
濡らしたタオルで体中を拭いたとしても限界がある。
僕、あるいは綾波が異臭を放ちながら歩き回るようなことは得策とはいえまい。
それに溜まって来た疲れを飛ばすには風呂が一番だということは学習済みだ。
石鹸は調達した。
燃料は足りなかったものの、かなりの量の湯を沸かすことができた。
肩まで浸かることは諦めなければならないとはいえ、湯を気が済むまで浴びることはできるはずだ。
とりあえず先に綾波に入ってもらって後で浴びることにした。
かなり疲れが取れるのではないかとは期待してはいたが、最近の疲れはかなり本格的で湯を浴びたくらいではどうにもならないようだ。
第一、ドラム缶で湯を沸かす事自体重労働だ。いたずらに疲れただけかもしれない。
黙々と体を擦る。やれやれ。
310:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:31:09
突然、後ろでボソッと声がした。
「碇君。」
「綾波!?」
「背中、流すわ。」
「ぼ…僕、裸なんだよ!?」
慌ててタオルを腰に巻きつける。
「それがどうかしたの?」
「どうかしたのって…僕は男なんだよっ?」
「そのタオル、貸して。流すから。」
駄目だ、全く聞く耳を持ってくれない。
そもそも意味が通じていない。
僕は観念した。
綾波は力をこめて背中を擦ってくれた。
僕は間違いなく真っ赤になっていたと思う。
でも、背中を擦ってくれたあの感触は、何故だか忘れられなかった。
311:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:32:07
旅立ちから十日余り、碇君が倒れた。
ある日、出発しようと私が立ち上がったとき、後ろで『どさっ』という音がした。
振り返ると碇君が地面に突っ伏していた。
私が駆け寄ると、
「あ、あぁ、大丈夫…大丈夫だから…」
彼はか細い声を返したが、その声はいたく頼りなかった。
そして彼は私の肩を手がかりに再び立ち上がろうとして、バランスを崩して転んだ。
私は彼に押し倒される格好になった。
地面に彼の脂汗がぽとぽとっと落ちた。
彼の口から苦しそうな吐息が漏れる。
ここで私は彼の状態を理解した。
「碇君!」
「う…」
額を触ると驚くほど熱く、呼吸も速い。
慌ててテントのビニルシートを天蓋状にして即席の日陰を作り、そこに彼を寝かした。
恐らくは風邪だろうが楽観はできない。
水で湿らせたタオルを額に乗せ、一時しのぎとした。
だが出発した時点で長い行程になるであろうことは明白であるにも関わらず、
一切風邪薬の類を調達していなかったのは大きな失策だった。
312:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:33:34
「碇君、そこで待ってて。薬探してくるわ。」
一時間ほどしてやっと発見した薬局。
割れたショーウィンドウの向こうの床には何組もの衣服が無造作に散らばっていた。
私自身はこのような光景を目撃するのは初めてだったにも関わらず、特にこれといった感情は持たなかった。
「風邪薬、これね。」
念のため数種類の風邪薬を確保して、私は薬局を後にした。
そして彼のところに駆け戻った。
313:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:35:52
風に揺れる天蓋の下、彼の額に乗せたタオルが地面に落ちていた。
碇君が、いない。
私はパニックに陥った。
彼のあの病状で出歩くなんて自殺行為だ。
あの熱で。歩くことさえ難しいのに。
数分後、100mほど離れたビルの陰で碇君が壁にもたれているのを発見した。
私は彼の顔に荒っぽく冷水をかけた。乱暴だとは思うがとにかく解熱剤を飲ませなければ彼が危ない。
辛うじて目覚めた彼はうわ言のように呟いた。
「う…く…薬くらい…僕が…探してくるよ…綾波は…待っててよ…」
「碇君、薬ならここにあるわ。飲んで。」
私は無理やり彼の口に解熱剤を放り込み、飲み込ませた。
「ごめん…ごめんよ…綾波…」
意識が朦朧としながらも彼は何かを謝った。
彼がよく反射的に口にする「ごめん」とは何か違っているような気がした。
彼が再び気を失ったのでテントの中に引きずり込み、そこで寝かせた。
二時間ほど見守っているうちに呼吸が安定してきたので私は安心した。
だが、一つ気になる事柄があった。
…彼はさっき何を謝っていたの?
私には全く思い当たる点がなかった。
314:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:36:48
彼は数時間おきに私が水分と薬を与える時以外は昏々と眠り続けた。
翌日の夕方、熱が下がり、やっと彼は話をできる状態に戻った。
「また迷惑…かけちゃった…ごめん…」
「碇君、あなたは昨日何を謝っていたの。」
私は不用意にも聞いてしまった。
彼の声のトーンが突然上がった。
「綾波は…君は…見てしまったんだろ、あれを。
君には…君にだけはあれを見てほしくなかったのに…」
「碇君…私は別に何も…」
「あれを見て苦しむのは僕だけでよかったんだ!
なのに…なのに…!」
彼は一気にまくしたてた。
315:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:39:08
私の脳裏にふと、閃くものがあった。
薬局の薄く埃の積もった床に散らばる衣服。
ヒトがその場所で形を失った証。
私はあの時初めてその光景を目撃した。
…何故?
いままで壊れた食料品店や工務店に物資を得るために入り込んだのは碇君ただ一人だから。
…何故?
私が入ろうとした時、常に碇君はやさしく私に話しかけた。
「中は狭いし、ガラスが飛び散ってて危ないから綾波は外で待ってて。」
それは嘘だ。
彼は私にそれを見せたくなかった。
…何故?
彼は、他の人々を消してしまったのは彼の深層心理と私だということを知っている。
彼は加害者意識に苦しんでいた。
『僕が、みんなを消してしまった…』
もしかして、もう一人の加害者である私にも同じ苦しみを与えたくなかったの?
316:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:40:29
しかし、あの光景を見ても私は何も感じなかった。
…何故?
私が大切なのは碇君ただ一人だから。
既にいなくなってしまった人の事を考えても意味が無いと感じたから。
これは、変なの?
私が変で碇君が正しいの?
私が正しくて碇君が変なの?
地上に二人しかいない現在、いつまで経ってもこの問いに結論は出ないように感じた。
しかし。
赤城博士が生きていたらきっとこう言ったでしょう。
「あなたは人間じゃないから。造られた存在だからよ。」
確かに私は周囲の人間とは違った。
心も、体も。
今考えてみれば違っていて当然だ。
しかし私はその言葉を否定し続けていた。
だが今、その言葉が急に現実味を帯びてきたように感じた。
317:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:43:11
私は現実に引き戻された。
目の前の碇君は寝袋の上にうずくまっていた。
「碇君…ごめんなさい。」
私は声を絞り出した。
生まれて初めて自分自身を憎いと感じた。
暫くの沈黙の後。
「…もういいよ。」
318:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:44:42
あの日の晩、明かりを消したテントの中で綾波はポツリと言った。
「私は碇君に対して何もできなかった。」
声が震えていた。
綾波はそれでも言葉を続けた。
「私はただの足手まといでしかなかったわ。」
僕は思わず大声を出した。
「そんなことないよ!」
「いえ、私は碇君に無理をさせていた。
碇君が無理をしていたのにも気づかなかった。
それなのに、私は碇君に対して何もできなかったわ。」
「違う!違うよ…、綾波が…君がいなかったら僕は生きていけなかったよ!
僕には綾波が必要なんだ。
自分は要らないなんて考えたら駄目だよ!
僕こそ、君に隠し事ばっかりしていた。
僕こそもっと早く、君に相談するべきだったんだ…」
テントの中は真っ暗だったけれど。
僕は綾波の顔を、綾波は僕の顔を、暫らくの間じっとみつめた。
319:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:46:00
「碇君、あなたは私が必要なのね?」
「うん。」
「私は要らない人間じゃない…」
「もちろんだよ。」
「…」
綾波は何も言わなかった。
320:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:47:30
僕は倒れた電柱を乗り越えた。
30kgを超える荷物を担ぎながら朝から晩まで歩き続けることは苦痛以外の何でもなかったが、
先行する綾波の姿をみていると不思議と心が落ち着いた。
あの一件以来、僕と綾波の関係は微妙に変化していた。
何かが。確実に。
旅は僕が風邪で倒れていた日を除いても二週間以上歩きっぱなしだった。
昨日の夜、綾波のかかとに血が滲んでいた。
ひどい靴ズレにも関わらず綾波は一切そのことを話さなかった。
だが記憶では前方のあの丘を越えればその向こうは以前と変わらない日本があるはずだった。
321:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:49:39
そして、僕達は丘を越えた。
「あっ」
綾波が小さく声を上げた。
綾波、どうしたの、と聞こうとしたとき、僕にもその理由が分かった。
視界に広がる森が黄色や紅色に変わっていた。
セカンドインパクト。
僕が生まれた年、世界は季節というものを失った。
紅葉というものを僕も綾波も記録映画や写真でしかみたことがなかった。
十五年間続いた夏。でも僕も綾波も特に変だとは感じなかった。
セミの鳴き声が聞こえなくなったのはいつからだろうか。
そして今、日本と呼ばれていた島々に絶えて久しい秋が訪れようとしていた。
僕が拾ってきたデジタル腕時計によると、2016年4月2日。
澄んだ秋晴れの下、ついに僕と綾波は我が家を手に入れた。
322:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:53:01
ストック使いきっちゃいました。
頑張ってまた書きます。
第三章はこれで終わりです。
次の投稿は遅れます。
323:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 11:35:57
ニート乙
324:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:33:47
、 /⌒⌒丶
、 ′ 从 从)
、 ヽゝ゚ ‐゚νボイーン
⊂二二ヽ・人・ノ二二⊃
| ./
( ヽノ
ノ>ノ
三 レレ
325:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:36:01
/∵∴∵∴\
/∵∴∵∴∵∴\
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|∵/ (・) (・) |
(6 つ | 長沢てめー 生意気なんだよ
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/⌒ - - ⌒\ ../ \
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\ \| 亠 | | ⊂・⊃ ⊂・⊃|
\⊇ /干\|( | ∴ ∪ ∴ |)
| | \ <=> / ふん、本当は気持ちがいいくせに
( /⌒v⌒\_ \____ /
パンパン| 丶/⌒ - - \
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/ ノ\__| |__三_ノ| |
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326:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:37:18
/∵∴∵∴\
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(6 つ | 長沢てめー 生意気なんだよ
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| | \ <=> / ふん、本当は気持ちがいいくせに
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パンパン| 丶/⌒ - - \
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327:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:14:09
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(6 つ | 角てめー 生意気なんだよ
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328:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:15:46
>>322
職人さん乙。
第四章からはシンジとレイの新婚生活?
329:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:24:59
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(6 つ | 角てめー 生意気なんだよ
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330:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:43:40
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(6 つ | 角てめー 生意気なんだよ
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331:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:45:17
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(6 つ | 角てめー 生意気なんだよ
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332:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:50:48
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パンパン| 丶/⌒ - - \
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/ /パンパン| | | |
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333:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:58:04
/∵∴∵∴\
/∵∴∵∴∵∴\
/∵∴// \|
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(6 つ | 角てめー 生意気なんだよ
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\ \_/ / ▲
\____/ /川\
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\ \| 亠 | | ⊂・⊃ ⊂・⊃|
\⊇ /干\|( | ∴ ∪ ∴ |)
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パンパン| 丶/⌒ - - \
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/ ノ\__| |__三_ノ| |
/ /パンパン| | | |
/__/ | | | |
⊆ | | ⊇
334:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 15:21:07
>>322
おつ
335:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 17:20:21
>>322
乙。
336:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:33:39
スレ読みにくいようなのでとりあえず一集から三集までまとめときました。
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.geocities.jp)
337:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:35:10
この家に居を構えてから二日。
もう歩かなくてもいいという安堵からか碇君はこの家から動こうとしなかった。
一日中、ごろごろしているだけだ。
その気持ちは分からなくもないが、私はこの町をもっと知りたいと思った。
「碇君、少し散歩してくるわ。」
私は玄関で靴を履きながら暗い家の中に向かって呼びかけたが返事は無かった。
おおかた、また眠ってしまったのだろう。
大きな庭のある私たちの家。
近代的な二階建てで二人で住むには十分すぎる大きさだ。
庭にはアロエや名前は分からないけれど様々な低木が植わっている。
当然ではあるが周囲は閑散としていた。
銀杏並木が黄色く色づいている。
誰もいない大通りを秋風が吹き抜ける。
本当にいい天気。雲ひとつない。
特に行き先も考えずに彷徨っているとある建物の前を通りかかった。
「大杉市立図書館」
不思議と、本を読みたい衝動にかられた。
338:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:37:24
入り口の自動ドアは閉じていたが隙間に手を入れて力を入れるとあっさりと開いた。
中は埃っぽかった。
一階は子供用の絵本や小学校低学年向けの本。
二階から三階は大人向けの難しい本が並んでいる。
二階から本を物色して回った。
小説には興味はないので一冊も読まずに棚の前を通り過ぎた。
政治経済…ドキュメンタリー…駄目、全く読む気が起こらない。
実用書コーナーで数冊を借りた。
「はじめてのクッキング」「旦那が喜ぶ料理百選」…など。
いつまでも碇君に負けてるわけにはいかない。
その他、サバイバル本を一冊。
怪我をしたときに応急処置の一つも分からないと困ると思った。
現に怪我しかけたことが二週間に幾度もあった。
三階の資料室には向かわないでそのまま一階に降りた。
339:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:38:13
もう日は暮れつつある。
一階を少し回ってから帰ることにした。
幼児向けの本はほとんど私の興味を引かなかったが、立ち去る間際、絵本の書棚の向こうにもうひとつ小部屋があるのに気がついた。
そこは紙芝居部屋だった。
百いくつもの紙芝居が小さな本棚に所狭しと押し込められていた。
ビニールの大きなファイルに入れられた紙芝居セット。
部屋の奥にある教壇の上で子供達に向かって読まれていたことだろう。
レイはそのうちの一つを手に取りビニールファイルから紙芝居の束を取り出した。
題名が気になったのだ。
そして教卓の上にきれいに並べると静かに、はっきりとした声で読み出した。
誰もいない紙芝居部屋にレイの声が響いた。
「100万年も しなない ねこが いました … 」
340:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:39:02
私が家に着いたとき、空は暮色に変わっていた。
「ただいま…」
碇君が出迎えてくれた。
エプロン姿の碇君。かなり似合っている。
「おかえり。遅かったね。」
「図書館に行ってたの。」
「へえ…本を読むのが好きなんだ。綾波って。」
「ええ…」
ここで私は家の中が明るいことに気がついた。
「そういえば電気がついてるけどどうしたの?」
「あ、そうそう。裏の倉庫を探ってたら発電機が出てきたんだよ。
ガソリンは十分余ってるから使うことにしたんだ。
一階だけだけど、電気が使えるよ。
じきに二階も使えるようにするつもりなんだ。」
私が出かけている間に発電機を配線に取り付けて電気系統を生き返らせたという。
彼にそんなことが出来たなんて。私は感心した。
341:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:39:51
「すごいわね、碇君。」
「いや、それほどじゃあないよ…」
彼は赤くなった、が突然、
「しまったっ」
突然何か焦げ臭い匂いがしたのだ。
彼は庭に駆けつけた。
「うわー、やっちゃった…」
冷凍の秋刀魚を七輪で炙っていたようだが、話に夢中になってしまって焦がしてしまったようだ。
焦げる、というよりも火がつく寸前のような状態に見えた。
うちわが地面に放り出してある。
失敗ではない。大失敗である。
何故だか、少し嬉しかった。
「これはもう食べられないなぁ…」
至極残念そうだ。
「碇君、焼きなおすのなら私にやらせて。」
「えっ、綾波、いいの?
ならお願いしてもいいかな。」
意外とすんなりと彼は了承した。
私は地面に落ちているうちわを片手にした。
342:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:41:34
彼に少しくらいいいところを見せなければ。
私がこんなことを考えるのは初めてのことだと気づいたのはずっと後のことだった。
数分後、彼は言い出しにくそうに私に話しかけた。
「あの…綾波…?」
「何…?」
「そんなに…七輪をみつめなくてもいいんじゃないかな…」
彼は言い終わるとぷっと吹き出した。
「何を笑っているの?」
大笑いしながら碇君は話を続けた。
「だって、綾波がじっとサンマとにらめっこしてるんだもの。面白くないわけないじゃないか。」
私もつられて笑い出すのを感じた。
私、笑っている。
「あはは…綾波も笑うんだ…」
「何を言うのよ…ふふ…あはは…」
すっかり暗くなった空に二人の笑い声が響いた。
343:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:42:30
その日の晩、碇君が発電機の電源を落としにいっている間、私は和室に二人分の布団を準備していた。
その時、窓辺に赤いプラグスーツが丁寧に折りたたんで置いてあるのが目に入った。
突然心の奥に冷水をかけられたように感じた。
私はその赤いプラグスーツはセカンドの遺品であると認識している。
だが彼の中では位置づけが違うのだ。
彼にとっては自らの無力さの象徴であり、
彼がいろいろな意味で憧れていた存在の最後のひとかけらであり、
彼に対してライバル意識を抱きながらも彼に理解してもらいたいと欲した少女の遺品でもあるのだ。
私が欠けた心の埋め合わせとして碇司令を想っていたころ、司令の眼鏡を司令の分身のように大事にしていた時期があった。
しかし、司令の眼鏡とセカンドのプラグスーツを同等のものだと考えるのは早計だろう。
私は思った。
彼はこれを捨てることは絶対にできないでしょうね。
そして、私は急に怖くなった。
私は彼の中ではこれに押し退けられているのではないだろうか。
これは、嫉妬という感情?
344:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:43:40
「モノ」に嫉妬するほど情けないことはない。
赤木博士はかつてそのようなことを言っていた。
いえ。私は赤木博士とは違う。
そう信じたかった。
だが、事実、私は確実に目の前の赤いプラグスーツに嫉妬していた。
他に碇君の気持ちを惹きつける存在があるのが許せなかったのだ。
急に部屋の明かりが消えて私は現実に引き戻された。
碇君が戻ってきた。
「綾波、戻ったよ。」
「じゃあ寝ましょう。」
私は平静な声を装った。
彼にこの醜い感情を知られたくは無かった。
345:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:46:06
それじゃ、今日はこれくらいで。
明日かあさってまた更新します。
346:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 11:49:07
>>345
乙。
347:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 12:20:50
シンジは「冷凍の秋刀魚」なんてどこで手に入れたんだろう?
電気無しでは、冷凍されていても既に溶けて腐ってるんじゃないかと思うんだが。
348:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 21:18:58
ニート乙
349:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 23:01:34
そこを突っ込んじゃマズイ
350:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:05:28
2016年4月5日、この町に来て四日目。
綾波がどうしてもというので僕は屋外にひきずりだされた。
誰もいない大通りを僕達は並んで歩いた。
何百枚もの黄色く色づいた銀杏の葉が風に舞っている。
ここへ来て数日、もう秋は終わろうとしていた。
これからやって来るのは冬。
生まれてから初めて体験するであろう冬に対して微かな不安を感じた。
「綾波、僕達これからどこへ行くの?」
「図書館よ。」
僕は意外な行き先に面食らった。
「図書館?なんでさ?」
「私たちは今年15才よ。本の一冊でも読まなければ馬鹿になるわ。」
「そうかなあ…」
351:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:07:26
図書館に着いた後、僕はすぐさま実用書コーナーに足を運んだ。
『家庭菜園入門』『季節の作物』…
来春には二人が食べる野菜を作らなければならない。
いつまでも乾燥野菜やインスタントに頼っているわけにはいかないからだ。
このままじゃいずれ栄養失調になってしまうし、既存の製品はいずれ腐ってしまう。
困ったことに電気配線に関する本が見つからない。
早く二階の電源も生き返らさなければならないのに。
「貸し出し中か…」
仕方が無い。
どうせ配線も調達しなければならないので専門店をみつけたらそこで探してみよう。
『渓流釣りを極める』…
フィッシング…僕は釣りをしたことはなかったがそろそろ新鮮な魚を食べたいものだ。
道具さえ揃えば…間抜けな魚くらいなら…釣れてくれるかも…。
この本も借りよう。
僕はあまり図書館に行ったことはなかったが、こうしてみると知識の宝庫のように感じる。
僕達は生きていくのにはこれらの知識をフル活用しなければならないのだ。
学問の本の書棚が並ぶ。
タイトルを読むだけで頭が痛くなりそうな本がずらっと並んでいる。
少しくらい馬鹿になったとしても構うものか…
しかし、僕は数ヶ月も本一冊読んでいなかった。
既に少なからず馬鹿になっているだろう。
やはり気になるので適当に数学と物理の参考書を数冊借りていった。
小説コーナーでも数冊面白そうな本をみつけたのでついでに借りていくことにした。
352:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:08:59
ところで、さっきから綾波の姿が見えない。
二階と三階には姿はなかった。
「綾波、どこにいるの?」
薄暗い館内に僕の声が響く。
一階にも綾波の姿は見えなかった。
その時、ふと一階の図書室の奥から微かに人の声が聞こえてきた。
声は図書室の奥の小部屋から聞こえてくるようだ。
「ねこは、白い ねこの そばに いって、
『おれは、100万回も しんだんだぜ!』と いいました。 …」
間違いなく綾波の声だ。
でも綾波は一人でなにをやっているのだろうか。
僕は部屋に踏み込むことができずに、聞き耳を立てた。
「『そばに いても いいかい。』と、白い ねこに たずねました。
「白い ねこは、『ええ。』と いいました。」
静かで、はっきりした声だ。
綾波は何か絵本を読んでいるようだ。
まるで誰かに読みきかせているかのような声。
「ねこは、白い ねこと いっしょに、いつまでも 生きていたいと 思いました」
353:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:09:50
ここで僕は気づいた。
綾波の読んでいる絵本は、僕も知っている。
もう四十年も昔の絵本だ。
僕がまだ子供のころ、母さんがひざの上で読んで聞かせてくれた。
当時の僕はその絵本の意味は分からなかった。
ただ、何か悲しい話みたいだということは覚えている。
「ねこは、はじめて なきました。」
そう。百万回の人生で、百万人の人から百万人分の寵愛を受けながらも自分からは誰一人愛することの出来なかったねこ。
何千匹、何万匹ものねこから求婚されても誰一人愛することの出来なかったねこ。
しかし、百万一回目の人生にして初めて心の底から一匹の白いねこを愛することができた。
自分自身の存在よりも大切なものを得たのだ。
そしてある日、必然的にその白いねこの寿命が尽きたのだ。
ねこは初めて愛するものを失う悲しみを味わった。
百万日間、朝から晩まで嘆き続け、そしてある日のお昼。
「ねこは、白い ねこの となりで、しずかに うごかなく なりました。」
「ねこは もう、けっして 生きかえりませんでした。…」
綾波の声が途絶えた。
僕はしばらくその場から動けなかったが、そっと小部屋から離れることにした。
頭の中で、綾波の声がまだ響いていた。
354:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:10:39
私はこの紙芝居を理解しようと反芻していた。幾度も幾度も。
昨日も碇君は家から出ようとしなかったので私は一人で図書館に通っていた。
そしてこの紙芝居を何回も音読していたのだ。
私はこれを完全に理解できるまで続けるつもりだった。
このねこにとって白いねこはどのような位置づけだったのかしら。
大切なもの…?
このねこにとって白いねこは大切なものだった。
自分自身よりも大切なもの…失いたくない…
私にとっての大切なものは何?
それは碇君…
碇君は私にとって大切なもの…自分自身よりも大切なもの…失いたくない…
頭の中で声がした。
本当にそれは正しいの?
355:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:12:04
かつての私が碇司令の割れた眼鏡を大切に保存していた時期があった。
何故?
何故なら司令は私にとって大切なものだったから。
私にとって司令の存在は自分よりも大切だった。
あの眼鏡は司令の分身だった。
あの眼鏡を守るためだけにであっても自分の命を懸けてさえ惜しくはなかったであろう。
そして私は司令を自分のものにしたかった。
誰のものでもない、私一人のものに。
所有欲。
司令への憧れや想いに紛れてそれは潜んでいた。
司令はモノではなかった。
そして、もちろん碇君もモノではない。
碇君は一人の人間だ。
彼を私一人のものにしたいという発想自体が間違えていた。
私は無意識のうちに碇君をモノとしてとらえていたのだ。
356:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:13:21
セカンドのプラグスーツ。
碇君はモノに心を奪われていたのではない。
あのプラグスーツは既に碇君の心の一部なのだ。
欠けた心の埋め合わせとしての眼鏡とは比べてはならないモノ。
私はそれを見誤っていた。
意地汚い欲望に惑わされ、真実が見えていなかったのは私のほうなのだ。
357:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:14:18
この瞬間から、私は彼を自分のものにしようという発想を放棄した。
彼は彼、私は私だ。彼は私のものではないし、私は彼のものではない。
彼の心の中にむやみに私が干渉するべきではないし、私も彼の心に影響を受けてはならない。
私は対等に碇君と付き合えばよい。
碇君が赤い海の浜辺で力なく横たわっていたあの時、私は必死で彼を助けようとした。
私がひとりこの世界に取り残されるのが怖かったのではない。
大切なモノを失ってしまうのが怖かったのでもなかった。
それなら、彼は私の中でどのような位置づけなの?
ふと、疑問が湧いた。
このねこは白いねこを愛していた。
世界中の何よりも。
私は碇シンジという一人の人間を愛している。
世界中の何よりも。
仮に見返りが無くても構わない。
彼が何を思っていても構わない。
それでも私は碇君を愛することができる。
358:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:16:57
第四集はこれで終了です。
明日投稿する予定だったのですが、マッハで書いてしまいました。
第五集に続きます。
今度こそ、ちょっと遅れます。
359:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 23:27:57
GJ。
『red moon』にリツコがレイに同じ話をする作品があった気がする…。
360:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 00:39:56
角死ね
361:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 02:09:59
>>358
乙。
362:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 13:36:54
>>358
乙~。続き待ち。
363:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:29:48
僕が玄関の外で小一時間ほどまったところで綾波が出てきた。
「綾波、もういいの?」
「ええ。寒いのに待たせてしまって。ごめんなさい。」
「別にいいんだよ。早く家に帰って夕食にしよう。」
綾波の表情が何か晴れ晴れとしているように感じた。
まるで、胸のつかえが取れたような。そんな表情だった。
364:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:31:41
今日の夕食は、綾波に味噌汁を作って貰うことにした。
綾波の手料理は既に経験済みだが、どうしてもと言われては断ることもできない。
僕はある程度覚悟を決めていた。
だが、万が一味噌汁が甘かったらぼくはどのように対処したらよいのだろうか。
そして綾波は賞味期限内の食材を使ってくれるだろうか。
この状況下では食あたりは命に関わりかねないのに注意し忘れた自分を呪った。
いずれにしろもう手遅れだ。
脳内で恐ろしい妄想が繰り広げられていたところで綾波が二人分持ってきてくれた。
見た目は正常だ。
だが中身は…
以前、綾波がミサトカレー改を作った時のころ。
僕はただのカレーにみえたそれにフォークを差し入れた際、何か麺のようなものが大量に絡み付いてきたので戦慄したものだ。
綾波には失礼だとは思うが、今回も同じようなことが無いとは限らない。
とりあえず心を空にして味噌汁を口に運ぶ。
綾波、緊張するから僕が食べてるのをみつめないでよ。
365:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:32:44
…美味しい?
以外にも綾波の味噌汁は美味しかった。
隠し味で調味料も色々加えているらしいし、材料も足りないのに色々工夫している。
野菜も多くてとても健康的だ。
そう。間違いなく綾波の味噌汁は美味しい。
僕はきっと狐につままれたような顔をしていたのだろう。
綾波は心配になったのか、僕に話しかけてきた。
「碇君、お味噌汁…どうだった?」
「あ…うん…とても美味しかったよ。
綾波、味噌汁作るの上手いんだ。」
「ええ…あ、ありがとう」
そして少し戸惑うそぶりを見せてから、言った。
「次から私が夕食作っても構わないかしら。」
断る理由は無いし、綾波の実力は証明済みだ。
前回のは何かの間違いに違いない。
僕は夕食担当を綾波に一任することにした。
「もちろん。僕も綾波の料理、もっと食べたいな。」
自分でいっておきながら、つい僕は赤くなってしまった。
でも、綾波は本当に嬉しそうだった。
366:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:33:43
一日の終わり、碇君は発電機の電源を消しに屋外に出た。
私は窓辺に折りたたんでいる赤いプラグスーツに目を移した。
そして、私はそっと窓辺に近寄りプラグスーツを手に取った。
懐かしい感触だった。
柔らかいが極めて耐久性の高い繊維のそれ。
私たちがEVAに搭乗していたころ、彼女はこれを着ていた。
彼女とともに幾度も死地を乗り越えてきた赤いプラグスーツ。
一昨日のような醜い感情はもう湧いてはこなかった。
ごめんなさいセカンド。
ごめんなさい碇君。
赤いプラグスーツにぽとり、と涙が落ちた。
一滴、二滴…。
発電機のエンジン音が聞こえなくなり、明かりがふっと消えた。
私は涙を拭うとそっとセカンドのプラグスーツをもとの窓際に戻した。
おやすみなさい。
私はそっと呟いた。
367:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:36:43
すんません、やっぱしこれで第四集は終了とします。
区切りの良いとこまでいかないとね、ってことで書いちゃいました。
368:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 16:41:16
>>367
乙
369:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 17:26:38
>>367
死ね!くたばれチンカス野郎!もう2chくんな!
370:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 19:07:42
>>367
乙。
> 材料も足りないのに色々工夫している。
> 野菜も多くてとても健康的だ。
足りないの?潤沢なの?
371:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 21:15:38
ニート乙
372:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 14:54:04
>>370
ヒント:乾燥野菜
373:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:04:01
>>366書き直し
一日の終わり、碇君は発電機の電源を消しに屋外に出た。
私は窓辺に折りたたんでいる赤いプラグスーツに目を移した。
そして、私は静かに窓辺に近寄るとプラグスーツを手に取った。
懐かしい感触だった。
柔らかいが極めて耐久性の高い繊維のそれ。
私たちがEVAに搭乗していたころ、彼女はこれを着ていた。
彼女とともに幾度も死地を乗り越えてきた赤いプラグスーツ。
一昨日のような醜い感情はもう湧いてはこなかった。
ごめんなさいセカンド。
ごめんなさい碇君。
赤いプラグスーツにぽとり、と涙が落ちた。
一滴、二滴…。
発電機のエンジン音が聞こえなくなり、明かりがふっと消えた。
私は涙を拭うとそっとセカンドのプラグスーツをもとの窓際に戻した。
おやすみなさい。
私は呟いた。
374:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:07:11
「綾波、しっかりつかまっててよ。」
次第に砂利で粗くなる山道に自転車を走らせながら碇君は言った。
「ええ。」
この日、4月8日。
私たちは釣りをするために家から5kmほど離れた山の谷間にある渓流に向かった。
図書館で借りた本によるとこの川にはかなり豊富な種類の魚が生息しているという。
当初、碇君は自転車で現地に向かう計画を立てていたのだが、私が自転車を上手に乗りこなすことが出来なかったため、
苦肉の策として碇君の運転する自転車の後部に乗せてもらうことになった。
私はこれまで自転車に乗った事などなかったのだ。
碇君が運転手。私は自転車の後部に釣具を持って座らせてもらうことにした。
お尻が痛かったがこの際文句は言っていられない。
朝、家を出てから一時間と少し。
もう目的地は目の前だがだんだん山道が不親切になってきており、さすがの碇君もかなり息が切れてきたようだ。
倒木も多くなってきた。もう自転車で行くのは限界だろう。
私たちはここから歩いていることにした。
山の中は晩秋の香りが漂っていた。
何百枚もの色づいた木の葉が舞い降りるなか私たちは歩いた。
「碇君、もっとゆっくり歩きましょう。」
「ごめん、早すぎた?」
「いえ、もっと周りを見て歩きましょう。」
375:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:08:30
大体この辺りが本にも書いてあった釣りポイントだろうか。
私は川の上にかけられた木橋から、碇君は数mほど離れた大岩の上から釣り糸を垂らした。
鮎だろうか、たくさんの川魚が泳いでいるのが見て取れる。
15年続いた夏の影響か、巨大なものも泳いでいる。
にもかかわらず全く糸にかかってはくれない。
餌だけ見事にかすめ取られてしまうのだ。
「まあ…僕達、初心者だからね…仕方ないよ…」
碇君は苦笑していた。
だが、今日は昼食をあまり持ってきていなかった。
ここで魚を釣れなければかなりひもじい思いをするのは確実だ。
内心、彼はかなり焦っていたのかもしれない。
だがチャレンジから二時間ほど経ったあるとき、遂に私は一匹目を釣り上げた。
人生で初めて釣った魚にしては食べるには勿体無い程見事なものだった。鮎のようだ。
この魚が馬鹿だっただけかもしれない、と考えたが直後に、二匹目、三匹目と続いた。
ここの魚は余程馬鹿なのね。
だがそれにしても碇君は全く釣れなかった。
昼はとうに過ぎていたがせめて彼が一匹目を釣り上げてから昼食にしよう。
376:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:09:54
そして、昼の二時過ぎについに一匹目を彼は釣り上げた。
やや小ぶりだが立派な鮎だ。
彼は、余程嬉しかったのだろうか釣り糸の先で暴れている鮎をみつめている。
が、糸をぶらさげているだけで何故か魚を糸から外そうとしない。
数秒後、彼はかなり言いにくそうに私に話しかけた。
「…あ…綾波…できれば…魚…外してくれない…?」
「…?」
かなり元気な鮎らしく、釣り糸の先で猛烈に暴れている。
要するに彼は鮎を触ることができないのだ。
「あなたは鮎が怖いの?」
「う…その…死んでる鮎なら触れるんだけど…」
「生きてる鮎は触れないの?」
「…」
彼は赤くなってうつむいた。
377:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:11:30
私たちはその場で生きた鮎を串刺しにして塩焼きにした。
串に刺したのは私なのは言うまでもない。
久しぶりの新鮮な魚に私も碇君も無言でかぶりつく。
冷凍や真空パックの魚とは比べ物にならない。
たまにはこういうのもいいのかも知れない。
隣で豪快に鮎にかぶりついている碇君に目をやる。
私を後ろに乗せて何kmも自転車で走ることができる碇君。
30kgもの荷物を背負って朝から晩まで歩き続けることができる碇君。
どのような家事も楽々こなしてしまう碇君。
その彼が、生きた魚一匹触ることが出来ない。
私は思わず吹き出してしまった。
碇君と目が合った。
駄目、笑いが止まらない。
碇君の顔は真っ赤だったけれど。
その様子があまりに滑稽だったのだ。
378:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:13:20
「綾波?」
僕は後ろの綾波に呼びかけたが、彼女は返事をしなかった。
僕の背中にもたれかかっているようだ。
おおかた、眠ってしまったのだろう。
今日は一日、本当に楽しかったから…
横に吊り下げたクーラーボックスには魚が唸るほど詰め込まれている。
八割は綾波の戦果だ。
今日の夕飯を何にしようかということを考えても良かった。
でも、僕には気になって仕方が無いことがあった。
この数ヶ月間で幾度も反芻していながらも消化しきれずにいたこと。
僕達は世界で二人だけだ。
僕達が生きている間に他の人々が戻ってくることはまず望めない。
そして、綾波はこの世界で唯一の他人だ。
これからの一生、僕は綾波と暮らしていかなければならない。
僕は綾波なしでは生きていけないし、綾波は僕なしでは生きてはいけない。
僕は背中に綾波の体温を感じながら考えた。
綾波は僕の中でどのような位置づけなのだろうか。
379:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:14:43
大切な存在…?
綾波は僕を精神的に支えてくれている。
綾波がいなかったら僕はとうの昔に壊れてしまっていた。
綾波は僕を幾度も死から救ってくれた。
今の僕がいるのは間違いなく綾波のお陰だ。
でも、何か違う。
僕が綾波に対して抱く感情はそれだけでは説明できないのだ。
380:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:16:44
僕は綾波が好きなのかもしれない。
それは僕の勘違いだろうか。
だが、何故だろう。
綾波は異性だから…?
華奢な綾波は僕が護るべき存在だから…?
僕は綾波に近寄りがたい何かを感じていたころがあった。
周りのみんなもそうだった。
誰も綾波を少しも理解することはできなかった。
綾波も誰一人さえ理解することはできなかった。
だがそれを言うなら僕だって同じだ。僕が誰の心を理解できたというのだろう。
ミサトさんの心、リツコさんの心、アスカの心、それとも父さんの心か?
そう、僕だって誰の心も理解できなかった。
人と人とが完全に理解し合うことは決してできぬ、だっけ。
でも、今なら僕と綾波は分かり合える。
互いに分かり合える唯一の存在。
それが僕にとっての綾波であって綾波にとっての僕なのかもしれない。
だからこそ僕は綾波がこんなにも愛おしく感じるのだろうか。
381:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:27:31
「碇君、前。」
綾波の声で僕は現実に引き戻された。
「おっ、とっとっ」
僕は慌てて急ブレーキをかけた。
綾波の顔がごつん、と背中にぶつかる感触がした。
避けられたから良かったものの、危うく電柱に突っ込むところだった。
「考えごとしてたみたい、大丈夫?」
「別にいいわ。碇君、ここ、どのあたりかしら。
私、眠ってたみたい。」
「あ、うん。この坂下って、川渡ったら僕達の町だよ。
あと二十分くらいかな。ゆっくり運転するからさ、綾波は寝といていいよ。」
「ありがとう碇君。今日、本当に疲れちゃって…」
綾波は再び僕の背中にもたれかかって寝てしまった。
余程、疲れていたのかもしれない。
早く家に戻って綾波を寝かせてあげなくては。
そんなことを考えながら僕は夕日を背に受けて自転車を走らせた。
382:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:32:29
今日はこれくらいで。
第四集改訂版うpしときました
URLリンク(www.geocities.jp)
383:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 15:44:12
>>382
乙
さりげないフォロー GJ
384:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 17:04:43
>>382
超GJ。
385:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 21:49:30
なんか久しぶりに盛り上がってるね。
386:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 00:45:18
GJ!いいです
387:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 01:07:32
ニート乙
388:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 12:41:11
ひっそり投下待ち
389:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:12:25
4月も終わりに近いある日、初雪が降った。
朝が寒くて起きたら窓の外は一面の銀世界が広がっていた。
家も、木も、田んぼも、遠くに望む山々まで真っ白だ。
「綾波!雪だよ。」
僕はつい興奮して綾波を叩き起こしてしまった。
綾波は朝早くに叩き起こされた上に布団から引きずり出されて相当機嫌が悪そうだったが、
僕と同じようにその不思議な光景に思わず心を奪われてしまったみたいだった。
僕と綾波は玄関から足を踏み出した。
薄暗い灰色の空から白いものが次々と舞い降りてきてる。
綾波が手を差し伸べて落ちてくる雪を触ろうとしていた。
でも、綾波の素肌よりも白い雪の欠片は手のひらにくっついた途端に体温で消えてしまう。
不思議そうな顔をしていた。
僕達は十五年間、終わらない夏を享受してきた。
だから相当、冬は体に堪える季節になるだろうな、とは思っていたが。
多少自覚が足りなかったようだ。
寒い。本当に寒い。
そのうち指先がかじかんできた。
僕は発電機の電源を入れるために家の裏に回った。
が、なかなかエンジンが動いてくれなかった。この寒さが原因かもしれない。
390:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 08:15:33
角死ね!
391:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:20:33
まあ、そんなことより早く朝食でも食べよう。
暖かいものでも飲まないと体が持たないよ。
そんなことを考えながら玄関の前まで戻ってきたとき。
綾波が門の前に仰向けで大の字になって倒れていた。
さらに目と口を空に向かって大きく開いている。
寝ているわけでもなさそうだ。
この奇怪極まりない光景を目の前にして僕はどう行動すればいいのだろうか。
僕はしばらく思考が停止していたような気がするが、覚悟を決めて話しかけてみることにした。
「綾波…何してるの…?」
しばらく気まずい沈黙が流れた。
「雪って味がしないのね。」
392:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:22:55
今修羅場ってるんで投稿が少し遅れるかもしれませn…
393:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:27:36
今日の朝は寒かった。
初雪からそろそろ一週間、雪は毎日のように降り続いていた。
積雪も30cmを超えているようだ。
太平洋沿いのこの地域ではセカンドインパクト以前は全くと言っていいほど雪は積もらなかったそうだ。
だから冬が始まったばかりなのにこの降雪は異常としかいいようがない。
季節が戻ったとはいえ、まだかなり気候に混乱があるからかもしれない。
考えたくはないが今度は冬が10年くらい続くことになったらどうしよう。
本当に夏が恋しい。
綾波が布団の中からかすれた声で話しかけてきた。
「ごめんなさい。私、体がだるいの。
今日は起きれそうにないわ。」
初雪以来、僕が出来るだけ外に出ないように努力していたのに対し、綾波は事あることに外を出歩いていた。
余程、雪というものが物珍しかったのだろうか。
だが、さすがの綾波もここまで寒い日が続いたためか体調を崩してしまったようだ。。
「あ、ならそのまま寝といてよ。暖かいものと薬持ってくるから。」
僕は台所に降りるとハチミツと砂糖漬けのフルーツを使って即席の暖かいレモネードを作った。
が、僕も何か調子が悪い。熱っぽいし寒気がする。
さては、二人で仲良く風邪を引いてしまったようだ。
出来るだけこのような事態を避けるために努力してはいたのだが、無駄だったか。
風邪をこじらせないように一日中暖まっていたほうがいいのかもしれない。
僕はとりあえず綾波にレモネードを持っていった後、僕自身も隣で布団にくるまった。
394:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:29:13
「碇君…?」
「ごめんよ。僕も風邪引いちゃったみたいだ。
今日は一日寝て治そう。」
「ええ…碇君も寒いの?」
小さく咳き込みながら綾波は僕に話しかけた。
「うん…。」
部屋は温めているはずなのに、なぜこんなにも寒いのだろう。
布団は何枚も重ねているのに。
そのまましばらくの間、僕は寝付けなかったので目だけつむっていた。
「碇君…寝ていたらごめんなさい。」
綾波が小さな声で呼びかけてきた。
「どうかしたの?」
「寒いの…碇君の布団で一緒に寝てもいいかしら。」
「…!」
…嬉しくないわけではないのだけれども。
395:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:29:57
でも、綾波は本当に寒そうだった。
断るわけにもいくまい。
僕は掛け布団を綾波の寝床に寄せてそこに潜り込むことにした。
「あたたかい…」
綾波がポツリと言った。
数分も経たないうちに隣で安らかな寝息が聞こえた。
一方僕はというと…案の定、眠気が吹き飛んでしまっている。
我ながら単純な男だと思う。
綾波が突然寝返りを打って顔を僕の胸に押し付けてきた。
さらさらした青い髪が何本か僕の顔に触れて、暖かい吐息が僕にかかった。
全てを僕に委ねたような、無防備な寝顔だ。
反射的に片手を綾波の背中に回してしまった。
これはマズい。
落ち着け、落ち着けよ俺。
もう安眠は期待できなさそうだ。
事実、そうなった。
396:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:32:00
私は部屋の中に一人座っていた。
ベッドと、医療機器と、ビーカーと薬の空き箱だけが転がる殺風景な部屋だ。
突然、赤木博士が部屋に入ってきた。
ノックも何も無かった。
唐突に赤木博士はこう切り出した。
鋭い棘を含んだ声。
「あなたは何のために生きているの?レイ。」
「何故そのようなことを訊くのですか?」
「あなたの存在意義が消えたからよ。
サードインパクトの誘発があなたの役目だった。
そしてあなたは役目を果たした。
あなたはその時点で消え去るべきだったの。
それなのにあなたはまだ未練がましく生きている。
だから訊いてみたのよ。」
「違う。まだ消えてないわ。
私にはまだ碇君がいる…」
私の声は嘲笑に遮られた。
「ふふ…まだ碇君がいるの…そう…。
確かにあなたは碇君に対して尽くしてきたわね。
折角手に入れた肉体を捨ててまでも。
あなたと碇君で好きなだけ愛し合えばいいわ。
それはそれで結構。」
397:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:33:17
「あなたは何が言いたいの。」
自分の声が震えているのを感じる。
赤木博士は構わず言葉を続けた。
「でも碇君はいずれ死ぬわ。あなたもいずれ死ぬ。
そして、あなたは人間との間には決して新しい生命を宿すことはできない。
あなたも知っているはずよ。」
「どんな下等な動物でも子孫を残すことくらいはできる。
彼らはそれで未来に希望を残すのよ。
でもあなた方にはそれができない。
人間の最後の生き残りと、人の容姿をした化け物の間にはいかなる形の生命も許されないのよ。」
「私は…私は…化け物じゃないッ…」
怒りと恐怖で部屋がぐらぐらと揺れているような感覚がする。
「そして、あなた達が死に絶えた後には赤い海だけが残るわ。
これが正しい世界の形よ。」
突然目の前の赤木博士の像に歪みが走った。
声も次第に変調されてゆく…
赤く蠢く口腔だけが異様に拡大された赤木博士はとどめの一言を付け加えた。
「せいぜい碇君を大切にすることね。」
不快な笑いがはじけ、世界が砕け散った。
398:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:37:02
僕が片手で抱き寄せていた綾波の体がびくん、と痙攣した。
「綾波…?」
突然、綾波は目を大きく見開くと僕の腕を払いのけた。
同時に胸に鈍い衝撃を感じ、息が止まるかと思った。
綾波が僕の胸を渾身の力で殴りつけたのだ。
息が荒い。
「綾波!?どうしたんだよ!」
綾波は再び僕の胸に顔をうずめるとさめざめと泣き出した。
普通、ただの夢でこれほどまで取り乱すことはない。
これはただごとではない、と直感した。
綾波はしばらくの間、話せる状態ではなかった。
僕はそっと綾波の頭を撫でながら、言った。
この数ヶ月間、言いたくても言えなかった言葉。
「綾波はこれまで何度も僕を助けてくれた…今度は僕が君を助ける番なんだ。
綾波が…君が…本当に辛くて耐えられないくらい心が張り詰めた時は僕が力になるって誓ったんだ。
もし…もしそうなら…僕に…その苦しみを分けてくれないかい?」
綾波は僕に全てを話した。
全てを。
399:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:39:37
今日はこれくらいで。
ストック使い果たしちゃいました…
また書かなきゃ。
400:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 11:35:00
乙
いいとこで切れちゃったな
401:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 15:23:58
つか、この荒らし何時までやる気なんだ?
マジで鬱陶しいんだが
402:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 15:49:24
もう荒らすの日課なんじゃね?よっぽどなLAS厨なんだろ。無駄だからほっとけ
403:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 16:03:57
URLリンク(www.geocities.jp)
第五集はさっきので終わりです。
まだ校正の余地ありだけど一応うpしときました。
今、結構正念場なんで次の投稿は明後日以降になりそうです。
404:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 21:51:51
つか、宣伝は余所でやれよ。
405:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 01:06:15
結構いい感じ?
>>404
Not found
406:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 13:32:04
角死ね
407:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 14:38:04
>>404
ログ読めよ馬鹿
408:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:20:55
私…寝てしまったの…?
私が全てを碇君に話した後、私は彼の胸の中で気が済むまで泣いた。
彼は私を抱きしめながら一緒に泣いてくれた。
結局、泣き疲れて眠ってしまったようだ。
部屋の中は真っ暗だった。
汗で湿った寝間着や布団のシーツは寝ている間に新しいのに取り替えられており、額には濡れたタオルが当てられている。
熱は大分下がったようだ。身体のだるさも無くなっている。
だが隣に碇君の姿はない。
台所のほうからか、扉の隙間から微かに光が漏れている。
探しに行かないほうがいいのかもしれない。
私はそう感じた。
409:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:21:41
真っ暗な天井を見上げていた時、私は初めてかつて彼を襲った絶望が何であったのかを知った。
彼がかつて自分自身を消そうとしたのはたった独りだったことが寂しかったからではなかった。
自分が仮に今を生きぬいたとしても、未来に何も残すものが無いと悟ったからだ。
いや、どうあがいても何も未来に残すことはできない。
彼はそう考えたに違いない…そして…
今の私達も同じだ。
私はこれまでそのことを考えもしなかった。
いや、ただ考えることから逃げていただけかもしれない。
私が彼に全てを捧げ互いに愛し合ったとしても、またそれがいかに幸福であったとしても。
それはただの退廃的享楽だ。
私も、彼も、年老いて死んでいく。
夢の中の赤城博士が言ったように、未来に希望をつなぐことさえ許されない。
誰の記憶の中に残ることもない。
私たちは滅びの宿命を背負っているのだ。
フィフスや他の使徒達と同じように。
410:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:22:56
しばらくして、碇君が暖かそうな雑炊を作ってきてくれた。
上に、細かく切った野菜が乗っている。
「熱いから、ゆっくり食べてよ。」
彼も自分の分を用意してきたようだが、全く箸をつけようとしなかった。
そして、私も同じだった。食欲が湧かないのだ。
私はぽつりと、言った。
「ごめんなさい…私が…私が人間じゃないせいで…」
「何を言うんだよ…」
「私が…私が人間だったら…こんなことにはならなかったのにっ…」
私は布団の上に座り込んで噛み殺すように嗚咽した。
その時、突然碇君が立ち上がって部屋から出て行った、と思うと、すぐに戻ってきた。
片手に何かスケッチブックのようなものを抱えている。
411:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:24:20
彼はそれを私に差し出した。
「それ、読んで。」
突然のことでしばらく呆気にとられていたが、彼の言うとおり読むことにした。
「私の…顔…?」
私の寝顔がスケッチブックに大きく描かれていた。
鉛筆一本で描いたようだ。
髪の毛の一本一本まで丁寧に描写されている。
微かな乾いた涙の跡までしっかりと。
本当に安らかそうな寝顔だ。
私…こんな顔して寝ていたの…
「さっき…ちょっとした悪戯心で描いたんだ。」
彼は少し照れながら言った。
「前のページもみてみなよ。」
次は場面が変わった。
私が釣りあげた魚を手に、晩秋の渓流を背景に微笑んでいた。
「君が初めて魚を釣り上げた時のことを思い出して描いたんだ。」
あの時、私は知らずに微笑んでいた…
412:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:25:14
「悲しんだり、泣いたり、笑ったりすることができるのは人間だけだよ。
君にはちゃんと人の心があるじゃないか。
それに僕は君を一人の人間として考えているんだ。
だから、自分が人間じゃないなんて考えるのは間違えてるよ。」
私は何も言えなかった。
心の中で凝固していたものが次第に溶けていくのを感じた。
彼は一呼吸置いて、また話し出した。
「さっき君が話していたことについてなんだ…
僕達にはこれは運命だって諦めることも出来るんだ。
何も出来ずに死んでいく運命だからってね。
綾波はどう思う?
僕達はこのまま生きていても意味が無いって思う?」
「…」
「でも、まだ結論を出すのは早すぎるよ。
僕はもうちょっともがいてみようと思うんだ。この世界で。
一つお願いがあるんだ。
君が…もしそれでも構わないと思うのなら…僕と一緒に…」
彼はそのあとの言葉は続けなかった。
私は「ええ。」と言った。
413:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:27:33
今日はこれくらいで。
なかなか微妙な場所なんで書きにくかった。
明日こそは多分投稿できません。
414:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 20:44:57
乙。
……あの、「正念場」を台無しにするなよ? よけいな御世話だけどな。
415:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:53:22
>>414
SSが、じゃなくて仕事が、ですw
416:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 21:10:54
乙。淡々としてるけどこういうの好きだ。
417:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 22:44:33
>>415
うん。
「正念場だから投稿きびしー」って話だったけどな……って思ったわけだ。
まぁ乙。
418:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 23:28:07
ニート頑張れ
419:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 23:46:23
ここなのか?
420:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 00:52:03
↑なにがここ?
421:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 00:53:42
りっちゃん怖えーな
422:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:17:19
2016年8月14日
最近、雪も以前ほど降ることは無くなった。
依然、積雪はあるもののもう冬は終わりかもしれない。
木々に積もった雪は次第に溶け出していた。
日中の最高気温が氷点を僅かに上回る程度の日がこれまで一ヵ月半ほど続いていたのだ。
晴れた日の明け方の空気は肌を刺すようだった。一体どれほど冷え込んでいたのか想像もつかない。
ひどいときは屋根が軋むほど雪が積もり、数回ほど雪掻きで屋根に登る羽目にもなった。
家から余り出なかったので綾波は読書、僕はその様子をスケッチしたりして暇を潰していた。
だから、僕達は次に訪れる春に期待に胸を膨らませていた。
この日の朝、綾波が痺れを切らして言った。
「碇君、久しぶりに外にでましょう。
身体がなまってしまうわ。」
「うん。ちょっと遠くまで行こうか?」
「ええ。以前釣りに行った山なんてどうかしら。
今なら朝も早いし歩いて行けるわ。」
「そうするかい?じゃ、弁当でも作ってくるよ。」
だが、多少見込みが甘かったらしい。
423:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:18:51
以前通った山道は完全に雪に埋もれていた。
どうもあの渓谷には辿りつけそうに無い。
平地には春の兆しが見えているのに、山はまだ完全な雪山の様相を示している。
このまま無理をしたら遭難してしまう。
この時点で膝の上まで雪で埋まるほど積もっている。
そろそろ疲れてきた。
仕方ないのでこの辺りで昼食にして帰ろうか、と考えていたとき、
ぼすっ、という心地よい音とともに僕の後頭部に雪球が命中した。
反射的に振り返ったところ、二個目が顔面に命中した。
「ぶわっ!!?」
雪が鼻腔まで入ってきた。
雪まみれの顔を拭うと綾波が笑っていた。三個目の雪球を片手に握りながら。
「碇君…その顔…くすっ…」
「奇襲なんてっ、ズルイぞ綾波!」
僕が慌てて雪をかき集めている僕の横顔に三個目が命中した。
速球だ。
上手い。どこで練習したんだろう。
424:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:20:49
「お返しだっ」
僕も負けじと投げ返した。
綾波の青い髪が一瞬で雪まみれになる。
「やったわね…」
綾波が復讐を宣言する。直後に四個目と五個目の雪球が飛んできた。
数分後、僕も綾波は雪に大の字になって倒れこんでしまっていた。
二人とも頭から爪先まで雪まみれだ。
笑いながら走り回ったせいか、息も上がっている。
「たまにはこんなのもいいね…」
「ええ…」
「そういえば…さあ…僕達、ここに来てからよく笑うようになったよね。
昔はこんなことなかったのに。
でも最近、心の底から遠慮せずに笑うことができるようになったんだ。」
425:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:22:44
「私も…そうね。
昔、初めて碇君が私のアパートに来た時…
あの時のこと…覚えてる…?」
えっと…
僕がミサトさんに頼まれてカード届けに行ったときのことだよな…
………!!
「今考えてみるとあの時ほど面白かったことはなかったわ。
碇君、真っ赤になって、意味の分からないことばかり言っていたわね。」
今更あのことを蒸し返されるとは思わなかった…
「でも、あの時は何も感じなかったの。
嫌だとも感じなかったけれど面白いとも感じなかった。
そもそも面白いというのが何かということさえ知らなかったのよ。
でも、あなたに逢ってから何かが変わったの。」
一瞬、綾波と僕の目が合った。
赤い瞳に何か普段とは違う感情が宿っていた。
426:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:23:46
綾波は目を逸らすと、思い出したようにこう言った。
「あ、碇君、さっきこんなの見つけてきたの。
雪の下に生えていたのよ。
これ食べられるかしら。」
綾波はポケットから緑色の塊のようなものを取り出した。
「それってフキノトウじゃない?食べたこと無いけれど天ぷらとかにできるらしいよ。」
「フキノトウ?」
「そう。冷たい雪の下でずっと春を待ち続けるんだ。何ヶ月もね。
だからいまの季節が一番美味しいんだよ。」
「私たちみたいね…」
「え…?」
綾波がポツリと言った…ような気がした。
それともただの聞き違えだったのだろうか。
427:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:25:36
春が来た。
2016年9月。
地表を覆っていた雪は消え、黒い土壌が再び現れた。
川には澄んだ冷たい雪解け水が勢い良く流れていた。
春のうららかな日差しの下、冬の間抑圧されていた植物が再び活動を始めた。
始めは小さな若芽から。次は低木が。
桜だ。桜が咲いた。
セカンドインパクト後の十五年間、桜は春を奪い取られていた。
桜の木は一年中緑を絶やすことはなかったが、常に情けないくすんだ色の花を幾つか枝につけていただけだった。
その鬱憤を晴らすがごとく、今年は本当に見事な花を咲かせた。
綾波が桜並木の間を歩いている。
しばらく歩くと立ち止まって上を見上げた。
桜吹雪が綾波に降りそそいでいる。
綾波も僕も、春を待っていた。
そして本当の意味での春は僕達にはまだ訪れてはいない。
でも、待ち続けるしかないと思うんだ。
雪の下で春を待ちわびるフキノトウのように。
428:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:26:52
そして夏が来て…年が代わり…その夏も暮れてゆき…秋が過ぎ去り…冬が…
時は、2018年。
僕達は「あの日」を迎えた
429:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:28:38
#なんか脊髄反射で明日のぶんまでかいちまった。
#だから明日は投稿できそうにありません。
#全く何やってるんだ俺は。
430:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 02:23:58
>>429
乙。
431:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 03:00:43
角さん乙です。レイはいいよな。本当に・・
続き期待です
432:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 07:03:49
同じく期待
433:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 21:53:27
次は明日の深夜または明後日になりそうです。
一気に最後まで行きたいと思います。
ちょっと量はかさばりますが。
434:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 01:39:40
オ~、激しく期待
435:綾にゃみレイ
06/07/26 02:20:58
気持ち悪いスレ‥‥‥
436:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 12:50:27
最近、野茂とホモの違いが分からないとよく耳にします。
完投して喜ぶのが野茂、浣腸して喜ぶのがホモ
打たれるのをいやがるのが野茂、打たれるのを喜ぶのがホモ
野茂はホモを狙わないが、ホモは野茂を狙うことがある
好プレーするのが野茂、チンプレーするのがホモ
家族で楽しく見るのが野茂のプレー、家族で楽しく見れないのがホモのプレー
お尻を見せて球を投げるのが野茂、お尻を見せて玉を揺らすのがホモ
フォークが得意なのが野茂、トークが得意なのがホモ。
アメリカで観戦するのが野茂、アメリカで感染するのがホモ。
野茂は講演に行くが、ホモは公園に行く。
野茂はカレーが好きだが、ホモは彼が好き。
野茂のプレーは素晴らしいが、ホモのプレーは凄いらしい。
優勝して感動するのが野茂、融合して浣腸するのがホモ。
タマを投げてチームを守るが野茂、タマを触って彼を攻めるのがホモ。
野茂はバーモントカレーが好きらしいが、ホモはバーの元彼が好きらしい。
野茂は投手、ホモは同種。
野茂はお尻を向けて投げるが、ホモはお尻を向けて誘う。
野茂はあまり喋らないが、ホモはよくしゃぶる
437:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 12:54:43
第壱話 谷岡、襲来
第弐話 見知らぬ、ベンツ
第参話 帰らない、免許証
第四話 四つんばい、脱いだ後
第伍話 TDN、尻のむこうに
第六話 決戦、汚い尻の穴
第七話 後輩の造りしもの
第八話 HTN、来襲
第九話 瞬間、竿、しゃぶって
第拾話 ンギモヂイイ!!
第拾壱話 静止した菊門の中で
第拾弐話 挿入の価値は
第拾参話 TDN、侵入
第拾四話 DB、ホモの座
第拾伍話 嘘と沈黙
第拾六話 死に至る絶頂、そして
第拾七話 四人目の適格者
第拾八話 命の選択を
第拾九話 男の戦い
第弐拾話 竿のかたち 玉のかたち
第弐拾壱話 イサキ、誕生
第弐拾弐話 せめて、人間らしく
第弐拾参話 精液
第弐拾四話 最後のアッー!
第弐拾伍話 終わる選手生命
最終話 世界の中心でアッー!を叫んだけもの
438:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 13:11:27
うーん……このスレまだ落ち着いた状況になってみたいだな。
でもそんな状態でも投下してくれる角さん乙。
焦る必要はないので頑張ってくれ。
439:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 13:24:28
>>438
日本語でOK
440:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 13:23:26
ば、バームクーヘン
441:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:03:45
#予想以上に長くなりそうなんで、ちょっと先に出来た分投稿しときます。
僕達は今年で17歳を迎える。
綾波と共同生活を始めてからそろそろ二年が過ぎようとしている。
僕は今、育ち盛りだ。声も少し低くなったようだ。
以前は動かすことも出来なかったであろう荷物を苦もなく持ち上げることができる。
今では綾波とも頭一つ分近く身長が違う。
綾波は以前と変わらず、華奢だ。
でも、紅い瞳に宿る強い意志の光は決して消えることはなかった。
僕達はこの二年間に畑を耕し、まだ実験的ではあるが食物を自給自足することを学んだ。
そのこと自体、かなり身体に負担を強いるものだった。
二人だけで生きていくのは本当に難しいのだ。
だが、初めて作った野菜類を収穫したときの達成感は決して忘れられない。
何が悪かったのか、収穫前の最後の段階でスイカが虫に食われてしまった。そのときの悔しさも。
綾波に負けない大物を釣り上げたときの喜び。
一方、半日糸を垂らしたのに全く釣れなかったときは忍耐力を鍛えることが出来た。
失敗を繰り返すたびに僕達は貴重な経験を得たし、成功は自信に繋がった。
442:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:05:09
仕事の合間をぬって効果的にストレスを解消することも学んだ。
僕は今、木工版画に取り組んでいる。
面倒くさいが、完成したときの達成感は相当なものだ。
勿論、仕上げの段階で失敗したときなど、放り出したくなるような衝動にかられたものだった。
いずれにしても良い気晴らしになる。
綾波も綾波なりの趣味をみつけた。
荒れていた庭を精魂こめて手入れするようになったのだ。
彼女の剪定のお陰で庭は元のカタチを取り戻しつつある。
天気の良い日の午前中は心地の良いハサミの音が聞こえる。
二人だけで生きることは全く辛くなかったといえば嘘になる。
気持ちが張り裂けそうになったことがこの二年間で何度あったのだろうか。
両の手の指でも数え切れない。
でも、綾波と一緒だったからこそ、僕は耐えられないような困難だって乗り越えることができた。
本当に満ち足りた日々だった。
だが、それも今日で終わりだ。
確証はない。ただそんな気がするだけだ。
2018年3月2日。
443:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:06:37
私は帰路を急いでいた。
ついつい図書館で長居してしまったようだ。
日が暮れる前に帰らなければ碇君が心配してしまう。
穏やかな秋の夕暮れだ。
「…?」
何か人の声がしたような気がしたのだ。
私は足を止めた。
誰も通らなくなって久しい大通りの上を落ち葉が風に吹かれて舞っている。
気のせいだったのかしら。
私は歩き出そうとした。
こんどこそ聞こえた…ような気がした。
私は振り返った
「誰か…いるの?」
返事は無かった。
すっかり葉を落としたポプラの木々が枝を揺らしているだけだ。
誰の姿もない…
再び前を向いたその時。
誰かが呟いているような声。
だがその呟き声は間違いなく私に向けていた。
気がついたとき、私は駆け出していた。
444:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:08:00
涼しい風が真っ暗な部屋を吹き抜けている。
決して寝苦しい夜ではないのに、私も碇君も全く眠ることができない。
布団に仰向けになって天井を見上げているだけだ。
「綾波…」
碇君が口を開いた。
「ええ…碇君も…」
やはり、彼も同じなのだ。
そういえば、今日の私たちは言葉少なめだった。
「変な気分がしてたんだ…一日中…
虫の予感ってよく言うけど、違うんだ。
何かが僕の心の中に小さな声でしつこく話しかけてくるような感じがするんだよ。」
「でも、声に耳を傾けようとするとそれは消えてしまう…」
445:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:10:00
「僕も全く同じなんだ…
それに…それに…」
彼は一瞬、言葉に詰まった。
「それ以上は言わないで…」
これ以上、碇君に喋って欲しくない。
彼が考えている事はきっと私と同じ…
「明日…明日で…もう綾波に会えなくなってしまうような気がするんだ…
まさか…気のせいだよね…アハハ…」
部屋の中の暗闇がいきなり深くなったように感じられた。
私はかすれるような声で言った。
「あなたの考えていること…多分間違えてはないわ…」
「…!!」
彼が息を呑む気配が伝わってくる。
「明日、何が起こるかは私にも分からない。
でも…私はもうこの世界には留まれない…
そんな気がするの。」
446:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:11:39
そして、その日が訪れた。
僕も綾波もたった一晩の間に憔悴しきってしまった。
その日は一日中、僕達はは全く物事に集中できなかった。
奇妙なな脱力感に見舞われていたのだ。
僕は部屋の片隅に座り込んでいるだけで何をするでもない。
綾波は時折思い出したようにすすり泣くだけだ。
僕達は互いにほとんど言葉を交わさなかった…
447:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:13:10
「綾波、君を描きたいんだ」
日もかなり傾いてきたころ、僕は覚悟を決めて綾波に話しかけた。
「…今?」
綾波の声はこれ以上ないほど微かだった。
今にも消えてしまいそうな声だ。
「ああ、今しか出来ないんだよ。お願いだ。」
「でも…こんな姿、描いて欲しくない…」
「構わないんだ。そこに座ってよ。」
僕は半ば力ずくで綾波を庭の隅に座らせて、スケッチブックを広げた。
綾波が特に気にかけて手入れしていた梅の幼木の前だ。
綾波は確かにこちらを向いてはいるが、みるからにやつれている。
これは多分、僕の最後の作品だ。
そう思って僕は筆を手に取った。
手の震えを無理やり押さえつける。
もう、僕と綾波に残された時間は余りに少ない…