10/10/26 02:13:09
バブルの崩壊。
これが平成元年暮れに実施された公定歩合の引き上げと、土地関連融資の総量規定に端を発したのだけど、当時は社会人未満だったであろう四十の魂世代のみなさん実感ってありました？
（中略 バブル時代の懐古と恨み節）
そんな空気と関係があるような、ないような、筆者的には端境期的な気分の時に観たのが『機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』。
敢えて映画版のタイトルを使ったのは、初めて出会ったのが劇場版の暗闇だったからだ。
公開時期は平成四年の晩夏。
筆者は遅い夏休みを取っている時で、いまはなき銀座松竹セントラルの前を通りがかった際、本作の看板を発見。
それまでレンタルビデオ屋で『0083』のタイトルは見かけてはいたけど、借りたことはなくて、ふらふらと劇場に入ってしまったのはホント衝動的行為だった。
なんか、看板からただならぬものを感じ取ったんだろうね。
確かコロニーの衝突を手描きで描いて云々・・・・みたいな、執念の一本だから観るべし！的な熱い売り言葉が添えられていたような気がする。
最初に言っておくと、『0083』は詰めの一手で傑作になり損ねた惜しい作品だ。
その心はと言うと、観た方なら概ね同意していただけるだろう、ヒロイン・ニナの描き方の問題。
ガトーとかつての恋仲にあったという設定は、物語開始当初は存在せず、あとから付けたしたものだった。
作っている途中でキャラが膨らみ、当初の予定にはなかった履歴や行動を付け加えるなんて事例は、撮って出しの連続物ではさほど珍しいことではない。
それで物語全体に弾みがつくこともあるし、現に本作でも終局を導き出すスプリングボードとして機能させているのだが、すべてをそこに集約させるのはさすがに無理があった。
なにせ物語冒頭、彼女はガンダムを奪いにきたガトーを見て「誰よ・・・・・」と呟き、ソロモンの悪夢云々の話を聞かされてもチンプンカンプンという顔をしているのだ。
普通、そこまで矛盾する要素がフィルム内に見つかったら、どんなにおもしろいアイデアでも採用を躊躇するものだ。
が、『0083』のスタッフはこれを強行したのだ。
そのある種の素人臭さが、本作においては良きにつけ悪しきにつけ全編に作用しており、製作条件を逸脱した熱気をフィルムに焼き付ける一方、
ヒロインを始めとする幾人かのキャラクターに人格分裂を起こさせてしまっている。
名作はえてしてどこかに破綻の要素を隠し持つが、主要キャラを分裂病にしてしまうのは度を越しすぎだ。
本作の場合、宇宙世紀の歴史の一幕という格好で収まりがついているものの、オリジナルだったら作品そのものが空中分解していたかもしれない。
・・・・・などと言いながらも、筆者は『0083』を愛している。
なにしろ劇場を出たその足でビデオ屋に行き、既巻すべてをレンタルしてしまったほどに。
「同志よ！」と叫ぶ徳光四十郎の声が聞こえてきそうだが、別にジオン軍がカッコいいからというわけでなくて（ごめん）、
ついでに言うならガンダムだからどうこうというものでもない。
そりゃ画作りといいSEといい、『Zガンダム』以上にかつてのファンの琴線をくすぐる仕掛けが満載だし、その点は『UC』を制作する上で大いに参考にさせてもらっているんだけど、
筆者が本作を好きな理由はただひとつ、これが主人公コウ・ウラキのキャリアと挫折を描いた苦い青春物になっているところだ。
思えば大胆な設定だ。
ガンダムに乗るのは「たまたまその場に居合わせた少年」と相場が決まっていたのに、コウは士官学校を卒業したばかりの初任幹部。
つまりは社会人一年生だ。
その彼が、降ってわいたジオン残党の騒乱に巻き込まれ、パイロットとして着実にキャリアを積んでいき、それまで仰ぎ見るしかなかった敵に
「二度と忘れん」と言わしめるまでに成長してゆく。
四十の魂世代なら、「これは俺の物語だ」思った向きも多かったのではないかな？
巨大な社会の一端に加わり、恥も汗もかくだけかいてガムシャラに働き回るうちに、いつしか実力らしきものが備わってきている自分に気づく。
コウが味わう焦り、失敗、無力感、ささやかな達成感は、すべていま現在自分が体験していることだ・・・・・と。
製作陣がどこまで意識していたのかはともかく、本作は紛れもなくガンダム・ブームのボリュームゾーンであったかつての小学生たち＝当時社会人一年生になったばかりの
四十の魂世代に向けられたエールだった。
VHS、LD合わせて累計100万本突破の大ヒットは、そう考えればむべなるかなと言える。
（後略 バブル懐古） （電撃HOBBY12月号より）