10/09/02 21:04:57
GS院に通っていながらも、自分がバラック育ちだってことは片時も頭からはなれなかった。
同級生がみんな山の手のカッコイイ一戸建てや外車でお出かけするなかで、
ひとりぼろぼろの、炭住ならぬ職員住宅にとぼとぼ戻っていく毎日。
まるでユダヤ人がゲットーにダビデの印をつけて戻っていくように。
で、この悲哀から脱却しようと、とんでもない婚活をおっぱじめたあたし。
あたしの標的はプリンス。若旦那だ。
奴を手に入れれば、同級生の侮蔑した視線もはねかえしてやれる。
父母総動員の、一家這い上がり作戦と相成った。
でも上に登れば登るほど、足もとは危うくなってゆく。
バラックの幻影がおっかけてくる。
人々の嘲笑が聞こえてくる。
ヒソの奇声が深夜の邸内にひびきわたる。
アー止めてー
「あわ、あわ、あわーあー」
誰のせいなのよ？
あたしは、ただ、同級生のみんなの様に、お嬢様とよばれて過ごしたかっただけなのに。
なのに、この子は一体・・・
「お前ひどい顔だぞ」
翌朝、朝帰りの主人がぼそっと言った。
なによ、自分はタイ女のマンションで享楽を楽しんできたくせに。
「言っとくけど、お前が勝手に作った子だからな。おれは知らんから。」
その瞬間、あたしの眼の筋肉が電気を浴びたように、凍りついた。