11/01/10 14:38:39
>>310 その阿呆な消防士がちょっと通りますよ
307の続きですm(_ _)m
彼女の病室の前まで来たのだが、
いざ取っ手に手をかけると緊張のあまり、手が震えた。
一度、深呼吸をして気持ちを落ち着けてから引き戸を引いた。
その日は冬にしてはよく晴れて暖かい日であり、
やわらかい日差しが窓から差し込んでいたのをよく覚えている。
彼女はその光に包まれながら読書をしていた。
いつもの童顔で可愛らしい雰囲気とは違い、どこか大人っぽい感じがして
思わず見蕩れた。
俺が来たことに気づいた彼女はいつものようにニッコリ笑って本を閉じ、
それからはいつもと変わらない時間を過ごした。
その中で「大事な話があるんだけど聞いてくれるかな?」と切り出した。
彼女が頷いたので思いの丈を紙に書いて渡した。
彼女はそれを見て不安そうな顔をし、何かを書き付けて寄こした。
紙には「私、耳聞こえないんだよ?一緒にいたら大変だよ?」と書いてあった。
すごく寂しそうな顔をしていた。
返事を一生懸命に考えてはみたが
残念ながら気の利いた言葉を言えるような素敵な男ではないので
思っていることをそのまま書いた。
「ただ傍にいたい。いつだって力になりたい。そんな理由じゃダメかな?」
ダメ元だった。
それを見て彼女は泣き出し、震える手で「ありがとう。おねがいします」
と書いた。
つきあっていく内に茄子と稲光が苦手だとか
実は甘えん坊で頭を撫でられたり抱きしめられるのが好きだとか
知らなかったたくさんの面を知ることができた。
つきあい始めてちょうど二年が経った日にプロポーズした。
相変わらず飾り気のない言葉だったが
嫁は顔を赤らめて少しだけ頷いてくれた。
ご両親には既に結婚を承諾してもらっていたが、
一応の報告と式のために二人の故郷、能代へと帰省した。
もうじき結婚生活三年目だけど、感謝の気持ちを忘れたことはないよ。
どんな時でも笑顔で送り出してくれる嫁がこうして傍にいてくれるからこそ
死と隣り合わせの火災現場でも俺は頑張れるんだから。
今からちょっと抱きしめてくる。