11/03/29 22:23:15.15 KhjpxEku0
草野氏は非常に感受性が豊かであると同時に歌詞における言葉の選び方にも敏感であった。
その才能がスピッツの楽曲の原動力となっていたことは言うまでもない。
全てが抽象化され、毒をたっぷりと含んだその世界観は、独特であり誰にも真似の仕様がないものと言える。
ファーストアルバム「スピッツ」においては、
頭骸骨の裂け目から飛び出す「五千光年の夢」、空色のナイフを手に持ち真っ赤な血の海を飛び越える「ビー玉」、
山づみの生ゴミとガラクタの上で太陽が黄ばむ「タンポポ」、愛と希望に満たされて疲れ、死神に会いに行く「死神の岬へ」
正義のしるしを踏みつける「トンビ飛べなかった」、魔物に会いたいと願う「夏の魔物」等、
研ぎ澄まされた草野の文学的世界は、アコースティックとエレキの繊細なサウンドと組み合わさって聞き手に深遠なイメージを与える。
また随所にグロテスクだが何処か想像力をかきたてる表現が密かに使用されているのは見事である。
「名前をつけてやる」は現実離れしたファンタジーな世界が魅力的だが、裏を返せば非常に危うい線まで踏み込んでいった作品だ。
ポップなサウンドあり、切ないメロディあり、パンキッシュなナンバーありで最初から最後まで一気に聴けてしまう名盤だ。
当時の氏はこの楽曲郡をライド歌謡と称しており、ファンならば棺桶に持っていきたい一枚に選ぶことは必至であろう。
ちなみに「日曜日」での1分43秒から続く女の高笑いは、余りにも現実逃避しすぎた世界観を自嘲している様にも思える。
この2枚を経て遂にサードアルバム「惑星のかけら」では、ハードなロックンロールに乗せて内生的なエナジーが爆発することになる。
危険な歌詞によって展開する稚拙でゆがんだ妄想は、草野氏の透き通っていて少しくぐもった声からは微塵も感じさせないのが不思議なところだ。
後々のアルバムも良いが初期の三枚こそがスピッツの原型であり、スピッツを知るにはここを避けては通れないといっても間違いはないだろう。