11/03/22 18:23:39.51 btDwLxOe
>>559続き
あんな気持ちに駆られたのは、初めてだった。
嫉妬、不安、独占欲。呼び方は様々だけど、つまりはそういう気持ちだ。
いくつもの事件の中で、恋愛沙汰が原因で起きた男女間のトラブルも目にしてきた。
探偵とは第三者。主観は捜査の邪魔になる。
そういう事件を目にしてきたことはあっても、自分が同じような気持ちに捕らわれるはなかった。
だから、怖かった。
自分がそういう類の感情を持ってしまうことが。
なぜならそれは、人を惑わす、論理じゃ説明できない未知の感情だから。
舞園さんは、苗木君のことが好きだ。
苗木君もたぶん…
じゃあ、私は?
私はどこにいる?
探偵は、第三者。
私は部外者?
「…霧切さん?」
立ち止まってぐるぐると考え続ける私を、苗木君は心配そうに見ているだけ。
「ホントに大丈夫?なにか悩みごと?」
その原因が自分だとは、つゆとも思っていない。そういう目だ。
「…そんなところよ」
「…そっか」
彼はこう言う時、追及をしない。
私が秘密を隠している時、尋ねられて言い淀んだ時、それを無理に聞き出すことはしない。
それは、私には理解できない行為だ。
だって、探偵は謎を明かす職業なのだから。
彼が追及して来ないということには、悪い気はしなかった。
気楽でいいな、と思っていた。
だけど今だけは、彼が追及して来ないことが、とても不安に思えた。