【ダンガンロンパ】霧切響子の正体は俺の嫁Part3at POKECHARA
【ダンガンロンパ】霧切響子の正体は俺の嫁Part3 - 暇つぶし2ch800:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/16 00:46:20.37 I9bxBVMK
 フードを目深にかぶり、早足に歩く。
 両手をパーカーのポケットに突っ込み、出来る限りの早足で。
 目指すのはこの建物の出入口。
 しかし、正面の玄関だけは絶対に使ってはいけない。できることなら誰も意識していないような非常口が好ましい。
 暗くてかび臭い廊下の奥にそれらしい扉を見つけた。先程見たこの建物の見取り図とボクの勘によれば、間違いなくこの扉の先は外に通じているはずだ。
 ゆっくりと扉のドアノブに手を掛ける。
 あと少し、あと少しでボクは外に出ることができるんだ。
 今更だが、この一連の動作において一番重要なことはあくまで自然体であること。
 決して誰にも悟られてはいけない。
 特に―。

「何処に行く気なのかしら、“先生”?」
 特に、ボクが一刻も早くこの場から逃げようとしていることだけは。

 突然投げかけられた言葉に振り返ると、そこには見慣れた“助手”が立っていた。
 透き通るような銀髪の、日本人離れした美貌をもつ少女。
 そんな美少女がボクに矢のような視線を向けながら、カツカツとヒールを鳴らして近づいてくる。
 その目には呆れの表情がたっぷり篭っていた。
「い、いや、トイレを探していて……」
 苦し紛れに言い訳を零すと、ふんと鼻で笑われた。
「見え透いた嘘ね。あなた、一回見れば間取りを憶えるってさっきも言ってたわよ」
 いつも通り、ボクの言葉の矛盾点は簡単に論破されてしまう。こんな時ばかりは自分の才能が恨めしい。
 そのまま彼女はボクの傍らに立つと、ぐっとフードを掴み上げた。
「ちょ、ちょっと!」
「いいから戻るわよ、“先生”」
 そのままフードを引っ張られ、転びそうになりながら引きずられていく。
 足を縺れさせた所為で実際に靴が脱げた。それでも何とか爪先を使って引き寄せる。
「あら、意外と器用なのね」
「……絶対にわざとやってるでしょ」
 ボクが溜息を吐いたとて、彼女が歩みを止めることはない。
 それは昨日も、今日も、いつも同じ。
 彼女はボクを引っ張って、ボクは彼女に引きずられて。

「聞こえたの?」
「……うん、まあね」

 短いやり取りだったけど、ボク達にはそれで十分だった。
 ボクに聞こえたあの不快な足音は、いつも通り死神の足音で。
「ふふ、今度こそ逃さないわ」
 それを確認すると、彼女は不敵に微笑むのだった。
「死神が絶対に人を殺せるという幻想を抱いているなら、まずはその幻想をぶち壊す、と彼女は思っていた」
「……勝手に変なナレーションを付けないで」
 引っ張るのと逆の手でボクの鼻を弾く。ちょっとだけ涙が出たけど、ボクはいつの間にか笑っていた。

 人の死を見つめるのが苦手なボクには、やっぱり探偵なんて重い仕事は向いていない気がする。家の迷惑な伝統でやらされてはいるけれど、隙あらば現場から逃げたいとさえ思う。
 それでも“超高校級の探偵”と呼ばれてしまうこの才能と、ボクが“超高校級の助手”と呼ぶ彼女がいてくれるなら、もう少しだけ続けても良いような気がしてきた。

「ねえ、“助手”さんは何でボクのことを“先生”って呼ぶの?」
「あなたが私のことを“助手”って呼ぶからよ」
「えー、探偵と“先生”は何か違う気がするけど……」
「……全く、あなたには緊張感ってものがないの?」
「そんなことないよ? 色々考えてるんだ。何でボクがこんなことを―」
「それ以上言ったら、私の拳が黙ってないわ」
 そう言って、彼女はボクの瞳を真っ直ぐ見つめる。
 ―ああ、これも最早、いつも通りのやり取りで。
「霧切君、ここまで言えば分かるわね?」
「……はい」

 彼女の殺し文句に覚悟を決める。
 さて、今日の死神は一体どんな事件を運んでくるのだろうか―。


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