11/03/03 00:35:21.63 6wmJBBJO
その後
「…にゃあ」
「…」
あのあと、言葉の続きについてさんざん言及されたが、僕としても一応プライドというか、
あんな流されて口を滑らせてしまったような、無様な形で告白したくはないというか、
とにかく『猫モード』の時がまだマシだったかと思わせるほどの、霧切さんの追及を逃れて、
それまでの様々な心労からは解放されたはずなんだけど。
「…何してんの、霧切さん」
心地よい眠りから冷めた僕の目に飛び込んできたのは、猫耳を頭に着けて、
ベッドで眠っていた僕の上に四つん這いに跨って、顔を真っ赤にしている霧切さんの姿だった。
念のために言っておくけれど、これが『猫モード』の霧切さんじゃないことは、僕にだって分かる。
まず、猫化現象は昨日で終わっていた。
次に、猫状態の彼女は、発情でもしていない限り、僕の上に跨った程度で顔を真っ赤にしたりしない。
そして、決定的な違い。僕が見た『猫モード』霧切さんの猫耳は、彼女の髪の毛と同じ、銀灰色。
今彼女が着けているカチューシャ―その猫耳は、真っ黒だった。
「に、にゃー…」
とにかく分かるのは、今の霧切さんは猫になりきっているらしいということ。
そんなに恥ずかしいなら、何をそこまでやることがあるんだろうか。
そこまでして、僕をからかいたいのだろうか。
「にゃー、にゃー…」
僕の手をとり、その掌を自分の頭に押し付ける。撫でるように強要している仕種にも見えなくもない。
けれど、僕は深く考えないようにして、そのまま頭に付けたカチューシャを掴んで外した。
「にゃ…あっ!」
「何してんの、霧切さん」
僕はもう一度、同じ質問を繰り返す。
「あ…」
恥ずかしがりながら、甘えたように猫真似をしていた霧切さんの顔が、凍りついた。
「まさか霧切さんに限って、本当に甘えようとしたわけでもないだろうし…
大方、僕をからかおうとしたんでしょ?いくら僕が鈍いからって、そんな簡単な罠にぶごふぅっ!!」
鳩尾に綺麗な突きが決まって、僕はベッドの上で未悶えた。
「お…ふぉっ…何を…」
「…憂さ晴らしよ」
ベッドの上で悶絶する僕の頭によぎったのは、『私、結構強いのよ』の言葉。
まぎれもない事実だったということを確認しながら、僕はわけもわからず霧切さんに詫びるのだった。