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>>766続き
霧切さんは、探偵だ。
ケレン味たっぷりの接頭語が効果を果たさなくなった今となっても、霧切さんは優秀な探偵だ。
捜査のプロ、と言うのだろうか。なくしてしまったものを見つけ、隠された真実を暴くことのできる力を持ったひとだ。
でも、と僕は思う。
そんな霧切さんでも、記憶というカタチのないものを探しだすのは、困難、いや、正直言って不可能ではないだろうか。
霧切さんの手を煩わせようとかそんなことは考えてない。どうしても取り返したい記憶でもないと思う。
「でも。山田君やセレスさん、大和田君に不二咲さん。石田君に桑田君、大神さん。……それに、舞園さんも。もう会えないみんなとは、たった数週間の思い出しかないんだ。僕は、それが寂しいんだ」
少しだけ、ほんの少しだけ、目頭が熱くなる。すぐに顔を伏せた。学園の中ではこんなことなかったのに、やっぱり僕は弱い。学園の中ではあんなに威勢のいいことを言っていたのに。
話し方も愚痴っぽくなってしまったし、きっと霧切さんも呆れているだろう。
折角の朝だ。今日は霧切さんがコーヒーも淹れてくれたんだ。笑ってなきゃバチがあたる。
「なんて。はは、ちょっと僕、なんか―」
そう思って、軽くおどけて。勢いよく顔をあげた。あげたのだけど。
「―霧切、さん?」
そこで、僕は。
不可解なものを目の当たりにする。
「霧切さん、どうして、」
どうして、そんなに悲しそうな顔をしてるの?
「悲しいのは貴方よ、苗木君」
思えば、彼は最初からそうだった。
「私は、あの学園を出る時、貴方に言ったわ。絶望が世界を覆っていたとしても、貴方と共に歩んでいけるのなら、悪くないと」
彼が憧憬の目でもって見つめていた女性は早々にいなくなり、それでも忘れることなく自分はすべて引きずっていくと言い切って見せた。
「けれど、貴方は。……貴方は、まだ後ろを向いているのね。それも、自分の為じゃない。もういない皆の為に」
人間は忘れることができると、あの時彼に言ったのは私だ。けれども私たちが本当に忘れてしまっているなんて、一体誰が推理し得ただろう。
彼の傷は一体如何ほどだろう。
「―優しすぎるわ、苗木君。貴方は、優しすぎる」
それでも彼は言うのだ。きっと。
そう、