11/01/18 19:21:43 1cz8epR3
>>350続き
彼女が僕への愚痴を始めてから、そろそろ一時間が経とうとしている。
さすがの僕も、これだけけなされ続ければ、イラつきもする。
僕はお人好しでも聞き上手でもない、凡人なんだ。そこまでの寛容さはない。
「ああ、わかったわ。苗木君は私のことが嫌いで、相手をするのが面倒くさいのね。
だから桑田君や舞園さんのように、応援のメールも送ってこないし、
山田君や江ノ島さんのように、親しい話もしようとしないし、
不二咲君やセレスさんのように、食事を誘うこともしないのね」
彼女はそこまで一気に言うと一区切りし、ニヤニヤと笑って僕の反論を待っている。
「…」
僕は返事をしなかった。あえてだ。
いつもならこのタイミングで弁解を入れているけれど、今だけは本当に限界なんだ。
だいたい僕の身辺調査をしたというのなら、大学関連の情報リークは、きっと山田君か江ノ島さんのどちらかだ。
それなら今が期末考査の時期で、僕が昨日徹夜でレポートを仕上げたということだって、当然耳に入っているはずだろう。
だというのに、この仕打ち。
僕にだって、我慢の限界がある。
「…なにか言ったらどうなの、苗木君。反論や弁明があるなら、一応耳を貸してあげるわ」
どうせ何か言っても、相手は高校入学前から世界レベルで活躍するほどの探偵だ。
腐っても鯛、酔っていても霧切さん。論破されてしまうに決まっている。
だから僕は、反論しない。
「…そ、そう。反論はないのね。あなたは私が…嫌い。で、面倒だと思っている。そういうことでいいのね」
「…霧切さんがそう思うなら、それでいいよ」
霧切さんは、目を見開いた。面喰らった、と、表情が語っていた。
一瞬だけどコップを持つ手が震え、つまみに伸ばしかけていた手が止まる。
いつものポーカーフェイスも、さすがに酒が入ると、幾分か、いや、かなり緩むみたいだ。
女の子にこんなこと思うのは、ホントはダメなんだろうけど。
―どうだ、まいったか
「…生意気ね。苗木君のくせに」
彼女はかなりの不満の表情を顔に浮かべ、またコップに酒を注ぎ足した。