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>>295続き
つ、と彼の頬を、さんざん溜められた涙が、ようやくか、とでもいうように、ゆっくり伝う。
涙は私の手に当たり、そこから言い知れぬ感覚が、ず、と私の中に入り込む。
「拒み続けることが、どれほど辛いのか…っ、僕には、わからない…」
彼は言葉を紡いだ。
その間にも、涙は一粒、また一粒と、私の指を、掌を濡らす。
「よく、耐えてきたね…」
涙が触れた火傷の痕から、温かい彼の感情が、私の中に流れ込んでくるようだった。
「…馬鹿ね」
彼の温かさが、ゆっくり、ゆっくりと、
「なんであなたが泣くのよ…」
私の中の氷を、溶かしだしていく。
「ゴメン…僕が、泣いちゃいけないって、わかってるのに…っ」
溶けだした氷は水になり、
「ほら、さっきも言ったでしょう…的外れな謝罪は止めてって…
だってあなたは、何一つ、悪いことなんてしていないのよ…」
ゆっくり、ゆっくりと、
私の目から、溢れだした。
「ごめんなさい、苗木君…」
私は壊れた人形のように、
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
止まらぬ涙を流し、彼に謝り続けた。
そして、最後に一度だけ、
「ありがとう…」
と、涙でぐしゃぐしゃになっただらしのない顔で、私は告げた。