11/01/17 02:10:25 jx1yxKL2
>>294続き
少しずつ、苗木君が私の手を握る力が緩んでいく。
けれど、不思議と私は、彼の頬に触れる私の手を、引き離すことができなかった。
そうしなければ、ならないのに。触れていてはいけないのに。
だって、きたないから。うつっちゃうから。
「…霧切さん」
言い聞かせるような彼の声は、幾分か鼻にかかったような音をしていた。
今にも泣き出しそうな声で、けれどそれを必死にこらえていた。
目は潤むけれど、力を入れて、それが零れおちないように、じっと私を見つめていた。
「…さっきも言ったよね。
この手は…火傷の痕は、霧切さんがどう思おうと、霧切さんが戦ってきた証だ。
僕は、凡人だ。戦いとか、何も知らずに安穏と生きてきた。
だから、戦ったことのない僕には、この手を『尊敬』することはできても、汚れていると思うことはできない。
目に見える姿形に囚われて、馬鹿にするやつらの方が、何倍も醜くて、何倍も汚いんだよ」
やめてよ。
だめだよ。
私に、私なんかに、優しい言葉を投げかけないで。
汚れた私が、あなたのそばに―
「汚れてなんかない―!!!」
苗木君が叫んだ。
恐ろしいほど、怒気に満ちた声だった。
彼がこれほどまで感情的になったのは、見たことがないというほどに。
なのに、そんな彼の表情は、
「汚れてなんか…いないんだっ…!」
初めて私の素手を見た時と同じくらい、絶望に満ちた悲しい表情だった。