11/01/17 02:02:28 jx1yxKL2
>>291続き
攻め立てる私の方が泣き叫んでいる。おかしな構図だ。
私は追いつめられたか犯人のように暴言を吐き散らし、彼は淡々とそれを受け、そして答える。
「…共有なんて、絶対できない。それは、霧切さんが戦った証だから、他の誰にも、ましてや僕なんかに、
それをわかちあうことなんか絶対できやしないんだ。
僕にできるのは、霧切さんが教えてくれたその事実から、僕自身の見解を作ることだけだよ」
「それが『尊敬』?そうだというなら、あなたは相当な盲信者か頑固者、もしくは相当のペテン師ね。
でもね、どんなに自分を偽っても、本能から来る嫌悪感には、抗うことは出来ないのよ…!」
私は半ば自暴自棄になって、左手で彼の胸ぐらを捕まえたまま、むき出しの右手を彼の眼前に差し出した。
おそらく、何も考えずにしゃべっているのは私の方だ。
ただ、怒りと、自分から彼を突き放す、という衝動にだけ駆られている。
「ほら、見て…気色悪いでしょう?私が自分でそう思うんだから、あなたには尚更のはずよ…」
さあ、怯め。
臆しろ。慄け。
『尊敬』だなんてウソの言葉に隠した本心を、さらけ出せ。
そうじゃないと、私はあなたに縋りついてしまう。
そうじゃないと、私は希望を抱いてしまう。
だから
―その目で見るのを、やめて…!
「…お願いだから、苗木君。正直に、気持ち悪いと、不気味だと、そう言って。
あなたが何を言おうとしているのかは、皆目見当もつかないけれど
私はあなたがその言葉を口にするのを、期待しているわ」
その方が、変な希望を持たされるより、幾分も楽だから。
彼は、口を開かなかった。
じっとその目で、私を、右手を見つめていた。