11/01/17 02:00:52 jx1yxKL2
>>290続き
頭に血が上る、とは、こういうことを言うのだろう。
メリメリ、と、血管が膨張する音まで響いてきそうだった。
違う、わかっている。
苗木君に怒りをぶつけるのは、全くの筋違いだ。
それでも怒りは、彼に罪悪感を抱かせていることへの負い目や、彼のそばにいられなくなるという絶望を、軽く凌駕するほどだった。
この傷について、知ったかぶりをされることへの怒りは。
「『尊敬』?おかしなことを言うのね」
口端が、怒りからかヒクヒクと震える。
探偵の職務中ですら、こんなに怒りを抑えきれなかったことはない。
「一体今までの話のどこをどう取れば、この醜い手に対して、『尊敬』を抱けるのかしら」
彼の眼は、射抜くような真っすぐさを保っていた。
それは、彼が自分の発言に少しの負い目もない、という証拠に他ならない。
彼はウソをついてはいない。本心から言っている。
それが、余計腹立たしい。
そしてだからこそ、次の発言は、
「…だってその傷は、霧切さんが戦った証だから」
確実に、的確に、
私の逆鱗に触れた。
「知った風な口を利かないで!!」
ここまで感情的になったのは、いつ以来だろう。
私は腰かけていたベッドから立ち上がり、彼の胸ぐらをつかみ、絞りあげる。
苗木君は抵抗せず、そのまま引きずりあげられた。私より身長が低い分、宙に浮くような形になる。
椅子が音を立てて倒れても、彼の射抜く目は変わらない。
―その目をやめろ!
「この火傷痕は、私の過ちの傷跡!過去の汚点であり、それを忘れないための戒めなの!
今までこれを、磔刑のごとく背負って生きてきた…『尊敬』?的外れな発言も、そこまでいくといっそ清々しいわ。
あなたに何がわかるの…!?この傷を背負うための私の覚悟、この傷を背負ってからの屈辱…
あなたみたいな凡人に、その一欠けらでも共有できるの!?いいえ、一欠けらも理解されたくなんかないわ…!!」