11/01/17 01:57:38 jx1yxKL2
>>289続き
「…」
苗木君は、予想外に壮絶、とでも言いたげな表情をしていた。
他人の経験に感情移入してしまう彼には、よほど耳に堪える体験談だっただろう。
自画自賛、とは少しベクトルは違うけれど、自分でもこの体験はかなり酷な部類に入ると自負している。
「それで…ああ、えっと、周囲の反応ね。まあ、身内以外は概ね同じ反応よ。
気味が悪い、えぐい、グロい、近寄りたくない。
視線や顔で訴えてくる人がほとんどだけど、中には直接口に出す人もいたわ。
…あなたの反応は、その中のどれよりも、優しかった」
…何を口にしているんだ、私は。
そんなこと、わざわざ言う必要なんかない。
彼には冷たく接すればいい、もう二度と私に関わろうという気が起こらないように。
「でも、やはりあなたも思ったでしょう。この手が、気味が悪いと」
彼には、罪悪感を植え付ける。ありもしない罪に対する罪悪感を。
「…驚きはしたけど、気味が悪いなんて思わない」
「嘘はつかなくていいのよ。言ったでしょ、あなた、顔に出やすいのよ」
「…どうかな。見たときは正直少し、いや…かなりショックで、その時の気持ちは忘れたけど、
少なくとも今は、ぜんぜん思わないよ。不気味だなんて」
思わず、イラッとする。自分の思い通りにならないことに。
もう少し露骨に、責めた方が良かったか。
「さっきあなたも自分で言ったでしょう。『同情』も、私はいらないの」
「『同情』なんかじゃないよ」
「じゃあ何なの?」
「…強いて言うなら『尊敬』かな」