11/01/17 01:53:24 jx1yxKL2
>>286続き
ドス、ドス、と、罪悪感が私の心を切り刻む。
彼に投げかけた言葉の槍が、そのまま私の心を貫く。
今私がしているのは、悪魔の行いだ。心配してきてくれたのに、それを仇で返すなんて。
けれど、そうする他にないから。だから、
―おくびにもだすな…
「あなたを責めているわけじゃないのよ、苗木君。あなたの反応は、ごく自然なもの。
だからあなたは謝るべきじゃない。だってあなたは、何一つ悪いことなんてしていないんだもの」
彼は、ぐっと唇をかみしめた。
それは、なにかに耐えるというよりは、なにかを決意したような、そんな仕種。
「…わかった。的外れに謝ることは、しないよ」
「そう。それでいいの」
「…ただ」
「?」
それまで下を向いていた彼の瞳が、力強く私を射抜く。
「聞いても良いかな。その、手の傷のこと」
―これは、
今までにない、初めての反応だ。
なるほど、今まで私のそばにいただけあって、意表を突くのには慣れているのかもしれない。
「…傷ができた経緯、ということ?」
「それも含め、諸々」
「諸々、って?」
「どうしてそんな傷を負うことになったのか、とか、その傷ができてからの周囲の反応とか」
「…そう。ずいぶん遠慮なしに尋ねるのね」
「遠慮する方が、失礼かなって思ったから」
彼は時々、
ひどく真っすぐな目をする。
「手の傷跡自体じゃなくて、それを見た相手の反応が嫌なんでしょ?
そこには「偏見」や「忌避」だけじゃなくて、「同情」や「遠慮」もきっとあると思ったから。
でも「言いたくない」「言えない」のなら、もちろん言わなくていいよ」
職業柄、悪意と威圧に満ちたまなざしは、嫌というほど見て、見慣れてきたし、耐性もある。
けれど、彼の眼には、悪意はもちろん、威圧の欠片もない。
それなのに、なぜか気圧される。
真っすぐ、鋭く、そして正しく。これが同い年の少年か、と思わせるほど、芯の強い目。
どうも私は、その目には滅法弱いらしい。
「…いいわ。言いたくないということもないし」
私は抵抗を諦め、素直に話すことにした。