11/01/16 22:18:04 DKmh/sR9
>>264続き
私は、改めて驚いた。
謝罪の言葉が、これほどまでに胸を痛々しく貫くなんて、初めて知った。
彼は何も悪くないのに。悪いのは全部、私なのに。
それでも謝るのは、彼が本当にどうしようもなく優しいから。
お人好しの彼に、罪悪感を抱かせてしまったことへの罪悪感。
そんな複雑な感情が、鋭く胸を穿った。
「…私、部屋に戻るわね」
そんな、気の利かない言葉しか出せなかった。
むしろ頃合い、ちょうどいいのかも。
きっと、このアクシデントが無ければ、私はこの先も罪を隠し、彼を欺いて、側にいようとし続けた。
これは、そんな私のずるさへの、罰なんだ。
私は立ち上がり、彼に背を向ける。
厨房から、彼の下から、去る。もう戻ることはないだろう。
「まっ、待ってよ!」
ぐ、と右腕が進行方向と真逆のベクトルに引かれ、危うく転びそうになる。
苗木君は、
私のむき出しの右手を握って、私を止めていた。
―何をして…
そこは、あなたが触れていい場所じゃない。
苗木君の顔は蒼白で、目は右手と私の顔の間を行ったり来たりと泳ぐ。
この醜悪な右手をつかみ取るのに、いったいどれほどの勇気が必要だったのだろうか。
「霧切さん、違うんだ、僕はけっして…」
きっとまだ不気味さが拭えないのだろう、彼が掴んだ右手には、先ほどのような力はない。
それでも私の絶望を、少しでも和らげるために、必死で掴んでくれたのだろう。
お人好しにも、ほどがある…
でも、ダメだ。
ここで彼の優しさに、甘えてはいけない。
彼を私なんかに、近づけてはいけない。
―だから…