11/01/16 21:55:26 DKmh/sR9
プレッシャーと言うか、だんだん怖くなってきた…
一応最後まで書いたけど、とりあえず、途中まで投下させてもらいま
ナエギリで火傷痕ネタです
轟々と燃える、焼却炉。
『霧切、俺のことは気にするな!』
裏切り者が、叫ぶ。
幾度となく繰り返される、あの日の夢。
この夢は過去の記憶をなぞるだけ、故に私はその結末を知っている。だからこそ、恐い。
あの時の私は、探偵への憧れと、事件解決への焦燥、そして名誉の渇望を抱いた、
どうしようもなく愚かしい子供でしかなかった。
『…彼の命は助けてくれるのね…?』
落ち着いて振舞おうとすればするほど、私の声や体は震え、冷たい汗が体中を伝う。
『ああ、いいぜ。きっちり30秒間な』
『…』
私は自ら、燃え滾る炎の中に、自分の両手を差し出した。
『うあ゛ぁあああぁぁああぁああああっ!!!!』
場面は一転して、見慣れた教室の一角が、私の主観から映しだされる。
『ね、霧切さんの手袋の下の秘密、知ってる?』
『知らない。っていうかアレって、なんていうの、中二病ってやつじゃないの?』
『普段から、そういう発言多いもんね。自分は選ばれた人間で、あんたたちとは違う、とか思ってそう』
『まあ、それは置いといて、あたし霧切さんの素手見ちゃったんだけど』
『どうだったの?』
『めっちゃグロいの!なんか爪がほとんどなくて、皮膚とかしわくちゃにただれてて…』
私は叫び出したい衝動に駆られながら、ぐっと唇を噛む。
しょうがない。彼女たちの言っていることは、何も間違ってなんかいない。
必死に自分を説得していくうちに、再び場面は歪み、私は焼却炉の前へと―
ふ、とまぶたを開けると、カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる。
時計は正午ちょうどを指し示しており、こんな時間まで眠りこけていた自分の体たらくに、半ば茫然とする。
寝巻を着替えようとして、気づく。
「…酷い寝汗」
まるで服の上からシャワーでも浴びたかのようだ。
あの夢を見るのは、初めてじゃない。
人が悪夢を見るのは、罪の意識から来るストレスを軽減させるためだという。
「っ…つ」
手から迸る激痛に、私は思わず眉をひそめた。
もう痛覚なんてほとんどないはずなのに、記憶からそれを得るなんて、おかしな話じゃないか。
まるで過去の罪が、過ちが、私にそれを忘れさせないために戒めているかのようだ。
260:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:02:24 DKmh/sR9
>>259続き
「あ、霧切さん、おはよう」
「…おはよう、苗木君」
シャワーを浴びて汗を流し、まだ寝ぼけていた頭から切り替える。
思考や感覚が鮮明になってくるころには、あるはずのない右手の痛みは、とっくにどこかに潜んでいた。
食堂へ向かう頃には、いわゆる昼飯時はとっくに過ぎており、
まだ食堂にいるのは、今の今まで寝ていたという彼―苗木誠だけ。
「休日だと、ダメだとわかってても二度寝しちゃうんだよね」
呑気にそんなことを言いながら、彼は自然な動作で、私の隣に腰掛ける。
その平和そうな笑顔に、私は幾度となく救われている。
彼といると、忌々しい思い出を、その瞬間だけ忘れていられるような。
彼の笑顔を見ると、過去の傷が少しずつ癒されていくような。
「僕コーヒー入れてくるけど、霧切さんも飲む?」
「お願いするわ」
「ブラックでいいんだっけ」
「ええ」
けれど、だからこそ、私が彼に近づきすぎることは許されない。過去の罪から、目をそむけることは許されないのだ。
そして、彼はそういう物語とは、程遠い場所にいる存在。
私に刻まれた汚れを、彼にまで背負わせるなんて、絶対あってはならない。
いつか、この手袋の下の罪を、彼に告白するべきだとは思っていた。
別に隠しているつもりなどないけれど、これを秘密にしたまま彼と接するのは、ひどく不誠実な気がした。
彼は、私の汚れなど当然知らずに、私に話しかけてくれる。
「今日はあまり、寄宿舎に人がいないね」
それはとても愛おしくて、
「部活や芸能活動で、遠征してる人が多いと聞いたわ。ほとんど出払っているみたいだけど」
それはとても心苦しい。
「そっか。…じゃあ、もしかして今日、霧切さんと二人きりなのかな」
照れたように言う彼を見ると、心臓を握りしめられたような心地がする。
息苦しい。彼の信頼が、茨となって私を締め上げる。
261:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:04:03 DKmh/sR9
>>260続き
いつか、言うのだ。今はそれでいい。
私は自分を納得させようと、必死でその二言を頭の中で反芻する。
いつか言うから、今は彼の笑顔や、優しさや、無垢さを、側に置かせてほしい。
「残念ね、私なんかと取り残されて」
言えば彼も、きっと私から遠ざかってしまう。
だって、彼は私のような汚れた存在と、対極の位置にいるのだから。
「そんな!残念だなんて、全然思ってないよ!」
ただ、ほんの少しだけ、淡い希望を彼に見出してもいる。
もしかしたら、この手を見ても、それでも彼はそばにいてくれるのではないか。
「そう?舞園さんと一緒の方が、よかったんじゃない?」
それが押しつけの希望だと、自覚もしている。彼にしてみれば、いい迷惑だろう。
だから、「希望」は抱くけれど、「期待」はしない。
彼がそばにいてくれる、そういう可能性もある、とだけ頭の片隅においておくだけ。
それに縋ったりはしない。
「な、なんで舞園さんがでてくるのさ…」
「ふふ、顔が赤くなってるわよ」
「う、あっ…」
彼が舞園さやかに憧れを抱いているというのは、周知の事実だ。
愛らしい笑顔、誰に対しても等しく振りまかれる優しさ、みんなを元気づける明るさ。
私なんかよりも、ずっと彼のそばにふさわしい。
それだから余計に、私が彼に期待を抱いてはいけない。
彼は優しい人だから、自分より他人を優先するお人よしだから、私が期待を抱けば、彼はそれに応えようとする。
そしてそれは確実に、彼が舞園さやかの隣へ行くことへの足枷となってしまう。
「ホントに私と残されたことが残念じゃないなら…」
いつか打ち明ける。打ち明けて、彼を私から遠ざける。
「今日は少し、付き合ってもらっても良いかしら」
だから、今だけ。今だけ、隣にいさせてほしい。
「もちろん。どうせ暇だし、それに霧切さんと一緒に過ごせるなら、有意義な休日になりそうだしね」
せめて打ち明けるまでの短い時間を、彼の優しさに、愛おしさに浸らせて…
262:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:06:24 DKmh/sR9
>>261続き
用という用ではなく、学校の図書室から借りていた本を、返しに行くだけ。
それに付き合うだけのつまらない用事なのに、彼は快く引き受けてくれた。
「ごめんなさいね、こんなどうでもいい用事に、わざわざ付き合わせちゃって」
「ううん、気にしないでよ。ところで、何の本を借りていたの?」
「推理小説よ。この作者の心理描写が、すごく巧みで…」
私のどうでもいい趣味の話にも、彼は興味を示してくれる。
「…そうだ。せっかく付き合ってもらったのだし、軽く奢らせて」
少しでも長く、彼といたい。そんな醜い独占欲。
「ええ!?そんな、悪いよ…」
「悪いというのは、こちらのセリフよ。なにか食べたいものなんかあったら、遠慮しないで言って」
「うーん、そう言われても…さっきご飯食べたばかりだし…」
歩きながら、彼は眉を寄せて真剣に考える。
年頃に見合わない、抱きしめたくなるほどあどけない表情。
「そうだ」
「決まった?」
「えっとさ、霧切さんって、紅茶淹れられる?」
「?…まあ、一応、それなりに知識はあると思うわ」
「じゃあ、あのロイヤルミルクティーっていうの、ちょっと飲んでみたいんだけど」
「…ああ、セレスさんが山田君に作らせている、アレね」
「自分で何度か試してみたんだけど、どうも上手くいかなくてさ」
「それを作って御馳走すれば、奢りは見逃してもらえる、ということでいいのかしら」
「ダメ、かな」
「いいえ、お安いご用よ。じゃ、寄宿舎に戻りましょうか」
帰宅と同時に食堂へ向かう。どうせなら作り方を覚えたいから、と、彼もともに厨房に入る。
「それじゃ、お湯を沸かしてもらえる?」
「え、お湯?牛乳で煮立たせるんじゃないの?」
「先に茶葉をお湯にくぐらせるのよ。そうすることで茶葉が開いて、一層風味が増すから」
「へえ~」
「特にこの茶葉は、牛乳の風味に負けがちだから。面倒だったら、濃く作った紅茶に、あとからミルクを注いで加熱してもいいのよ」
「霧切さんはなんでも知ってるね」
「そんなことないわ」
「…」
「…」
彼は、色々な話題を提供してくれる。私も、出来るだけそれに応じてきた。
それでも、時々、本当に時々だけれど、会話が止まることもある。
今までは、会話が終わると同時にどちらかがその場を離れ、それを繰り返してきた。
けれど今は、逃げ場がない。
私と苗木君はお互い黙ったまま、ただ小鍋に入れた水が沸騰するのを待っている。
こういう状況は、気まずい、というのだろうか。
私は沈黙も嫌いではないのだけれど、彼にとっては重圧になっているのかもしれない。
今、何を考えているの?
口に出さずに問う。
舞園さんのことだろうか。
ぎゅう、と、また心を鷲掴みされたような息苦しさが体を縛る。
263:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:09:28 DKmh/sR9
>>262続き
「霧切さん」
予想外に近くで響いた声。
ふと見ると目の前に、苗木君が近付いていた。
目の前に唐突に映し出される、彼の顔。
「っ…」
それに驚き、私は無意識に、本当に無意識に、右手を跳ね上げた。
ガン!
鈍い音が耳に届く。感覚は、あまりない。
「あっ!」
苗木君が目を見開いた。
私の右手は、沸騰したお湯を入れた小さな鍋の、その取っ手を跳ね上げていた。
音もなくお湯が飛び散り、そのうちの一部が、というよりほとんどが、私の右手に降り注いだ。
「霧切さん!」
彼が心配そうな顔をして、しゃがみこんだ私に顔を寄せる。
「ゴメン、僕が…その、沸騰していたから、次はどうすればいいのか聞こうと思って…」
「…いいの、大丈夫。あなたのせいじゃないわ。私の方こそごめんなさい、苗木君にはかからなかった?」
かかったのは、幸い既に熱さを感じない私の右手だけ。
心配されるようなことはないのだけれど、彼の心配した顔つきを見ると、
どうも本当に右手が、熱を感じているような、そんな錯覚に陥ってくる。
「と、とにかくその手袋外さなきゃ」
彼はそう言って、私の右手に手をかけた。
バシッ
「…えっ」
見開かれた幼げな目が、まず撥ねられた自分の手、そして私へと移る。
「あ…」
彼の善意の手をはねのけてしまったのだと、私自身が気づいたのはおそらく彼とほぼ同時。
無意識の行動だった。
何をしているんだ私は。
―いや、違う、これでいい
まだ、見せる時じゃない。
まだ、側にいることを許されても良いはずだ。
多少の誤解や批難なら、甘んじて受ける。
「…ごめんなさい。でも、大丈夫だから」
どう思われたって、構わない。彼の傍にいられる限り。
264:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:11:34 DKmh/sR9
>>263続き
「大丈夫じゃないよ!」
おそらくは初めて聞く彼の、戒めの大音声に、私は身をすくませた。
顔を挙げると、彼の顔には、怒りとも悲しみともつかない表情が浮かんでいる。
「ほら、腕を貸して」
彼が半ば強引に、私の右腕を掴んだ。
予想外の、握力。普段の小動物を思わせるか弱さからは、想像もつかない力。
ああ、男子なんだ。
「手袋、脱がすよ」
彼の強い力と、その意外性。それらが相まって、私は、
「やっ、ちょっと待って。おねが…」
ろくな抵抗も出来ないまま、手袋を外すことを許してしまった。
「…!!」
苗木君の目が見開いた。
その瞬間、私の右腕を掴んでいた力が緩み、私は急いで右腕を自分の支配下に引き戻す。
手袋を脱がされた右手に刻まれていたのは、私の罪の証である、醜悪な火傷の痕。
―見られた
どうしようもない現実が、眼前に落ちてきた。
絶望。激しい鼓動。パニック。
頭がぐるぐると回り、言い訳でも責め句でもない、次に紡ぐ言葉を必死で探す。
行き場を失った右手は、聖者からコソコソ逃げ回る娼婦のように、私の背に隠れ潜んだ。
いつか彼に打ち明けると覚悟を決めていたくせに、このざまだ。
―いや、違う
私はきっと、少しも覚悟なんて決めていなかった。
いつか打ち明けるという自分との約束は、この罪を隠しながら彼と時間を共有するための、言い訳に過ぎなかった。
見られたら、終わってしまうかもしれないから。
自分に都合の良い逃げ道だけ残して、現実から逃げていただけじゃないか、私は。
そして、もしかしたら彼なら、これを見ても気にしないかもしれない、という虫の良い希望は、
彼なら私の罪を許してくれるかもしれない、という無意識下の期待は、
「あ…」
全くの的外れだったのだと、彼の表情が雄弁に語っていた。
彼の表情は、彼の眼は、
かつてのクラスメイトが、気味悪がって私の手を瞥見した時と、寸分狂わず同じだった。
そして、よほど私の中の絶望が表情に表れていたのだろうか、彼は私の顔を見ると、すぐに視線を反らし、
「…ゴメン」
そう、一言つぶやいた。
265:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:18:04 DKmh/sR9
>>264続き
私は、改めて驚いた。
謝罪の言葉が、これほどまでに胸を痛々しく貫くなんて、初めて知った。
彼は何も悪くないのに。悪いのは全部、私なのに。
それでも謝るのは、彼が本当にどうしようもなく優しいから。
お人好しの彼に、罪悪感を抱かせてしまったことへの罪悪感。
そんな複雑な感情が、鋭く胸を穿った。
「…私、部屋に戻るわね」
そんな、気の利かない言葉しか出せなかった。
むしろ頃合い、ちょうどいいのかも。
きっと、このアクシデントが無ければ、私はこの先も罪を隠し、彼を欺いて、側にいようとし続けた。
これは、そんな私のずるさへの、罰なんだ。
私は立ち上がり、彼に背を向ける。
厨房から、彼の下から、去る。もう戻ることはないだろう。
「まっ、待ってよ!」
ぐ、と右腕が進行方向と真逆のベクトルに引かれ、危うく転びそうになる。
苗木君は、
私のむき出しの右手を握って、私を止めていた。
―何をして…
そこは、あなたが触れていい場所じゃない。
苗木君の顔は蒼白で、目は右手と私の顔の間を行ったり来たりと泳ぐ。
この醜悪な右手をつかみ取るのに、いったいどれほどの勇気が必要だったのだろうか。
「霧切さん、違うんだ、僕はけっして…」
きっとまだ不気味さが拭えないのだろう、彼が掴んだ右手には、先ほどのような力はない。
それでも私の絶望を、少しでも和らげるために、必死で掴んでくれたのだろう。
お人好しにも、ほどがある…
でも、ダメだ。
ここで彼の優しさに、甘えてはいけない。
彼を私なんかに、近づけてはいけない。
―だから…
266:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:20:43 DKmh/sR9
>>265
「離してくれないかしら、苗木君」
「え…」
「いいえ、違うわね。離した方がいいわよ、苗木君。
私の汚いのが移ったら、困るでしょう」
声を震えさせないように、最新の注意を払う。
あたかも本心で言っているかのように。
心の底の、「離さないで」という叫び声に気付かれないように。
ゆっくりと、しかし克明に、彼の顔に絶望が浮かぶ。
酷い顔だ。まるで、今の私を鏡で見ているようだ。
本当はあなたに、そんな顔をさせたくはない。
けれど、仕方がないのよ、苗木君。
あなたが私なんかにまで優しくするから
彼が私の手を離すことはなかったけれど、力は幾分弱まったので、
私は先ほど同様、強引に手を引きぬいて、足早に彼の下を立ち去った。
「っ~~~う゛ぅっ…」
二度とこんな醜いものを、彼の目に触れさせないように。
堪え切れなくなった泣き声が、彼に届かぬように。
右手を隠し、声が出ぬよう左手で喉を絞りあげ、少しずつ歩幅を広める。
彼の心を、それらが絡み取ってしまう前に、部屋に戻らなくては。
部屋に入り込むのと、私が大声をあげて泣き出したのは、ほぼ同時だった。
「っうぁあぁああ…あぁぁあああああああああああっ…」
泣く、というより、哭く、という方が、文字に充てれば正しいだろう。
慟哭。それくらい、私は大声をあげて哭いていた。
寄宿舎の個室は、完全といっていいほどの防音が施されているから、私は気兼ねなく哭き続けた。
涙は粒ではなく、一筋の線になって、瞳から流れ落ち続けた。
267:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:24:44 DKmh/sR9
>>266続き
苗木君に右手を見られたこと。
苗木君が右手を見たときの反応。
苗木君に罪悪感を抱かせてしまったこと。
苗木君のそばに、もういられなくなったという決定的な事実。
それらがどうしようもない後悔になって、私を傷め続けた。
むき出しの右手を壁にたたきつけながら、私は叫ぶように泣きじゃくる。
「っ、こ、こんな手なら、無くてよかった…
こん、な、こんな悲しみを感じるなら、心なんていらなかった…
こんなに側にいられなくなるのが辛いなら…っ、彼と出会わなければよかったのに…!!」
張り上げた大声が私の耳に返ってきて、はた、と私は気付く。
―いや、違う。それはダメだ
手も心も、なくていい。けれど、彼との出会いを、否定してはいけない。
彼とのこれまでを、否定するのは間違っている。なぜなら、彼は何一つ間違っていないから。
正しい反応だ。右手を見た時のものも、訳もなく謝ったことも。
むしろ、今まで見てきた反応の中では、最良の誠実さを伴っている。
思い出で、いいじゃないか。
彼との出会いを、共に過ごした時間を、思い出としてとどめておくだけ。
こういう素晴らしく綺麗な心を持った男の子もいた。そうやって記憶の一端にとどめておけばいい。
それだけで、十分なはずだ。
だから、これで彼の優しさに甘えるのは終わり。
彼のそばにいるのも終わり。もう彼は思い出の中の人物。
もう、関わってはいけない。
268:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:29:02 DKmh/sR9
>>259-267
一応、ここまでを前篇ということで区切らせてもらいます なげぇ
過度の謝罪はじゃまくせぇと、いつかSS書いた時に言われたので省略させていただきますいません
あの、ちょっとねつ造とか、キャラ崩壊っぽいとこもありますが、何卒大目にみてやってください…
後篇は今から清書に入ります。今日が終わるか終わらないかくらいに、投稿…できるといいな
269:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:30:10 T4rspoSa
寝ないで待ってる!
270:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:31:29 V3o9fPOt
乙すぎる
271:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:38:20 SXfR7Y7+
後編に期待せざるをえない
272:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 22:46:07 5F7AlKAF
>>268
乙!続き楽しみだぜ
273:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:00:12 UlsxVnqQ
クリア記念カキコ
5章は本当に霧切さんが死んだのかと思って半泣きでプレイしたぜ
274:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:00:50 tOYlpxri
探偵グッズのおもちゃもらって喜ぶ本職の探偵がいるらしい
275:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:22:52 djittvHW
>>268
俺如きが言うのもなんだが、あなたはもっと自信持っていいと思う
後編も期待してますぜ
276:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:25:57 LDIPtOf8
>>274
昔ハッピーセットのおもちゃに蝶ネクタイ型変声機があってだな
277:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:47:28 DKmh/sR9
さっき支部で休憩がてら霧切さんめぐりしてて思ったんだけど
霧切さんが苗木君にちょっかいかけてるのは多いけど、逆は少ないんだよな
苗木君にちょっかいかけられる霧切さんとかよくね
「やめなさい、苗木君」→「や、やめなさい!怒るわよ」→「や…やめ…くっ」→「やめ…やめ、ないで…」
「霧切さん、なにしてるの?ほら、髪梳かし終わったよ。やっぱ女の子なんだから、可愛くしなくちゃ」
ごめんなんでもない。続きを書く作業に戻ります
278:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/16 23:48:29 Jb/LHVfM
腐った方の業界では苗木君みたいな受け臭い子の性格を鬼畜に改変したりするそうだな
279:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 00:02:59 9uMnvM1q
>>277
二次設定を作る時は設定として無いものを
一からこさえる方が実は楽だったりする。
Pixivで気の強い霧→へたれ苗の図式が出来つつあるのは
そういう所が根底にあるからだと思ってる。
280:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 00:07:24 clVsvh7M
>>277
やめないで とか
前あったけど 浮気しちゃ・・・だめ・・・
みたいなのが大好物です
281:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 00:42:34 wTFyVGDQ
久々にSSを書いてみたものの、霧切さんのキャラ像が見事にブレるぜ……
282:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 00:45:10 2uXCNiIF
ポーカーフェイスの裏側で結構思考しまくってる
程ほどに演技も出来る
中身は結構不器用な性格
ほんのりいじめっ子
意地っ張り
大体この辺を覚えておけばいいんじゃない
283:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 00:56:04 jx1yxKL2
>>280あなたとはウマい酒が飲める気がする
>>282特徴見れば見るほど可愛いな…
284:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:17:07 wTFyVGDQ
>>282
助言サンクス
今日一気に過去SSを読んだから、全体的にデレ多めのキャラな印象になっちゃったのかも
そしてSSは展開が>>268とだだ被ってるので、そっちが完結してから投稿するぜい
285:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:29:45 jx1yxKL2
>>284む、申し訳ない…
とにかく、今エピローグの清書中だから、二時まで!
二時までにはうp開始する!
286:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:51:09 jx1yxKL2
>>268の続き、ようやく書き上がりました
といっても、さすがにこんな時間じゃ見てる人はいないかな…
とにかく、書かせてもらいます
コンコン
と、しばらくして、想定していた通り、ノックの音が部屋に響いた。
その頃には私はとっくに泣きやんでおり、もちろん、幾分かは落ち着きも取り戻していた。
彼なら、きっとフォローのために部屋に来るだろう。そう予想していたから、
「…あの、霧切さん」
「いいわよ、入って」
彼が部屋の前に、オロオロとした、小動物のような顔つきで立っていても、普段通り対応できた。
「え、あの…」
「話があってきたんでしょう?それとも、やっぱり部屋に入るのは嫌かしら。それなら…」
「う、ううん!おじゃまします…」
さあ、どう出るだろうか。
どう出てきても、私は彼の弁明や慰めを、完膚なきまで拒まなければならない。
今後、彼の中に、私のそばにいるという選択肢が無くなるように。
彼に椅子を差し出し、私はベッドに腰掛ける。
それから、ただじっと、彼が話し出すのを待った。
「あの…」
「何?」
出来るだけ冷たい声で、問いかける。
「まずはこれ、返しておこうと思って…」
彼が差し出したのは、私が外された右の手袋。
そういえば、あの場に忘れてきてしまっていたのか。
「ああ、ありがとう。わざわざ持ってきてくれたのね」
私が無感情―に聞こえるように取り繕った声を響かせるたび、彼は怯えたように身をすくませる。
罪悪感が胸を突き刺す。彼は何も責められるようなことなどしていないのに。
「えっと、それで、改めて謝りたいな、と」
「謝る?何を?」
さあ、どうでる。
「…霧切さんが見られたくないものを、勝手に見てしまったから…」
なるほど、そう来たか。
「…それはこの、右手のことを言っているのね?」
彼は無言で、下を向いている。肯定ととっていいだろう。
「…そう思うということは、やはりあなたも、『私がこれを他人に見られたくないと思っている』と思ったのね」
「え…」
違うの?とでも言いたげな表情。
「私はね、別に『この傷跡を人に見せること』自体には、何の抵抗もないわ。
私は、『私のこの傷跡を見た人の反応』が見たくない、それだけなの」
「反応…?」
「みんな、同じ顔をするの。『気持ち悪い』『見なければよかった』といったような、ね。
ちなみに苗木君、さっきのあなたの表情も、例に漏れていないわ」
「そっ、そんな、こと…」
287:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:53:24 jx1yxKL2
>>286続き
ドス、ドス、と、罪悪感が私の心を切り刻む。
彼に投げかけた言葉の槍が、そのまま私の心を貫く。
今私がしているのは、悪魔の行いだ。心配してきてくれたのに、それを仇で返すなんて。
けれど、そうする他にないから。だから、
―おくびにもだすな…
「あなたを責めているわけじゃないのよ、苗木君。あなたの反応は、ごく自然なもの。
だからあなたは謝るべきじゃない。だってあなたは、何一つ悪いことなんてしていないんだもの」
彼は、ぐっと唇をかみしめた。
それは、なにかに耐えるというよりは、なにかを決意したような、そんな仕種。
「…わかった。的外れに謝ることは、しないよ」
「そう。それでいいの」
「…ただ」
「?」
それまで下を向いていた彼の瞳が、力強く私を射抜く。
「聞いても良いかな。その、手の傷のこと」
―これは、
今までにない、初めての反応だ。
なるほど、今まで私のそばにいただけあって、意表を突くのには慣れているのかもしれない。
「…傷ができた経緯、ということ?」
「それも含め、諸々」
「諸々、って?」
「どうしてそんな傷を負うことになったのか、とか、その傷ができてからの周囲の反応とか」
「…そう。ずいぶん遠慮なしに尋ねるのね」
「遠慮する方が、失礼かなって思ったから」
彼は時々、
ひどく真っすぐな目をする。
「手の傷跡自体じゃなくて、それを見た相手の反応が嫌なんでしょ?
そこには「偏見」や「忌避」だけじゃなくて、「同情」や「遠慮」もきっとあると思ったから。
でも「言いたくない」「言えない」のなら、もちろん言わなくていいよ」
職業柄、悪意と威圧に満ちたまなざしは、嫌というほど見て、見慣れてきたし、耐性もある。
けれど、彼の眼には、悪意はもちろん、威圧の欠片もない。
それなのに、なぜか気圧される。
真っすぐ、鋭く、そして正しく。これが同い年の少年か、と思わせるほど、芯の強い目。
どうも私は、その目には滅法弱いらしい。
「…いいわ。言いたくないということもないし」
私は抵抗を諦め、素直に話すことにした。
288:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:55:04 DD/00RMd
よいではないか!
289:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:55:38 jx1yxKL2
>>287続き
「…私がこの傷を負ったのは…そうね、まだ探偵として駆けだし中の頃、とでも言えばいいのかしら。
私が相手をしていたのはとある犯罪組織。私はいくつかの事件を解決していく過程で、その存在を知ったの」
どうせ今日で終わりなんだ。
傷の経緯くらい、幾らでも話せばいい。
「…自分の力を過信していた、というのもあるし、周囲からの評価が欲しかった…焦っていたんでしょうね。
とにかく私は、数名の仲間と一緒に、その犯罪組織の根城を探し当てた…けれど、
仲間の一人に、内通者がいたのね。私は根城に潜り込んだのだと思っていたのだけれど、実はその逆。
彼らにおびき出されたのよ。その根城の最奥まで。
逃げることは難しくなかった…けれど、人質を取られたの。その人質というのが…」
「本当は、その内通者だったんだね」
「そういうこと。よくわかったわね。探偵業が身についてきたのかしら?」
彼は私の茶化しも介せず、続けるように促した。
「…もちろんその時の私はそんなことは知らなかった。プライドを捨てて、彼を助けてくれるように頼みこんだ。
そこで彼らが出した案は、『その犯罪組織に伝わる拷問に耐えきれば、彼も私も無傷で解放する』というもの」
「拷問…」
「焼却炉の中に自ら手を入れ、30秒耐えきれば合格、というシンプルなものよ」
苗木君の顔が青ざめる。
「本来のルールでは、手枷なんかをして、無理矢理30秒耐えさせる、というのがあるらしいのだけれど…
私にはそれをさせず、その代わり耐えきれず早く手を出してしまえば、目の前で彼を殺すと言われたわ。
そして私は、裏切り者の命を救うために、自分で自分の手を焼いた…
目が覚めた時は、知らない町の病院にいたわ」
290:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 01:57:38 jx1yxKL2
>>289続き
「…」
苗木君は、予想外に壮絶、とでも言いたげな表情をしていた。
他人の経験に感情移入してしまう彼には、よほど耳に堪える体験談だっただろう。
自画自賛、とは少しベクトルは違うけれど、自分でもこの体験はかなり酷な部類に入ると自負している。
「それで…ああ、えっと、周囲の反応ね。まあ、身内以外は概ね同じ反応よ。
気味が悪い、えぐい、グロい、近寄りたくない。
視線や顔で訴えてくる人がほとんどだけど、中には直接口に出す人もいたわ。
…あなたの反応は、その中のどれよりも、優しかった」
…何を口にしているんだ、私は。
そんなこと、わざわざ言う必要なんかない。
彼には冷たく接すればいい、もう二度と私に関わろうという気が起こらないように。
「でも、やはりあなたも思ったでしょう。この手が、気味が悪いと」
彼には、罪悪感を植え付ける。ありもしない罪に対する罪悪感を。
「…驚きはしたけど、気味が悪いなんて思わない」
「嘘はつかなくていいのよ。言ったでしょ、あなた、顔に出やすいのよ」
「…どうかな。見たときは正直少し、いや…かなりショックで、その時の気持ちは忘れたけど、
少なくとも今は、ぜんぜん思わないよ。不気味だなんて」
思わず、イラッとする。自分の思い通りにならないことに。
もう少し露骨に、責めた方が良かったか。
「さっきあなたも自分で言ったでしょう。『同情』も、私はいらないの」
「『同情』なんかじゃないよ」
「じゃあ何なの?」
「…強いて言うなら『尊敬』かな」
291:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:00:52 jx1yxKL2
>>290続き
頭に血が上る、とは、こういうことを言うのだろう。
メリメリ、と、血管が膨張する音まで響いてきそうだった。
違う、わかっている。
苗木君に怒りをぶつけるのは、全くの筋違いだ。
それでも怒りは、彼に罪悪感を抱かせていることへの負い目や、彼のそばにいられなくなるという絶望を、軽く凌駕するほどだった。
この傷について、知ったかぶりをされることへの怒りは。
「『尊敬』?おかしなことを言うのね」
口端が、怒りからかヒクヒクと震える。
探偵の職務中ですら、こんなに怒りを抑えきれなかったことはない。
「一体今までの話のどこをどう取れば、この醜い手に対して、『尊敬』を抱けるのかしら」
彼の眼は、射抜くような真っすぐさを保っていた。
それは、彼が自分の発言に少しの負い目もない、という証拠に他ならない。
彼はウソをついてはいない。本心から言っている。
それが、余計腹立たしい。
そしてだからこそ、次の発言は、
「…だってその傷は、霧切さんが戦った証だから」
確実に、的確に、
私の逆鱗に触れた。
「知った風な口を利かないで!!」
ここまで感情的になったのは、いつ以来だろう。
私は腰かけていたベッドから立ち上がり、彼の胸ぐらをつかみ、絞りあげる。
苗木君は抵抗せず、そのまま引きずりあげられた。私より身長が低い分、宙に浮くような形になる。
椅子が音を立てて倒れても、彼の射抜く目は変わらない。
―その目をやめろ!
「この火傷痕は、私の過ちの傷跡!過去の汚点であり、それを忘れないための戒めなの!
今までこれを、磔刑のごとく背負って生きてきた…『尊敬』?的外れな発言も、そこまでいくといっそ清々しいわ。
あなたに何がわかるの…!?この傷を背負うための私の覚悟、この傷を背負ってからの屈辱…
あなたみたいな凡人に、その一欠けらでも共有できるの!?いいえ、一欠けらも理解されたくなんかないわ…!!」
292:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:02:28 jx1yxKL2
>>291続き
攻め立てる私の方が泣き叫んでいる。おかしな構図だ。
私は追いつめられたか犯人のように暴言を吐き散らし、彼は淡々とそれを受け、そして答える。
「…共有なんて、絶対できない。それは、霧切さんが戦った証だから、他の誰にも、ましてや僕なんかに、
それをわかちあうことなんか絶対できやしないんだ。
僕にできるのは、霧切さんが教えてくれたその事実から、僕自身の見解を作ることだけだよ」
「それが『尊敬』?そうだというなら、あなたは相当な盲信者か頑固者、もしくは相当のペテン師ね。
でもね、どんなに自分を偽っても、本能から来る嫌悪感には、抗うことは出来ないのよ…!」
私は半ば自暴自棄になって、左手で彼の胸ぐらを捕まえたまま、むき出しの右手を彼の眼前に差し出した。
おそらく、何も考えずにしゃべっているのは私の方だ。
ただ、怒りと、自分から彼を突き放す、という衝動にだけ駆られている。
「ほら、見て…気色悪いでしょう?私が自分でそう思うんだから、あなたには尚更のはずよ…」
さあ、怯め。
臆しろ。慄け。
『尊敬』だなんてウソの言葉に隠した本心を、さらけ出せ。
そうじゃないと、私はあなたに縋りついてしまう。
そうじゃないと、私は希望を抱いてしまう。
だから
―その目で見るのを、やめて…!
「…お願いだから、苗木君。正直に、気持ち悪いと、不気味だと、そう言って。
あなたが何を言おうとしているのかは、皆目見当もつかないけれど
私はあなたがその言葉を口にするのを、期待しているわ」
その方が、変な希望を持たされるより、幾分も楽だから。
彼は、口を開かなかった。
じっとその目で、私を、右手を見つめていた。
293:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:05:22 jx1yxKL2
>>292続き
その珍妙な硬直は、そのまま少しだけ続き、先にその均衡を破ったのは、
無様にも沈黙に耐えきれなくなった私の方だった。
「…苗木君」
呟くように、彼の名前を呼び、ふといつのまにか、彼を締め上げる手の力が、緩んでいたことに気づく。
彼はすでに地面に足をついていたけれど、まだ私の手を振り払ったりはしない。
苗木君はまだ、何も言わない。
ただ、その代わりに。
私が名前を呼んだことを合図にしたかのように、ゆっくりと彼が動き出す。
ずい、と、二人の距離を縮めて、一歩前へ。
「ちょ、ちょっと…」
目は、私を射抜いたまま。何をされるのかもわからず、私は気圧され、一歩退いた。
先ほどはアレほど激昂していたのに、おかしな話だ。これほど容易く、彼に押し負けるなんて。
きっとさっき私が喚いていたのは、子犬が恐ろしい相手に向けて吠えたてるのと同じだったのかもしれない。
彼の言動は、常々私の予想を上回る。わからないものは、恐い。
この部屋に入ってきた時は、彼の方が捨てられた犬のようにオロオロとしていたくせに、
いつの間にか、彼にリードを許してしまう。いつも、そうだ。
尻込みした私が、思わず右手を引っ込めようとすると、
それを察したのか、彼は食堂でみせた力強さで、私の右手をしっかりと握りしめた。
「ひっ…」
思わず、そんな情けない悲鳴が漏れる。
私の悲鳴や、おそらく怯えて情けない表情を浮かべている顔を受けても、苗木君は微動だにしなかった。
ビリっ、と、今朝のように、何も感じるはずのない右手から、鈍痛と熱を感じる。
それは右手が彼に近づけば近づくほど、より強く、大きな刺激になり、私は顔をしかめた。
まるで彼が、あの時の炎のようだ。
ほら、言わんこっちゃない。近づいてはいけないのに、近づくから。
自分を過信して、太陽に近づきすぎるから、羽をもがれるのだ。
あまりの激痛に、足に力が入らなくなり、そのまま後ろのベッドに倒れるようにして座る。
彼は座った私に目線を合わせるように跪き、そして、
おもむろに私の左手にまで手を伸ばした。
294:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:07:52 jx1yxKL2
>>293続き
それは、恐怖さえ感じるほど。
本当に、何をされるのか分からない戦慄。
彼が私の左手を器用につかむ。そして、その手袋にまで手をかけられて、
やっと私は、抵抗する、ということを思い出した。
「いっ、やだ、苗木君…離して…!」
必死にもがき、腕を振りほどこうとするけれど、やはり彼の力には敵わない。
暴れても暴れても。故意ではないけれど、振り回した足が彼の腹を蹴り飛ばしてしまっても。
彼は決して、私の腕を、私の罪を、離そうとはしなかった。
ぐい、と、手袋に指がかかる。
「いや、だっ…!!見ないで、苗木君!お願いだから…許して、苗木君っ…!」
涙が出そうになる。
なぜ?どうしてこんなことをするの?嫌がらせ?
それとも、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか。私が彼に、的外れに怒鳴り散らし、罪悪感をなすりつけたから。
私が思索を進める間にも、彼は器用に左手の手袋を取り去った。
そして、彼は私の汚れた両手を手にとって、
それを、自分の両頬に押し当てた。
―なに、を、してるの…?
尋ねようと口を開くけれど、言葉が出ない。
私の体から、抵抗という概念を失ったかのように、力が抜けていった。
私の素手を、自分の両頬に当てるだけ。言葉にすれば単純なその行為は、それは、
私が今まで最大の禁忌としてきた行為を、体現していることに他ならなかった。
「なえぎ、くん…?」
力なく、喘ぐように、私の口からこぼれおちた、彼の名前と、それに続く泣きごと。
だめだよ。
きたないよ。
うつっちゃうよ。
幼児退行でもしたかのような、情けない語り口だ。
おそらく後で思い出して、顔から火を吹く思いをするのだろう。
けれど、そんな目も当てられない私のざまを見て、彼はあやすように囁いた。
「誰かが、そう言ったの?」
だって、私の手、汚いから。
「汚くなんかないよ」
呪われているから、呪いがうつっちゃうよ。
「…絶対、そんなことない」
295:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:10:25 jx1yxKL2
>>294続き
少しずつ、苗木君が私の手を握る力が緩んでいく。
けれど、不思議と私は、彼の頬に触れる私の手を、引き離すことができなかった。
そうしなければ、ならないのに。触れていてはいけないのに。
だって、きたないから。うつっちゃうから。
「…霧切さん」
言い聞かせるような彼の声は、幾分か鼻にかかったような音をしていた。
今にも泣き出しそうな声で、けれどそれを必死にこらえていた。
目は潤むけれど、力を入れて、それが零れおちないように、じっと私を見つめていた。
「…さっきも言ったよね。
この手は…火傷の痕は、霧切さんがどう思おうと、霧切さんが戦ってきた証だ。
僕は、凡人だ。戦いとか、何も知らずに安穏と生きてきた。
だから、戦ったことのない僕には、この手を『尊敬』することはできても、汚れていると思うことはできない。
目に見える姿形に囚われて、馬鹿にするやつらの方が、何倍も醜くて、何倍も汚いんだよ」
やめてよ。
だめだよ。
私に、私なんかに、優しい言葉を投げかけないで。
汚れた私が、あなたのそばに―
「汚れてなんかない―!!!」
苗木君が叫んだ。
恐ろしいほど、怒気に満ちた声だった。
彼がこれほどまで感情的になったのは、見たことがないというほどに。
なのに、そんな彼の表情は、
「汚れてなんか…いないんだっ…!」
初めて私の素手を見た時と同じくらい、絶望に満ちた悲しい表情だった。
296:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:19:15 DD/00RMd
できれば心情表現の口調も普段の口調に合わせたほうがいいんじゃないかなー
> 苗木君は抵抗せず、そのまま引きずりあげられた。私より身長が低い分、宙に浮くような形になる。
> 椅子が音を立てて倒れても、彼の射抜く目は変わらない。
> ―その目をやめろ!
こことかね。その目をやめないさい、みたいな
とは言ってもこんな面白いss書けるあんたは、それこそ「尊敬」に値すると誰もが思うだろうから
自信を持つべきだわな。謙虚と卑屈は違うぜ…
297:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:21:40 jx1yxKL2
>>295続き
つ、と彼の頬を、さんざん溜められた涙が、ようやくか、とでもいうように、ゆっくり伝う。
涙は私の手に当たり、そこから言い知れぬ感覚が、ず、と私の中に入り込む。
「拒み続けることが、どれほど辛いのか…っ、僕には、わからない…」
彼は言葉を紡いだ。
その間にも、涙は一粒、また一粒と、私の指を、掌を濡らす。
「よく、耐えてきたね…」
涙が触れた火傷の痕から、温かい彼の感情が、私の中に流れ込んでくるようだった。
「…馬鹿ね」
彼の温かさが、ゆっくり、ゆっくりと、
「なんであなたが泣くのよ…」
私の中の氷を、溶かしだしていく。
「ゴメン…僕が、泣いちゃいけないって、わかってるのに…っ」
溶けだした氷は水になり、
「ほら、さっきも言ったでしょう…的外れな謝罪は止めてって…
だってあなたは、何一つ、悪いことなんてしていないのよ…」
ゆっくり、ゆっくりと、
私の目から、溢れだした。
「ごめんなさい、苗木君…」
私は壊れた人形のように、
「ごめんなさい、ごめんなさい…!」
止まらぬ涙を流し、彼に謝り続けた。
そして、最後に一度だけ、
「ありがとう…」
と、涙でぐしゃぐしゃになっただらしのない顔で、私は告げた。
298:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:23:58 jx1yxKL2
>>297続き
ダメだ。彼から離れることなんて、もう私にはできない。
だって彼は、この右手の罪を、罪じゃないと言ったから。
だって彼は、この左手の汚れを、汚れじゃないと言ったから。
だって彼は、この両手の醜い火傷の痕を、私の誇りに変えてくれたから。
離れる理由を、側にいるための動機に変えられてしまっては、どうしようもないじゃないか。
そのまま、私たちはお互いの顔を見ながら泣いた。
彼の手が私の手を掴むのをやめても、私は彼の頬から手を離さなかった。
その代わり彼は、自分の手を私の頬へと触れさせる。
優しく両頬を包まれて、思わず私はどきりとする。
しばらくそうして、互いの泣き顔に手を添え、私たちは見つめ合う。
ぐ、と苗木君が顔を近づけた。
いいのだろうか、こんな―
いや、もういい。もう、考えるのも面倒だ。
ただ、この幸せを享受すればいい。
そして私は、ゆっくりと目を閉じた。
299:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:26:36 jx1yxKL2
本篇(?)は>>298で一応完結ですが、エピローグが少しだけ続きます
もう少しだけレスを貸していただきます、ご容赦ください
エピローグ
情緒不安定、という言葉を当てては失礼かもしれないけれど、それはめまぐるしい表情の変化で
きっと僕に傷を見られたのがショックで、霧切さんは初めて僕の前で怒り、泣いた。それなのに、
「ふふ、もしかして、苗木君のファーストキス、頂いちゃったのかしら」
その、キス、を終えた後の霧切さんは、いつもの霧切さんに戻っていた。
「ええっ、その、えーと…」
「ねえ、答えて苗木君。答えられないということは、初めてじゃないのかしら?」
いつもの霧切さんとはどういうことか、というと、本当にいつもの霧切さんで、
ミステリアスな笑みを浮かべ、意地悪な質問をぶつけて困る僕を見ては、それを面白がる霧切さんのことだ。
「な、なんでそうなるのさ!」
「慌てる、なんて、ますます怪しいわね。そう、私としては構わないけれど、少し残念だわ。
せっかく私の初めてのキスを捧げたのに、苗木君にとっては、このキスはそれほど貴重なものではなかったのね」
手袋を再びつけてしまったのは少し残念だけれど、こればかりはしょうがないと思う。
やはりまだ、人目に触れるには抵抗がある、と、彼女は言ったから。
「え、は、初めて…霧切、さんも…?」
「あら、意外?というか、私にキスをしようとしたモノ好きなんて、あなたが初めてよ、苗木君。
そして私も、ということは、苗木君も初めてだったのね。
でも…意外ということは、苗木君の目には、私は誰とでもキスをするような淫らな女に写っていたのね。ショックを隠せないわ」
それでも、少しずつだけど、僕の前では手袋をはずす努力をする、とも約束してくれた。
色々と気障なセリフをぶつけてしまった気もするけれど、彼女の前進に携われたこと。今は、それを誇りに思う。
「もう…アレだけ勇気を出したのに、どうして僕だけ恥ずかしい思いをするんだよ」
「…何を言っているの、苗木君」
僕たちは今、彼女のベッドの上に並んで座っている。
手袋に包まれてはいるけれど、互いの手を、しっかり握って。
霧切さんは、そこで数秒だけ口を閉じ、それからみるみる顔を赤らめた。
「わ、私だって…」
「え?」
「私だって、ちゃんと、恥ずかしかったわ…」
そういうと、彼女は顔を赤らめたまま、つ、とそっぽを向いてしまった。
ああ、ダメだ。これからも僕は、彼女のペースに振り回されっぱなしだ、と、ここで改めて確信する。
だって、そんな彼女の恥ずかしがる素ぶりに当てられて、
きっと今の僕の顔は、一段と真っ赤に染まってしまっているだろうから。
300:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:27:33 jx1yxKL2
>>299続き
気まずい沈黙を打破するため、僕はこの部屋に来た、もう一つの目的を彼女に告げた。
「実は、手袋と謝罪のほかにも、まだ霧切さんに用事があったんだよね」
「そ、そうなの?」
「約束したでしょ。霧切さんの手作りのロイヤルミルクティ、飲ませてくれるって」
「…ええ、そうだったわね」
穏やかにほほ笑んだ彼女の手を取り、僕は霧切さんと食堂へ向かう。
途中で遠征から帰ってきた朝日奈さんたちに、手を繋いで歩いているところを見つかって、
これでもかというくらいに冷やかされるのだけれど、その時の様子まで事細かに書くのは、
さすがに僕のか弱い羞恥心では、耐えられそうにない。
だって、彼らが冷やかす間も、顔を真っ赤にして言い訳を並べながら、
彼女は僕の手を、離そうとはしなかったんだから。
301:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:39:16 jx1yxKL2
>>286-300 これで一応、後編も完結です ああ長かった…ホント何レス使ってんだよ…
火傷関連の話で、そのトラウマを論破する苗木君が書きたくてやりました。
あとこのスレで、「あ、これいいな」って思ったポイントをちょくちょく入れたり…
反省はしていますん。後悔はしていません。
>>296ご助言ありがとうございました。
けれど、せっかくなのですが、この内面での口調変化だけは、
ちょっとこだわりがあったので変えるわけにはいきません、すみません…
でも、本当にありがとうございます。
あと霧切さんがやたらネガってるのは、多分俺の卑屈がモロ映ってます。お許しを…
途中で感想をくれた方々も、本当にありがとうございました。
書いている間の励みになりました。
長くてグダグダだし、読むのもだるいと思うけど
最後まで読んでくれた人がいたら、本当にありがとうございました。
もしまた書けるのであれば、今度はもっと短くまとめる練習してきます…
302:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 02:47:30 RQi1ROjS
>>301
おつかれさまでございます。
個人的な所感だけど、霧切さんの手袋とか火傷に一区切りつけられた、と思う。
この話なら長いのも全く気にならなかったス。それだけ霧切さんのパーソナルな部分にうまく触れてたんだと思う。
卑屈云々、長い短いは置いといて、また貴方のお話が読みたいです。
303:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 03:25:38 AZXY3iW0
GJ。きっとデレギリさんは手が性感帯に違いない
304:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 03:30:59 r9S1254N
>>301
お疲れ様でした。
起きて待ってた甲斐がありました。
いっぱい感想があるけど自重して・・・一言だけ
興奮して眠れねーよw
305:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 03:34:46 Z3T7VHn/
おつかれさまです。 すんごいGJ
306:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 04:05:52 g+PGEkPJ
手かぁ
過去の過ちを繰り返さないことを手袋に誓ってるって、そりゃ逆じゃね?って思ってたんだよね
重要なのは手の痕そのものであって、手袋そのものじゃないはずなんだがな
普通忘れないためなら手袋で傷痕を隠すんじゃなくて、見せっぱなしにするんじゃないかと
その辺を続編とかで突っ込んで欲しいが・・・出るならば
307:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 04:40:03 vhrrKQ4Q
超高校級のカップルじゃなくて夫婦なのはなんでかしらん
いや悪くはないが夫婦と高校生って馴染みにくい単語だし
二人の関係が夫婦っぽいって事か?
308:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 05:25:12 73eJ0bIv
>>306
最初はそうしてたのかもしんないよ
でも周囲の目とか、やっぱ不快感は振りまいちゃうじゃん
それでも自分勝手に晒し続けるのは自戒でもなんでもないと思うんだよね
だからどっちにしろ傷跡を隠すのは普通じゃないかと
強いて言えば治療をしてないのが自戒の表れかと、あの世界ちょっと科学力ぶっ飛んでるし
治療しようと思えば簡単だったと思うんだよね
309:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:39:45 wTFyVGDQ
>>301
お疲れ様です
自虐的な霧切さんに超萌えた!
310:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:46:47 wTFyVGDQ
じゃあ、自分もSS投下するー
前出の作品と展開が被っているけど、ご容赦を
タイトル:僕の好きな人は(前編)
ジャンル:苗霧ラブシリアス?
時間軸:希望ヶ峰学園時代(よくある苗木が霧切さんの探偵助手的な)
311:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:47:34 wTFyVGDQ
「苗木君、恋してる?」
窓の外に広がる景色を眺めながら、霧切さんは唐突にそう切り出した。
「こい?」
僕はただオウム返しに呟き返す。
「そう、恋愛の、恋」
今度は真っ直ぐ僕の方を見ながら再びそう問いかけた。
明日のテストが心配だったから居残っただけだったはずなのに、何だろう、この雰囲気は。
放課後の教室。
教室を出て行くみんなをよそに、霧切さんは僕の席にやってきた。
いつも通り探偵助手のお誘いだろうか。
流石にテスト前だからと断ろうとしたところで、彼女は僕の前―朝比奈さんの席に座った。
「苗木君、勉強していくの?」
「え、ああ、うん……」
帰り支度をしていなかったことから察したのか、予想外の質問にちょっと慌ててしまう。
「だから、今日は―」
「私も一緒にしても構わない?」
捜査の誘いを断ろうとしたところで、予想外の方向からパンチが飛んできた。
僕の知ってる霧切さんは、自分からそんなことを言うキャラじゃない。
でも、流石にそんなこと言えないので、とりあえず、目を白黒させてみた。
「今は何をやっているの?」
「え、古文の復習だけど……」
ちょうど良かったわ、と言いながら、霧切さんは朝比奈さんの机の向きを変え、僕の机と合わせる。
周りを見ると、既にみんなそれぞれ教室を出て行ったようだ。
「……ひとつ、良い?」
鞄からノートなどを取り出す霧切さんに問いかける。
「何でまた、霧切さんが僕なんかと勉強を?」
霧切さんは、無言で古文のノートを差し出す。
中を開いてみると―所々空いているページがあった。
「捜査の所為で何度か授業に出そびれたのよ。あなたが教えてくれないかしら?」
こうして、不思議な二人っきりの勉強会が始まった。
312:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:49:04 wTFyVGDQ
「恋、って言われても……」
いきなり何を訊くんだ、この人は。
ここまでの勉強会はいたって普通だった。
霧切さんの古文力は至って優秀で(僕が教えるまでもないくらいに)、僕が「好きだ」などと囁いたわけじゃないし、古文の内容が愛を綴ったものだったということもない。
だから、僕には何でこんな話になったか理解できない。
「【質問の意図】が……」
とりあえず、普通に返すことにする。
霧切さんはため息を吐いた。
「(言弾:恋話)それは違うわ」
「えっ?」
普段の表情から一瞬で鋭い視線に変え、僕に向ける。
「舞園さんや江ノ島さんが言っていたわ。男子も女子も高校生なら一つや二つする、って」
何か予想外のところでゲームの要素を無理やり取り込まれた気がするが、僕が論破されたのは事実だ。
「霧切さんも、舞園さんたちとそういう話するんだ」
僕がそう返すと、霧切さんの顔が一瞬だけ赤く染まった。
「た、たまたまそういう機会があったのよ。同じクラス男子と付き合うなら誰か、ってね」
赤面した霧切さんも可愛いな、なんて思いつつも、女子たちがどんな話をしたのかが気になった。
「まあ、今現在、私が訊きたいのはそんなところじゃないわ」
しかし、すぐに机に両肘を立てて組み、口元を隠す霧切さん。
その表情はどこか作ったように無表情だ。
「恋の話、だっけ」
「そう、苗木君は誰が好きなの?」
何故、誰かが好きということは確定なんですか。
「ここには色んな人がいるじゃない。これで好きな人がいなかったら、苗木君は間違いなくイ●ポよ。専門医に相談することをお勧めするわ」
確かに個性的なメンバーだということは認める。それ以前に、その表現はどーなんですか。
不名誉な称号を頂きたくないので、ここは真面目に考えることにする。
「私の勘は【舞園さん】か【朝比奈さん】ね。守りたくなるような女子は人気がある、って言ってたわ」
確かに、彼女達は守ってやりたくなる。
舞園さんは何てったって超高校級のアイドルだし、朝比奈さんは天然なところがあって危なっかしい。
「一方、頼れるって意味で【セレスさん】や【大神さん】、【戦刃さん】も捨てがたいんじゃないかしら?」
セレスさんは時々恐ろしいまでのキャラでみんなを引っ張ってくれるし、大神さんや戦刃さんは体力面でも本当に頼りになる。
「【江ノ島さん】や【腐川さん】だってファンクラブがある程の人気だって聞いたわ」
今時、ファンクラブなんてあるんですか?
まあ、確かに江ノ島さんはカリスマモデルだし、腐川さんも喋らなければ十分可愛いだろう。
「誰なのかしら、苗木君の【好きな人】は?」
だけど……どうもピンとこない。
彼女達は、何処か遠いのだ。
超高校級の彼女たちと、極々普通の高校生である僕。
「……眩しいんだよね」
「……そう」
僕には、ちょっと眩しすぎる。
僕はこれまで、普通の人生しか送ってこなかった。
それを知って彼女達がどう思うのかが、怖いのだ。
退屈だと思われるか、無駄だと思われるか、残念だと思われるか。
313:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:49:56 wTFyVGDQ
「そうね、でも、彼女達は問題なく受け入れてくれると思うわ」
そういって、霧切さんも苦笑いを浮かべる。
この展開は考えていなかったのだろう。珍しくちょっと焦った様子だ。
そういえば、霧切さんは彼女自身を選択肢に入れなかった。
いつも通り一歩引いたところから僕たちを見てるのだろうか。
「霧切さんは、何で僕の好きな人を知りたいの?」
「そ、それは……今後、私の捜査を手伝ってくれるあなたの好きな人が、犯人に狙われないとも限らないからよ」
論破するまでもなく、霧切さんの言葉は嘘だと分かった。
声は震えていたし、目は逸らしている。
そんな彼女が愛おしいと思ったのは、いつからだろうか。
霧切さんの捜査を手伝っているとき?
霧切さんとよく話すようになったとき?
霧切さんと初めて話したとき?
霧切さんを初めて見たとき?
分からない、でも、いつの間にか僕は―。
(“言弾:霧切さん”を入手しました)
「僕が一番好きな人は―」
それは何処からきた感情だろうか。
羨望か、連帯感か。
「【好きな人】は?」
そうじゃない。
もっと、言葉では言い表せない何かから生まれた感情だ。
長く伸びた髪とワンポイントの三つ編み、瞳に真実を見つめる光を溜め、手には悲しい思い出を手袋で封じ込んでいる、一番僕を必要としてくれる女の子。
「(言弾:霧切さん)―霧切さんかも、しれない」
好きという感情がこれで正しいのなら、僕は彼女が好きなのだろう。
314:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:50:38 wTFyVGDQ
一方の霧切さんは、一瞬、ぽかんとした後、凄く困ったような表情を浮かべた。
「そういう冗談はよろしくないわ、苗木君」
「いや、冗談じゃないんだよね」
今の一言で動揺したのが手に取るように分かった。
いつもは見られない一面、といった感じか。
なるほど、先人の言うとおり、それには恋するだけの魅力がある。
困った表情に若干の笑みが混じる。どうやら僕は嫌われてはいなかったようだ。
「いや、でも、そんな……」
照れているのだろう、だんだんとその顔に朱が差してくる。
「予想外だった?」
「ええ、完全にね」
どこか嬉しそうに彼女は答えた。
「私も、苗木君は嫌いじゃないわ。むしろ好意を持っていると言って良いかもしれない」
だけど、と彼女は少し表情を強張らせて続ける。
「あなたには、私よりも舞園さんたちを好きになって欲しいわ」
「え?」
「彼女たちは、それぞれの夢に向かって全力で進んでいる。そして、彼女達には支えが必要なのよ」
何故だろう。
何故この人は、ここまで自分を追い詰められるのだろう。
「苗木君、ここまで言えば分かるわね?」
何故もっと、自分の幸せを望まないのだろう……。
「ごめんなさい、変なことを訊いて。私、そろそろ帰るわ」
霧切さんは、そう言ってそそくさと勉強道具をしまい始める。
焦っているのだろう。手が若干震えている。
僕は彼女に何も声をかけなかった。いや、かけられなかったのだ。
何と言えば良いのか分からなかった。
否定すればいいのか、肯定すれば良いのか、でも―。
そう考えているうちに、霧切さんは鞄に勉強道具をしまい終えていた。
「また明日、苗木君」
それだけ言って、逃げるように教室を出て行ってしまう。
彼女が見えなくなってから、大きくため息を吐いて椅子にもたれかかった。
窓の外はいつの間にかザアザアと雨が降り始めていた。
そういえば、天気予報が嵐が来ると告げていたはずだ。成る程、みんながそそくさと帰るわけだ。
僕は霧切さんを―。
・追う
・追わない
315:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 08:55:30 wTFyVGDQ
とりあえず、前編ここまで
SSだとバツが悪くなった霧切さんが逃げ出して、苗木が追いかけるってパターン多いけど、そういう王道って素敵だと思うのですよ
苗木視点で書いたので、霧切さんをデレよりクールめに表現できた、と思いたい……
「続きは“卒業”の後で!」
316:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 10:12:17 U+X0hlb0
よく考えたら俺の嫁だった
317:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 11:54:00 eM23GSBf
>>301
GJ!
ウェットな霧切さんもいいな
>>315
おお、ノンストップ議論を盛り込むとは新しい試みだ
続きに期待
318:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 12:24:22 XXc95BTJ
霧切「超高校級のおバカさんね、貴方は」
って冷たい目で見られながら上から土下座してる頭を踏みつけられる権利…
さぁ!1万円からスタートだお!
319:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 13:15:25 jx1yxKL2
>>315GJ!素敵小説じゃまいか!
自分で書いといてアレだけど、俺自分のよりこっちのが断然好きだw
ちょっと続き見るために桑田君アポしてくるわ…
320:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 17:07:33 PeFm4qxp
ことある毎に「男の子でしょ」と苗木君を叱咤する霧切さん萌え
何がって、背も低くて細い苗木をちゃんと男として扱ってるところが萌える
321:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 17:09:27 HaX/rmV+
本スレでも出てたけどamazonにビジュアルブックの表紙きてたね
霧切さんが目立ってて俺歓喜(* ̄▽ ̄*)ノ"
322:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 17:14:19 RQi1ROjS
ここ二、三日素敵なナエギリが尽きなくて嬉しい
んでその中に自分のを一本紛れ込ませて、感想貰えたりしてほんともう嬉しい
ダンガンロンパは環境とかシチュとか特殊で書き辛いかもしんないけど、
ED後でも非日常編でも学園生活でも好きなナエギリをみんなもっと書いたらいいと思うんだ
学園生活で思い至ったんだけど結局誰一人としてちゃんと思い出せずに終わったんだよな...
なんかむなしい。
323:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 18:08:08 r6d/ZqW9
>>322
それは違うよ!
誰一人としてちゃんと思い出せずに終わったということは
続編と妄想の余地があるということだから希望を捨てちゃダメだ!
324:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 18:57:24 XXc95BTJ
朝、目が覚めると朝日に照らされた霧切さんが髪をかき分けながら満面の笑みでこう言うんだ…
「超高校級の早漏ね」
325:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:12:31 TGM07lxS
SにもMにもやさしいゲーム、それがダンガンロンパ
326:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:29:55 iA7KJKLu
付き合った女性の5人中3人に火傷痕のあった俺には霧切さんはどストライク
服着てると見えないところなのに
何故かそういう女性ばかりなのは
俺に引き寄せる何かがあるのか
327:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:47:10 HaX/rmV+
今更ながら>>61の続きを書き終えた俺が通りますよっと
やっと出来た割にはちょっと短いけど、納得出来るものにはなったんで
よろしければどうぞ・・・
「あれからもう半年以上も経つのね・・・・」
その間色々なことがあった。
春、親睦を深めようと彼が率先して皆に声をかけ、お花見をした。既に彼は皆の中心にいた。
夏、彼の一声で皆が集まり、海に行った。初めての仲間との海だった。
秋、「恋敵(ライバル)」が出来た。しかも複数。発端は勿論「彼」だった。だけど同時に「親友」にもなった。
そして冬・・・彼はそこにはいなかったが、彼のお陰で出来た「仲間」とのクリスマス・イブを楽しめた。
私は正直・・・昔、クリスマスというものが嫌いだった。
いや正確には嫌いになったのだ。
何故なら・・・私の願いを叶えてくれるサンタが・・・・・自分を祝ってくれる両親がいなかったからだ。
両親なき後、私を育ててくれた霧切家の親族が代わりに祝ってくれてはいたが、そこには少なからずの「同情」の感情があった。
私はそれが嫌だった。「あなたは可哀想な子」と言われているみたいだった。
ここに来た理由もそんなしがらみから解き離れたいと思ったからだ。父と決別する事で私はそんな「同情」を跳ね除けたかった。
だが・・・・今思えばそれは単なる詭弁だったのだ。私はただ父に直接問いたかっただけなのだ。
何故、霧切家を・・・・・私を捨てたのだ、と
今はもう父とはある程度和解が出来たが(ちなみにこれも誰かさんのおせっかいのせいだ)子供の頃からの確執がそんなに簡単に
解消出来る訳も無く、父との関係は未だギクシャクしている。
それでもここに来た当時とは違い、私は、「父」をまだ「父」と呼べる事になった事にどこか安心している自分がいるのを感じた。
328:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:48:54 HaX/rmV+
・・・・話が随分逸れてしまったが、早い話、私は10数年ぶりに穏やかにクリスマスを送れそうということだ。
今は一人きりだが、今までとは違い私を憐れむ人はなく、私自身もこのクリスマスという日を何のわだかまりも無く祝福できそうだからだ。
ただ・・・・・・・
「・・・私をそんな風に変えた張本人がここにいないのはどうなのかしらね?・・・・・フフ」
と、思っても仕様が無いことをぼやいてみた。そんな自分がおかしくて少し笑ってしまう。
・・・どうも自分は思ってたよりずっと苗木君にやられているようだ。
昔ならそんな感情は全く理解できなかったが今なら解かる。これが「恋慕」といわれる感情なのだと。
まあ、「恋敵」がいる時点で何をいまさらという話だが・・・
ガチャン
そんな事を考えていたときに、不意に寮の玄関から扉が開く音が聞こえた。こんな夜更けに他の寮生(上級生)が帰ってきたのかと思ったが、
足音はこの78期生の寮の方に向かっている。変ね?今日は誰も帰ってこないと聞いたのだけど・・・。
一瞬まさか不審人物?とも思ったがそれはありえない。この希望峰学園のセキュリティは並ではない。元々のセキュリティに
加え「超高校級の科学者」や「超高校級のプログラマー」等の手により国防総省も真っ青な強固なセキュリティを誇っているからだ。
おそらく他の78期生の誰かが予定を変更して帰ってきたのだろう。私は取り合えず挨拶だけはしておこうと足音の人物が近くに来るのに
合わせて部屋の扉を開けた。するとそこには・・・・・
329:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:50:19 XXc95BTJ
【付き合った】【女性】の【5人】中【3人】に火傷痕のあった俺には霧切さんはどストライク
それは違うよ!
330:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 19:51:03 HaX/rmV+
「あ、霧切さん!」
「苗木君・・・!?あなた実家に帰ってたんじゃ・・・・?」
「うん、そうなんだけど・・・今日父さんが急に夜に仕事に戻らないといけなくなってさ、それで父さんの会社が
ここの近くだから僕もついでに一緒に帰ろうと思って・・・皆にも会いたかったしね」
「そうなの・・・けど残念ね。今日は見ての通り私以外誰もいないわよ?」
「みたいだね;・・・・・・けど」
「?」
「霧切さんには会えたからやっぱり帰ってきて良かったよ(ニコ)」
「なっ・・・・・///!?」
・・・そんな笑顔でそんな事を言うのは反則じゃないかしら?そんな風に誰とも接するから
「恋敵」が増えるというのに・・・・まあ本人には全く自覚がないから逆に問題なのだが・・・・。
「どうしたの、霧切さん?なんか顔赤いみたいだけど・・・・・・?」
「な、何でもないわ・・・苗木君の気のせいよ」
「そう?ならいいけど・・・・・・・・あっ!!」
「ど、どうしたの!?」
「外!外見て霧切さん!!」
「外?・・・・・・・・・・・あ・・・」
苗木君に促されて外を見るとそこにはさんさんと白い雪が降り始めていた。庭に設置された
巨大なツリー(大神さんが山から持ってきたらしい・・・担いで;)と相まって
それはとても美しかった。
「・・・・・・綺麗ね」
「ホワイトクリスマスだね・・・・・あ、そうだ霧切さん!今何時!?」
「え?・・・・・・・24時5分前だけど?」
「よかった、じゃあまだ間に合うね!」
「間に合う・・・?」
そう言うと苗木君はこちらに向き直って私をまっすぐ見て、ちょっと恥ずかしそうにしながら、こう告げた。
「ちょっと遅くなっちゃたけど・・・・・・メリークリスマス、霧切さん」
「・・・!?・・・・フフ、そうね・・・・・・・・メリークリスマス、苗木君」
どうやら私のサンタは随分遅れてやってきたようだ・・・・。
FIN
や、やっと書き切った・・・もう1月半ばにクリスマスSSって・・・・・
さあ、つぎはバレンタインSSか・・・・修羅場がかけそうだなw
331:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 20:15:11 XXc95BTJ
霧切さんって一回落ちたら向こうからくっついて離れなさそうじゃね?
332:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 20:22:46 clVsvh7M
>>331
色々と理由をつけて苗木から離れない霧切さんに萌えた
333:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 20:54:47 wTFyVGDQ
>>330
GJ! 2828したぜ
同時にクリスマス前にダンガンロンパ買っておけば良かったと後悔した
334:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 21:30:23 BCtfeJWT
最高です モノクマメダル100枚あげたいレベル
心理描写で文語調、というか固めの表現になるのは個人的には全然良いと思いますが・・・好みの問題かなあ
苗木クン男前やで・・・
335:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 21:49:09 HNl5zdcP
苗木君は超高校級の女たらし(天然)だな
336:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 22:01:47 eM23GSBf
>>330
GJ!
待ってたぜ…最後まできっちり書き上げてくれてありがとう
337:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 00:17:55 a6unXHF0
学園内では「これで最後」とか言って一定の信頼関係から先を築こうとしなかったのは、そうなると推理や判断力がにぶるからって理屈だったんだろうけど
全ての事件が終ったら「あなたと一緒なら楽しみよ」なんて言うんだもんなぁ
ああ霧切さんも「我慢」してたんだね!って感じで可愛い
338:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 01:25:41 9Bq4ZOWz
クリスマスSSの人GJ!
どうなったか気になってたんだぜ。
ほのぼのENDでよかった。
バレンタインも期待してます。
ところで誰も>>314の選択肢に触れてないのはどういうことだ兄弟?
俺は男らしく「追う」を選択するぜ(作者さんの中では決まってるかもしれないが・・・)
・・・BADルートだとしても本家のようにループしてくれるよね
339:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 01:54:48 1cz8epR3
あ、>>338に言われるまで全然わかんなかったけど
>>314の選択肢ってもしかして、俺らにゆだねられてるのか?
もしそうだとしたらすげえ魅せ方だな…
それなら俺も無論「追う」なんだけど、どうなんだろ
340:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 01:57:35 NlMBb4t2
霧切さんはキス魔
苗木と仲良くなってからはことあるごとに自分からチュッチュしてる
あと幼い頃に父親が居ないせいか、ちょっと乱暴に扱われるくらいが男性というものを感じて好きらしい
山田君も痩せるとイケメン
341:314
11/01/18 03:21:28 Pn83ajle
>>338
>>339
苗木っぽいのはどっちだろうか悩んだのと、どっちも妄想が浮かんでるので、レスの反応を見て決めようと思いつつ
一応、どちらもプロットを作っているレベルなので無問題
342:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 03:34:52 1cz8epR3
>>341両方作ってるのか、すげえ
霧切処刑ENDみたいに、片方を苗木のデジャヴorあなざーえんど
みたいにしてはどうだろうか
まあぶっちゃけ両方読みたいという俺の願望なんだけどな
とはいっても俺は読者でしかないから、最終的には>>341の好きなように書いてほしい
343:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 14:06:53 U4PnItcU
ボージョボー人形もらって喜ぶ霧切さんに深読みせざるを得ない
344:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 16:49:23 Ubtpefa0
この人は、やたら冷静だったり鋭かったりするし、
肌が白いし、名前に霧が入ってるしで
正体は吸血鬼かなんかで実年齢300才とかだと思ってた
普通の女子高生でよかったよかった
345:sage
11/01/18 17:03:11 8VSPbomm
ナエギリの同人誌が読みたい……
どっかに落ちてないかな?
346:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 17:06:18 gJkLL0zm
・・・普通・・・?
347:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 17:23:18 1cz8epR3
ちょっと…というかかなり下ネタとか入ったSS作っちゃったんだけど
ここに投下しても大丈夫だべか
エロパロ行くほどでもない、中途半端なあれなんだけど
348:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 18:18:41 QPVABsm7
>>347
いいんじゃね?
むしろ読ませろ。いや読ませてください
349:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:13:58 1cz8epR3
えと、投下します。
先に注意書き:ナエギリで飲酒ネタ 下ネタ&キャラ崩壊あり
嫌な人は、見飛ばしてくださいm(_ _)m
「き、霧切さん…そんな姿で歩きまわらないでって、何度言ったら…」
「自分の事務所よ。どんな格好をしていたって構わないでしょう?」
「か、構うよ!僕だっているんだから…その…」
「あら、苗木君に見られて、何か困ることがあるのかしら?」
霧切さんはそう言って机に腰かけ、艶めかしく足を組んだ。
話は、事務所に帰り着くなり、彼女がコートやスカートを脱ぎ去って、
下着とワイシャツ一枚というなんともサービス…目のやり場に困る姿になってしまった所から始まる。
先に言っておくけれど、彼女は酔っていた。
事の発端は、彼女が関わった今回の事件。
殺人だの強盗だのといったおよそ凶悪な犯罪の類ではなく、とある女優に付きまとう、たちの悪いストーカー被害に関するものだった。
…とある、女優。数年前には「超高校級のアイドル」とまで呼ばれていた、僕達のクラスメイト。
そう、かつての級友である舞園さんからの依頼。
その依頼を終え、積もる話とともに、二人揃って酒を酌み交わしたらしい。
まあ、僕はそんな酔った彼女たちのタクシー代わりとして呼ばれて、
ついでに彼女の事務所に(ほぼ強制的に)お邪魔させてもらったわけなんだけれど。
酔った霧切さんは、取り立ててひどく乱れたりはしないけれど、
「ふふ、苗木君…どこを見ているの?」
いつもより少しだけ大胆で、少しだけからかいが悪質になる。
僕は急いで目をそらす。
―だから、そんな服装で歩き回らないで欲しいのに…
目をそらしても、彼女の姿は網膜に焼きついて中々離れようとしない。
健康的な白い肢体。はだけたワイシャツから覗く、黒いレースの下着。
「と、とにかく…事務所に送り届けたんだから、僕はもう帰るよ!」
「あら、私が帰すと思うの?」
僕の前に立ちふさがった霧切さんは、
「あなた、明日大学は休みのはずよね」
女性が持つにはおよそ似合わしくない、
「…アハハ、いや実は、一限から演習の…」
『鬼殺し』の名を冠する酒瓶を握りしめ、
「とぼけても無駄。私の仕事を忘れたの?身辺調査のプロフェッショナルよ」
少しだけ潤んだ目で、ジトリ、と僕を睨んでいた。
「もちろん付き合ってくれるわよね、苗木君。わかっていると思うけど、今夜は帰さないわよ」
「…ソフトドリンク、ある?」
350:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:19:57 1cz8epR3
>>349続き
僕は本当にお酒はダメで、大学に入ってから初めての新歓コンパでも、
ビールを一杯飲んだだけでトイレで倒れ込み、挙句記憶を失くして、
気づいたら店の裏に転がっていた。それくらい酒に弱い。
だから、テーブルの上に広げられた、スルメやチー鱈などのおつまみのオンパレードにも、
日本酒やウィスキーのような、一歩間違えれば命に届いてしまうような高い度数のアルコールにも、
本当はとことん縁がないはずなのだ。
「だいたいあなたは、卒業してからほとんど連絡もよこさないで、…ちょっと聞いているの!?」
「はい聞いていますすみません!」
霧切さんは、ダン、と音を立ててコップをテーブルに叩きつける。
「知っているのよ…山田君や江ノ島さんには、頻繁に連絡しているそうじゃない」
「だからなんで知っているのさ…」
「探偵なめんな!」
「すいません!」
本当に、たちがわるい酔っぱらいだ…。
「で、でも山田君や江ノ島さんは同じ大学d「そ・こ・じゃ・ないのよ、問題は!」
彼女の責めるような視線から逃れるように、僕は5杯目のウーロン茶を注ぐ。
彼女は僕の説得もむなしく相変わらずの服装で、ソファーに腰掛け足を組み、ゴボゴボとコップに酒を足した。
在学中は思いもしなかった、彼女がこんな酒豪だなんて。
凡人なら、とっくに酔いつぶれているであろう量を、彼女は同じペースで飲み続けている。
(やっぱり、探偵業ってストレス溜まるのかな…)
「どうして彼らとは何時間も電話して、私には一通のメールもよこさないの?」
「メールならしてるじゃないか…」
「私のメールに返信するだけでしょう!?それも、『うん、そうだね』とか『アハハ』とか…
まともに会話する気がないのは見るに明らかよ!
舞園さんには『月9主演おめでとう!毎週欠かさず見るよ!』なんてメール送っているくせに!
あの文面とドヤ顔を見せられた時、私がどれだけ惨めだったか!!」
ああもうどうしよう。本当に面倒だ。
普段は何を考えているかわからないほど、自分のことを頑なに語ろうとしないのに、
アルコールは人をここまで変えてしまうのか。
351:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:21:43 1cz8epR3
>>350続き
彼女が僕への愚痴を始めてから、そろそろ一時間が経とうとしている。
さすがの僕も、これだけけなされ続ければ、イラつきもする。
僕はお人好しでも聞き上手でもない、凡人なんだ。そこまでの寛容さはない。
「ああ、わかったわ。苗木君は私のことが嫌いで、相手をするのが面倒くさいのね。
だから桑田君や舞園さんのように、応援のメールも送ってこないし、
山田君や江ノ島さんのように、親しい話もしようとしないし、
不二咲君やセレスさんのように、食事を誘うこともしないのね」
彼女はそこまで一気に言うと一区切りし、ニヤニヤと笑って僕の反論を待っている。
「…」
僕は返事をしなかった。あえてだ。
いつもならこのタイミングで弁解を入れているけれど、今だけは本当に限界なんだ。
だいたい僕の身辺調査をしたというのなら、大学関連の情報リークは、きっと山田君か江ノ島さんのどちらかだ。
それなら今が期末考査の時期で、僕が昨日徹夜でレポートを仕上げたということだって、当然耳に入っているはずだろう。
だというのに、この仕打ち。
僕にだって、我慢の限界がある。
「…なにか言ったらどうなの、苗木君。反論や弁明があるなら、一応耳を貸してあげるわ」
どうせ何か言っても、相手は高校入学前から世界レベルで活躍するほどの探偵だ。
腐っても鯛、酔っていても霧切さん。論破されてしまうに決まっている。
だから僕は、反論しない。
「…そ、そう。反論はないのね。あなたは私が…嫌い。で、面倒だと思っている。そういうことでいいのね」
「…霧切さんがそう思うなら、それでいいよ」
霧切さんは、目を見開いた。面喰らった、と、表情が語っていた。
一瞬だけどコップを持つ手が震え、つまみに伸ばしかけていた手が止まる。
いつものポーカーフェイスも、さすがに酒が入ると、幾分か、いや、かなり緩むみたいだ。
女の子にこんなこと思うのは、ホントはダメなんだろうけど。
―どうだ、まいったか
「…生意気ね。苗木君のくせに」
彼女はかなりの不満の表情を顔に浮かべ、またコップに酒を注ぎ足した。
352:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:27:38 1cz8epR3
>>351続き
「…ちょ、ちょっと、それ何杯目?いい加減にしないと、本当に体壊すよ」
僕が注意すると、彼女は例の潤んだジト目で僕を睨みつける。
「何よ、私が嫌いで、面倒なんでしょう?放っておけばいいじゃない」
ああ、デジャヴ。拗ねてる拗ねてる。
高校の時に同じようなことを言っていた、文学少女がいたっけ。
実は、酔った霧切さんを相手にするのは、これが初めてじゃない。
一対一で、というのはあまりなかったけれど、今でも時々行われる高校の同窓会に、僕も彼女も顔を出すから。
酔った霧切さんは、いつもより少し冷静さを失う、というか、感情的になる、というか、
わかりやすくいえば、わかりやすくなる、とでも言うべきか。
拗ねた霧切さんは、酒を飲もうとする。
僕がそれを止めようとすれば、無理やりにでも飲もうとする。
僕は立ち上がり、更に酒を煽ろうとする霧切さんの腕を掴んだ。
「心配だから言ってるんだよ」
「は、離しなさい…っ」
「ダメだよ。霧切さんの体に何かあったら、困るからね」
「……あ、あなたって人は、ホント…無自覚のくせして…」
途端に霧切さんが真っ赤になってうつむく。
具合でも悪くなったのだろうか。
そのまま彼女は少し抵抗を試みたけれど、さすがに酔っぱらった上に僕の腕を振りきるほどの力は残されておらず、
観念してコップをテーブルの上においた。
そして、彼女が再び顔を挙げて一言。
「…じゃあ、苗木君」
この一連の言動が、
「代わりに、飲みなさい」
悲劇を招いてしまうと、この時の僕はまだ知らない。
353:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:29:26 1cz8epR3
>>352続き
「な、なんでそうなるのさ」
「一度注がれたお酒は、必ず空にしないといけないのが社会のルールよ。
あなたが飲まないのなら私が飲む、私に飲ませたくないのならあなたが飲む」
「男の前でそんな格好してる霧切さんに、社会のルール、なんて言われたくないよ」
「女に勧められた酒すら飲めない苗木君に、男女間の倫理を語られたくはないわ」
屁理屈も屁理屈で返されては、なすすべがないと思う。
「それに…あなたの前でなければ、こんな恰好はしないわよ…」
「え?なんて?」
「……~~~っ、女の子が注いだ酒も飲めない朴念仁なんか、男としてカウントしないと言ったのよ!」
もう、どれが地雷かすらわからない。
ただでさえ酔っぱらって、怒りの沸点が低くなっているのに。
けれど、やっぱり飲むのは出来るだけ避けたい。そうすればまた意識を失い、彼女に迷惑をかけるのだ。
「ほら、飲まないのなら私が…」
僕の手元まで寄せられたコップを取ろうと、彼女が身を乗り出した。
けれども、やはり酔いは回っていたのだろう。
ふらり、と彼女の体が、不自然な方向へ傾く。
「危ない!」
僕はとっさに立ち上がり、彼女の肩を支えた。
思わず、その細さに、ドキっとする。
彼女が前のめりに倒れたから、僕達は自然と、互いの距離を縮めていた。
酒臭いのに混じって、ほのかに鼻に届く、石鹸のような清潔感のある良い香り。
ワイシャツの下の黒い下着が、薄く透けて見える…
―何を考えているんだ、僕は!
咄嗟に目をそらして、霧切さんの肩から手を離した。
「ご、ごめん!」
霧切さんは少しだけ、呆けたような顔をしてから、
「…ふーん」
すぐにいつもの、人をからかう時の意地の悪い笑顔に戻った。
354:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:31:38 1cz8epR3
>>353続き
「苗木君…どこを見て、何を考えていたの?」
「いや、あの…僕はそんなつもりじゃ…」
攻めるような口調の霧切さんは、やけに挑発的な笑顔で、僕の顔を覗き込んだ。
赤みが差した頬。すごく、色っぽい。
「そうだ、良いことを考えたわ、苗木君」
彼女は自分の椅子に腰をかけると、その手をゆっくりと自分のワイシャツに伸ばした。
そして、一つ。
胸のボタンをはずす。
黒い下着が、露わになる。
「わわわわ、何してるんだよ!」
「あなたが飲むまで、私はワイシャツのボタンを外していく…これならあなたも飲まざるを得ないでしょう?
ワイシャツを外し終えたら、そうね…ブラのホックでもいいわ。
ああ、もちろん、あなたが酔った女の子を脱がせて楽しむ趣味のある、最低な鬼畜だというのなら、
飲まずに楽しんでいても良いわ。ただし、明日になってからみんなに伝えるけれど」
そんなの、卑怯だ。
そう思いつつも僕の目は、ボタンに手をかける霧切さんに囚われていた。
―でも、霧切さんの体、ホントに綺麗だなぁ…
そんな最低な考えが浮かび、僕はぶんぶんと首を振った。
これじゃ彼女の言うとおり、女の子を脱がせて楽しむ変態だ。
けれど、そう思う理性の片隅で、彼女に見とれている僕がいるのも事実だった。
―飲めよ苗木誠、男だろ?
―飲むなよ苗木誠、男だろ?
矛盾する、頭の中の二つの声。
結局僕は、
「わ、わかったよ、飲むから!飲むから、手を止めて…」
「ちゃんと飲み終わるまで、信用できないわ。ほら、もうワイシャツを脱ぎ終わるわよ…」
ああ、もう、どうにでもなれ。
僕は腰に手を回すと、一気にその液体を喉の奥に流し込んだ。
355:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:33:33 1cz8epR3
>.354続き
「…ふふふ、男らしかったわよ、一気飲み」
「…うぇ」
「江ノ島さんたちも、苗木君は『すぐ酔うから』って全然飲まないって言ってたけれど、本当だったのね」
「…」
「でもこれで、情報を提供してくれた彼女たちへの、良い報酬ができたわ」
「…」
「ほら、まだ飲むわよ苗木君。夜は長いんだから…」
「さんざん好き勝手ストーカーしといてそれかよ…」
「は…?」
「レポート徹夜明けだって言っているのにタクシー代わりに呼んで、僕を何だと思ってるのかなー…」
「…あ……そ、れは、私の助手として…」
「はっ、助手だって。どうせ心の中では、便利で暇つぶしには持って来いの雑用、くらいに思ってるんでしょ」
「そ、そんなことない…」
「挙句に、嫌がるのを引きとめて延々と愚痴り始めるし。聞かされている僕の身にもなってくれないかなぁ」
「…っ」
「この際だから言わせてもらうけれどぉ、高校の頃からずっとそうだよね、霧切さんて。
なにかにつけて、何の説明もしないで僕をおもちゃみたいに振り回して。僕の都合なんてまるで無視!
卒業すればいくらかは解放されるかと思ったら、今度は単位返上で雑用だしさぁ…いい加減うんざりだ」
「……それが、っ…本音なの…?」
「そうだよ…こっちは、探偵業で疲れてるだろうと思って、メール一文返信するのにも気を使ってるのに」
「え」
「ホントは『お疲れ様、事件どうだった?よかったら今度一緒に食事でも…』くらい書きたいのにさぁ。
そうやって気を使って送ったメールすらもダメ出しされちゃー、もうどうしようもないよね…
ところで、霧切さん」
「は、はい…」
「ここまでいろいろ頑張って我慢してきた僕には、何の報酬もないのかな?」
「ほ、報酬って…」
「ねえ、ホントに僕を助手って思ってくれているなら、労をねぎらうくらいはあっても良いんじゃないかな」
「ちょ、苗木君、近…」
「こんなに綺麗な体を見せつけられても、ずっと手を出さずに我慢してきたわけなんだけど…」
「ひぁっ!…ちょ、ちょっと、どこに手を…っ!!」
「このまま報酬がないのが続くのなら、もう助手なんて止めちゃおっかなー…」
「そっ…!それは…」
「嫌?はい、それじゃあ交渉成立ねー」
「や、あの…で、でも…」
「ふふ…かあわいいなぁ、霧切さん…」
「えっ!?……やっ、待って苗木く――」
356:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:35:21 1cz8epR3
>>355続き
ガバッ、と、僕は飛び起きた。
「…あれ、ここは…」
幾度か見たことのある、小さな個室。
泊まり込みで霧切さんの探偵業の手伝いをした時に借りた、事務所の客室兼寝室だ。
そうだ、僕はあの時、結局酒を飲んで…
「っ!!…つー…」
キィン、と、嫌な痛みが頭に走り、続けて異様な胃のムカつきと、体中のだるさが僕を襲う。
きっと、そのまま眠りこけてしまったのだろう。やっぱり、迷惑をかけてしまったのだ。
それにしても、嫌に背徳的な夢を見た気がする。
飛び起きたのは、その夢の内容が原因だったはずだ。
なにか、触れてはいけない禁忌に触れたような悪寒。
内容を思い出そうとしても、そのたびに頭痛がその邪魔をするので、僕は諦めてベッドから降りた。
ガチャ、とドアを開ける。
まず目をやったのは、柱の上の時計。もうそろそろ昼飯時、それくらい僕が眠りこけていたことになる。
奥の備え付けの簡易キッチンで、霧切さんがコーヒーの準備をしているところだった。
カリカリ、小気味良い音をさせて、豆を挽いていたけど、
「…… っ!!な、苗木君…」
僕に気づくと、彼女はその手を止めて、どうにも僕の反応を待っているかのようなそぶりを見せる。
「? おはよう、霧切さん」
「あ、…ええ、おはよう…」
なんだろう、今の間。
僕の顔を見るなり、真っ赤に顔を染めてそっぽを向いてしまった。
ああ、今になってやっと、昨日の服装のことを思い出して、恥ずかしがっているのかも。
「…苗木君、その…昨日のことは…」
霧切さんがコーヒーを作る間、僕はソファに腰をかけ、テレビなんか見ながら新聞を広げる。
彼女はずっと落ち着かない様子で、チラチラと僕の方に目線を投げかける。
「? ああ、大丈夫。誰にも言わないから」
「あ、いや、それもあるのだけれど…」
「っていうか霧切さんも、いくらお酒の席だからって節操を見極めないとダメだよ?他の男の人の前で同じような…」
「他の人の前で、あんなことするわけないじゃない!というか、アレはあなたが…」
「僕?」
「…っ…なんでも、ないわ」
「そう?でもホント、周りの人にも迷惑をかけるからね。僕もよく飲み会の席で、先輩が同じような事するけど―」
「あっ、あなた、学校の先輩にもあんな…!?」
「うーん、みんながみんな、ってわけじゃないけどね。人の目もあるんだから、気をつけてほしいっていつも注意して…」
「…ちょっと待って、苗木君。あなた、何の話をしているの?」
「え?お酒を飲んだ時の、服装の乱れ、でしょ?」
「…」
「…」
霧切さんが、危うく電気ケトルを取り落としそうになる。
僕を見る彼女の目つきが、一気に疲れたものに変わった。
357:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:36:59 1cz8epR3
>>356
「…そう、そうよね…途中で寝ちゃうし…お酒に弱いって、みんな言っていたもの…覚えているはずないわね」
「え?」
「こっちの話よ。…苗木君、砂糖とミルクは?」
「あ、うん。お願いします」
彼女が二人分のコーヒーを持ってきたので、僕はソファに少しずれて座る。
彼女は少し留まってから、そっと僕の隣に腰を下ろした。
「…大学では、その…上手くやっているの?」
彼女は唐突に、そんなことを尋ねてきた。
「え?あ、まあ、うん。ボチボチ」
「良い人は、出来たの?」
「ううん、全然だよ。そういう霧切さんは?」
「…内緒にさせてもらうわ」
「そっか」
「…徹夜でレポート書いていたらしいわね。根を詰めるのも良いけど、体には気をつけないと」
「うん、ありがと。霧切さんも、飲みすぎには気をつけてね」
「その件については、昨日身を以て、イヤというほど教わったわ」
「誰に?」
「っ…そ、それは、別にいいじゃない」
「あ、そうだ…」
「何?」
「昨日は、迷惑かけてごめんね」
途端に彼女は、口に含んでいたコーヒーを喉に詰まらせた。
「けほッ!!?ゴホゴホッ」
「き、霧切さん、大丈夫!?」
むせかえる霧切さんの背中を、急いでさする。
どうしたんだろう。今日の霧切さん、どこかおかしい。
「ゴホッ…あなた、やっぱり覚えて…!?」
「いや、僕きっと、迷惑かけたよね…多分、アレ飲んだ後、そのまま床に倒れるとかしちゃったのかな、なんて…」
霧切さんは数秒間、驚いたように僕の目を見ると、それから深い溜息を吐いた。
「あなたのそれは、本当は全部わざとやっているんじゃないかと、時々不安になるわ…」
「それ、って何のこと?」
「なんでもないわ」
「そう?じゃあ、僕もう行くね。あまり長く居座っても悪いし…霧切さんも、仕事あるんでしょ」
「…ええ」
358:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 19:38:57 1cz8epR3
>>357
『あ、もしもし?…どうだった、苗木のやつ』
「…江ノ島さん。あなたやっぱり、知っていてわざと私に教えた…いえ、教えなかったのね」
『アハハ!ウソはついてないよ。確かに苗木は「酒に弱かった」でしょ?酔ったらどうなるか、なんて聞かれなかったし。
あいつ酔ったらすぐ女の子に絡みだすし、大学でも結構人気あるから、ちゃんと捕まえとかないと、誰かに盗られちゃうよ。
まあ今回は、お互いに気ぃ使って中々進展ないみたいだったから、あたしが善意でちょいとスパイスを…』
「…お気づかい、ありがとう。おかげで酷い目に遭ったわ」
『へえ、どういたしまして。良ければ昨晩の熱々なお二人の御事情の顛末を、お聞かせ願いたいね』
「お断りするわ」
『ふうん、まあいいけど。熱々ってところは否定しないんだ。余程ドランカー苗木に、愛をささやかれたと見るね』
「なっ…!?」
『教えてくれないなら良いや、私の方で勝手に妄想して、みんなと盛り上がるから!じゃーねー』
「ちょっ、待ちなさい江ノ島さん!…江ノ島さん!?」
僕が車を出してすぐに、霧切さんはどこかに電話をかけていた。多分、仕事関連の話だろう。
彼女の言った通り、今日は大学は休みなので、家に帰ってからゆっくりと、悲鳴をあげているこの体を休ませたい。
後日談だけど、その日から一週間しないうちに、彼女からメールが届いた。
内容はいつも通り淡白なもので、絵文字も顔文字もなく、特に最後の文章はよく僕もその意味を理解しかねる。
「 先日は迷惑をかけたわね。ごめんなさい。
それと来週末、私は予定がありません。
たまには食事に誘うくらい、甲斐性みせなさい。いいわね?
p.s.私の前以外で、二度と飲酒はしないこと 」
359:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 20:10:58 1cz8epR3
>>349-358以上です、長レス失礼
360:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 20:18:44 QPVABsm7
>>359
GJ!!!
最近は素晴らしい書き手様が多くてホントに嬉しい
ものっそいよかった!
また書いてくれ!
361:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 20:37:25 ZP5QeIJ8
霧切さんが事務所の鏡の前で、「私の推理は3割当たる!」っていってた。
362:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 20:56:37 4Bm+bRKR
いいなGJ!おれも前スレで酔いギリさんを書いたけど、成る程、苗木のこういうのも
面白いなw苗木は色々いじりやすいキャラでおもろいよなww
363:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 21:36:35 vFj31LS5
大人スネギリさん…だと…
新しいものを見せてもらったよ、GJ!
そしてこう、行間の省略されたシーンをですね
希望したい所存でですね
364:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 21:56:03 1cz8epR3
ありがとうございます!
あの、省略されたシーンはですね
書かせてもらいたいのは山々なのですが、どこまでおkかという線引きが難しいので
基本的には脳内補完してもらえれば、ありがたくぞんじます
苗木は最後までいっちゃったのか、途中で寝てしまったのか
終始羞恥言葉攻めか、獣のように盛っているのか
はたまた、全ては苗木の夢の中の出来事か
365:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 22:42:13 jGJJTCtW
今更だけどファンブック表紙見たが確かに霧切さんの目立ちっぷりがパネェ
苗木「霧切さん、すごいね。かっこいいよ」
霧切「貴方はいきなり何を言ってるの?」
苗木「だってほら、この表紙。初めて見た人は絶対霧切さんが主役だって思うよ」
霧切「主役は貴方でしょう」
苗木「そうだけど…僕って外見は本当に平凡だし表紙の位置がサブキャラだし…」
霧切「…………そう言えば何で苗木君の位置ってここなのかしら?」
苗木「え?」
霧切「私の位置が苗木君、十神君の位置に私、十神君は…まぁどこでもいいわ。とにかくこの配置はおかしいわ」
苗木「え?あの…霧切さん?」
霧切「…(大体なんで苗木君がこんな所にいるの?一番手前で苗木君が決めポーズ、背中合わせに腕を組んだ私でいいじゃない。そもそも苗木君の隣がなんで残姉なのよ。おかしいわ)」
苗木「き、霧切さーん?」
霧切「私はとことんまで議論するべきだと思うわ」
苗木「…………うん、そうだね」
366:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 00:11:45 edXStqtD
苗木君は霧切さんの横でよかったよなあ、主人公なんだし
あの微妙に目立たない立ち位置もそれはそれで苗木君らしいが
367:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 06:54:36 GVRG83BL
おいい舞園さんディスってるわけ?
まじぶっおろすこ!
368:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 08:48:09 JxOCcQFY
PSP用の自作アプリに署名ができるようになったらしいし、誰かキリギリプラスみたいなソフトを作ってくれないかしら
369:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 10:34:20 9xNTSUlq
ボイスが俺のでいいなら作るぜ
370:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 14:50:30 JxOCcQFY
>>369
ボイスなんかいらねーべ
どうせ本編もパートボイスなんだから
371:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 20:56:13 edXStqtD
「私も…ちょっと怒りすぎたし…」と「あなたのような人と一緒なら、私はむしろ楽しみよ」にはボイスを付けるべきだった
372:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 22:40:39 riBZuSGW
霧切さんが、猫娘になってしまった。
霧切「…苗木君、大変よ。耳としっぽが生えてしまったわ」
苗木「いや、当事者なんだから、そこはもっと驚こうよ…」
霧切「爪も伸びて、手袋から突き出てしまったわ」
苗木「…だからって僕の部屋の壁で研がないでくれるかな」
霧切「猫は家に付く、という言葉を知らないの?」
苗木「ちょっと意味違うね。っていうか、ここ僕の部屋だからね」
霧切「…冷たいのね。別にいいけど」プイ
苗木(あ、やばい かわいい)
しばらくこのままでいいと思った。
※犬は人に付き、猫は家に付くという言葉があります
霧切「…魚が食べたいわ」
苗木「そう」
霧切「…苗木君」
苗木「何?」
霧切「魚が食べたいわ」
苗木「買ってこい、と」
霧切「ええ、お願い」
苗木「買ってきたよ、霧切さん」
霧切「やっぱり烏賊が食べたいわ」
苗木「…」
※猫は気分屋、とよく言われます
苗木「…はぁ」
霧切「苗木君の作った烏賊焼き、おいしいわ」
苗木「そうですか」
霧切「…… っ!」
苗木「き、霧切さん!?」
霧切「急に…腰に、力が…っ?た、立てない…」
苗木「うわわ、き、急にもたれかかられても」
※「猫は烏賊を食べると腰を抜かす」といいます。あまり与えてはいけません
すまん、暇だったんだ
373:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 22:44:19 riBZuSGW
フリフリ、フリフリ
霧切「…苗木君、何をしているのかしら」
苗木「…猫じゃらし、とか。どうかな、と」
霧切「馬鹿にしないで。いくら私が猫っぽくなったからといって、そんなものにつられたりしないわ」
苗木「目線がずっとコレを追っているけど」
霧切「…くっ!」バッ
苗木「おお、飛び付いた」
霧切「…こ、これは仕方なくよ。構ってあげないと、苗木君がかわいそうだから…」
苗木「しっぽビンビンだけど」
※猫は機嫌がいいとしっぽビンビンになります
霧切「すー…すー…」
苗木「食べて運動したら、寝てしまった…というか、僕のベッドなんだけど…」
霧切「すー…すー…」
苗木「…ま、まあ少しくらいいいかな」
※猫はすごい寝ます。「寝子」が語源という説も
霧切「おはよう、苗木君」
苗木「おはようございます…一晩中占領したね」
霧切「このベッドはもはや、私の縄張りと化したわ。勝手に入ってきたら、許さないわよ」
苗木「…もう好きにしてください」
※猫は割と自分勝手です。縄張り意識もそこそこあります
すまん、妄想が止まらないんだ
374:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 23:03:28 Xk7NiY+S
霧切さんも好きだがねこも好きだからたまらねーです
375:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 23:14:56 riBZuSGW
苗木(…それにしてもこれ、どうなってるのかな)グイ
霧切「…ちょっと、何をしているの」
苗木「いや、この耳ホントについているのかな、と思って」
霧切「ホントについているに決まっているでしょう。何を馬鹿な」
苗木「いや、この現状の方が『馬鹿な』だと思うんだけど」
霧切「とにかく、離してもらえる?」
苗木「あ、うん…ごめんね」
苗木(…神経とか繋がってないのかな。しっぽはどうなんだろ)グイ
霧切「いっ~~~!!!」
苗木「え!?あ、ごめん!!」
霧切「何、何?なんなの!?」
苗木(おお、珍しく取り乱している)
※猫の尻尾は脊髄と繋がっています。乱暴に扱うと痛がります
霧切「苗木君…飼い猫に手を噛まれるとは、このことね…」
苗木「色々間違っていると思うんだけど…っていうか、僕のことそういう風に思っていたんだ…」
霧切「おっ、女の子に暴力を振るうなんて最低…」
苗木(あ、しっぽを足の間に挟んだ)
※猫は、自分>飼い主 と思っている節があります
※猫は怯えると、股の間にしっぽを隠します
苗木「ご、ごめん霧切さん…そこまで痛いと思わなくて」
霧切「…もう、しないでくれる?」
苗木(…でも、怯える霧切さん、なんというか…そそる、というか)
霧切「…苗木君、あなたに限ってまさかとは思うけど、ろくでもないこと考えていない?」
苗木「っ、ないない!」
苗木(全身の毛が逆立ってた…よっぽど嫌だったんだな)
※猫は威嚇の際に、全身の毛を逆立てます。体を大きく見せるため、といわれています
376:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 23:32:04 riBZuSGW
苗木「…」
霧切「どうしたの苗木君。勉強の手が止まっているわよ」
苗木「あの…しっぽを腕に巻きつけるの、止めてもらえるかな」
霧切「あら、迷惑かしら」
苗木「いや…うん」
霧切「そう。あなたの勉強の邪魔をするのも、いい暇つぶしになったのだけど」
※猫がしっぽを巻きつけるのは、親愛の情からです
霧切「…つまらないわ」
苗木「じゃ、僕が勉強している間、暇つぶしにこれでも」
霧切「こ、これは…!?」
苗木「猫はマタタビが好きって言うしね」
霧切「っ…あ、あなた、ホントに天然ね…猫がマタタビを好きなのは…っ!」
苗木「え?」
霧切「…ハァ…ハァ」
※マタタビは猫に与えるのは、単なる興奮ではなく、おっと誰か来たようだ
苗木「霧切さん…どうしたの、大丈夫?」
霧切「ふー…ふー…」
苗木(ヨダレまででてる…ちょっと尋常じゃないな)
苗木「ぼ、僕、誰か呼んでくる…」
霧切「っ…」
ぎゅ
苗木「?…霧切さん、掴まれたらどこにも行けないんだけど…」
霧切「ふー…ふぅう…あぅ…」スリスリ
苗木「き、霧切さん…!」
※猫は発情すると、そこらじゅうに体をすりつけます。飼い主も対象として例外じゃありません
苗木「き、霧切さん、そんなに迫られたら…僕…!」
霧切(…はっ、私は今まで何を…)
苗木「きっ、霧切さん!」
霧切「…苗木君、離して」
苗木「…あ、あれ…?」
霧切「離しなさい。セクハラで訴えるわよ」
苗木「…ごめんなさい…?」
※マタタビの効果はあまり長くなく、よくて10分程度です。あと猫は気分屋です(二回目)
377:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 23:45:18 riBZuSGW
苗木「い、今どけるから」
霧切「…!」ビクン
苗木「霧切さん、どうしたの?」
霧切「そ、そこに触ら…っ!」ビクンビクン
苗木「腰?腰が痛いの?大丈夫?」なでなで
霧切「――っ!!」
※猫はしっぽの周りが「せ○かん○○」 さあみんなで閃きアナグラムだ!
霧切「…」
苗木「…」ちら
霧切「…」ふい
苗木「目を合わせてくれない…抱きついたこと、やっぱり怒ってるのかな…」
※猫同士では、目を合わせる=喧嘩なので、親しくしたい相手とは目を合わせません
霧切「…取れたわ」
苗木「取れたね、しっぽと耳」
霧切「…苗木君、ちょっと目を閉じて」
苗木「…いやです」
霧切「閉じなさい。痛くはしないわ」
苗木「…一応聞くけど、何をするの?」
霧切「苗木君にも着くかな、と思って」
苗木「つ、着けないでよそんなの!…ちょっ、やめ…」
霧切「着いたわね」
苗木「着いたね…っていうかやっぱ着脱できるんだね…」
霧切「さて、と。苗木君」
苗木「へ…うわぷっ!?ま、マタタビ…」
霧切「さんざん弄んでくれたわね…お返しさせてもらうわ」
苗木「…し、しっぽ、しっぽは掴まないで…わ、腰は、ダメだって…ひぃいいいい」
ネタが切れた なんかごめん 下ネタ嫌いな人とかいたら、ホントゴメン
378:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/19 23:56:24 1WtBDsPl
にゃえぎ君とネコギリさん
379:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/20 00:26:13 kSyEb0S/
そう言えば支部に舞園にゃんこと霧切にゃんこに挟まれる苗木わんこがいたな
380:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/20 01:29:00 +VeultCe
にゃんにゃんろんぱ
381:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/20 02:03:15 rIv4qqwU
>>377
なん・・だと・・?
・・・おわりなのか?
382:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/20 03:30:12 d7VcMejM
>>381もっと書いていいなら本格的に書くよー
ただ、最近他のダンロンスレで「SSが多いと萌え語りが中々できない」と
いう意見を見かけたもので