11/05/13 11:54:32.83 gDCQUDqr
>>961田渕原作秀忠の愛の劇場
脚が震え、縁側から地面までの高さを、
江は自力で下りることができなかった。
秀忠は江に手を差し伸べた。
「抱えて下ろしてやる。さあ」
江は秀忠の手をつかんだ。
瞬間、落ちてきた雷の閃光につつまれ、江は固く眼を閉じた。
「何をしておる!」
秀忠は乱暴に江の身を引き寄せ、
軽々と抱き上げると、
縁側から地面へ飛び下りた。
「行こう」
額の汗を拭い、江を立たせて、秀忠が言った。
差し出された手を江は夢中でつかんだ。
江は、秀忠の手を取り、自分の手を重ねた。
「な、なんじゃ」
「手を・・・さわらせていただきたいのです」
夫の手は、あたたかだった。
「さわりたいのは手だけか?」
秀忠の言葉に、江が頬をあからめたとき、
秀忠の腕はすでに江を引き寄せていた。
なされるがままに・・・
江は行灯を消し、このところいつもするように、
暗がりのなかで夫の手を探り当て、二度、三度と握りしめた。
そうしないと、落ち着いて眠りにつけなかった。
「何ゆえ左様なことをするのじゃ」
と、当初は困惑していた秀忠も、
「地震のとき、救っていただいたことを思い出し、落ち着くのです」
江のそんな説明に納得し、諦めたらしく、
しばらく江の好きなようにさせてから、
さっと手を引っ込めるのが習慣になっていた。
余震はその夜も屋敷を揺らした。
浅い夢のなかで、そうとは意識しないまま、
江は幾度となく夫の手を探った。。。