11/10/21 21:18:08.01 0kdtJxX6
「私は愛が人を殺すとは思いませんよ。だって、愛と言うのは誰かを心から信じ、許すことです。違いますか?」
絵理ちゃんのアガリ性対策になればと事務所の一角を借りてディスカッションをしている。
お題はサイネリアさんから直前にメールして貰った。今のところ、ディスカッションの勝率は半々。地力の差を考えるとせめて七割は勝って欲しいところだけど。
「その点は肯定?」
その言葉を受け、言葉を返す。
「それならば、簡単です。人を殺すのは『愛』ではなく、『独占欲』または『嫉妬心』です。共にあることが多いために間違えられますが、『愛』とその二つは必ずしも一つではありません。いかがですか?」
手加減はしない。練習にならないから。感情はなしに理論をぶつける。
「涼さんは、一つ失念してる?」
頷き、先を促す。
「確かにその定義ならば『愛』は『他人』を殺す事はない?
だけど、『人』は『他人』だけではない?」
しまったと顔に出してしまった。ディスカッションではリアクションも理論を正しく見せるポイントだ。
歌を上手く聴かせるためのダンスやヴィジュアルのように。
「そう、『愛』はその想いが故に『自分』を殺す?
あの人が幸せなら、と『自己』を消し、必要ならと与え『財産』を失う?
残るのは空っぽの『自分』。それは『愛』に殺されていると言える?」
二の句が告げない。
「……絵理の勝ちね」
ジャッジ役の尾崎さんが判定を下す。
「絵理は涼の意見を肯定した上で別の形の『愛は人を殺す』事を提示したのに対し、涼は否定出来なかった」
贔屓なしで絵理ちゃんの勝ちだ。僕相手なら意見を交わせる程度には慣れて来たかな。
「今度は愛辺りに相手をお願いしようかしら」
「愛ちゃん、ディスカッション苦手そうですけど?」
「強い弱いじゃなくて、感情相手に冷静なまま意見出来るようになって欲しいのよ……まだ遠いけどね」
なるほど、ディスカッションのルールを理解している僕じゃ駄目な訳か。