11/10/13 19:29:50.59 F/TbFxUd
以上でございます。突然失礼いたしました。
※追記:夕方再診断したら結果が変わってしまいました。どーしろとwww
>>54
いいお話ありがとうございます。秋の夜長にほっこりしますね。
原曲を知らないのですが、千早は歌を歌いたいがために楽器を嗜んだりすることがあるのではないか、と
考えたことがあります。シンガーソングライター・如月千早は素敵な未来のひとつだと思います。
>>55
女心は難しいっつう話でしょうかね。
とりあえずこの男、食いすぎであるw
>>56
美希はオーラとか見えない、というか見ないタイプだけれど、そういうのと無関係に人の痛いとこr違った
真実を見抜く才能を持っているのですw
涼と真は悩んでるままでも、本来の性別を発揮したあとでもいいカップルだと思いますですハイ。
ではまた。
来週もまた、見てくださいね!
62:55
11/10/13 19:54:30.44 fhe3B26t
>>61
ヒント:
×『プロデューサーの仕事』の関係
○『出会った二人の仕事』の関係
63:創る名無しに見る名無し
11/10/13 20:36:30.50 F/TbFxUd
>>62
了解したw頭悪くってすまん
解説のお手間を取らせ申し訳ないwww
64:創る名無しに見る名無し
11/10/13 20:48:28.69 3TtG91L7
>>62
ひどい詐欺を見たwww(褒め言葉
種明かししてもらって二度楽しめたのはお得な感じです
65:創る名無しに見る名無し
11/10/13 22:25:29.37 fhe3B26t
アメリカンジョーク第二段
涼がライブで仕事中に大けがをして、病院にかつぎこまれた。そして数日間昏睡状態の後、やっと目覚めた。
「ここは…?」
「病院ですよ。意識が戻ったばかりで早速ですが、あなたにいい知らせと悪い知らせを伝えないといけないんです。まず、あなたはもう仕事ができない身体になってしまいました」
「えっ。そうですか。仕事ができない身体に…」
涼はつぶやき、そして言った。
「…で、悪い知らせの方は?」
66:メグレス ◆gjBWM0nMpY
11/10/14 00:23:54.07 f0ABnBq5
あーテステス。トリップってこれで良いのかな?
67:メグレス ◆gjBWM0nMpY
11/10/14 00:26:45.68 f0ABnBq5
管理人じゃない人の業務連絡ー、業務連絡ー。
まとめwikiの作者別の項目ある程度追加しました。
とりあえず過去ログ読んで
・複数作投下した方
・コテ、トリを名乗った方
のページを作ったつもりですが、確認はしたものの不安です。
・間違いを発見した
・この作品も俺が書いた
・俺のページも作ってくれ
等の時は教えて下さい。てゆーかチェックお願いします。
全ての作者諸氏のページにコメント欄付けてあります。
あの時書けなかった過去作への感想、又は規制に巻き込まれた作者様からの連絡先等にどうぞ。
トップページにも書きましたが誹謗中傷、荒らしコメントは当然NGです。
>>20様、>>55様、
コテでもトリップだけでも名乗って頂ければページ製作します。
特に>>20様は現在規制に巻き込まれているとの事なのでコメント欄を上記のようにも使えるかと。
68: ◆3gtGh3EDKs
11/10/14 01:09:41.89 YAgWV7AZ
>>67
こんばんは>>55です。一応、アメリカンジョークは読む人選ぶのでトリなしで書いてましたが先日、同一IDなのを忘れて書き込みました(苦笑)
とりあえず、アメリカンジョーク系はこちらのトリで名乗ります。
追記:ページ数に難ありなら◆G7K5eVJFx2も私なのでまとめて下さっても結構です。
当方、携帯なので編集出来ずお手数・ご迷惑おかけします。
69:◇NyTG5epv
11/10/14 15:27:23.15 g71FNAaf
>>67
>>20です。
とりあえず、今のところは書き込めるようにはなったのでご報告をかねて、
上記の名前で名乗らせて頂きます。
あんまり編集には詳しくない為、お手数おかけします。
70: ◆NiiVEAmSro
11/10/14 17:42:25.39 q8qdS1mb
>>69
トリは名前欄に#文字列ですね。
例えば#涼くん
なら私の名前欄みたいになります。
71: ◆G7K5eVJFx2
11/10/14 18:06:35.16 q8qdS1mb
>>67
前スレ無題371並びに黒い鳥も私の作ですね。
無題371の『みき』の訂正ありがとうございました。
72: ◆zQem3.9.vI
11/10/14 21:28:54.19 g71FNAaf
>>70
>>20です、ご指摘ありがとうございます。
ちょっとトリについて勘違いしていたようです(汗)、↑のような感じでいいでしょうかね?
73:1レスネタ『紳士』 ◆G7K5eVJFx2
11/10/15 02:57:41.19 GGpT05nb
「芯の強い娘を最後まで折ってこそ紳士だろう」
ああ、またプロデューサーが変な事を言ってます。誰か、止めて、
「それは、違う」
真ちゃん。しっかり止めてね。凄く嫌な予感がするから。
「プロデューサー、真の紳士たるもの……」
そうそう、紅茶を嗜むとかレディファーストとか……
真ちゃんとお茶会とか、憧れるなぁ、
「気の弱い娘に攻められて、否、攻めさせてこそだ!」
って、え、ええ? ……白い歯が嫌に眩しいよ、真ちゃん。真ちゃんも遠い人だったの!?
ねぇ、真ちゃん。格好良くて、王子様みたいなあなたはどこに行ったの?
私の中の真ちゃんは答えてくれない。いつもと変わらない笑顔を向けてくれるだけ。
「「雪歩!」」
二人に、呼ばれ現実に戻される。小鳥さんがちょっと羨ましい。戻らないで済むから。
「は、はい」
弱々しく口を開く。願わくば、
「「雪歩はどっちが正しいと思う?」」
どちらの箱にせよ、その中に希望が僅かでも残っていますように。
あるいは、被害者が私ではありませんように。
74: ◆zQem3.9.vI
11/10/16 19:49:04.41 bmndDUy4
>>73
今週のアニマスにおいて別ベクトルで遠い人になっていた雪歩を思って、ついニヤニヤしました(笑)
あと、需要があるかわからない長編を投下しようと思います。今回で一応序章は終わりです。
75:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 19:52:10.83 bmndDUy4
――某日。レッスン帰りに立ち寄った喫茶店にて、「音無」小鳥はクリームソーダに突き刺さったスプーンをかき回して、向かい合った席で顔を抑えながら小刻みに肩を震わせている担当プロデューサーの姿に少しばかり頬を膨らませた。
「・・・・・・そ、それでその・・・・・・どうしたんだね?」
「――どうするもこうするも」
心なしか、ストローをくわえた唇に思いの外強い力がこもり、思わずズッ、と音を立ててしまう。
「その後は騎士の人達が手伝ってくれて、お城勤めの法術師や街の獣医の方々に連絡つけてくれましたから、子猫は何とか無事でした。今じゃさっき話したミントちゃんが引き取り手を捜してくれてるって話です」
「い、いやそうじゃなくて・・・・・・その助けてくれた男の子というのは・・・・・・」
「・・・・・・神妙な顔で謝られちゃいましたけど何か?」
事実を知り、茶化すこともなく、生真面目な態度で謝辞を告げてきたあの表情には、一層こちらをやりきれない思いをさせられた。
過去の出来事となってそれなりに日にちは経っている。が、こうして改めて具体的に口にしてしまうと、その時の感情まで鮮烈に蘇ってしまうようだった。
「しかしまあ、災難だったな君も。勇者は無理でもせめて魔法使いだったら良かったのに」
「そうですね・・・まあ、街の外を出歩かない限りは滅多にあることでもないんですけど」
そもそも、盗賊及び魔物の襲撃だったらまだしも、「魔術師」があんな街中で騒ぎを起こす、なんてことは初めてだった。
「後で騎士さんの一人がこっそり教えてくれたんですけど・・・・・・街の近くで発掘された妙な船に侵入したとかで、
引っ立ててる最中だったらしいんですよね」
実物を目にしたことはないのだが、向こう側における伝説の大海賊アイフリードが駆けていたという巨大船――バンエルティア号。
一部では海の空をもひとっ飛び出来る神秘の船、だなんて妙な伝承もあるが、何せ海から引き揚げられたのでなく地中から発掘されたのだ。
アイフリードの所有物かどうかも怪しいなどと言われてはいたが、実際にそれを信じて潜り込むような者まで現れたとなっては多少信憑性は高まった。
「王様含めて臣下の方々も観光スポットに出来れば、位にしか考えてなかったそうなんですけど。・・・・・・ああいう人達が
現れた以上は正式にどこかの研究機関とかに調査を依頼するかも知れないって言ってました」
――まあ、どちらにせよ今の小鳥には縁のない話だが。
「ふむ、まあその船のことはともかくとして・・・無事で何よりだよ、小鳥君」
しみじみと頷いてコーヒーを口に傾ける高木は、心なしか本当に安堵した様子すら見せていた。思わず茶化すように手を振ってから、
「――や、やだなぁ高木さん。あくまで夢の中の話なんですよ?」
「・・・まあ、現実的に考えれば、その表現が似つかわしいんだろうな」
正直小鳥としては、話をしていて今の今まで、高木が一度も口を挟むことなく、真摯な様子で話に耳を傾けている姿が意外に思えた。
「あくまで私の主観なんだが・・・・・・眠る時に見る夢というのはえてして形がない。意味のない光景が続いたり、非現実的な幸福や残酷なものだったりする時もある」
黒い沼のようなコーヒーにミルクを注ぎ、一瞬だがそこに作られた螺旋に見入られた。白い糸のような道筋が見る見る内に溶けて、コーヒーの一部になっていく。
「でも、君の今の顔を見ながら話を聞いていると、何というか夢に聞こえないんだ。
真に迫っているというか、それこそ「もう一つの人生」を生きているみたいに感じるよ」
「あ、あははは・・・・・・」
――現代の感覚に無理矢理当てはめると、「そう見えるのは少しマズいのでは」、と脳のちょっと
冷めた部分が警鐘を鳴らしていた。相手が鷹揚な高木だからいいようなものの、こっちでは尚更話す相手を選ばなければ。
もう一つの人生。目に見えて素晴らしかったりするものでもないけど、こっちの「音無小鳥」とは決して重ならない道を思う。
「・・・・・・しかし、そんな大分前からそのような不思議体験をしているとは思っていなかったよ。どうして急に話してくれる気になったんだい?」
「・・・・・・本当、どうしてでしょうねえ」
自分でも魔が差した、としか言いようがなかった。向こうでそれこそ九死に一生を得て、何か感じ入ることでもあったんだろうか――
自分の心なのに、気づけばこっちでスルリとあの出来事をこぼしていたことが、信じられなかった。でも、あそこでメリルに茶飲み話として話していた時のような感覚ともかみ合わない。
76:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 19:56:40.22 bmndDUy4
「・・・・・・こっちでも、誰かに知っていてほしいって、思ったからかも知れません」
窓際席のガラスに映る自分の姿を改めて眺めてみる。あのお団子から解放された髪が、解放されて白いブラウスの背中になびいている。
スカート丈だって、こけるような心配もない膝より少し位の長さ。
とりあえず、年相応の女の子の顔。まだまだ眼鏡も帽子も必要なんてなさそうな、駆け出しアイドルの顔。
ここでは激流のように目まぐるしい業界を、ふるい落とされぬよう駆け上がろうともがくことの、その息苦しさはやはりある。
でも、少なくともいつ何時命を失うかという心配なんて無用だ。
小鳥のように、何かの「逃げ道」を作って逃避しようなんて人は誰もいなかった、それでいて自分に出来ることをしようと必死だった。
そんな場合じゃなかった筈なのに、思えばその光景が途方もなく眩しくて、尊いもののように思えたのだろうか。
けどそんな鮮やかな思い出は、この世界で起こったことじゃない。文字通りだけど、今は小鳥の頭の中にしかないものだから。
「ちゃんと覚えていたいって思ったのかも知れません。こっちで誰かに『こういうこと』があったよ、って伝えて、
私以外にもあの世界のことを知ってる人がこっちにもいてくれれば・・・・・・勝手な話だけど、ちょっと安心するような気がして」
朝起きて出社して、みっしりと課せられたトレーニングに打ち込んで、スケジュールが空いていれば学校へ行って友達と歓談して。
――夜寝る前になるまで、あの世界のことを思い出せない日もある、ということが急に怖くなった。忘れようとして忘れるんじゃなく、それこそ波にさらわれる位の呆気なさであの場所の思い出がかき消えてしまいそうな、そんな気配が。
「茶飲み話の種でもいいから、『そういえば前言ってた夢は最近どう?』とか、そういうこと言ってくれる人がいるって思えば。
少なくとも、本当に忘れる心配はないんじゃないかって」
そして、話す相手として思い浮かんだのは誰でもなく、目の前のこの人だった。
「・・・・・・おかしいでしょうか。別にあそこで、目に見えて特別嬉しいこととか幸せなことが起こった訳でもないのに」
「良いとか悪いでカテゴライズするような問題でも、ないような気もするがね」
思いの外サラリと返答してくる彼は、角砂糖をとぷん、とコーヒーに追加してから、
ティースプーンで水面をひっかき回す。節くれ立った指先とは裏腹の、仲々優雅な仕草だった。
「無理に意味を求めなくてもいいじゃないか。少なくとも私は嬉しいよ。もう一つの君の顔っていうものを知るっていう楽しみが増えて」
「・・・・・・楽しかったですか?」
目に見えて愉快な部分があったといえば、漆黒の翼やあの少年の無自覚の言の刃の件ぐらいしかなかった気がするが。
「というか、少しだけ羨ましいという気もするよ。誰だって、別の人生を歩んでいる自分を「想像」することは出来ても、
本当に体験するなんて普通は叶わないものさ」
「・・・・・・高木さんも、憧れたことがあったんですか?そういうこと」
様々な少女達をきらめくステージへと導き支えるその役割が、パズルのピースみたいにぴったりと当てはまるような人なのに。
成功しているいっぱしの「大人」としての、完成されたイメージしか思い浮かばなくても、
そんな十代の若者のような夢想をしてみることもあるのか。
「今の仕事は勿論やり甲斐を感じてはいるが、私だって人間だ。かつては銀河烈風隊局長になりたいといったような、
誇大妄想みたいな肩書きに憧れる時分もあったさ」
気のせいだろうか。そちらの方が小鳥の見ている夢よりももっとリアリティが高い気がしたが、敢えてツッコまずにおいた。
「だから、気が向いたら『次』の話も聞かせてもらえると、私としてもいい気分転換になるしね」
――多分、八割方本気なんだろう。おべっかを使ってこういうことを言うほど甘い人じゃないこと位はわかっているつもりだ。
でも、あんな一大事みたいなのは多分、向こう側でも早々起こりはしない。彼が待ち望む『次』に、
メイドとしての仕事以外で語れることなどあるだろうか。
窓越しに、ビルとビルの間の狭い空に浮かぶ、心細げな真昼の月を見上げる。
今日も夜が来る。小鳥が、もう一人の「自分」が城のベッドで目を覚ます時間が。
77:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:03:37.16 bmndDUy4
トントン、と肩を叩かれて、反射的に振り向けば頬に当たる人差し指の感触。
典型的過ぎて言葉もない。
「――よ、お嬢ちゃん!あれから大丈夫だったか?」
――洗濯物のシーツをいそいそと運んでいる小鳥に、日本でも久しく
お目にかかることがないレトロないたずらを仕掛けてきた当の本人は、年に似合わぬ
子供のような表情で片手を上げて挨拶してくる。
「あ、ナイレンさん!・・・・・・そ、その節はどうもお世話になりまして」
「あーいいっていいって。・・・・・・とりあえず、そんなにバリバリ仕事こなしてる位なら、
まあ大丈夫なことは大丈夫みてえだな」
心なしかホッと肩を撫で下ろす仕草は、鷹揚なようでその実真摯な感じがした。
こういう辺りが部下からの信望が強い所以なのかも知れない。
「あの、私よりもナイレンさん達の方がよっぽど大変そうに見えたんですけど・・・・・・他の騎士の方達は?」
「ああ。まああの後城に戻って治療受けたからな、みんなケロッと任務に戻ってるよ。
・・・・・・上からはこってり絞られたがな」
一瞬眉をひそめたのも束の間、「ああ・・・」とその理由に思い至った。確かに昨日の出来事は、向こうで言うなら現職刑事が連行中の
被疑者を取り逃がした、という失態でもあるのだ。
「まあ、いくつか公共物が壊れた以外に人的被害がないってことと、相手が魔術師連中だったってことで、
始末書程度で済んでるけどな」
と言う割に、キセルを加えているその顔は少々苦々しいものがある。頭の中で疑問符を浮かべていると、
隣で書類を運んでいた部下が口を挟んできた。
「本当、殿下が取りなしてくれて助かりましたよね。正直市街地で魔術師と乱戦なんて、
始末書どころじゃどっかに左遷かと――」
「オイこら!」
騎士はその叱責及び、キョトンとした小鳥の様子に気づくと、失言でしたとばかりに口を押さえる。
(・・・電化?)
が、今の小鳥にとっては馴染みの薄い単語は、そんな風にしか変換出来ない。
そんな彼女の様子に気づいているのかいないのか、あからさまにゴホンと咳払いしてから、
「そ、そそそーだお嬢ちゃん!あのチビスケのことなんだけどよ、あれからどうした?」
「チビ・・・・・・って、あの子猫のことですか?」
持ち直していることは確認済みだが、それ以降はあの小さな法術師こと
ミント嬢――というかメリル夫人預かりとなっているので、詳しくわからない。
「いい引き取り手が見つかるといいんですけどね・・・・・・」
「ま、悪い様にはしないと思うぜ。まあ俺が引き取ってやれるならやりたかったが・・・」
常日頃から通常の任務に加え、近々徴用される予定の軍用犬を世話しているナイレンである。彼に限らず、
何かと多忙な城勤めの人間にはプライベートで猫を飼う余裕があるとは思えない。すると、一瞬脳裏に閃くものがあった。自分よりも小さいその指先が放った矢の、玄人を思わせる程まっすぐな軌跡。
「・・・・・・あの時の男の子とかはどうなんでしょう?」
自分に対する悪気ないあの一言は置いておいて、二言三言話しただけだが幼いながらに誠実そうな人となりのような気がした。そんな気持ちでつい軽く提案してみる。
「あの時ちょっと話し込んでたみたいだし、お知り合い・・・・・・なんじゃないんですか?」
「あー、いやお知り合いっつーか・・・・・・」
気まずげに頬を掻きながら、妙に何かを言いあぐねているような彼らの様子に気づく。
明らかに、触れてほしくない部分に触れてしまったのだろうか――その時、何気なく
脳裏を過ぎった思いつきをポロッと口にしてしまう。
「ひょっとして、ナイレン隊長のお子さんとか?」
刹那、がっくりと肩を外すそのコミカルなアクションで、かなり確信に近いものだったそれが外れだったことを悟った。
「・・・・・・あのな嬢ちゃん。俺としてもあっちにしてみても、それはちょっと笑えない想像なんだが」
「あ、す、すいません!・・・・・・年齢的にはピッタリかな、とか考えちゃって」
「・・・・・・そりゃ俺はトシもトシだが、カミさんもいた覚えもねえのにあんなデカイ子供は・・・・・・」
「・・・・・・重ね重ね申し訳ありません・・・・・・」
78:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:09:46.56 bmndDUy4
流石に邪推し過ぎたか、とつい萎縮して頭を下げると、隣の騎士が茶化すように、
「まあ、隊長の場合普通の家庭から縁遠い感じはありますけど、うっかり一夜の過ちでってパターンなら有り得ますよね」
「てめぇ・・・・・・回復早々また医務室送りになりたいか?」
おどけててるのか本気なのか判断のつきにくい表情で、手甲に包まれた拳をアピールする上司に部下は苦笑いを返しつつ、
「ああ、そうだ。――小鳥ちゃん」
「はい?」
「・・・・・・今後、万が一あの少年に会うようなことがあっても、迂闊に今言ったみたいなことはおいそれと口走らない方がいいよ」
唇こそつり上がってはいたけれど、諭して聞かせるその口調と目は真剣そのものだった。
(・・・・・・ああいう言い方をするってことは、やんごとない身分の人ってことなのかな)
濁すような言い方ではあったが、実際部下の言い方や、あの時の少年の纏っていた不躾だが「血統書付き」のような
洗練された印象。突拍子もないけど、不思議と確証があるような気がした。
夕食用のハーブをぶちぶちと菜園で摘み、あらかたのノルマを終えてからうーんと腕を伸ばす。想像通りなら、猫の世話なんて
ご近所さんのように頼める相手ではなさそうだ。
ナイレンらにも言ったことではあるが、現在子猫はメリル夫人預かりとなっている。といっても今はスケジュールが少し
空いていて家で世話を出来る時間があるだけで、いつまでも飼っている訳にもいかないそうだ。
――飼えるものなら飼いたいんだけどね。
あの日出会った子猫の恩人こと、驚くタイミングを掴みそこねたがメリルの一人娘であるミントというあの女の子とは、鍵を
渡して以降ロクに会話もしていない。母親の後ろ姿からこちらをオドオドと見つめてくる姿は、あの鉄火場へ飛び出していった時の勢いが
嘘みたいな程いたいけというか、頼りなさげだった。
――ごめんね、人見知りする子だから・・・・・・
拒絶、という訳ではないにしても、何度笑顔で話しかけてみてもビクついた顔で後ずさりされ、傷つかなかったといえば若干嘘になる。
が、それは置いておいて、会う都度に少しばかり伝わってくる、物言いたげな視線が少し気にかかってもいた。
(・・・聞きたいことでもあるの?って言って答えてくれる訳でもなさそうだしなぁ)
向こうも同じという家族でもないけれど、自分も小さい頃はあんな感じだった気がする。大人達に話しかけられても、それが例え
気安い笑顔であれ降りかかる言葉が異国の言葉のように思えて、萎縮して母の後ろをくっついた頃。そう思うと、無闇に
距離を詰めようとするのは酷のようにも感じた。
カゴに置かれたハーブの数々を確認する。言い渡されたノルマとしては充分だろう、そう考えてよいしょ、とばかりに屈んでいた腰を上げる。
ハーブの数々を布袋に入れ、開け口の先端を絞り上げながら見上げた空はもう、儚い赤に揺らめいている。
(・・・・・・もうおじさんに報告出来ることなんてないかもなぁ)
けど、世の中そういうものかと身を翻した瞬間――
鳥達のさえずりと擦れ合う葉が醸す自然の音に混じって、にぁ、と。
甘く頼りなげな鳴き声が微かに、しかしこちらの耳目掛けて飛び込んでくるような存在感を以て飛び込んできた。
「え?」
と、間の抜けた呟きと同時に、ハーブの詰まった布袋を茶色い「何か」が警戒する間もなくかっさらっていく。
シタッ、と俊敏かつ華麗に地に降り立ち、布袋を抱えたその姿を見て「あ」、と思う。
今は鮮血ではなく、土埃や葉っぱにまみれたふわふわの茶色い毛並み。萎れるように折れていたあの時とは違い、ピンと三角に立った両の耳。
直感に近いものが降って湧いた。あの子だ。
「ちょっ――!」
その細い目はこちらを見据えたかと思うと、ハーブ袋をくわえたそのままで、ぷいっ、と鮮やかに小さな身を
翻して再び茂みの向こうへ消えていく。
「・・・・・・ま、待ちなさい!」
――魚を取られるならいざ知らず、ハーブを取られるとはどうなんだと思いながら、猫の背を追いかけて駆けだしていく。
あの時の猫かどうかとかハーブのことを抜きにしても、向かった先は魔物も潜んでいることもある森林地帯だ。城下の街角とは訳が違う。
オタオタレベルの魔物であっても、自分とは違い子猫の体躯では万が一遭遇したらひとたまりもないだろう。
79:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:18:05.84 bmndDUy4
乱雑に伸びた木々の間を文字通り潜り抜けるように、小さな背を見失わないよう追いかける。魔物の気配は窺えないが、
最近何かと走ってばかりいるな――と、呑気に思う一方で、痛い位に伸ばした指先が、徐々に猫との距離を詰めていく。
木々の気配が段々と少なくなり、行く手に光が差す気配にも気づかぬまま、
「――つかまえっ、たぁ!」
走りながらも一気に大股でジャンプして距離を詰めた後、一気に近づいた猫の体を強引に懐へ抱え込む。
尚暴れているが、猫及びハーブがとりあえず無事であることを確認して、胸を撫で下ろすと――
目の前を、燃えているのか光っているのかわからない、小さな「色」が舞っていた。
「それ」が花びらと気づいて広がった視界で映るものを確認した瞬間――
海以外にも空の色を映すものがある。その景色を見て小鳥が感じたのは正にそれだった。
向こうもこちらを覚えていたのか、一瞬意外そうな表情で、名残り惜しげになくなりそうなブルー、目にも鮮やかでありながらも
頼りなげに混ざり合う緋とピンクのグラデーションの更に下で、深く溶けそうな紫色が沈んでいる。
そして、目の前で広がっている花畑もまた、何の偶然かその複雑な空模様をはめ込んだように、どこか半端に融け合った水彩画の絵の具のような、
しかし不思議と目に心地よい彩りを放っていた。花々の輪郭に、うっすらと蛍火のような淡い光が宿っているようだった。
綺麗だと、その一言で済ませてしまうのは簡単かも知れない。ただ、一瞬猫を囲い込む両腕の力が緩まりそうになる程、その光景は鮮烈だった。
本当に唐突な思いつきだった。けれど一端思いついてしまった以上は、なかったことにする気にも出来なくて、何気なくキョロキョロと辺りを見回す。
人の気配はない。
「・・・・・・うん、よし!」
息を深く吸い込みながら、頭に手を伸ばし、纏め上げられていた髪が広がる。
「・・・・・・猫さん、どこー?」
ガサガサと、文字通り草の根を分けて捜索を開始してから、かれこれ一時間程だろうか。
家と今の場所との距離を考えると、門限もそろそろギリギリだ。父と母が心配するかも知れない。
――来てほしかったようなほしくなかったような、「引き取り手」が名乗りを上げてきたのは今朝のことだった。
里心がつかないようにと名前をつけることも禁じられ、「猫さん」と呼び続けたあの子は、これから
よその家で暮らすようになって、きっと自分のことなんて忘れてしまうだろう。
ならせめて、お気に入りの「あの場所」へと連れて行く位はしてやりたかった。
――いや、思い出がほしいのは、自分の方だったのだろうけど。
(猫さん、ごめんなさい)
目を離してしまったことは悔やんでも悔やみきれないが、とにかく今は捜すしかない。自分は『あそこ』まで
たどり着くまでの、魔物との遭遇を回避出来るルートを熟知しているが、あの子はそうじゃないのだから。
暗くなる空の向こう側で、夕陽を背負った城が見える。城の影が見えなくなったら、自分も帰り道を見失ってしまうけど――と、思った時。
最早小さい尖塔のシルエットしか見えない城の向こう側に見出したのは、子猫と知り合った
あの日にお世話になった、母と『お友達』だという黒い髪の女の人の顔だった。
「・・・・・・あの人、元気かなぁ」
鍵をなくしたことに気づいた時には、本当に途方にくれた。
ミントの家は城下ではなく、城壁の外にポツンと立った一軒家だ。天文学者の父が「星を見る」為の絶好の
ポイントであるということから選んだ立地だが、「あの日」――そんな我が家は折しも両親共に不在だった。
だからこそ、その時鍵はなくてはならない重要アイテムだった。
母曰く「対策」を施しているというだけあって、今まで家の近くで遭遇したことはないけれど、魔物だって生息している。
そんな状況下で家を開ける為の鍵を持たないということがどれ程心許ないか――だから、あの騒動の後で
ハイ、と捜し求めていたものを手渡された時は、本当に安堵でくずおれた。
呪文から庇おうとしてくれたこともそうだったが、お礼はしっかり言わないと――母に言い含められるまでもなく、
自分でわかっている筈なのに。
これまで何度顔を合わせても、ついつい尻込みしてしまう。
80:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:20:33.38 bmndDUy4
「・・・鍵を拾ってくれて、ありがとうございました」
顔を合わせている時はどう絞り出そうとしても出せなかったのに、誰も見ていない今だけはひゅるりと声を出せる。
父と母以外の大人が、「大きい人」が自分を見ていると思うと、背筋が強ばるのはどうしてなんだろう。あの女性も、
助けてくれた騎士の人達も、皆優しい人だということはわかるのに。
――思考が横道に逸れていたことに気づき、慌てて首を振る。今はあの子を捜さなくては――決意も新たに、
一歩大股で踏み出した時だった。
ヒュカッ、と乾いているが鋭い音が耳を打った。
「ひゃうっ!?」
反射的に肩を戦慄かせると同時に、背中がそっくり返って地面に尻餅をついてしまう。
鈍い痛みに涙目になっていると、ガサガサと近くの茂みを分けて現れる人影があった。
「・・・・・・大丈夫かい?――と」
父を思わせるような穏やかな声音でこちらを出迎える、矢筒を背負ったその少年は見覚えのある顔だった。
あの慌ただしい状況下の中、自分達を助けた後で騎士達と気難しげな顔で話し込んでいた――
「君は、あの時の――」
「・・・・・・ええと、「デンカ」さん、ですか?」
記憶の中の呼称をそのまま口にしたら、一瞬だがその表情が鋭く強ばる。が、キョトンとしたミントの表情をしばし見つめてから苦笑混じりに、
「・・・・・・騎士の人達がそう呼んでいたからかい?」
「は、はい。お名前じゃないんですか?」
「あだ名のようなものだよ。私の名前はデンカじゃない、ウッドロウだ」
手を差し出してくる少年――ウッドロウは、思いの外強い力で座り込んでいたミントを引き上げてくれた。
「驚かせて済まなかった。・・・・・・弓の丁度修練をしていたところだったんだ」
チラ、と視線を馳せた先には、何本もの矢が突き刺さった丸い的がぶら下がった木があった。
「ところで、君はどうしてこんな所に?・・・私も言えた義理ではないが、早く帰らないとご両親が心配する」
やんわりとした口調で諫めてくる彼に対し、ミントは本来の目的を思い出して、
「あ、あの――」
猫さんを見ませんでしたか――と、続けようとした彼女の声は、そこで途切れた。
自分の五感が感じ取ったその違和感を、彼女は一瞬気のせいかとも思った。
けれど数秒と経たないその内に、自分の直感が正しかったことを悟る。
半ば「庭」のように知り尽くしているこの森の中で、確かに今までの記憶にない何かが遠く、何処かから木霊していた。
むずがゆいような鳥や虫の鳴き声に、微かに混じるもの。
唐突に黙り込んでしまった彼女の様子を訝しみ、ウッドロウが視線を合わせるように屈み込み、
「どうかしたのか――」
「何か、聞こえてきます」
彼女には珍しい、断定の響きを以て断言した時、その「音」――いや、声は、彼女の言を証明するように、一層存在感を増して耳に飛び込んでくる。
「・・・・・・魔物の声、ではなさそうだね」
同じく声を感じ取ったのか、彼もまた目を閉ざし耳に手を当てて、森に染み渡る音に神経を研ぎ澄ましているようだった。
確かに、断片的にしか伝わってこないその声は、魔物の類がいなないている、というには殺気のような物騒な気配は感じられず、けれど耳の
入り口から体の中を真っ直ぐに駆け抜けていくその気配。
迷った後、子供達は示し合わせるまでもなく、好奇心に従って足を踏み出していた。
「声」のする方へと。
その声――歌が、当初ミントの目指していた「お気に入りの場所」への道筋から響いてくることに
気づいたのは、途中からのことだった。
それ程盛大に絞り上げられている訳でもないのに、高く空へと突き抜けるその声の主は、彩り鮮やかな花畑の中でただ一人、光景に黒点を作るように立っている。
81:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:25:33.72 bmndDUy4
その空と花々が織り成す夢のような絶景も、ミントが捜していた小さな友のことも、その時は頭から吹き飛んでいた。
少しばかり警戒して、自分を守るように前に立っていたウッドロウも、呆けたようなその顔が年相応にいたいけな感じに見えている。
もうすぐ全てが夜闇に沈もうとしている中で、「彼女」のシルエットは2人の視界にハッキリと映し出されていた。
お団子状態から解放され、深緑の木陰を思わせる豊かな黒髪が風になびき、幼い印象が強くなった横顔。真っ黒いメイド服の輪郭すら
夕闇に溶けることなく、どこかきらきらと小さな星の砂みたいに瞬いて見えて。
そして何より、伴奏など一つとしてない中で、人の肉声がこんなにも素晴らしい楽器になるということを、初めて知った。
その声も、紡がれる言葉も、全てが今映っている世界の美しさを、飾ることなく素直に表している。
胸の内に、矛盾した2つの感情がせめぎ合っているようだった。眠れない夜、母が入れてくれたホットミルクを飲んだ時の凪いだような幸福感と、
父に手を連れられていった祭りに心を弾ませた高揚の感触。
いつか使わなくなっていた、「もう少し」という言葉がまた口をついて出そうになっていた。子猫のことを惜しんだ時でさえ、
両親を困らせまいと決して使おうとしなかった言葉が。
横に並び立つ少年もまた、褐色の肌の上からはわかりにくいけれど、心なしかその横顔は上気していて、隣で握られた拳にも力がこもっているように見えた。
――空がすっかり濃紺に塗りつぶされるまで、彼女の歌は2人をその場へ縫い止めていた。
――何年ぶりだろうか。ステージでもカラオケボックスでもない、全くの無人の場所で、思い切り歌うなんて。
熱にうかされたように歌っている間、縁起でもない話だが走馬燈みたいに、「この世界」の思い出が鮮やかな彩りと共に、頭に映り込んでいた気がした。
それこそ、絶景への感動だけじゃなく思い出まで一緒に歌になったみたいに。
はぁ、と吸い込んだ息を吐き出し、ゆるゆると花畑に腰を下ろす。
(こっちじゃボイストレーニングもロクにしてない筈なのに)
掠れることも音程がズレることもなく、するすると声は歌を奏でてくれた。
足下でさっきの子猫が姿を消していることには一応気づいていたが、まあ問題はない。ハーブはしっかり確保している。
全き黒い夜空を眺めて思う。自分の記憶をカメラで写せたら、高木にもあの歌いだしたくなる位の美しさを、手土産に出来たかもしれないのに。
美しいもの。ストレートにそう言い表すしかないものが飛び込んできた時、躊躇うことなく歌い出した自分にも驚いたが――
どうしてこの世界の自分は、今まで歌を「知らず」にいられたんだろう。向こうでの記憶があっても尚。一度声を張り上げたが最後、
歌は最早自分の四肢か五感のように切り離せないものになっていたのに。
世界と自分と歌しかないような、さっきまでのひと時の中で思い返すのは、「向こう」での母との思い出だった。
人目よりも、上手く歌えるかよりも、ただ母と一緒に歌うことが楽しみで、何よりの喜びだった記憶。
アイドルでもないひとかどのメイドであっても、この世界の自分も歌えた。その事実に、遅ればせながら安堵して、喜んでいる自分に気づく。
もう、「向こう」の自分になる時は近づいている。やっぱり取り立てて「何か」が起こった訳でもなかったけれど。
(やっぱり、この世界は好きだと思います)
素晴らしい出会いがあった訳でもないけど、歌い終えた瞬間素直にそう思えた。
闇に沈み、少しばかり彩りの失せた花畑を見回し、
「時々は使わせてもらおっかな」
きっとこうなった以上、この世界でも自分はまた歌わずにはいられないだろう。ただ、それと人に見られることとはまた別だが。
アイドルを目指している身としては関心出来ないだろうが、やっぱり人目を意識しだすと恥ずかしさは拭えない。
パンパンとスカートの花びらを払って立ち上がり、何気なく横を向いた時――
全身を嫌な意味での電撃が駆け抜けた。
82:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:29:28.21 bmndDUy4
先程自分が飛び出してきた木々のすぐ傍だった。二対の、見覚えのある子供達の瞳が、これでもかという程見開かれて自分を見つめている。
見られていた、というか、聴かれていた。
歌い終わった瞬間に通りかかっただけなら、文字通りあんな別世界の人間でも眺めているような眼差しを向けたりしない。
雪の中に手を突っ込んだ時にも似た霜焼けみたいな熱が、頬のみならず耳まで駆け抜けていくのを感じる。
(――いぃぃやぁぁぁ!?)
「あ、あのあの!違うの、これは!」
ブンブンと両手を盛大に振って、半べそ状態で必死に抗弁を試みる。視線に気づかずさっきまでの自分を思うと
盛大にケリを入れてやりたい気分に陥った。
曲がりなりにもアイドル活動中の向こう側でならまだしも、聖歌隊にも楽団にも入っていない一介のメイドがひとりきり――しかもノリノリで
広い場所で歌っていたなんて光景は、無垢な子供らの瞳にどう映ったかと思うと恥ずかしさで゙死にそうだ。
「ま、魔が差したっていうか、今のは私であって私じゃなかったの!だからお願い、見なかったことに――」
子供達の自分を見つめる表情にも気づく余裕などないまま、小鳥は羞恥のあまり更に言い募る。彼らとの間合いが、それこそ
自分との心の距離を表しているんじゃないかという自嘲めいた妄想にかられた時、返ってきたのは静かな声だった。
「・・・・・・見なかったことになんて、出来ません」
強い意志を以てきっぱりと告げてきた少年は、スッと歩み出て、こちらへ徐々に近づいてくる。その表情に、呆れや侮蔑の色はない。
「先日失礼なことを利いた口で今更何を、と思うかも知れません。けれど、あなたの歌は決して恥ずかしくなどない」
強い口調で告げてくる少年の顔は、それこそ小鳥がさっきまでの己を恥じるような言動を許さない、とほのめかすような真摯さを含んでいて。
たじろぐ彼女に追い打ちをかけるように、ポスン、とスカートの辺りに軽い感触があたる。
え、と思った時には、紅潮した顔でこちらを見上げる金髪の少女が、小鳥のスカートの裾を握りしめて畳みかけてくる。
「鍵、ありがとうございました!え、ええと、ぬすみぎき?とか、そういうつもりじゃなかったけど、でも」
「え、あ、あの」
人見知りを体現していた筈のあの子犬のような佇まいが消え失せたみたいに、少女はマシンガンの如き勢いで
小鳥のスカートの裾をしっかりと掴んで、畳みかけるように言葉を連ねてくる。
「あの、お歌、とってもとっても素敵で、聴いたことなくて、その、お名前」
「・・・え?」
――聴いたことがなくて当たり前だ。この世界で歌といえば教会の賛美歌ぐらいなもので、向こう側ではありふれているとはいえ
さっきの歌はまさに「異世界の歌」なのだから。
そう思って、軽い気持ちで答えようとする。
「あの、あれは『花』、っていう歌なんだけど――」
ブンブンと金色の髪を必死に振り乱して、否定の意を表する少女。
「――違います!お歌のこともそうだけど、そうじゃなくて!」
その時、自分を見上げる少女の顔に、ふっと霞みたいな既視感が過ぎった。
歌っている母を、まばゆいものに触れているような気持ちで見上げた時の、幼かった自分の顔はきっとこんな風だったかも知れない。
「私、ミント・アドネードです!お姉さんのお名前、教えてください!」
さっきまでの情けなさにも似た羞恥は、その無垢な叫びでたちまち遠のいていく。だが、一拍置いた後に、また頬は熱くなる。
こちらを見つめる2人の目が、混じり気なしの輝きでこちらを見つめる姿に、狼狽しつつも確かに喜んでいる自分がいて、そのことに呆れてしまう。
面映ゆさの中で、一つ高木に報告出来ることが増えそうだと、思考の片隅でそんなことを思った。
――それが、ほんのひと時の幸福な日々の始まりにして、やがて訪れる「喪失」へと踏み出していく一歩だなどとその時は知らずに。
小鳥は、笑って自分の名を告げた。
83:TOWもどきim@s異聞~序章~
11/10/16 20:38:44.45 bmndDUy4
――積み上がったA4プリントの山をぼんやりと視認した時、ぼんやりとした思考の中で真っ先に思ったのは口元に
よだれでも垂れていないか、という懸案だった。
口で言うだけなら漫画みたいだけど、実際にやらかしてしまって手書き書類のインクを滲ませた時は、後輩事務員にしてアイドル候補生たる
少女の柳眉をこれでもかという位つり上がらせてしまったから。
何か、長い夢でも見ていたのだろうか。内容はそれこそ、霞がかったみたいに思い出せないけれど。
ポーチから取り出したコンパクトで、久々の徹夜明けで顔がどのような有様になっているかを恐る恐るチェックする。
肩で切り揃えた髪には多少の寝癖はついているが、手櫛でまだ何とかなるだろう。頭のヘアバンドにインカム、ついでに口元の黒子までもを
チェックしてから、ホッとため息をつく。とりあえず、人前に出られないような惨状ではない。
壁にかけられた時計を確認すると、もう間もなく皆の出社時刻だった。
「・・・・・・顔でも洗って、お化粧直ししとかないとね。・・・・・・あっ!亜美ちゃん達ったら、お菓子は家に持ち帰るように言ったのに・・・」
「未完の幼きビジュアルクイーン」の指定席となった来客用ソファ前のテーブルで、まだ中身のあるベックリマンチョコの
派手派手しい紙袋がが放られているのを見て顔をしかめる。
そして、ガムテ張りされた「765」の社名が影を作っている窓をガラガラと開け、朝の空気を思い切り吸い込む。いつから、と
決めた訳でもないけれど、徹夜明けにおける恒例の作業だった。
「・・・・・・さて、今日も一日頑張りますか」
あと少し経てば、今はだだっ広く錯覚してしまうオフィス内も、息つく間もない程騒がしくなるだろう。
シャワー代わりに朝陽を浴びて、ひとしきりリフレッシュした後――
透明度の低いガラスの向こうに、ゆら、とたなびく長い髪が見えた気がした。
「――え?」
反射的に瞼を擦ってガラスを見直した時、当たり前だがそこには髪を短く切り揃えた自分の姿しか映ってはいない。「音無小鳥」の姿しか。
(・・・・・・伸ばさなくなって、どれ位経ったっけ)
アイドルを断念してからずっと、今の髪型を通していることに深い意味はない、と思う。ただ、ここへの就職を決意した時に、
『舞台裏』の人間にとっては長い髪よりこっちの方が融通が利く、と思っただけで――
ぼんやりとそんな風に考えていた時、デスクに置いた自分の携帯が軽やかに着信音をでる。
慌てて手に取ったそれの着信画面には、自分のかつてのプロデューサーにして現上司の名前。
「――あ、もしもし社長ですか?珍しいですねこんな朝早くに――」
そうして話し込んでいる内に、さっきまでのぼんやりとした逡巡は消え去り、たちまち事務員としての日常を取り戻していく。
ただ、差し込んでくる金色の朝陽が、不意に「あの子」の髪のようだ――などと、一瞬過ぎった感想も、忙しさの中で存在ごと消えていき。
――嘘のように突拍子ない光と緑の世界を。確かにあった筈のもう一つの思い出を、忘れたことすら忘れたまま、彼女は今日もアイドル達を笑顔で出迎える。
再び始まりの日がやって来る、その日まで。
(あとがき)
投下終了、レスの都合によりあとがきという名の言い訳も投稿させて頂きます。
一応次回からは時間軸が現在に戻りアイドル達も活躍する予定ですが、様々な方が言うようにテイルズサイドを知ってる人にとって
どういう感じになっているのかが気になってもいます。
TOWというお祭りの特性上、シリーズキャラも越境させて登場させてしまってますが、今のところテイルズファンの読者様は
いらっしゃらないようで、動かし方がこれでいいのかと試行錯誤する今日この頃でもあり……いっそ物は試しと別の投稿所とかで
挑戦してみようかと、魔が差した考えに襲われたりもしています。
84: ◆zQem3.9.vI
11/10/16 22:17:47.43 bmndDUy4
・アイドルマスター×テイルズオブザワールド、文章型の架空戦記を目指しているつもり
・現段階では小鳥さん(時間軸的)に10代オンリー
・シリーズのサブキャラ並びに原作メインキャラの幼少(名前は直接は出てませんが)が登場
・後にアイドル総出演の予定
・苦手な方はスルー推奨
↑という注意書い兼前書きをうっかり忘れてしまっていました。
気分を害されてしまった方はすいません……
85:メグレス ◆gjBWM0nMpY
11/10/17 00:41:57.88 6rQtYW4E
>>55 綺麗と言ってもらえると嬉しいです。
無駄の無い文章を目指したつもりですが、ただの描写不足になってやしないかと不安だったもので。
>>58 笑顔で貯金箱を割る絵理を想像して和んだ。
半年後は尾崎さんが自分を模した貯金箱が割られるのを見てまた複雑な顔をするんだろーなー。
>>59 またビミョーに時事ネタですねー。
4月1日に結婚しましたとツイートしたあずささんの中の人を思い出して思わず目頭が熱く……
それにしてもこの二人解りやす過ぎである。
>>60 何気にジュピター物はこのスレで初めてかしら。
そらあんな二の腕と腹丸出しの衣装なら体調も崩すわな。(ナイトメアブラッドから目を逸らしながら)
そして多分冬馬は風邪ひかないような気がする。
>>61 感想ありがとうございます。
意地の悪い質問ですが、千早に対して「曲も歌詞も他人が作った物を自分の歌と言えるの?」
と言った時にどうするだろうかというのが結構前から頭の中にありまして……
それとは別に、歌を歌っていくのならいずれ自分で作りたいと言う欲求は出てくるだろうなとか
そういったものとタイトルとか曲の雰囲気とかと色々混ざり合って出来たのがコレです。
ちなみに原曲URLリンク(www.youtube.com)
>>83 少し上から目線になってしまうかもしれませんが、歌のシーンが出てきて、ああ、ようやくアイマスらしくなってきたなぁ。と思いました。
序章終わりとの事なので、これから誰が出てくるのかなと気にはなっている身としては続けて欲しいですね。
うまく感想を書けるかどうかはちと自信無いのですが。
なにぶんテイルズシリーズはPSで出た3つしかプレイしてないし、随分と昔で記憶もあやふやなもので。
そしてなんとなく浮かんだワンシーン。
小鳥「ホ、ホラ、私ユニコーンには会えないから……」
一同「……………………」
小鳥「スイマセン嘘つきました……」
ここから業務連絡ー。
>>73まで保管庫に収録しました。作者別のページも作成。
ところで、保管庫ってどのぐらいのペースで収録すればいいんだろう……
86:創る名無しに見る名無し
11/10/18 20:12:53.79 EVqB0LXw
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE ~輝く季節へ~ 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD ~支配者の為の狂死曲~
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世
SS予定は無いのでしょうか?
87:創る名無しに見る名無し
11/10/18 20:59:30.43 Ln3cc1I2
どこの誤爆か知らないけどエーベルージュって懐かしいなww
アンヘル族なアイドルとか面白そう。ちょうど金髪に翠眼てのもいるし。
88:創る名無しに見る名無し
11/10/18 22:05:52.82 R/sqRd+m
>>86は誤爆っつーか、SS関連のスレに時々現れるマルチ(notロボ)だかスクリプトなのよ
以前と少し内容変わってるみたいだけど。
89:創る名無しに見る名無し
11/10/18 23:25:33.26 Ln3cc1I2
それはそれはw
変わったこと考える人もいるみたいですね。しかも私が知ってる作品が大半ってことは同年代なのかな?
もうちょっとまともな事に労力を回せばいいのにとか思うんですが
90:創る名無しに見る名無し
11/10/19 00:27:28.72 M6MONhWU
【2次】ギャルゲーSS総合スレへようこそ【創作】
スレリンク(gal板:101-200番)
91:創る名無しに見る名無し
11/10/19 00:48:08.61 L6mHoA4Q
つまり初代Pの葬式から始まるアイマス2……うんダメだこりゃ
92:二レスネタ『命題「愛は人を殺すか?」』 ◆G7K5eVJFx2
11/10/21 21:18:08.01 0kdtJxX6
「私は愛が人を殺すとは思いませんよ。だって、愛と言うのは誰かを心から信じ、許すことです。違いますか?」
絵理ちゃんのアガリ性対策になればと事務所の一角を借りてディスカッションをしている。
お題はサイネリアさんから直前にメールして貰った。今のところ、ディスカッションの勝率は半々。地力の差を考えるとせめて七割は勝って欲しいところだけど。
「その点は肯定?」
その言葉を受け、言葉を返す。
「それならば、簡単です。人を殺すのは『愛』ではなく、『独占欲』または『嫉妬心』です。共にあることが多いために間違えられますが、『愛』とその二つは必ずしも一つではありません。いかがですか?」
手加減はしない。練習にならないから。感情はなしに理論をぶつける。
「涼さんは、一つ失念してる?」
頷き、先を促す。
「確かにその定義ならば『愛』は『他人』を殺す事はない?
だけど、『人』は『他人』だけではない?」
しまったと顔に出してしまった。ディスカッションではリアクションも理論を正しく見せるポイントだ。
歌を上手く聴かせるためのダンスやヴィジュアルのように。
「そう、『愛』はその想いが故に『自分』を殺す?
あの人が幸せなら、と『自己』を消し、必要ならと与え『財産』を失う?
残るのは空っぽの『自分』。それは『愛』に殺されていると言える?」
二の句が告げない。
「……絵理の勝ちね」
ジャッジ役の尾崎さんが判定を下す。
「絵理は涼の意見を肯定した上で別の形の『愛は人を殺す』事を提示したのに対し、涼は否定出来なかった」
贔屓なしで絵理ちゃんの勝ちだ。僕相手なら意見を交わせる程度には慣れて来たかな。
「今度は愛辺りに相手をお願いしようかしら」
「愛ちゃん、ディスカッション苦手そうですけど?」
「強い弱いじゃなくて、感情相手に冷静なまま意見出来るようになって欲しいのよ……まだ遠いけどね」
なるほど、ディスカッションのルールを理解している僕じゃ駄目な訳か。
93:二レスネタ『命題「愛は人を殺すか?」』 ◆G7K5eVJFx2
11/10/21 21:36:40.42 0kdtJxX6
そういえば、今日は事務所が静かだと思ったら、愛ちゃんがいなかったのか。
愛ちゃんと絵理ちゃん……ディスカッションになるのかな?
絵理ちゃんと帰っていると絵理ちゃんの携帯が鳴った。
微かに聞こえた『先輩』と言う言葉から、相手がサイネリアさんであることが分かる。
絵理ちゃんは話を切り上げると、こちらを向いて言葉を発した。
「『愛』は、」
ディスカッションの反省をしながら帰るのは通例で絵理ちゃんが言えなかった事を聞く事が多い。
脈絡はないがそうなのかと思い耳を傾けた。
「『狂気』に変わる? 与え続けられる程人は強くない?」
肯定する必要さえなかったのか。落ち着けば変わった『ソレ』を『愛』と呼ぶかで勝負出きるけど。
「だから、答えて? 涼さんが好きなのは『愛』? それとも私?」
決定的なズレを感じた。そして感じた後では、間に合わない事にも気づいた。
上着をまくり、白い肌を晒した絵理ちゃん。そこには痛々しい痣があった。
「どうしたの?」
流れから愛ちゃんが原因なのは分かる。
だけど、その現実から逃げてる、どうしろと言うのだ?
二人が僕の事を好きだった、それは理解出来た。
なぜ、僕を取り合うのか、分からない。僕より格好いい人は沢山いるのに。
「涼さんを返してと、言われた? 少し家でお仕置きしてる。
愛が大切なら、来る?」
事態の把握に失敗した。状況が理解仕切れない。
「愛は狂気へ、それから凶器にもなる?
想いが強いから」
抱き付かれ、耳元で囁かれる。
「私の想いも負けてない?」
そう言った絵理ちゃんの瞳は、確かに狂気に染まっていた。
94:創る名無しに見る名無し
11/10/25 00:30:49.29 sxbiVuKt
アニメ11話、春香と千早が入ったスーパーでベン・トーの連中と遭遇してたらどうだろうとか言ってみる。
以下妄想。
「そうだ、お弁当コーナー行こうよ」
「え? でももう閉店間際よ?」
「だからだよ。お弁当は残しておけないから売れ残ったのは半額になるの。お買い得だよ」
「そう。じゃあ行ってみましょうか」
──そうして向かったお弁当コーナーは、戦場でした──
「え……何コレ……?」
「春香……流石にこれは……」
「ああ、お嬢ちゃん達は知らないのかい?」
「貴方は……」
「なぁに。名も無い狼の一人さ」
「狼……?」
──そうして、私達は『狼』と呼ばれる人たちのことを知ったのです──
春香は後に述懐する。
──あの時、私が千早ちゃんの様子に気づいていればあんな事にはならなかったのかもしれません──
そんな事があってから徐々に千早ちゃんの様子は変わっていきました。
仕事やレッスンは真面目にしてるし、何処がおかしいという訳でもありません。
ただ時々、闘気みたいなもの(自分で言っててもマンガみたいですが)を滲ませるようになりました。
そしてある日私は見てしまったのです。千早ちゃんがスーパーのビニール袋から半額シールの張られたお弁当を取り出す所を。
「千早ちゃん……それ……」
「ああ春香。バレちゃったわね」
「私達アイドルなんだよ!?」
「大丈夫よ。仕事の無い時しか行っていないから」
「ケガでもしたら」
「だから手じゃなく足を使うようにしているわ」
「ちゃんとお給料もらってるじゃない」
「春香。これは私のプライドの問題よ。ただの自己満足でしかないの」
──駄目だこいつ。早く何とかしないと──
ギャグ作品だと、千早って真面目さゆえに間違った方向にも全力疾走するよなーとか思ってたら浮かんできた。
以下さらに番外っぽいもの。
「まさか千早が狼になるとは思わなかったぞ」
「噂を聞いてると二つ名が付くのも時間の問題みたいだしね。それより響は大丈夫? 結構久しぶりみたいだけど」
「帰りを待ってるハム蔵達の事を思えばなんくるないさー。そういう真も怪我の心配とか大丈夫か? 格闘技は空手の黒帯取った所で止めたって聞いてるぞ」
「別に平気だよ。『空手は』初段っていうだけだから」
「成程。よーしそれじゃあ……」
「「行くとしますか」」
95:創る名無しに見る名無し
11/10/25 17:31:08.68 aUCmC6QR
>>92
「うわぁ~ん!! 絵理さん、えぇぇぇりぃぃぃぃさぁぁぁぁんん!!!」
がっくんがっくんがっくんがっくん
「愛ちゃんやめて! 絵理ちゃんホントに死んじゃうから!」
・・・タイトルからこんなんしか思い浮かばんかった
96:1レスネタ 『curtain raiser』
11/10/28 22:02:08.77 drnBpo9+
暗い舞台に真上から、まばゆい光が降り注いだ。
ざわ、とどよめく客席に、あれ誰だ、とか、えっまさか、みたいなひそひそ声が聞こえてくる。まずは静かに、お辞儀とともに一言。
「本日は星井美希のコンサートにお越しくださり、ありがとうございます」
私の声には特徴がある。知ってる人なら間違えないくらい。案の定、気づいた人がいた。
「伊織ちゃん!」
「いーおりーん!」
舞台上の正体を知った会場の空気が一変する。そこからゆっくり、十まで数えた。
そろそろいいかなとあたりをつけて、マイクを構えて息を吸う。ゆっくりとした動きで指を開いた右手を、真上に向ける。
「さぁてっ!」
しん。私の一喝で、観客が息を潜めた。
「美希のために来てくださったファンのみんなに……」
五本指を右端の観客に移動。そこから呼吸に合わせて、反対端のファンまで順繰りにたぐりよせてゆく。本日お越しのお歴々、ってわけ。
「大事なお知らせがあります。一部音響設備の調整のため、ライブの開演を30分遅らせることになったの」
ええっ、と今度はがっかりしたような声。
本当は、機材ではない。トラブっていたのは、美希本人だった。
─39度超えてるじゃない!どうしてこんなになるまで黙ってるのよ!
─だって、ファンのみんながぁ。
─アンタが倒れちゃったらそのファンはもっとショックでしょうがっ。
─だって、だってー。
あの時のMCが効いたらしい。コンサート直後からオファーが殺到し、美希は今日までほぼ休まず仕事をしていた。
プロデューサーはずいぶんセーブさせようとしたそうだけれど、美希本人がやりたいと言って聞かなかったのだ。
「でもね、安心して。幸いこのマイクや、他の機材もいくつか生きてるから」
今、美希は控え室で寝ている。というか、寝ろって命令してきた。
毛布でぐるぐる巻きにして、エネルギーゼリーをくわえさせて、ついでに差し入れのおにぎりを持たせて、出番までに熱を下げろと言ってやったのだ。
「この水瀬伊織ちゃんが、世界一贅沢な前座をやってあげるからねっ!」
どお、おっ。ファンの歓声は見えない音圧になって、私の立っているステージまで押し寄せてくる。
ぞく、ぞくぞくっ。
体の奥に震えが走る。
『美希を見に来たんだから伊織なんか引っ込め』なんて言われたらどうしよう……ともちょっとだけ思ったけど、どうやら一安心。まだまだ美希には負けないでいられそう。
怒涛のコールに圧し負けないよう、肺いっぱいに空気と気合を溜め込む。
「いい、アンタたち!開演までにちゃあんと会場あっためとかなかったら、美希ががっかりするかもよ?」
言葉を切る度に、観客の声圧が上がってゆく。美希は、いいファンに恵まれてる。
「ぬっるいコールなんかしたら、あの子はステージだって寝ちゃうわよ!」
私たちのため、なんて言葉通りの働きではなかったと、プロデューサーから聞いていた。あの時の美希は結局、決まった誰かじゃなく765プロ全体のために、キラキラ輝くステージを作り上げたのだ。
「美希がハジけられるように、いいわねみんな!」
そんな子に全部やらせっぱなしじゃ、私の名前がすたるじゃない。
だいたい、借りっ放しというのは性に合わないのだ。ここで勘定を御破算にして、明日から正々堂々と競い合うのが……ライバルだし、ともだちでしょ?
「さあ、お立ち合いよ!伝説の星井美希の!伝説のファーストソロコンサートの!これまた伝説の前座ショー!」
割れんばかりの歓声の渦に、伴奏が飲み込まれてゆく。この熱気では無理もない、でもそれでいい。
「とくとその眼に!焼き付けなさぁいっ!」
私の歌が、この渦を握っちゃえばいいんだからねっ!
翌日は竜宮小町の収録があって、オフをとった美希がお礼と応援に顔を出してくれた。
「どうしてこんなになるまで黙ってるのーっ」
「うるさいわね、あんたと違って微熱の範囲内よ」
「デコちゃんが倒れちゃったらファンのみんながショックなんだよおっ」
「倒れてないし今からしっかり仕事してくるわよっ!」
昨日のアレで風邪をうつされた。元気になった美希はここぞとばかり、うれしそうに攻め立てる。
「うふふぅ。ねーデコちゃん」
「デコってゆーな」
「ミキ、デコちゃんたちの前座やってこよっか?」
「~~~~っ!」
ニヤニヤしながら見守るあずさと亜美の前で私は、さっき咥えさせられたエネルギーゼリーのパックを、美希に思いっきり投げつけた。
おわり
97:創る名無しに見る名無し
11/10/29 07:44:01.15 lSAi2d9S
デコちゃんもミキミキもかわいい
98:『赤・青・緑』
11/11/01 02:28:05.75 fqfbKJxP
「なきごえ・ほえる・たいあたり・とっしん?」
「確かにそんな感じかも」
ふと、僕らのイメージカラーの話をしていた時にそういえば、昔流行ったあのゲームの三色だねという流れになった。
で、今絵理ちゃんが言ったのは愛ちゃんがそのゲームに出てきたら使えそうなわざだ。
「ううーなんか馬鹿にされてる気がします」
うっ、見事にノーマルタイプのわざに偏っちゃったからなぁ。
「マシな方。涼さんは、がまん・こらえる・まもる・みずでっぽう」
「……うわぁ」
「いやまもるはおかしくない?」
「それを言ったら私のもほえるはおかしいですよ!」
「で、絵理ちゃんは?」
みずでっぽうに突っ込んだら負けるからとりあえず流そう。
「なみのり・からにこもる・でんじは・つるぎのまい?」
踊ってみても無駄、というか僕らに比べると強くないかな。
……あれ? このわざだと。
愛ちゃんが僕に勝って、僕が絵理ちゃんに勝って、絵理ちゃんが愛ちゃんに勝つ?
愛ちゃんのたいあたりは防ぎきれない。なみのりだけだとPPが足りない。威力差でごり押しの試合展開が見えた。
「やってみる?」
考えてるのがバレたのか声がかかる。って、うわパソコンで用意してある……というか、違法だよね?
しかも、絵は僕らのグラビアだし。
ちなみに絵理ちゃんに負けました。
つるぎのまいやからにこもるを使われるとは思わなかった……
逆に愛ちゃんにはがまんが決まって勝てた。現実も2ターン後に良いことあればいいけど……
なきごえを上げる愛ちゃんに『みずでっぽう』……いや、股の間がムズムズしちゃマズい。マニアックすぎるよ。
今は絵理ちゃん対愛ちゃんが対戦中。画面を見ると……
絵理ちゃん、なみのりしようよ。でんじはからのからにこもるとかしてないでさ!
愛ちゃんがかわいそうだよ!
99:1レスネタ『Allerseelen』
11/11/02 21:15:44.92 Ccrfmnoo
「あら、教会ね」
「ほんとだ、たまに通る道だが、気づかなかったな。これは……へえ、カトリックの教会か、
あまり見ないよな」
「ふうん……ちょうどいいわ、寄っていきましょう」
「えっ?」
収録帰りの道すがら、小さな教会を見つけた。伊織は手馴れた風に門をくぐり、前庭の
マリア像に一礼して聖堂へ入ってゆく。今の時間は人がいないようだが、俺も
見よう見まねで後ろをついていった。
「伊織、クリスチャンだったっけ?」
「違うわよ、知り合いには多いけどね」
立派な木の扉を開け、また一礼。無人だが灯がともり、一種独特な雰囲気に呑まれた。
伊織は中央の祭壇に向かってすたすたと歩を進め、真ん中あたりの席に着く。隣に
腰掛けて見ていると、やがて低く指を組んで目を閉じた。
要するにこの教会に、お祈りをするために立ち寄ったようだ。わけが解らないが止め立て
する状況ではないし、俺もここにいるとなんとなく清らかな気持ちになってくる。同じように
手を合わせて目をつぶり、少し考えて765プロの繁栄とアイドルたちの成功を祈った。
「ありがと、もういいわ」
数十秒ほどだろうか。伊織の用がすんだようだ。ゆっくり立ち上がる彼女に問いかけた。
「なあ伊織。今のは?」
「今日は11月2日よね。カトリックでは『万霊節』って言うの」
「『万聖節』なら聞いたことがあるぞ。ハロウィンのことだよな」
「ちょっと違うわね、まあ私もたまたま知ってるだけだけど」
伊織によると、万聖節は全世界の聖者のための日だそうだ。過去と未来の全ての聖人の
記念日。
「信教のために人生を捧げた人たちのために、信者が祈りを捧げる日なの。まあ、
キリスト教って1年中なにかしらの記念日で、そのたびにミサをしてるみたいだけどね」
「はは、それが仕事だもんな」
「英語では『オール・ハロウズ』、全ての聖なる者の日っていうわけ。ハロウィンは、その
イヴのことよ」
「ハロウズ・イヴって意味だったのか。それで、『万霊節』は?」
「万聖節の翌日、今日。この日は全ての死者のために祈りを捧げる日なのよね」
「全ての死者……ね」
「生きてる人たちが死んだ人たちのために祈ると、その人たちが天国で救われる日が早く
なるんですって」
思えば今年は、ずいぶん人が死んだ。よき者もそうとはゆかぬ者も、日本でも世界でも。
生きるものはいつか死ぬとは言え、これを実感させられた年であったとも言える。
「今朝出がけに、パパが教会に寄るって言ってたの。あの人も信心深い方ではないけど、
さすがに今年は神様に注文つけたかったみたいね」
あ、と思った。伊織の父親と、その無二の親友のことを。
「なんだよ、ずるいぞ伊織、先に言ってくれよ」
「あんたのことだから『宝くじが当たりますように』とかお願いしてたんじゃないの?にひひっ」
「失礼な。あたらずとも遠からずくらいにはなってたさ」
「どうだか」
「ま、確かに祈り足りなかった。ちょっと待っててくれ、追加で『そっちの事務所に合流する
のはだいぶ先になると思うから、スカウトはほどほどにしておいてください』って言ってくる」
「……頼むわね」
ドアをくぐる伊織を背中で見送り、もう一度中央の祭壇に目をやった。大きな十字架に、
神の御使いどのがよりそっている。
今開いた戸口から、庭の金木犀が強く香る。
伊織の父の親友、伊織をこの世界へ導いてくれた人物、俺をこの事務所へ迎えてくれた人物。
もう一度、指を合わせて目を閉じて、彼と全ての死者たちの幸せを、俺は改めて祈った。
おわり
100:創る名無しに見る名無し
11/11/08 13:37:28.86 pQ0LkLjy
>>99
社長…(涙)
作中で何気に言ってるけど、「ずいぶん」というのはもしや現実の春先に起こったあの震災のこともあるんでしょうかね?
101:創る名無しに見る名無し
11/11/08 20:41:29.27 1C+QEDvt
>>98
ハイパーボイスがない愛ちゃんとちょうのまいがない涼ちんなんて…
102:Wing gainer(1/2)
11/11/09 08:43:47.81 5v9sTGCf
コツはいくつかある。あるが、全てエッセンスは同じだ。「少し不安になる
くらい」、それが最大のポイント。
少し不安になるくらい、中火の上に置き放って。
少し不安になるくらい、たっぷりの油をなじませて。
少し不安になるくらい、粉を溶かした水を回して。
そして少し不安になるくらい、のんびりじっくりと蒸し焼きにするのだ。
黒い鍋肌に白い膜ができ、それがふつふつと泡を出し、やがて茶色く
焦げてゆく。
薄く見えるが小麦粉の皮は意外と頑丈だ。まして焼き固めるにつれ
丈夫になってゆく皮膜は、内側の具をほどよく煮込むまで充分な時間を
必要とする。家庭用コンロの中火は見た目以上に熱量が少なく、フライパンは
テフロン製、それに油をたんと含ませれば、昔の鉄鍋とは違ってそうそう
焦げ付くことはない。
そんな御託を並べているうちに、旨そうな餃子が焼き上がった。軽く返して、
焦げた面を上にして皿に並べる。
「ほい、お待たせ」
「わ、おいしそう」
「これは美しいですね」
「貴音の大手柄だな」
貴音の働きによる中華レストランチェーンのCM撮影、今日はその帰りに
生の餃子を山ほど土産にいただいた。
そこで事務所に居合わせた皆で食べようと、給茶室の小さなコンロが
大活躍していたところなのである。
「撮影時の表情ばかりでなく先方の社長さんと話している間も餃子の
皿から目を離さなかったんだ、評判がよければ次も、と約束までもらった」
「プロデューサー、そのような仰り様ではわたくしが常に空腹であるやに
聞こえます」
「あ、ああすまん。ディレクターも褒めてたもんだから、つい」
「うっうー!プロデューサー、ほんとのラーメン屋さんみたいです!」
料理のほうはどうやら及第点、アイドルたちにも好評のようだ。
「ふぁ、おコゲのところ、おいしいです!うちでお魚焦がしちゃったりすると
大ショックなのに」
「魚の皮と餃子の皮じゃ違うだろ。お好み焼きだって少し焦げてるくらいが
うまいよな」
「これ、『羽』って言うんですよね。やよい、これなんかチョウチョみたいだよ、
チョウチョ」
「おいおい、食い物で遊んでくれるな」
春香が楽しそうに箸でふるふると揺らすのを、さすがにたしなめた。
収録でもあるまいし職業病が過ぎるとは思うが、こういうのをこころよく
思わない視聴者も多い。
「どうせならお前たちが飛び立てるような羽を生やしてやりたいところ
だけどな、プロデューサーとしては」
「餃子の羽を?」
「わはは」
ド直球の返しに思わず頬が緩む。
「ほら、今の餃子もじっくりじっくり、時間をかけて焼きあがったろ?説明書にも
あるように、なんならレンジでチンでもおいしく出来上がる筈だよな」
春香の箸につままれたままの一包を指差し、続けた。
「そこを中火でゆっくり焼くことで、油が回り、香ばしい焦げ目ができて、見事な
羽を生み出した。おんなじように、お前たちをじっくりプロデュースすれば
きっと素敵な羽根ではばたいてくれるんじゃないか、ってな」
103:Wing gainer(2/2)
11/11/09 08:44:35.32 5v9sTGCf
「へー、なるほど。あむ」
しばらく手元を見つめ、やがて春香は一口で頬張った。さくさくと小気味よい
音、それから幸せそうな鼻声が聞こえる。
「じゃあ、プロデューサーさん」
ふうとひと息ついて、彼女が俺に微笑んだ。
「私たちのこともしっかりお料理、してくださいねっ」
「あ、あっ、じゃあわたしも、お料理してくださいっ!」
「わたくしからも、ぜひとも美味にお頼み申し上げます」
見目麗しいだけでなく、口も胃袋も達者な姫君たちは、大皿に盛った餃子を
どんどん平らげてゆく。それはもちろん構わないが俺もいささか空腹だし、
このままでは出来ばえの確認すら危うい。何はともあれ箸でひとつ取り上げた。
「どれ、俺もひとつ」
「あれっ?プロデューサーさんまだ食べてなかったんですか?すみません」
「いいんだよ、お前たちの分だし。ただ作り手としてちょっと味見をね」
醤油を慎重にひとたらし、まだ熱いだろうがそんなものにはかまわずに、
大きく口を開けてがぶりと頬張った。
「んぐ……」
焼き固めた皮と周囲に広がる羽が、さくり。
蒸し煮にされていた肉と野菜から汁が、じわり。
噛みしめるたびに旨味の湯気が喉から鼻腔に、ふわり。
「ふぅ。我ながらいい出来だ」
喉を通って溶け落ちるまでの道行きにすら味を感じる濃厚な滋味。しょせん
チェーン店と侮っていたが、これはこれなりによくできている。
時間に追われるあまり、実は久しぶりのあたたかい食事であった。自然と
二つ目に箸を伸ばしたその時、ふと気づいたのは俺を見つめるみんなの瞳。
「……ナンスカ?」
「プロデューサーさんって……すっごいおいしそうに食べますね」
「はわぁ、なんかわたし、お夕飯も餃子にしたくなりましたぁ」
「わたくしのレポート技術はまだまだでした。今の表情、勉強いたします」
自分で焼いた食い物に、どうやらとてつもなく気の抜けた顔をしていたようだ。
「えーっと、俺そんなに腹ペコの子供だった?いま」
「はっきり言って、見とれちゃいました」
一瞬で耳が熱くなる。それこそ、焼きたての餃子のように。
「ま……ま、まー、アレだな!お、俺の育成テクニックはそのくらいスゴイ
ってことだ。相手が餃子だろうがアイドルだろうがな!」
「えええ?私たちって、ほんとに餃子と一緒のテクニックでプロデュース
されてるんですかぁ?」
「さっきも言ったろ?基本は一緒なんだよ。まず今はじっくり育っていけ」
かくして。
「いつかお前たちにもいい羽がはえたら、俺が美味しく味わってやるからな!」
「……」
「……あれっ?」
「……ぷっ」
かくしてうろたえた俺が、なかばやけくそで言い放った言葉は……。
プロデューサーさんのえっちーっ、という大合唱で跳ね返されたのであった。
おわり
104: ◆zQem3.9.vI
11/11/12 11:10:47.60 PbZ+RX0H
>>102
ガチで餃子食べたくなってきました…(じゅる)後餃子の羽云々を二十ン年生きてきて
初めて知った私はアレでしょうか?
気分としては架空戦記とノベマスが合体したような感じで、
・テイルズオブザワールド×アイドルマスターのクロスオーバー
・響・貴音・ジュピターが961プロ在籍、でもプライベートでは765とも仲良し
・有能だけど空回ってる黒井社長
・前回とは違いテイルズ勢の出番まだナシ。
以上の条件に拒否反応がありましたらスルーして下さい。
105:TOWもどきim@s異聞 1
11/11/12 11:13:40.72 PbZ+RX0H
見上げていると呼吸が詰まりそうな鈍く重苦しい空模様から、針のように細く鋭い雨が容赦なく地上に降り注いでくる。
あまりの勢いに、窓にガムテープ張りされた社名もペラリと剥がれそうだった。
ソファへと座った天海春香は、ともすれば猫背になりそうな背筋をピンと伸ばしながら、一台の携帯を親の仇の如く睨みつけ――
――ぱか。パタン。ぱか。ぱたん。
液晶に映った人名に目を通し、その度にため息混じりに再び閉じる。
ため息の数だけ幸せが逃げるぞー、などと、オーディションの失敗をちょっとおどけながら励ましてくれた
プロデューサーの言葉が鮮やかに蘇る。
あの時は容赦なく『おじさん臭いですよー』なんて茶化していられたが、実際ため息を繰り返すその都度に、風船から抜ける空気みたいに
エネルギーがどこかへ逃げていくような心地がした。
・・・・・・ため息を止める方法なんてわかっている。問題の原因も自分にある。
「――だーっ!鬱陶しいからやめなさいっつの!」
怒髪天、という言葉が似つかわしかった。紅茶色の髪の先端が蛇みたいにうねりを見せているような錯覚を覚える程の凄まじい怒気。
水瀬伊織が令嬢らしからぬ大股で歩み寄り、柳眉をつり上がらせてにじり寄ってきていた。
「そういうのは一人の時にやりなさいよ!ただでさえこのクソ重い雨で気分晴れないのに、何なのよさっきから!」
「・・・・・・あ、ごめん伊織。いたんだ」
偽らざる本音をポロッとこぼしてしまった時――あ、マズイ。と、頭のどこかが警鐘を鳴らした。
「・・・・・・へえぇぇぇ。彼氏からのメール返信待ちみたいな散っ々人を苛つかせるようなパフォーマンスしてるような脳内花畑の乙女には、私のことなんて
ハナから眼中になかった訳ね」
「か、彼氏!?伊織ったら何言ってるのやだなぁ、プロデューサーさんはまだそんなんじゃ」
「誰がいつアイツの話を持ち出したのよそれに『まだ』って何!?・・・・・・って違う。
・・・・・・あんた、これ以上ふざけるようなら」
「――い、伊織ちゃん!?どーどー!」
給湯室でいそいそとお茶を入れていた音無小鳥が、煮えたぎったマグマにも似たオーラを纏い春香へと迫らんとしていた伊織を
後ろから羽交い締めにして取り押さえる。
「止めないでよ小鳥!この色ボケは多少キツめでも一撃喰らわせてやらないと延々このままになるわよ!」
このまま行けば伊織ちゃんパンチの一発でもお見舞いされるのは確定的に明らかな勢いだった。小鳥に牽制されながらも着実に
こちらに迫りつつある伊織に対し春香は苦し紛れに、
「だだだだからゴメンてば伊織!・・・・・・あーそうだ!今度のオフにやよいと一緒に雑貨屋さん巡りに行く約束してたんだけど、空いてたら一緒にどう!?」
起死回生、という心地で繰り出した切り札は、思いの外効果覿面だったらしい。ピタリ、と面白い位に暴れ出す手前だったそのモーションはストップした。
神様のの様よりもやよい様である。こと伊織に関しては。
「・・・・・・フ、フン。まあいいわ。・・・・・・私抜きで勝手に約束なんてしてたのはちょっといただけないけどね」
このところ事務所で顔を合わせる時間帯が重なっていなかったかもな、と今更ながらに思い出す。
根は寂しがり屋な伊織だ。何だったら一昔前の漫画みたく、当日になったら体調不良の一つでも装って二人きりにしてあげた方がいいかな、などとにべもないことを考える。
「まあそれはさておいて。・・・・・・アイツもそろそろ営業から帰って来るだろうし、メールが遅い位長い目で見てやりなさいよ?」
「へ?・・・・・・ああ」
ついつい苦笑いしてしまう。成る程、事務所メンバーの中で一番『彼』とのメールのやりとりが頻繁なのは自分だ。パカパカ携帯を開いていたら、
自然と『そっち』を連想するのは致し方ないのだろうけど。
「・・・・・・あのね・・・・・・」
106:TOWもどきim@s異聞 2
11/11/12 11:16:23.79 PbZ+RX0H
『で、俺にどうしろと?』
前方のフロントガラス及び、ハンドルに注意を払ったまま左手が高速とも呼べる動きで液晶に文字を踊らせる。返信。
やれやれと携帯を再び懐に仕舞おうとした矢先に再びブブブ・・・と鈍い震動がした。
『あんた今千早と営業中でしょ?ならそれとなく探りの一つでも入れられない?』
あの十数秒の間でよくもこれだけの文字を打ち込めたものだ。呆れながら感心しつつも、後部座席で座り込んでいる
如月千早の気難しげな顔をバックミラーで確認した。
『伊織が友達想いなのはよくわかったが、俺があれこれクチバシ挟まなくても解決するだろ。だって春香と千早だぞ?』
送信。するとまた殆ど間を置かないハイスピードのレスポンス。
『今の春香見てないからそんな台詞言えんのよ!「今度こそ嫌われたかなー」とか「このままだったらどうしよー」とか。
一旦口にしだしたらもうウザいの何のって。頭の横にリボンじゃなくて
キノコが生えててもおかしくなさそうだったわ!』
間断なく左右に動いているワイパーはともすればその内すっぽ抜けるのではという危惧すら
抱かせるせわしなさで、何処となく携帯の向こうの伊織の様子を連想させる。
元々は深窓の令嬢だったとはいえ、多少業界の波に揉まれて辛抱強さもついてきた(筈)の
彼女をしてここまで言わしめるのだから、恐らく相当な落ち込み様らしかった。
「・・・プロデューサー、さっきからどうしたんですか?頻繁にメールを打ってらっしゃるようですけれど」
「ああ、すまん。うるさかったか?」
「いえ、この雨に比べたら些細なものですけど」
うるさいことは取り立てて否定しないのが千早らしい。
「渋滞してるといっても、あまり気を取られすぎないで下さいね。運転中なんですから・・・」
シートベルトをしっかり装着しつつも、体をだらしなく背もたれに預けることなく、
ピンと背筋を正している凛とした佇まい。
別段いつもと変わらない。春香がそこまで沈んでいるなら、千早の方ももっとテンションに変化が現れている筈なのだが、と確信に近い形で思っている。
『で、その様子じゃ原因は春香の方にあるっぽいみたいな感じだけど、詳しい話は聞いたのか?』
『知らないわよ。それ以上のことツッコもうとするとますます勝手に沈んでうざったくなるんだもの、追求は諦めたわ』
・・・・・・何か、自分と喧嘩した時とかはそこまで沈まなかったような気がするんだがその事実に微妙な感傷を抱いてしまうのは筋違いだろうか。
しかし、春香本人が「自分に原因がある」と思っているなら問題はない気がする。前は双方譲らない緊迫した膠着状態の末、周りが仲裁に入らねばならなかったということもあったが、
彼女の方から折れれば話は丸く収まるだろう。心底から謝ればそれに応えないほど千早は意固地ではない――と思う。
(・・・・・・春香の方に軽く発破でもかけてやるか)
嘆息と共に、アドレス帳の一番上にある当の本人宛てに激励メールでも送ろうとした時――
――だんっ、だんっ!
「おーい、千早、プロデューサーッ!」
「っんなっ!?」
サイドガラスを勢いよく叩き、響いてくる威勢のいい声には覚えがあった。
ニカッ、とこぼれるような笑顔をたたえ、雨粒に塗れた窓の向こうで一人の少女が声高に存在を主張していた。
「が、我那覇さん?」
面食らいながらも慌てて窓を開ける千早に対し、この雨模様にも関わらず太陽を背負っていそうな程エネルギッシュなその少女――961プロ擁する
プロジェクトフェアリーの一員、我那覇響がアクアマリンの傘を片手に立っていた。歩道からガードレールへと乗り出して。
「もー、さっきから呼びかけてるのに全然気づいてくれなくて、自分寂しかったぞ?」
「あ、そうだったのかスマ――って違う!なに考えてんだ、ここ車道だぞ!?」
「ハム蔵を捜してここまで来たんだけど、ここら辺で見てないか?」
「い、いえ。・・・というか、見かける方が大変な気がするんだけど」
何せ掌ほどのサイズしかないハムスターだ。万が一にでも車道に出ていたらただじゃ済まないという危惧もあるが、あれで響のペットらは賢いのでこんな危険な
場所へ飛び出すような愚は犯さない気がする。
「・・・・・・えと、悪い。すまんが今回は捜すのつき合ってやれる時間がないんだが」
「べ、別に手伝ってもらおうとしてた訳じゃないぞー!それじゃ自分、いつもペット達捜す為じゃなきゃ声かけちゃいけないみたいじゃないか!」
「いや、そういう理由じゃなくてだな・・・」
チラチラと窓の外を窺ってみる。しかし、懸念していた『影』は一応気配を見せることはない。思わず胸を撫で下ろした時――
107:TOWもどきim@s異聞 2
11/11/12 11:21:15.58 PbZ+RX0H
「うぉいこら!そこの凡骨プロデューサーめ、また私のフェアリーちゃんにちょっかいかけよってからに!」
――巻き舌気味に因縁をふっかけてくる罵声に、がっくりうなだれフロントガラスに頭をぶつけた。彼女とかち合った時というのは、大
抵『アレ』もおまけというか金魚のフンよろしくついてくるのだから頭が痛い。
後部座席の千早も、あからさまに『面倒くさいのが来た』と言わんばかりの諦めの境地に至った表情で、ズカズカと車へ
近づいてくる人物に軽く会釈する。
「く、黒井社長。奇遇ですね・・・」
「そこから離れなさい響ちゃん!早く避難しないと、この陰湿な凡骨プロデューサーは響ちゃんが素直なのをいいことに挨拶代わりの
πタッチでも仕掛けかねない!」
恐ろしく人聞きの悪い台詞と共にツカツカと歩み寄ってくるのは、件の961プロ社長にしてテラコヤ・・・とにかく黒井崇男だった。
「あ、やっほー社長!いぬ美の方は見つかったのか?」
「ああ、マンションの方の管理人さんに頼んで部屋に送ってもらってって違う!いい加減765のアホ共と馴れ合うなと何度言えば・・・…!」
「あ、そうそう千早!この前借りたCDありがとなー!新しい振り付けの参考に出来そうだぞ!」
「そ、そう?私はダンスについてはまだ真や我那覇さんには及ばないから不安だったけど・・・参考になったなら何よりだわ」
――頭をかきむしる黒社長を脇に追いやって、和やかに会話を続ける(名目上は)ライバル同士のアイドル二人。
雄叫びを上げながら765(こちら)側への罵詈雑言を繰り出している社長に、忠告ついでに声をかけてやる。
「えーと黒井社長。そこまで大声張り上げると近所迷惑ですよ?ここ、一応公道ですから」
「・・・…はっ。き、貴様に言われる筋合いではないわ!」
ようやくマトモに相手をしてもらえそうな人に声をかけてもらえた嬉しさ故なのだろうか。怒っているような口調ながらも、
ちょっとだけ語尾が跳ね上がっている気がした。
(・・・・・・うん。この人はライバル事務所の社長、ライバル事務所の・・・・・・)
自分の胸に言い聞かせておく。この愉快なやり取りの中では忘れそうになるが、彼はプロジェクトフェアリーのみならず、
つい最近『ジュピター』なる男性アイドルユニットをも発表した歴としたやり手だ。やり手・・・・・・の筈。
もうアイドル達当人にとっては、オーディションの場所以外では宿敵同士だなどという設定は忘れ去られているに等しいようだが。
「あのー、ところで傘もさしてないみたいですけど大丈夫なんですか?風邪引きますよ」
「はっ!それこそ杞憂というもの。水も滴る何とやらというだろう、高木のような半隠居状態の老骨とは違うのだ、
この程度で風邪を引いたりは――」
「あれ、社長ー?さっき『はっ!いかん降りが酷くなってきたぞこれを使いなさい響ちゃん!昨今の風邪は侮れん!』って
この傘渡してくれたの社長じゃ――むぐっ」
「いいから帰るぞ響ちゃん!こんな男にいつまでもつき合ってたら、その内何処ぞの崖下へプチ遭難させられ動物番組の
司会を下ろされるという画策に陥れられかねん!」
・・・・・・何だろう、和む気持ちと『あんたが言うな』という気持ちとがせめぎ合っているような気がする。
黒井社長に強引に手を引かれてながらも、挨拶代わりに傘をブンブン振り回していた響が、そこで不意に何かを思い出したかのように、
「あ、そーだ千早ー!そろそろ春香のこと許してやれよー!?どんな頭にされたかは知らないけどさー、随分へこんでたぞー!」
思いがけない一言に、「え」と間抜けな呟きが唇からこぼれた。同時に、反射的に後ろの千早に視線を向けると、自分と似たような感じでその鋭い印象の瞳を見開いている。
・・・・・・とりあえず、あの発言を耳にして尚知らんぷりを決め込むのも不自然だ。一応何も知らないことにして、千早に確認を取ってみる。
「・・・・・・春香と何かあったのか?」
ここで『喧嘩の原因はそれか?』などと尋ねる失敗は犯さない。そもそも伊織の言う『仲違い』の前後の事情がわからないという点では、状況を把握しておく必要があるだろう。
「・・・・・・春香、ひょっとしてまだ気にしてたのかしら?」
おや、と軽く目を瞬かせる。伊織の言ったように怒っているというなら、多少眉をしかめるものかと思っていたが、むしろ千早の反応は思いも寄らないことを聞いた、
と言わんばかりにキョトンとしたものだった。
多少新鮮なその反応に幼さを見出しつつも、とりあえず躊躇いがちに続きを促してみる。
すると彼女は言い渋ることもなく、思い当たるという『心当たり』について語ってくれた。
108:TOWもどきim@s異聞 4
11/11/12 11:29:12.00 PbZ+RX0H
↑ 3でした。
「その・・・・・・三日前に少しうたた寝している間に少し、髪型をいじられたことがあって、その時少しばかり強い口調で叱責してしまったんです」
「・・・・・・アフロかドレッドにでもされたのか?」
「いえ、そういうものではなく・・・・・・まあ、ヘアカタログの雑誌とかに載ってる流行りもののような感じでしたね」
ふーん、と相づちを打って、その時――斜め上ほどに視線を馳せて、回想しているようなその仕草にピンと来た。
それはやよいが、通りがかった八百屋で半額セールス品として陳列されたもやしを見たそれにも似た。
「・・・・・・千早個人としては満更でもない感じだったのか?」
「なっ・・・・・・!」
どうやら図星だったらしい。目を見開いてこちらを見やった後、「くっ」といつものように口惜しげに顔を逸らした。
「何だ。額に肉と書かれたんだったらまだしも、それほど悪くない髪型にされたんだったらそんなに怒らなくても良かったんじゃないのか?」
むしろ仕事以外で、『着飾る』ということに対しあまり関心のないようだった千早の、年相応の少女らしい一面が見えて少し安心する。
「・・・・・・目が覚めた時、携帯で写真まで撮られてたんですよ?私がどう思うかというよりも、やはり一言言っておかないと」
「なら、充分反省してるみたいだしそろそろ許してやれば?」
「・・・・・・あの、その話なんですけど」
千早は改まった様子で居住まいを正すと、キッパリとした様子で告げてくる。
「許すも何も、私としては春香に一言言ってもう終わったつもりでいたんですけど」
「・・・・・・は!?」
思わず裏返ったような声で反復する。何の気負いもなく告げた千早の表情はそれこそ「何を今更」といった戸惑いの部分が多く滲んでいて、
少なくとも嘘をついたりしているようには見えなかった。
「いやだって。伊織の話じゃ何か近づき難い雰囲気で声かえても無反応だったって言うからまだ怒ってるのかと――」
「――ひょっとしなくても、さっきからのメールってそれですか」
――あ、しまった。
聞いていた話と大分違うとはいえ、つい言わなくてもいいことまで言ってしまった。
「最初のメールが来てから私の方をチラチラと見てるから、何かと思ったんですけど・・・・・・水瀬さんも人が好いというかお節介ですね」
苦笑混じりに呟く仕草にはとりあえず気分を害した様子はなくて、とりあえず軽くため息をついて改めて問いただしてみる。
「・・・・・・伊織から又聞きした程度のことなんだが、お前がまだ根に持ってるって思って結構参ってるみたいだったぞ?
・・・・・・まあ、連絡貰うまで気づかなかった俺が言っても、説得力はないかも知れないけどな」
「・・・・・・春香には別段普通に接していたつもりです。邪険にしたような覚えはないんですけど・・・・・・あ」
ふと、不自然に言葉を途切れさせた千早に訝しげな視線を送る。
「何だ、やっぱり心当たりがあるのか?」
「心当たりといいますか・・・・・・」
千早にしては珍しく歯切れが悪いというか、少々後ろめたいようなものが滲んだその表情。
「その翌日くらいから、役作りにのめり込んでいたので。ひょっとしたら誤解させてしまったかも知れません」
「・・・・・・へ、役作り?」
何の、と反射的に問い返してみると、千早は軽く目を瞬かせた後、次いで半眼になって回答をくれた。
「『硝子の剣』のことですよ」
「がら・・・・・・あー、そうかそうか!」
硝子の剣。脚本家から直々にオファーを貰い、千早が主役の座を勝ち取った時代劇企画のタイトルだった。
千早演じるヒロインはさる大身旗本の息女という身分に生まれながらも、謀略により没落に追い込まれ、天涯孤独となった
悲運の娘であり、流浪の末に剣客となった彼女は父を陥れた悪代官への復讐を誓うというそのストーリーだ。
千早は彼女にしては珍しく、わざとらしい唇を尖らせるような仕草を見せてから、
「・・・・・・忘れてたとは呆れますね。この間握り拳で役を取れたことを喜んでくれたのは、演技だったんですか?」
「い、いや違うぞ、断じて!」
脚本家は数々のヒットシリーズを打ち出してきた実力派とはいえ、正直ベッタベタ過ぎて視聴率が平均を切るのか若干不安という点もあるにはある。
が、現時点ではボーカル以外のキャリアが乏しい千早の、またとない飛躍のチャンスだ。喜ばない訳がない。
109:TOWもどきim@s異聞 5
11/11/12 11:34:37.78 PbZ+RX0H
「まあいいですけど。・・・・・・その、本題なんですけど……『背後に立たれたら即座に抜刀する癖がある』という役柄に則って台本を読み返していたら、
その時たまたま春香が後ろから声をかけてきたので・・・・・・」
ゴルゴ某も真っ青の、江戸時代とはいえちょっと日常生活に支障をきたしそうなそのヒロイン設定を思いだし、
苦い顔をしたのも一瞬で、慌ててあることに思い至って血相を変える。
「ちょっ、まさかバサリとやっちまったのか!?」
「・・・・・・撮影所でもないのにバサリと出来るような凶器を持ってると思ってるんですか?」
『大丈夫なのかこの人』という内心がビシバシと伝わってくる半眼に、
流石にグゥの音も出ずに押し黙る。
「けど、なりきり過ぎて周りが見えていなかったのは否めませんね。
つい必要以上に殺気立って払いのけてしまって・・・・・・」
「・・・・・・ああ、それでまだ怒ってると誤解してるのかも知れないと」
浮き沈みが激しいからな春香は、と内心苦笑する自分とは裏腹に、しかし千早は
どこかしおれた花を思わせるように沈んだ雰囲気を湛えていた。
「・・・・・・やけに暗い顔してるな、どうかしたのか?」
「いえ、その。・・・・・・そんな誤解をさせていたのに今まで気づけなかったのが、
春香に申し訳なく思えてしまって」
ともすれば、雨音の中にかき消えそうな程小さい声音。ハの字になった眉にはどこか、
叱られた子供の見せるしおれたような雰囲気が見える。
一度自分の懐の懐へ招き入れた人間には、誠実な態度を崩さないのが千早だ。そんな様子を身かね、
彼はコホンと一つ咳払いしつつ、
「――じゃ」
ふと見ると、いかにもそろそろといった緩やかなペースだが、前方の車がまた動き出していた。
軽くアクセルを踏んでから、
「営業が終わったら、千早のチョイスでケーキとか春香に差し入れでもしてやろうか」
弾かれたように顔を上げた千早の顔を、またミラー越しに確認する。運転を再開した今、
流石にそう何回も後ろを振り返る訳にはいかないので無理だけれど、もし叶うなら
頭を軽く撫でてやる位は出来たら、と思った。
「事務所でお茶の時間にそれ振る舞って話でもしてれば、春香ならきっと面白い位の
猛スピードで立ち直ると思うけどな」
「・・・・・・丸っきり子供扱いしてませんか?」
ほんのり。擬音にするならそんな風に綻んだ口元がミラーに映って、振り返れないのが残念だと思った。
「甘い物食べて幸せよとか歌でも言ってるだろ?それでも上手くいかなかったら、千早の方から遊ぶ約束でも
持ちかければ喜ぶんじゃないか?」
疑問形を装いつつも、どうしてもという時はそれで解決するだろうという確信に近い考えがあった。
春香の凹み具合がどの程度のものかはわからないけど、千早からお誘いをかけるなんて滅多にない『ご褒美』を
喜ばない筈はないだろう。何せ年の近い親友同士というよりも、
いっそ出来立てのカップルを思わせるような親密度の二人なのだから。
「・・・・・・春香の好みそうな所とかはお菓子屋さん位しか見当がつきませんが、努力してみます」
――うん、まあ大丈夫だろう。
ひとまず胸を撫で下ろし、次いで次の信号を左折してから、ふと思い至る。
「けど、いくら主役だからって珍しいよな。千早が演技にそこまでのめり込むなんて」
正直、主役を掴んだことを一応喜びはしたものの、役柄の詳細を聞いた時は少しばかり心配だった。
ヒロインの暗いバックボーンを若干違う形で反映しているように、千早――というか如月家の現状は決して明るくはない。流石に脚本家がそんなことまで把握している筈も
ないだろうが、それでもこの仕事が今後の千早のテンションを左右しかねないという僅かばかりの危惧はあった。
「・・・・・・役柄のことを気にされてるんでしたら、そんなお気遣いはいりませんよ?手を抜くなんて以ての外ですけど、だからって役に呑まれて自分を見失っては本末転倒ですから」
華奢な立ち姿に見合わないどっしりとした気構えが垣間見える発言に、
「そりゃ頼もしいな。・・・・・・けど、あんまり根を詰めすぎないでくれよ?何かお前の『本気』っていうと、それこそ寝る間も惜しんで
練習三昧みたいなイメージがあるからその内ぶっ倒れそうで怖い気もする」
「大丈夫ですよ、私も自分のペース配分は考えているつもりです」
ならいいんだが、と、一端話をそこで区切ることにして、再び運転に集中する。
何せこの豪雨だ、うっかり前方不注意でスリップ事故など起こしたら目も当てられない。
不安はまだ拭えないが本当に様にはなっていると思う。運動神経こそ真などには及ばないが、殺陣で見せた鮮やかなアクションは、
指導役も僅かばかり目を向いていた位だ。
110:TOWもどきim@s異聞 6
11/11/12 11:50:57.76 PbZ+RX0H
まあ、脚本に記してあったかは知らないが、技っぽいものまで叫ぶのはちょっとやり過ぎという
気もしたけど。
(ってか、『まじんけん』ってどういう字当てるんだ?)
……まあ、それこそ事務所のお茶会でいい話の種になるだろう。
そう思いながら、彼は降りしきる豪雨の中で再びハンドルを切った。
(あとがき)
まだもうちょっと続きます。黒井社長のところが一番書いてて楽しかったです、
アニメではホント悪役一直線なので……自分のイメージとしてはこういう社長が理想的。
111:創る名無しに見る名無し
11/11/15 17:48:57.39 AFQ08Z0l
>>103
よし、今晩は焼き餃子にしよう
112:創る名無しに見る名無し
11/11/16 02:10:07.54 uVQ3Cjw+
>>60
読んだ後の感覚が何かに似てるな~と思ったら、
キン肉マンでサンシャインマンが『悪魔超人にも友情はあるんじゃ~』
と叫んでアシュラマンの顔が全て泣き顔になるシーンを読んだときの感覚だわ。
113:創る名無しに見る名無し
11/11/17 00:16:51.79 FeyytXJt
身長190以上、武道は達人級、性格は穏やかだが目つきは鋭く不器用で口下手
そんな人間が雪歩のPになってしまい、
最初の頃はお互い話すのにも一苦労だったのが徐々に打ち解けてきて
後半になれば雪歩の方からPの事をちょっとからかったりわざと困らせたりしたりなんかして……
とかそんな事を妄想してるが傍から見てると割とアレな感じ
114:創る名無しに見る名無し
11/11/19 14:24:02.21 zvR32xfX
>>113
それは普通に連作SSやれるネタじゃないかw
115:創る名無しに見る名無し
11/11/19 14:34:21.96 VSpFIuAo
>>113
初対面
F
E
D
C
B
A
S
これでプロット作ってみてくれw
116:創る名無しに見る名無し
11/11/19 16:39:17.89 rtilv/HW
>>113
なんでそんな人がプロデューサー(しかも765プロ)になったのか、理由付けをどうしようか。
117:創る名無しに見る名無し
11/11/19 17:30:39.68 ySkon7n7
おいしい部分だけ妄想して満足したら、長い文章にする気分なんて消えてる法則
ソースは俺
118:創る名無しに見る名無し
11/11/20 01:06:41.78 dntbVddx
>>116
アケの存在を忘れたのかい?
道行く人を「ティンと来た」という理由でPにしてしまおうとする謎の黒い紳士のことを……
119:創る名無しに見る名無し
11/11/20 13:30:52.00 qehivql1
>身長190以上、武道は達人級、性格は穏やかだが目つきは鋭く不器用で口下手
萩原組にいそうなタイプですな
120:創る名無しに見る名無し
11/11/20 23:22:13.37 2wQgEYol
「ん~?」
「どうしたの真? 深刻な顔をして」
「これ、ボクの初期ステータスなんだけどさ……」
「歌が駄目ね」
「うっ、確かにそれはあるけど仕方ないかな、って」
「なら、何を悩んでいるの?」
「Viが低くない? 不本意だけど『王子様』なのにさ」
「……」
「……」
「このゲーム、プレーヤー層がほぼ男性よ」
121:創る名無しに見る名無し
11/11/21 17:49:52.77 E7YhRrBR
>>113
山崎ひろみPと聞いて
あ、武道の達人と目つき鋭くが若干外れるか
・・・じゃ、三溝幸宏P?
122:メグレス ◆gjBWM0nMpY
11/11/23 01:05:03.70 q2fFBCyQ
業務連絡ー、業務連絡ー。
>>103まで保管庫に収録しましたー。
1レスネタは多分◆G7K5eVJFx2様だと思うのですが、
もし違ってたらマズいので確認取れてから作者ページに追加したいと思います。
それから◆zQem3.9.vI様。>>105からのはタイトルというかナンバリングどうしましょう?
序章終わったので、1章○○話にするか、単に通しで○○話にするか、それとも他の何かにするか。
御自身で編集しても結構ですし、スレに書いて頂ければこちらで編集します。
123:創る名無しに見る名無し
11/11/23 01:10:20.56 q2fFBCyQ
もののついでに軽く1レスで。
>>115 A(もしくはS)ランクの一例
事務所に戻ると、プロデューサーがソファで居眠りをしていた。
デビューしたての頃と違って、今はひっきりなしに仕事が入ってくる。
そういった活動が出来るのはプロデューサーを始めとした表には出ないスタッフの助力があるからで、
当然その人達も自分と同じくらい、もしかしたらそれ以上に疲れは溜まっているのかもしれない。
そんな訳だから起こしてしまうのが気の毒に思えたからであって、
滅多に隙を見せる事の無いプロデューサーの寝顔をこの機会に観察してみようなんて思った訳では決してない。
少しずつ近くに寄ってみる。物語で言われてるみたいに寝顔だけはあどけないなんて事はなくて、
やっぱりいつも通り気難しい顔つきのままだったのがなんだか可笑しかった。
そういえば、初めて会った時はあまりにも怖くて穴を掘るより先に気絶してしまった事とか、
暫くは面と向かって話す事も出来なくて、同じ場所に居るのに携帯やメールで会話していた事を思い出すと
こんなに近くに居られる事がとても不思議な事に思えてしまう。
なんとなく、指を伸ばす。
頬に触れる。
まだ目を覚まさない。
顔を近づける。
自分が何をしようとしているのか解らない。
自分の意思が解らないまま体だけが動いて、
頬に軽く触れるだけのキスをした。
たっぷり10秒は硬直してから、自分がしでかしたコトの重大さに気づいて辺りを見回す。
大丈夫。誰も見ていない。
少しだけ安心して、これは自分だけの秘密にしておこうと固く固く決意したが、
やっぱりマトモにプロデューサーの顔を見られそうになかったのでそのまま外に出かけた。
数日後。
サインペンを持った双海姉妹が雪歩の元へ駆けてくる。
「ねーねー雪ぴょんからも言ってやってよー」
「え? どうしたの?」
「雪ぴょんの兄(C)だけ寝顔に落書きさせてくれないんだよー」
「他のPはみんな寝てる時でも、一人だけ近づいただけで目を覚ましちゃうんだもん」
「既に体に染み付いた習性だからな。自分ではどうする事もできん」
「それは凄い……けど、ちょっとだけ不便そうですね」
「気にする程の事でもない。もう慣れている」
そう会話を続けてはたと気づく。
ちょっと待って
今 なんて言った?
人が 近づくと 目を覚ます?
じゃあ
あの時は
もしかしなくても
ギ、ギ、ギと油の切れた機械のように首を回す。
どうしよう
目が
逢って
しまった
124:創る名無しに見る名無し
11/11/23 01:39:00.45 Yz05nls9
やばい にやにやがとまんねぇww
125:創る名無しに見る名無し
11/11/23 05:40:06.87 iBtUb/RN
>>123
俺の顔がたいそうキモくニヤついた 狸寝コンビめw
126:創る名無しに見る名無し
11/11/23 08:48:41.27 co4/0pJF
>>122
えっと、ここのところは書いてないですね。
多分、教会(ハロウィン)の話のことだと思いますけどアレは私ではないです。
というわけで、これだけで終わるのもアレなので以下小ネタ
半レス小ネタ『悩んだ結果が……』
もやもやするの。真くんとハニーがデートしたと聞いて思わず叫んじゃったけど、あの時ミキはどっちにしっとしていたんだろう。
考える。ハニーと一緒に遊園地。コーヒーカップに乗ったり、ソフトクリーム食べさせあったりするの。
考える。真くんと一緒に遊園地。ジェットコースターで抱きついたり、一緒にファンシーショップを見るの。
どっちがミキがやりたかったこと何だろう……
悩んでも仕方ないから来週は真くん、その次はハニーと遊園地に行こう。
「もしもし真くん? 来週の週末暇なの?」
127: ◆G7K5eVJFx2
11/11/23 09:08:53.86 co4/0pJF
あれ?
sage忘れ&トリ忘れ失礼しました
128: ◆l78cdu4x/o
11/11/27 10:09:08.64 Rs8QCI25
多分誰も待っていないだろう長編を投下しようと思います。
・テイルズオブザワールド×アイドルマスターのクロスオーバー
・文章に大いに厨二要素(多分)がある可能性大。
・テイルズサイドの世界設定が独自のもの。
以上の要素に抵抗及び拒否感を覚える方はスルー推奨。
129:TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編 7
11/11/27 10:12:17.27 Rs8QCI25
↑トリ入力を間違えました…(汗
降りしきる雨の中を早足で急ぐ人の群れの中。
一瞬誰もがそこに目を留めては、とりあえず何事もなかったかのように行き過ぎていく。
一見しただけだと、花屋の軒先なこともあって、まるでラフレシアばりに大きな花が満開になっているようにも錯覚出来たことだろう。
路上にしゃがみ込んだ少女の体を覆い隠しているパステルピンクの傘が、クルクルと床屋のサインポールばりに回っているのだから。
「・・・・・・あの、これ下さい!」
店先でかれこれ五分、唸りながら座り込んで陳列された鉢植えを眺めた末に、彼女は店員にそう言って、
柔らかな花弁を開かせた数輪の、名も知らぬ青い花の鉢を手に取った。
『散歩でもして気分転換でもしてきなさい』と伊織によって事務所から強制的に叩き出され、傘をくるくる回しながら
近所をうろついていたのがつい先程までのこと。
雨の醸す湿気にも負けない後ろ向きな心地で歩いていて、今日は雨靴でもないのに、とわずかに湿ってくる靴下の感触で殆ど
無意識に顔をしかめそうになった時、吸い込まれるような引力でその小さな花は彼女の目を惹いたのだ。
毎度ありがとうございました、と店員の笑顔に見送られながら、ビニール袋の中の花を見やる。深い海の底にも、高く晴れ渡った空のようにも見える青色。
頭の隅に思い浮かぶ彼女のシルエットそのままの。
渡す時には、さり気ないにこしたことはない。
(――千早ちゃんに似合いそうだから何となく買っちゃったんだ)
あくまで自然に、自然にと胸中で繰り返していると、何だか彼女への口説き文句みたいだな、とちょっと笑えてしまう。
これで花束だったら、真辺りが好みそうな少女漫画の世界だ。
一時は千早の趣味に合わせてクラシックかオペラのCDでも、という思いもあるにはあったが、もし曲調及び作曲者について
聞かれたら答えられるだけの知識がない。こと『音楽』という土俵では、千早に対し迂闊なプレゼントは禁物、という意識があった。
殆ど破れかぶれのチョイスだったが、何もしないよりマシだ。
(――けど)
風でゆらゆらと揺れる花びらの輪郭に、彼女の後ろ姿と颯爽となびく髪を見出しながら、脳がつい先日の鮮烈な光景を掘り起こす。
亜美や真美のそれに比べたら本当に些細な、イタズラにも満たないちょっとしたお遊びのつもりだった。
少なくとも、多少羽目を外しても許してもらえるものと無意識に信じ込んでいた。
穏やかにまどろんでいた、白い面差し。ぐっすりと彼女が寝入っているのを確認してから、すべらかで長く、
自分が伸ばしてもここまではいかないだろうと思わせる艶を放つ髪を編み終えるまで、春香は本当に気楽だった。
怒られることを全く考えてなかったなんて嘘になる。
ただ怒りはしても、一言二言注意してくるか、呆れてため息をつきながら小突いてくるか、それで終わりと気楽に構えすぎていた。
そんな決めつけにも似た考えは、ふと自分の手を彼女の瞼に翳した瞬間、粉々に吹き飛ばされることになったが。
一歩足を引かなければ、生ぬるい比喩抜きで鼻先を切り裂いていた。頭の端でそんな風に思うほど、振りあげられたその小さな
指先は刃のように鋭い勢いを伴っていて。
何よりも、その瞬間、それまで和やかに寝入っていた空気をあっさりと反転させたその表情こそ、春香に『打ちのめされる』という心地を味あわせた。
事務所で共に活動してはや数ヶ月、花が綻ぶように穏やかに見せてくれていた筈の親愛も何もかも消え失せ、向けられた眼差しは
心臓を片手で握られたような錯覚さえ覚えるほど冷えきって――
それ以来、気づけば正面から千早の顔を見ることすら何となく怖くなっていた。
だけど。
冷たく湿った空気に混じる車の排気ガスや、換気扇から漂う飲食店の雑多な芳香、それら全てを深く吸い込み、吐き出す。一緒に、
胸に溜まったしみったれた気持ちも綺麗に身体から排出出来たらと埒もないことを考えた。
どうして、とかあの程度、とか。過ぎてしまったこと、犯してしまったことの理由を考えてみたところで、最早どうにもならないだろう。
ただ今は、千早とちゃんと正面から話すこと。それを考えなければ始まらない。
もしまた、あの苛烈な眼差しをぶつけられ――拒絶されたらというIFは、やはり春香を怖じ気づかせる。
けど、だからといってこのままでいい訳もないと、ここに来てようやく彼女も腹を括った。
まずは話してみよう。そもそも、直接言葉で断絶を突きつけられた訳でもない内に、こんな風にいじいじ悩んでいるのは性に合わない。
130:TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編 8
11/11/27 10:13:58.36 Rs8QCI25
文字通り、打ちつける雨に頭を『冷やされた』お陰だろうか。多分、あのまま事務所でゴロゴロとのた打ち回っているままでは
不毛な一日のまま終わるところだったかも知れない。
(・・・・・・伊織に感謝、かな)
今頃うさちゃんを片手にくしゃみをしているかも知れない彼女の姿を思い浮かべると、沈鬱な心境も忘れてクスリと口の端がつり上がった。
雨のせいもあってか、周りの空気もふるりと肌寒さを増したいる気がする。
そろそろいい頃合いだし、早く事務所へ戻ろうか――そう考え、帽子で喩えると『目深に』掲げていた傘をほんの少しばかり上げると、
視界がほんの少しばかり開けた。
今にして思えば、タイミングは、それこそ図ったようだった。
苛立ち紛れに力を込めたブレーキを踏み、乱雑な扱いをされたタイヤが耳障りな悲鳴を上げながら、車はその場所、
双海総合病院の前に横付け停車された。平時であれば決してしないような不作法を、自覚しない程彼も彼女も気が急いていた。
これ以上ない程青ざめながら、後部座席の千早の手を強引に取ってそのまま車を降りた。入り口まで殆ど目と鼻の先だったとはいえ、
傘もささずに飛び出した二人の身体を
容赦なく冷たい雨が叩く。さっきまで呑気に眺めていたこの曇天も雨模様も、さっきの連絡を受けた後では
それこそ不吉の前兆としか思えなくなっていた。
水滴を飛び散らしながら院内へ飛び込んできた、スーツ姿の男と少女という取り合わせに怪訝な顔を向ける患者や職員達の姿に
構うこともなく、必死に目的の人物の姿を捜した。
首元から手首に至るまでをブルーと白のストライプのシャツで包んだ、跳ねたおさげ髪が特徴の後ろ姿が、
こちらに背を向けて腕を組んで立っている。
「律子っ!?」
院内のささやかな喧噪を突き抜けた呼びかけに振り向いた秋月律子は、その先にあった担当プロデューサーと
同僚アイドルの有様に目を剥いた。
「ちょっ・・・・・・何て格好してんですかプロデューサーっ!?それに千早までっ」
突然の大声によりびっしりと集められた注目に辟易した様子を見せながらも、律子はとりあえず両者の手を強引に取って、
非常口付近――人気の少ない場所を見定めてズンズン進んでいった。
それから疲れたように重いため息をこぼした時、
「・・・・・・思ったよりも早く着いてくれたのは助かりましたけど。亜美達のご実家とはいえ、目立つようなことはやめて下さいよ」
「――あのなぁ!」
報告を受けたのなら、何でそうも落ち着いていられるのか。焦燥と共に吐き出そうとした言葉を遮ったのは、それまで静かに俯いていた千早だった。
「春香は、春香の容態はっ!?」
身を切られんばかりに震えながらも、鬼気迫る気迫が伝わってくる問いかけだった。最も知りたかった、気がかりだったことを
先んじて訴えられたプロデューサーの声が、掠れるように萎む。ともすれば、さっきのエントランス周辺にも少しは届いていたのではと
思わせる声量を発した当の千早は、真っ直ぐに律子を視線で射抜きながらも、プロデューサーのスーツの裾を握りしめて小刻みに肩を震わせていた。
――そんな二人のただならぬ様子を見て、しばし呆気に取られたように目を瞬かせていた律子は、
やがて頭を片手でかきむしりながら、一言こう発した。
「・・・・・・担がれた訳ね、二人とも」
嫌な想像ばかりがリアルに頭を過ぎっていた。集中治療室に運び込まれたか、もしくは定期的かつ不吉なメロディを
奏でる心電図の傍で痛々しい程の数のチューブに繋がれながら、ベッドに横たわっているか。
しかし一足先に着いていた律子の落ち着き払った態度のみならず、廊下でかち合った親御さんからの実に朗らかな
『ご迷惑をおかけして・・・』という言葉が来た日には、流石に引いていた血の気も冷静さも戻ってくる訳で。
131:TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編 9
11/11/27 10:15:22.67 Rs8QCI25
そして、案内された病室で実際の有様を目の当たりにした時、二人は途端に脱力感でヘナヘナとくずれ落ちた。
布団の下から、ゆるやかに上下する胸部と、ふにゃふにゃと唇を変に波打たせて、時折「うへへへ・・・・・・」と
妙なにやけ面を披露して寝返りを打っている姿。
尋ねるまでもなく、彼らの想像していたような惨事になど至ってはいなかった。
途端、ジワジワとこみ上げてくるさっきまで自分達が晒していた醜態への羞恥に悶えていると、枕元に立っていた『元凶』から
呆れたような声が投げかけられた。
「・・・・・・ちょっと、あんた達何よその格好?身体位拭きなさいよね」
――おい伊織さん、あんたさっきまでしゃくりあげるみたいな鼻声で『春香が・・・・・・春香が車に・・・・・・っ』とか言っとらんかったか?
恨みがましい視線を向けてくる彼の、そんな内心に気づいたのかまでは定かではないが、伊織は先手を打つようなタイミングで、
「春香が車に『風で飛ばされた傘を潰されて、回収しようと走ったらコケてガードレールに頭ぶつけて気絶した』から
病院に運ばれたって言おうとしてたのよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・それで、改めて聞きますけど・・・・・・春香の容態は?」
平静を装いながらも、やはり若干怒りや羞恥を滲ませた千早が、低い声音で問うてくる。
心なしか、周囲の空気にもビリビリとした電流めいた剣呑さが漂ってくるようだった。
伊織と同じく春香に付き添っていた小鳥が、そんな彼女の様子に若干冷や汗を掻きながら、
「ぶつけたのが頭だって聞いたので一時は肝を冷やしましたけど、脳検査も異常はないそうです。結構寝入っちゃってますけど・・・・・・
先生の見立てだと軽い睡眠不足によるところが大きいだろう、と話してたので、心配はいりませんよ」
――今度こそ、プロデューサーと千早。両者の肩から力が抜けていった。
「・・・・・・伊織、頼むからこういう悪ふざけはやめてくれないか?」
「悪ふざけのつもりはないわよ。・・・・・・あ、それと千早」
伊織はスタスタと未だ険しい顔を向ける千早の視線を物ともせずに近寄っていくと、ズイッ、と一つのビニール袋を差し出した。
「これ、鉢は割れちゃってるけどあんた宛のカードが添えてあったから。貰っておけば?」
吐息にも似た「え」、という間の抜けた響きが、ほんの少し耳朶に触れたような気がした。
今更確かめようもなかったが、とりあえず千早はその張りつめていた雰囲気を若干緩和させたような――或いは伊織の言葉に面食らったような感じで、
ズイッと差し出されたビニール袋を受け取った。
横合いから覗き込む。土台となる鉢は少し割れてしまったが、誰もが知っている『千早の色』が凛然と咲いていた。
「値札見てみるけど、結構自腹切ったみたいだし。・・・・・・ここいらで許してあげたら?」
さり気なさを装いつつも、後半で若干調子を窺うように上がったトーンで、ちょっとピンと来た。
こちらとは違い、まだ喧嘩の詳しい経緯を知らない伊織のことだ。春香視点での情報だけを頼りに推測してみて、意志の固いというか
頑迷なところのある千早に、かなり乱暴ではあるが軽く発破をかける意味でああいった言い方をしたのだろう。
千早の方も、担がれたことへの怒りはどこへやら、少しばかり戸惑ったような顔つきで花びらに触れている。
一応病室に『鉢植え』は、と余計な茶々を入れそうにもなったが、贈る相手が患者でないならばノーカンということに
してもいいだろう、と呑み込んでおくことにした。
「・・・・・・春香のフォローのつもりなのか知らないけど、水瀬さん。・・・・・・次からはもう少しやり方を選んでもらえないかしら」
疲労しきってはいるが、呟く言葉にさっきまでの険や緊迫感はなかった。
「ほ、ホントだぞ伊織。・・・・・・ていうか、電話の時ホントに鼻づまりしてるみたいな声だったけど、風邪でも引いてるのか?」
「あ、それはですね。・・・・・・反対したんですけど臨場感を出したいから、ということで私が黒胡椒を」
「そこ、余計なこと言わないっ!」
――さっきまでの、それまでの全部が失われそうな、形のない危機感や焦燥に怯える空気は微塵もなくなっていた。
そうなれば、場所が病院でも一気に『いつもの765プロ』へと早変わりする。
「交通事故」というキーワードをダシに使われたにも等しい千早は、とりあえずもうそんなに引きずった様子はない。
そんな姿を見て、それまで勝手にドギマギしていた気持ちが、またも勝手にホッと収束する。
幼い頃に彼女やその家族を見舞った悲劇について、事務所内で知っているのが自分だけである分仕方ないのだろうけど。