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765プロの事務所にはアコースティックギターが一本だけ置いてある。
メーカーなんて全然わからない、安物なのか稀少な物なのかの判別さえつかない古ぼけたギター。
時々、双海姉妹や春香が適当にかき鳴らしたりして律子に呆れられたり怒られたりしている。
そんなギターだがしっかりと定期的なメンテナンスはされていて、
それはつまり社内にギターが弾ける人物が居るという事の証明に他ならないのだが、誰もその人物を探そうとはしない。
あるいは知っている人は知っているのかも知れないが、本人が言わないのなら別にそれで良いという事なのかもしれない。
*
「只今戻りました」
誰も居ない事務所に声をかけながら手探りで電気を点ける。
歌番組の収録が終わり、スタジオから戻ってきた如月千早とその担当プロデューサーである。
スタジオからそのまま直帰でも構わないようにスケジュールを組んでいたが、少しだけ予定を変えてここへ戻ってきた。
あることをするために。
彼がごく当たり前のようにギターを持って手近な椅子に座れば、千早はその正面に位置を取る。
幾度となく繰り返されたように。
話は暫く前に遡る。