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「へー、なるほど。あむ」
しばらく手元を見つめ、やがて春香は一口で頬張った。さくさくと小気味よい
音、それから幸せそうな鼻声が聞こえる。
「じゃあ、プロデューサーさん」
ふうとひと息ついて、彼女が俺に微笑んだ。
「私たちのこともしっかりお料理、してくださいねっ」
「あ、あっ、じゃあわたしも、お料理してくださいっ!」
「わたくしからも、ぜひとも美味にお頼み申し上げます」
見目麗しいだけでなく、口も胃袋も達者な姫君たちは、大皿に盛った餃子を
どんどん平らげてゆく。それはもちろん構わないが俺もいささか空腹だし、
このままでは出来ばえの確認すら危うい。何はともあれ箸でひとつ取り上げた。
「どれ、俺もひとつ」
「あれっ?プロデューサーさんまだ食べてなかったんですか?すみません」
「いいんだよ、お前たちの分だし。ただ作り手としてちょっと味見をね」
醤油を慎重にひとたらし、まだ熱いだろうがそんなものにはかまわずに、
大きく口を開けてがぶりと頬張った。
「んぐ……」
焼き固めた皮と周囲に広がる羽が、さくり。
蒸し煮にされていた肉と野菜から汁が、じわり。
噛みしめるたびに旨味の湯気が喉から鼻腔に、ふわり。
「ふぅ。我ながらいい出来だ」
喉を通って溶け落ちるまでの道行きにすら味を感じる濃厚な滋味。しょせん
チェーン店と侮っていたが、これはこれなりによくできている。
時間に追われるあまり、実は久しぶりのあたたかい食事であった。自然と
二つ目に箸を伸ばしたその時、ふと気づいたのは俺を見つめるみんなの瞳。
「……ナンスカ?」
「プロデューサーさんって……すっごいおいしそうに食べますね」
「はわぁ、なんかわたし、お夕飯も餃子にしたくなりましたぁ」
「わたくしのレポート技術はまだまだでした。今の表情、勉強いたします」
自分で焼いた食い物に、どうやらとてつもなく気の抜けた顔をしていたようだ。
「えーっと、俺そんなに腹ペコの子供だった?いま」
「はっきり言って、見とれちゃいました」
一瞬で耳が熱くなる。それこそ、焼きたての餃子のように。
「ま……ま、まー、アレだな!お、俺の育成テクニックはそのくらいスゴイ
ってことだ。相手が餃子だろうがアイドルだろうがな!」
「えええ?私たちって、ほんとに餃子と一緒のテクニックでプロデュース
されてるんですかぁ?」
「さっきも言ったろ?基本は一緒なんだよ。まず今はじっくり育っていけ」
かくして。
「いつかお前たちにもいい羽がはえたら、俺が美味しく味わってやるからな!」
「……」
「……あれっ?」
「……ぷっ」
かくしてうろたえた俺が、なかばやけくそで言い放った言葉は……。
プロデューサーさんのえっちーっ、という大合唱で跳ね返されたのであった。
おわり