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【編纂】日本鬼子さん五「鬼子は鬼子、俺は俺だ」
八の一
「あー! こにぽん、私のプリン食べたでしょ!」
般にゃーの座学を受けていると、隣の部屋で鬼子の悲鳴が聞こえた。
「たーべてないよー!」
「ほっぺに付いてるカラメルはなんですかっ?」
いつもこの調子だから、もう慣れたもんだ。
でも、鬼子は変わった。
鬼手枡を祓い、大量の団子をお土産に持って帰ったあの日から、鬼子は明るくなった。
本来のおしとやかさを残しつつ、田中の明るさを写し取ったような、そんな感じだ。
「わんこ、聞いてるの?」
般にゃーの一言で現実に引き戻された。
「ふふ、鬼子のことでいっぱいなのね」
「ち、違う!」
まるで想い人のように言うもんだからつい反抗してしまった。般にゃーはしめたとばかりに勝ち誇った笑みを浮かべる。
「いいわ、今日の講義はこれで終わり。甘えてらっしゃい」
「あま……す、するかそんなもん!」
なんで甘えなくちゃいけないんだ。
確かに鬼子たちの部屋に行こうとしてはいるが、これは鬼子と小日本の仲裁に入るためであって、決して甘えるためではない。
最近、鬼子は田中の住む世界に行ってばかりいる。俺たちといる時間より田中といる時間の方が多いような気もする。
「もう、あのプリン、せっかく田中さんがくれたのに……」
まあまあ、喧嘩はよせよ。よし、襖を開けたら、穏やかにそう言おう。
そんなことを思って、引き手に指をかけ、引いたそのときだった。
「ねねさまなんて、きらい!」
俺の脇を小日本がくぐり抜け、部屋を横切る。
「お、おい小日本! どこ行くんだよ!」
土間に下りた小日本が応じるわけもなく、外へ飛び出してしまった。
あいつがこんなことで家を飛び出すなんて初めてだ。
というか、何に腹を立てて出てっちまったんだ。怒られたからなのか? それとも、そういう年頃なのか?
「早く追いかけねえと」
ともかく、このまま紅葉林を抜けられたら危ない。いたずら好きな神がそこらかしこで待ち受けてるんだから。
「わんこ、様子見てきてくれる?」
「おう! 任せとけ!」
意気込んで身だしなみを整える。待ってろ小日本、必ずお前を連れだしてやるからな。
「……って、鬼子は追いかけねえのかよ!」
思わず場の空気に流されそうになった。なんで第三者の俺が行かなくちゃいけないんだよ。
「私は……」
鬼子が口ごもる。そうなったら、もう言わなくても分かった。
「心の鬼祓いか。向こうの世界で」
しばしの沈黙ののち、鬼子は頷いた。
思わずため息が出る。小日本が逃げ出した理由が分かったからだ。
「祓うのは別に構わねえけどさ、小日本のことも、ちゃんと構ってやれよ。あいつには鬼子しかいないんだから」
小日本を包み込んでくれる存在は鬼子だが、鬼子を包み込んでくれる存在はどこにもいない。
今まで一人であがき続けてきたんだから、今の小日本の気持ちだって分かるだろ。
「……はい」
鬼子を説教するなんて不思議な感覚だ。でも最近の鬼子は、変なところで抜けてしまっている。目覚ましには丁度いいだろう
「小日本は俺が連れてかえしてやるから、鬼子はそのときの言葉を考えとけよ」
そう言って、俺は玄関を出た。