【鬼子たんの】鬼子Lovers【二次創作です】at MITEMITE
【鬼子たんの】鬼子Lovers【二次創作です】 - 暇つぶし2ch200:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:07:05.32 WSKtUM8t
   八の四

「でも……」
 躊躇する日本さんはやっぱり日本さんらしくなかった。
「だってさ、アタシの中にいた鬼、祓ってくれたじゃん。それきっと、すごいことだと思うよ」
 まるでガラスの針に触れるようにおそるおそるモノゴトに触れながらも、
決して立ち止まらずに歩き続けるのが、アタシの中の彼女だった。

「だからってさ」
 日本さんの手を、そっと握りしめた。
「一人で全部抱え込まなくたって、いいんじゃない?」
 ヤイカガシの言ってたことがよぎる。

 ―ぼくには鬼子さんの隣に立つことはできなかったけど、きっと田中さんなら並んで歩けると思う。

 ヤイカガシは日本さんの荷を負いきれなかったのかもしれない。神さまであるヤイカガシですら。
 いつから鬼を祓い続けているのは分かんないけど、今に至るまでずっと、日本さんはたった一人で志を守り抜いていたんだ。
その途方もない力の源は、一体何なのか。その源は今もなお枯れずに湧いているのか。
「だから、アタシも何か力になれたらなーって思ってたりしちゃうワケですよ」
 その「何か」がなんなんのか、自分でも分からない。
というか、それが分からなかったから、ヤイカガシも鬼子さんを支えることができずに終わってしまったんだと思う。

「田中さんて、人の心を読む能力、持ってますよね?」
「ないないないない、なにその中二病設定」
「……チューニビョーセッテー?」
「うんごめん、なんでもないんだ」
 沈黙が続いた。夏ってのはセミの鳴き声みたいにどこまでも続いているようで、入道雲は日射しを受けて濃淡を作っていた。
アイスなんて舐めても涼しくなれるわけないのに、どうして人はアイスを舐め続けるのだろう。

「私、田中さんと出会えただけで嬉しんです」
 アイス論が茹だる頭で展開されかけたそのとき、日本さんが小さな声を漏らした。
「そんなこと言ってくださる人、他にいませんでしたから」
 ヤイカガシ、君は日本さんのために何をしたんだ。カウント入れられてないぞ。
「もし田中さんと会ってなかったら、私、心が折れてました」
「そんな、大ゲサだよ」
 うん、大ゲサだ。アタシは神か仏か何かか。
「いいえ。田中さんがいてくれるだけで、私たちは本当に救われてるんですよ。ね、こにぽん」
「うん!」
 と、こにぽんが大きく頷いた。そこまでリアクションを取られると、もう日本さんの言葉を信じるしかないような気がする。

「あ、おだんごー!」
 こにぽんが髪を揺らす。その先には明治四年創業と謳われた老舗和菓子店があった。
こにぽんの眼がきらきらと輝きだし、アタシたちを置いて駆けだした。
「あ、こにぽん待って! 急ぐと危な―」
「ひゃあ!」
 時すでに遅し。走るこにぽんがケータイを操りながら歩く壮年男性にぶつかってしまった。
「いてえな、このガキが」
 口、悪いな……。
 というか、児童レベルの子に接する態度じゃない。
「ご、ごめんな、さい」
 こにぽんはすっかり怯えきってしまった。
「君、保護者どこ?」
「ごめんなさい……」
「いいから保護者どこ?」
 無感情の事務的な冷たさがアタシにまで伝わる。うん、こいつはトラウマできるね。

201:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:08:58.37 WSKtUM8t
   八の五

「私が保護者です」
 こにぽんの両肩に手を添え、日本さんは果敢にも壮年を見遣った。アタシは普段の慣習から一歩も動けずにいた。
「あのさあ、ガキが騒がしいとさあ、周りが迷惑になるんだわ」
 最近の親はよお、なんにも分かってねえんだよな、視野が狭いっつーのうんぬんかんぬん。
ケータイをぶらぶらさせたり、間延びした口調でぼやいたりするのはわざと怒りを買うようにしているのだろう。
「親がガキなら子もガキガキガキ。こいつぁ日本も終わりだな」
「すみません」
「あーあーあーあー、謝ることしか能がねーとか。ったく、これだからガキはよお」
 うわあ、大人げない。こりゃ嫌な人とぶつかっちゃったな。
 というか、こにぽんのやわらかタックル喰らっただけで激怒する人もいるんだな。世間って広いよ。アタシだったらご褒美なのに。

「あの、本当にすみませんでした」
 歩く人たちは中年の怒鳴り声に反応して一瞥するけど、心持ちはみんな同じで、
完全にモブキャラとか、通行人ABCD……として舞台の袖へと去っていった。浦島太郎も電車男もいやしない。
 そりゃ自分だってこの場をスルーしたい。面倒事は極力避けるのが現代人の生きる知恵だし、アタシは主人公って役じゃないもん。
 でも、日本さんはこういうトラブルの対処なんて何一つとして分かっちゃいないと思う。
「あの、私、何でもしますから!」
 言わんこっちゃない。そんなこと言ったら奴の思うツボじゃないか! 中年オヤジはにやりと片側の口角を上げた。

 こういうガラじゃないけど、致し方ない。
「ケータイいじりながら道歩いてる誰かさんも、能がないような気がするんだよなー」
 だから、聞えよがしに独り言をぼやいてみせた。
「……あン?」
 案の定、矛先がこっちに向けられた。
「お前、何こいつの肩持っちゃってんの?」
 あらまあ視野がお狭いようで。
恐縮にございますが、事が起こる前からこの場におりました田中匠、そこにいる二人の友達でございます。
 うん、思った以上に喰いついてくれた。

「つーかさー、最近イラついてんだわ。ウゼー上司とウゼーバイトにサンドイッチされちゃってんの。
おまけに今日はウゼー親子とウゼーゆとりだよ。マジでなんなの? ふざけんのも大概にしろよテメエ!」
 ギャ、逆ギレかよ! いきなり唾飛ばしながら怒鳴られたよ! マジでなんなのはこっちのセリフだよ!
 こりゃもう戦略的撤退が最善というか、それしか残ってないように思われる。
「日本さん、こにぽん」
 二人にだけ聞こえるよう囁き、彼女らの手を取る。

 そして、一目散に逃げ―られなかった。
 キレオヤジに押さえられたワケじゃない。日本さんの動かざること山のごとし。紅の着物を着た彼女が動じなかったんだ。

「これは心の鬼の仕業です」
「え、ちょ、こんな人、どこにだっているじゃん!」
 何をどう思ってそう決定されたんだよ。ワケが分かんないよ!
「こに、田中さんをお願いします」
「はい!」
 しかも、アタシは守られる側かい! こんなちっこい子に守られるなんて思わなかった。
 いや、まあ戦いの経験があるんだろうから……って、それつまりこにぽんも日本さんと一緒に鬼と戦ってるってことなの?

「こそこそ話しやがって。いい加減にしろよ!」
 顔面真赤にさせてほざく男に、鬼子さんは般若のお面を自らの顔にかざした。

 あのときと同じだ。アタシの心に鬼が宿ってしまった、あのときと。
 男が悶絶する。当時のアタシと同様に、胸を押さえ一歩、二歩と後ずさる。そして彼に憑いていた心の鬼が離脱した。

202:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:11:13.30 WSKtUM8t
   八の六

「キテマス! キテマス!」
 うわ、なんか元郵便局員で手品とかやっちゃいそうな黒ずくめサングラスの芸名が本名の逆さ読みしてそうな心の鬼が出たよ!
なにこの第二のユンゲラー事件勃発させる気満々の鬼は! 唯一の違いはおでこから飛び出た二つの角だけだよ!
 つか、心の鬼ってどこか抜けてるところあるよね。まだ二体しか見てないから確信めいたことは分からんけど。
「日本さん! 早くやらないと色々ヤバいよ!」
 このままじゃあ、色んな意味で消されるぞ! と思って彼女の背中に声援を送った。
 すると日本さんは―日本さんはなんと、敵に背を向け、目を大きく見開いてアタシを見た。
 「しまった」と顔に書いてある。

「キテマスッ!」
 鬼の手から『怒』の字の刻まれたハンドパワー、もとい波動弾が発射された。
背を向ける日本さんに直撃する直前、光弾は鈴の音と共に桜の花びらとなって散った。
「えへへー」
 こにぽんがにこりと笑い、手に持つ鈴をりりんと揺らした。こにぽんが守ってくれたのか?
奇想天外の連続に頭の整理が追い付かない。

「おい、見ろよあれ」「なんだ、特撮か?」「3Dもここまで来たか……」「チゲーよ、イリュージョンだよ」「修羅場なう」
 ざわめきがざわめきを呼び、外野が騒がしくなる。いまやアタシたちの半径二十メートルに野次馬たちの輪ができていた。
 なあ観客さん、これ冗談でなく危ないと思いますよ……?

「日本さん、さっきの攻撃、喰らったらどうなんの?」
 心の鬼がハンドにパワーを溜めている。けど日本さんはアタシたちの前に立ち、奴を睨みつけるだけで薙刀を出そうとはしなかった。
「怪我はしないと思いますが、鬼の性質上、怒りっぽくなると思います」
「それヤバいじゃないっすか!」
 うん、あの攻撃を『反対に怒りだす力』という意味を込めて反怒(ハンド)パワーと命名しよう。
そんであの鬼の名前はその姿と台詞と反怒パワーを手から発射するから鬼手枡(きてます)にしようか。

 って、そんなのんきでいられるか!
「日本さん! どうして戦ってくれないのさ!」
 心の鬼が再び攻撃をするも、こにぽんのチートな謎防御によって無力化される。鈴を持つこにぽんの額から汗が滲んでいる。
暑さのせいもあるだろうが、結界みたいのを作るのに何らかの力を使うのは間違いないだろう。
 こんな消耗戦じゃきっと勝てっこない。

「キテマス!」
「……いんです」
 鬼手枡の一撃で日本さんの言葉が掻き消されてしまった。
「え?」
 長い髪をなびかせ、彼女は振り返った。

「怖いんです! 私の中成に……戦う姿になったのを見たら、田中さんきっと怖がります!」

 それは、意外な答えだった。

「私は、人間じゃないんです。異形の存在です。
その違いを知ってしまったら、きっともう今までのように私を見ることなんて、できないです」

 日本さんは鬼の子だ。今は帽子をかぶってるから見えないけど、その中には確かに鬼手枡の角と同じものがある。
 鬼ってのは人を襲い、苦しませ、痛みつける。そういう恐るべき姿、人間を苦しませるあらゆるものを具現化した存在だ。
 般にゃーを般若姿のOLだと勘違いしたように、戦う姿の日本さんを恐怖の対象として見てしまうかもしれない。

 それでも、アタシは―
「なーんだ、そんなこと気にしてたの?」
 そうやって、暗雲を笑って吹っ飛ばすことができた。

203:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:15:20.64 WSKtUM8t
   八の七

 波動が注ぐ中、アタシは妙に落ち着いていられた。
いつこにぽんが限界に来るかもわからないのに、どうしてこう穏やかにいられるんだろう。
「簡単に言わないでください! 私は、私は―」
「かわいいなあ、日本さんってば」

「えっ……」
 自ずと口から出てきた「かわいい」という一言だったけど、
それはたぶん、日本さんにとってはずっとずっと大きな意味を持っていたんだと、あとで思った。
「じゃあさ、なんで鬼からアタシを救ってくれたのさ」
「そ、それは田中さんが脅したから」
 そうだったっけ? でも今は当時を振り返る必要なんてない。
「アタシはさ、人の見方って変わっていいと思うんだ」
 日本さんの「中成」とやらの姿を見て、日本さんの印象がプラスになるのかマイナスになるのか、
もしくはゼロのまんま変わんないのかなんて、分かりっこない。
「極悪非道だと思ってた悪者がさ、実はめちゃくちゃいい奴で、株が急上昇ってこと、よくあるじゃん?
そういうバトルもん、アタシにとっちゃあご馳走っすよ」
 多分こんな話をしたって日本さんの頭上にハテナマークが浮かぶだけで終わりだろう。でも人と人の関係って、そーゆーもんでしょ。
第一印象から二転三転四転するのが当たり前なんだよ。衝撃が来て、動揺して、それから少しずつ消化して……。
そういうのを経て、親友になれたらいいな―なんてね。
「あの、私ってやっぱり極悪非道に見えますか?」
「いやいやいやいや! 違う、違うって! 例えだからね、例え!」
 うん、説教じみたこと言うからこうなるんだ。

「とにかく、アタシはキャラに深みが増していくのは素晴らしいことだと思うわけ。
日本さんにとっては見せたくないことでも、アタシにとっては新鮮で、カッコいいことに見えるかもしれないじゃん。それとも―」
 反怒パワーが炸裂し、花びらになる。
「ねねさま、もう疲れちゃったよぅ」
 こにぽんの声。
 アタシはちょっとだけいたずらっぽく笑ってみせた。
「日本さんが退治してくれるのは、アタシに憑いた心の鬼限定なのかな?」

「……私が助けるのは」
 大風が吹き荒れ、どこからともなく紅葉が舞い上がる。本能的な恐怖に鳥肌が総立ちになった。
日本さんの角が伸び、麦わら帽子を八つ裂きにする。さよなら、アタシの二九八○円。
 風に躍る紅葉が集約し、まがまがしい薙刀が姿を現した。
 そして、日本さんは隈取の内に燃やす紅の眼差しをちらりと向け、言った。
「鬼たちに苦しむ、人々です!」

 日本鬼子は、風を薙いで地面を蹴った。物理法則無視の初速度。
「キテマス!」
 鬼手枡の波動を両断すると、それは紅の葉となり舞い上がる。野次馬たちの拍手が大いに湧きおこる。
日本さんはそのまま心の鬼との間合いを詰め―

「萌え散れ!」

 まるで居合演舞を見ているようだった。鬼手枡にはメの字の斬れ込みがなされていた。
 血振りをし、石突でアスファルトを叩くと、心の鬼は数多の紅葉に生まれ変わり、上昇気流に乗って大空へと消えた。
 通行人たちのテンションは最高潮に達し、英雄日本鬼子の元へと駆けだした。
 アタシたちにとって、鬼の角は単なる装飾に過ぎなかった。
「カッコいい……」
 心の言葉が洩れ出る。日本さんの戸惑いぶりを見ながら苦笑し、アタシも日本さんの元へと駆け寄った。

204:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:19:22.57 WSKtUM8t
   八の八

「田中さん、今日、本当に楽しかったです」
 別れ際の祖霊社で、日本さんはまだ興奮冷めやまぬといった様子だった一方、こにぽんはくたくたに疲れ果てており、
日本さんの背で寝息を立てている。アタシたちを懸命に守ってくれたんだ。今日のMVPはこの隠れた英雄さんに渡したい。

 あのあと野次馬の収集を付けるのに結構な時間がかかってしまった。
特に日本さんへの質問責め(手品のタネを教えろが大半)に苦労した。
アタシの言い訳スキルが足りなかったら日付が変わってたと思う。警察事にもならず、日暮れ前に済ませられたのは奇跡といえよう。

 それから鬼手枡に憑かれたあの中年男性が全力で謝りにきた。
今回の騒動は職場の人間関係にイライラを糧に心の鬼が育ち、暴走した結果会社をクビにされた矢先の出来事だったようだ。
団子をたくさん買ってくれ、平謝りをしまくってたけど、
心の鬼に憑かれた経験のあるアタシとしては、彼に何かしてあげたい衝動に駆られていた。

 心の鬼は人生をかるーく台無しにさせる力がある。
全ての鬼がそうじゃないとは思うけど、一般的にイメージするような金棒持ってブンブン振り回す鬼なんかよりずっと残酷極まりない。

 彼が最後に言った言葉を思い出す。
「色々事情があるようだから、君たちのことについては何も訊かないよ。
でも、これだけは言わせてくれ。君たちのこと、絶対に忘れない。ありがとう」
 何もしてないアタシですらグッとくるものがあったんだから、日本さんはもっとずっと心を揺れ動かされたに違いない。
 大粒の涙をぼろぼろと流し、日本さんは子どもみたいにしゃくりあげ、おぼつかない言葉遣いで、
「私こそ、これ以上嬉しいことはありません」と言った。

「あの、あの! また来ていいですか?」
 それからずっとこの調子だ。
アタシが日本さんトコの世界を気に入ったように、日本さんもこの世界を気に入ってくれたみたいだった。
「いつでもおいでよ。今度はおごれないと思うけど」
「大丈夫です。心の鬼、たくさん祓いましょう!」
 好戦的すぎるぜ、日本さん!

 そうして、また会う約束をした日本さんとこにぽんは元の世界へと戻っていった。
 すごく疲れたけど、心は満ち足りていた。


 でもね、これで ハッピーエンドじゃないんだ。それどころか、エピソード・ワンはまだ始まってすらいない。

 アタシはただ浮かれてただけだった。
日本さんの弾けるような笑顔はアタシが作ってやったんだぞって、きっと心のどこかで思ってたんだろうね。

 まだアタシは日本さんの身にまとわりついて離れない、悲しい宿命ってのを知らなかったんだ。
 だって、アタシはまだ日本さんのこと、ちっとも知らないんだから。

 ただの人間。

 日本さんを見知ってるただの人間という立場に、変わりはなかった。

205:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 21:02:08.84 WSKtUM8t
>>194
索引お疲れ様です。
これからもっともっと鬼子さんの世界が深まっていったらいいですね。

206:創る名無しに見る名無し
11/08/27 00:05:36.14 wPwfazWQ
wwww慶事に金色のキモノwwwやっぱりキタwwwwてか、よりにもよって今回の心の鬼はコレかよ!

207:創る名無しに見る名無し
11/08/27 19:56:59.01 yQWEaCEN
「キテマス!」


208:創る名無しに見る名無し
11/08/29 14:41:09.00 GkOwYxBv
「クンナ!」

209:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/30 00:26:17.01 kZX9C3x4
毎度毎度、ありがとうございます……励みの言葉って格別ですよ。
本当に嬉しいです。こればっかしはどんな言葉を用いても表しきれません。

>>206
これをなしに鬼子さんは描けまい、というわけでリスペクトさせていただきました。
毎回心の鬼はwikiから適当に漁って、魅かれたものをチョイスしています。
しかし、心の鬼やら鬼子いろは歌留多やら、wikiはインスピレーション・ファームですよ、ええ。

>>207 >>208
「だが断る! 反怒パワー!」

210:創る名無しに見る名無し
11/08/30 14:28:16.94 nMyPAxVL
>>202
田中サン、相変わらずのメタ発言w ホントにただの一般人か?そのウチ直至の魔眼とか開眼しないだろうなw
直至の魔眼:元ネタを直接見通す能力。世界を終わらせる魔王・チョサクケーンを呼び寄せる危険を孕む。

211:panneau ◆RwxKkfTs..
11/08/30 18:31:09.50 V3eFSJPy
再構築できた感じなので、告知。

鬼子SSスレ作品まとめ
URLリンク(lepanneaunoir.web.fc2.com)
URLリンク(lepanneaunoir.web.fc2.com) IE用
URLリンク(lepanneaunoir.web.fc2.com) atomフィード
URLリンク(jbbs.livedoor.jp) 連絡先

以前との変更点は
・ソースをdatに変更
・「作品を中央に寄せる」スィッチ追加


IE、うぜぇ~~~

212:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/31 12:04:24.78 YGAPmZt+
>>211
お疲れ様です。
次スレ、次々スレのほうの整備もありがとうございます。

>>210
直至の魔眼w
開眼させられるようにがんばりm(ry



意地でも月曜日に【編纂】の五話を投下したいのですが、
現状ではなんとも言えませんね……。
今日中に初稿が仕上がったら安心なんですが。

213:創る名無しに見る名無し
11/09/01 00:02:28.91 9o+IEAfK
>>212
>開眼させられるようにがんばりm(ry
ダメー!開眼させちゃだめーーー!!

214:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/05 00:01:05.25 z4TX5jYS
  謳はれる UTAU鬼子の 歌の音に 歌麻呂魅入る 歌へざるほど
【訳】うああああ、やべえええ、もう何も考えられないよ!

お久しぶりです、UTAU鬼子のCDを求めはるばる池袋まで行ってきました、歌麻呂です。
その場で歌を作ろうと思ったんですが、それどころじゃありませんでした。

えー、お知らせが三つあります。
まず、前回26日(金)に更新した「【編纂】日本鬼子さん四」の誤字についてです。
冒頭
  「ひっのもっとさーん、あっそびーましょー、石っこ手合わせいっただっきまーす」
   さすがに『いただきます』の合言葉だけだと不憫だから序詞的なものを付けて紛らわしてみた。
この「いっただっきまーす」「いただきます」ですが、
正確には「ごっちそっさまー」「ごちそうさま」でした。
誤字というか私の誤解でした。申し訳ございません……。

二つ目に、「【編纂】日本鬼子さん五」についてです。
先程脱稿しました。遅筆で申し訳ないです。
ひとまずこのまま>>196の通り明日月曜日に投下してもいいのですが、
熟成も推敲も満足にできないまま投下しても苦笑しか頂けないと思いますので、
九月十日(土)に投下しようと思います。ご了承ください。

最後に、五話投下後についてですが、しばらく連載をとめて、執筆に専念しようかと思います。
ひとまず二~四週間ほど執筆期間を設けて、
三話分ほど余裕を持たせてから再開したほうが良質なものを提供できると思いますので。

うーん、まだまだ精進ですね……。

215:panneau ◆RwxKkfTs..
11/09/05 12:13:53.67 IxCRJJk+
要らんかもしれんがとりあえず貼っとくか。

枕詞逆引辞典
URLリンク(shokenro.jp)

216:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:33:52.37 AwmqVElA
「行くならこにぽんも連れてってやりなさい」
「……って、俺留守番かよ!」
「えへへー」
「退治してくれるのは、アタシに憑いた心の鬼限定なのかな?」
「―私が助けるのは、鬼たちに苦しむ、人々です!」
「絶対に忘れない。ありがとう」
 彼ら彼女ら鬼の子ら、大きな変動乗り越えて、どこへゆこうか明日ゆくか。

TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 スレリンク(mitemite板:80-83番)
一話 スレリンク(mitemite板:89-99番)
二話 スレリンク(mitemite板:128-139番)
三話 スレリンク(mitemite板:176-185番)
四話 スレリンク(mitemite板:196-204番)

これから更新に余裕を持たせるため、しばし連載を停止します。
次回の更新は二週間後~四週間後の火曜日を予定しています。
ご了承ください。

217:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:36:06.57 AwmqVElA
【編纂】日本鬼子さん五「鬼子は鬼子、俺は俺だ」
   八の一

「あー! こにぽん、私のプリン食べたでしょ!」
 般にゃーの座学を受けていると、隣の部屋で鬼子の悲鳴が聞こえた。
「たーべてないよー!」
「ほっぺに付いてるカラメルはなんですかっ?」
 いつもこの調子だから、もう慣れたもんだ。

 でも、鬼子は変わった。
 鬼手枡を祓い、大量の団子をお土産に持って帰ったあの日から、鬼子は明るくなった。
本来のおしとやかさを残しつつ、田中の明るさを写し取ったような、そんな感じだ。

「わんこ、聞いてるの?」
 般にゃーの一言で現実に引き戻された。
「ふふ、鬼子のことでいっぱいなのね」
「ち、違う!」
 まるで想い人のように言うもんだからつい反抗してしまった。般にゃーはしめたとばかりに勝ち誇った笑みを浮かべる。
「いいわ、今日の講義はこれで終わり。甘えてらっしゃい」
「あま……す、するかそんなもん!」
 なんで甘えなくちゃいけないんだ。
確かに鬼子たちの部屋に行こうとしてはいるが、これは鬼子と小日本の仲裁に入るためであって、決して甘えるためではない。

 最近、鬼子は田中の住む世界に行ってばかりいる。俺たちといる時間より田中といる時間の方が多いような気もする。
「もう、あのプリン、せっかく田中さんがくれたのに……」
 まあまあ、喧嘩はよせよ。よし、襖を開けたら、穏やかにそう言おう。
そんなことを思って、引き手に指をかけ、引いたそのときだった。

「ねねさまなんて、きらい!」
 俺の脇を小日本がくぐり抜け、部屋を横切る。
「お、おい小日本! どこ行くんだよ!」
 土間に下りた小日本が応じるわけもなく、外へ飛び出してしまった。
 あいつがこんなことで家を飛び出すなんて初めてだ。
というか、何に腹を立てて出てっちまったんだ。怒られたからなのか? それとも、そういう年頃なのか?
「早く追いかけねえと」
 ともかく、このまま紅葉林を抜けられたら危ない。いたずら好きな神がそこらかしこで待ち受けてるんだから。
「わんこ、様子見てきてくれる?」
「おう! 任せとけ!」
 意気込んで身だしなみを整える。待ってろ小日本、必ずお前を連れだしてやるからな。

「……って、鬼子は追いかけねえのかよ!」
 思わず場の空気に流されそうになった。なんで第三者の俺が行かなくちゃいけないんだよ。
「私は……」
 鬼子が口ごもる。そうなったら、もう言わなくても分かった。

「心の鬼祓いか。向こうの世界で」
 しばしの沈黙ののち、鬼子は頷いた。
 思わずため息が出る。小日本が逃げ出した理由が分かったからだ。
「祓うのは別に構わねえけどさ、小日本のことも、ちゃんと構ってやれよ。あいつには鬼子しかいないんだから」
 小日本を包み込んでくれる存在は鬼子だが、鬼子を包み込んでくれる存在はどこにもいない。
今まで一人であがき続けてきたんだから、今の小日本の気持ちだって分かるだろ。
「……はい」
 鬼子を説教するなんて不思議な感覚だ。でも最近の鬼子は、変なところで抜けてしまっている。目覚ましには丁度いいだろう
「小日本は俺が連れてかえしてやるから、鬼子はそのときの言葉を考えとけよ」
 そう言って、俺は玄関を出た。

218:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:37:01.97 AwmqVElA
   八の二

   φ

 天候、晴れ。風向き、北西からの微風あり。
現在鬼子さん、こにさんは朝食の後片付けを、わんこと般にゃーは鬼に関する講義中との情報。
朝ごはん前に洗われた洗濯物はまだ生乾きの状態にある。
 パンツ狩りにはこれ以上ないほど恵まれている機会だ。
 物干し竿に掛かった鬼子さんのパンツを目の前にし、触れる前にまず鼻を近付ける。
人間はなんと素晴らしいものを発明したのだろう。神さまだって偶像を崇拝したくなることくらいある。
洗いたてではあるが、かすかに鬼子さんが残っている。鬼子さんが穿いていたんだ。鬼子さんの一部を形成していたんだ。
純白に輝く真珠の温もりに触れる。繋がる。今、ぼくと鬼子さんは繋がっているといっても過言じゃない。
なぜなら、パンツは体の一部なんだから。それからおもむろにそれを頭にかぶせる。窮極的な合体だ。
鬼子さんがぼくの頭を締めつけている。絶頂だ。僕は絶頂に達しようとしていた。

「ねねさまなんて、きらい!」
 カタルシスの寸前、小屋からの悲鳴じみた大声に、全ては現実に帰した。
 気付かれたか? いや―まて、焦るな。鬼子さんの姿も、わんこの姿もない。つまり半殺しにされる危険もないってことだ。
 小屋からこにさんが飛び出てきた。僕のことは目もくれず、林の方へ走ってるのが見えた。
 最近、山に住む神さまや鬼たちたちのいたずらの度が過ぎているような気がしてならない。
こにさんが襲われたら大変だ。経験的に危機を感じた僕は、こにさんを追いかけた。
「どこへ行くんだい?」
 紅葉の支配する領域でこにさんに追い付いた。楓と楓の狭間から神々の巣窟である原生林が見え隠れしている。
 びくりと体を緊張させたこにさんは、ほんの少しだけ足を止めるけど、すぐに逃げ出そうとする。とっさに彼女の細い手首を掴んだ。
 これで、わんこに言い訳ができなくなるな、なんてことを片隅で思うも、すぐにその思いは爆ぜ失せた。

 こにさんが泣いている。目も頬も真っ赤にさせ、大粒の涙を垂れ流しにし、呼吸ができないほどしゃくりあげている。
「ヤイカちゃんは……」
 じっくり七秒かけて、僕の名を紡ぐ。
「こにのこと、連れてかえそうとしてるの?」
 なぜそんなことを訊かれるのか、詳しい事情は知らないけど、ある程度推察するくらいはできる。
「家出、するつもりなのかい?」
 こにさんがぼくのようすを窺いながら、ゆっくりと頷いた。そこからは嘆願の視線を感じられる。
 こにさんの成長を応援したいぼくとしては、家出はさせてあげたいところだった。というか、こにさんの好きにさせてあげたかった。
「向こうは、危ないところなんだよ?」
 でも、リスクを考慮するとそれは難しい。ぼくが付いていけば多少の鬼払いにはなるだろうけど、それだって高が知れている。
 それでもこにさんは大きく頷くだけで、頑なな意志を曲げようとはしなかった。
「それでも、行くのかい?」
 頷く。しゃくりを耳にして、ぼくは困り果てた。鬼子さん譲りの頑固さで、こうなると絶対に譲ろうとはしない。

「話は聞かせてもらったぞ、お二人さんよぉ」
 その声は―顔を上げる。
 紅葉の枝の上に、ヒワイドリ君が立っていた。よかった、ヒワイドリ君がいれば大丈夫だ、なんて根拠のない確信を抱く自分がいる。
 とう、と声を出して枯葉の地面に着地すると、白い羽をぴしりとこにさんに指した。
「嬢ちゃん、家出がしてえんだってな」
「うん……」
 こにさんの涙も、少しずつ引いてきている。ヒワイドリはいたずらするときの笑みを浮かべた。

「オレたちだけが知ってる秘密基地、教えてやろうか?」
 ヒワイドリ君がぼくに目配せする。オレたち『だけ』という秘匿感。秘密基地、という童心を震わせる響き。
教えてやろうか、という隠密さは冒険の予感をにおわせる。そして同時に、安全性もないがしろにしない心配り。
 こにさんは一瞬にして泣きやみ、涙で輝いた瞳から熱い視線をぼくの友人に向けた。
「うん、こに知りたい!」
 あんなぐしゅぐしゅだったこにさんを笑顔にさせるヒワイドリ君の天性に、ぼくは脱帽する。
 こりゃ、あとで乳の話を語ってあげないといけないね。

219:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:37:38.49 AwmqVElA
   八の三

 基地までの道のりは、信じられないほど穏やかなものだった。鬼はおろか、神さまも、獣も姿を現さなかった。
遠くの方で狼の雄叫びが聞こえたけど、ぼくらを襲うことはなかった。意気地のない狼もいたもんだ。
 ぼくらの秘密基地に辿り着いた。崖をくりぬいて作った洞窟がそれだ。苔生した巌で洞窟を塞いでいる。
ぼくとヒワイドリ君と、この地で知り合った三人の心の鬼とで作った語り場だ。
こにさんにはまだ早い場所だけど、荒ぶる神がうろついている今日この頃、秘密基地はここ一体で二番目に安全な場所だといえる。

「オレだ、入れさせろ」
 ヒワイドリ君が乱暴に巌を叩く。
「これはこれはヒワイドリ卿、合言葉を言いたまえ」
 洞窟から反響する声が聞こえる。
「分かってんなら言う必要ねえだろうがよ」
「何を言うか。君をヒワイドリ卿に酷似した化物と見なしても良いのだぞ」
「あーはいはい、わあったよ。『父上、桃色のパンツ』」
 ぶっきらぼうに答える。ぼくもヒワイドリ君の気持ちはよく分かる。
わざわざよわっちいぼくたちの秘密基地を荒らそうなどと思う鬼や神さまなんて、どこを探したっていやしないんだから。
 無駄に壮大な音を立てて、大岩が動く。そもそもこの巌だって必要あるのかも疑わしい。
地鳴りじみた起動音で妖怪がやってきたらどうするんだって思う。

「ようこそ、我が秘密基地へ」
 我がっていうか、我らが秘密基地でしょ、と心の片隅で呟く。洞窟の入口でこげ茶色の大鳥が出迎えてくれた。
ヒワイドリ君より一回り大きくて、その声はハイカラって言葉が似合う紳士の声だった。
 彼はぼくとヒワイドリ君を交互に見て、それから間に挟まれたこにさんを凝視する。
「そちらの小さな淑女はどちら様かね?」
「おお、紹介するぜ。オメエら、新しい仲間だ」
 ヒワイドリ君の一声で、洞窟の奥から心の鬼が二匹現れる。
一匹は若葉色の小さな鳥で、ハイカラな茶色い大鳥の半分程の体長しかない。
もう一方は抹茶色のカエルで、ぼくと同じくらいの背丈を持っている。

「小日本ですっ! こにって呼んでね!」
 自分を紹介したくてたまらなかったのか、こにさんはぴょこんと浴衣を揺らしてお辞儀した。
礼儀正しいというか、ぼくらにとってのご褒美というか。
しかし初めて会った心の鬼にも臆しないこにさんは、見た目以上に肝っ玉が据わってるのかもしれない。
「ほう、なかなかよい名であるな。私はチチメンチョウだ」
「よろしくね、メンちゃん!」
 思わず失笑してしまった。
上品で教養があって礼儀正しい男チチメンチョウさんが「ちゃん」呼ばわりされるだなんて、誰が想像しただろうか。

 チチメンさんはわざとらしく咳払いをする。
「こに君、君の成長には期待しているよ。その胸に大志を抱いて精進したまえ」
 チチメンチョウさんは、一見穏やかな様子を醸し出しているけど、身ぐるみを剥がすとそこには巨乳原理主義者の面相を見せる。
今のだって、胸の成長を遠まわしに祈願しているんだ。

「先生! それは間違ってます!」
 小さな鳥が待ったをかけた。身なりは小さいものの、声は澄んでてはつらつとしていた。
「小日本さんはそのまま成長してくれればそれでいい! その胸だって、この手に収まるくらいで充分だ!
わざわざ大きくなる必要なんてない!」
「チチドリ君、淑女を前に騒ぐとは品がないとは思わんかね?」
「あ、すみません、先生」
 チチドリ君は無乳貧乳の大人が大好きな心の鬼だ。
極論ばかり言うのはちょっと困るけど、チチメンチョウさんを先生を慕っているからか、とても礼儀正しくて優しい。
 巨乳派のチチメンさんと貧乳派のチチドリ君、それから両乳派のヒワイドリ君は、乳を愛し、敬い、語り尽くす三鳥だ。
ぼくから言わせてみれば、巨乳も貧乳も変わらないと思うんだけど、三人にとっては大きな違いがあるらしかった。

220:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:38:13.70 AwmqVElA
   八の四

「チチドリちゃん、こに、おっきくなったらいけないの?」
 こにさんが疑問を投げかける。
「なに、気になさらずとも結構」
 その返答は、チチドリさんよりチチメンチョウさんのほうが早かった。
「こに君の胸は大きくならねばならぬ理由があるのだ。幼女の胸は皆平たい。
それはその小さな胸に明日への希望という名の種が植わっているからなのだよ」
「小さい子の胸が小さいのは当然です、先生」
「なんだね、その無粋な言い方は」
「無粋も何も、僕はただ真実を述べたまでです。真実ほど美しいものはありません」
「真実だけで未来は語れまい。こに君の将来もまた然り」
 特にこの師弟は暇があれば乳についての熱い議論を交わしている。ぼくらと出会う前からこの習慣は続いているらしい。
 二人には呆れるときもあれば、関心することもある。今みたいに、こにさんに構わず論を展開しちゃうのは呆れるけど、
一方でチチメンさんの知識の層には感服する。自他共に紳士と認める理由の一つだ。もちろんもう一つの理由は変態だからだけど。
そんなチチメンさんに喰いつくチチドリ君の姿勢もまた敬意を表したかったりする。

「オマエが小日本か」
 討議に置いてけぼりになったこにさんのもとに、抹茶色の蛙が寄り添ってきた。
「うん、カエルさんの名前は?」
 こにさんは首を傾げて尋ねる。
「……ふむ」
 吟味するようにこにさんのある一点、浴衣から覗かせる細い腿に視線を注がせている。
「いい、太ももだな」

「ひゃぅっ」
 まずい、と思ったときにはもう遅かった。
カエル―正式名称モモサワガエル―がこにさんのやわい太ももに手を差し伸べてしまった。
「なにしてんだモモサワァ!」
 三つ鳥の蹴りがモモサワ君に直撃し、彼は洞窟の奥にまで吹き飛んだ。
「テメェ、オレたちの条例を忘れたとは言わせねえぞ」
「幼女に抱くは誠意のみ。性意を抱くはこれすなわち罪悪なり」
「モモサワは直接的なんだ! 間接的な魅力を分かってない!」
 みんな紳士を自称することだけはあった。そんな三者からモモサワ君はいつも散々に叩かれる。

「こに君、心に怪我はないかね?」
 紳士的に振る舞うチチメンさんがこにさんの前でひざまずいた。
「こには平気だよ。でも、カエルさんがかわいそう」
「……天使だ」
 モモサワ君がわざとらしくよよと崩れ、泣きだした。
 こにさんの、自分のことよりもまず他人の心配をする姿が、鬼子さんのそれと重なる。
「その慈悲、よもや、こに君はかの鬼子嬢と面識があるのかね?」
 それは初対面のチチメンさんも感じたのだろう。というか、ぼくとヒワイドリ君がこにさんを連れてきたところで勘付いてたと思う。

「ねねさまはねねさまだよ!」
「鬼子はこにの目標にしてる人だもんな!」
 ヒワイドリ君は、きっと無意識に、いや誇りを持ってそう言ったに違いない。
「それはいけない。鬼子さんの胸は大きすぎるんだ!」
 でも、今のこにさんにとって、それはあまりにも重すぎる一言だったんじゃないかと思う。
「チチドリくん、いい加減犯罪者予備軍みたいな戯言はよしたまえ」
 こにさんの顔が曇りだす。
「は、はい、先生、気を付けます……」
 こにさんの変化に気付いたのは、ぼくだけだった。

221:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:38:43.92 AwmqVElA
   八の五

「こには、こには……」
 幼い声が震え、小さな肩が震えだす。そして、こにさんは泣きだした。ふええ、ふええと、混沌とした泣き声だった。
「ねねさまぁ、ねねさまぁ」
 鬼子さんが恋しくなったのだろう。こにさんが完全に一人立ちするにはまだまだ時間がかかるようだった。
 家出は自立の一手段ではあるだろうし、こにさんも無意識的にそれを知っててやったんだと思う。
きっと一人でやっていけると、家を出る直前までは確信していたに違いない。
でも、まだまだこにさんは甘えたがりの年頃なのであった。

   φ

 正直、ヤイカガシの力を甘く見ていた。奴の鬼を追い払う悪臭に、ほとんど邪気の宿していない弱い鬼たちが逃げ出し、
憂さ晴らしにと俺へちょっかいを出してくるんだ。羽虫みたいなものなので、
素手で追い払ってしまえばそれでいいんだが、なにしろ量が量だ。
俺の尻尾に群がる童部のように追い払っても追い払っても新手がやってくる。その姿を見た神に笑い飛ばされる。屈辱だ。

「わんこのしっぽをもーふもふ、わんこのしっぽをもーふもふ」
 いまだ尻尾にまとわりついて離れない小鬼たちが変な節をつけた唄をうたっていた。
こうして俺をいらつかせ、その感情を養分に生きながらえる。
まったく惨めな姿ではあるが、元々は木か、苔か、蔦を見守る神だったのだろう。
木一本一本、葉一枚一枚に神は宿っているくらいだから正確な神の判別はできない。
最近鬼が増えてきたという噂は聞いていたが、まさかここまで増えてきているとは。
 ヤイカガシの臭いを追ってここまで来たが、鬼と戯れる間にすっかりあやふやになってしまった。
巌の突き出た崖の下ですっかり行方を失ってしまう。この辺りでぱったりと気配がなくなっている。
転落でもしたのかと焦心して周囲を見渡すが、ここは比較的平坦で足を滑らせる場所もなかった。

 なら、小日本はどこへ行った?
「にげろ、にげろ、たべられちゃうぞ、かくれろかくれろたべられちゃうぞ」
 尻尾についていた鬼たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。俺だけが場に残ってしまった。

「堕つべし、いざや堕つべし……」
 泥の上を歩くような、粘り気のある足音を聞いて、反射的に汗が滲み出てきた。
背中から感じる強烈な怨念で、金縛りにあったように足が硬直する。
 ―臆するな、俺!
 鳴き声も足音も怨念もどうした。そんなもの、単なる誤魔化しでしかない。

 と思って振り返ったところで、前言を撤回したい。目の前には、青緑色のざらついた肌をした神さまがいた。
樹齢二百年を優に超すスダジイの守神の圧倒的な存在感に言葉を失う。葉は全て抜け落ち、太い幹から大枝を伸ばしており、
たくましい根を四方八方に広げている。幹のうねりがどこか口と目を思わせる。
俺さえもこの御老樹の神さまを見て畏れおののくんだから、人間が見たらどう思うのだろう。

「神でありとも、得るもの有らず。鬼にしあれば、得るものこそ有れ」
 しかし、その言葉はまるで神々しさのかけらもない。
 小賢しい小鬼どもと同類であることは容易に分かった。

「主、日本家の供人狛と見受く」
 深い彫りから覗かせる瞳孔に射抜かれまいと、俺も奴を―神さまをやめた輩に敬語を使う必要もない―睨み返した。
「わしと共に邪念を吸うものとして生きよ」
「断る。なんで神さまが鬼にならなくちゃいけねえんだよ」
 不穏な空気が強くなる。

 もしも―小日本の行方がぱったりなくなってしまった理由がこいつのせいだったら……。
 いや、殺されたとか喰われたとか穢されたとか、そういう負の感情は抑えなければならない。
短気な俺がどれほど自制できるか知らないが。

222:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:39:21.98 AwmqVElA
   八の六

「尊びの言葉を知らぬ狗神よ。日本鬼子に仕える主が何故理解を示さざるか」
「鬼子は鬼子、俺は俺だ」
 鬼子が神さまに憧れを抱いたことは一度たりともない。どんなに人間から貶められようと、
鬼の姿を悔やんで負け言をこぼしたりはしなかった。だから俺も、信念を曲げずにここまで来られたんだ。

「さならば、大御神は何故日本鬼子に鬼祓いを任せたもうたのか」
「鬼子は鬼だが、人間の心を持った鬼だからだ!」
「否、否なり」
「なにが違うんだよ! 鬼子は鬼子だ!」
 鬼子は特別な鬼だ。他の鬼と同じ捉え方をされると耐えられなかった。
ただ欲望のままに活動する鬼なんかと同一視されてたまるもんか。

「鬼祓いを任せたもうたのは、神より鬼が圧倒的に強きことが故なり。
今の世は嬉しみ、喜び以上に、悲しみ、苦しみのほうが遥かに多し」
「嘘だ。分かりきった嘘を」
 人々は神さまに感謝する。豊作のとき、人と結ばれたとき、新たな命が芽生えるとき……道端で銭を見つけたときだって感謝する。
でもそれは一方で、不作のとき、縁が断たれるとき、命が奪われるとき、銭を失くすとき……
そういった鬼のもたらす災いへの恐怖の裏返しでもある。つまるところ、人間が神さまを崇めれば崇めるほど鬼も力を付けていく。
でもそれは均衡の取れた力だ。神さまの力が一ならば鬼も一。神さまが百なら鬼も百。そうやって八千代の時を過ごしてきたのだ。

「確かに、この世のみであらばわしらの常識は罷り通ろう」
 憎しみに染まった老樹の鬼が空気を揺るがした。
「しかれども、重要なのはむしろ異なりの世の民なり。若き神よ、承知しておるか、世は二つの世に分かれておると」
 異なりの世なんて言葉は初めて聞いたが、あらかた予想が付く。田中匠のいる世界。人間が神さまを信じなくなった世界だ。

 でもそっちの世界とこっちの世界に、何の関係があるんだよ。
「神も鬼も、養いはこの世の民の情念よりも、異なりの世に住まう民の情念に傾いでおる。喜ぶべきことを当然のものと見なされ、
責任のみが課され、苦しみもがき続ける。即ち、苦しみの裏は苦しみなり。左様なる人間どもの住む世に神鬼は根を伸ばし、念を吸う。
神を信じぬ、嬉しみを忘れた民に、神が養いを得ることが出来ようか」

 根を伸ばす? 念を吸う?
 俺たちは、田中のいる世界の人間から力を蓄えていた?
 なら鬼子が最近田中の世界に通いつめてるのは、ただ田中と一緒にいたいからではなくて、
向こうの世界の人々を苦しみから解放させるためなのか? 喜びをもたらして、神さまの力を増やそうってのか?
 分からん。わけが分からん。頭が追い付かない。

「しかし、主は全てを理解する必要などなし。鬼は神に勝る。さのみ心に刻め。堕つべし、いざや堕つべし」
「堕ちてたまるか!」

 こんなとき、鬼子がいたら。
 きっと、大御神さまの力を得た薙刀「鬼斬」を使うまでもなく、邪念を取り祓うに違いない。
なにせ、奴はまだ鬼に堕ちて間もない、鬼の中では最弱の鬼なのだから。
 でも、今の俺にはその対処すらできない。所詮、俺には知恵というものが足りないのだ。

 自分の無力さに打ちひしがれると、常に故郷のことを思い出す。
 いつもつるんでた風太郎の影響を受けていればよかった。あいつは鬼の名や性質をこと細やかに記憶していた。
汚らわしい存在に向かい合うあいつのことをよく思わない神さまもいたのに、それでも風太郎は自分の道を極め続けていた。
 あいつ内気だったから馬鹿にしていたが、今思えばその知識の一割でもかっさらいたいくらいだった。
そうすれば相手の泣きどころを見つけ出して、鬼化の進行を食い止められるかもしれないのに。

 今の俺にできることはなんだ?
 戦うこと。それだけだった。
 小日本の泣き声が聞こえていたことにすら気付かず、拳一つで老樹の鬼に立ち向かっていった。

223:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:40:05.63 AwmqVElA
   八の七

 小日本が泣いている。遠のいた意識の中で、ようやく自制を掛けられなかった自分に気が付いた。

「いい? 鬼と向かうとき、一番大事なのは感情よ」
 心に住まう般にゃーが教えてくれる。
「本当は、薙刀なんて振るいたくないんです。そんなことしたって、怖がられるだけですから」
 遠い昔、鬼子が口にした言葉が頭の中を漂った。
「だめ! みんななかよくするの!」
 いつも通りの小日本が俺を戒めてくれた。
 なんで、言われたことを言われた通りにできないんだろう。みんな言ってたじゃないか。戦うのは最善の手ではないと。

 まだ小日本の泣き声が聞こえる。

 俺、鬼子たちの足手まといじゃねえか。
 無謀な戦いに挑んで、迷惑掛けるだけだ。スダジイの老樹の神さまと喧嘩したところで、
勝てる見込みなんてないことくらい明らかだろうに。そんなことすら考えつかない視野の狭さを恨みたい。
 俺には、鬼子の支えになる素質なんて、ねえんじゃないのか……?

 小日本が泣いている。いい加減泣きやんでくれ。眠るに眠れないじゃないか。俺は不貞寝がしたいんだよ。
「わんわん、起きて、起きてよう……」
 小日本は決して笑おうとはしなかった。ぐずついた表情のまま立ちすくんでいる。
 小日本の笑顔を見て眠りたい。いっそ惨めな俺を笑い飛ばしてくれでもしたら、すとんと落ちることができるのに。

 待て。
 心を落ち着かせる。
 起きて?
 俺は起きてるはずだ。

「わんわん、わんわん……」

 悲しい呼び声に、俺は意識を取り戻していた。

「わんわん!」
 眩しさに目の奥のほうが痛む。最初に映ったのは、大粒の涙を浮かべながらも、満面の笑みを咲かせる小日本だった。
無言で胴着に抱きついてきて、涙と鼻水と唾液をぐしゅぐしゅと擦りつける。

 そうされてやっと自分がシダの上に横たわっていることに気が付いた。

「しんじゃったかと思ったんだからぁ……すっごい、すっごいしんぱいしたんだからぁ……!」
 幼い声が紅花染めの衣を震わせる。

「心配したのはこっちのほうだ。ったく、勝手に家飛び出しやがって」
「ごめんなさい、ごめんなさあい!」
 あぐあぐと大声でむせび、衣の湿った感触が肌にまで達した。
湿り気と共に、小日本の小さな温もりも感じる。
なだめるために、そっと小さな頭に手を載せた。
やわらかい。

 生きている。

 ここは、夢じゃないんだ。

224:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:40:29.95 AwmqVElA
   八の八

 現実味を帯びていくにつれ、気を失った瞬間と夢との境界があやふやになってきた。老樹の鬼と会ったこと、奴の言ったこと……。
「鬼は……鬼はどこだ?」
 あわよくば、全てが夢であってほしい。

「ヒワちゃんとヤイカちゃんが、たおしちゃったよ」
 洞窟のほうを指さす。洞穴の横に大岩が据わっている。ヒワイドリとヤイカガシ、変態語り仲間の三匹もいる。
この洞窟はいわゆる五変態の魔窟で、大岩はさしずめ混沌の鍋蓋といったところか。
小日本と関わらせたくはなかったが、今は俺たち二人の空間に立ち入ろうとはしていなかった。

「そっか……」
 なら、小日本の身は安全だろう。五変態の脅威は捨てきれないが、少なくとも堕ちた鬼に襲われる心配はない。
ヒワイドリもヤイカガシも、小日本に仇なす輩は本気で潰すだろうし、何より俺よりずっと強い。

 つまりスダジイの鬼は存在した。

 ―神も鬼も、養いはこの世の民の情念よりも、異なりの世に住まう民の情念に傾いでおる。
 ―鬼は神に勝る。さのみ心に刻め。
 奴の言葉も、ちゃんとあったのだ。

「わんわん」
 自我を保っていられるのは、小日本がそこにいるからだ。涙の跡が目じりから頬を伝い、顎にまで伸びていた。
涙を枯らすまで泣いてくれたんだ。幼い顔をしているくせに、愁いを含む複雑な表情は信じられないほど大人びていた。

 しばらく世界が止まっていてくれ、と月讀さまに願い奉ろうとさえ考えた。

「ねねさま、こにのこと、キライになっちゃったのかなあ」
 でも、やっぱり小日本は小日本だった。鬼子と同じ宿命を背負いながらも幸せな日々を過ごしている。
鬼子のことが大好きで、まるで本当の姉貴のように慕っている。わがままで、世間知らずで、でも核心を突いたことをたまに口にする。
 そんな小日本らしい疑問だった。

「鬼子はお前のこと、いつだって好きだよ。今までだってそうだし、これからもな」
「ほんとに?」
「ったりめえだ。俺たちの鬼子だぞ?」

 ただ、俺たちの「たち」が一人増えただけだ。

 それだけなんだ。

「そうだ、今度鬼子と一緒にシロんち行こうぜ」
「シロちゃんち?」
「おう。俺も白狐爺に鍛えてもらいてえし」
「ケンカはだめだよ」
 喧嘩、ねえ。
「そうだな、喧嘩は駄目だな」
 つい今朝までの俺なら、喧嘩じゃねえよ、と自分を通そうとしただろう。でも、もうそんなことを言える立場じゃない。

「喧嘩にならない極意を学びに行く、これならどうだ?」
「うん! いこういこう!」

 小日本が笑った。
 今日初めて見る笑顔だった。

 こいつは、なんとしてでも鬼子を説き伏せねえといけないな……なんてことを思って、俺は身を起こした。

225:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 23:18:56.58 AwmqVElA
>>215
枕詞は大学受験程度の知識しかなかったりするので、結構ほしかったりしますw
そういうのをまとめた何かがあると歌詠うのに便利だったり。

226:創る名無しに見る名無し
11/09/11 00:01:11.31 l9lOPax0
とりあえず乙!!
今回も美味しかったわー。
感想の続きはまた後で失礼。

227:創る名無しに見る名無し
11/09/11 14:22:31.59 WXK+BXGU
なんだ、このキレイなヤイカガシはw 他の鬼どもも紳士しかいねぇwwww
わんこはどの世界にいっても平常運転だなw
 この世界の鬼と神って人間でいう「いい人」と「悪い人」位の違いしかなさそう。

228:創る名無しに見る名無し
11/09/12 11:04:00.51 9pIv3bcS
>キレイなヤイカガシ

まさしくwwwわりと好きなんだがどうしようww

229:創る名無しに見る名無し
11/09/13 17:43:23.29 UQYXR8/P
>>217-224
久々に鬼子SS読ませて頂きました。
月並みな感想ですが、読みやすく内容も濃くていつもながら脱帽します。

もっと材料にできるような、具体的な感想書ければいいんですけどね。

230:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/13 22:53:49.49 EUaEvP1G
>>226
お粗末さまでしたwこれからもお口に合うよう努めて参ります!

>>227>>228
ヤイカガシの人気に嫉妬w
次回のヤイカガシの活躍ぶり、ご期待ください。

>>229
ありがとうございます。毎回毎回矛盾を指摘されないかヒヤヒヤわくわくしております。
こちらこそ、毎話一万文字前後の長文にお付き合いして下さる読者さんに脱帽しっぱなしですよ。

皆さんの感想も創作する上での大切な糧になってます。
感謝してもしきれませんよ、ええ、本当に。

231:創る名無しに見る名無し
11/09/14 00:18:39.75 FWpgf2sW
>>230
何となく共有しているイメージを的確に拾える方は、基本的にお話作りも上手いので羨ましい限りです。
理論と想像力が綺麗に結びついているとでも言いましょうか・・・私も精進しないと。

232:229
11/09/14 09:55:52.06 UaG/BLnY
>>230
普段SSはあんまり読まないんですが
「大御神は何故日本鬼子に鬼祓いを任せたもうたのか」の理由が
「鬼は神に勝る」から、というのが引っかかりまして。
全部読んで「大樹の神」の言ってる事が別に真実でもなんでも無いというのが分かった次第でして。

にしても「鬼子が何故鬼を祓うのか」っていうのが
改めて「それが鬼子だから」以外の答えって見付からないなと思いました。
逆説的に、条件さえ満たしていれば様々な姿形の「日本鬼子」がいるのかも知れないし
「鬼子はいつの時代のどこにでも存在し得る」というのはそういう事なのかも知れませんね。

233:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/14 10:44:14.79 kSN0SX9Q
>>231
ありがたいお言葉です。
自分も立ち止まらないでもっともっと精進しないといけませんね。

>>232
 >全部読んで「大樹の神」の言ってる事が別に真実でもなんでも無いというのが分かった次第でして。
む、気になります……。もし宜しければその理由もお聞かせ願いたいです。
こういう意見が連載停止中にあってよかった……。
じっくり読んで下さってて、本当に嬉しい限りです。

234:229
11/09/14 14:29:10.24 BiQWlsOq
>>233
大した事じゃないんですが、仮に「鬼は神に勝る」として
「何故鬼子なのか」っていう理由にはならないと思うんですよ。

神に勝るような強力な鬼と対峙するならば
それ相応の力を持った鬼でないと務まらないはずで、
あるいはそれが鬼子ひとりでなくてもいい。
鬼子ひとりに任せられているのなら、鬼子は「強力な力を持った鬼」という事になり
人間と容易に関われるような存在ではなかったはず。
「鬼子でなくてはならない」理由があるとすれば、
今度はわんこの言うような「人の心を持った鬼だから」という理由も
その必然性のひとつになってしまう。
人の心を持たず、ただ魔を滅する「鬼神」は他にいくらでもいますし
そういった「専門職」に任せた方がより確実ですからね。

大樹の神様の言う事には、一面的には真実かも知れないし、違うかも知れない。
彼はそうだと思っているかも知れないけど、現実とつき合わせていくと
少なくとも矛盾や綻びが見えてくる。
そのへんも「堕ちた存在」っぽくて逆にリアリティあるなと思いました。

235:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/15 00:10:28.01 Q4Db5Nul
>>234
わざわざご返答ありがとうございます。
興味深い考え方ですね。本当に参考になります。
というか、自分が心配していたほどひどいものではなくて良かったです。
むしろある程度自分の書きたいことが伝わっていて安心しました。
(と同時に自分が未熟だってことを再確認出来ましたし)

宜しければ、これからも自分の編纂作業を見守って下さると嬉しいです。

236:創る名無しに見る名無し
11/09/16 01:26:56.85 P6qv1s6M
>>217-224
「でも最近の鬼子は、変なところで抜けてしまっている。」
田中さんやわんこ視点が多かったからか、揺れ動く鬼子さんはなんだか掴みどころがないように感じられます。
そういうHAKUMEIっぽい鬼子さんも好きだけど、いつか鬼子主観の部分も出てくると嬉しいな。

パンツ狩りのヤイカガシの心理描写は、彼史上最強のエロさですね。
ギャグを超えてエロいとは…なんときれいなヤイカガシ!
小日本が泣きながら抱きついてくるところも、まるで自分の腕の中にぐしゃぐしゃに泣く幼女の頭を見下ろしているかのように想像できました。こういう手触りもいいですね。
「幼い顔をしているくせに、愁いを含む複雑な表情は信じられないほど大人びていた。」とかもずるいぞ!w

五変態の部分はもう声と映像が浮かびまくりw
しかもそれっぽい新たな台詞を開発するとは、さすがSS書きさんです。

わんこにとって故郷はさぞかし懐かしいのでしょう。安らぎがこちらにまで流れてきました。
風太郎、いつか参加するかもしれないかな?
それとも話に出てきたりして関係性を見せるだけってのもアリな気もしますね。

237:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/18 02:44:30.86 ikD4zkh9
六話脱稿しました。ひとまず八話までストックしてから再連載しようと思います。

>>236
 >いつか鬼子主観の部分も出てくると嬉しいな。
基本鬼子さんとこにぽん視点のシーンは出さないようにしてますが、いつかやってみたいものです。
ただ、そうなるとどうしても編纂から創作の汁が滲み出てしまうそうで不安だったりします。

 >パンツ狩りのヤイカガシの心理描写は、彼史上最強のエロさですね。
そう言って頂けると恥じらいを捨ててまで挑んだ甲斐があったってものです。よかった……。

 >五変態の部分はもう声と映像が浮かびまくりw
ありがとうございます。でもモモサワさん成分が極端に少なくなってしまったのは今後の課題です。

遅筆な私ですが、本当に、皆さんのお言葉が励みになってます。
正直もっと冷遇されるもんだと思ってたので、本当に嬉しいです。
皆さんのためにも早く更新したいのですが、今しばらくお待ちくださいませ。

238:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/24 14:56:41.14 rn6ZOez4
七話脱稿しました。
八話はまだ起稿すらしていませんが、こちらの予定上
『【編纂】日本鬼子さん』は10/4(火)から連載を再開しようと思います。

ストーリーが進むにつれて私の創作色が一層表に滲み出てしまい、
不安ではございますが、今度とも努めてまいりますのでよろしくお願いします。

239:創る名無しに見る名無し
11/10/01 00:52:43.93 9DniyFTG
>>238
熟成ですね。楽しみにしてますー。
そういえば【編纂】だから自分のカラーを出さないようにしてるんですね。
ストーリー運びや描写が巧みなので、逆に認識してませんでしたw
面白さのためにある程度は仕方ないと思いますよ。これまでの盛り込みが見事すぎたとも言えますし。

240:歌麻呂
11/10/04 14:17:11.82 GUrlD4Qv
「あー! こにぽん、私のプリン食べたでしょ!」
「ふふ、鬼子のことでいっぱいなのね」
「家出、するつもりなのかい?」
「秘密基地、教えてやろうか?」
「その胸に大志を抱いて精進したまえ」
「小さい子の胸が小さいのは当然です、先生」
「いい、太ももだな」
「鬼は神に勝る。さのみ心に刻め」
「ねねさま、こにのこと、キライになっちゃったのかなあ」
「そうだ、今度鬼子と一緒にシロんち行こうぜ」
 彼ら彼女ら鬼の子ら、心の移ろい噛み締めば、錆びれる歯車動きだす。

TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 スレリンク(mitemite板:80-83番)
一話 スレリンク(mitemite板:89-99番)
二話 スレリンク(mitemite板:128-139番)
三話 スレリンク(mitemite板:176-185番)
四話 スレリンク(mitemite板:196-204番)
五話 スレリンク(mitemite板:216-224番)

次回の更新は十月十一日(火)を予定しています。

241:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:19:08.49 GUrlD4Qv
コテハンとsageつけ忘れました、すみません。以降本編。


【編纂】日本鬼子さん六「その志、忘れるでないぞ」
   八の一

 定時になっても日本さんが来ない。
 こんなの一度たりともなかった。いつもは集合時間の三十分前には来てるのに、どうしたんだろう。
初めてこっちの世界で待ち合わせをしたときは三時間も前から待ってたっていうのに。
そんなやる気を出すのはコミケの日だけで十分だよ。
 というわけで、日本さんを迎えに紅葉林に赴いたワケだ。久しぶりに来たら、ちょっと肌寒さが増してきた気がするけど、
紅葉は相変わらず落ち着きのある茜色の葉を付けていた。風が吹くとちらほら葉が舞うけど、しばらく盛りは続くみたいだった。

「ひっのもっとさーん、あっそびーましょー」
 おなじみの文句を口ずさみながら庭を通る。しかし、いつものようなドタバタと床板を鳴らす返事は聞こえない。
その代わりに―といってはあまりにも奇妙だったけど―玄関にヒワイドリとヤイカガシが縄で束縛され、吊るされていた。
晒し首というか、ならず者の末路というか、そういうプレイというか、新手の嫌がらせというか……。
なんにせよ、無視するのが最善の策みたいだ。

「鬼子ならいないぜ?」
「うわあ!」
 戸に手を掛けたそのとき、白い鳥の姿をした罪人が喋りだした。
ついさっきまで死んだようにくたばってたヒワイドリがいきなり動きだしたもんだから、思わず声をあげてしまった。
「ひ、日本さんがいないって?」
 高鳴る鼓動を抑え、荒くなる呼吸を整えながら言葉を繰り返す。あー、今になって気付いたけど、
こっちの世界で鬼が現れたのかもしれない。最近アタシたちの世界で鬼を祓ってばかりいたから、こっちの事情をすっかり忘れていた。

 ヒワイドリがニタニタと汚らしい笑みを浮かべる。
「連れてってやろうか?」
「え、鬼を退治しに行ってるんでしょ?」
「んなワケねえよ。鬼子は遊びに行ってんだ」
 日本さんが遊びに行ってる? アタシの約束をほっぽり出して?
「どうだ? こっちの世界を散策する。面白そうじゃねえか」
 何の理由もなく約束を破るはずがない。きっと何か裏があるに違いない。
 ……裏。
 いや、そもそも企んでるのはヒワイドリなんじゃない? きっとこの誘いは悪魔の囁きなんだ。

「で、でもヒワイドリ君」
 もう一方の吊るしあげが横から加わる。
「今日鬼子さんたちは、こにさんとわんこ君と水いらずのお出掛けなんだよね? 邪魔しちゃ悪いよ」
 どうも鬼子さんが出掛けたことは本当らしかった。
すると昨日鬼子さんが帰ってから決まったからアタシは知らずじまいだったのだろうか。
どこか腑に落ちないけど、二人の会話から推測するとそういう経緯らしい。ヤイカガシも仕掛け人だったら話は別だけど。
別だったら別で、卑猥な展開を狙ってるんじゃないかと疑わなくちゃいけない。

「水いらず? んなことどーでもいいんだよ! 早く仲直りさせねえとメンドクセーんだってんだ!
水いらずの旅なんざ、いつだってできんだろうがよ!」
 仲直り? 誰と、誰が?

「おい田中ァ!」
 怒鳴るような名指しを受け、自然気をつけをする。
「縄ほどけ。んで乳の話をしろ!」
「ハアァ?」
 この変態は何を仰せられてるんでございましょう!
「乳話を聞きゃあオレの同胞が寄ってくっから、みんなでアンタを担いで連れてってやんだよ!
それからな、オメェはこにに謝れ。鬼子がオメェの住む世界を気に入っちまったから、こにがヤキモチやいて家出しかけたんだよ」
 家出? まあ確かに最近日本さんはアタシとずっと一緒にいたから、こにぽんが寂しくなるのも分かる。でも家出をするなんて考えもしなかった。とにかくヒワイドリは何としてもアタシを連れていきたいようだった。
 というか、ヒワイドリがこんな本気になって説得してる姿を初めて見た。
もしかしたらヒワイドリとヤイカガシの言ってることは本当のことなのかもしれない。

242:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:20:13.32 GUrlD4Qv
   八の二

 まあ、別に行ってもいい。というかこにぽんに嫌われたら三日間ひきこもると思う。
 ひきこもりたくないし、こにぽんに嫌われたくもないけど、でもまだ首を縦に触れない理由があった。
「二つだけ質問に答えてくれる?」
 中指と人差指を立てると、白鳥姿の鬼は「あたぼうよ」と頷いた。
「一つ目、なんでアンタたち、縛られてんの?」
 二匹の顔色が変わる。この様子だと、何か思い出したくないものでもあったんだろうなあ。
「こにさんの家出の手助けをしちゃったんだ」
 ヤイカガシがアタシの様子を窺いながら口を開いた。
「チチメンチョウさん、チチドリ君、モモサワガエル君のいるところに行こうって言ったんだ」
 チチ、チチ、モモ……。あらかたどんな輩なのか想像がついちゃうから困る。そりゃ縛り上げの刑に処されるわ。

「でも、仕方ないよ。こにさんはああ見えて頑固だから、止めても目を盗んでどっか行っちゃうと思うから……。
紅葉林の外は危ないし、ならいっそ保護者同伴で家出しちゃったほうがいいと思ったんだ」
「テメ、それオレの提案じゃねえか! なに自分が考えました、みてえに言ってんだよ!」
 どちらも保護者というか誘拐犯といったほうが近いけど、理には適っていた。
あとから考えていいか悪いかはさておき、少なくとも嘘ではない可能性は高い。
 まあ、ぶっちゃけこの質問はあまり重要じゃないんだけどね。

「じゃあ二つ目だけど―」
 むしろこっちが本題だ。
「縄をほどいてから乳の話をするんじゃなくて、乳の話をしてから縄をほどくって形にしてくれる?」
「ど、どっちでもいいだろうが!」
「いや、これだけは譲れないね!」
 奴をフリーのまま乳を語ったら何をされるか分からない。アタシの貞操絶対死守防衛のため、ここは引けない。
「アタシとしては、別に今日は帰ってもいいんだよ? 日本さん、久しぶりの休暇なんだし、ゆっくりしていってほしいよ」
「……チッ」
 エロ鳥め、わりと本気だったな。

「しゃあねえ、乳の話だ。オメェ自分の乳に自信はあるか?」
 ヒワイドリは半ばヤケクソに話題を振った。自分の胸を見る。
誇れるワケもない、主張すらしない慎ましやかなふくらみがそこにある。
「自信はそりゃないよ。でも別に劣等感抱くほどじゃないなあ。むしろ、動きやすいから疲れにくいし」
「ほう」
 ヒワイドリは目を丸くして頷いていた。アタシがフツーに話しちゃってるのに驚いているみたいだ。
まあ、この胸とも長年の付き合いだしね。多少の恥じらいを拭い去れば普通に語れますよ。残念でしたね。

「でもオレの同胞がアンタに憑いたときは巨乳の念が強かったみてえだが?」
「あー、そういうのあるかもしんない」
 日本さんと出会ったあの日を思い出す。確かにあの日、胸の大きな女性に視線がいってたと思う。
「憧れはあるよ。アタシにはないもの持ってるんだもん。基本どんなサイズも好きだから、そんな強い憧れでもないけど」
 客観的に見る大きな胸は女性としてすごく魅力があるけど、主観的に見れば、
そんなの重くて肩が凝って大変だと思うから、実はあまり羨ましいと思ったことはない。
ぺたんことかまな板とか呼ばれたことがあったら、もう少し羨望の情は強かったんだろうけど。

「どんな胸でもイケるクチか! くうっ、オメェみてえな同志を欲してたんだよ!」
 ヒワイドリの瞳が子どもみたいにキラッキラ輝かせるほど、喜びと興奮を兼ね揃えた眼をしていた。
「チチメンもチチドリも、乳のこと分かってるフリしてなんも分かっちゃいねえんだよ」
 なんたらかんたらと、ぐちぐち心の鬼が毒をばら撒いていたものの、しばらしくて再び顔をこちらに向ける。

243:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:21:06.13 GUrlD4Qv
   八の三

「サンキュー田中、いい乳の話だったぜ。さあ、縄をといてくれ。今なら仲間を呼べる」
 ヒワイドリの感謝を耳にして、こっちまで嬉しくなる。まさか心の鬼に心を清められるとは思いもしなかった。
ごちゃごちゃに結ばれた縄をほどいてやると、間もなく片方の羽を挙げた。
 瞬間、背に数多の視線を感じる。考えたくもないし、振り向きたくもない。
でも、頭の中でその情景が簡単に想像できてしまうから勘弁してほしい。
 ドドドドド―という芝を駆ける雪崩のような音で地面が揺れる。玄関の戸がガタガタ言いだしはじめ、
ぶら下がりのヤイカガシが振り子時計みたく時を刻む。

「乳だ祭だ語って聞かせ! 乳の話をしようじゃないか!」
 B級ホラー映画並みの恐怖を感じさせるものが地鳴りと共に近付いてくる。
 あまりの怖さに我慢できなくなり、音の鳴るほうへ顔を向けてしまった。
 その瞬間、体長三十センチの雪崩に足をすくわれる。幾百のトサカと羽に流され、
気付いたら中央で担がれているベニヤ板のような神輿に載せられて正座していた。

「どうだ、オレたちの卑猥神輿は! 鬼子行直通だぜ!」
 隣には(どのヒワイドリも同じ姿だから推測だけど)日本家に入り浸っているかのヒワイドリがいる。
「そのネーミングセンス、どうかと思うよ」
 戸惑いを通り越して、アタシはいたって冷静なツッコミをかましていた。変態鳥は笑って答えない。
「あの、ぼくは?」
 玄関で放置されているヤイカガシが大声で叫ぶ。
「オメェは留守番でもしてろ! 般にゃーいねえんだし」
「ひ、ひどい……!」
 ヤイカガシの縄もほどくべきだったんじゃないか……? なんてことを思ったけど、そんな後悔は即座に取り払われた。
 何故なら、卑猥神輿は思った以上のスピードを出して吹っ飛んだからだ。
初速度とかそういう物理法則をムシしたぶっ飛びようだ。考えるヒマなんてどこにもない。

 ぶっちゃけ、生きて辿りつける自信がありません。

   φ

 冬の気配を感じさせる北風に潮の香りが混じるこの村の門をくぐる。門前と物見櫓の防人が訝しげに俺たち一行を睨んでいるが、
もう慣れてしまった。普段は人々で賑わっているであろう大通りにも人はどこにも見当たらない。
廃村、というわけではない。そいつは家屋の内から突き刺さる恐怖と興味の視線を感じれば分かる。
 こんな真昼間から静まりかえってしまうのは、俺たちがこの村の門とシロの家を往復する間だけだ。
 何度も出入りしてるし、俺たちに害はないと分かっていながら
―奴らが本気で怖がってんのか習慣でこわがってる振りしてんのかはしらねえけど―ぱったり人がいなくなってしまう。

 シロの家は海から少し離れた丘の頂にある。真っ赤な鳥居をくぐり、急な長ったらしい階段をのぼり、再び朱色の鳥居をくぐる。
俺たちが来たからだろうが、境内は静寂に包まれている。
がらんどうの敷地を見渡せば、その広さが途方もないことだってのが分かる。
 拝殿へ続く砂利道を歩く。さすが人間の信仰を多く受ける稲荷一派の社だ。面積に加え、遠く見える社殿の厳かさは息をのむほどだ。
 そして足元に荘厳さとはかけ離れた狐耳の巫女娘がうつぶせに倒れていた。たばねた稲穂色の髪と尻尾がだらりと垂れ下がっている。
「おい、起きろ、馬鹿」
 足で奴の横腹をつつく。
「あっ! わんわんダメだよ! けっちゃダメ!」
 蹴ってない。起こしてるんだ。

 こいつがどうして境内のど真ん中で倒れてるのか予想してやろう。まず、村の門番が俺たちを目撃する。
そしたら村全体に知らせるために法螺貝やら狼煙やらをあげるだろう。そいつを耳にした、目にした村人が
避難所であるこの神社へ逃げ出す。こいつはその波にもみくちゃになる。でも鬼が鬼子だという知らせが訪れるや否や、
今度は逆に一斉に境内から飛び出していく。騒動の中でこいつは躓き、人間どもに踏み潰されたんだろう。
人間だったら圧死だが、神さまの端くれであるこいつはかろうじて気絶で済んだ……つまりそういうことだ。

244:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:21:45.00 GUrlD4Qv
   八の四

「うう……」
 狐娘がもぞもぞと動きだす。俺のつつきで意識を取り戻したらしい。
「シロちゃんおはよう!」
 その挨拶はどうかと思うが、しかし実に数ヶ月ぶりの再開に小日本は嬉しそうに飛び跳ねている。

「こにちゃん? あれ、わたし確か……」
 奴がこの稲荷神社の見習い巫女のシロだ。きっとこいつの天然ぶりに勝る奴はいない。
俺はまだ数回しか顔を合わせてないが、名高き白狐の劣等生と認識している。
「気絶してたんだろうよ。ったく、お前は実にのろまな奴だな」
「あ、わんこさんも」
「あのなあ、だから俺の名前は―」
「それに、鬼子さん! どうしたんですか皆さん揃って」
 なぜみんな俺の名を知ろうとしないんだ。名前を言えない呪いでもかかってるんじゃないかと疑ってしまう。

 鬼子がシロに手を差し伸べる。奴は感謝の意を述べ、その手を借りて立ち上がった。
「こにぽんにも護身用の武器が必要かと思って」
「あー、最近物騒ですもんね」
 鬼子の台詞は俺の受け売りだ。小日本に戦いを経験させたくはないが、万が一ってときがある。
嘘月鬼や昨日のスダジイの鬼のように般にゃーの領域内でも鬼は出没したんだからな。
この神社の宝物庫に行けば身を守れるものもちゃんと備わっているだろう。
 ―というもっともな理由をつけて、シロの家へ遊びに来たのだった。
昨日の今日でやってきたのは小日本のおねだり駄々捏ね地団太の三連技による成果だ。

「とにかく、立ち話もなんですし、上がってください。おじいちゃんも会いたがってますから」
 拝殿脇にある稽古場に向かう。そこの二階がシロと白狐爺の生活の場となっている。
鬼子と小日本とシロの談笑しながら歩き、俺はその後ろに付いていた。

 昔、小日本と鬼子はこの神社で暮らしていたらしい。
 らしい、というのは詳しいことは知らされていないからだ。鬼子は極端に過去を語りがらないし、シロも白狐爺も教えてくれない。
 シロの背が伸びたな、とふと思った。小日本の背丈より鬼子のほうに近付いている。
そんなシロはどこか嬉しそうに近況を述べていた。尻尾を左右にせっせと振っている。
まったく、犬じゃねえんだし、もう少し大人しくしてくれてもいいじゃねえか。

 引き戸を開けると、稽古場に銀髪の老人の姿があった。俺たちに背を向け、達筆な字の記された掛け軸に正座している。
「じじさまー!」
 小日本が草履を脱ぎ散らかして、どたどたと床を駆ける。電光石火だった。
鬼子もシロも俺も、抑える間もなくつむじ風のように白狐爺の元へ突撃する。
「えいっ!」
 小日本が飛び付く。シロが顔を覆う。鬼子が謝罪の体勢を取る。そして、白狐爺は―、
「おお、こにか。大きくなったのう」
 年老いた白狐は全身で衝撃を受け流し、穏やかな口調で背中の小日本に語りかけていた。
もう御老体ではあるが、あらゆる体術や武術を会得しているからこそ耐えられたんだと思う。

「こに、もうオトナになれた? オトナになれた?」
 小日本は大人に憧れている。正直、俺には信じられない。大人なんて卑怯で卑屈で小癪な奴らばかりじゃねえか。
どこに憧れる要素があるってんだよ。
「そうじゃの……」
 白狐爺はしばらく考えるふりをする。その顔は孫を見る綻んだ顔だった。
「まだまだ、じゃな」
「えー、なんでなんでー」
 神聖な稽古場を礼もなく駆けだして白狐爺に飛びついたからだろうが、と心の中でつっこみを入れる。
爺さんは何も答えなかった。というより、鬼子が割り込んできたから答えるに答えられなかった、というのが正しいだろう。

245:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:22:21.23 GUrlD4Qv
   八の五

「お爺ちゃん、ごめんなさい。こにぽんたら……」
 鬼子と白狐爺の会話を聞くと、よく耳がぴくりと動いてしまう。どこか違和感があるんだ。
たぶん白狐爺のことを「お爺ちゃん」と呼ぶからだろう。親密さを感じるはずなのに、どこかよそよそしいんだ。
「いいんじゃよ。元気がいっぱいそうでなによりじゃ」
 平謝りする鬼子を慈しむように白狐爺は微笑んだ。
 二人は師弟の関係でもある。鬼子に薙刀術を指導したのは白狐爺だ。
どれほどの期間鍛錬を積んだのかは定かでないが、教授の上手さは一級ものだ。俺にも戦い方の極意を存じているに違いない。
「じじさま、なんでこにはオトナになれないの? ねえ、なんでなんで?」
 小日本の質問責めを受けるも、白狐爺はちっともうろたえることはなかった。

 と、瞬間視線が俺を貫いた。
 本当に寸刻だったから気のせいかとも思った。白狐爺の視線は既に小日本へ注がれている。
「ふむ、あとで教えてあげようかの」
「えー、今しりたいのに」
「お団子、食べるかい?」
「うん、こにだいすきー!」
 刹那の間に小日本の関心を逸らした。言葉の居合だ。

「シロや」
「は、はい!」
 シロは俺と並んで玄関に立ち尽くしていたが、白狐爺に呼ばれて気をつけをした。
「二人にお菓子を出してやりなさい。お茶淹れるときは火傷に注意するんだぞ」
「は、はいっ!」
 隣の見習い巫女は一つ意気込んで階段を上った。
「へぶっ!」
 袴を踏み、段上で盛大に転んだ。
一段一段が高いこの家屋の階段は、きっと「何事があろうとも、常に心を落ち着かせよ」という戒めが込められているに違いない。

 鬼子は白狐爺に一礼し、小日本の手を握る。小日本はおだんごおだんごと節をつけて歌い、飛び跳ねながら階段へと向かっていた。
「さて、お主は団子より稽古がしたいと顔に書いておるようじゃが」
 見透かされていた。先程の目があったその一寸で俺の心境を全て見破っていた。
「どれ、わしが相手してやろう。如何様な稽古がしたいのかな?」
 多分、少し前の俺だったら、返事の代わりに戦う構えを取っていたことだろう。
打ち負かしてやる、なんて幼稚な感情に任せて突撃していたかもしれない。でも今や戦う以前に降伏していた。

「戦わないで勝つ方法を教えてほしい」
 白狐爺が初めて驚きを見せた。でもすぐに和やかな顔に戻る。
「昨日、鬼と出くわして、戦って、負けた。いざってときになると、考えるより先につい手が出ちまう。
今までの自分のままじゃ、駄目なんだと思う。それで、鬼子が薙刀を振るうのは最後の手段だって言ってたのを思い出したんだ。
俺、鬼子みてえな戦い方をしてみたいんだ」
 しわくちゃの、彫りの深い眼が、一言一句洩らさず聞き取ろうとしていた。ときおり頷いて、述べ終えたあとで頭を撫でられた。
何もしてないのにご褒美を貰ってるみたいでむずがゆかった。

「相変わらず生意気な口をきくのう」
 そう言ってふぉっふぉと笑われた。顔が火照ってくるのが分かる。何か言い返してやろうと思ったが、その前に白狐爺が続ける。
「じゃが、心意気はまっすぐ育っておるようでなにより」
 少し褒められるだけで嬉しくなってしまうのが癪だったので、釣れない顔をする。それが精一杯の抵抗だった。

「じゃが」
 その一言で空気が一変する。
「わしがその稽古を付けることは出来ぬ」

246:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:23:01.77 GUrlD4Qv
   八の六

「な、なんで―」
「なぜなら」
 白狐爺の声は決して大きくない。囁きと言ってもいい。それなのに、俺の反論を封じるには充分すぎた。思わず後ずさってしまう。
「あれは鬼子が培ってきた心なのであるからな。それに、今のお主には合わぬじゃろう」
 合わない。それってつまり、俺には才能がないってことなのか?
 だってそうだろ?
俺の唯一の支えである、憧れである存在と同じ高みに行けないなんて言われたら、あとはもう絶望するしかないじゃないか。

「よいか、戦うことは、生きることじゃ。戦う道は、生きる道じゃ。鬼子の道は鬼子のものであるし、お主の道はお主のものである。
お主が鬼子の培った道の上で戦おうなど、それこそ宿世が許さぬというものじゃ。お主はお主の道を究めるが良い。
そのためにも大いに悩みなさい。苦心して見つけだしたものこそ、真の生きる道じゃよ」
 きっと白狐爺の言ってることは正しい。同時にとてもありがたいお言葉だってことも分かる。
 でも、今の俺には、それすら老人の言い訳にしか聞こえなかった。

「なら俺は……俺はどうすればいいんだよ。俺の道なんてとっくに否定されちまってるじゃねえか」
「否定なんて、されてはおらぬよ。ただちょっとばかし、道に迷っておるんじゃ。大切なことよの」
 白狐爺は相変わらず物静かで、諭すようで、小さい子に物語絵巻を語り聞かせているようだった。

「お主と初めて会ったときのこと、今でもはっきり覚えておるよ」
 もう四年前になる。俺が鬼子に仕えようと決心してすぐのことだった。
「わしが鬼子に近付いただけで、お主はこう言ったんじゃ。『俺の飼い主に手を出すな、鬼子は俺が守る』とな」
 ガキだったころの俺は、白狐爺を敵と認識し、牙を剥いて威嚇したんだった。あの頃は鬼子だけだった。
「あれから、お主の道は始まったのではなかったのかな?」
 鬼子に助けられ、鬼子と共に旅立ったあの日。
 確かに今の俺はあのときから始まった。

 鬼子は俺が守る、か……。
 その志が、知らぬ間に独りよがりな考えに変貌してしまっていたのだろうか。
 強くなりたい。
 いつの間にか、そんなことしか考えてなかったような気がする。

「おじいちゃあん! おじいちゃんおじいちゃん!」
 物思いの邪魔をしたのは階段を慌てて降りるシロだった。
「なんじゃ、もっと静かに急げんのか」
「そんな、無茶言わないでください!」
 慌てず、焦らず、急げってことか。
「それより助けて下さい、こにったら宝物庫に行きたいって聞かなくて……」
 遅れて小日本と鬼子も稽古場に戻ってきた。ここに来た名目をうやむやにしていたのが気に入らなかったのだろう。
こりゃもう、お団子より先に宝物庫に行くしか解決の術はない。

「すみませんお爺ちゃん。あの、こにぽんに護身用の武器を下さいませんか?」
 鬼子も小日本の性格を承知しているみたいだった。
「遊んで怪我しないように、危なくなくて安全なものがいいんですが……」
 いや、それ武器じゃねえよ、玩具だよ。と言いたいが、そんなこと言ったら面倒なことになるからやめる。

 白狐爺は一息ついて、小日本を手招きする。
「よし、こにが大人かどうか、すぐに分かる武器をあげよう。じじさまと一緒に行こうか」
「ほんとっ? いくいく!」
 鬼子の元を離れ、とてとてと白狐爺の元へ駆け寄る。
白髪の老人が小日本を抱き上げると、桜着の少女は実に嬉しそうな笑みを漏らした。

 やはり、ここが小日本の故郷なんだな、なんて思った。
 ……そうして、小日本の過去についても、俺はほとんど何も知らないことに、今更気付くのだった。

247:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:23:37.35 GUrlD4Qv
   八の七

 初めて来る場所だった。位置としては拝殿の地下辺りだろう。
中はひんやりとしていて薄暗いが、牢獄のような淀みは一切感じられなかった。
 宝物庫は神器マニアの白狐爺が集めた使い手のいない神器を納めている倉庫だ。神器と言っても大層なものではない。
人間にとってはえらくありがたいもんかもしれないが、神さまにとっての神器集めは骨董品集めのようなものだ。
 ちなみに鬼子の薙刀もこの倉庫にあったものらしい。般若面と小日本の恋の素はまた違った経緯で賜った神器なのだが。

 提灯が神器の林を掻き分ける。柄杓のようなものから、膠(にかわ)状の歪んだ人間の顔を縫い合わせたような物体まで、
実用性のありそうなものから何に使うのか理解不能なものまで所狭しと陳列されている。
「おったおった」
 提灯をシロに預け、白狐爺は乱雑に立てかけられた長物たちから、一際長い刀を取り出した。
 目測四尺八寸。小日本の身長は無論のこと、俺の身長とほとんど大差のない見事な野太刀だった。

「霊刀『御結(おむすび)』じゃ。ほれ、鬼斬に似て長くて格好良いであろう?」
 黄金色の頭と鍔、漆塗りの鞘、藍色の鞘はきっと俺が生まれるより何百年も昔から呼吸をしているのだろう。
その深みに、言うまでもなく小日本の瞳は輝きだした。
「じじさま、もっていい?」
 当然とも、と白狐爺がそれを少女に与えた。爺さんが手を離すと、小日本は体勢を崩して刀に振り回される。かなり重いらしい。
 それでも懸命に足を踏ん張り、丸太を持つようにして御結を抱きしめる。
「じじさま、ぬいて、いい?」
 平然を装おうと努力しているのが丸見えで、思わず顔が綻んでしまう。
「よいとも、何事も挑戦じゃ」
 白狐爺は自分で言って、自分で頷いていた。小日本は張り切り爪先立ちになって鞘を抜こうとするが、びくとも動かなかった。

「貸してみろよ」
 小日本の力じゃ抜けないのだろう。御結を奪い取る。なるほどこれは重い。こんなもの俺でも扱えないと思う。
「あー、それこにの! かえして!」
 小日本の訴えを無視し、鯉口を切ろうとする。
 しかし、鞘はびくともしなかった。錆ついているとかそんなちゃちなもんじゃない。
刀自身が抜かれるのを拒んでいるような、そんな感覚だった。

「わんこ、返してやりなさい」
 時間切れだった。悪戦苦闘しても抜けない。悔しいが持ち主に刀を戻さなければならない。
再びバランスを崩す。白狐爺がそれを支えた。
「こにや、御結はの、大人にならなければ抜けぬのじゃ」
「じゃあ、こにはやっぱり、コドモなの?」
 少し寂しそうな顔をして呟く小日本に、白狐の老人は優しく微笑んだ。
「落ち込むことはない。その刀はわしでも抜けぬ」
「じじさまもコドモなの?」
 素朴な疑問に、ふぉっふぉという笑い声が蔵に響いた。
「それはな、大人になったお主にしか抜けぬ。
その代わり、抜くことが出来ればお主の心に宿る力を最大限引き延ばすことが出来よう。そういう刀なのじゃよ」
 そう言って、小日本の帯に結ばれた恋の素をほどき、鞘尻に結び直した。しゃりん、と鈴が揺れる。

「こには、皆が仲良しになれたら良いと言っておったな?」
「うん! こにはね、みーんなおともだちがいいの!」
 その嬉しそうな喜びに溢れた笑顔を見て、白狐爺は大きく頷いた。
「その志、忘れるでないぞ。ほれ、万歳」
 桜色の振袖が揺れ、花びらが舞う。白狐爺は下緒を肩から斜めに掛け、胸の前で緒を結んだ。
背中の長ったらしい刀が左右にぐらぐら揺れる。平衡感覚を養うにはうってつけだな。

248:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:24:11.81 GUrlD4Qv
   八の八

「あの……」
 今まで口をつぐんでいた鬼子が申し訳なさそうに質問する。
「抜けないまま鬼に出くわしたときはどうすればいいんでしょう?」
 自己矛盾な注文をするのはきっと小日本のことが心配で仕方がないからなのだろう。
そんなこと分かってる。分かってるけど、少しは自重しようぜ……。
「もしものときは、鈍器として使いなさい」
「うん!」
 鈍器って、身も蓋もねえなおい。
 小日本の元気な返事に、背中の刀が暴れる。危うくシロの顔面にぶつかりそうになった。
ある意味、不意打ちを不意打ちで反撃する可能性を秘めていた。

 しかし、一つだけ心残りがある。
 ―それはな、大人になったお主にしか抜けぬ。
 まるで、小日本が生まれるよりずっと前から、小日本に仕えるためだけに鍛錬されたのだと言っているようなものじゃないか。
 なあ、白狐爺、それってどういう意味なんだよ……。

 しかしその問いをする機会は、もう来ることはなかった。
 外から法螺貝の警報が鳴り響いたんだ。
「鬼じゃ」
 静かな面持ちのまま白狐爺は大きな老白狐の姿に変化した。
「シロは避難しに来た民を誘導せい。こにはこの社をしっかり守るんじゃ」
「はいっ」
「こに、がんばる!」
 手短な指示に二人は頷いた。
「鬼子とわんこは付いてきなさい。何があろうとも、村の域には入らせぬぞ」
「応ッ」
「わかりました」
 俺と鬼子は頷き、そして獣の姿に成った白狐爺の後に続く。

 疑問は山ほどある。鬼子のこと、小日本のこと……。でも今は四年前の自分の言葉だけを反芻していた。
 ―俺の飼い主に手を出すな、鬼子は俺が守る。
 まだまだガキんちょで、声変わりもしていなかったあの頃の自分は、ただただ、懸命にそのことだけを考えていた。

249:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/04 14:29:53.78 GUrlD4Qv
>>239
ちゃんと熟成できてたらいいんですが、やはり反応は気になるところです。

この作品は編纂、ということなので、極力オリジナルの設定を盛り込まないよう心がけてはいます。
(過去の作品群の読みが足らずに結果オリジナルが滲み出てしまった箇所もありそうですが)
ええもう精進いたします。

250:創る名無しに見る名無し
11/10/04 16:10:38.22 gAlUhkpM
>>241-248
お疲れ様です!
いや、もうホント「しっくりくる」って感じですね。
鬼子創作の王道、というか。

自分なんか邪道もいいとこ邪道のモノしか創作出来ないんで、
ここまで巧く中道を行かれるとちょっと悔しいくらいですw

251:創る名無しに見る名無し
11/10/06 00:00:21.90 diNLHSLO
>241-248
乙~ 色々登場したな~ やっと登場させたのはシロか狐じーさんかどっちだっ?!
白狐といい、ハンニャーといい、神代の世代が割りと多いな?! 案外ハンニャーと白狐も面識あったりするのか?
それはともかく、わんこもなんというか下手すりゃ主役張れそーだな~

ヒワイ、その程度の乳の話でも寄ってくるのか?!感知能力パネェっ!?田中さん身の危険を感じて
ヒワイが拘束されている時に~とかいってたけど、群れて顕れるなら意味ナイヨっ!見方を変えればそれ神隠し!
田中さんの明日はどっちだっ?!

シロちゃんはわんこ以外でもヘマやってぶっ倒れてツンツンされてそーだっ!主に木の小枝とかでW

252:創る名無しに見る名無し
11/10/06 02:56:20.42 FgFiJQGg
>>241-248
今回も楽しかったです!!

ヒワイドリは(人にとりつかない限り)直接的な行為には及ばない輩かな、と思ってましたがww
まあ年頃の女の子が警戒するのは分かりますわ~。
あと卑猥神輿が面白すぎるw似たようなのがかるたの絵にありませんでしたっけ?

白狐爺ちゃんの只者じゃなさに、物語世界の奥行きを感じます。
あと、シロの天然っぷりが微笑ましくってにやにや。
なんというか、歌麻呂さんの小説って、絵が思い浮かぶ描写ですよね。

御結の描写もいいですねー。
鈴が代表デザインの定位置についた!とか、大人こにぽんかっこよす!とか、一気に妄想が膨らみました。
あと、御結がわんこでも扱いづらそうな重い刀ということで、
そんなのを背負いっぱなしで戦えるのかなと要らぬ心配をしてしまいました。
鈍器wにしたって隙ができそうですし…。
まあ逆に言えば、これで体力を鍛えられるのかも。

そうそう、「俺の唯一の支えである、憧れである存在と同じ高みに行けないなんて言われたら」
のところで、「みずのて」のわんこが浮かびました。
何かを必死に追う姿って魅力的で、それを憧憬の念で見上げる人だっているんだよね。
そういうこと、わんこ本人には見えていないんだろうけど、そこがいい。

次回は実践篇の予感…って、鬼が卑猥神輿だったらどうしようww
それともわんこの過去篇かな?いやーさらに青いわんこも見てみたい!

253:創る名無しに見る名無し
11/10/06 21:30:15.96 3wPlzDmS
・・・ん?あれ?読み返していたら狐爺、こにぽんの刀見っけた時、「おった、おった」言ってるのな。
「あった」の方言にそういうのあるのかな?それとも人格でも宿っているのかな?あの刀

254:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/07 20:57:48.01 CSxUNyra
わわ、こんなに感想をいただけるとは……! 恐縮です。

>>250
しっくりきますか、安心しました……。
でも個人的には、いわゆる邪道な鬼子さんの世界のほうが力強い魅力を感じますね。
いつかその魅力も伝えられたらいいです。

>>251
シロちゃんも白狐のじっちゃんも登場させたかった、というのが正解ですw
  >ヒワイが拘束されている時に~とかいってたけど、群れて顕れるなら意味ナイヨっ!
田中さんもその数と迫力に驚いたそうです。

シロちゃんにはこれからもドジさせていきたいですねw

>>252
卑猥神輿はいつか見たイラストを参考にさせていただきました。感謝と尊敬の念を。
   >歌麻呂さんの小説って、絵が思い浮かぶ描写ですよね。
『日本鬼子』を知らない方にもわかりやすいよう心がけているので、そう仰ってくださると励みになります。

ひとまずここで忠実に代表デザインのこにぽんが誕生しましたかね。
>>188さんお待たせしました。よろしくお願いします。

>>253
メタなことはあまり言いたくありませんけど、
その部分は「おったおった」と「あったあった」でかなり迷いました。
しかし「人格でも宿っている」ですか……なるほどそういう手もありますねw

255:創る名無しに見る名無し
11/10/07 21:07:07.08 sSk8xXwF
せっかくここまで続けておられる事ですし、各一話(又は一レス)ごとに挿し絵を入れて整頓しては?
基礎・紹介用の作品が欲しいと言われて久しいけど、その候補として充分だと思うのですが。絵も付けば更に分かりやすいかと…。
もし自力で描けなくても、親しい絵描きさんがいらしたら頼んでみたり、pixiv等で頼めそうな人を探したり…。
本スレでお願いって手もあるだろうし、確かツイッターで依頼募集中な鬼子描いてる方(炭素さんだっけ?)もいらした気が…。



あ?自分?自分は絵描きでないです。ド下手でございます。余計なお節介で申し訳ございません。

256:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/07 21:52:20.20 CSxUNyra
さ、挿し絵とは何と恐れ多い提案を……っ!
そうですね、鬼子さん初見の立場の視点で考えてみれば、
イラストがあると視覚的にも華やいで読者さんも見やすいと思います。
自分も若葉マークの方たちを対象に書いている(つもり)なので、この提案は嬉しいです。

ですが、うーん、なんていうんでしょう。
『【編纂】日本鬼子さん』を書いている身として、
頼んだり募集したりするのがさしでがましく思えて仕方ないんですよね。
そう思う理由は山ほどございますし、
いちいち述べてたら行数オーバーになりうるのでここでは割愛しますが。

私のチンケな落書きでも、「廃墟の月」でも、音楽でも、動画でも、感想でも、
何かを生み出すってのはかなりの体力を使うわけでして、
とてもじゃありませんが、こんな私の口からお願い申し上げることなんてできませんよ。

しかしイラストかあ……。頂いちゃってる姿想像するとニヤニヤが止まりませんねw

257:創る名無しに見る名無し
11/10/08 23:58:46.23 Mp/Y3kaz
しかしようやくSSスレ4が流れたな…。
せっかく異常な荒らしの作品が全部流れた事だし、綿抜鬼って薄気味悪いキャラも掃除して欲しかったり。
あれを見るたびに『もしかしてSS書きはみんな自演してるんかな?』なんて思い出して不安になり、作品を純粋に楽しめないから。

258:創る名無しに見る名無し
11/10/09 00:34:03.20 0Z8e+l6N
>>挿し絵
逆に考えるんだ・・・イラストにSSつければ完璧じゃね?
絵、つけてもらったお礼ではないけど、書いて描かれてなら何度かあったな。あれはあれでオモシロかった。
互いに気に入ったらかく。って姿勢だったのがよかったんだろうけどね。

259:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/09 22:24:44.96 NakW2002
>>258
そ、そいつは完璧ですね!
夏だ水着だ関連のイラストにSSつけた例もありましたし、
過去のものをあされば素晴らしいものがたくさんありますよね。
面白い! と思えたら書く。そうやって作られた作品ほど力強いものはないですね。

260:創る名無しに見る名無し
11/10/10 16:24:02.05 vD96kQ3p
>>257
賛成。あんな荒らしの残した垢が未だにそこかしこにあるのは、鬼子プロジェクト最大級の汚点だわ。
たとえ周りに甚大な迷惑をかけても、作品やアイデアとして面白ければ何やっても良いというなら、
多人数によるプロジェクトとして進めていく事なんて出来ないだろ。もしもっと大きい事(アニメ目指すとか)やりたいなら必須の措置かと。

261:創る名無しに見る名無し
11/10/11 21:06:36.93 krs5jjZF
>>260
じゃあ決まりだな。
奴の作品はSS・キャラ含めて全て完全に封印、外部等で知らずに使っている人がいたらスレ住民で注意を促す形で。
スレ住民による最低限の自治も出来ていないなら、鬼子で創作や販売する周辺へすらも迷惑がかかる。
自演をしている疑いが大きいから、同情誘う奴には耳を貸してはならない。同情による助長がここまで蝕む結果を招いているからな。

262:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/11 22:13:01.03 jsOkAg8n
「縄ほどけ。んで乳の話をしろ!」
「ハアァ?」
「邪魔しちゃ悪いよ」
「あー、最近物騒ですもんね」
「お爺ちゃん、ごめんなさい」
「こに、もうオトナになれた?」
「霊刀『御結』じゃ」
『俺の飼い主に手を出すな、鬼子は俺が守る』
 彼ら彼女ら鬼の子ら、ゆゆしき刀の提げたるを、法螺貝響けば鬼ぞ来る。

TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 スレリンク(mitemite板:80-83番)
一話 スレリンク(mitemite板:89-99番)
二話 スレリンク(mitemite板:128-139番)
三話 スレリンク(mitemite板:176-185番)
四話 スレリンク(mitemite板:196-204番)
五話 スレリンク(mitemite板:216-224番)
六話 スレリンク(mitemite板:240-248番)

次回の更新は10/18(火)を予定しています。

263:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/11 22:14:02.24 jsOkAg8n
【編纂】日本鬼子さん七「朗報だ」
   八の一

 鳥居をくぐり、階段を八段飛ばしで雪崩れるように駆けおりる。鬼はあらゆる獣と同様、腹を空かせたときが一番獰猛になるのだ。
 街道に出る。人々でごったがえしていた。進行方向は俺たちの逆で、社へ向かっている。
ほぼ音に近い速度で屋根を超え、防人のみとなった門に到着した。俺たちの存在に気付いた門番が重々しい門を開ける。
 環濠と明日葉畑と逆茂木と防砂林に挟まれた道の遠方から大量の砂埃を飛ばす白い平板のようなものが向かってくる。

「相手の勢いを利用するのじゃ」
 背中には千の命がある。小日本とシロもいる。一撃の戦い。一瞬の交わりで勝利は決するだろう。
自然拳に力が入ってしまう。こういうときこそ気を落ち着かせなくちゃいけねえってのに。
 長大な鬼が近付く。しかしその輪郭がはっきりするにつれ、一体だと思っていた鬼が小さな鬼の群だということに気付いた。
 馬鹿な、鬼が群れて村を襲うなんて聞いたことないぞ。
飢えた鬼が何体も集まったんなら、村を襲うより先に共喰いを始める。みんなで仲良く「お食事」なんて考えられん。
 いや、そもそも群棲となると短期決戦は臨めない。
敵は五十、いや百は優に超えている。対して俺たちは三。どうやって戦えばいいんだよ。

 うろたえに相手は躊躇してくれるわけもなく、距離は刻一刻と近づいてくる。
 しかし、個々の鬼の姿を見えるようになるなり、俺の―いや俺たちの抱いていた動揺は驚きと呆れへと急転したのだった。
「あとで小言を言わねばなるまいな」
 白狐爺がひとりごちた。
 地鳴りが聞こえ、地面が縦に揺れる。
 そして、『心の鬼』の大群は俺たちの目の前で停止した。

「あれ、お出迎え……にしては、あまりよくない空気だね」
 そいつの正体は、大量のヒワイドリと、そして真っ青な顔をした田中匠だった。

  φ

 地震雷火事親父といえば恐ろしい四天王として名高いけども、アタシはあえてここで違う説を提示しようと思う。
「親父は地震・雷・火事の力を持ち合わせてるんじゃねえの説」と名付けておこうか。
「この、うつけ者が!」
 その怒鳴り声に大地は揺れ、稲妻はほとばしり、そして激昂する身体から目に見えない炎がこうこうと燃えあがっている。
 うん、あながちアタシの仮説も間違ってないんじゃないかと思う。

「お主、どれだけの民を恐怖に陥れたのか、わかっとるのか!」
 真っ白い巨大なキツネが赤いトサカのヒワイドリをかんかんに叱りのめしていた。
日本さんに怒られても平然としてるヒワイドリも、さすがに応えてるみたいだった。
「日本さん、あの怖いお爺ちゃんキツネ、人間の姿になれちゃったりする……んだよね?」
 みるみる生気を奪われている心の鬼をよそに、そんなことを訊いた。というか、そもそも喋ってる時点で普通の動物じゃないけどさ。
「ええ、そうですけど、何か気になるんですか?」
「いや、別に」
 感覚がどんどん適応しちゃってる自分に苦笑いする。
日本さんの影響なのかよく分かんないけど、最近あっちの世界で幽霊みたいのを目撃しても、
神さま的な何かなんだろうと括ってムシして終わっちゃうんだよね。慣れって怖いわ。

「何しに来た、田中匠」
 わんこ坊主が雑談に加わる。
 そう言えばなにしに来たんだっけ。こにぽんに謝る……のはヒワイドリが言ったことで、自ら提案してはない。
受動的にこんな場所まで来ちゃったんだと今更実感する。
「あ、そっか、ごめんね、日本さんとこにぽんと水いらずだったのに」
 まあ、今こにぽんの姿は見当たらないんだけどね。多分このデカイ門やら板塀やらトゲトゲしたワナみたいのやらに
囲まれた村の中にでもいるんだろう。とりあえず、アタシの立場は冷やかし以外の何者でもない。
 そのとき、門が内側から開かれた。

264:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/11 22:14:44.66 jsOkAg8n
   八の二

「白狐様!」
 息も絶え絶えの鎧姿の男性が這い出るように門から現れた。
侍……というにはあまりにも簡素な防具だ。まあ見張りさんにしてはそれなりによさげな装備だと思う。
 こっちの世界で見た初めての人間だった。
「鬼です! 海に鬼が打ち上げられてます!」

 落ち着いた雰囲気が一変した。日本さんもわんこも、当然アタシも、言葉を失う。
「……動きはどうじゃ?」
 ただキツネのじっちゃんだけが淡々と状況確認を続けていた。
 正直、結構な罪悪感を抱いてしまう。日本さんたちが一匹の鬼を祓うのにどれだけの集中力を使うのかはよく知っている。
伊達や酔狂で鬼子さんと心の鬼祓いをしてきたわけじゃないから、それくらい分かる。
 一度気を抜いてしまってから、再び集中力を高める困難さだって、身に沁みるほど知ってるんだよ。
 アタシたちのとんだ茶番のあとで、もし凶暴な鬼が出没したとしたら……。

「畜生、何もかも鬼子のせいだ!」
 鎧の男が突然日本さんを睨みつけた。
「貴様が、貴様が鬼を呼びだしたんだな! この村を滅ぼすために、裏切るために!
あのときからそうだ! 俺は、俺は貴様を恨んでいる、憎んでいる!」

 今、アタシの何かが崩れたような気がした。
 それを無理やり言葉に表すとすれば多分「日本さん神話」のようなものだと思う。アタシの中の神話が解体されていく。
 あの言葉を思い出す。

 ―怖いんです!
 ―私は、人間じゃないんです。異形の存在です。
その違いを知ってしまったら、きっともう今までのように私を見ることなんて、できないです。

 鬼手枡との戦闘を目前に、日本さんは中成になることを恐れていた。自分が鬼であることを気にしていた。
 どうしてあんなに怖がっていたのか、その根本的な意味を今まさにアタシは理解した。
「ますらおの民よ、やめなさい、単なる偶然じゃ。その怒りこそ、鬼の拠り所となるぞ」
 白狐さんが男をなだめ、たしなめる。でも焼け石に水と言うか、男の怒りが静まる気配はなかった。
「白狐様の仰る事はなべて正しいです。
しかしながら! 何故穢れ多き鬼をお庇いになられるのですか! 彼奴らが来やがる度に我々は―」
「慎みなさい、守神様すら彼奴と呼ぶか」
 守神の見習いわんこは、ただ俯き、尻尾を硬直させて拳を震わせていた。

 アタシは、何もできなかった。俯くことも震えることもできず、ただ茫然としていた……んだと思う。
「失礼、つかまつりました」
 腰を直角に曲げる。鎧の擦れる音がした。怒りを極度に抑えているのか、棒読みの謝罪だった。
「物事の内を視る眼を養いなさい。左様に努めればお咎めは無しじゃ」
「勿体無き御言葉」
「匠さんや」
「は、はい」
 ほとんど何も耳に入ってこなかったけど、白狐おじいさんの呼びかけだけはなぜかすんなりと耳の奥にまで届いた。
「ヒワイドリを連れて社に行きなさい。ますらおの民や、丁重にこの乙女を案内せい」
 鎧の男は無言で歩きだした。慌ててその後ろを歩く。
 多分、この人はアタシの想像以上に疲れているんだと思う。そして、日本さんはもっともっと疲れてるに違いない。
 でも余裕なんてちっともなくて、門をくぐる前に能天気な笑顔を見せることすらできなかった。

 というか、ちょっと怖かった。
 日本さんがどんな顔をしてるのか、見たくなかったんだ。

265:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/11 22:15:27.79 jsOkAg8n
   八の三

   φ

 なんてことはない。
 鬼子が貶されることだって、俺がそのとばっちりを受けることだって、実によくあることだ。
 だから俺は気にしてない。気にしないよう励んでいる。
 実のところ、あの人間を喰い殺してやろうかと思った。
鬼子への暴言もさることながら、白狐爺の面前で無礼をはたらいたことで頭に血が上りそうになった。

 ―その怒りこそ、鬼の拠り所となるぞ。
 この一言がなかったら、確実に俺の牙は赤く染まっていた。あの人間に向けた言葉は、俺に向けられた言葉でもあった。
 爺さんのおかげもあって俺はなんとか堪えることができたものの、鬼子はまた違う傷を負ったに違いない。
 田中に一番見せたくなかった姿を見せちまったんだ。あの何も考えてなさそうな田中も心理的な強い影響を受けたに違いない。
 今の鬼子の精神状態で鬼を祓えるのか?
 いや、鬼子は俺が守ってみせる。例え鬼子が戦えない状態でも、その分俺が動けばいい。

 防砂林を超え、砂浜に行き着いた。空は厚い雲に覆われ、海は風に煽られ白波が立っていた。
そして、波打ち際に鮫のきぐるみのようなものがうつ伏せに倒れていた。
 奴が堕ちた鬼なのか心の鬼なのかは定かでないが、後者だったら鬼子の弱った精神につけ入らせないようにしなきゃいけない。
「私が祓います」
 薙刀を取り出し、一歩二歩と砂を蹴った。
「お、おい、大丈夫かよ」
 心配で、ぴくりと足が動いてしまう。
 鬼子に付いていくべきか、鬼子に任せてここで待つか……。

「わんこや」
 俺の僅かな動揺を白狐爺は見逃さなかった。
 とどめられるのか? きっとそうだろう。
「鬼子に憧れとると言っておったな?」
 それは稽古場でのことだった。白狐爺は覚えてくれていたんだ。
「行ってきなさい、しっかり学びとってくるんだよ」
 それはとどめの言葉ではなかった。
 俺の背中を押してくれたんだ。
「はいっ!」
 腹から声を出す。白狐姿の爺さんは目を細めて頷いた。

 鬼子の足跡を二歩分飛ばして追いかける。潮風に揺れる黒髪が近付く。それから息を整え、鬼子の隣で歩幅を合わせた。
 瑠璃色、なんて洒落た言葉は似合わない。真っ青な鮫が半ば波に呑まれつつ打ち上げられていた。
胸びれが人間の腕の形をしており、尾びれの根に鮫肌の獣の脚が生えていた。鬼子は気を失った鬼の前で屈みこんだ。
 そのとき、鮫の鬼がビクリと痙攣し、しゃちほこのように顔をあげた。
「ち、血いぃっ!」
 鬼子を目にした途端絶叫し、立ち上がっては釣り合いを崩し、波打ち際でおぼれていた。
鮫の姿をしているくせに、泳ぎはあまり得意じゃないのかもしれない。いや、単に混乱してるだけだな。
 まあ、つっこむべきところは他にもある。

「血? 血って、どこにあるんだよ」
 「ひい」ならまだ分かるが、明らかに「血い」と言っていた。
そういう言葉しか喋れない鬼なのかもしれないが、こんな怖がりな鬼は初めて見た。
「……へ?」
 鮫の鬼がえらを激しく開閉しながら鬼子を見つめる。
「すす、すまんよぉ。あ、慌ててたもんだから、てっきり紅葉柄のそいつを勘違いしちまったんだべさ」
 と、奴は鬼子の衣を指差した。確かに、言われてみれば血潮と勘違いしないでもないが、さすがに無理があるような気もする。

266:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/10/11 22:16:02.98 jsOkAg8n
   八の四

「お、怒らねえでくれ。間違ったのは謝るから、怒らねえでおくれよ」
 鮫の鬼はさめざめと―決してだじゃれではないが―すすりはじめた。なんというか、いちいち行動がおかしくて笑えてしまう。
 負の思考を持つ鬼は心の鬼である可能性が高いと般にゃーが言っていた。今回の場合は心の鬼で間違いないだろう。

「私は、怒ってなんていませんよ」
 鬼子が口を開いた。
 それは、まるで耳元でささやいているような、子守唄のような声だった。
「鬼さんは、私のこと、怒ってるように見えましたか?」
「それは……見えねえけどよ、そ、その手に持つもんはなんだべ? おっおっ、おらを、きるっ、斬る気けえ?」
 どもりながらさすその指は目で見えるほどに震えていた。
 しかし、言ってることはつまり、薙刀を捨てろ、ということだ。
鬼の前で武装を解除するということは、相手に首根っこを掴ませる行為と等しい。

「あ、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。薙刀はここに置いておきますね」
 しかし、鬼子はそんな行為ですら平然とやってのける。背中側の浜に鬼斬を置いたのだ。
「ふ、ふかひれ……」
 わなわなと震える鮫の鬼をよそに、鬼子はちらりと俺に目配せする。
 信頼されていた。
 だから、俺も鬼子を信じるために、「もしものこと」がないように、心の鬼に対する敵意を最小限にまで抑えるよう試みた。

「あなたは、とても繊細な心をお持ちなんですね。
私を見て驚いてしまったことに深く心を痛めて下さいました。相手のことを思いやれる、優しい心の持ち主です」
 心の鬼はほんの少しだけ頬を緩ませるが、すぐに青ざめた表情に戻ってしまう。
「そんな褒めちぎられるもんじゃあねえよ」
 それはなんとも言えない悲しみを帯びた顔だった。
「なんもしてねえのに、人間はみんな怖がって仲間外れにするんだ」
 きっとそれは、この鬼の宿命なのだろう。怯えきった姿は人間の恐怖や不安が具現化したものなのだ。
恐怖に毒された人間が恐怖の権化と仲良くなろうというほうがむずかしい。

「おらなんてどうせ必要ねえ存在なんだ。だから、山から身投げすればいいと、おらなんか死んじまえばいいと思ったんだ。
でもな、崖っぷちに出た途端怖くなっちまって、代わりに海で身投げしたんだ。溺れて、流されて、そしたらおめえらがいたんだべ」
 臆病なくせに実に切実な口振りだったから笑いを堪えるのに必死だった。
 しかし、こんな滑稽な鬼ではあるが、嘘吐鬼のように人間の感情を吸い取って具現しているんだ。
完全に気を抜いたら奴の邪気に一瞬で呑まれてしまうだろう。

「やっぱり、優しい心の持ち主ですね」
 そう鬼子は切り返した。
「でも必要なくなんてないです。私には必要なんです」
 鬼子の心の中には、もう鬼を祓おうという考えはないのかもしれない。
あるのはただこの鬼を慈しむ心だけだ。同じ鬼として生きる存在として、心を砕いているのだ。
「なあ、どうしておめえは、そんなあったけえんだ? こんなおらをどうして見捨てようとしねえんだ」

「私が、日本鬼子だからです!」
 その凛とした訴えが海岸に沁み渡った。波の打ち寄せる音がしばし場を繋いだ。
「ひのもと……そっかぁ、おめえ、お天道様なんだなあ。あったけえわけよ」
「いいえ、あなたと同じ、鬼の子です」
 そう、鬼子は神さまではない。人間の心を持つ鬼に過ぎない。

「いんや」
 青ざめた鬼は、ゆっくりと首を左右に振る。
「おらにゃあ、敵いっこねえベよ」
 俺もそう思う。


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