【鬼子たんの】鬼子Lovers【二次創作です】at MITEMITE
【鬼子たんの】鬼子Lovers【二次創作です】 - 暇つぶし2ch150:創る名無しに見る名無し
11/08/15 13:47:50.12 TIBo27w3
>>147
賛成はできないなぁ。
荒らしに攻撃されたらその作品には触れちゃだめ、っていうなら
荒らしの標的にされたらもうおしまい、っていう状況を作っちゃうよ。

でもまあフトモモの話をしようじゃないか。

151:創る名無しに見る名無し
11/08/15 15:41:23.04 8kQjnHbb
つか、何でいきなりルール云々の話を活発になりだしたここで始めてるんだか。そんなに気に食わないのか。活発になるのが。
そうでないなら、避難所でやれはいいだろ→URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
 つまり、だ。結論からすると乳は素晴らしいという事だ。

152:創る名無しに見る名無し
11/08/16 12:40:53.43 d7nDO7vH
そうだよな。スレが活気づいて自分の作品が埋もれるのが相当嫌で、自演を繰り返しているんだろうな、綿抜鬼の人は。
もうこれ以上荒らされないためにも彼の作品群や、彼を擁護する荒らしには一切触れない様気をつけないと。
元ネタにあんなグロ要素利用して、呪術の真似事で鬼子プロジェクトを潰そうとしていたんだね…ビックリだよ。

153:創る名無しに見る名無し
11/08/16 12:51:26.90 jajyd48g
じゃあ決まりだね。彼の作品に触れる荒らしも、彼をダシにスレを荒そうとする荒らしも、
どちらも一切触れないという事で良いでしょう。綿抜鬼は人気だったけどしょうがないよね。
そもそも「荒らしは一切スルーでお願いします」はスレ入口での、
鬼子ちゃんとの最初のお約束。それが守れていなかったのは反省すべきだね。
あと呪詛云々はさすがに違うと思うぞ。自演はしていただろうけど。

154:創る名無しに見る名無し
11/08/16 18:49:14.61 iDCl7KPR
じゃあ決まりだね(キリッ
毎度のこと名無しさん乙。議論所でやれ

155:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/16 19:16:31.74 3HktHMoN
自転車で一泊二日の東京湾一周の旅から帰ってきた歌麻呂です。
得るものはあった、はず。

>>143
さすがヤイカガシ、みんなの嫌われ役ですねw
きな臭い伏線、どうなるんだろうなあ……。

>>146
視点変更の件了解です。
これからも分かりやすい視点変更を心掛けて行こうと思います。
  >長芋さん漫画やおによめでの華陀さん漫画のテーマにつながるわけですね!
基本ミメーシスは避けてるつもりですが、どうなることやら……。
どう転ぶのか、自分でも楽しみだったりしますw

156:panneau ◆RwxKkfTs..
11/08/16 23:22:16.96 2K/rrRh3
2スレ目
【長編文章】鬼子SSスレ2【巨大AA】
スレリンク(mitemite板)
のdatが不完全なので誰かくだちい。

157:創る名無しに見る名無し
11/08/17 06:27:57.14 zVeRsXaZ
これわまた・・・・ワタヌキが魅力的に見えるSSを書きたくなる流れに!?
今まで特に意識してなかったけど、何か考えてみようかしらんv
スルーされるなら好きにできるよねw もっとも、R-18 R-18Gルールは守った上でねv

158:創る名無しに見る名無し
11/08/17 09:46:58.44 g2mGXD1V
>>157
奇遇だな俺もそう思った

159:創る名無しに見る名無し
11/08/17 12:33:13.39 zOvM6G9Y
よっしゃ!!じゃあ中国人を惨●し続けていた綿抜鬼が、日本のオタクと出会って、
その暖かさやキモさに触れたり会話している内に、自らの過ちに気付いてゆき、
悔い改めて浄化され、自分と同様邪気に憑かれた人々を祓う『日本鬼子』へと変身する話がようやくかけるな!!
やはり政治系統と切り離しては、このコンテンツは意味をなさないからね。

160:創る名無しに見る名無し
11/08/17 12:45:30.59 jsmtWZ6D
ああ、なんだ。どうりでタイミングが良いと思ったら本スレ115の人か。
綿抜鬼を潰して自分のキャラをねじ込むか、出来なければ逆に利用してどちらにせよ政治系OKとさせる。
そのためにここまで粘着していたんだね…。外部でも平気で鬼子を石原憎しのマスコットに利用しようとしてたけど、
一体何の恨みがあってスレ潰し・主旨改変にここまで力を注げるの?またID変えて逃げるんだろうけど、私には理解出来ないよ。

161:創る名無しに見る名無し
11/08/17 13:45:17.96 Cbqju1bv
おまいら最低限のルールはまもれや。それ前提でなければ綿抜鬼おしは意味ねえぞ
>>160
115
今回は勘弁してやれ。前のと違ってそっち方面はやらかしてねえだろ。あとそれ半分以上は妄想じゃね?
ちゃんとした根拠や証拠がねえならあんたがバカにしている奴以上の糞野郎に成り果てるぞ

162:時の番人 ◆B1etz7DNhA
11/08/17 18:59:55.19 xV3KJkIC
短編小説
『心の鬼とは』~ある女子大生、夏美の話し~

 今年の春から大学生となった夏美は、独り暮らしをしながら自由に学生生活を堪能していた。
今は夏休みなので、朝から夕方までアルバイト。夕方からは大学で知り合った新しい友達と
夕食会や飲み会、またはコンパやクラブで朝までGO~っと毎日忙しい日々を送っていた。
今日は一人で“こみけ祭り”。友達には、まだ自分の趣味を教えてないみたいだ。
何故なら、【漫画大好き!】と言う事にちょこっと恥ずかしさが残っていたようで、
言い出せずにいた。夏美は、会場の前でチラッと空を見て溜め息をついた。

「あぁ~、エネルギーポイントが吸い取られていく~」

夏の太陽が自分だけに降り注ぎ、体力を吸い取っている様な感覚に陥りながらも、
ユックリと会場に向かい足を進めていた。会場内に入ると、体が勢い良く回復していく。

「あぁ~回復呪文が充満スペースに到着~」

実際には、だた冷房が効いているだけなのだが、夏美の脳内解釈では回復呪文なのだろう。
好きなサークルのブースに行っては、目を輝かせて物色&お喋り。
時間が経つのも忘れて、キョロキョロと歩き続けていた。
楽しい時間を過ごしている時は、歩く時間が勿体無いので、
必ず早歩きで目的の場所まで行き、うだうだやっているのだが、
今日は、何かが違う。足が非常に重いのだ。
この会場に入ってから5時間が経った。昼食も取らず歩き回る事はいつもと同じ。
しかし、体が非常にだるくて足が重い。
体の調子が悪くなってからは、目的も無く、ボーっとホールの中をさまよっていた。

「お嬢ちゃん」

何となくそう呼ばれた気がしたので、ふと顔を上げてブース内を見た。
その中は、テーブルが一つ置いてあるだけ。
夏美は一度、手で目を擦り、もう一度ブースの中を見た。
すると、そのテーブルの真ん中に小さな青色のぬいぐるみが置いてある。
この会場内でテーブル一つとぬいぐるみがひとつのブース・・・。
テーブルには、張り紙がしてある。
【ご自由にお持ち帰り下さい】と。
それに、夏美の後ろを歩いている人達は、このブースに気付いていない様にもみえる。
変だなと思いブースNOを見ると、北地区オ-25と書いてある。

「北地区?ここって西と東しか無かったはずなんだけど・・・」

と思いながら、隣のブースを見ると東地区イ-34bと書いてある。

「やっぱり東地区だよね。表示が間違ってるんだわ」

隣の東地区イ-34bのブースを外から覗いてると、誰かが椅子に座りながらうなだれていた。

「横スクロールがぁ・・・」

とか何とか言っているその男性の手には、北地区オ-25に置いてある青いぬいぐるみと
同じ物が握り締められていた。
夏美は、他の人も貰ってるし、それに後一つしかテーブルに置いてなかったので、
とりあえず、その青いぬいぐるみを持ち、自分のBAGの中に入れた。
体調が優れない夏美は、そのまま家に帰りベッドの中に入った。
まだ夕方5時過ぎくらいだったが、夏美は深い眠りについた。

163:時の番人 ◆B1etz7DNhA
11/08/17 19:00:31.22 xV3KJkIC
 【コン・・・コン・・・】

 夜中の2時を少し回ったくらいに、小さな音が原因で夏美は目を覚ました。
まだ寝ぼけた状態だったので、目を少し明け、天井を眺めていた。

 【コン・・・コン・・・コツン】

また小さな音がした。
音のする方に顔を傾けようとしたが、何故か首が動かない。
【あれ?】と思い、今度は手を持ち上げようとしたが・・・動かない。

「な・・何これ・・・。もしかして・・・金縛り??」

そして・・・ユックリ・・ユックリと足首が締め付けられる。
そのまま・・・足がベッドに沈み込む様な感覚に陥った。
夏美は悲鳴を上げようとしたが、声も出ない。
身体から冷や汗が流れ始めた。
足首を締め付けていた何かが、今度は膝辺りを締め付けている。
夏美は・・・ユックリと自分の顔を持ち上げると少しだけ動いてくれた。
そして、そのまま自分の膝辺りをそっと見てみると・・・
白くて・・生ぬるく濡れた手が夏美の膝を押さえ付けていた。

【キャアアアアアアアァァァァァーーー】

声にならない心の叫びを出した夏美は、そのまま気絶してしまった。

「なんだ。また休胎鬼(きゅうたいき)でゲスか。
 さっきの男と同じでゲスね。散らさずこのままにしとくでゲス」

部屋の中からそんな声が聞こえてきた。誰の声なのか、何処から聞こえるのか。
夏美は、気絶しているのでこの声は聞いていない。

 翌朝の7時30分頃、夏美は猛烈な暑さにさいなまれ飛び起きた。
エアコンをつけずに寝ていたので、汗だくになりながら目を覚ました。
そして、辺りを見回すが、誰も居ない。

「フウ・・・怖かった・・・。金縛りって始めてだわ」

と溜め息を付き、部屋の中の空気を入れ替える為に、ベランダの窓を開けた。

「あれ?お気に入りのパンツが無くなってる・・・」


 皆さんは金縛りにあった事があるだろうか。
学校のクラブ活動が忙しい、受験勉強や会社の仕事が山済みで寝る暇も無い。
そう・・身体の異常を示すサインが金縛りで、動けなくなるのは良い事なのだ。
そんな時は身体を休め、ユックリしていれば自然に治っていく。
しかし、本当は心の鬼が身体を動けなくしている事に誰も気付いていない。
昔の人達が、金縛りと言う言葉に置き換えて、心の鬼の存在を打ち消したのかもしれない。
“休胎鬼(きゅうたいき)”は、身体を酷使している人に取り付きやすい。
そして、取り付いた人の身体を動けなくして、体力を回復させる心の鬼なのである。

本当は・・・「心の鬼」と一言で表す事は出来ないのかもしれない。

おわり

164:時の番人 ◆B1etz7DNhA
11/08/17 19:59:20.99 xV3KJkIC
言い忘れてました。

頑張れ横スクメンバー!

くれぐれも“休胎鬼(きゅうたいき)”に取り付かれないように
睡眠をとって下さい!


165:創る名無しに見る名無し
11/08/18 00:17:34.52 yi223Z2i
>>162~164の
時の番人さんへ。
金縛りが実は心の鬼だったなんて、
なんと言う展開なんだw
>>103,104,117,119は時の番人さんが書いたんですか?


166:創る名無しに見る名無し
11/08/18 10:45:55.29 BjHfoADA
なんかよく分からないけれど、綿抜鬼の人って既に鬼子プロジェクトから引退した人なんでしょう?
本人が主旨に反しない使い方なら大丈夫と権利放棄もしていた気がするし、作品自体が他の作品群に埋もれるなら問題は無いよね?
もし綿抜鬼がグロ系統で許せないなら、対抗する別キャラを用意したら良いのに、叩いている人はどうしてその努力をしないの?
また使ってくれと本人が出てくる事は無いなら、一度超えたら大丈夫なのに使わせない事だけ求めるのは何故?

擁護している人も作者が叩かれてるからと、キャラ事持ち上げようとしている感じなのはなんか違う気がする。
提案されたけれど無視されているキャラなんていくらでもいる。じゃあ自演して自分のキャラや自身を叩けば無視されないなら、
綿抜鬼の人が自演してないとしても同様の手段をもって、無理矢理キャラの押し込みは出来てしまいますよね?
もしそれで明らかに政治系のキャラや主張をねじ込まれたら?そもそも普通に『主旨違いですよ~』と説明しているのに対して、
『このスレにはこんな荒らしがいるのか!』なんて愚痴ると共に自演したりや仲間を呼んだりで、
主旨を変えるまで粘着されたらどうするの?荒らしの対象になったと感じたら、作品も思想も内容問わず全力で守り持ち上げるの?
でもその状態って自演だか本当の荒らしだか分からないレスが渦巻く、異常なドロドロした様相をずっと続ける事になるよね?

正直終わりが見えないやり取りに辟易してるんだが、誰か真面目に答えて欲しい。
とりあえず乳を揉みたい。…じゃなかった、作品の内容や質のみで勝負して欲しい。


167:創る名無しに見る名無し
11/08/18 11:45:39.47 7vGa6BmO
キャラもセットで排除されようとしていたら真っ先に擁護するよ綿抜鬼。

168:創る名無しに見る名無し
11/08/18 12:14:15.39 fWMVvBZ7
つかさ、生みの親は引退宣言して消えたけど他の人が取り上げて作ってる状態だろ。綿抜鬼。
しかも主なイラストはスレ外で見る事の方が多いしし。ここで騒いでいる奴は何をそんなに焦ってるんだろうねえ。
文字ネタで推すならSSやなんかでないとノイズで終わるだけだろうに。否定している人が一番印象を強くしてないか?
皮肉にも否定派が一番綿抜鬼を推している状態w

169:創る名無しに見る名無し
11/08/18 12:57:39.25 AMRDZdAN
引退かどうかなんて、契約でもしてるわけじゃないんだしどうでも良いけどね。
むしろ、前に鬼子作品を投下していた人たちにはどんどん戻ってきて欲しいくらいなんだけどw

あと、綿抜鬼ネタがよく投下されているのは、最初に提案したネタ自体よりも
それを受けて描かれた最初の絵が良かったからだと思う。

それに、さすがに同一人物が延々持ち上げてたら誰だって不審に思うでしょ。
綿抜鬼の場合は、ほぼ鬼子関係で投下実績がある人達が支持しているじゃん?
さすがにそういう人たちが政治系のキャラまで支持するとは思えないし、
荒らし側が、自分が押したいキャラを定着させるほどの作品を上げるような仲間を呼び寄せられるとも思えない。

はっきりいって>>166の後半はいちゃもんにしか見えない。


170:創る名無しに見る名無し
11/08/18 12:59:01.56 d6/iOJAR
>>166
落ち着いて、落ち着いて。
とりあえずこういう話はSSスレじゃなくて避難所でしましょうぜ。
自分の意見は避難所の733に書きました。

避難所10
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

171:創る名無しに見る名無し
11/08/18 18:10:55.68 nglNXHqw
引退じゃなくて休止宣言(最短12月復帰)だろ?一話含め加筆修正に戻るとも言ってたし。
誰だよ、引退なんて言ってる奴は。そいつが真犯人(もしくはその一味)じゃね~の?


172:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/18 18:42:06.79 xHSXXQkO
スレチ覚悟。
そういえばこっちに投下してなかったような気がする童謡風定型詩。
書いたのは今年の7/9のことです。自分を鼓舞するためのうた。


【童謡:紅あさやけ】
一、
 もみぢの風吹く朝の陽を
 背に負ひうつるは
 鬼のかげ

二、
 世のなか暗しと嘆けども
 やさしく散る葉に
 和やぎつ

三、
 こゝろの鬼らを萌え散らす
 たたかふ宿世は
 いつからか

四、
 もみぢの風吹く朝の陽が
 在るを忘れじ
 君が胸


現代語訳
一、
 紅葉の風が吹く日の出を
 その背中に負って映るその輪郭は
 鬼の姿をしている

二、
 人々が今の世の中を暗い暗いと嘆いても
 鬼子の萌え散らした、しとやかに散る紅葉に
 人々はなごやかになったのだ

三、
 心に棲まう鬼たちを萌え散らす
 そんな鬼子の戦う因縁は
 いつから始まったのだろうか


 紅葉の風が吹く日の出が
 あるのを忘れてはならない
 朝の陽はいつでも君の胸に

173:創る名無しに見る名無し
11/08/18 18:46:47.39 BjHfoADA
SSスレでやる話しじゃないよね。ごめんなさい。
どうせ荒らしてる側は避難所来ないんで、これで終わります。自分の言いたい事はただ一つ。

『荒らしはスルーして、みんな作品の投下とかで楽しもうぜ~。個人の思想や過去とか、興味無いよ』

>>171
自分が見たのはコレだけど、さすがに犯人とは違うでしょ?本人に聞かないと分からないけど、普通の認識違いだと思う。

>Saki_Ohenri @johgasaki HNですよ~。自己を卑下して、そういう名前をつけられていました。
>鬼子の基本ストーリーに「無謀にも挑戦する」から、という理由だそうです。後に分かった事ですが、
>一番最初にワタヌキを考案した人でもあります。その後、荒らしに標的されたので今は引退宣言をされています。
>1日前
>詳細


174:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/18 19:02:14.38 xHSXXQkO
>>162-163
金縛り!
そんなところに鬼子さんのいる世界の息が
感じられると思うと胸がアツくなりますね。

機会がありましたら、ぜひ本物の『お祭り』も行ってみると
より臨場感ある作品になるかもしれませんねえ。
(もう行ったことがあるんでしたらすみません……)

しかし、北地区ってなんだったんだろう……。
でもこのこと考えたら休胎鬼に憑かれそうな気がして恐ろしいですね。
夏にちょうどいい、冷え冷えになる作品でした! 面白い!

175:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:26:29.99 4a/sXz8B
わんこを応援したくなるお話。

SSスレ 
TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 >>80-83
一話 >>89-99
二話 >>128-139

次回の更新は八月二十六日(金)を予定しています。
次々回の更新は私の都合上九月五日(月)を予定していますが、変更の可能性大です。
ご了承ください。

176:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:27:38.76 4a/sXz8B
【編纂】日本鬼子さん三「歓迎されてる……のか?」
   十の一

「なかなか面白い子を見つけたじゃない、鬼子」
 老いた楓の大樹の上から聞き覚えのある声がした。
「は、般にゃーさん! いらしてたんなら言ってください」

 般にゃー。
 ここ一体を統べる白い猫又だ。猫の姿だと顔が般若面のようにひしゃげるため、そう自称している。

「何度も言ってるけど、改まらなくていいのよ」
 苔に覆われた幹を飛び降りると同時に人間で言えば三十路前後の女性に成った。
反射的に目を逸らす。着物に収まりきらない大きなふくらみに惑わされないためだ。
 いわゆる成熟した大人の女性ってヤツだが、しかし般にゃーの実年齢は誰も知らない。というか、知ったら否応なく殺される。
 ―と、般にゃーがメガネ越しに睨んできたので、無駄な考えはここまでにしておく。

「わたしがいないほうが、ありのままの貴女達を観察出来るでしょう? ……って気紛れよ」
 彼女がそっと微笑むと、鬼子は顔を伏せて顔を赤らめた。

 もうからくり人形の鬼子じゃなかった。

「で、どこ行ってたんですか?」
「高天原よ」
 高天原(たかまのはら)は紅葉里から遠く離れたところにある、高貴な神さまがお住まいになる聖域だ。
鬼子は当然のことながら、俺やヤイカのような下々の神ですら伺うことは許されない。
「アマテラスサマとお茶してたの」
 般にゃーは大御神様のお供ができるくらい貴い身分なのか? まったくその気配が感じられない。
例えお茶をしたことが冗談だとしても、御名を拝借した冗談を言えるんだから、たいそうな身分であることに違いはない。
「ホントはもっとゆっくりしていく予定だったんだけど、急用が出来ちゃってね」
 般にゃーは帯から煙管を取りだし、煙草に火を点ける。急用で戻ってきたとは思えないゆったりとした調子で煙を吐いた。

「越沢(こえさわ)の村に鬼が出たわ」
「越沢って……すぐふもとじゃない」
 山林を走って二時間のところのある村だ。この周辺は般にゃーの結界で鬼の侵入はないと思ってたから、俺も鬼子も驚いた。
「いい? 被害はその村だけに留めなさい」
 なら越沢村はどうなってもいいのかよ、とは思わない。
そんなこと思ってる暇があったら戦いに向けて気を集中させる方がいい。ここにいる誰もがそう思っている。
 冷酷になってしまったわけではない。未熟な自分が悔しくて仕方がないんだ。
 なにせ、俺たちには空間を渡る術を持っていない。
鬼を祓うために二泊三泊は当たり前だ。その間に暴走を続ける鬼は容赦なく村を滅ぼしていく。
現地に駆けつけたら、家も畑も穢された村で鬼がのびのびと人間を喰らっている場面を幾度見たことか。
 そういうこともあって、今回は何としてでもヘマをしないよう鬼子の援護しなくてはならない。

「わんこ、こにを起こしてきて」
「おう」
 小日本は一度寝るとなかなか起きない。でも今日という今日は容赦せず叩き起こそう。
そう決心して小屋へと向かう。

177:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:28:07.32 4a/sXz8B
   十の二

「小日本、起きろ」
 手荒く襖を開ける。

「おうわん公、オメェも目の保養に来たか」
「むっつり助兵衛だねえ。時間差とはさすがだよ」
 さきほど拳と剣を交えた同志が、今や幼き女子を囲んで宴に勤しむ変態野郎となり下がっていた。
 怒りが上昇していくにつれてヤイカの悪臭濃度も上昇する。
「お前らな……」
 二匹の首根っこを鷲掴み、縁側に出る。
「二度と来んなって言ってんだろうが!」
 見ないなと思ったら何してやがるんだ。もう会うことがないよう祈りを込め、秋空の先までぶん投げてやった。

 仕切り直して、小日本の眠る部屋に戻る。今の騒動にも動じず、すやすやと寝息を立てて目覚める気配はない。
「起きろ」
 涎を垂らし眠りこける小日本の肩を揺らす。
「ふにゅ……」
 寝言で返事をされる。
「鬼が出たんだ。早く出ないと」
 もう一度揺する。
「ねむいのらぁ」
 反応に意識が宿っているようにも思えるが、八割方夢の彼方を漂っているようだ。
緊急事態でもなおのんびりな小日本にため息が出る。
「……まりゃまりゃ食べられるよぅ」
 八割じゃない。十割食いもんの夢の中だ。寝ぼけてやがる。
俺が団子を買ったせいなのか? くそ、田中の奴が使いっ走りにしたからこうなったんだ。覚えてやがれ。

 でも、実に幸せそうな寝顔だ。口をもぐもぐして、にへらと破顔させる。
 不覚にも言葉を失ってしまった。
 こんな幸せそうな小日本を強制的に現実へ引き戻してしまっていいのか?
 小さな幸せをぶっ壊していいのか?
 幸せってのは、小さければ小さいほど、それを潰すのに覚悟が必要になる。

「寝るなら、俺の背中で寝ろ」
「……ふぁあい」
 ふわふわとした手つきで瞼をこすり、身を起こす。多分寝たまま無意識にやってるんだと思う。
一つ大きなあくびをし、「ん」と両腕を前に出した。このまま背負えってことだろう。
 まったく、ワガママなお姫様だよ。

 小日本の武器である「恋の素」を帯に付けてやる。恋の素は幸せと縁と結ぶ鈴で、鳴らすと穢れを浄化させる効果がある。
それから角を隠すために笠をかぶらせる。布団を引っぺがし、小日本を背に負った。
「いららきましゅ」
「イデデッ! それ髪の毛だ!」
 後頭部で結った髪束に喰いつきやがった。なんて食い意地を張ってるんだよこのお姫様は。

178:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:28:40.57 4a/sXz8B
   十の三

 庭には藤紫の装束の般にゃーと紅葉の着物の鬼子が準備を終えて待っていた。
鬼子は瞳はいつもより鋭いものとなり、紅に燃え上がらせている。
 鬼の中には、姿を変えることで力を増強させたり、特性を得たりする。
俺たちは通常の姿を『生成(なまなり)』と呼ぶのに対し、変化した姿を『中成(ちゅうなり)』と呼び分けている。
「行ってらっしゃい、三人とも」
 般にゃーが煙草を吐く。
「来ないのかよ」
「貴方たちだけでなんとかなるでしょう?」
「あのな……」
「それとも、わんちゃんはわたしの力がないと鬼子を守りきれないのかしら?」
 そう言われると言い返そうにも言い返せない。般にゃーは俺の性格を見通している。
ただただ悔しかった。
「そんなワケで、わたしはお留守番してるわ」
 お気楽に言ってくれる。
 まあ、それが般にゃー流の激励だってことは承知してるんだけどな。

   φ

 鬼子とわんちゃんとこにちゃんが紅葉の森に消えるまで、わたしはずっと三人のうしろ姿を見送っていた。
 結界の内側で鬼が出没するとなると、敵は冒涜された神ではなく、人間の心から生まれた鬼である可能性が高い。
心の鬼は先日鬼子一人で戦った「黒い鬼」のような腕っぷしは持ってないけど、それを補う独自の特性を持っている。
慣れてない相手だから、苦戦するかもしれないわね。
 人間の心ほどフクザツなもんはない。長いこと「あっち」と「こっち」の人間を観察して導き出した結論だ。
 あのコたちは心の鬼と戦う経験があまりにも少なすぎる。

「鬼子、アンタには辛いことばかり任しちゃってるわね」
 いくら煙を吸ったって、この罪悪感が癒えることはない。アマテラスサマが仰ってたことを考えると、肺臓に穴が空きそうになる。
「神々に気付かれずに勢力を拡大させる鬼の集団がいる……か」
 異変、と思うにはオオゴトだけど、最近どこか違和感のようなものが猫ひげを伝って感知していた。
 そもそも、鬼は集団行動の出来ない問題児ってのがわたしたちの通説だった。
互いにいがみ合い、殺し合い、本能の赴くままにふらふらして落ち着かない。
例外は鬼子とこにちゃんだけ。
 それなのに、いきなり国規模の集団が出現するなんて信じられない。
 天変地異だと慌て者の神々が喚いてて呆れるけど、同時に鬼子たちに対する期待と疑念が一層増しているのも確かだった。
 鬼にあらずは鬼は祓へじ。もうそんなことしか神は言えない。

 アンタたちの神話はどこへ行ったのよ。

179:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:29:07.60 4a/sXz8B
   十の四

   φ

 針葉樹とシダの森を駆ける。人間のいる場所には近付かないよう尾根伝いに村へと向かった。
苔に呑まれ、朽ち果てた倒木を飛び越え、奔放に伸びる蔓の輪をくぐる。

「ん……どこ?」
 背中の小日本がもぞもぞと動き出した。目が覚めたらしい。
「山を降りてるところだ。鬼が出た」
「……ん」
 小日本はそれっきり何も言わず、おとなしく乗っかってくれていた。

 辺りは鬱蒼としていて薄暗い。霊域の近くだからか、樹から見下ろすサルやリスの眼光に意思が宿っているようにも感じられた。
 風を裂く鬼子の後ろ背を追う。
 いつか、俺が鬼子の前を走ってやる。黒髪なびく背中にのしかかる荷を、少しでも担いでやりたい。
小日本だって背負って走れるんだ。そのくらい屁でもない。

「森、抜けますよ」
 鬼子の合図と同時に視界が開ける。西の空の大きな月が俺たちを出迎えた。
絵画のようなうすら雲が掛かる望月は、どこか引き込まれてしまう魅惑があった。

「あれ、見てください!」
 鬼子が指差す方向が赤く揺らめいていた。畑の向こう側に群立する民家の方から赤い火が立ち昇っている。
「行こうぜ!」
 鬼の仕業だったら今すぐにでも食い止めなければならない。鬼子は頷く間もなく走りだした。俺もその背を行く。

 畑に足跡を残し、全力で足を動かす。早く、一秒でも早く。
揺らいだ目先の小屋が徐々に大きくなっていく。畑から小道を横切り、茅葺きの家を横目に炎の元まで急ぐ。
 熱気が伝わる。走れ。息が荒くなる。走れ。鼓動が大きい。走れ。もうすぐそこだ。走れ!
 鬼子が立ち止まる。
 そこには。

「いねぇーつけばぁー」
 ……そこには、かがり火を囲うようにして踊る村人たちの姿があった。
陽気に歌を詠い、気持ち良さそうに酒を呷り、飯を貪り食っていた。

 小日本を下ろしてやる。そして、脱力した。
 なんだこの宴は。この村の祭はこの前の収穫祭をやったばかりじゃないか。

「君らは旅人か?」
 村人の一人が声を掛けてきた。鬼子がびくりと身体を硬直させ、村人を凝視する。とっさに俺が鬼子の前に出る。
「……狛犬様ではございますまいか。それに笠をかぶれる桜着の小童……そちらの紅葉着の乙女は角の生えた、鬼と見受けるが」
 耐えろ。歯を食いしばり、相手の出方を窺う。
 叫ぶか、嘆くか、狂い笑うか……。

「なんと面白い組み合わせであることか。さあ、今日は祭ぞ。共に騒ごう」
 酔いの回った豪快な笑い声を上げ、ばしばしと頭を叩かれた。
神に触れるなんて禁忌でしかないが、無礼講というものなのだろう。
堅苦しい祭は嫌いだからこのくらいがちょうどいい。
 ……が、感触は不気味で仕方がない。

180:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:29:34.20 4a/sXz8B
   十の五

「こちらに来なさい。共に呑み、共に語らうもまた一興」
 上機嫌な村人に付いていく。太鼓の音は鳴り響き、どやどやとあちこちから声が湧いている。俺たちを見て挨拶してくれる人もいた。
「歓迎されてる……のか?」
 少なくとも、鬼子を見て悲鳴を上げる人間がいないのは確かだ。

「こに、おまつりだいすき!」
 小日本はぴょこぴょこと跳ねていた。しかし、俺は素直に喜ぶことができるほど純情ではない。
「そうでずね、わだじもだいずぎ……ずびっ」
「って、泣いてたのかよ鬼子!」
 思わずツッコんだが、気持ちは分からなくもない。鬼子、祭に行くことが夢だったもんなあ。

 だけどよ、俺たちがこの村に来た理由、忘れたとは言わせないぞ。
 鬼祓いに来たんだ。

 なのに、鬼が見当たらないなんておかしい。こりゃ一筋縄ではいかないかもな。
「なあ、オヤジさんよ」
「どうなされた」
「最近この村に鬼は出なかったか?」
「鬼? ああ出ましたぞ」

 あまりにも素っ気なく言い放つもんだから、軽く聞き流してしまうところだった。
俺の中で緊張がはしる。
「そこにいる、かわいい鬼さんがね」
 そう言って、男は一人わっと笑った。
「鬼子のことじゃねーよ!」
「可愛いって、そんな……」
「鬼子も照れるなっ!」
 涙で赤くはらした目を細め、鬼子は笑っていた。
こんな笑顔、いつぶりだろう。最低でも俺たちの前じゃ絶対に見せない。

「ねねさま、こに、おどりたい!」
「そうね、踊ってらっしゃい。周りの人に気を付けてね」
「うん!」
 二人はすっかり祭の気分に浸ってしまっている。
「しあわせをーおすそわけー」
 謎の節を付け小日本はくるくる回る。鈴がりんりん鳴り響くたび、季節外れの桜が散っていた。

「他には見なかったか?」
 仕切り直し、村人に尋ねた。
「見ておりませぬ。おかげさまで今年は豊作です。ご覧くだされ、このアワの山を!」
 村人は祠の前にある粟の山を自慢げに見せつけた。

 しかし、その山は庭園の砂山程度のもので、とてもじゃないが一年を乗り切れるような量ではないし、粒もやせている。
 ……そもそも、なんで『粟』なんだ。

「オヤジさん、米はどこだよ」
「米? そんなもの作っておりませぬぞ」
「はあ?」
 何を言ってやがる。作ってないわけがない。有力者に収めるものは米と定められているんだから。
 ……そういや、先の収穫祭で越沢村は不作だったのを思い出す。
 何が豊作だ。嘘吐き男め。

181:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:30:02.93 4a/sXz8B
   十の六

「わんこ、見てください!」
「なんだよ」
 鬼子に肩を叩かれ、振り向いた矢先、その光景に言葉を失った。

「ぽろぽろふわふわこにっぽーん!」
 まるで、演壇の一点に集まる灯火が小日本を照らしているようであった。
そして、そのまばゆい円状の地から、黒い斑が浮き出ていた。
 しばし幻想に包まれた舞姫に見とれてしまった。それは俺だけでなく、村人たちも同じだった。

 照らされる円状の地面、黒い斑模様……。
 そうだ、ここは舞踏場じゃない。現実はそんなきらびやかではなく、もっと残酷だ。

「鬼子! これは鬼の仕業だ!」
 ようやく確信が持てた。そもそも森を抜けたときにおかしいと思えなかったのがいけなかった。
「なんで、もう夜になっちまってるんだよ。出発したときはまだ南に陽があったのに、どうして満月が西に傾いてる刻になってんだよ」
 暗いのは穢れのせいだ。この村全体を包み込む穢れで夜だと勘違いしていたんだ。
 そして穢れを生み出した鬼は先日戦った『影の鬼』のような神様が堕ちて生まれたものではない。
人間の心に棲まう鬼が力を溜めに溜め、村全体を巻き込むまで成長してしまったものだ。

 鬼の餌は男の言動、村人の行動からして『嘘』だろう。
 すると奴の正体は―、

「心の鬼は月に偽装している!」
「はいっ」

 鬼子の目が真っ赤に燃え上がる。薙刀を編み出し、空高くへと跳躍した。
 月に模した鬼が、危機を察知したのか、偽装を解き、姿を現した。

 嘘月鬼(うそつき)。薄黄の岩石質の球体に二本の角が生えており、目と口を思わせる三ヶ所の窪みがある鬼だ。
 心の鬼は鬼子の突きをかわすも、石突で叩き落とされる。そのまま鬼子も着地した。心の鬼が隠していた太陽が姿を見せる。

 黒、黒、黒。土も家も人も。黒、黒、黒。
 般にゃーですら気付かないほど僅かな邪念がここまで村を蝕んでいたなんて……。
 ただ一点、小日本の周りを除いて村は全てが穢れに呑まれてしまっていた。

「こに、邪気祓いお願い!」
 体勢を整え、鬼子は再び嘘月鬼との間合いを詰める。
 人間どもの悲鳴が湧き立ち、逃げ惑う。ようやく彼ら自身の姿を自覚したようだ。嘘を吐き、人を、自分を騙し続けた結果がこれだ。

「さくら咲け咲けーめばえ咲けぇ」
 不穏な気配の漂う中で、小日本だけがいつまでも潔白だった。幼い少女が舞えば舞うほど、周囲の穢れが清められる。
 鬼子と心の鬼の戦いは一方的だった。擬態という特性を見る限り、戦いを好まない鬼なのかもしれない。
 薙刀の切っ先が嘘月鬼の背を掠る。奴の動きを崩すにはそれで十分すぎた。

「萌え散れ!」

 心の鬼に斜めの直線が引かれると、岩石のそれは紅葉を舞い上げ、ずるりと巨体を滑らせた。
裂けた嘘月鬼は委縮し、最終的には消え失せた。
 村の穢れも恋の素の舞で祓われ、元の姿を取り戻しつつある。

 一件落着、といったところか。
 多分、勧善懲悪の物語だったら、ここで話は爽快に幕を閉じるのだろう。

182:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:30:45.21 4a/sXz8B
   十の七

「おお、お、鬼だ! 鬼だあ!」
 俺たちを案内してくれていた村人が奇声を上げ、鬼子を指差した。明らかに恐怖の対象として捉えられていた。

「何言って……あなた、私たちを歓迎するって、言ってましたよね?」
 鬼子の瞳に戸惑いの念が窺える。

「嘘だよ! そんなもの、嘘に決まってるではないか!」

 村人は目を大きく見開き、口をだらしなく開け、今にも気を失いそうだった。
鬼祓いの姿のままでいる鬼子に気付いた他の村人も悲鳴を上げ、家の中に入ろうとする。
しかしその家の中は穢れに満ちていて、混乱を生み出した。
「不作でもう生きてゆけぬ現実を見たくなくて、我が身に嘘を吐いた。他人に嘘を吐いた。
やがて嘘に嘘を重ね、止むことを知らず……だからといって、村のみんなを巻き込む道理がどこにある?
鬼め、苦しむのはおれだけでよかろうに! 返せ! おれらの村を、返せ!」
 心の鬼は人間の負の感情に芽吹く。先の見えない不安や絶望が「嘘」の鬼に成ることだってある。
だから心の鬼を宿した人間を一概に責めることはできない。
 でも、

「わたしのおうちをかえして!」
 かつん。
 鬼子の般若面に小石が当たった。投げたのは小日本ほどの背丈の娘だった。
黒染みの目立つ家に佇み、涙を浮かべた目に迷いはなく、きりりと鬼子を睨んでいる。
 慌ててその母と思しき女が娘を庇うように抱きしめる。

 心が苦しくなった。
 鬼子はきっと、俺の苦しみどころじゃない。

 鬼子は薙刀を高天原に収めると踵を返し、無言で森へと足を運びだした。
「二度と来るな! 穢れ者!」
 今度は大柄の男が石を投げつけた。こぶし大のそれは鬼子の帯に命中し、彼女は膝を着いた。
「テメ……ッ!」
 怒りが込み上げてきた。すぐにでも人間の分際に跳蹴りを喰らわそうと地面を踏む。

「め! わんこおすわり!」
 小日本が俺と男の前に立ちはだかった。とっさにしゃがみこんでしまう。
 むっと頬をふくらませ、袖を広げる小日本の後ろでひそひそと村人が囁いている。
本当に小さい声だから、人の耳を持つ小日本には聞こえないだろう。

「あの子、鬼に魅入られちゃったのよ」
「憐れな。狛犬様もどうなされたのか」
「凶兆じゃ、凶兆じゃあ」
 深くも考えずに言霊はきだしやがって。
俺も言えたもんじゃないから、ここは黙って小日本の手を取った。
「……行こう」

 チクショウ。
 何が鬼子を守るだ。
 石っころから守ってやれることすらできないくせに。
 ……チクショウ。

183:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:31:11.42 4a/sXz8B
   十の八

 鬼子は腰を押さえながらも、一歩一歩地面を踏み締めていた。
 どうして鬼子は、ここまで苦しみ抜くんだ。
 身体も精神も傷付き果ててもなお前進をやめることはない。

「もうさ、鬼祓うの、やめようぜ」
 分かってる、こんなの責任転嫁でしかないと。
でも、もう耐えきれないんだ。
鬼子のつらそうな顔を見るのが。鬼子のつらそうな顔をひた隠しにする顔を見るのが。
「感謝のかの字もねえしさ、くれるのは石ころばっかりじゃねえか。こんな見返りのないことやったって、意味ねえよ」
 こう言うしか救う術の見つからない浅はかな俺をぶん殴ってやりたかった。

「わんこ」
 鬼子が口を開く。
「あなたは将来、何になりたいの?」
 その口調はやわらかくて、あたたかいものだった。
操り人形じゃない。生身の鬼子の声だった。
「い……一人前の、里山守だよ」
 鬼子のようなやさしさを持つ守神になれたらどんなに素晴らしいことか。
そう夢見た俺だが、その意志は折れそうになっている。

 里山守ってのはつまり、人間を守る神だ。
 俺が守る人間とやらは、果たして守るに値する存在なのか?

「そのために今、何してる?」
 鬼子の問いに人間不審の念を一旦隅に置く。
「守になるための……修行だよ」
「私がしてることも同じことよ。こにぽん、畑の邪気も祓っておきましょう」
「うん!」
 小日本が畑で舞踏する。

 同じこと……。石をぶつけられても、貶されても耐え忍ぶことが修行だっていうのか?
 分からん、全く分からん。

「めばえ咲けぇ!」
 黒く汚染された土壌が潤い満ちた耕作地に変わる。そしてそのやわらかい土から芽が生え、成長する。

「みんな、ウソつきだったんですね……」

 秋の夕暮れ、鬼子が独り言を呟いた。
 ああ、そうだな。
 鬼子だって嘘吐きだ。俺だって嘘吐きだ。
 どうして本音でぶつかり合えないんだろう。どうしてこんな悲しくなるんだろう。
 分からん、全く分からん。
 唯一分かるのは、俺たちの戦いはこれからも続く、ということだけだった。

 きっと、永遠に。

184:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 00:50:08.38 4a/sXz8B
   十の九

   φ

 日本さんたちと出会った翌日、アタシは再び都市へと赴いた。
 いや、決めつけないでもらいたい。アタシだって同人誌を買う以外の目的で電車に乗ることだってある。
 今日のおでかけの目的は他でもない、日本さんとこにぽんへのプレゼントを買うためだ。
別に地元で買ってもよかったんだけど、質を求めるならば、大きな店へ行ったほうがいい、との判断でだ。
結局お金がなくて安物になっちゃったんだけどね。

 帰りの電車を降り、古めかしい時計塔のある駅舎を出ると、空もいい感じの橙色に染まっていた。
 駅前の青いイチョウ並木を歩く。
 人々で賑わってはいるが、相変わらず道路はボロい。観光で生きてる町なんだから、歩道をもう少し広げてほしいもんだ。
 などと詳しくもない地方自治に対して愚痴を思っていると、どこからか聞こえる女の子の泣き声に気付いた。
 花の香に誘われる蜂のようにその声の元へと足が進む。

 そこには、ボロ生地が重ねられた黒い浴衣の女の子が大声で泣き喚いていた。
青白い肌はどこか不健康で、帯まで届くツインテールの髪はぼさぼさしている。
無意識に日本さんの髪と比べてしまうけど、アレは特殊で、こっちがいわゆる普通の髪だ……と思いたいが、
多分この子の髪はあまり洗われてないと思う。
 何より目を惹いたのは、つぎはぎだらけのクマのぬいぐるみだ。
少女はその片手を握りしめているが、首はだらりと垂れ下がり、足は地面を引きずって泥まみれになってしまっている。

 街路を行く大人たちは小さなSOSを完全に無視し、通りすぎていく。
 そりゃ、仕事は忙しいだろうし蒸し暑い日が続くから面倒事は避けたいってのが常だろうさ。

 でも、世間ってのはこれほど冷たいもんなの?
暑いから冷たくしようとかデタラメ考えてるんなら、アタシは世間ってのをぶっ飛ばしてやりたい。

 だから、女の子と同じ目線になるようしゃがみこみ、枝毛だらけの髪をそっと撫でてあげた。
「キミ、迷子になっちゃったの?」
 できる限りやさしい声で語りかける。ぶっちゃけこういう場面に出くわしたことがないからアドリブ全開だ。
見切り発車というものだろうが、乗り掛かった船ともいう。

「……はい」
 陰湿な口調だけど、見た感じの歳にしては礼儀よく返事をしてくれた。今どき珍しい子だなあ。
「お母さんかお父さんはいるの?」
 ふるふる、と首を横に振る。一人のようだった。
「おうち、どこだかわかる?」
「大きな神社の近く……」

 大きな神社。言うまでもない、祖霊社のあるあの八幡宮だ。
駅からだと歩いて数十分のトコだけど、子どもにとってその距離は国と国を跨ぐような長さになる。
 同時に八幡宮はアタシの家の方角でもある。
「じゃあ、お姉さんと一緒に行こうか」
 女の子はこくり、と頷くと手を差し伸べた。二人で手を繋ぎ、歩きはじめる。
「ここまで、一人で来ちゃったの?」
「はい」
「どっか、行きたいトコがあったのかな?」
「いいえ、ただちょっとお散歩をしてたら、いつの間にか知らないところまで来てしまったんです」
「そっか……」

 二人で歩く大路は、どこかゆったりと時が流れているようだった。
女の子の歩幅で歩いているからかもしれないけど、不思議と懐かしい気分がしていたからなのかもしれない。

185:避難所より転載
11/08/19 01:20:09.07 L+6q05hL

   十の十

「あ、そのぬいぐるみ、すごく大事そうにしてるね」
「ワタシの『オトモダチ』ですから……」
 ギュ、と玉だらけのぬいぐるみを抱きしめた。
「その子の名前はなんて言うの?」
「名前ですか? 名前は……」

 自然と会話が弾んだ。
 女の子はおとなしい子だったけど、居心地の悪い空気は感じられなかった。
質問に「わからない」という答えを出さないはっきりした子だからなのかもしれない。
口数は少ないけど、聞き手としての素質があった……なんて評価する立場の人間じゃないけど。

「あ……」
 日も暮れ、一番星が見えだす頃合に女の子は立ち止まり、上を向いた。アタシもつられて上を見る。
 大きな赤い鳥居が目の前に立っていた。その圧倒的な存在感に言葉を失う。
「おねえさん、ありがとうございました」
 ぺこり、と手入れの不届きな長髪を揺らした。
「いやいや……というか、もう暗いし、家の前まで送ろうか?」
「いえ、ここまで来れば大丈夫ですから」
 子どものクセに遠慮をわきまえている。十年前のアタシにこの子を見習えと言ってやりたいね。

「あの、名前、教えてくれませんか?」
 ぬいぐるみを抱きしめ、女の子が訊いてきた。
初めて向こうから話しかけられたからちょっと驚いたけど、それ以上に嬉しい気持ちの方が強かった。
「アタシ、田中匠。男の子っぽい名前だけど、中身は純情乙女なんだ」
 純情乙女と書いてオタクとルビ振ってやってください。

「田中さん……」
 女の子は名前を小さく呟き、よれよれのクマのぬいぐるみを差し出した。
「これ、もらってくれますか」
「え、でもそれ、『お友達』なんでしょ?」
 こくり、と頷いた。そんなの受け取れるハズない。
「田中さんはお友達だから、きっとワタシの『オトモダチ』も大切にしてくれると思いますから。それに―」
 すっと、息を吸う。
「その子を渡しておけば、またいつか会えそうな気がして」
 「友達」という言葉を聞いて日本さんにお説教した言葉を思い出した。

 一緒にいて、話して、少しずつ相手のことが分かってきてさ、嫌なところを見つけちゃっても、
それでもやっぱり一緒にいてもいいなって思える存在……っていうのかな?

 また同じことをこの子に言いそうになったけど、この子に言っても仕方ない。
 それにこの子とは随分前から親しくしていたような、そんな気がした。

「……そうだね」
 だから、彼女からぬいぐるみを貰うことにした。彼処に修繕痕がある。長いこと一緒にいたことが実感できる。
「それでは、田中さん、また遊びましょう」
 そう言って、女の子は手を振り、雑沓へと溶け込んでいった。

 ……今更だけど、彼女の名前を聞きそびれちゃったな。
 でも、根拠もなくまたすぐに会えるような気がしていた。
「あっ」
 帰り路を歩こうと思ったそのとき、思いがけぬ忘れものに気が付いた。

 わんこのプレゼント、買ってないや。

186:創る名無しに見る名無し
11/08/19 13:08:09.94 +BB/tJiE
>>185
転載乙。・・・でも、まとめる人が後で歌麻呂さんの作品を抽出しやすいように
どこかに「歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg」を入れればもっといいんじゃないかな?

嘘月鬼・・・ほんの一時とはいえ、鬼子を喜ばせたと見るべきか、それとも上げて落としたと見るべきか・・・・
破滅するまで現実逃避させる鬼・・・恐ろしすぎる。
あと、にげてー田中さんにげてー
はんにゃーが神代クラスになってる Σ(゚д゚ ) いったい、実年齢はいくつなん・・・・あ、はーい。誰だろ。宅配便かな?

187:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/19 22:02:00.68 4a/sXz8B
>>186
嘘月鬼、登場させるのかなりビクビクしました。
まあこんな感じで、これからも私なりの心の鬼を
いくつか登場させていきたいと思います。
そうそう、般にゃーの年齢はですn……おや、庭が騒がしいぞ?

188:創る名無しに見る名無し
11/08/22 01:12:36.28 mJelXS9i
>>175-185
むむむ?人間は、鬼のことや鬼子のことをどう認識してるのかしら。
自分の心が鬼を生むことがある(今回なら自分の嘘が嘘月鬼を生んだ)と分かってるのかな?
鬼子が人に仇なした鬼と戦っている姿を見てなお、鬼子が直接的な災いの元だと思うのかな?
(形だけの感謝さえなく、すぐに石を投げて追い出そうとするほどに)
鬼同士の共食いとでも思っているのか、それとも「鬼」全体に対する怒りの八つ当たりなのか…。
読解力がなくてすみません…。

そういえば、小日本は武器だけは代表デザインと違うんですね。
たしかに穢れを祓うのが彼女の能力だとすれば、鈴だけで充分かな。
わんこがそのまま背負ってるから、帯の真後ろにでもつけるのかな?かわええのう。

わーたんが礼儀正しい女の子でびっくりです。こういうのもいいね!
田中さんは、鬼子の家に行ったから、わーたんが「見えちゃった」のかな。
あ、おうちが神社の近くにあるってことは、その辺に天魔党のアジトでもあるのかしら?わくわく。

小日本のスポットライトから穢れが判明するところの描写、最初はうまくイメージできなかったけど、
二度目に読んだときは、なんて鮮やかな映像なんだろうとはっとしました。
あと、
「アマテラスサマが仰ってたことを考えると、肺臓に穴が空きそうになる。」
この憂鬱と悲しみの感じ方が、誇り高い般ニャーらしくて好きです。

189:創る名無しに見る名無し
11/08/22 14:14:33.29 uiJdYm8P
>>188
おそらく、「自らの心から生まれた鬼」は認識してないと思われ。誰だって自分の醜い部分は直視したくないもの。
そんな時、目の前に異形の娘が居る。こんなに攻撃しやすい対象はないとおもわれ。
これがゴツいオッサン鬼でバカでかい金棒をもってる異形の鬼だったら逃げ惑うだけだったろうな。

190:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/22 22:54:24.53 a4T3MKZV
旅行から帰ってきました。

>>188 >>189
感想・解説ありがとうございます。
作中の謎は作中内で明らかにさせていこうと思いますが、ちょっと伝わらなかった部分があったようなので、
補足を兼ねて今までの「鬼」についてのおさらいをば。

   >人間は、鬼のことや鬼子のことをどう認識してるのかしら。
鬼子さんたちのいる世界の人間は
「心の鬼」「序に登場するいわゆる『黒い鬼』のような神が穢されて生まれた鬼」「鬼子さんや小日本」を
すべて同一の「鬼」として認識しているようです。
序の農夫、三話の村人や村人の男の反応を見ると、どれも同じような言動をとっています。
「ある人々は(中略)叫んで逃げまどい、またある人々は(中略)怒鳴り喚く。(中略)気の狂った人を目の当たりにすることもある。(序、二の二)」
という鬼子さんの語りと、わんこの「叫ぶか、嘆くか、狂い笑うか……(三話、十の四)」という語りから察するに、
やはり「人間はどの鬼も同じ『鬼』として見なしている」と鬼子さんたちは認識していることが伺えます。

   >自分の心が鬼を生むことがある(今回なら自分の嘘が嘘月鬼を生んだ)と分かってるのかな?
一話で田中さんが「おかしい。何かがおかしい。でもその原因がわからない。(九の一)」と述べているように、
感情(または理性)の暴走に違和感は感じるが、それが心の鬼であることには気付いていないみたいです。
憑かれたほうとしては、なんか変だけど自制がきかない……という心情ですかね。


   >鬼子が人に仇なした鬼と戦っている姿を見てなお、鬼子が直接的な災いの元だと思うのかな?
思っている可能性が高いです。
無論鬼子さんを見直す人もいるでしょうが、大半の人間が「心の鬼」「神が堕落した鬼」「鬼子さん」を同一視しているため、
鬼子さんも災いの象徴として見なしているようです。

   >鬼同士の共食いとでも思っているのか、それとも「鬼」全体に対する怒りの八つ当たりなのか…。
「そもそも、鬼は集団行動の出来ない問題児ってのがわたしたちの通説だった。互いにいがみ合い、殺し合い、本能の赴くままにふらふらして落ち着かない。(三話、十の三)」
般にゃーの認識は神さまもそうですが、人間や鬼子さんたちもそういう認識だと推察されます。



とりあえずこれは「補足」です。読者さんの「解釈」の手助けになれたら幸いです。
作者自ら物語の「解説」をするのは最大のネタバレになると思いますんで、そういうことは作中内でほのめかしていきたいと思ってます。

何か疑問になる部分がございましたらぜひ書きこんでください。
「補足」出来るところはしますし、補足できないところもこれからのストーリーに役立てられますんで。
>>188さん >>189さんの意見、大変参考になりました、というか、ごちそうさまでしたw

191:創る名無しに見る名無し
11/08/23 22:04:08.84 X1/HftFk
>>189>>190
説明ありがとうございます!
たしかに、自分の心の鬼なんて、無意識に気づくまいとしてそうですもんね。
鬼子ちゃんは下手に具体的で可憐なだけに、スケープゴートとして攻撃されちゃいがちなのかな…。

鬼子や小日本が鬼を退治したり穢れを祓ったりしてるのに犯人扱いされることとか、
「十の七」での村人の言ったことの意味とかがよく分からなかったんですが、
おかげですっきりしました。

今回の事件では、村人たちは嘘月鬼に憑かれていたので、
鬼の存在も穢れに包まれていることも認識していなかったんですね。
嘘月鬼が倒されたことによって、初めて穢れを認識した。
ちょうどそこに鬼の一種である鬼子がいた。
だから、混乱の中で穢れと鬼子を結びつけてしまった。
(鬼子に対し「歓迎する」と言ったせいで、鬼子が家の中を穢したと思った)

嘘月鬼…厄介で恐ろしい鬼ですね。

192:創る名無しに見る名無し
11/08/23 22:10:23.46 X1/HftFk
あ、嘘月鬼がというより、心の鬼一般でそうなりそう…。

心の鬼を祓うって、本人に心の鬼を認識させない限り、逆恨みされる危険があるのか。
かといって、本人は頑として気づこうとしないかもしれないし、
本人の心の安定のためには心の鬼を見せないほうがいいことだってあるもんね…。

鬼子ちゃんが優しいほど傷つく。
うわー因果な仕事だ…。

193:創る名無しに見る名無し
11/08/24 02:19:36.82 Ngx38ETP
鬼が絡んだ話って『結局、一番恐ろしいのは人間でした』で決着するのが王道なんだよね・・・個体レベルでは鬼には敵わないんだけど・・・

いつだったか、「鬼切丸」ってマンガでも主人公の鬼が「だから鬼は人間にはかなわないんだよ」みたいな事いって完結したような・・・?
その時はある人間が愛する人を救う為に自ら命を捨てた事に対して「理解できない」といった鬼(一応人間の味方)に返した返事だったかな?

194:索引的なもの
11/08/25 00:13:37.55 8u0oizeD
そろそろ索引作りますよー。
感想言いそびれてた作品があったら、今からでもひとこと伝えてみてはいかがでしょ。


作:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
>>52-54  守り神ヤイカガシ 2(仮)
>>80-83  【編纂】日本鬼子さん序「どうしてなの……」
>>87    挿絵(作:時の番人 ◆B1etz7DNhA)
>>89-99  【編纂】日本鬼子さん一「そういうことじゃなくてさ」
>>126-139 【編纂】日本鬼子さん二「せーの、で行こうか」
>>175-185 【編纂】日本鬼子さん三「歓迎されてる……のか?」
>>172   童謡:紅あさやけ

>>57-61 みずのて
>>110  挿絵(作:No.015 ◆BomVQKBWmRwO)

作:しゃもじ
>>62-79 闇の邂逅
>>123  元ネタばらし

作:時の番人 ◆B1etz7DNhA
>>103-104 短編小説 『心の鬼とは』~ある田舎町での話し~
>>117>>119 短編小説 『心の鬼とは』~ある少年の話し~
>>162-164 短編小説 『心の鬼とは』~ある女子大生、夏美の話し~

作:J ◆XcAeHXuSbk
>>113-114 鬼はまず相談所へ!8

195:創る名無しに見る名無し
11/08/25 11:37:52.57 sq9f8mTg
>>194
まとめ乙です。
これがあると解り易くていい。

196:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 19:56:23.19 WSKtUM8t
「アンタたちの神話はどこへ行ったのよ」
「こに、おまつりだいすき!」
「そんなもの、嘘に決まってるではないか!」
「わたしのおうちをかえして!」
「もうさ、鬼祓うの、やめようぜ」
「みんな、ウソつきだったんですね……」
「田中さん……」
「え、でもそれ、『お友達』なんでしょ?」
 彼ら彼女ら鬼の子ら、あかねの日の出はいつ見るか、嘘吐く月の、去(イ)ぬ朝来るか。

TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 スレリンク(mitemite板:80-83番)
一話 スレリンク(mitemite板:89-99番)
二話 スレリンク(mitemite板:128-139番)
三話 スレリンク(mitemite板:176-185番)


次回の更新は九月五日(月)を予定していますが、前後に変更の可能性大です。
ご了承ください。
もしこれ以上遅くなる場合は、八日以降になってしまいます。申し訳ございません。

197:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 19:59:31.25 WSKtUM8t
【編纂】日本鬼子さん四「日本さんがかわいいから」
   八の一

「ひっのもっとさーん、あっそびーましょー、石っこ手合わせいっただっきまーす」
 さすがに『いただきます』の合言葉だけだと不憫だから序詞的なものを付けて紛らわしてみた。

 相変わらず吐き気を催す急上昇な移動だけど、紅葉林の涼しい気候に心が安らいだ。
アタシたちの世界じゃ夜でも三十度越えが続いてるけど、こっちは半袖だとちょっと肌寒く感じるくらいだ。
 ……紅葉の季節って、もっと寒かったような気がする。気候や環境が根本から違うのかもしれない。

「あら、人間のお客様なんて何百年振りかしら」
 凛とした艶めかしい女性の声が出迎えてくれる。知らぬ間に、眼鏡と藤色の振袖の似合う女性が佇んでいた。
美しい銀髪の頭に猫耳がついている。うん、多分コスプレじゃないね、こっちの世界の化け猫さんなんだろうね。

 ……ん? 化け猫?
「えと、あなたは?」
 口走っちゃったけど、アタシはこの人の名前を知っているような気がする。
「猫又よ。般にゃー、とみんなから呼ばれてるわ」
 般にゃー。
 アタシの直感は当たった。あの恐るべき般にゃーが目の前にいる。着物から二つに分かれた尻尾があった。
 すみません般にゃーさん、あなたと会うまで、恐ろしい怪物か何かと勘違いしてました。
百聞は一見に如かずっていうか、アタシたちの世界の定規でこっちの世界の物事を測っちゃいけないみたいだ。

 さて、日本さんはどこにいるんだろう。
「鬼子なら小屋にいるわ。いってらっしゃい」
 一瞬心を読まれたような気がしたけど、アタシがこの世界に来る用事なんて日本さんくらいしかない。
「般にゃーさんは一緒に来ないんすか?」
「呼び捨てでいいわよ。敬語も堅っ苦しいからナシで。ほら、行きなさい。今から一服するんだから」
 なんというか、テキトーな猫又さん……猫又だ。
 胸元からキセルを取りだす様が実にエロチックだった。
 とにかく……日本さんから聞いた通り、きまぐれな人(猫又?)だってことは分かった。
自分勝手というか、自由奔放っていうか、うん、ある意味猫みたいな性格だわ。

「ひっのもっとさーん、あっそびーましょー」
 玄関の前で、小学坊主よろしく声を上げる。するとすぐに中が慌ただしくなる。
ドタバタって音、初めて聞いた。マンガの世界に入り込んでしまったような錯覚がする。
 ぴしゃり、と引き戸が開かれる。見えたのは角ではなく、不機嫌そうにぴくぴく動くわんこの耳だった。
「何しに来た、人間」
 その口振りは耳以上に不機嫌なものだった。
「何しにって、日本さんと遊びに行こうかなって」
「鬼子はいない。帰れ」
 わんこの気迫に押され、思わず帰ってしまいそうになる。
「何言ってるの、わんこ」
 日本さんが土間に下りてきた。慌てて雪駄を履いたようで、カラコロと三和土(たたき)を蹴っていた。
わんこは舌打ちをし、日本さんに玄関を譲った。
「いらしてくれたんですね!」
 わんことは裏腹に嬉しそうに出迎えてくれる。尻尾があったら全力で左右に振ってると思う。

「えと、お茶淹れますから。上がって待ってて下さい」
「あ、今日はそのために来たんじゃなくて―」
 既に片足を床に踏み入れている日本さんを呼び止める。
「もし用事がなかったらさ、アタシんトコの世界の紹介がてら、買い物とかどう……かな? お金はアタシが出すし」
 そのために親からムリ言ってお小遣いを前借りした。この夏はバイトやんないとダメかもしれないなあ。
 日本さんの瞳が輝きだすも、すぐにかげってしまう。何か心に残ってるものがあるみたいだった。

198:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:01:05.42 WSKtUM8t
   八の二

「あの、待ってください。般にゃー、ちょっと来てくださいますか!」
 紅葉石の埋まる巨木に背を預ける般にゃーを呼ぶ。彼女の耳がかすかに動いたけど、般にゃーは気ままに煙をふかしていた。
「もう、般にゃーさん、たばこなんて吸ってないで早く来てください!」
 うん、マイペースにもほどがある。帯に吊るした灰吹にタバコを落とすと、ようやく歩きだした。
「なに?」
 明らかに不満げだ。わんこを絶する不機嫌ぶりだ。
大人の光沢を持つ般にゃーだけど、こういうところはちょっと子どもっぽい感じがする。
「あの、今日田中さんと一緒に向こうの世界に行ってもいいですか?」
「勝手にすればいいじゃない」
 TASさんも驚きの即答っぷりだ。
「行くならこにぽんも連れてってやりなさい」
 そう付け足し、般にゃーは猫又に姿を変え、縁側へ行ってしまった。
 なるほど、猫又んときは顔が般若になるのか。

「こに! お出かけですよ! お出かけ!」
 日本さんが珍しくはしゃいで居間へと上がっていった。よっぽど嬉しいみたいだ。
「……って、俺留守番かよ!」
 わんこが一人嘆いていた。
「アレ? 女の子三人とデートしたかったの?」
「デ……! ち、ちげーし! 誰が人間の分際と一緒に人間の世界をうろつくかよ!」
 思った通りの反応が返ってくる。やっぱわんこはいじりやすい典型だな。
「日本さんとこにぽんだけならよかったの?」
「そ、そうじゃねえよ。人間は嘘吐きだから、鬼子たちが騙されるんじゃねーかと心配なだけだ! お前がいなきゃ万事解決なんだよ!」
 うん、ならなおさらデートに付いてったほうがいい気がするけどスルーしてあげよう。
「田中さん田中さん、あの、どちらの着物で行けばいいですかっ?」
「こにのも選んでー!」
 鬼子さんは、マツケンがサンバしちゃいそうな黄金にきらめく和装と、総重量ン十キロはあろう十二単を持っていた。
こにぽんはこにぽんで、一方は桜色の浴衣で、もう一方も桜色の浴衣だった。ぶっちゃけ違いの識別できない。
「あの……いつも通りでいいからさ」
『はいっ!』
 二人は声を合わせて頷いた。二人の輝かしい笑顔に苦笑するしかなかった。

「あ、そうそう、これ渡すの忘れてた」
 昨日買った贈り物を日本さんとこにぽんに渡す。
「……麦わら帽子?」
「うん、着物に合うのって何かなーって思ったんだけど……」
 女性着物に帽子の装備は原則的にないけど、二人の素朴で純然とした日本さんとこにぽんを思うと、
このアクセサリーは十二分に合うと思う。本当はクローシュとかキャスケットとか買いたかったんだけど、
当時お金がなかったから仕方がない。なら都市に出ないで地元で済ませればよかったじゃないか、と今でも思っている。
「あ、わんこくんのプレゼントはないよ?」
「わかってるよチクショウ!」
 言い返してくるわんこにいじられの神だってことを自覚してるみたいだった。
「あ、でも紅葉饅頭のお返しに、なんかお土産に買ってきてあげよう」
「は?」
「サブレーがいい? それとも渋めに畳イワシとかどうよ?」
「知らねえよ!」
 と口先では反抗しているものの、尻尾はぶんぶん振っている。まったく、かわいすぎて困っちゃうね。
「ほら、日本さんも―」
 日本さんの手を握ってやった。
「泣いてないでさ、ほら、今日は思いっきり楽しもうよ」
「はい……ずびばぜん……」
 帽子をあげただけでこんなになるとは、正直予想してなかった。

199:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:04:24.02 WSKtUM8t
   八の三

「あれ、あれはなんですか!」
 八幡宮の鳥居を前にして日本さんが興奮気味に尋ねてきた。
「へんなのー!」
 こにぽんも嬉しそうにはしゃいでいる。
「ただの車だよ」
 当然だけど、アタシが向こうの世界の常識を知らないように、日本さんたちもこっちの世界の常識を知らない。
「馬や牛はいないのに、どうやって引っ張ってるんですか?」
「あー、科学の集大成的な?」
 ごめん、アタシの知識じゃ説明しきれないよ……。

 まあそんなわけで、日本さんとこにぽんとウィンドウショッピングを楽しんだ。せんべいやタイヤキを一緒に食べたりした。
 今は店の庇に設けられたベンチに腰を下ろし、小休憩がてらアイスクリームをなめている。
さっきから食べてばっかいるのはこにぽんのおねだりによるものだ。
 日本さんは「すみませんわがままな子でして」と謝り倒してたけど、まあルイヴィトンをねだられているわけではないし、
三人分のお金で小腹も満たされて、さらにこにぽんの笑顔が買えるってんなら安いものだ。
「つめたくておいしいね!」
「もう、ほっぺた付けちゃって」
 呆れながらもこにぽんの世話をする日本さんも見られて安らげる。一石三鳥じゃないか! もうおつりが来ちゃうくらいお得だよ。

「こにね、おだんご食べるー!」
 アイスを食べ終えたこにぽんは意気込み、立ち上がった。
「もう、食いしんぼうなんだから。すみません、田中さん、こにったら……」
「元気で何よりじゃない」
 お団子くらいわけない。ま、次の野口で財布中隊所属野口分隊全滅のお知らせなんですけどね。

 アタシたちは再び歩き出す。背丈の大きな松の並木を左手に、アブラゼミの不協和音と歩道から放出される熱気を浴びながら、
日本さんと雑談に興じていた。暑いね、から始まり、向こうの世界の夏もこのくらい暑いのかとか、着物って暑そうだよねとか、
そういうヤマもなければオチもない、でも充実したひと時を送った。
 ただ、日本さんは終始そわそわしていて落ち着きがなかった。
「田中さん、なんか私たち、じろじろ見られてる気がするんですけど」
 言われてみれば、確かにすれ違う人たちがほんの一瞬だけこちらに視線を移している。
正確に言うと、みんな日本さんのことをチラ見していた。
「もしかして、こにや私が鬼だってこと、気付かれてるんじゃないでしょうか……」
 日本さんは麦わら帽子を目深にかぶり、アタシの後ろに隠れてしまった。こにぽんも真似して日本さんの腰元にぴたりとついた。
 鬼子さんの言動に半ば呆れ、半ば和んだ。

「そんなわけないって。日本さんがかわいいから、みんな一目見ちゃうんだよ」
 そう言うと日本さんの後ろからぴょこりとこにぽんが顔を覗かせた。
「こにもかわいい?」
「あたぼうよ。かわいすぎて、にぎにぎぎゅうぎゅうしたくなっちゃうよ」
 こんなかわいい子がこの世界にいるわけがない。向こうの世界で慈しまれたからこそ誕生した奇跡の子だ。
あわよくば自分の妹にしちゃいたい。

「……わ、私のこと、本当に可愛いって思ってくれてるんですか? ウソじゃ、ありませんよね?」
 一方日本さんからはまさかの念押しをされた。日本さんがナルシスとでないことくらい知ってる。

 なら、どうしてこんなことを言ったんだ?

 ……そんなの、決まってる。
「日本さんがどう思ってるかは知らないけどさ」
 一呼吸おいて、アタシはそう切り出した。
「もっと自分に自信持ってもいいと思うよ」

200:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:07:05.32 WSKtUM8t
   八の四

「でも……」
 躊躇する日本さんはやっぱり日本さんらしくなかった。
「だってさ、アタシの中にいた鬼、祓ってくれたじゃん。それきっと、すごいことだと思うよ」
 まるでガラスの針に触れるようにおそるおそるモノゴトに触れながらも、
決して立ち止まらずに歩き続けるのが、アタシの中の彼女だった。

「だからってさ」
 日本さんの手を、そっと握りしめた。
「一人で全部抱え込まなくたって、いいんじゃない?」
 ヤイカガシの言ってたことがよぎる。

 ―ぼくには鬼子さんの隣に立つことはできなかったけど、きっと田中さんなら並んで歩けると思う。

 ヤイカガシは日本さんの荷を負いきれなかったのかもしれない。神さまであるヤイカガシですら。
 いつから鬼を祓い続けているのは分かんないけど、今に至るまでずっと、日本さんはたった一人で志を守り抜いていたんだ。
その途方もない力の源は、一体何なのか。その源は今もなお枯れずに湧いているのか。
「だから、アタシも何か力になれたらなーって思ってたりしちゃうワケですよ」
 その「何か」がなんなんのか、自分でも分からない。
というか、それが分からなかったから、ヤイカガシも鬼子さんを支えることができずに終わってしまったんだと思う。

「田中さんて、人の心を読む能力、持ってますよね?」
「ないないないない、なにその中二病設定」
「……チューニビョーセッテー?」
「うんごめん、なんでもないんだ」
 沈黙が続いた。夏ってのはセミの鳴き声みたいにどこまでも続いているようで、入道雲は日射しを受けて濃淡を作っていた。
アイスなんて舐めても涼しくなれるわけないのに、どうして人はアイスを舐め続けるのだろう。

「私、田中さんと出会えただけで嬉しんです」
 アイス論が茹だる頭で展開されかけたそのとき、日本さんが小さな声を漏らした。
「そんなこと言ってくださる人、他にいませんでしたから」
 ヤイカガシ、君は日本さんのために何をしたんだ。カウント入れられてないぞ。
「もし田中さんと会ってなかったら、私、心が折れてました」
「そんな、大ゲサだよ」
 うん、大ゲサだ。アタシは神か仏か何かか。
「いいえ。田中さんがいてくれるだけで、私たちは本当に救われてるんですよ。ね、こにぽん」
「うん!」
 と、こにぽんが大きく頷いた。そこまでリアクションを取られると、もう日本さんの言葉を信じるしかないような気がする。

「あ、おだんごー!」
 こにぽんが髪を揺らす。その先には明治四年創業と謳われた老舗和菓子店があった。
こにぽんの眼がきらきらと輝きだし、アタシたちを置いて駆けだした。
「あ、こにぽん待って! 急ぐと危な―」
「ひゃあ!」
 時すでに遅し。走るこにぽんがケータイを操りながら歩く壮年男性にぶつかってしまった。
「いてえな、このガキが」
 口、悪いな……。
 というか、児童レベルの子に接する態度じゃない。
「ご、ごめんな、さい」
 こにぽんはすっかり怯えきってしまった。
「君、保護者どこ?」
「ごめんなさい……」
「いいから保護者どこ?」
 無感情の事務的な冷たさがアタシにまで伝わる。うん、こいつはトラウマできるね。

201:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:08:58.37 WSKtUM8t
   八の五

「私が保護者です」
 こにぽんの両肩に手を添え、日本さんは果敢にも壮年を見遣った。アタシは普段の慣習から一歩も動けずにいた。
「あのさあ、ガキが騒がしいとさあ、周りが迷惑になるんだわ」
 最近の親はよお、なんにも分かってねえんだよな、視野が狭いっつーのうんぬんかんぬん。
ケータイをぶらぶらさせたり、間延びした口調でぼやいたりするのはわざと怒りを買うようにしているのだろう。
「親がガキなら子もガキガキガキ。こいつぁ日本も終わりだな」
「すみません」
「あーあーあーあー、謝ることしか能がねーとか。ったく、これだからガキはよお」
 うわあ、大人げない。こりゃ嫌な人とぶつかっちゃったな。
 というか、こにぽんのやわらかタックル喰らっただけで激怒する人もいるんだな。世間って広いよ。アタシだったらご褒美なのに。

「あの、本当にすみませんでした」
 歩く人たちは中年の怒鳴り声に反応して一瞥するけど、心持ちはみんな同じで、
完全にモブキャラとか、通行人ABCD……として舞台の袖へと去っていった。浦島太郎も電車男もいやしない。
 そりゃ自分だってこの場をスルーしたい。面倒事は極力避けるのが現代人の生きる知恵だし、アタシは主人公って役じゃないもん。
 でも、日本さんはこういうトラブルの対処なんて何一つとして分かっちゃいないと思う。
「あの、私、何でもしますから!」
 言わんこっちゃない。そんなこと言ったら奴の思うツボじゃないか! 中年オヤジはにやりと片側の口角を上げた。

 こういうガラじゃないけど、致し方ない。
「ケータイいじりながら道歩いてる誰かさんも、能がないような気がするんだよなー」
 だから、聞えよがしに独り言をぼやいてみせた。
「……あン?」
 案の定、矛先がこっちに向けられた。
「お前、何こいつの肩持っちゃってんの?」
 あらまあ視野がお狭いようで。
恐縮にございますが、事が起こる前からこの場におりました田中匠、そこにいる二人の友達でございます。
 うん、思った以上に喰いついてくれた。

「つーかさー、最近イラついてんだわ。ウゼー上司とウゼーバイトにサンドイッチされちゃってんの。
おまけに今日はウゼー親子とウゼーゆとりだよ。マジでなんなの? ふざけんのも大概にしろよテメエ!」
 ギャ、逆ギレかよ! いきなり唾飛ばしながら怒鳴られたよ! マジでなんなのはこっちのセリフだよ!
 こりゃもう戦略的撤退が最善というか、それしか残ってないように思われる。
「日本さん、こにぽん」
 二人にだけ聞こえるよう囁き、彼女らの手を取る。

 そして、一目散に逃げ―られなかった。
 キレオヤジに押さえられたワケじゃない。日本さんの動かざること山のごとし。紅の着物を着た彼女が動じなかったんだ。

「これは心の鬼の仕業です」
「え、ちょ、こんな人、どこにだっているじゃん!」
 何をどう思ってそう決定されたんだよ。ワケが分かんないよ!
「こに、田中さんをお願いします」
「はい!」
 しかも、アタシは守られる側かい! こんなちっこい子に守られるなんて思わなかった。
 いや、まあ戦いの経験があるんだろうから……って、それつまりこにぽんも日本さんと一緒に鬼と戦ってるってことなの?

「こそこそ話しやがって。いい加減にしろよ!」
 顔面真赤にさせてほざく男に、鬼子さんは般若のお面を自らの顔にかざした。

 あのときと同じだ。アタシの心に鬼が宿ってしまった、あのときと。
 男が悶絶する。当時のアタシと同様に、胸を押さえ一歩、二歩と後ずさる。そして彼に憑いていた心の鬼が離脱した。

202:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:11:13.30 WSKtUM8t
   八の六

「キテマス! キテマス!」
 うわ、なんか元郵便局員で手品とかやっちゃいそうな黒ずくめサングラスの芸名が本名の逆さ読みしてそうな心の鬼が出たよ!
なにこの第二のユンゲラー事件勃発させる気満々の鬼は! 唯一の違いはおでこから飛び出た二つの角だけだよ!
 つか、心の鬼ってどこか抜けてるところあるよね。まだ二体しか見てないから確信めいたことは分からんけど。
「日本さん! 早くやらないと色々ヤバいよ!」
 このままじゃあ、色んな意味で消されるぞ! と思って彼女の背中に声援を送った。
 すると日本さんは―日本さんはなんと、敵に背を向け、目を大きく見開いてアタシを見た。
 「しまった」と顔に書いてある。

「キテマスッ!」
 鬼の手から『怒』の字の刻まれたハンドパワー、もとい波動弾が発射された。
背を向ける日本さんに直撃する直前、光弾は鈴の音と共に桜の花びらとなって散った。
「えへへー」
 こにぽんがにこりと笑い、手に持つ鈴をりりんと揺らした。こにぽんが守ってくれたのか?
奇想天外の連続に頭の整理が追い付かない。

「おい、見ろよあれ」「なんだ、特撮か?」「3Dもここまで来たか……」「チゲーよ、イリュージョンだよ」「修羅場なう」
 ざわめきがざわめきを呼び、外野が騒がしくなる。いまやアタシたちの半径二十メートルに野次馬たちの輪ができていた。
 なあ観客さん、これ冗談でなく危ないと思いますよ……?

「日本さん、さっきの攻撃、喰らったらどうなんの?」
 心の鬼がハンドにパワーを溜めている。けど日本さんはアタシたちの前に立ち、奴を睨みつけるだけで薙刀を出そうとはしなかった。
「怪我はしないと思いますが、鬼の性質上、怒りっぽくなると思います」
「それヤバいじゃないっすか!」
 うん、あの攻撃を『反対に怒りだす力』という意味を込めて反怒(ハンド)パワーと命名しよう。
そんであの鬼の名前はその姿と台詞と反怒パワーを手から発射するから鬼手枡(きてます)にしようか。

 って、そんなのんきでいられるか!
「日本さん! どうして戦ってくれないのさ!」
 心の鬼が再び攻撃をするも、こにぽんのチートな謎防御によって無力化される。鈴を持つこにぽんの額から汗が滲んでいる。
暑さのせいもあるだろうが、結界みたいのを作るのに何らかの力を使うのは間違いないだろう。
 こんな消耗戦じゃきっと勝てっこない。

「キテマス!」
「……いんです」
 鬼手枡の一撃で日本さんの言葉が掻き消されてしまった。
「え?」
 長い髪をなびかせ、彼女は振り返った。

「怖いんです! 私の中成に……戦う姿になったのを見たら、田中さんきっと怖がります!」

 それは、意外な答えだった。

「私は、人間じゃないんです。異形の存在です。
その違いを知ってしまったら、きっともう今までのように私を見ることなんて、できないです」

 日本さんは鬼の子だ。今は帽子をかぶってるから見えないけど、その中には確かに鬼手枡の角と同じものがある。
 鬼ってのは人を襲い、苦しませ、痛みつける。そういう恐るべき姿、人間を苦しませるあらゆるものを具現化した存在だ。
 般にゃーを般若姿のOLだと勘違いしたように、戦う姿の日本さんを恐怖の対象として見てしまうかもしれない。

 それでも、アタシは―
「なーんだ、そんなこと気にしてたの?」
 そうやって、暗雲を笑って吹っ飛ばすことができた。

203:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:15:20.64 WSKtUM8t
   八の七

 波動が注ぐ中、アタシは妙に落ち着いていられた。
いつこにぽんが限界に来るかもわからないのに、どうしてこう穏やかにいられるんだろう。
「簡単に言わないでください! 私は、私は―」
「かわいいなあ、日本さんってば」

「えっ……」
 自ずと口から出てきた「かわいい」という一言だったけど、
それはたぶん、日本さんにとってはずっとずっと大きな意味を持っていたんだと、あとで思った。
「じゃあさ、なんで鬼からアタシを救ってくれたのさ」
「そ、それは田中さんが脅したから」
 そうだったっけ? でも今は当時を振り返る必要なんてない。
「アタシはさ、人の見方って変わっていいと思うんだ」
 日本さんの「中成」とやらの姿を見て、日本さんの印象がプラスになるのかマイナスになるのか、
もしくはゼロのまんま変わんないのかなんて、分かりっこない。
「極悪非道だと思ってた悪者がさ、実はめちゃくちゃいい奴で、株が急上昇ってこと、よくあるじゃん?
そういうバトルもん、アタシにとっちゃあご馳走っすよ」
 多分こんな話をしたって日本さんの頭上にハテナマークが浮かぶだけで終わりだろう。でも人と人の関係って、そーゆーもんでしょ。
第一印象から二転三転四転するのが当たり前なんだよ。衝撃が来て、動揺して、それから少しずつ消化して……。
そういうのを経て、親友になれたらいいな―なんてね。
「あの、私ってやっぱり極悪非道に見えますか?」
「いやいやいやいや! 違う、違うって! 例えだからね、例え!」
 うん、説教じみたこと言うからこうなるんだ。

「とにかく、アタシはキャラに深みが増していくのは素晴らしいことだと思うわけ。
日本さんにとっては見せたくないことでも、アタシにとっては新鮮で、カッコいいことに見えるかもしれないじゃん。それとも―」
 反怒パワーが炸裂し、花びらになる。
「ねねさま、もう疲れちゃったよぅ」
 こにぽんの声。
 アタシはちょっとだけいたずらっぽく笑ってみせた。
「日本さんが退治してくれるのは、アタシに憑いた心の鬼限定なのかな?」

「……私が助けるのは」
 大風が吹き荒れ、どこからともなく紅葉が舞い上がる。本能的な恐怖に鳥肌が総立ちになった。
日本さんの角が伸び、麦わら帽子を八つ裂きにする。さよなら、アタシの二九八○円。
 風に躍る紅葉が集約し、まがまがしい薙刀が姿を現した。
 そして、日本さんは隈取の内に燃やす紅の眼差しをちらりと向け、言った。
「鬼たちに苦しむ、人々です!」

 日本鬼子は、風を薙いで地面を蹴った。物理法則無視の初速度。
「キテマス!」
 鬼手枡の波動を両断すると、それは紅の葉となり舞い上がる。野次馬たちの拍手が大いに湧きおこる。
日本さんはそのまま心の鬼との間合いを詰め―

「萌え散れ!」

 まるで居合演舞を見ているようだった。鬼手枡にはメの字の斬れ込みがなされていた。
 血振りをし、石突でアスファルトを叩くと、心の鬼は数多の紅葉に生まれ変わり、上昇気流に乗って大空へと消えた。
 通行人たちのテンションは最高潮に達し、英雄日本鬼子の元へと駆けだした。
 アタシたちにとって、鬼の角は単なる装飾に過ぎなかった。
「カッコいい……」
 心の言葉が洩れ出る。日本さんの戸惑いぶりを見ながら苦笑し、アタシも日本さんの元へと駆け寄った。

204:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 20:19:22.57 WSKtUM8t
   八の八

「田中さん、今日、本当に楽しかったです」
 別れ際の祖霊社で、日本さんはまだ興奮冷めやまぬといった様子だった一方、こにぽんはくたくたに疲れ果てており、
日本さんの背で寝息を立てている。アタシたちを懸命に守ってくれたんだ。今日のMVPはこの隠れた英雄さんに渡したい。

 あのあと野次馬の収集を付けるのに結構な時間がかかってしまった。
特に日本さんへの質問責め(手品のタネを教えろが大半)に苦労した。
アタシの言い訳スキルが足りなかったら日付が変わってたと思う。警察事にもならず、日暮れ前に済ませられたのは奇跡といえよう。

 それから鬼手枡に憑かれたあの中年男性が全力で謝りにきた。
今回の騒動は職場の人間関係にイライラを糧に心の鬼が育ち、暴走した結果会社をクビにされた矢先の出来事だったようだ。
団子をたくさん買ってくれ、平謝りをしまくってたけど、
心の鬼に憑かれた経験のあるアタシとしては、彼に何かしてあげたい衝動に駆られていた。

 心の鬼は人生をかるーく台無しにさせる力がある。
全ての鬼がそうじゃないとは思うけど、一般的にイメージするような金棒持ってブンブン振り回す鬼なんかよりずっと残酷極まりない。

 彼が最後に言った言葉を思い出す。
「色々事情があるようだから、君たちのことについては何も訊かないよ。
でも、これだけは言わせてくれ。君たちのこと、絶対に忘れない。ありがとう」
 何もしてないアタシですらグッとくるものがあったんだから、日本さんはもっとずっと心を揺れ動かされたに違いない。
 大粒の涙をぼろぼろと流し、日本さんは子どもみたいにしゃくりあげ、おぼつかない言葉遣いで、
「私こそ、これ以上嬉しいことはありません」と言った。

「あの、あの! また来ていいですか?」
 それからずっとこの調子だ。
アタシが日本さんトコの世界を気に入ったように、日本さんもこの世界を気に入ってくれたみたいだった。
「いつでもおいでよ。今度はおごれないと思うけど」
「大丈夫です。心の鬼、たくさん祓いましょう!」
 好戦的すぎるぜ、日本さん!

 そうして、また会う約束をした日本さんとこにぽんは元の世界へと戻っていった。
 すごく疲れたけど、心は満ち足りていた。


 でもね、これで ハッピーエンドじゃないんだ。それどころか、エピソード・ワンはまだ始まってすらいない。

 アタシはただ浮かれてただけだった。
日本さんの弾けるような笑顔はアタシが作ってやったんだぞって、きっと心のどこかで思ってたんだろうね。

 まだアタシは日本さんの身にまとわりついて離れない、悲しい宿命ってのを知らなかったんだ。
 だって、アタシはまだ日本さんのこと、ちっとも知らないんだから。

 ただの人間。

 日本さんを見知ってるただの人間という立場に、変わりはなかった。

205:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/26 21:02:08.84 WSKtUM8t
>>194
索引お疲れ様です。
これからもっともっと鬼子さんの世界が深まっていったらいいですね。

206:創る名無しに見る名無し
11/08/27 00:05:36.14 wPwfazWQ
wwww慶事に金色のキモノwwwやっぱりキタwwwwてか、よりにもよって今回の心の鬼はコレかよ!

207:創る名無しに見る名無し
11/08/27 19:56:59.01 yQWEaCEN
「キテマス!」


208:創る名無しに見る名無し
11/08/29 14:41:09.00 GkOwYxBv
「クンナ!」

209:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/30 00:26:17.01 kZX9C3x4
毎度毎度、ありがとうございます……励みの言葉って格別ですよ。
本当に嬉しいです。こればっかしはどんな言葉を用いても表しきれません。

>>206
これをなしに鬼子さんは描けまい、というわけでリスペクトさせていただきました。
毎回心の鬼はwikiから適当に漁って、魅かれたものをチョイスしています。
しかし、心の鬼やら鬼子いろは歌留多やら、wikiはインスピレーション・ファームですよ、ええ。

>>207 >>208
「だが断る! 反怒パワー!」

210:創る名無しに見る名無し
11/08/30 14:28:16.94 nMyPAxVL
>>202
田中サン、相変わらずのメタ発言w ホントにただの一般人か?そのウチ直至の魔眼とか開眼しないだろうなw
直至の魔眼:元ネタを直接見通す能力。世界を終わらせる魔王・チョサクケーンを呼び寄せる危険を孕む。

211:panneau ◆RwxKkfTs..
11/08/30 18:31:09.50 V3eFSJPy
再構築できた感じなので、告知。

鬼子SSスレ作品まとめ
URLリンク(lepanneaunoir.web.fc2.com)
URLリンク(lepanneaunoir.web.fc2.com) IE用
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IE、うぜぇ~~~

212:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/08/31 12:04:24.78 YGAPmZt+
>>211
お疲れ様です。
次スレ、次々スレのほうの整備もありがとうございます。

>>210
直至の魔眼w
開眼させられるようにがんばりm(ry



意地でも月曜日に【編纂】の五話を投下したいのですが、
現状ではなんとも言えませんね……。
今日中に初稿が仕上がったら安心なんですが。

213:創る名無しに見る名無し
11/09/01 00:02:28.91 9o+IEAfK
>>212
>開眼させられるようにがんばりm(ry
ダメー!開眼させちゃだめーーー!!

214:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/05 00:01:05.25 z4TX5jYS
  謳はれる UTAU鬼子の 歌の音に 歌麻呂魅入る 歌へざるほど
【訳】うああああ、やべえええ、もう何も考えられないよ!

お久しぶりです、UTAU鬼子のCDを求めはるばる池袋まで行ってきました、歌麻呂です。
その場で歌を作ろうと思ったんですが、それどころじゃありませんでした。

えー、お知らせが三つあります。
まず、前回26日(金)に更新した「【編纂】日本鬼子さん四」の誤字についてです。
冒頭
  「ひっのもっとさーん、あっそびーましょー、石っこ手合わせいっただっきまーす」
   さすがに『いただきます』の合言葉だけだと不憫だから序詞的なものを付けて紛らわしてみた。
この「いっただっきまーす」「いただきます」ですが、
正確には「ごっちそっさまー」「ごちそうさま」でした。
誤字というか私の誤解でした。申し訳ございません……。

二つ目に、「【編纂】日本鬼子さん五」についてです。
先程脱稿しました。遅筆で申し訳ないです。
ひとまずこのまま>>196の通り明日月曜日に投下してもいいのですが、
熟成も推敲も満足にできないまま投下しても苦笑しか頂けないと思いますので、
九月十日(土)に投下しようと思います。ご了承ください。

最後に、五話投下後についてですが、しばらく連載をとめて、執筆に専念しようかと思います。
ひとまず二~四週間ほど執筆期間を設けて、
三話分ほど余裕を持たせてから再開したほうが良質なものを提供できると思いますので。

うーん、まだまだ精進ですね……。

215:panneau ◆RwxKkfTs..
11/09/05 12:13:53.67 IxCRJJk+
要らんかもしれんがとりあえず貼っとくか。

枕詞逆引辞典
URLリンク(shokenro.jp)

216:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:33:52.37 AwmqVElA
「行くならこにぽんも連れてってやりなさい」
「……って、俺留守番かよ!」
「えへへー」
「退治してくれるのは、アタシに憑いた心の鬼限定なのかな?」
「―私が助けるのは、鬼たちに苦しむ、人々です!」
「絶対に忘れない。ありがとう」
 彼ら彼女ら鬼の子ら、大きな変動乗り越えて、どこへゆこうか明日ゆくか。

TINAMI URLリンク(www.tinami.com)
pixiv URLリンク(www.pixiv.net)

序 スレリンク(mitemite板:80-83番)
一話 スレリンク(mitemite板:89-99番)
二話 スレリンク(mitemite板:128-139番)
三話 スレリンク(mitemite板:176-185番)
四話 スレリンク(mitemite板:196-204番)

これから更新に余裕を持たせるため、しばし連載を停止します。
次回の更新は二週間後~四週間後の火曜日を予定しています。
ご了承ください。

217:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:36:06.57 AwmqVElA
【編纂】日本鬼子さん五「鬼子は鬼子、俺は俺だ」
   八の一

「あー! こにぽん、私のプリン食べたでしょ!」
 般にゃーの座学を受けていると、隣の部屋で鬼子の悲鳴が聞こえた。
「たーべてないよー!」
「ほっぺに付いてるカラメルはなんですかっ?」
 いつもこの調子だから、もう慣れたもんだ。

 でも、鬼子は変わった。
 鬼手枡を祓い、大量の団子をお土産に持って帰ったあの日から、鬼子は明るくなった。
本来のおしとやかさを残しつつ、田中の明るさを写し取ったような、そんな感じだ。

「わんこ、聞いてるの?」
 般にゃーの一言で現実に引き戻された。
「ふふ、鬼子のことでいっぱいなのね」
「ち、違う!」
 まるで想い人のように言うもんだからつい反抗してしまった。般にゃーはしめたとばかりに勝ち誇った笑みを浮かべる。
「いいわ、今日の講義はこれで終わり。甘えてらっしゃい」
「あま……す、するかそんなもん!」
 なんで甘えなくちゃいけないんだ。
確かに鬼子たちの部屋に行こうとしてはいるが、これは鬼子と小日本の仲裁に入るためであって、決して甘えるためではない。

 最近、鬼子は田中の住む世界に行ってばかりいる。俺たちといる時間より田中といる時間の方が多いような気もする。
「もう、あのプリン、せっかく田中さんがくれたのに……」
 まあまあ、喧嘩はよせよ。よし、襖を開けたら、穏やかにそう言おう。
そんなことを思って、引き手に指をかけ、引いたそのときだった。

「ねねさまなんて、きらい!」
 俺の脇を小日本がくぐり抜け、部屋を横切る。
「お、おい小日本! どこ行くんだよ!」
 土間に下りた小日本が応じるわけもなく、外へ飛び出してしまった。
 あいつがこんなことで家を飛び出すなんて初めてだ。
というか、何に腹を立てて出てっちまったんだ。怒られたからなのか? それとも、そういう年頃なのか?
「早く追いかけねえと」
 ともかく、このまま紅葉林を抜けられたら危ない。いたずら好きな神がそこらかしこで待ち受けてるんだから。
「わんこ、様子見てきてくれる?」
「おう! 任せとけ!」
 意気込んで身だしなみを整える。待ってろ小日本、必ずお前を連れだしてやるからな。

「……って、鬼子は追いかけねえのかよ!」
 思わず場の空気に流されそうになった。なんで第三者の俺が行かなくちゃいけないんだよ。
「私は……」
 鬼子が口ごもる。そうなったら、もう言わなくても分かった。

「心の鬼祓いか。向こうの世界で」
 しばしの沈黙ののち、鬼子は頷いた。
 思わずため息が出る。小日本が逃げ出した理由が分かったからだ。
「祓うのは別に構わねえけどさ、小日本のことも、ちゃんと構ってやれよ。あいつには鬼子しかいないんだから」
 小日本を包み込んでくれる存在は鬼子だが、鬼子を包み込んでくれる存在はどこにもいない。
今まで一人であがき続けてきたんだから、今の小日本の気持ちだって分かるだろ。
「……はい」
 鬼子を説教するなんて不思議な感覚だ。でも最近の鬼子は、変なところで抜けてしまっている。目覚ましには丁度いいだろう
「小日本は俺が連れてかえしてやるから、鬼子はそのときの言葉を考えとけよ」
 そう言って、俺は玄関を出た。

218:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:37:01.97 AwmqVElA
   八の二

   φ

 天候、晴れ。風向き、北西からの微風あり。
現在鬼子さん、こにさんは朝食の後片付けを、わんこと般にゃーは鬼に関する講義中との情報。
朝ごはん前に洗われた洗濯物はまだ生乾きの状態にある。
 パンツ狩りにはこれ以上ないほど恵まれている機会だ。
 物干し竿に掛かった鬼子さんのパンツを目の前にし、触れる前にまず鼻を近付ける。
人間はなんと素晴らしいものを発明したのだろう。神さまだって偶像を崇拝したくなることくらいある。
洗いたてではあるが、かすかに鬼子さんが残っている。鬼子さんが穿いていたんだ。鬼子さんの一部を形成していたんだ。
純白に輝く真珠の温もりに触れる。繋がる。今、ぼくと鬼子さんは繋がっているといっても過言じゃない。
なぜなら、パンツは体の一部なんだから。それからおもむろにそれを頭にかぶせる。窮極的な合体だ。
鬼子さんがぼくの頭を締めつけている。絶頂だ。僕は絶頂に達しようとしていた。

「ねねさまなんて、きらい!」
 カタルシスの寸前、小屋からの悲鳴じみた大声に、全ては現実に帰した。
 気付かれたか? いや―まて、焦るな。鬼子さんの姿も、わんこの姿もない。つまり半殺しにされる危険もないってことだ。
 小屋からこにさんが飛び出てきた。僕のことは目もくれず、林の方へ走ってるのが見えた。
 最近、山に住む神さまや鬼たちたちのいたずらの度が過ぎているような気がしてならない。
こにさんが襲われたら大変だ。経験的に危機を感じた僕は、こにさんを追いかけた。
「どこへ行くんだい?」
 紅葉の支配する領域でこにさんに追い付いた。楓と楓の狭間から神々の巣窟である原生林が見え隠れしている。
 びくりと体を緊張させたこにさんは、ほんの少しだけ足を止めるけど、すぐに逃げ出そうとする。とっさに彼女の細い手首を掴んだ。
 これで、わんこに言い訳ができなくなるな、なんてことを片隅で思うも、すぐにその思いは爆ぜ失せた。

 こにさんが泣いている。目も頬も真っ赤にさせ、大粒の涙を垂れ流しにし、呼吸ができないほどしゃくりあげている。
「ヤイカちゃんは……」
 じっくり七秒かけて、僕の名を紡ぐ。
「こにのこと、連れてかえそうとしてるの?」
 なぜそんなことを訊かれるのか、詳しい事情は知らないけど、ある程度推察するくらいはできる。
「家出、するつもりなのかい?」
 こにさんがぼくのようすを窺いながら、ゆっくりと頷いた。そこからは嘆願の視線を感じられる。
 こにさんの成長を応援したいぼくとしては、家出はさせてあげたいところだった。というか、こにさんの好きにさせてあげたかった。
「向こうは、危ないところなんだよ?」
 でも、リスクを考慮するとそれは難しい。ぼくが付いていけば多少の鬼払いにはなるだろうけど、それだって高が知れている。
 それでもこにさんは大きく頷くだけで、頑なな意志を曲げようとはしなかった。
「それでも、行くのかい?」
 頷く。しゃくりを耳にして、ぼくは困り果てた。鬼子さん譲りの頑固さで、こうなると絶対に譲ろうとはしない。

「話は聞かせてもらったぞ、お二人さんよぉ」
 その声は―顔を上げる。
 紅葉の枝の上に、ヒワイドリ君が立っていた。よかった、ヒワイドリ君がいれば大丈夫だ、なんて根拠のない確信を抱く自分がいる。
 とう、と声を出して枯葉の地面に着地すると、白い羽をぴしりとこにさんに指した。
「嬢ちゃん、家出がしてえんだってな」
「うん……」
 こにさんの涙も、少しずつ引いてきている。ヒワイドリはいたずらするときの笑みを浮かべた。

「オレたちだけが知ってる秘密基地、教えてやろうか?」
 ヒワイドリ君がぼくに目配せする。オレたち『だけ』という秘匿感。秘密基地、という童心を震わせる響き。
教えてやろうか、という隠密さは冒険の予感をにおわせる。そして同時に、安全性もないがしろにしない心配り。
 こにさんは一瞬にして泣きやみ、涙で輝いた瞳から熱い視線をぼくの友人に向けた。
「うん、こに知りたい!」
 あんなぐしゅぐしゅだったこにさんを笑顔にさせるヒワイドリ君の天性に、ぼくは脱帽する。
 こりゃ、あとで乳の話を語ってあげないといけないね。

219:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:37:38.49 AwmqVElA
   八の三

 基地までの道のりは、信じられないほど穏やかなものだった。鬼はおろか、神さまも、獣も姿を現さなかった。
遠くの方で狼の雄叫びが聞こえたけど、ぼくらを襲うことはなかった。意気地のない狼もいたもんだ。
 ぼくらの秘密基地に辿り着いた。崖をくりぬいて作った洞窟がそれだ。苔生した巌で洞窟を塞いでいる。
ぼくとヒワイドリ君と、この地で知り合った三人の心の鬼とで作った語り場だ。
こにさんにはまだ早い場所だけど、荒ぶる神がうろついている今日この頃、秘密基地はここ一体で二番目に安全な場所だといえる。

「オレだ、入れさせろ」
 ヒワイドリ君が乱暴に巌を叩く。
「これはこれはヒワイドリ卿、合言葉を言いたまえ」
 洞窟から反響する声が聞こえる。
「分かってんなら言う必要ねえだろうがよ」
「何を言うか。君をヒワイドリ卿に酷似した化物と見なしても良いのだぞ」
「あーはいはい、わあったよ。『父上、桃色のパンツ』」
 ぶっきらぼうに答える。ぼくもヒワイドリ君の気持ちはよく分かる。
わざわざよわっちいぼくたちの秘密基地を荒らそうなどと思う鬼や神さまなんて、どこを探したっていやしないんだから。
 無駄に壮大な音を立てて、大岩が動く。そもそもこの巌だって必要あるのかも疑わしい。
地鳴りじみた起動音で妖怪がやってきたらどうするんだって思う。

「ようこそ、我が秘密基地へ」
 我がっていうか、我らが秘密基地でしょ、と心の片隅で呟く。洞窟の入口でこげ茶色の大鳥が出迎えてくれた。
ヒワイドリ君より一回り大きくて、その声はハイカラって言葉が似合う紳士の声だった。
 彼はぼくとヒワイドリ君を交互に見て、それから間に挟まれたこにさんを凝視する。
「そちらの小さな淑女はどちら様かね?」
「おお、紹介するぜ。オメエら、新しい仲間だ」
 ヒワイドリ君の一声で、洞窟の奥から心の鬼が二匹現れる。
一匹は若葉色の小さな鳥で、ハイカラな茶色い大鳥の半分程の体長しかない。
もう一方は抹茶色のカエルで、ぼくと同じくらいの背丈を持っている。

「小日本ですっ! こにって呼んでね!」
 自分を紹介したくてたまらなかったのか、こにさんはぴょこんと浴衣を揺らしてお辞儀した。
礼儀正しいというか、ぼくらにとってのご褒美というか。
しかし初めて会った心の鬼にも臆しないこにさんは、見た目以上に肝っ玉が据わってるのかもしれない。
「ほう、なかなかよい名であるな。私はチチメンチョウだ」
「よろしくね、メンちゃん!」
 思わず失笑してしまった。
上品で教養があって礼儀正しい男チチメンチョウさんが「ちゃん」呼ばわりされるだなんて、誰が想像しただろうか。

 チチメンさんはわざとらしく咳払いをする。
「こに君、君の成長には期待しているよ。その胸に大志を抱いて精進したまえ」
 チチメンチョウさんは、一見穏やかな様子を醸し出しているけど、身ぐるみを剥がすとそこには巨乳原理主義者の面相を見せる。
今のだって、胸の成長を遠まわしに祈願しているんだ。

「先生! それは間違ってます!」
 小さな鳥が待ったをかけた。身なりは小さいものの、声は澄んでてはつらつとしていた。
「小日本さんはそのまま成長してくれればそれでいい! その胸だって、この手に収まるくらいで充分だ!
わざわざ大きくなる必要なんてない!」
「チチドリ君、淑女を前に騒ぐとは品がないとは思わんかね?」
「あ、すみません、先生」
 チチドリ君は無乳貧乳の大人が大好きな心の鬼だ。
極論ばかり言うのはちょっと困るけど、チチメンチョウさんを先生を慕っているからか、とても礼儀正しくて優しい。
 巨乳派のチチメンさんと貧乳派のチチドリ君、それから両乳派のヒワイドリ君は、乳を愛し、敬い、語り尽くす三鳥だ。
ぼくから言わせてみれば、巨乳も貧乳も変わらないと思うんだけど、三人にとっては大きな違いがあるらしかった。

220:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:38:13.70 AwmqVElA
   八の四

「チチドリちゃん、こに、おっきくなったらいけないの?」
 こにさんが疑問を投げかける。
「なに、気になさらずとも結構」
 その返答は、チチドリさんよりチチメンチョウさんのほうが早かった。
「こに君の胸は大きくならねばならぬ理由があるのだ。幼女の胸は皆平たい。
それはその小さな胸に明日への希望という名の種が植わっているからなのだよ」
「小さい子の胸が小さいのは当然です、先生」
「なんだね、その無粋な言い方は」
「無粋も何も、僕はただ真実を述べたまでです。真実ほど美しいものはありません」
「真実だけで未来は語れまい。こに君の将来もまた然り」
 特にこの師弟は暇があれば乳についての熱い議論を交わしている。ぼくらと出会う前からこの習慣は続いているらしい。
 二人には呆れるときもあれば、関心することもある。今みたいに、こにさんに構わず論を展開しちゃうのは呆れるけど、
一方でチチメンさんの知識の層には感服する。自他共に紳士と認める理由の一つだ。もちろんもう一つの理由は変態だからだけど。
そんなチチメンさんに喰いつくチチドリ君の姿勢もまた敬意を表したかったりする。

「オマエが小日本か」
 討議に置いてけぼりになったこにさんのもとに、抹茶色の蛙が寄り添ってきた。
「うん、カエルさんの名前は?」
 こにさんは首を傾げて尋ねる。
「……ふむ」
 吟味するようにこにさんのある一点、浴衣から覗かせる細い腿に視線を注がせている。
「いい、太ももだな」

「ひゃぅっ」
 まずい、と思ったときにはもう遅かった。
カエル―正式名称モモサワガエル―がこにさんのやわい太ももに手を差し伸べてしまった。
「なにしてんだモモサワァ!」
 三つ鳥の蹴りがモモサワ君に直撃し、彼は洞窟の奥にまで吹き飛んだ。
「テメェ、オレたちの条例を忘れたとは言わせねえぞ」
「幼女に抱くは誠意のみ。性意を抱くはこれすなわち罪悪なり」
「モモサワは直接的なんだ! 間接的な魅力を分かってない!」
 みんな紳士を自称することだけはあった。そんな三者からモモサワ君はいつも散々に叩かれる。

「こに君、心に怪我はないかね?」
 紳士的に振る舞うチチメンさんがこにさんの前でひざまずいた。
「こには平気だよ。でも、カエルさんがかわいそう」
「……天使だ」
 モモサワ君がわざとらしくよよと崩れ、泣きだした。
 こにさんの、自分のことよりもまず他人の心配をする姿が、鬼子さんのそれと重なる。
「その慈悲、よもや、こに君はかの鬼子嬢と面識があるのかね?」
 それは初対面のチチメンさんも感じたのだろう。というか、ぼくとヒワイドリ君がこにさんを連れてきたところで勘付いてたと思う。

「ねねさまはねねさまだよ!」
「鬼子はこにの目標にしてる人だもんな!」
 ヒワイドリ君は、きっと無意識に、いや誇りを持ってそう言ったに違いない。
「それはいけない。鬼子さんの胸は大きすぎるんだ!」
 でも、今のこにさんにとって、それはあまりにも重すぎる一言だったんじゃないかと思う。
「チチドリくん、いい加減犯罪者予備軍みたいな戯言はよしたまえ」
 こにさんの顔が曇りだす。
「は、はい、先生、気を付けます……」
 こにさんの変化に気付いたのは、ぼくだけだった。

221:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:38:43.92 AwmqVElA
   八の五

「こには、こには……」
 幼い声が震え、小さな肩が震えだす。そして、こにさんは泣きだした。ふええ、ふええと、混沌とした泣き声だった。
「ねねさまぁ、ねねさまぁ」
 鬼子さんが恋しくなったのだろう。こにさんが完全に一人立ちするにはまだまだ時間がかかるようだった。
 家出は自立の一手段ではあるだろうし、こにさんも無意識的にそれを知っててやったんだと思う。
きっと一人でやっていけると、家を出る直前までは確信していたに違いない。
でも、まだまだこにさんは甘えたがりの年頃なのであった。

   φ

 正直、ヤイカガシの力を甘く見ていた。奴の鬼を追い払う悪臭に、ほとんど邪気の宿していない弱い鬼たちが逃げ出し、
憂さ晴らしにと俺へちょっかいを出してくるんだ。羽虫みたいなものなので、
素手で追い払ってしまえばそれでいいんだが、なにしろ量が量だ。
俺の尻尾に群がる童部のように追い払っても追い払っても新手がやってくる。その姿を見た神に笑い飛ばされる。屈辱だ。

「わんこのしっぽをもーふもふ、わんこのしっぽをもーふもふ」
 いまだ尻尾にまとわりついて離れない小鬼たちが変な節をつけた唄をうたっていた。
こうして俺をいらつかせ、その感情を養分に生きながらえる。
まったく惨めな姿ではあるが、元々は木か、苔か、蔦を見守る神だったのだろう。
木一本一本、葉一枚一枚に神は宿っているくらいだから正確な神の判別はできない。
最近鬼が増えてきたという噂は聞いていたが、まさかここまで増えてきているとは。
 ヤイカガシの臭いを追ってここまで来たが、鬼と戯れる間にすっかりあやふやになってしまった。
巌の突き出た崖の下ですっかり行方を失ってしまう。この辺りでぱったりと気配がなくなっている。
転落でもしたのかと焦心して周囲を見渡すが、ここは比較的平坦で足を滑らせる場所もなかった。

 なら、小日本はどこへ行った?
「にげろ、にげろ、たべられちゃうぞ、かくれろかくれろたべられちゃうぞ」
 尻尾についていた鬼たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。俺だけが場に残ってしまった。

「堕つべし、いざや堕つべし……」
 泥の上を歩くような、粘り気のある足音を聞いて、反射的に汗が滲み出てきた。
背中から感じる強烈な怨念で、金縛りにあったように足が硬直する。
 ―臆するな、俺!
 鳴き声も足音も怨念もどうした。そんなもの、単なる誤魔化しでしかない。

 と思って振り返ったところで、前言を撤回したい。目の前には、青緑色のざらついた肌をした神さまがいた。
樹齢二百年を優に超すスダジイの守神の圧倒的な存在感に言葉を失う。葉は全て抜け落ち、太い幹から大枝を伸ばしており、
たくましい根を四方八方に広げている。幹のうねりがどこか口と目を思わせる。
俺さえもこの御老樹の神さまを見て畏れおののくんだから、人間が見たらどう思うのだろう。

「神でありとも、得るもの有らず。鬼にしあれば、得るものこそ有れ」
 しかし、その言葉はまるで神々しさのかけらもない。
 小賢しい小鬼どもと同類であることは容易に分かった。

「主、日本家の供人狛と見受く」
 深い彫りから覗かせる瞳孔に射抜かれまいと、俺も奴を―神さまをやめた輩に敬語を使う必要もない―睨み返した。
「わしと共に邪念を吸うものとして生きよ」
「断る。なんで神さまが鬼にならなくちゃいけねえんだよ」
 不穏な空気が強くなる。

 もしも―小日本の行方がぱったりなくなってしまった理由がこいつのせいだったら……。
 いや、殺されたとか喰われたとか穢されたとか、そういう負の感情は抑えなければならない。
短気な俺がどれほど自制できるか知らないが。

222:歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
11/09/10 22:39:21.98 AwmqVElA
   八の六

「尊びの言葉を知らぬ狗神よ。日本鬼子に仕える主が何故理解を示さざるか」
「鬼子は鬼子、俺は俺だ」
 鬼子が神さまに憧れを抱いたことは一度たりともない。どんなに人間から貶められようと、
鬼の姿を悔やんで負け言をこぼしたりはしなかった。だから俺も、信念を曲げずにここまで来られたんだ。

「さならば、大御神は何故日本鬼子に鬼祓いを任せたもうたのか」
「鬼子は鬼だが、人間の心を持った鬼だからだ!」
「否、否なり」
「なにが違うんだよ! 鬼子は鬼子だ!」
 鬼子は特別な鬼だ。他の鬼と同じ捉え方をされると耐えられなかった。
ただ欲望のままに活動する鬼なんかと同一視されてたまるもんか。

「鬼祓いを任せたもうたのは、神より鬼が圧倒的に強きことが故なり。
今の世は嬉しみ、喜び以上に、悲しみ、苦しみのほうが遥かに多し」
「嘘だ。分かりきった嘘を」
 人々は神さまに感謝する。豊作のとき、人と結ばれたとき、新たな命が芽生えるとき……道端で銭を見つけたときだって感謝する。
でもそれは一方で、不作のとき、縁が断たれるとき、命が奪われるとき、銭を失くすとき……
そういった鬼のもたらす災いへの恐怖の裏返しでもある。つまるところ、人間が神さまを崇めれば崇めるほど鬼も力を付けていく。
でもそれは均衡の取れた力だ。神さまの力が一ならば鬼も一。神さまが百なら鬼も百。そうやって八千代の時を過ごしてきたのだ。

「確かに、この世のみであらばわしらの常識は罷り通ろう」
 憎しみに染まった老樹の鬼が空気を揺るがした。
「しかれども、重要なのはむしろ異なりの世の民なり。若き神よ、承知しておるか、世は二つの世に分かれておると」
 異なりの世なんて言葉は初めて聞いたが、あらかた予想が付く。田中匠のいる世界。人間が神さまを信じなくなった世界だ。

 でもそっちの世界とこっちの世界に、何の関係があるんだよ。
「神も鬼も、養いはこの世の民の情念よりも、異なりの世に住まう民の情念に傾いでおる。喜ぶべきことを当然のものと見なされ、
責任のみが課され、苦しみもがき続ける。即ち、苦しみの裏は苦しみなり。左様なる人間どもの住む世に神鬼は根を伸ばし、念を吸う。
神を信じぬ、嬉しみを忘れた民に、神が養いを得ることが出来ようか」

 根を伸ばす? 念を吸う?
 俺たちは、田中のいる世界の人間から力を蓄えていた?
 なら鬼子が最近田中の世界に通いつめてるのは、ただ田中と一緒にいたいからではなくて、
向こうの世界の人々を苦しみから解放させるためなのか? 喜びをもたらして、神さまの力を増やそうってのか?
 分からん。わけが分からん。頭が追い付かない。

「しかし、主は全てを理解する必要などなし。鬼は神に勝る。さのみ心に刻め。堕つべし、いざや堕つべし」
「堕ちてたまるか!」

 こんなとき、鬼子がいたら。
 きっと、大御神さまの力を得た薙刀「鬼斬」を使うまでもなく、邪念を取り祓うに違いない。
なにせ、奴はまだ鬼に堕ちて間もない、鬼の中では最弱の鬼なのだから。
 でも、今の俺にはその対処すらできない。所詮、俺には知恵というものが足りないのだ。

 自分の無力さに打ちひしがれると、常に故郷のことを思い出す。
 いつもつるんでた風太郎の影響を受けていればよかった。あいつは鬼の名や性質をこと細やかに記憶していた。
汚らわしい存在に向かい合うあいつのことをよく思わない神さまもいたのに、それでも風太郎は自分の道を極め続けていた。
 あいつ内気だったから馬鹿にしていたが、今思えばその知識の一割でもかっさらいたいくらいだった。
そうすれば相手の泣きどころを見つけ出して、鬼化の進行を食い止められるかもしれないのに。

 今の俺にできることはなんだ?
 戦うこと。それだけだった。
 小日本の泣き声が聞こえていたことにすら気付かず、拳一つで老樹の鬼に立ち向かっていった。


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