10/10/25 15:23:18 kfWyXIcQ
試作 『鬼許すまじ』
闇に棲まう魑魅魍魎、妖怪変化、悪鬼。
「……鬼、許すまじ」
女性のなれの果てである般若の仮面を被り後頭部にて紐留めすれば、何気なしに鴉の濡羽色の長髪を、鶴首のようにしなやかな指先で流し、目じりに力を結ぶ。
歳の頃十六、七の麗しき女の子がじわり全身に殺気を迸った。
そして、薙刀を斜に構えた人物が夜を駆けた。
一撃で鬼の脳天を二つに分割するや、切っ先を抉り返し脳髄を弾き飛ばし雫と成す。
異形の返り血が人物に降り掛かるも数瞬の迷いも無く胴体を前蹴り。人物が扱うに程良い刃渡りのそれが振りかぶる間も無く突き出され、更に異形の心臓を穿った。
日本刀二振り。
いずれも名刀と名高い品であり、血糊や脂でも切れ味を失いにくいという。
「一つ、二つ」
対峙するは異形、鬼。
漫画でありがちな赤い肌に角とシマシマパンツを履いているようなものではなく、異様に盛り上がった背中、育ち過ぎた筋肉、崩れた骨格、口からは牙が生えて涎が落ちている。
どこから生まれてくるのかは人物も知らぬ。元々人間であったのではないかと考えることもあるが、そのようなことは知らぬ。
人物―日本鬼子からして、無辜なる市民へ牙を剥いた段階で「許すまじ」相手なのだ。
右手左手に握る日本刀を下段に構え、返り血で着物を汚し、殺気を放つ般若化面姿は、鬼よりも鬼らしい。
満月を背景に、砂利の地面を駆けると見せかけて足で砂利を掬い上げて、淀んだ瞳で彼女を見つめ今にも襲いかからんとした鬼の目を潰す。
「やああッ!!」
漆黒の髪が暗黒に溶け往く。
交差させた日本刀があたかも鋏のように鬼の頭部を切断、横腹を蹴った反動で転がるや、立ち上がる勢いそのままに投擲し心臓を串刺し、立ち上がると同時に、駆ける。
「貴様で………最後だ!」
残り一。
鬼は仲間が一方的に惨殺されたことに焦りを見せるも、時既に遅し。
鬼が最期に見たのは、血色の化粧をした紅葉模様の着物と、般若化面の背後で煌々と光る紅き瞳、そして日本刀の切っ先の微かな欠損だった。