創作大会しようぜ! 景品も出るよ!at MITEMITE
創作大会しようぜ! 景品も出るよ! - 暇つぶし2ch582:花粉とはまた別の意味の涙 ◆/zsiCmwdl.
11/04/09 00:15:12.69 Asyc3I1t
『本日のスギ花粉情報です。この日は空気が乾燥している為、例年以上に……』
「また、この季節が来たか……」

 私は憂鬱さを隠すことなく、独りため息混じりに呟きをもらした。
視線の先のTVでは、アナウンサーが作り笑顔で今日の天気予報ついでの花粉情報を告げていた。
他の人にとってはなんて事ない情報だが、私にとってはそれこそため息の種であった。

 私はスギ花粉の舞うこの時期が嫌いだ。
 友人を初めとした他の人間へこの話をすると、決まって『花粉症だから?』と返してくる。

 ……確かに、私は花粉症だ。それも筋金入りに酷い花粉症だ。
もし、この時期に、迂闊に準備も対策もなしに外を出歩こう物なら、
たちまち目はウサギのように真っ赤に充血し、薬でも使わない限り涙と鼻水とくしゃみが止まらなくなってしまう。
酷い時だと、その場で呼吸困難になってぶっ倒れた、なんて事もあった。
 だが、それは『生まれつきの体質だから仕方がない』と諦めている。
それに、花粉は何も春だけ舞ってる物ではない。それこそ夏や秋にだって舞っている。
……私がこの時期を嫌う理由は別にある。

―思い出すのだ、彼女の事を。
この季節が来るたびに、私は、遠い過去の記憶として封印した筈の、彼女の事を思い出すのだ。
……そういえば、彼女との出会いも、花粉が関係していたと思い出す。

 確か、例年以上に酷い花粉で私が顔面を涙と鼻水で濡らしていた時だったか。
適当な拭く物が見当たらず、独り困っていた私へ、『大丈夫?』と、レースのハンカチを差し出したのが彼女だった。
そのときの、みっともない姿を女性に見られた私が浮かべた表情はさぞ、情けないものだっただろう。
 もう一つ言えば、私の想いを彼女へ打ち明けたのも、同じく花粉が舞うこの季節だった。
鼻づまりを薬で抑えながら、何度もくしゃみをしつつ、そのくしゃみの勢いとばかりに告白したのだ。
今思えば、なぜ私はこの時期を選んだのか、そしてこんな状態の告白をなぜ彼女は受け入れたのか、今も分からないままだ。
 そして、彼女が桜の開花を待つことなく遠い世界へ旅立ったのも、同じくこの季節だった。
そのとき、私は珍しく花粉の量も少ない中を、我慢することなく目を赤く腫らして、自分の顔を涙と鼻水まみれにしていた。
そうでもしなれけば、彼女ともう二度と抱き合えぬ悲しみに、心が張り裂けそうだったから。

 あれから、もう何度、この季節を繰り返したのだろうか。
若かった頃と違い、花粉との付き合い方も慣れ、みっともない姿を周囲へ晒す事も少なくなった。
しかし、代わりに、ここ最近は花粉とは別の原因で目を赤く腫らす事が多くなった。

 そんな私はある意味、この時期に感謝している。
大の大人が独り、涙に目を赤く晴らしている姿を見られても、
『花粉症だから』の一言で、悲しみを悟らせずに済むのだから。

――了――



次ページ
続きを表示
1を表示
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch