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１枚の集合写真がある。中の１人はＶサインをし、その後ろにはこぼれるような笑顔が見える。
東北（宮城）のエースで主将も務める上村健人と、日大三（東京）の捕手でこの日、試合を決める逆転二塁打を放った鈴木貴弘だ。
２人は中学時代に硬式野球の神奈川・海老名シニアでバッテリーを組んでいた。
写真は昨年の大みそか、ＯＢ戦で集まった時に撮った。
秋の大会を終え、東北も日大三もそろってセンバツの候補校だった。
海老名シニアの飯塚良二監督（５４）は２人が「甲子園で対戦しようぜ」と無邪気に言葉を交わす姿を覚えている。
震災は、そのエースから写真にあったような笑顔を奪った。
被災した仙台市から現地入りした１９日夜、上村は選手を代表して取材に応じた。
多数の報道陣とカメラの放列に囲まれる中、「こちらに来たからには全力疾走、全力プレーを見せたい」と気丈に語った。
中学時代の上村を知る者はその姿に驚く。選手としての素質は高いが、人の前に立つタイプではなかったからだ。
「テレビで見ると責任感というか、言葉の一つ一つをしっかり受け止めて答えている」と飯塚監督。
帰省の際、思わず東北のなまりが出るほどその地に溶け込み、主将に選ばれるほど周囲の信頼を得た。
だからこそ、想像を超える状況にも逃げるわけにはいかなかったに違いない。
鈴木は開会式の前日、こう話している。
「出場するだけで本当に大変だったと思うが、ぜひ決勝まで勝ち上がってほしい」
体を張ったプレーで、この日勝利をつかんだ鈴木の姿は、かつての仲間に対するエールに思えた。【田原和宏】