10/08/17 14:54:17 DSrI/BiE
左近とあるじとの間では気まずい沈黙が続いている。
三成がどんな腹積もりでこの部屋を訪ねてきたのかはともかく、こんな夜半に、
こんな左近のような男の前に無防備な姿を晒す危険を、彼は理解していない。
以前の左近であれば、そして相手が三成でなければ、
今頃は既に己の体の下に引き込み、思うさまその肢体を貪ってもいることだろう。
薄い小袖の衿もとから覗くしろい肌に、そうとは気付かれぬよう目を細めた左近は、
はあ、とわざとらしいため息をついて見せた。
「……なんだ」
「いえ、ね。殿は思いのほか、大胆なことをなさる」
「? どういう意味だ」
「そのままですよ―こんな夜中に、思いを寄せるという男の部屋なんか、訪ねるもんじゃありません」
「何を言っておる!」
さっきからこんなやり取りのくり返しだ。
なぜ来た、夜這いだ、の押し問答で、さっぱり話が前に進まない。
残念ながら思いは秘めても枯れた訳ではない、
思う相手とこんな時間に一緒にいれば、理性が揺らいでいくのが自分でも分かってしまう。
それゆえ早く立ち去って欲しいのに、彼の方ではどう考えているのか梃子でも動く気配はなく、
それどころか、あるじはきりきりと柳眉を逆立てている。
色っぽさなど皆無の様子だが、逆に彼らしくてほほ笑ましく感じられるのは、惚れた弱みだろうか。